※この作品はR-18です。

それは平凡なる恋の日々   作:夜半の月

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愛の巣

 

 

 

 

 愛の巣

 

 

 

 sideうさぎちゃん

 

 

 

 とりあえずの安心感を得られたあたしは、なるちゃんと二人で海野んちの居間──じゃあなくって、海野の部屋へとお通しされちゃいました。

 

 放課後に話を聞いた時からの心配の種であり、そんなに回るわけでもない頭を悩ましまくりながら時折変身ブローチに手をかけちゃうくらいに警戒していたのがまったくの無意味っぽい形で終わってしまった相手──カオリナイトに。

 

 一応ね、確実だってわかっちゃったことがあってさ、そんで警戒心解いてもいいかなと思っちゃったんですよこれが。

 

 これに一役買ってくれたのが我が親友、大阪なるちゃんそのひとであったのです。

 

 いやまーねー、訊くわ訊くわ、次から次へと訊いちゃってるんですよ、なるちゃんてば、海野とカオリナイトの関係についてを。

 

 具体的に言うと、海野からもう聞かされていた、二人が出逢った時の事から、いまの現状までを。

 

「ちょっとちょっとなるさんや、あんまし失礼ではありゃしませんかい? そんな根掘り葉掘りと訊くなんて、さすがに初対面のカオリナイトさんに対して」

 

 だからね、ちこっとばかし突っ込まずにはいられなかったの。普段突っ込まれてばっかりなこのあたしがだよ? 

 

 カオリナイトと云えば高慢ちきで冷酷で、酷い事だって平気でしちゃうくらいの怖い女性だって事をあたしは知ってる。

 

 したらば、そんな相手に遠慮なんか必要ないんじゃないかしらって、普通は頭に過ぎっちゃうでしょうねそれは。

 

 でもね、よく考えてみようよ。仮にもいまは、あたしこと月野うさぎは、カオリナイトとは“初対面”なのです。

 

 なるちゃんだってそう。なるちゃんの場合は、彼女が海野と居るとこ見掛けたことがあると言ってたけど、それは見掛けたってだけのことで、別に言葉交わしたわけでなし紹介し合ったわけでもない。んじゃやっぱりそれは初対面ってことになる。

 

 つまりね、あたしとしてはその初対面の相手である彼女に、海野との交際のことを興味津々で訊いちゃうのは如何なものかと思っちゃったのよ。

 

 そりゃまあねえ、このうさぎさんだって気になりますよ? どうして、どうやって、なんで海野とカオリナイトがって。

 

 だって、カオリナイトってばさっきっから笑顔笑顔のオンパレードで、海野のこと話すときには伏し目がちになって、目の下をほんのり桜色に染めちゃったりなんかしちゃってぇ、完っぺきな恋する女の子になっちゃってるんだもん。

 

 彼女の年齢からして女の子って表現はおかしいかもしんないけど、あたしは敢えて海野に恋する部分の彼女についてだけは女の子だって言い切っちゃう。

 

 ついつい釣られて『ご年齢は?』なんて訊いちゃうあたしも失礼なんだけど、女が女に年齢を訊ねることについてはマナー違反には当たらないのでセーフ。

 

『28ですわ』って、カオリナイトは平然と答えてくれたけど。

 

 そっかあ、カオリナイトって28歳だったんだあ。

 

 ちょうどあたし達とは倍ほど歳が離れていた。美奈子ちゃん辺りだと“おばさん”って呼んじゃいそうなご年齢でした。

 

 でもね、海野に恋してるカオリナイトを、あたしはやっぱ女の子だって思うな~。

 

 恋する女ってのはね、ちっちゃな子供から、あたしらの世代から、おば──もといカオリナイトくらいの妙齢の女性だって、みーんな関係無く女の子なの。極論を言っちゃえばさ、お爺ちゃんに恋するお婆ちゃんだって女の子なんだから。

 

 であるからして、海野に恋するカオリナイトは、その一点だけは間違いなく女の子となるのです。

 

 それ以外はおば──いやいや、お姉さん。普通に美人なお姉さんってとこかねえ。

 

 ま、当の彼女自身によって、結局訊きすぎなるちゃんへの突っ込みは無駄にされちゃったんだけど。

 

「構いませんわ。ぐりおさんとわたくしの年齢差を思えばこそ、どうして恋仲なのかと気になってしまうのもわかりますもの。ですが、世の中にはわたくしたち以上の年の差を持つ恋仲の男女は少なからず居りますのよ?」

 

 自分たちが特別なのではないという彼女。確かに世の中年の差の恋なんてのはいーっぱい。あたしもなるちゃんもそうだもんね~。

 

 と無遠慮なあたし達に対して大人の余裕というか、とってもご機嫌さんな彼女です。

 

 なるちゃんもなるちゃんで、ご機嫌さんだったのは同じ。

 

「ですよね~。やっぱり愛や恋に年の差は関係ありませんよね~っ」

 

 にこにこ笑顔でカオリナイトに同意してますよ。

 

「うむうむ、運命的に出逢ってしまった愛する人との間に年の差なんて関係な~い!」

 

 もちろんあたしだってこれには“ぜーったいに”同意しますよカオリナイトに。

 

 だってあたしたち三人とも年齢差のある恋をしてるんだもん。

 

 あたしはまもちゃん。

 

 なるちゃんはネフライト。

 

 んでもってカオリナイトは海野。

 

 見事なまでに年の差恋愛組みでござ~い。

 

 一個だけ違うのは、あたしとなるちゃんが年上の“男性”に対しての恋をしているのに対し、カオリナイトは年下の“男の子”に恋をしてるってところだけ。

 

 までも、そんなの無いも同然の違いだ。立場は違えど三人とも同じだってことに変わりなんてありゃしないんだから。

 

「おほほほっ、気が合いそうですわねぇわたくしたち。うさぎさんとなるさんもご年齢の離れた方とお付き合いをなされているとぐりおさんよりお伺いしておりますわ」

 

