久しぶりの同シリーズなのでお話が矛盾しているかもしれない事と、視点が変わったりするので少々読み辛いかも知れない事があるかもです。相変わらず中々話が進まない本編13話です。
十番商店街。その往来を歩く恋人達の姿はそれなりに多い。
それは当然の事ながら、デートスポットとして申し分のない街であるからだ。
商店街である事から、ウィンドウショッピングは勿論として。
ゲームセンターや、カラオケボックス等の遊技場・施設もあれば。
カフェやレストランといった飲食店等々もある。
下は小学生っぽい男の子女の子から、上は老齢の紳士淑女まで。
恋する男女が楽しむには持って来い、そんな街であった。
その賑わいの中には一組の、身長差と年齢差のまるで釣り合っていない男女の姿があった。
一人は一端の男と言うにはまだ未成熟、ボサボサ髪にぐりぐり眼鏡、けして高くはない背丈の、見た目の通りの平凡な少年。十番中学校三年生、海野ぐりお。
個人で製作したゲームで特許料を稼いでいたり、学年上位陣の成績優秀者だったりするそんな彼を、果たして平凡と呼んでも良いのかについて、如何ともしがたいところであったが、一応は平凡な極々普通の少年である。
そんな彼の少年の隣を歩くのは、背の高い、まるでモデルのような均整の取れた姿態に、鮮烈な赤色をした艶やかな長い髪を編み込みのポニーテール風に纏めた、妖しい美しさを持つ絶世の美女であった。
その女性の名は黒峰カオリ、またの名──愛称をカオリナイトという。生物学、天文学等に精通する才媛で、海野ぐりおの家庭教師であった。
ただし、その関係は単なる教え子と家庭教師と言った単純な間柄にはない。
二人の関係は家庭教師と教え子であり、そして同時に往来の恋人達と同じくして、いや或いはそれ以上の、厚い信頼と愛情関係で結ばれた恋人同士なのであった。
否、最早それすらも疾の昔に通り超えた先に二人は居る。深く強く愛し合い、想いを寄せ合う、恋人以上の関係──婚約者同士という間柄であった。
彼、そして彼女。二人が互いを想い抱く心中からもそれは明らかな事で。
海野に愛される悦びとは、それは、カオリナイトにとって、何物にも代え難き幸せとして其処に在り。
カオリナイトに愛される悦び、それは、海野にとって、何物にも代え難き顕現した幸福として心の内に存在していた。
カオリナイトは、海野ぐりおに愛され、そして自らは海野を深く愛し。
海野ぐりおは、カオリナイトに愛され、そして自身もカオリナイトを水底よりも深く愛している。
二人はそれぞれに、互いが互いの愛を混じわり合わせる事で得られる、天井を知らぬ幸福のなんたるかを知っていた。
「うっそおお!? 海野君と手を繋いでるあの女性本当にカオリナイトじゃないっ!!」
カオリナイトは女としての幸せを、何の力も持たない極々平凡な少年海野ぐりおを愛することで覚え、また彼に愛されることで愛を育み合う大切さを知った。
それが、どれほど尊い事であるのかも。
それが、如何なる物にも代え難き幸せであるのだという事を。
「ね、レイちゃん。あたしの言った通りだったでしょ? てーか、手の平重ねて指と指を握り締め合う恋人繋ぎとは……、うーむ、中々にやりおるじゃないか海野のやつめ」
「いや、まあ、ね、うん、意外、というか、あんなに頬を赤らめて嬉しそうにしているカオリナイトを、まさかこの目で見る事になるなんてちょっと想像できなかったな」
「まこちゃんまこちゃん。カオリナイトもね、要するに一人の乙女なのだったという訳なんだよ」
「乙女って……、うさぎが訊いた話だと28なんでしょカオリナイトって」
「ノンノン、レーイちゃん、恋する乙女はいつまでも乙女なんだってば。分かるでしょ?」
「ま、まあ、それもそうだけど、う~んっていうかまさか海野君とカオリナイトが……ねえ」
そう、“彼女達の会話の通り”カオリナイトは、海野ぐりおという平凡な少年に恋をする、一人の乙女なのだ。
だからこそ大人としての愛の行為を行うときも多少なりと強引に体を扱われたところで、彼にだけ向けられているその愛に、決して揺らぎなど覚える事などないのだ。
