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SIDEなるちゃん
ああもうっ、海野がお風呂がどうだとか言うから、あたしまでついつい熱くなって、秘密の一旦を暴露する嵌めになっちゃったじゃないっ。
なんであたしとネフライト様のお付き合いの秘密な部分を話しちゃわなきゃ駄目なわけ? 恥ずかしくって死にそーっ、もう全部あんたのせいだからね海野っ────って、ひとの所為にしてはいけないのよなる。あたしは、あくまでもネフライト様に相応しい淑女であらなきゃね。
ネフライト様は普段通りのキミが一番だよって仰ってくださるけれども、そのお言葉に甘えてしまっては女としてどうかと思うのね。
もっともっと自分を磨いて、ひかえめで慎ましい素敵なレディになって、一番よりもまだ上を目指すっ! このくらいの意気込みは必要なの。恋ってそんなものなんだもん。
恋が熱く激しく燃え上がるのは、なにも互いの関係だけで終始する事柄だけじゃない。自分自身もまた自分磨きに情熱を燃やせるものなのよね。
その過程で自分の駄目なところを発見できたり、それを直すべく努力したり、大変なようでも楽しくって、疲れるようでも幸せ。考えてみれば不思議だわ、恋する気持ちってさ。
でもさ、海野は必要以上に落ち込んだりする必要ないじゃん。相手があんな大人のひとじゃ自分が合せようだなんて無理があるもの。あたしもそうだからはっきり言えるけれどさ、リードして貰えるところは大人しく手を引かれなくっちゃ。
ネフライト様の隣に立つのは悔しいことだけど今はまだ無理。あたしが大人になりきれていないから。だから自分のペースでゆっくり自分自身を磨いていきながら、それでも引っ張って貰うところは引っ張って貰うの。そうやってお互いを尊重し合って、お互いを大切にしていく──それが理想の恋ってものよ?
だから海野も「どうせ僕なんて中学生のガキなんですよお~ォっ!」なーんていじけてないで、カオリナイトさんに手を引いて貰うところは引いて貰えばいいのよ。あたしは同じ女だから分かるんだけど、彼女とっても嬉しそうだったじゃない。それはいつものあんたで居ればいいっていうなによりの証。
まあだからって彼女は海野に合わせてくれるようなひとじゃないなあとは思った。あのひとはきっと前を歩いても後ろは歩かないタイプよね。付いていくのはあんたになりそう、それはあんたが大人になっても変わらなく続いてく。
もうひとつ。あのひと、おそらくだけど、愛した男性にはとことんまで尽くしてくれるタイプでもあるわ。
これは感で絶対じゃない。でも海野への接し方、見つめる瞳の温かさ、冷たい無表情っぽく見えて余裕で看破できたもの。ついでに嫉妬──。これはあたしとうさぎに向けてのもの……。玄関で出迎えてくれたときの無表情にはそれしか浮かんでなかった。
鈍いうさぎは気付いてなかったようだけどちょっと、いや本気で怖かったわ。海野が連れてきたのが女だったことが彼女の琴線に触れちゃったんでしょうけれど。まあ話してる間に誤解みたいなのは解けたみたいで、本当に普通に接してくれるようになってたけどいつの間にかさ。
とにかく総合的に見て確実なことは、カオリナイトさんの抱く海野への恋心の強さだ。天元突破って言葉があるけどまさにあれね。海野にならなにされても許してしまう──浮気って裏切り以外なら。言い換えると浮気したときの怒りは尋常じゃないとなる。つまり海野、あんたが浮気なんかしたら、あんた彼女に殺されちゃうかも知れないってことでもあるから気を付けなさいよ~? 男の子って浮気を軽く考えがちだけど、女の子、女性にとっては絶対に許せないのよ裏切り行為なのよ浮気だけはね。もしもあんたが浮気して、そんな状況に追い込まれちゃったとしても、それだけは自業自得だからあたしもうさぎも弁護しないから。まあ無いと思うけれど。
だって海野だもん。海野の性格だと浮気はない。女性に限らず誰かを平気で裏切れるようなやつじゃないから。ま、純なのよね純。悪口や不平不満くらいは言うけど、裏切りはしない。度々十番街に現れる変な怪物に洗脳されたりしない限りは。そういえばなんでこの街ってあんな怪人がいっぱい出るんだろう? あたしもなんどか襲われたことあったし、怖い思いもいっぱいしたわ。でもぉ~、そのおかげでネフライト様と運命の出逢いを果たせたようなものなのよねぇ~♪ 。彼との出逢いは、あたしの人生における最大の幸せという結果となったわけで、怪人とか変な組織とかにはちょっと複雑な思いを抱えてる。
怪人はいまでも出てくるのよ、色んな所でね。ネフライト様がセーラー戦士やタキシード仮面と共闘して怪人を倒してるのも知ってる。それがあたしを守るために繋がるからって──キャ~~~っ、もうなに言わせてくれんのよ~っっ♪