 あたし達の返しに妖艶な微笑みを見せるカオリナイト。やっぱりご機嫌な様子。ご機嫌なのに妖艶で、微笑んでいるのに冷静で、そこがまた彼女の持つ妖しい雰囲気と魅力を引き立てていた。

 

「つーか海野、なんであたし達の恋愛事情を勝手に話ちゃってんのよ」

 

 こーいうのは勝手にしちゃ駄目な話だもんね。で一応なるちゃんは海野に釘を打ってみた。

 

 別にカオリナイトにあたし達の恋愛事情を話されたことが問題なんじゃなーいの。男子が女子の恋事情を勝手に話しちゃ駄目でしょうがってことを言いたいのよね。

 

「ごっ、ごめんなさい、つい話の中で出ちゃいまして」

 

 なぁにぃ~っ、つ~い~だぁ? つい、で出す話じゃないでしょーが、デリカシーのない男だねーったく。

 

 するとカオリナイトがそんなデリカシーの欠片もない男、海野をフォローに入る。フォローしなくったっていいんだよ? 

 

「ごめんなさいね。どうもぐりおさんはわたくしとの年齢差をお気になされておいででしたので、お二人の恋愛事情が特に気になっていたのでしょう。それでお話しくださったの。わたくしからも今後は気を付けなさいと注意しておきますので許して差し上げてくださいね」

 

 ああなるほどなるほど、そういうフォローだったのね。フォローって言えるかどうか微妙というか、フォローでもなんでもありませんでした。うん要は結局彼女もあたしとなるちゃん側に立っていると。

 

「エエっ、カオリナイトさん僕の味方してくださらないんですか?!」

 

 取り残された海野がたったひとりの味方に裏切られたーっと云わんばかりの勢いでカオリナイトに縋り付いている。ああもうみっともないから諦めなさいっての。

 

 えーっとそれに、あのさ、それ以前にさ、あんたの腕とか手とか、カオリナイトの胸やら腰やらに思いっきり触れちゃってるんですけど……。あんたセクハラだよそれ、わかってんのかな? 

 

「男性ひとりに対し女性三人──あいにくと選択の余地などございませんわ。それに、わたくしはいつも申し上げているでしょう? 繊細さに欠ける発言は時として己を不利に貶めると。うふふふ」

 

「うう……」

 

 彼女はセクハラしちゃってる海野の頭を撫でながらも、縋り付いた彼を容赦なく引き剥がしてはまた前を向いて歩き出した。

 

 前を歩く長身の美女カオリナイト。冷酷非情で悪の組織と言っていいデスバスターズの幹部だったカオリナイト。

 

 彼女とこんな風に話せる時が来ようとは、人生なにが起きるかわからないものだわねえと熟々思い知らされましたよ。

 

「ねえねえうさぎ」

 

 ひとり感慨に耽っていたあたしの耳になるちゃんがひそひそと話し掛けてきた。

 

「ねっ、言った通りだったでしょ? ほら彼女、ボンっキュっボンっ」

 

「ふぅむ確かにそだねぇ、同性のあたし達でも悔しいくらいだわねこれは」

 

 彼女が冷静なひとだってのはセーラームーンとして対峙してきたあたしはよっく知ってんだけど、こうも近くで警戒心もなく彼女の後ろ姿だけを見てるとう~んやっぱり大人だわ~っと思うのよねぇ。

 

 もちろん後ろ姿だけじゃないよ? 前から見てもその差を大きく見せつけられる物がVネックに大きく開いた服の襟の胸元にはあった。でもって自分の胸元にぺたっと手を当てて、思わずなるちゃんと二人して溜息を付いてしまいました。

 

「大人の女性以前に反則だよねあんな特大メロン。マジのモデルでだってそうは居ないよあんなの」

 

 うん反則。どう見たって反則過ぎ。大人の女性が皆彼女と同じサイズの物を実らせているのならいいんだけど、実際のとこあそこまで大きな胸のひとはそんなにいない。

 

 で、ちょっとそんな反応を示すなるちゃんに思うところがあったのでお尋ね申す事にしました。

 

「ありゃ? ネフライトって巨乳好きだったっけ?」

 

 なるちゃんの恋人にして、昔はダークキングダムの幹部・四天王の一人だった青年実業家の顔を持つ男性のことである。

 

 大昔、前世においてはまた別な立場に在ったネフライトは、いまは時々あたし達を助けてくれている。

 

 理由はなるちゃんの周りの危険については出来るだけ排除しておきたいからだそう。愛されてますなあなるちゃんてば。

 

「んなわけないでしょ! ネフライト様がお好みなのは総ての面においてあたしだけだって言ってくれてるもの! つまりネフライト様がお好みの胸はあたしの胸であって他の誰のどんな胸でもないのっ! いい加減なこと言わないでよねっ!」

 

 なるちゃん怒ります。そりゃ怒るか。それにネフライトがなるちゃん以外の女の子に興味を持つこと自体があり得ない事だしね。

 

 あんな命懸けの大恋愛で結ばれたんだもの。それはあたしとまもちゃんも一緒だよ? 前世からずっと愛し合ってきた運命のひとだもん。

 

「たださあ、やっぱり同じ女としてああいう完璧な体型には憧れちゃうじゃない?」

 

「……」

 

 考えてみた。あたしは適当なように見えてちゃんと考えまくった……ように見せ掛けて、一瞬で答えを導き出していた。

 

「うん、憧れる。羨ましい。妬ましい。何割か欲しいよあのサイズは」

 

「でしょ?」

 

 長身で、胸は大きくって、透き通るほど白く綺麗なお肌は水を弾いちゃいそうな瑞々しさ。

 

 緩く大きな編み組のポニーテール風に纏められている腰辺りか、腰よりも少し下まで届く紅玉色の長い髪は、シャンプーのCMに出てくるモデルさんみたいに艶やかで、一定の歩幅で歩く彼女の背を隠しつつ揺れている。主にあたしはあの大きなお胸が欲しいです。羨ましいです。