むしろ、それ程までに愛されているという幸せな気持ちが膨らむばかりだった。
無論奥手が服を着て歩いているような海野ぐりおは恥ずかしがり屋さんである。
日々の生活の中で、特に毎夜の眠る前に行われるカオリナイトとの愛を深め合うその時に、彼自らが進んで彼女をリードする事は生憎と難しく、そんな彼に代わってカオリナイトが海野を引いて上げる形でその時の針を進めていた。
優しく、静かで、どこまでも深く熱い睦言の中で。
「何かの罠──じゃあ、なさそうよね~あれは。普通に恋人同士のデートだわ」
「レイちゃんの目は正常っと」
「うさぎ、あんたあたしの目が悪いように言わないでくれる?」
「にはは」
そして彼の、男としての海野を、まだ中学生という未成熟な年齢の彼の性を。目覚めさせ、身を以て男女の愛の育み方を教え込んだのはカオリナイトだ。
故に彼からの全てを彼女は受け入れる。いつも、どんな時であってもその未来永劫に醒めやらぬ愛情を。
「でも幸せそうなのは良い事よ。カオリナイトももうダイモーンを使った悪事なんてしていないのでしょう?」
「ないない。こないだ海野んちで直接話を聞いてたときにだけど、前に居た職場は対人関係の問題から退職したって言ってたから、たぶんデスバスターズの事だろうけどね。まあなんか知んないけど、仲間内のトラブルみたいで、どうも組織を抜けたっぽい感じだったよ」
思い起こせばそう、彼女は初恋だった。研究と闘争ばかりであったカオリナイトには、恋愛経験など皆無であった。
だが、初恋であろうと彼女には大人として培ってきた知識がある。
これは以前同級生である月野うさぎに恋をしていた頃に次いでカオリナイトへの恋、これが二度目の恋であり、そしてそのカオリナイトとの恋が成就した海野が持たない知識だった。
海野の場合だと、ある程度は知っていても、全てはと言うと、それはどうかと疑問符が付いてしまうものだが致し方なし。
当然の事だ。海野ぐりおは十番中学校の生徒で、つまり中学生である彼が所謂“大人の恋”についてそこまで詳しいはずも無かろうなのである。
しかし、今の彼はもう、大人の恋の何たるかを知っていた。
経験をしたからだ。他ならぬカオリナイトと愛し合う事で。
そう、海野への恋心を自覚し、海野もまたカオリナイトへの恋心を自覚したあの夜。カオリナイトは大人の女として海野に接する事を選んだわけだ。
だがそれも仕方のない事。彼女は成熟した大人の女性であって少女ではないのだから。
それこそ、中学生の甘酸っぱい恋に終始する事だけでは、とても心が満足できない。
一人の恋する乙女であっても、やはり彼女は大人。
大人としての関係を持ち、より強く、愛情を深めていきたいと望んでしまうのは、むしろ当然の事であった。
「そういえばカオリナイトっていつの間にか居なくなってたわよねぇ、まあそこで海野君とデートしてるけどさ。他にも最近じゃユージアルまで居なくなっちゃったし」
「確か、ユージアルが初めて現れたときに『裏切り者に代わって指揮を採ることになったウィッチーズ5のユージアル』なんて自己紹介をしていたな。そのカオリナイトがまさか海野君の恋人としてこの街に居たなんてなぁ」
勿論、カオリナイトとて、自分だけの独りよがりな愛を海野にぶつけるつもりなど毛頭無い。
時には──否、基本的には彼のペース。平凡な少年たる彼の恋愛観に自らを合わせている。
今そうしているように、ただ手を繋いで十番街をデートしたり。
雰囲気の良い公園で、恋人としての恥じらいある口付けを交わしたりと。
カオリナイトはそうして色んな海野を見てきたし、彼女も彼女で色々な自分を海野に見せてきた。
「あのぅ、ちょっとさあ」
「な~に美奈子ちゃん」
「ええっと、ね……、その、レイちゃんまこちゃんの言うユージアルの事、なんだけどさー……。実は、ね、あたし見ちゃったのよ」
「見たってなにを?」
お互いの愛情を形にして見せ合うことでより関係は深まっていく。深まりたいからこそ好きという純粋な心と、愛するという深き情愛の心を晒け出して互いを見るのだ。
そうして深く愛するからこそカオリナイトは気付くのだ。海野ぐりおはどこまでもお人好しで、どこまでも優しい少年なのだと。