なにがどうなって、なにが原因となり変わってしまうのかわからないのが運命。でも運命的な出逢いを果たして結ばれた愛って永遠に続く螺旋階段のように終わりなんて来ないの。あたしもうさぎも、海野にとっても、いまの出逢いと結ばれた相手との間柄は、そういった出逢いだったんだなって感じがするわ。
とと、なぁんて余計な事考えてる場合じゃなかった。
さーてと、じゃあプレゼント選びの続き行きましょうか。
「とりあえずのとこ、ヘアアクセサリーに関しては海野に女性のヘアメイクと、アレンジの仕方を学習してもらってからにしましょうか。じゃうさぎ」
「ほいきた。海野コレ読破してから自主連──はできないから、イメトレしまくって自信が付いてからカオリナイトさんに髪結いをさせてもらいなさいっ! 再挑戦有るのみっ!」
簡単ヘアメイク&アレンジ。といった名のカタログを渡すうさぎ。ヘアメイクについてを事細かく紹介している本だ。
「ただしそれ読んだからって完璧なヘアメイクができるようになるんじゃないんだから、日々の努力が大切よ?」
「は、はいわかってます。ウサギとカメのカメさんのように一歩ずつコツコツと──ですね? 僕頑張りますよっ!!」
「例えが童話ってところが子供っぽくて変だけど間違っちゃいないわね。ああ、じっくり読むのはまた別の機会にでもして、編み組のアレンジの紹介の所だけどんな感じなのかを目を通してみて」
「了解しましたっ、ええーと編み組編み組っと」
いま此処で一ページ目から読み出されても困るのでさあっと目だけ通して貰う。中にはもちろん編み組の仕方なんかも事細かく説明してあって、アレンジにはそのポニーテール版も掲載されていた。海野にいま必要なのはそこだけだから。
ただ紹介されてるのは、カオリナイトさんのような緩やかなアップじゃなくて、きつく搾った本格的なポニーテールなんだけどね。そこは臨機応変に覚えて貰う必要あり。あたしもうさぎも教わったり覚えたりしながらでも結局は独学だもん。とくにうさぎなんか大変よあの長さだから。
カオリナイトさんも腰くらいまでの長さだったけど、うさぎの髪は踝に届いちゃってるからもう逆に珍しいし、良くお手入れできてるなあって感心しちゃうよ。
あたしは肩より上と短いけれどそれでも大変なんだもん、毎日綺麗にウェーブかけて崩れないようにするの。
まああたし達のことはいいんだけどさ、問題はカオリナイトさんよ。
「あの髪型って全体が緩くアップ気味になってるちょっとしたポニーテールだから、解けば当然腰よりも長いわよね?」
「そんなくらいです。朝起きたときや脱衣所を御一緒させていただいてもらっておりますときに視てますし、髪を下ろされているときには完全にお尻が隠れてましたので、僕の分析ではたぶん毛先は大腿の裏側上部くらいにまでは掛かっているものと思われます」
入浴中には頭の上で纏めているから、髪を洗われているときはお手伝いしたりもするらしいけれど、洗い流すときくらいにしかわからなくてよく視てないんだそう。あとは髪を拭いているときはタオルで髪自体を持ち上げて拭かれてしまうとやっぱりよくわからないとかなんとか、切々と語られてしまったわ。
ぅぅっ……、普通に話してるし、別段下心があってのことじゃないのわかってても、女性の身体の分析とか一緒に入浴とかって、男子からそんな話聞かされるとちょっとエッチに感じちゃうわね……。っと、いけないいけないっ、気持ち切り替えなくちゃ。あくまで真面目な真剣な話をしてるんだから。
「膝裏の上の方に掛かるって、かなりの長さよねぇ」
長身なあのひとだと100㎝かそれよりちょっと長いくらいかな? でももーっと長いひとや同じくらいのひとが周りに居すぎてそれほどでもないように感じてしまうのは、正直あたしの感覚が変になっちゃってる証拠。先生もそうだし、うさぎとそのフレンズにもカオリナイトさんより髪長いひといっぱいだしね。それは感覚の狂いだって生じるでしょ。
見慣れたのと珍しいのが同列なわけないように。
「けれどさ、長いといったって、隣にものすっごくなっがい子が居るから普通に感じてしまうこの不思議さったらないわ」
「僕もそう思います、うさぎさんもそうですし、うさぎさんの周りの人達もそうですよね~。ですから特別カオリナイトさんだけが凄く長いとは感じ無くなっちゃってまして」
「いや~それほどでも~っ」
頭掻かなくってもいいってば褒めてるわけじゃないし。ま、うさぎの髪は確かに綺麗だけどね-。そんなに長いのにトリートメントもしっかりして維持できてるのいっつも感心するわ。
「だったらその長さを考えた練習をして行かなくちゃね」