 

 ただーし! そう思いつつも髪についてはあたしだって負けてない自信があるっ! 大いにありますよっ! でなきゃ足首にまで届くような長さにまで伸ばしたりしないよ? レイちゃんも、美奈子ちゃんも、まこちゃんも、カオリナイトも、みーんな髪の毛長いけれどさ、あたしに比べたらそりゃもう半分くらいの長さしかない。ま、あたしひとりだけがただ長すぎるんだけどね、あははは~っ。

 

 だいたい髪ってさ、長いとお手入れ大変なんだよ? カオリナイトのストレートな長い髪も、あたしほどでなくてもきっとお手入れ大変だと思う。とくにお風呂で洗うときなんか誰か手伝ってくんないかなあって考えちゃうときあるもん。あたしはちびうさなんかに手伝って貰う事ある。未来の娘ってば面倒くさがりながらも手伝ってくれるところはやっぱりかわいげを感じますなぁ。

 

 まあそれでもある程度のところは結局慣れでもあるけどさ。お箸だって最初のころは上手く使えないじゃない? 自転車だっていつの間にか乗れるようになるけれど、それまでは転げ続けて怪我もするしさ。そうやって悪戦苦闘しながらもひとは慣れていくのだよ。

 

 とか言っちゃったりするけど、慣れたとはいえ大変なもんは大変なもんなのよ、髪のお手入れって。

 

 とくに長いと色々ね。カオリナイトみたく、自分の髪を編み込んでポニーテール風に纏めるとかも、簡単に纏めてるように見えて本当は結構大変なんだよ。似たようなことしてみたことあるからわかるのだようさぎさんにはね。

 

 んじゃあなるちゃんみたいに短ければ簡単なんだなって、男の子だと考えがちになるようなものだけど、でもそうじゃあないんだなあこれが。

 

 なるちゃんのふんわりウェービーに整えている肩までの髪も、もちろん言うに及ばず綺麗なわけですが、ウェービーヘアーってのはウェーブが崩れないようにするのに手間暇掛けて念入りに手入れしないとおかしな感じになってしまうわけでして、やっぱし大変なのです。それでもトリートメントを欠かしたりすることはありません。女の子ならば誰だって例外なくしっかり手入れしてますって。

 

 まーね、要するに髪は女の命ってやつだもん。みんなしっかりお手入れしてるんだから綺麗なのであって、んでもって大変でもあるのです。男の子とは根本的に違うの。男の子でも綺麗な髪の人いるから一概には否定できないけどさ。あんまし髪の毛のこと気にしないじゃん男の子って。だからわからんのだよチミたちには、あっはっは。

 

 ──っとと、思い切り脱線してしまったけれど話は其処じゃないんだったよ。だってあたしのお団子ヘアーもどんだけ時間掛けて丁寧に結い上げていることかと思うと、つい説明に時間取られちゃってさ、話の本質自体が逸れちゃうものなのよ。

 

 で、肝心の問題はというと、揺れるその赤いロングヘアの下に覘くカオリナイトの背中と腰から長い脚線へと続くラインについてだ。その後ろ姿を見ているだけでどこかのモデルとしか思えないほど整っていると断言出来ちゃうくらいに理想的なラインだった。

 

 切れ長で吊り上がり気味の目には紫色の瞳。その紫の中には金色の虹彩が輝きを放つ。細長い眉に、くっきりと見えるまつげ。蠱惑的で厚みのある唇には『彼女にはこの色しかないっ!』ってあたしが言い切れちゃうほどに似合う真っ赤な口紅が塗られておりまして、たぶんだけど男の子なら誰でも見惚れちゃうほどの大人大人して妖艶な美女さんだってこと。

 

 ええ~、はっきりと申し上げまして、悪い事やってる組織の幹部より、女優さんとかモデルさんなんかをやってた方がいいんじゃないのって考えてしまったよあたしゃ。あたしが審査員でカオリナイトがモデルのオーディションに来たなら一発合格させちゃうよ? 

 

 てかさ、以前戦った敵でブラックムーン、正確にはワイズマンの策略に騙される中、何とか一命をとりとめたエスメロード。

 

 今はこの十番街付近に住んでて、なにがどうなってるのかあの海野そっくりのグリグリメガネの少年、数理くるめくんと恋人同士になって、付き合いだしたエスメロードもだけど、カオリナイトもまた女としての魅力のみに焦点を当てるのなら、所詮14,5の小娘が張り合える相手じゃないんだっての。言ってて悲しくなっちゃうわよ本当にもう。

 

 あたしらはエスメロードやカオリナイトのことをついついおば──いや、それなりの年齢のひとで、若さと可愛さじゃ負けてないもんって考えるけど、身体つきとか、大人だけが持つんだろう美ってのには逆立ちしても敵いっこない。

 

 だってあたしらはどうしたってまだ中学生なんだから。でもまあ終着点に辿り着いて美を極めた彼女たちにないものもあたしらは持ってる。だからまだ希望は大いにあるのも確かであった。そ、これからっていう可能性、若さってやつのことね。

 

 でもカオリナイト、あんたのバストは何割か寄越せ。いや分けてください、ホントマジで。大きいもんちょっとくらいいいでしょ。

 

 とかなんとかやってる内に着いちゃいました海野の部屋。

 

 部屋の扉にはハートマークのドア飾りが掛けてあったりして、その中心に“ぐりお&カオリナイト”って英語で掘られた名前がある。

 

 う~ん、甘さ120%。如何にも恋人同士さんのお部屋ですよって印象ですなあ。

 

「どーぞどーぞ入ってください。前よりちょっと狭くなっちゃってますが」

 

 扉を開ける海野。カオリナイトはお茶とお茶菓子を用意して参りますわって行っちゃったし。海野も付いてった。

 