「あたしの同級生にね、天野ぐりかずって男子が居るんだけどさあ、その天野ってのと、どう見てもユージアルらしき女性がその……、公園でキスしてたところ」
「「「「ウソ?!」」」」
「いやウソみたいなホントの話。天野と、あれは間違いなくユージアルだったわ」
それは大人の女性としてカオリナイトが愛されるときにもしっかり現れていた。彼女は幾度も海野と愛し合ってきたが本当に優しく大切に愛してくれるのだ。
静かで、穏やかで、それでいて確たる愛を与えてくれるのだ。
愛の時間の最後には深く強く心まで一つとなり、身体の深奥へと熱く情熱的でいてそれでいて優しくもあるその溢れんばかりの愛を届けてくれる。
幸せだった。唯々幸福の毎日、至上の喜びに包まれた時間であった。そう、今のこの瞬間も。
そんなカオリナイトは、そうであるからこそ気が付かないでいたのだ。彼女自身と、そして彼女と歩く海野の跡を付けている少女達の気配に。
幸せだからこそ気が緩んでいた。これもまたどうしようもなく仕方のない事柄であった。それほどまでに今に幸せを感じていたから──。
◇
と、先を行く幸せオーラ全開の年齢差ある恋人達を追い掛けながら、少女達はひそひそと話していた。
五人は固まって海野とカオリナイトの後を付ける。周囲から見る自分達が完全に浮いてしまっている事も忘れて。
栗色の髪をポニーテールに纏めている少女、木野まことが。
「それ本当にユージアルだったのかい? こう言っちゃ悪いけど、美奈子ちゃんの早とちりや見間違えとかじゃ……」
と疑問を呈し。
膝裏にまで掛かる金色の髪に大きな赤いリボンを付けた少女愛野美奈子が返す。
「ううん絶対に見間違えなんかじゃないわ。特徴はねえ、確かセンター分けにされた腰近くまでの髪を、背中側では二つに分けてピンク色の髪留めで結んでいて、左から身体の前へ流した髪もピンク色の髪留めで結んだ背中側二本、身体の左前で一本の三つの房に分けて束ねられた髪型。髪の色は赤。年の頃は18~20前半くらいだったかしらね。瞳の色もルビーみたいな赤、四角いフレームの眼鏡も掛けていたわ。ほら、ユージアルの特徴と一致するでしょ?」
美奈子が取り上げた特徴に対し、膝裏に掛かる黒髪をした少女、火野レイが叫び。
「ちょっと、まんまじゃないのさそれって!」
レイの叫びに青い色のショートヘアの落ち着いた雰囲気の少女、水野亜美が応じる。
「聞いた限りではユージアルのようね。そこまで一致していれば疑いようも無さそうだし」
そして亜美の出した結論に膝下を優に超えた金色の長髪を頭の左右でお団子に結わえた少女、月野うさぎが思うところを述べた。
「てかさ、どうやって思い描こうがユージアルとしか」
そうして五人の少女達の話は盛り上がっていく。
「でしょ? あたしもついうっかり忘れてたんだけど、今の海野君とカオリナイトの仲睦まじい後ろ姿を見ていて思いだしたのよ。その天野っての、実はぐるぐる眼鏡にぼさぼさ頭と、ホント海野君とそっくりでさー」
「ええとーまさか、とは思うけど。実は海野君が二股してるとか、無かったりしない?」
「あ、レイちゃんそれは無い。絶ーっ対に無い! 海野がカオリナイト一筋で、カオリナイトも海野一筋な事はこのあたしが保証するわ。だってあの二人ってば、あたしとなるちゃんの前でも二人の世界に入っちゃったりしてたから」
「ちょっと話がややこしくなってくるからここは一度整理してみましょう。つまり、うさぎちゃんの話を纏めるとこういう事ね。海野君とカオリナイトは偶然にも十番街の交差点で互いを見知った。その際にカオリナイトは交通事故に巻き込まれそうになっていた。そこを海野君に助けられた。その後二人は偶然にも再会した。そして再会時にはもうお互いに恋心を抱いていたと」
「そうそう、そんな感じ」
「なるほどね。で、亜美ちゃんの説明に補足するなら、おそらく海野君とカオリナイトの再会については偶然じゃ無さそうに思えるわ」
「それってレイちゃん、デスバスターズが関係してるって事?」
「多分ね。そこで二人の関係の決定打となる何かがあったんじゃないかと思った訳よ」