同じくらいの長さのウィッグで練習するのもいいけれど、それだと余計なお金が掛かっちゃうからないか。なによりウィッグと本物では違いが出て練習にならないかも。
となればやっぱり実践。うんそうね~、だったらさっきはカタログ読んで勉強して、海野が覚えてからって考えてたけど、いっそのこと一度実際にやってみちゃおう。
「海野、カオリナイトさんに編み組だけでいいから練習させてもらえないか訊いて来てもらえない? もしオッケーなら編み込む練習だけでもさせてもらっちゃおうか。間違ってもそれで結い上げにも挑戦しようとか調子には乗らないことで、ね? あ。あと重要なことは海野がどうしてもカオリナイトさんの髪を結わせていただきたいからっていうのを彼女に率直に伝えること。あなたを愛しているからこそ、一度失敗したあなたへの愛情の伝え方のひとつを自分にやり遂げさせていただけるチャンスをください──ってところをしっかりアピールするのよ?」
前回の失敗を次に生かす。恋人関係でもそうだし、人生の基本ね。
「了解しました。それじゃ僕訊いてきますね。よーし思いっ切りアピールしちゃうぞ~っ!!」
やる気満々で気勢を上げる海野に、うさぎが──「調子にのるんじゃないわよー、ぜーったい失敗……は、しちゃわないか。説得についてだけは」注意しかけてやめていた。
そうよねえー、海野が教えてくれたラブラブっぷりと、実際にカオリナイトさんの雰囲気を感じ取ってからじゃあ、あいつの説得方法ならなんでも了承してくれそうだし。
「カオリナイトさんたぶん断らないんだろーねえー。海野を甘やかせちゃうことになるようなの以外はなんだかぜーんぶ受け入れそう。いままで見た状況と感じじゃさあ」
うさぎが確信を持ってうんうんと首肯しながら話を続けた。
「事故の際に無我夢中で助けた名も知らない女性との偶然の再会は、まるで引き合うS極とN極の磁石の様にお互いを再び出逢わせた。再会してからっていうより事故の時にはすでにお互いが一目惚れしていて自然の流れで離れられない感じになっちゃって、住み込みの家庭教師とその生徒という関係に収まりつつも、恋人同士としての一歩を踏み出す。そして同じ一つ屋根の下で住む事になって、一緒に食事して、部屋も一緒で、お風呂も一緒で、ベッドも同じ枕を一つで使って、夜毎に渡り愛を深めながらお互いが二度と離れたりしないようにと紅い糸を紡がせ合う──―時間も流れも出来事も、まるで運命の恋人として結ばれるようさだめられてたからみたいでロマンチック~♪」
二人の関係を物語のようにしてうさぎは語る。あたしも聴いていてネフライト様との出逢いや、傷付いていた彼を介抱させていただいたときのことを思い出していた。
「そうね~、まるで運命みたい。あたしたちと同じようにもう出逢った瞬間にはこうなるんだって決まってたみたいな……素敵よねえ~っ」
「うむ、だがしかーし! あたしとまもちゃんは前世から現在から未来まで永遠に結ばれている究極の恋人なのであったりするのです!」
「凄い自信ね……。まああたしだって同じだって確信してるし、きっと海野とカオリナイトさんも前世も現世も未来までも、永遠に出逢っては結ばれて、また出逢っては結ばれて、そうして終わらない愛の時を刻んでいくんでしょうね~」
ネフライト様は仰っていた『来世でもキミを』それってもう次に生まれ変わったときもあたしを迎えに来てくれるってこと。
あたしは待ってる、いいえあたしも探してみせるわ。来世がどんな世の中なのかそれはわからないことだけど、あたしはネフライト様を、ネフライト様はあたしを。そう、二人で探し合って、そしてまた結ばれるの。
あたしはそこで一度自分の中より現実へと思考を切り替えた。
「でもご本人で練習させてもらえる間柄だっていうのはいいわよね。ま、最低ラインが恋人まで関係が進んでいないと難しいけれど」
うさぎも空想から現実に返ってきたみたいで同意してくれた。
「恋人関係をぶち抜いちゃってる海野とカオリナイトさんの場合ならもうなーんにも問題無さそうだしねえ。まあ海野がにぶちんすぎて彼女に主導権を全部握られちゃう未来がいまから見えてくるけどさ。こういった練習の時にご本人にお付き合いいただけそうなのは確かに都合がいい。うんとっても都合良し!」
普段から髪を触らせてもらってるのならとくに話は早いよ。どーせもうプレゼント企画的なこと考えてるとばれちゃってるんだからやれるだけのことはやってしまおう。具体的には編み組の緩いアップを海野の手で結えるようにしてあげること。その上でバレッタなんかのアクセサリーも贈ると女の子側の気持ちは倍々で嬉しくなる物なの。
贈られたバレッタやシュシュを上手に使いながら海野が彼女の髪を結いあげてあげたらとっても喜ぶと思うよ?