 おーい、お客だけ残してあにやってんのよあーたたち。なんか盗られてもしんないよ? 勿論んなことしないけどさ。そんだけ信用されてるのか不用心なだけなのか。まあ“あの”カオリナイトがいたんじゃそうそう悪さできる泥棒さんもいたりしないか。落ち着いたお姉さんに見えてもすっごく強いんだよ彼女。あたしたち内惑星を司るセーラー戦士5人組みよりも通常の実力では間違いなく上のセーラーウラヌスやネプチューンと互角だったり、テレポートとかもできるし海野曰く色んな武具を開発できちゃうらしいし、相当な知識と実力の持ち主だったりするのです。

 

 言っててなんだけど総じて強力だよね。下手すれば以前の敵だった、最後は和解できて、一緒にワイズマンことデスファントムと戦った(あたしたちがデマンドの弟のサフィールをいち早く助け出せたことが大きい)──あのとっても強いデマンドとも良い勝負しそうな気がしないでもない。ま、たぶんデマンドが勝つけれど。めちゃめちゃ強いもんだもんデマンドって。で、まだあたしのこと諦めてないんだよね。街で出逢えばアプローチしてくるし。あたしにはまもちゃんがいるんだってば。

 

『ふッ、セーラームーン、いや月野うさぎ。未来は変えられる。それはお前たちが証明したのではないか? 私もサフィールもエスメロードも、なにか一つ違えばきっと死んでいただろう。それをお前たちが変えた。ならば地場衛と結ばれるという未来も、私の行動一つで変わる。違うかな?』

 

 言ってることが合ってるだけに反論できなかった。未来はあたしたちの手で作り上げていくもの、切り開いていくもの、だからデマンドは月野うさぎを諦めない。

 

 その情熱にエスメロードが身を引いて、ケーキのやけ食いしてるところを同じくケーキの大食いをしていた数理くるめくんと出逢って、良く話す様になっている間に、想い合う様になったらしいのです。ほんと何がどうなってそうなったんだろ。とにかくデマンドは諦めない。本当に強い人。

 

「ねっ、ねえうさぎこれ観てこれっ」

 

 あんですかい? 考えてばっかりなあたしを引き戻すのは親友の声。

 

「どしたの──ってうわっ!!」

 

 驚くなるちゃんの指差す方にはベッドがあって、ベッドの隣のクローゼットの側面、丁度ベッドに寝ると真上に見える位置に特大ポスターが張られていたのである。当然と云わんばかりな感じでカオリナイトのポスターがででーんと。

 

 “妖しく微笑む妖艶な美女”そんなタイトルでも付けてしまいたいほど綺麗に被写体の写った、ポスター張りに引き延ばされた写真でした。

 

「こ、これってさあ、絶対に海野が張ったんだろうね……。まだ会ったばかりで良くは知らないけど、カオリナイトさんってそんなことしそうにないし。うん、いやよくわかるんだよ? その好きな人に見つめられていたい気持ちってのはさあ。あたしも財布にネフライト様の写真入れてるもん」

 

「右に同じ。まもちゃんとあたしはいっつもどこでも一緒なのです」

 

 でもさすがにこれはカオリナイト嫌がったろーなあ。彼女の性格上苦笑いで許すか、無言で破り捨てるかしそうな感じするんだけど。そうじゃないってことは、そんだけラブラブだってことの証明ってことかな。とそんな具合に写真を見つめていたあたし達は気が付く。もうひとつの違いに。

 

「ねえちょっと宜しいですかいなるちゃーん。これよこれ、これなんだけど、これ、この海野のベッドさ、おっきくなってない? 前よりもだいぶと」

 

「う、うーんと……うん、たぶんベッド大きいよこれ。いや確実におっきくなってるわよこのベッド」

 

 何度目かになるけどあたしもなるちゃんも海野の部屋に来たことはある。クラスメイトだし友達だし。男の子とか女の子とか関係無くお友だちとしてのお付き合いはしてますからねえ。

 

 ただ、前に来たときのベッドはもっと小さかったはずなんだよ。でもいま目の前にデーンっと横たわってるベッドの幅は前のベッドの凡そ倍近くはあった。

 

「これ絶対に二人用だよね? ひとりでさ、こんなの使わないよね?」

 

 明らかに二人用だと思われます。ダブルサイズ以上のベッドには大きめの枕が一つだけだったんで、ひとり用かも知れないと思うことでしょう素人さんは。

 

 でもその枕に付いていた物をあたしの目は見つけてしまった。それは一本の赤い糸。

 

「……とっても長い赤い糸だね」

 

「そ、そうね」

 

 ちょっと手に取ってみた、無遠慮不作法ながら気になったので、止まらない好奇心に負けちゃいました。

 

 糸の長さはおよそ1mくらいかな? もうちょっと長いかも。レイちゃんや美奈子ちゃんよりは短いけど、長くて赤いそれは明らかに女性の髪の毛だった。

 

「これって、さあ……。カオリナイトさんの、髪の毛じゃない?」

 

 なるちゃんズバリ仰いますなあ。あたしもそう思ったんだけどさ。短ければ違うと言えただろうし、海野のお母さんは赤色じゃないし。

 

 こんな長くて赤色の髪の毛となれば、この家ではもうカオリナイトしかいなかった。同じ枕にはその髪の毛以外にも、焦げ茶っぽい短い髪の毛も落ちていた。こっちはどう見たって海野の毛だよ。

 

 同じ枕に海野とカオリナイトの髪の毛が仲良く付いている。

 

 それはつまりこういうことだ、このベッドで二人は毎日寝ていると。二人一緒に仲良くぐーぐーしてますと。それしかないんだもんこの状態って。

 

 一緒に寝てなくてどうして髪の毛が同じ枕に落ちてるってーのよ。

 

「状況的に見て、同じ布団で枕を一つにして眠る海野とカオリナイトさんが、成立したわけだね」

 