「ええ、レイちゃんの予想は間違ってないように思う。それとカオリナイトは海野君の家を知っていたんじゃないのかしら? 例えばターゲットに選ばれていたのが偶然にも海野君で、けれどその海野君にカオリナイトは命を救われた。加えて海野君の家で某かの出来事が起っていたとして、彼女はもう一度海野君に助けられた。すべては想像でしかないけれど、海野君がカオリナイトに恋をしたのは、運命的な出逢いや再会が前提としても、彼が彼女の事をずっと考えていた事も一つの要因としてあって。カオリナイトが海野君に恋をしたのは、自分の命を救われたことに起因する感情の変化かも知れない。ただ、本当は誰かが誰かに恋をする事に理由なんて無いと思うけれど、切っ掛けはその辺りじゃないかしら」
「冷静に恋を分析する亜美ちゃんて……」
「で、でも、悪事に手を染めなくなったのは良い事だから」
「誤魔化したわね亜美ちゃん」
「じゃ、ユージアルも天野に恋して悪い事をしなくなったって事になるのかな」
「美奈子ちゃんの言う天野君っていう子がどんな子かは知らないけれど、結局カオリナイトもユージアルも、現実にいま悪事を働いてないから、そうなのかも知れないわね」
「ふむ、愛は世界を救う。つまりあたしとまもちゃんも世界を救ってると」
「うさぎ、あんたはそれ言いたかっただけでしょ」
「エヘヘ~っ、(っと言うか。海野ってばプレゼントの方は大丈夫なのかな?)」
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カオリナイトへの主たるプレゼントは婚約指輪、広い意味では結婚指輪で決着する事となった。
髪飾り等、他にも候補はあったが、彼女の年齢、海野とカオリナイトという二人の関係、一つ屋根の下で寝食共にしている普段の生活。
全てを加味して考えてあげれば自ずと辿り着く答えなのであった。
結婚を前提としたお付き合いをしているのなら、それもごく自然のことだと思う。
海野の年齢を考えれば分かることだけれど、結婚を意識したときには海野は確実にカオリナイトを待たせる事となる。
でも、その場合であっても、指輪だけなら先に贈る事が可能で、それを以ての擬似的な結婚という意味合いもあった。
贈る指輪はゴールド系の指輪。ただし、私達中学生が贈れる範囲内での常識的な予算内で。
海野には彼自身が考案して実用化していたゲームから入ってくる収入や、貯めてきたお小遣い等、出すならそれなりの予算があるらしいけど、それはそれ。
きちんとした結婚指輪を贈るときには、額に汗してアルバイトしたお金で買う方が良いと彼自身が納得していた。
そちらは高校生になるまでお預けなんだけど、いま無理しすぎるのも良くないし、女の子としてもそちらの方が嬉しいもの。
「婚約指輪ですか。う~ん、改めて考えるとドキドキです」
落ち着かない様子で海野が呟く。
「いつかは結婚といっても、何年も先の話ですし」
最低でも高校三年生の18歳までは無理だ、男の子だから。
でも、そんな海野になるちゃんは言った。
「まあ、婚約指輪などころか、ホントはあんたが意気込んでるように結婚指輪その物を贈るのが一番だったりするけどね」
あたしも同意した。
「うん、確かに。夫婦みたいにも感じるし。そこのポスター張りに引き延ばされたカオリナイトさんの写真とか見させられたら、ねえ?」
「う、嬉し恥ずかしデス……」
一つ屋根の下、お父さんとお母さん公認の下。
同じ部屋で寝起きを共にしながら、入浴も二人一緒に。
枕は一つ、一つを二人で仲良く使っている。
燃え上がる愛は身を焦がすほどに大きく、炎となって海野とカオリナイトの心を一つにし、結ばせていた。
学校で聞かされていたところから思い浮かべていた想像のそれ以上に、二人の様子を見た感じでは進んだ関係にあると思う。
恋人同士という間柄にあって、それでいてまるで熟年夫婦のようにも見えるくらいの関係。なら、二人の間でのみお互いに伴侶として振る舞っていても問題はない。
「思い切り進んでるみたいだものね」
恋人同士になってから一月と少しらしいけど、その関係は進展しきっている様子。
年中愛し合ったままで、決して熱の醒めやらないおしどり夫婦みたいに。