と、10分くらいすると海野がカオリナイトさんを連れてきてくれた。あっ、カオリナイトさんもう髪の毛下ろしてる。前髪も長くて綺麗ね~っ、この分だと確かにセンター分けにするか普段のアップ気味か、ポニーテールにしちゃうか、三つ編みか、とにかく某かの髪型に整えずに普通に下ろしたままだと不便そうだわ。でも彼女が髪を下ろしてきてるということはー。
「すみませんカオリナイトさん。ちょこっとだけ海野に」
「ええもうお聴きいたしておりますのでご安心くださいな」
やっぱりね。仕事早いじゃん海野。そう思ってたら彼、あたしに耳打ちしてきた。
“プレゼントのことは絶対に黙っててくださいよ。説得の際にも話に出してませんので、うっかりとか気を付けて下さいね”
いやだからもう御本人には気付かれてるんだってば。あんたの言うあんた自身のうっかりでね。鏡台の前に座ってる彼女を鏡越しで見ると、口に手を当てて“ほほほっ”って笑っていた。こうなるともう滑稽よね。あんただけが気付かれてないと思っちゃってるんだからねえ……。
無駄な耳打ちをしてきた海野が早速始めちゃいましょうと、鏡台の椅子に座るカオリナイトさんの左耳の裏側辺りから髪の毛の中に手を差し入れる。これってべつに左右関係無いらしいけど海野は偶然左側から始めていた。
「す、すみません髪触りまくっちゃうことになるんですけど……いいですか?」
「ええよろしくってよ。遠慮なく触りなさいな。わたくし、ぐりおになら身体中どこでも触ることを許しますわ」
う、うわっすごいなあ。さすが夫婦状態なお二人ね。事が運びやすくていいことなんだけど、ああーっ、あたしも早くネフライト様とこんな関係になりたいよ……。ネフライト様ってああ見えてあたしにだって嘘を吐く方だから、『今日は帰さないぞ。この意味、わかるな?』なんて言われて、覚悟を決めなきゃって気合い入れるあたしに、結局なんにもしないで一緒に眠るだけなんですもの。
それは口づけのひとつくらいはしてくださるけれど、あんな言い方であれじゃ嘘と変わらないもん。まあね、前に『これからも嘘をつき続けるかも知れない』とは仰っていたから仕方ないし、それでもいいってあたしも言っちゃってたし……ハア、恋する乙女って辛いわ……。
あたしがそんなことを思っている間にも、海野はカオリナイトさんの髪の思いっ切り内側にまで差し入れた手で、編み込む為に必要なトップにする毛束を表面に引き出していく。
手付きが慣れてるわ。この分じゃ相当触り慣れてるわね?