 そうあたしが言うと。

 

「それで確かC+──だったよね? 海野が言ってた二人の進み具合いって」

 

 なるちゃんが答えてくれました。C+とは恋愛におけるABCのこと。Cはその、え、えっちってことで、その+ってことは、海野がカオリナイトの中で果て……。

 

「……」

 

「……」

 

 想像したあたしら二人とも顔が真っ赤っか。そりゃそうだよ。だってそれもうD──結婚とか、赤ちゃんができちゃいましたの一歩手前だよってことだもん。えっちの最後までってことは女の人の中にその、男の人のを注ぎ込むって事だもん。

 

 そのC+がつまりはあれだね、このベッドで行われて──―。

 

「う、海野って凄いやつだったんだね」

 

 なるちゃんは仰います。ですけどもたぶんそれは違いますよ。あいつにそんなことする度胸はない。

 

「いやいや、カオリナイトさんって大人だし、その彼女と婚約・夫婦みたいな状態で暮らしてると考えると、彼女が海野の事をリードしてくれてると考えた方が自然というか」

 

「ん? あ、そっか、言われてみれば。カオリナイトさんって28歳って仰ってたし、あたしらの恋人よりもまだ年上だし」

 

「そうそう、んで、あんな色っぽいひとからリードされてC+にまで到達しきりながら、大人の恋を感じさせない純愛ラブラブな海野のあの態度」

 

 海野が純情なのか、カオリナイトが優しいのか。

 

 なんかあたしの中のイメージが崩れてきた。カオリナイトって冷酷で非情だけど案外愛した人にはとことんまで尽くすタイプなのかな? 

 

 確実に自分に合わさせながらも、海野にも合せてる感じだし、海野に自分のブレスをプレゼントするって、いつでも一緒に居たい彼女の心の表れだったりしそうだし。

 

「どっちにしたって海野とカオリナイトさんが寝食共にしてることは確実ってことなのよね月野探偵?」

 

「それ以外で考えられますかね大阪探偵?」

 

「考えられませんね」

 

 そうですたぶん。カオリナイトのリードの下で、月に一度か、週に一度か、週に数回か、それとも──毎日か? C+とやらは行われていると思うのです。

 

 そもそも海野がカオリナイトを押し倒してるとこだけはなにをどうして頭をひねり回しても出てこないわ。ごめん海野、あんたにそんな度胸ないっしょ? 

 

 このベッドで二人は愛を交わして、そう大人の愛を交わしながら情熱的で、そして大切に愛を育てている。

 

 普段の生活では海野が手を引く、はないか。横に並ぶか手を引かれてるか。夜の熱い愛はカオリナイトが海野をリードしながら二人で一緒に愛を育んでいる。

 

 うむ~ラブいっ、ラブ過ぎるっ、進み具合だけならあたしとまもちゃん追い越されてるんじゃないのそれ。

 

 そこまで考えた処で、なるちゃんが、またまたまたとんでもない事を口走っちゃった。

 

「卒業までに赤ちゃん生まれてたりして……」

 

「あ、赤ちゃん……? 誰と誰の?」

 

「海野とカオリナイトさんの赤ちゃんに決まってるじゃん。うさぎはどう思う? カオリナイトさんが海野の子を妊娠しちゃって生んじゃってる可能性、あると思う?」

 

 あたしに振るんかいあーたってば! ってかあたしらなんつー猥談をしちゃってんのさ本人達が居る家で。しかもその本人達の部屋で。

 

「な、ないとは言えない──んじゃあないか、な?」

 

 卒業式、桜舞う校舎の中、卒業生達が証書を受け取る晴れ舞台を見守る保護者席に、赤ちゃんを抱いて海野を見守るカオリナイト。

 

 彼女が抱く子は、海野と彼女の特徴を併せ持っていて、二人の子供であると一目で分かるような子だったとさ。

 

「……」

 

 あり得ない──とは言えないかもしんなんなあ……。幸せでいいことには違いないんだけど、それはそれで倫理的に法的に色々とねえ。

 

 非合法で世界征服を企んでるらしきデスバスターズの幹部だった、で超能力みたいなのをいっぱい使えるカオリナイトのことだから、そのくらいどうにでも対処しそうなもんだけどね。詳しく知りはしませんが彼女とっても頭良いらしいしさ。

 

 あたしとしての意見はと言えば、別にいいと思うんだ。海野とカオリナイトがいま子作りをしてて、赤ちゃんが生まれたとしても幸せならそれが一番だからなにも問題無い。

 

 大切なのは愛情を持って愛を交わして幸せかどうか、生まれてくる子が愛情を受けられるか、いまの二人ならだいじょぶといって間違いないだろう。

 

「でも子供生まれるとしても時期的には海野が高校生、つまりあたし等がみんな進学した後くらいに生まれそうだから卒業式でって事はなさそうだけど、近いうちにあったとしてもおかしかないよこの状況を見る限りでは。避妊してたら別だけど、結婚前提でラブラブ~っだと無いと言い切れませんなあ」

 

 卒業式の前後にはお腹の大きなカオリナイトが見られるかも知れません。そのときは海野と彼女にお祝いの言葉を掛けてあげますよあたしはね。

 

「そ、そうよねぇ、やっぱり……。海野の話からしても、いつカオリナイトさんが子供を宿したとしても不思議じゃないもの……」

 

 なるちゃんの仰る通り、C+とはその可能性を大いに秘めているのです。

 

 とまあ、実に危ない話をしながら、あたしたちはどこかで重ね合わせていた。海野とカオリナイトの関係を、あたしとまもちゃん。なるちゃんとネフライトの関係に。

 

 年の差の恋だもの、そういう特別なことも起こり得る。まだ未経験なあたしたちだっていつ初体験をして毎夜の愛を交わすようになるかわからない。

 