抱かされたその印象のままに何かを選ぶのなら、やっぱり指輪がぴったりだった。
「ええ、そこはまあ、自覚はなきにしもあらずでしょうか。カオリナイトさん大人ですから」
海野がカオリナイトに指輪を贈る、そんなのってつい少し前までには考えられなかった出来事だ。
敵として戦ってきた相手だもの、予想だにしなかった今この時が思った以上に不思議で、でも喜ばしく感じるのも仕方のない事なのかな。
なるちゃんが考える。カオリナイトの髪の色が赤、衣服も赤が好きなようで口紅も鮮やかなルージュ。
履き物はと言えば、これまた赤いハイヒール。
拘りがあるわけでもないようだったけれど、つまるところ、赤系が好みなのは間違いない。
同じ事を考えていたあたしは赤と言えばと口を開いた。
「本当はさルビーなんかさ、いいんでないと思ったのよ? あの紅く妖しく輝く真紅の宝石がカオリナイトさんにはぴったし──って高いわと思って止めにしようと思ったわけ」
自分で提案して、自分で突っ込みを入れていた。
確かに高い。子供には少し手が届かない代物だ。
「あたしら中学生には手が出ないよね」
「確かにねえ、本格的なのになると中学生のお小遣いじゃ難しいわね」
だけども、話を聴いていた肝心要の海野はと言えば。
「買えますたぶん、貯金崩せば。というか僕ゴールドの指輪とかルビーよりもダイヤを考えてたんですが」
余裕全開で拳を振り上げていた。
「おおおーっ海野が燃えてるかっくいーじゃない。でもでも、本当にダイジョブなの? ダイヤって安くてもン万円からウン十万円はしちゃうんだよ?」
此方の懐疑的な視線を受けつつ、立ったままの海野はぐるぐる眼鏡をキランと輝かせながら五十まではと口走った。
「ご、ごじゅうって、五十万っっ!?」
「いや~いつか来るだろうこんな時のためにとお小遣いにお年玉に、コツコツと貯め込んでいたんですよ。そしてやっと役立つときがやってきたわけです。個人製作したゲームの収入もあるわけですし」
ま、まあ最良の形だね。
「でも金額で愛情の大きさは決まったりなんてしないんだから間違えちゃ駄目よ」
「そこは分かってます。ですがいざ指輪となるとつい意気込んできてしまいまして」
なるちゃんの言うとおりだし、海野の言うこともよくわかるし難しい。
「しかし、確かにカオリナイトさんって赤のイメージ強いですよね……う~んこれはどうしたものか」
相談してゴールドの指輪と決めていた海野であったが、ここにきてルビーという選択肢が出てきた。
「なるちゃんならどっちがいいですか?」
「あのねぇ、あたしに訊かれてもあたしカオリナイトさんじゃないし……うんでもまあ、一般論的にはダイヤかしらね」
「うさぎさんは?」
「ダイヤ……じゃあないかな。テレビショッピングなんかでも大体ダイヤの指輪が紹介されてるし、やっぱりエンゲージリングとしてはダイヤなんだろね」
そう言いつつ、内心ではルビーの方が似合いそうに思えた。
カオリナイトに似合う色=赤、これは外せないかもしれない。
だけどもまあルビーでもダイヤでも心を込めた品物ならそれで良いと思う。
二人の関係からできれば結婚指輪が良かったのだがそれはまだ無理なので、取り敢えずというわけだ。
「な、なんだかプロポーズするみたいでまだ物を購入してもいないのに緊張してきました」
「なーにいってんのよ海野! あんたのことなんだからあんた自身がしっかりしなくてどうすんの!」
緊張する海野の背中をなるちゃんがバシっと叩く。
「そうそう。あんたも男なんだから決めるところはバシッと一発決めてやんなさーい!!」
続いてうさぎさんも叩いてやった。
気合いを入れられた海野は「よーしっ! やるぞぉぉぉっ!!」と、いつになく燃えていた。
でまあ結局最初に話し合っていたゴールドのリングで決めたわけだけども。
・
・
・
(うん大丈夫だよね)
うさぎだけが知っている、より正確にはうさぎとうさぎの親友である大阪なるだけが知っている、海野がカオリナイトへ贈ろうとしているプレゼントの件。
もう購入しているかも知れない、いや購入しているだろう婚約指輪。それをいつ渡すのか?