「わかってると思うけれど優しく扱いなさいよ海野。あんたのボサボサな癖毛を触るんじゃないんだから」
だけども一応ここは注意して置かなきゃね、前にくしゃくしゃにした前科があるらしいし。
「わかってますよォなるちゃん。僕だって謝り倒しましたし、ねえカオリナイトさん」
「さあ、どうだったかしらね?」
からかう彼女に海野はそんなーって落ち込むけれど、軽い冗談だって気づきなさいよもう。
「で、では……ええと、トップの毛束をとったら3つに分けるっと」
カタログ通りにする海野を鏡越しに、海野をからかっていたカオリナイトさんが今度は真剣にひとこと。
「土台になる毛束ですので出来る限り綺麗に分けなさい」
的確なアドバイスを送る。
「本数とか毛束の太さとかがなるべく等分になるようにでしょうか?」
「ええ、そんな感じですわ。感覚さえ掴めればあとは手の感触でどれくらいに分ければいいのかわかるようになりますので、さ、やってみなさい」
「は、はいっ!」
アドバイスを受けた海野は手に取ったカオリナイトさんの長い毛束を、綺麗な等分にしようと手の平で奮闘していた。これだけでくしゃくしゃにしちゃったらあたしが突っ込んじゃいそうで見てて戦々恐々ね。彼女だと許しそうな感じを受けたけど、あたしやうさぎは怒るわよ?
でも触り慣れてるからか丁度いい案配で分けることが出来ていた。こんな長さの髪を等分に分けるのって結構難しいものなんだけど妙なところで器用ねえ。案外うさぎの髪でも一発成功させちゃったりしそう。
「次は、分けた毛束を三つ編みにしていくっと」
「たるませないようきつめに編んで頂戴ね。編み込んでアップにするのなら緩い編み方では失敗しますわよ?」
「だいじょーぶですっ! この海野ぐりお、あなたの髪を三つ編みに致しますことにはもう慣れておりますのでお任せ下さいっ!」
「あ~ら? そういって以前くしゃくしゃにされてしまいましたわねえ。あれをなされたのはどこのどなたでしたのかしらねえ~? うふふっ」
「す、すみません……。では慎重に参りますです……」
「お願いね」
そうそう、調子に乗らなきゃ割と何事もそつなくこなせるものよ……たぶん。この二人の場合はカオリナイトさんが完璧に手綱握ってるみたいだし大丈夫っぽいけど、こうしてみてるとほんと仲の睦まじい恋人だって事がよ~くわかる。
女の子、女性って信頼しているひとにしかこうして髪の毛を触らせたりしないもの。ましてや編ませてあげたりなんて。あたしも同じだからよくわかるよ。
愛し合ってるだけじゃなくて、息もぴったり合ってて……信頼し合ってるのね-。ああそうそう、なんの力も無いあたしだってネフライト様をお助けしたことくらいあるんだから、愛と勇気があればなんだってできるの。
と、そんな間も手を休めず、海野はカオリナイトさんのアドバイスと、カタログに頼りつつも、彼女の後ろ側の毛束を前に持ってきて手を止めると、片手に彼女の顔側と真ん中の毛束を持ちながら、後ろ側の毛束を親指でそっとすくいあげて前へ持ってくる。続けてそのすくった毛束を真ん中の毛束に重ねながら、重ねた合わせた毛束を親指と人差し指を使い整えていく。
「あんたってば結構上手じゃない」
うさぎが感心していた。かく言うあたしも。なるほどね、伊達にカオリナイトさんの髪を触っちゃいないってことか。
「確かに上手ですわね。前よりもずっと」
「カタログ見ながらですので攻略本使ってるようでなんだかなあとは思うのですが。ゲームって自分で解かないと楽しさ半減なんですよ?」
「それで綺麗に編めるのならいいことですわ。あと、わたくしの髪をゲーム等と同列に扱わないでくださる?」
「あ、こ、これはごめんなさいですっ」
適度な会話を交わしながらも海野は手に持つ彼女の毛束をしっかり整えて、続いて彼女の顔側の毛束を真ん中の毛束と交差させていた。そうしながら後ろ側の毛束を交差させた毛束を片手で持ち、後ろ側の毛束を持った状態で顔側の毛束を親指ですくう。
すくった毛束に手前の毛束を重ねながら指で整えていく。こうして同じ過程を繰り返しながら編み込んでいこうとする海野。うん、見ている感じではカタログとアドバイス通りに上手くこなしていると思う。かなり上手くて指摘するポイントが殆ど見当たらないくらい。でもこれだと単なる編み組になってしまうわね。編み組にはなってるけれどアップ状にはできない。元々編み組の練習だからそれでもいいことはいいんだけれどう~ん、なんか、ねえ…………。あ、そうだわ。いいこと思い付いた。
「カオリナイトさん、ちょっと私にも髪の毛を触らせていただいてもいいですか?」
「えっ? ええ、構いませんけれど……?」
あたしの申し出になにをするのかと怪訝な表情を浮かべた鏡越しの彼女に、あたしは遠慮無く彼女の髪、海野が手に持つ髪の束以外全体を両手ですくいながら緩くアップ状にしてみた。
