アレクソニアヘ旅立つまでの話1
人目なんか気にしない
ニヴラスに占領される前にギートから脱出して南カルタグラへやってきた。
氷牙の剣は宿探しに出て、オレは荷物番として港に待機してた間にちょっとした人間観察を行っていた。
オレが主に見ていたのは恋人同士と思われる二人連れ。
オレ自身が氷牙の剣とそういう仲になったばっかだから、同じ様な間柄の人達のことがやたら気になるんだよね。
「一口に好きな者同士っても色々あるんだなぁ」
で、好きな人への接し方ってのはそれこそ人それぞれだった。
ある恋人さん達は手を握るのさえも照れ臭そうに。
また別で見た人なんて目も合わさなかったりしてた。
会話がないのに幸せそうな雰囲気を出してる人達もいて。
ああそうそう、喧嘩してる人もいたな。
喧嘩するほど仲が良いっていうけど、実際どうなんだろう。
そうやって観察してて分かったことが一つある。
「好きなのになんで“好き-!! ”って感じにぶつかれないんだろみんな」
みんな控えめでもどかしい感じ。
偶然にも素直になれない人ばかりが目に入ったってこともあるんだろうけれど。
「オレより年喰ってる人ばっかなんだよね」
小さくてたぶん恋人っぽい子たちなんかだと凄い素直なのになぜか年上ほど遠慮がちなんだ。
「大きくなると思いっきりぶつかったりとか出来なくなちゃうのかな?」
手を繋ぎたいなら照れてなんかいないで堂々と手を繋げばいいのに。
喧嘩だってそう。ほんとはしたくないのに素直な気持ちでぶつかれないから不満が溜まってつまらないことでも言い合いになっちゃうんだ。
「それとも周りの目が気になって素直になれないってだけだったりするの?」
誰かに見られていると気にする大人もこれまた多かった。
年上の人ほど気持ちを正直に言えないみたいでさ、見てて歯痒くなるんだよな。
そりゃ、オレだってあるよ照れちゃうときくらい。
どうすれば自分を好きになって貰えるのかなって考えるし、デートに誘うのだって勇気を振り絞らないと誘えないんだと思う。
もしオレが誰かを好きになったり意識したそのときにまだ相手と両想いじゃなかったり恋人じゃなかったりしたら?
うん……、たぶん照れ臭くさいやら何やらで大変だったろうなあ……。
でもさ、それって恋人同士になる前までの話だと思うんだ。
オレの場合は片思いとかそういう段階的なのすっ飛ばして一気に進んじゃったからあんまし大っきいこと言えないけどさ、でも恋人同士になったんならもっと積極的になって良いんじゃないの?
好きなら好きなほど気持ちぶつけ合って楽しく過ごさなくっちゃ。お互い好きなのに遠慮なんてしてたらもったいないよ。
てな具合に人間観察してるとしばらくして氷牙の剣が戻ってきた。
「ゼファ、宿みつけたから行くよ」
「りょうかーい」
オレの好きな人、オレの恋人。
立ち上がったオレはこっちに手を振ってる氷牙の剣のところまで走っていくと勢いそのままに抱きついた。
「へへーんだ、つっかまっえたーっと♪」
「ちょっ、なにす──」
視界一杯の蒼い色は氷牙の剣の服の色。
ゆったりした服越しに柔らかい弾力を感じる。
服の下にはとっても触り心地のいい山が二つある。
(ふっかふかだ……)
氷牙の剣との身長差で立ってるときにはオレの顔が彼女の丁度胸の位置になる。
だから、抱きつくといつも胸に顔が埋まっちゃうんだ。
でもこうするの好き……いい匂いだし、胸の前に垂れ下がる二本の髪の毛の束に鼻を擽られてこそばゆいけど気持ちいい。
「いい匂い……氷牙の剣の匂いオレすっげー好き」
体からも髪の毛からもいい匂いがいっぱいする。
「こっ、こらっ」
顔を擦り付けながら首を左右に振るとぶれる視界に周りの人の姿が見えた。
「ねえ氷牙の剣、いつか絶対オレのお嫁さんになってね?」
沢山の視線の中、時々口にする台詞をぶつけてみた。
「ばっ馬鹿っ、こんなとこでなに言い出すんだよこの子はっ! ひ、人が見てるだろっ!」
慌てる氷牙の剣もオレと倍くらい歳の離れた大人なもんだから、やっぱ二人きりの時みたいに素直には応じてくれない。
だからってオレは遠慮なんかしないよ。
「別に見られたってかまわねぇもん」
好きって気持ちだけはいつでも素直にぶつけるって決めてるんだからさ。
だから誰が見てようと氷牙の剣にはとことん甘えてやるんだもんね。
「えへへ~、氷牙のけーん♪」
「も、もうっ……いい加減にしなって……!!」
困らせるつもりはないんだ。
ただ好きって、それだけを伝えたい。
いつも、いつでも、どんなときでも。
だってオレ、氷牙の剣のことが大好きだから。
「ところでさ、宿、どんな感じだったの?」
「その前に放してくれないかい?」
「ヤダ……もうちょっとだけこのままでいたい」
甘えん坊だねぇ──呆れ口調でも氷牙の剣はオレのこと引き剥がそうとはしない。
まあ引き剥がそうとしてきたってしがみついてやるもんね。
*
「宿の中はギートからの避難民やら撤退してきたギート騎士団の兵士なんかでごった返してたよ。騎士団と避難民全員をカルタグラの王城で収容するのはさすがに無理なんだってさ、それで急遽王都中の宿が引き入れにかかったらしくて何処の宿も殆ど埋まっちまってるよ」
国を追われた避難民だからお金を持っていない人も多いらしいけど、王宮から各宿に手当が出されるんだってさ。
宿を営む人達に取っちゃ降って湧いたかき入れ時みてえなもんか。
「なんとかギリギリ空いてた宿で二人部屋取れたんだけど、生憎と端っこの一番狭い部屋しかなくてね。それだってギート方面からの民間避難船に乗船してきたこと話してやっとだったんだ」
「状況が状況だもんね、仕方ないよ。ああでもオレ達だって避難民みてぇなもんだし、それで受け入れてくれたのかな」
「どこまで甘ちゃんなんだよあんたは。あたし等は“旅人”なんだろ? その体で交渉したんだから吹っかけられたに決まってるじゃないか……」
抱きついたまんま胸に顔を埋めてたオレが顔上げると、氷牙の剣はそう言って頭を撫でてくる。
「あんたの所為で実際にこうして旅の道連れになる嵌めになっちまったんだから、しっかりしておくれよ相棒?」