うさぎは此処には居ないなる共々ハラハラしながら成り行きを見守っていた。海野がきちんと婚約指輪だと言って渡せるのかどうかも含めて。
◇
「こうして、二人きりでただ歩くだけというのも楽しい物ですねカオリナイトさん」
「そうねぐりお。年齢相応の貴方とのお付き合いも、これはこれでよろしくってよ」
「あはは。僕に合わせて貰っちゃってすみません」
恋人繋ぎにしている手を強く握り締め合う海野とカオリナイト。
ぐりぐり眼鏡の奥の瞳と、金の虹彩が煌めく紫紺の瞳が交差する。
二人はこうして普通に歩いているだけでも共に過ごす事の幸せを噛み締めながら見つめ合っていた。
「もちろん僕と致しましては大人の恋の方も頑張りますよっ」
「ウッフフ、ぐりおのペースで気張らずに頑張りなさい。私はいつでも貴方を受け止めて差し上げますわ」
大人の恋。大人の愛。それはきっとまだ中学生の海野ぐりおには早くに過ぎた愛の形。
しかし海野はカオリナイトを愛している。好き──という言い方こそが適当な年頃にありながらも、やはり海野はカオリナイトを愛しているのだ。
当然その年齢らしく。
『か、カオリナイトさん……好きですよ』
といつもはにかみながら照れ臭そうにして伝えている。
恋人へ贈るには相応しい言葉だ。
ストレートな表現としては定番ながら、定番であるからこそ伝わりやすい。
海野は恥ずかしがり屋さんだ。何処にでも居る平凡な中学生だ。
かなり頭が良くて自作のゲームを制作して売り出したりするほど、デキル男でもあるのだが平凡は平凡。
だが一方で海野は──。
『カオリナイトさん、僕は……海野ぐりおは貴女を愛しています。貴女を、カオリナイトさんだけを愛し続けます』
とも言う。
そこにはまるで彼が急成長を遂げて大人になったかのような男らしさがあった。
実際、カオリナイトが海野に恋をした切っ掛けはその勇気と男らしさと優しさにある。
彼女は二度海野に助けられた。その内の一度は本当に命の危機であったところを彼は身を投げ出して助けてくれて。
『海野ぐりおはカオリナイトさんの為ならば死ねます』
断言してきた彼に、カオリナイトは心を奪われてしまったのだから。
それまでの間にも彼の事が気になってはいた彼女だが、最たる処はそこ。
そこで本当の恋心を抱いてしまったのだと彼女は直感的に思う。
その直後に大人の恋、大人の愛の時へと至ってしまったのは彼女自身が大人である事と、抑えきれなくなり燃え上がってしまった恋心の為。
どうか海野に私の愛情を受け取ってほしい。自分の抱いたこの愛する気持ちの深さを知って貰いたい。海野と触れ合いたい。
という彼女の強い意思による物だった。
そして、この恋の始まりは海野にとっても予想だにしないほどに情熱的だった。
情熱的で、それでいて愛情と幸せに満ち溢れていた。
海野にとって大人の恋というのはやはり恥ずかしかったし未知な事だらけであったが。だが彼は彼でその実、あの時はあれで良かったのだと。
生涯を賭して──いや、生まれ変わっても永劫に。
永遠を賭して愛し合っていこうとそう誓い合ったカオリナイトとの恋模様を、海野は自ら冷静に見つめ直せるようにもなっていた。
大人のカオリナイトと中学生の自分。倍も離れた年の差の恋。
それを埋める意味でも、恋する足場を、土台を、埋めて固めてしっかりとした恋人関係を築く。
そうした意味でも、始まりの情熱は必然だったと彼は今だからこそ確信していた。
『愛している』