うわぁ艶々だぁ。こんなに長いのにこんなに艶々でしっとりしていて、海野、あんたよくこんな綺麗な髪をくしゃくしゃになんてできたわねえ。女の髪をなんだと思ってんのよほんとに。
それにカオリナイトさんもスタイルも抜群すぎっていうかさあ、なによおこのメロン二つ……羨ましい。……い、いいやっ、羨んでる場合じゃなくて、いつかあたしだってこのくらいにはって気合い入れるところよね。あたしはまだ中学生、あたしにはまだ可能性がある、だから焦っちゃ行けないの。
「ほらっ、海野も手を止めてないで、アップにしたこの位置に沿いながら手に持ってる髪の束を編み込んで行きなさいって」
心を落ち着かせながら、あたしは続きの指示を出す。
「ああっ、そういうことかあ。なるちゃん上手く考えたねえ」
うさぎも気付いたみたいね。簡単な事なのよ。要はあたしが手伝ってカオリナイトさんのいつもの編み組のポニーテール風のアップに一度纏めてみようってこと。
海野ひとりじゃ無理でも協力すればできるでしょ? すると「あたしも手伝っちゃおう!」ってうさぎも手伝い始めた。女性の髪や身体のことは同じ女が一番知ってるもんね。
とくに髪についてはうさぎが一番長いしさ。
「よっ、よ~しっ、今度こそ決めてみせるぞォ!」
海野も気合いを入れてる、ただガッツポーズとか余計な事だけはしないでよ。せっかく編み込んでる髪がまたばらけちゃうからさ。まああたしらがサポートするからには万に一つもくしゃくしゃになんてさせないからそこは安心して良いよ。
「うふふふっ、それじゃ最後までお願いしようかしら?」
カオリナイトさんの了承も戴いたことで、あたしはうさぎと手伝いながら、海野は毛束を編み込んでいきながら、彼女の髪をいつもしているっていう緩いアップのポニーに纏めていった。
◇
「うん……良い具合ですわ。少し違和感はありますけれどきちんと結い上げられていると思われますわねぇ」
鏡台を見ながら彼女は一応海野が中心となって結い上げてみた編み組の緩いアップの髪型に合格点を出してくれた。
ただまあ違和感っていうのはどうしても出ちゃうものよね~、他人に結われるとなんかこう違う感じがするのよ。
「や、やりましたっ、やり遂げましたよ僕は~~~~っ、カオリナイトさん愛してます~~~っ!!」
「はいはい、わたくしも愛しておりますわよぐりお」
リベンジ成功で、気合いを入れて泣きながら愛を告白する海野に、受け流すようなカオリナイトさん。うん、まあそうでしょうねえ。落ち着いた大人の女性があの海野のノリに付き合うわけ無いか。
でも、よかったじゃない海野。後はひとりで彼女の髪を結えるようになれればもう言うこと無しね。そんな海野を無視して椅子から立ち上がった彼女は、あたしたちの前に来ると。
「うさぎさんもなるさんもありがとうございます」
そう良いながら海野には聞こえない小さな声で。
“あの子にお付き合い下さって”
だって。
ほ~らやっぱりばれていた。だって海野自分でばらしちゃうんだもん。
「あ、あははっ、お気付きでした?」
「ええまあ。ほらあの子、大袈裟で分かり易すぎるでしょう? ですから探るまでもなく気が付いてしまいましたわ」
「なるちゃん、これはある意味大失敗で、ある意味大成功──なのかねえ」
「あたしは成功だと思う。カオリナイトさん、いまどんなお気持ちですか?」
もちろん海野に対して。
「うふふっ、そうですわね……愛が深まりすぎて、年甲斐もなくときめきを抑えられませんわ」
サクランボっていうよりもトマトの赤みたいにカオリナイトさんの頬は染まる。ああこの顔は、この顔こそが恋する女の顔よね~。
あたしもネフライト様を想うときに鏡を見てるとこんな顔してるもの。
「ほらね成功でしょ?」
「ふむ、カオリナイトさんいま胸がドキドキですか?」
うさぎが訊くともっと赤さが増して上気する頬。白いお肌をされてるからなんだか本当、お熱が出てるようにも見えちゃうわよね。実際海野にお熱なわけなんだし。
「はい、ドキドキと胸が高鳴っておりますわ……んっ、うふふふ……この上ないほどに幸せな気持ちが止まりませんわ、もう三十路も近いといいますのになんてことかしら……」
あたしは嬉しそうな彼女に忠言差し上げた。
「そんな年齢なんて関係有りませんよ。カオリナイトさんは恋する“女の子”なんですから。ね、うさぎ」
「そうそう、恋に年は関係無いっ。カオリナイトさんは恋する女性で恋する女の子、んでもって恋する“乙女”なんですからぁ、そんなこと気にしちゃあいけませんっ」
「ありがとうございます。ふ、うふふふっ」
きつそうな紫色の瞳が熱っぽく潤んでる。紅い口紅の曳かれた艶っぽい唇が僅かに開いて“ほうっ”と溜息が漏れている。見た目だけだと失礼ながら冷たい美女って印象のカオリナイトさんだけど、いまは満面恋する女の微笑みを浮かべていた。恋する乙女だわ確かにね。紛うことなく恋する乙女よ。