 子供がどうって話は海野に限らずあたしたちにだって起こり得るんだよ。もちろん大丈夫だよ? そうなったときは生むもん。まもちゃんだとなんか大喜びしてそうな気がするね。

 

 でもさ、あたしは、あたしたちは思ったんだよ。

 

 あたしら三組の年の差の恋愛が、そのままいつまでも幸せの内に続いて行けばいいなって。

 

 あたしはまもちゃんが居ればそれでいい。

 

 なるちゃんはネフライトが居ればそれでいい。

 

 カオリナイトは海野が居ればそれでいい。

 

 他にはなにもいらないんだよ。愛し合って、子供が出来て、子供の成長を見守りながら時を進んでいく。遙かな未来までもずーっとね。それだけでいいの。

 

「お待たせ致しましたわ」

 

「お茶菓子とお茶です──って、二人ともどうされたのですか? 顔真っ赤っかでうっとりしちゃって」

 

 と、これからの幸せを語り合ってたところに、いつの間にやらカオリナイトと海野が御茶菓子を持ってドアを開けていた。

 

 不思議そうにこっち視る海野に、いつもの冷たい無表情でこっちを視るカオリナイト。とってもアンバランスに見える二人は、だからこそ引き合って結ばれたのかな。

 

 火と水は蒸発して消し合う。

 

 消し合うけれどそれは共に融け合ったとも言える。

 

 水と油は爆発的に燃え上がる。

 

 愛が燃え上がるように混ざり合って消えない大きな炎となる。

 

 優しく平凡な海野と冷たく非凡なカオリナイト。二人の場合は、なにかがあって情熱的に燃え上がっちゃったんだろうな。

 

 たぶんだけどもうこの二人の愛は消えない。あたしとまもちゃんがそうなように、運命的な結ばれ方をした以上は来世でも必ず結ばれる。

 

 それほどまでに愛し合っているから。永遠の愛というのはそういう運命的なものだ。

 

 あたし自身がそうだからわかっちゃったんだ。オカルトっぽくなっちゃうけれど、この二人、来世でも再来世でも結ばれる運命にあるよ。

 

 錯覚じゃなくって、本当に雁字搦めの赤い糸が海野とカオリナイトを縛り付けているのが見えちゃった。

 

 実際にまもちゃんとそうなってるあたしって実例が居るんだからさ。だからわかっちゃったの。

 

「ああなんでもないよ、ね、うさぎ」

 

「そうそう、なんでもないなんでもない」

 

 さて、運命で結ばれた幸せな二人の現世での恋をあたしゃ応援しなくっちゃね。といいますかー、今日ってその為の相談なんだよ? 

 

 海野のカオリナイトへのプレゼントを何にしようかっていうね。早速だけれど訊いちゃおう。

 

「あの、不躾で失礼ですけれど、カオリナイトさんの趣味とか好みとかってなんですか?」

 

「わたくしの、ですか?」

 

 訊かれて僅かに崩れるカオリナイトの無表情。少し考えてから趣味嗜好について彼女は語り始める。というか、いきなしこんなこと訊くあたしらに合せてくれて助かったってか、ありがとね。

 

 海野とあたしとなるちゃんと、中学生三人組みに混じって大人がひとり、四人で楽しくお話しをする。

 

 まあね、結局は指輪がいいと思うんだけどあたしは。おそらくなるちゃんも。なによりもカオリナイト自身が指輪を望みそうに思う。

 

 結婚前提の付き合いって謂わば婚約状態ってわけですよ。婚約者に贈る物としては婚約指輪が一番嬉しいと思うんだあたし。

 

「趣味や好みは割と彩り装い、華やかな物や事ですわね。反面、静かなのも好きなのですが、私物でその手の物はあまり持ち合わせがございませんの」

 

 なんでもそこのクローゼットには海野の衣服と共に彼女の衣服も入っているらしく、見せて貰ったが、まあ確かに静寂を感じさせる物は無く、派手という部分が強調される衣服ばかりだった。

 

 二着だけ意味不明にもほどがある白衣があったけど。ユージアルも白衣だったことから組織としての制服か何か、その手の私物だったのかも。デスバスターズを抜けるときにでも持ち出してきたのかな? 

 

 で、彼女の手持ちの衣服で分かったことは、腰までスリットの入るやっぱり胸元が大きく開かれた黒いロングドレスが一着と、いつも着ている背中の丸見えなVネックのミニスカワンピースが赤と紫と青色のもの数着に、白衣が二着だったということ。

 

 耳に付けている金色のイヤリングや真っ赤な口紅、他に見せてくれたドレスと合わせての物らしい黒い大きな宝石なんかもそうだけれど、基本は派手なアクセサリーや衣服が好きみたい。

 

「ああその白衣はよく家庭教師のお仕事の時に着ていらっしゃいますよね」

 

 海野が思い出したように口走る。確かに言われてみると先生と云った雰囲気でもあるわね白衣は。医者ならもちろん化学系の教師には好んで白衣を着る人も居る。

 

 カオリナイトは超能力も使うけれど、化学系のひとでもあるから、白衣が家庭教師としての彼女の制服だったとしてもそれはそれでありなんだろうねえ。

 

 でもそれはプレゼント選びの参考にはならないでしょ。あんたカオリナイトの恋人なんだからもっといい何かを考えなさいよ。

 

 そういった感じで続く彼女の嗜好調査はやがて終わり、候補は三つに絞られた。

 

 髪飾り関係、アクセサリー関係、そして指輪。もし指輪を選ぶのならエンゲージリングとしてのだよ海野。

 

 因みにカオリナイトには内緒なので、席を外して貰った。海野が貴女に関係することでとっても大切な云々と誤魔化していたけれどさ、そんなこと言っちゃったら答え教えてるようなものだよあんた。

 

「ん? ……ああなるほど、そういうことでしたのね。うふふっ、わかりましたわ。楽しみにしておりますわね」

 

 彼女の朱の射した頬に、嬉しそうな声。見事にあたしの予想通りのことになっちゃった。

 

 あれは完全に気付いてる様子だ。海野が某かのプレゼントをしようと画策中だということに。好みなんか訊かれたうえであんな事いっちゃったら気付くもんだわよ普通なら。

 

 彼女ってば鈍いどころかとっても鋭いひとだしね。ああもう、海野に期待したあたしが馬鹿だったよ~。

 

 ふーむ、でもまあいいや。気付かれたのなら仕方ない、そこはもう開き直って取り敢えずの候補三つについてを考えて行きましょうか。

 

 まずはバレッタやシュシュといった、髪を束ねたり纏めたりする物。幸いカオリナイトは髪が長い、髪系等のアクセサリーなんか結構いいと思わない? 