海野がそうはっきりと言えるようになったのは、始まりが男と女として純粋に愛し合う事で幕を開けたからこそなのかも知れない。
「ぐりおはぐりおらしくなさっていればそれでいいのよ」
「カオリナイトさん……」
「フフ、時折見せる男らしい貴方が素敵だという事は言わずもがなね」
「そ、そうでしょうか? 僕って素敵?」
「ええ、とても素敵で魅力的ですわ」
「て、照れちゃいますよ~」
愛していますと海野が言うとき、カオリナイトは彼をとても凛々しく感じる。
ぐるぐる眼鏡の奥の優しい色をした瞳で、彼女の瞳を真っ直ぐ見つめながら、表情や眉をきりりとさせている時の彼は、それこそ大人びた様子に見えなくもないのだ。
二人は毎夜の如く愛を交わし合っている。
交わさずには居られない濃密なる時を送っている。
愛と愛を足すのではなく、愛と愛を掛け合わせて燃え上がらせる大切な時を過ごしている。
恋人として、愛し合う者同士として、幾度生まれ変わろうとも永遠にお互いだけを愛し続けると誓い合った者同士として、ごく自然に。
ここ最近はお互いに愛し合いながらもカオリナイトが海野に“愛される側”となる事も増えた。
情事の中で彼は熱い息を吐き出しながら熱の籠もった声で言うのだ『愛しています、カオリナイトさん』。
愛されながら愛を伝えてくれる海野は本当にそう、男の子の中にある“男”の顔を垣間見せていた。
一方で──。
『好きです』
そう言う時はやはりどうしても子供っぽさが目立つ。
だがそれもまた海野ぐりおという少年の魅力なのだ。
年のままの素の表情もまたその愛おしさは格別であり、デートの時や家庭教師として勉強を教えているとき等、彼女はふいに時折口付けてしまう事もあった。
無論、時や場所を考え、軽く重ねるだけに済ませながら。
そうしてカオリナイトは海野からの愛を様々な形を通して受け入れていた。
“好き”と“愛している”
カオリナイトはそのどちらを囁かれても、告げられても、幸せな気持ちが大きくなるのを感じる。
元より大きな愛情がどこまでも大きくなっていくのだ。
海野は海野で不思議なことに、“好き”と伝えるときには恥ずかしく。
“愛している”と伝えるときには割合自然に言えてしまう妙な感覚を覚えて時々考え込む事があった。
だが真面目な話、考えるまでもない事なのだ。
好きと伝えるときは“普通の少年”としての海野ぐりおの顔が、愛していると伝えるときは“一人の男”としての彼が全面に出ている。
別段難しい話でもない。始まりが“男としての”スタートだったが故に、ただそれだけの事なのだ。
海野君とカオリナイトがデートをしている。
その後を心配してセーラーチームの仲良し五人組が見守ってるといいますか、付けているわけです。
出してほしいキャラは誰ですか?本当はもっと書きたいですデマンドとかちびうさとか(期待に応えられるかは分かりません)
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カオリナイト
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海野ぐりお
-
ユージアル
-
天野ぐりかず
-
地場衛
-
月野うさぎ
-
ネフライト様
-
大阪なる
-
テルル
-
ビリユイ
-
シプリン
-
プチロル
-
水野亜美
-
浦和良
-
火野レイ
-
木野まこと
-
愛野美奈子
-
天皇はるか
-
海王みちる
-
冥王せつな