こう幸せそうな表情をされるとこっちまで温かい気持ちになってくる。でもなんだか二人のお邪魔をしてるような気にもなっちゃうな。
あたしたちがいなくって、海野とカオリナイトさんが二人っきりならきっと今頃、抱き締め合って、唇を重ねてさ。なにか色々と愛の交換方法を模索しているんでしょうね。
ああでもここまでお互いの気持ちが強くて、彼女がこう大人も大人だとそれはC+も仕方ないんじゃない? だって、じゃないと恋人同士なのに恋煩いみたいになりそうだもの。好き合って一緒に暮らしててそんなことになるのは苦しいよ……。
身体を重ねて愛を伝え合うこと、海野は健全な恋じゃないですなーんてすぐ言うけど、あたしは素敵なことだなって思うなぁ。海野とカオリナイトさんもあたしやうさぎみたく理想の出逢い方をして、理想的な恋をしてるんだ。いわゆる来世でも出逢い結ばれる運命ってのも、もう完全に出来上がっちゃってるわねこの様子じゃ。
「お二人とも、ぐりおにお付き合い下さり本当にご足労をお掛け致しますわ」
両手を身体の前両脚の辺りで組みながら深い礼をしてくれた熱い恋人の片割れ、いやさ貞淑な奥さんと表するのが正しいと思う彼女に、あたしたちは恐縮するしかない。
「そ、そんなことっ……ねえうさぎ!」
「そうそうっカオリナイトさんも頭上げちゃって下さいってば。そんなお礼を仰られるほどのことなんてこれっぽっちもしてませんですから!」
でもよかった喜んでくれて……ってえ!!
「まだ選んでないじゃないなにやってんの海野──っていうかあたしたちもだけどっ!!」
別のことばかりして肝心なことが明後日に飛んでいた。
「うふふっ、ではわたくしはまたお邪魔となってしまいそうですのでリビングへいっておりますわね。ごゆっくりしていってくださいな」
そういって妖艶な妖しい微笑みを浮かべながら部屋を出て行く彼女。ごゆっくりというのが普通に家に遊びに来た家族の友人へ向けた挨拶なんだっていうことは伝わった。ただし、夫の友達をもてなす妻そのものとしての顔でだけどね。
大人だし、色っぽいし、とっても丁重だし、だいたいどの話も訊く限りじゃもうこの二人夫婦と同じようなものじゃない。
だけど態々席を外して貰ったのにまた呼び戻して来てもらって髪弄くり回して返っていただくとか、ほんと、すみませんお邪魔ばかりしてしまって。
◇
「海野海野っ、いつまでも感動してないでプレゼント選びするわよ」
「ああっ、そうでした。ある種の達成感に酔いしれておりまして本命を疎かにしてしまうところでしたよってあれ? 我が愛しのカオリナイトさんは何処へ?」
「邪魔しちゃ悪いからリビングで休んでるってさっき出て行ったじゃない」
「えっ、そうだったのですか? いつの間に」
呆けてる場合じゃないよあんた。
「海野しっかりしなさいよぉ? あたしらあんたのプレゼント選びのお手伝いに来てるんだから」
うさぎが突っ込んだ。まあ突っ込みたくもなるよこうも本人が周り見えてないと。
「では、とりあえずバレッタは決定ですね」
結い上げるのひとりで出来ましたっていうことでもないのに勝手に決めちゃってるしもうっ。
「髪のアクセサリーならシュシュも良いんじゃない? もちろん大人っぽい感じの落ち着いた雰囲気のね」
海野が予算を考えた上でコレも決定したんだけどさ、シュシュってなにって訊かれてしまったわ。
男の子ってほんっと、女の子の事よく識らないものなのね……。
「あのぉ、これは僕の提案なのですがぁ、アクセサリー類はやめておきませんか?」
髪のじゃない普通のアクセサリーのことね。
どうしてって訊こうとして、あたしは気付いた。
もちろんうさぎも気付いてた。学校で聴いてたしねぇ。
「海野のブレスレット、カオリナイトさんのイヤリングとお揃いのデザインだったわねそういえば」
「はい、僕も他のアクセサリーのプレゼントをって考えて居る間に、そんなのお贈り差し上げてお揃いでなくなるのは寂しいなあと考え直したんです」
ふ~ん、ちゃんと考えてるんだ。よし、それじゃアクセサリー類については髪のアクセ以外今回はパスで行きましょ。
但しその代わりに。あたしはうさぎに目配せをして頷くと声を揃えて伝えていた。
『指輪はぜーったいにプレゼントすんのよっ!!』
このカタログには指輪の特集がある。予算内で行けそうな物があればいいんだけど、ないならないで宝飾店の娘として候補を絞るくらいのお手伝いはさせてもらうわ。
うちにある物で予算的に行けそうなのがあればそれでよし、ないなら十番商店街中探してカオリナイトさんに似合いそうな指輪をゲット。
「ゆ、指輪……ですか?」
「そうよ指輪よっ! 恥ずかしいとか照れ臭いとかこの際全部かなぐり捨てて、男海野ぐりおっ! 将来の奥さんにバシッといいとこ見せて決めてやんなさいっ!」
戸惑う海野に対して、うさぎが彼の背中を叩いて啖呵を切った。