 

 でもと海野が意見する。

 

「僕も時々お手伝いしているのですが、カオリナイトさんって就寝時には三つ編みにして、昼間は御存じの通り御自分の髪の毛を一部編み込んでポニーテールっぽく纏めてらっしゃるので、バレッタとか付けてくださるかどうか。ああ、お二人に御相談する前にもバレッタとかヘアゴムの良い物とか僕も僕で考えては居たんですよ?」

 

 考えてそれかーい! 女の子は好きな人からのプレゼントなら必ず身に付けるっつーのにもう最初っからわかってない、わかってないよ海野君。

 

 カオリナイトだってそのアクセに合わせて髪型変えるに決まってんでしょーが。と心中憤るあたしを余所に聞き逃せないひとことを聞いていたなるちゃんが先に口を開いた。

 

「えっ、海野彼女の髪編んだりしてあげてるわけ?」

 

「ええまあ。と仰いましても時々ですよ。就寝時の三つ編みの時にだけ偶にお手伝いさせて戴いてます。こう長い髪の束を三つに分けさせていただき順繰りに編み込んでいく。言葉にすれば簡単なようで難しいんですよねこれがまた。実は他にも普段彼女がなされていらっしゃいます編み組のポニーテールについても前に僕やらせてもらった事あるんですが、編み込んでも編み込んでもポニーテール風に結い上げる段階で必ず崩れたりほどけたりばらけたりと、てんてこ舞いになってしまい見事に失敗しちゃいまして髪がくしゃくしゃに。カオリナイトさんは男の子なのだから仕方のないことだと仰っておられましたが、正直悔しい気持ちはありました。僕って好きな人の髪結いすらできない駄目なやつなのかと……けどなんか、本当にやったことない僕ら一般的な男には難しいらしいですねえ女性の髪を結うのって」

 

 おおっそこまでやってらっしゃるっ! ふむ、したらばここはひとつ想像してみよう。まず髪結いってことだから、海野が彼女の背後に立ち、彼の前には椅子に座るカオリナイトが居る。敵として戦ってきたころだと絶対に想像できないけれど、いまなら余裕で想像できちゃうのが人間模様の変わり方をつぶさに観じさせるよね~。

 

 ではまあ続きを想像してみましょう。準備は万端だからいいとして、最初におずおずとした手付きで海野は下ろされている彼女の髪の一部を束にして持つ。あの髪型にするのならたぶん両サイドの端の髪の毛を束にして手に取らなきゃいけない。相当緊張していたんだろうなあ彼の事だからさぁ。手を握られただけでカチコチになるほど女の子に対しては免疫不足だことだし。

 

 ま、いいや、んで、続いて手にした髪の房をまず三つの束に分けてから、これまた四苦八苦しながら髪を編み編みして三つ編みをこさえつつ、カオリナイトの背に流れる赤く艶やかな長い髪をポニーテールっぽくするために少し持ち上げながらにして、編み込んで行こうとしては──見事に大失敗。また編み込もうとしては失敗。そんな簡単じゃないからね彼女の髪型ってさ。

 

 あたしのお団子ヘアーだって簡単じゃないんだよ? いつも時間かかってるんだから彼女も同じような感じだと思う。これは髪が短くってもウェーブに決めてるなるちゃんも同様、時間かかってるはずだよ。けどあたしたち三人はそれぞれ同じ髪型をずーっとしてきてるわけでして、慣れに慣れてるから少し手間が掛かるくらいでできるのです。

 

 でも海野はそもそも女の子の髪なんて、カオリナイトの髪をこの短い期間に少々触らせてもらったくらい。そんなんじゃあ簡単に彼女のあの髪型を整えられるわきゃあない。

 

 と、彼女の髪をいじり回しながらあわあわ焦り、汗まで流して言い訳する。んで“すみません”“ごめんなさい”と、彼らしく素直な謝罪を連呼。

 

 そんな海野に対してカオリナイトは姿見だけを観てアドバイスのみを送り自分は手を貸さない。だってそもそも海野に触ってもらいたいから髪結いをさせてあげていたはずだもん。しかしながら掛かる、というより掛かりすぎな時間。姿見に写る自分の髪の毛が海野の手でくしゃくしゃにされていく様に溜息を付きながら“もういいわ”と彼の手を止めさせる。

 

 でもって、ポカンとする海野にブラシを渡してブラッシングだけをさせてあげ、もとの綺麗なストレートに戻させた後、今度は自分で編み込んでは髪をいつもの髪型に結い上げていき、結い終えるころにはしゅんと落ち込んでいる海野を励ましてあげている。

 

 それでもちょっと怒ってる。だってさ、髪の毛くっちゃくちゃにされて怒らない女の子はいませんて……。まあそんな様子をあたしなりに想像しながら、髪を自由に触らせてるなんてカオリナイトの海野への愛の深さを思いっきり感じさせられたよ。

 

 一応ひと通り想像したその事を当の海野に聞いてみた。

 

「へっ?! なんで分かったんですかうさぎさんがその事をっ!?」

 

 いやー見事に当てちゃったみたいだよ。あたしってもしかするとテレパス能力者の素質あるのかなあ──って、だいたいわかるってーのあんたの失敗談くらいは。

 

「あの時はあんまり怒ってらっしゃらないみたいでしたので、ほっと一安心しましたよ。カオリナイトさんに嫌われちゃったら僕どうしようって大慌てでしたから」

 

 ああそれだめ。それはいただけませんよ海野く~ん。女性が髪を触らせる男性の意味をあんたちゃんと考えてんの? 当の海野がその重要性、女性が髪を触らせる男性のことの意味を分かってなさそうなのは、あたし個人的にしてもムッとしちゃった。髪触らせてくれるだけじゃなくって、そこまでのことさせて貰える意味を何故にこやつは理解しておらんのよっ! 

 

 とーくーにーなるちゃんが、この話を聞いて海野にお説教というかひとこと、ふたこと、みこと、と、注意していた。もち怒りながら。怒りマックスモード。

 

「あのねえ海野っ、あたしはあんたがどう考えてるかなんてしらないけれど、女の子・女性にとって髪は命と同じようなものなのっ。その髪の毛を触らせてもらえる、お手入れさせて貰えるっていうことは、あんたがそれだけカオリナイトさんから愛されて信頼されてる証でもあるのっ。だからあたしたちもあたしたちで髪の毛のアクセサリーをプレゼント候補の一つに挙げてるのよっ!」

 

 あたしも心中怒りぜんかーいっ!! そりゃ海野と普段からそこそこ仲のいいあたしたちだって怒るさねえ。デリカシーの欠片もないそんな様子には。

 

 海野ってね、正義感強いし困ってるひと助けてあげてたりするし、カオリナイトのこと心から大切に想ってるし、見かけやなんかはオタクっぽくてダサいんだけど、それでも結構いいやつなんだ。

 

 でーもー、気が付かなきゃ駄目なところに限って気が付かないのが全部を台無しにしちゃってるのよね。

 

 カオリナイトがなにも言わなかったらしいのは、それは単なる恋人特権って話なだけ。恋人だからこそ笑って許せることもあるもんなのさ。

 

 そ、あの感じと、海野から聞いてる話を掛け合わせちゃうと、浮気以外には大抵彼に甘そうだもん彼女。家庭教師になっちゃってるから勉強には厳しいんだろうけど。

 

 それ以外についてはあんな冷たく見えてもらぶら~ぶで甘い甘い。砂糖並みにね。ああいいひとってそういうとこあるもん。

 

 そんな中、まだなるちゃんのお説教は続いておりました。なるちゃんが止まってたら代わりにあたしがしてたかなたぶん。

 

「あともうひとつ、これは忠告だからよく聞きなさいよ? 今度から彼女の髪を触らせてもらうときは大切に丁寧にね。髪型とかお手入れのカタログもあたしたち持ってきてるから、ちゃんと女性の髪の毛の扱いについて勉強しなさい。とくに編み組や編み込みの仕方を覚えてね。リベンジじゃないけど、彼女の髪をくしゃくしゃにしちゃったことがあるんなら、一度普段の髪型を纏め上げさせてもらえるようお願いして、あんたの手で纏めあげてみせなさいよ。愛情を込めてね。カオリナイトさんがなにも言わなくったって、いまのはあんたがやっちゃったことなんだから、あんたがやっちゃったことはあんた自身の手で汚名返上するのっ。わかった?!」

 

「は、はいっ! がんばりますです今度こそ完璧にやり遂げて見せますっ!」

 

「がんばんなさいよ♪」

 

 なるちゃん力説する。なんか先生みたい。ネフライトはどんな風になるちゃんの髪の毛を触っているのかねえ。

 

 優しく梳き通しながらウェーブにしていったり、ストレートにしてあげたり、きっと大切に扱われてるんだろうなあ。

 

 あたし? あたしは当然まもちゃんの優しい手で梳いてもらってますよう~♪ 

 

「あ、あとですね、お風呂では髪の毛洗うのお手伝いしてますよちゃんと」

 

 説教された言い訳か、海野がすんごいこと口走っちゃった。あ、あんたカオリナイトと一緒にお風呂入ってるんだね……ど、どこまでも愛し合ってるんだね本当に。

 

 身体の隅々まで見せ合ってますかそうですか。うんそれはとってもいいことだよ、いいことだけれど、こっちが恥ずかしくなっちゃうし、あんたも耳まで真っ赤にしてまで言うことないでしょ。無理せんでいいんだよ? 

 

「お、お風呂くらいあたしだってネフライト様と入ったことあるんだからっ」

 

 なるちゃんまでぇぇ~~~っ、ちょっとちょっと二人ともヒートアップしすぎ。とくに海野はそれ以上先を言っちゃだめだよっ、一応こっちだってC+の意味知ってるし、そんなこと話しを詳細に出されたら収拾付かなくなっちゃうし、もうそんくらいでやめておきなさいっ。

 

 実のとこ、今後の参考までに少々聞きたくはあるけど……。だってさ、あたしだってまもちゃんっていう素敵な恋人の居る、年頃の女の子だもん。

 

 

 

 そのころのリビングでは、カオリナイトが髪の毛を触り続けていた。

 

「どうしたのかしらやけに髪が気になるわねえ?」

 

 べつに変でもない、崩れてもないのにだ。

 

 それは海野のやる気が彼女に伝わっていた証拠だったのかもしれない。

 

 

出してほしいキャラは誰ですか?本当はもっと書きたいですデマンドとかちびうさとか(期待に応えられるかは分かりません)

  • カオリナイト
  • 海野ぐりお
  • ユージアル
  • 天野ぐりかず
  • 地場衛
  • 月野うさぎ
  • ネフライト様
  • 大阪なる
  • テルル
  • ビリユイ
  • シプリン
  • プチロル
  • 水野亜美
  • 浦和良
  • 火野レイ
  • 木野まこと
  • 愛野美奈子
  • 天皇はるか
  • 海王みちる
  • 冥王せつな
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