「はっはい!! やってみせますよ僕はっ! カオリナイトさんに結婚指輪を贈ってみせますよっ!!」
気合いを入れられた海野はまた先走ったこと言ってるし。少し熱を冷まさせてあげなきゃね。
「エンゲージリング、婚約指輪だってば。中学生でしょあたし達は? 結婚はまだ無理なの」
「ああっ?! そ、そうでしたねっ、僕としたことがついカオリナイトさんへの愛が爆発してしまったようで……」
あたしの注意に海野はもちろん、うさぎまでが「そ、そうだよそうそうっ」なんて焦ってる。まさかあんたまで結婚指輪を贈らせるつもりだったわけ?
あたし達って全員相手が結婚可能年齢の年上ばかりだから感覚が狂っちゃってるのかしら?
それはだって内々では事実上の夫婦関係でもあるみたいだし~、海野は清い交際とか言ってるけど恋人以上の夫婦未満にしかもう見えないし~、さっきのカオリナイトさんなんかもう完全に海野の奥さんだったし~、結婚指輪でもまーったく問題無いとあたしは判断してる。
でもね、この国には法律ってものがあるの法律ってものが。法的年齢に達するまで結婚は我慢なさいって。あたしだってねえ、出来るなら疾の昔にネフライト様に娶られてますよ~だ。
あ、だけど考えても見たらあたしとうさぎだけ海野より2年早く結婚できるんだった……。ごめんね海野、あたし達は先に進むわ……なーんてね。
まあなんだかんだとあったけど、カオリナイトさんに似合うバレッタとシュシュ。そして絶対に外せない、いやもうこれだけで他は必要なくなってしまう婚約指輪。これで決まり。
「高いのは難しいけれど別に安くても良いのよ。学校でも教えてあげたけれど、悩んで悩んで海野がコレだと思ったその指輪に心を込めて贈ること。それだけでもうおもちゃの指輪だろうとカオリナイトさんきっと喜んでくれるから。大丈夫あたしたちが保証する!」
「わ、わかりました。心臓が爆発しそうなくらいにドキドキ物ですが、指輪だけは必ずっ」
C+まで進んだベテランなのに恋にはまるで小学生みたいな海野。このギャップにもカオリナイトさんはかわいいとか感じてるんでしょうねー。
さあカタログ観まくるわよ。うちの店のも探しまくるわよ。自分の時の、贈られる側だけど予行演習だと思ってね。
もちろん第一には海野とカオリナイトさんの恋の為に、ね♪
出してほしいキャラは誰ですか?本当はもっと書きたいですデマンドとかちびうさとか(期待に応えられるかは分かりません)
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カオリナイト
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海野ぐりお
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ユージアル
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天野ぐりかず
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地場衛
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月野うさぎ
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ネフライト様
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大阪なる
-
テルル
-
ビリユイ
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シプリン
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プチロル
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水野亜美
-
浦和良
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火野レイ
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木野まこと
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愛野美奈子
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天皇はるか
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海王みちる
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冥王せつな