日常の一コマ
瓶底眼鏡にボサッとした短髪が特徴的な少年、海野ぐりおは、自分と自分の恋人の部屋である自室にて呟いた。
「この一ヶ月、大きな出来事のある一ヶ月で濃密な時間ではありましたが、いざ過ぎてみるとそれほどなにかがあったという一ヶ月ではありませんでしたね」
振り返る一ヶ月。恋人が出来た、大人の階段を上った、口付けを経験した、危うく死んでしまうところだった。多くを経験してきたわけだがそれでも過ぎ去ってしまえば時間という物はとても早く過ぎていく。思い出もなにも置き去りにして。
それでも印象深くてとても濃いこの一ヶ月を、彼は一生忘れられないだろう。それは彼の言葉を受けている者も同じ思いであった。但し彼女はなにもないとは感じていない。大きな変容の一ヶ月。なにかがありまくる一ヶ月であったと感じていた。
「そんなことはなくてよ。例えばぐりおが私を家庭教師として雇いたいと御両親に対して仰った時など、反対された場合の対処を考えていなかった私としてはどうすればあなたと過ごす時間を増やせるのか悶々と考えておりましたもの」
鮮烈で鮮やかな紅色、或いは赤い色をした腰の下まで届く長い髪を、編み組でアップ気味にして少し大きめの緩やかなポニーテール風に纏め上げた大人の女性カオリナイトは、過ごしてきたこの一月が、一瞬で過ぎ去った一月が、自身の歩んできた人生の中でも一番長い時として感じられていた。それこそたった一つ、家庭教師にとして雇われるか雇われないかの一つを巡ってしても。
「ボクとの時間、ですか。嬉しいなぁ、カオリナイトさんがそんなにボクとの時間についてを考えてくださっていたなんて」
照れ照れ、頭を掻く海野に、カオリナイトは床に座る彼の頭をそっと抱き寄せながら、話を続ける。
抱き寄せられた海野の顔が朱に染まる。恋人同士の軽いスキンシップ。しかしながら未だ純情少年の彼には慣れないことなのだ。
「ぐりおは私の事を考えてくださらなかったのかしら」
恋人は甘く囁く。最愛の少年の耳元で。座る海野の背後より、彼の頭を掻き抱いて優しく静かにその頭を撫でながら囁くのだ。
愛するあなたが愛おしい。こんなにも愛おしく想っているのだからあなたにも私の事を考えていて貰いたいと。
その想いを知る海野も耳元を撫でる甘い吐息の吹きかけられる感覚を振り切るように、はっきり答えた。
仲睦まじい二人の間柄。しかし言葉にしなければならない事も沢山ある。
「そんなこと天地神明にかけてありません!」
彼女の事を想わない時など無い。家でも学校でも。そう伝えていた。
それは強い意思。それは熱い想い。青い少年が胸に燃やす炎をそのままにした叫びであった。
だがそれも直ぐに沈静化する。想いは強くとも熱くとも、いまこの場で燃え上がらせることでもないから。
引き替えに、自分の意思だけはしっかりと伝えていた。
「結局なんだかんだで貴女と出逢った事故の日からずっと貴女の事ばかり考え通しなんですよね。恋人同士となったいまに至っても。なにが好きなのかーとか、どんなところへお出掛けしたいのかなーとか、いやあれなんですよ。ボク達ってまだ恋人同士になってからデートとかまだそんなにして無いじゃないですか。ですからなにもないように感じていただけでして」
「嬉しいお言葉をくださってありがとう。ですけれどもデートにいけないというのは、それはあなたにも責任があってよ」
カオリナイトは抱き寄せていた少年の頭にぐっと力を込めてみる。特別怒っているわけでもない。ただ少し不満なだけなのだ。
想われていて嬉しいものの、彼女の側もまたはっきりとした形を持つデートをする機会が訪れないことを、彼女なりに気にしていたからだ。
「落ちた成績を上げるためにこの一月の間は勉強に掛かりきりでしたもの。あなたと私は婚約しているとは言え私も住み込みの家庭教師として雇われている身でもありますので、お仕事はきっちりこなさないといけませんわ。でなければ何の為の家庭教師か分かりませんもの」
彼女も恋人としての時間を謳歌したかったというのに、これではまるで単なる家庭教師と教え子の関係なのだからもどかしくて仕方がない。
勿論こうして抱き締めたり、逆に抱き締められたり。口付けをしてみたり。同じ布団で枕を一つに寝たりもしているわけなので、立派に恋人同士と言える間柄なのだが、如何せんお外での恋人としての何かが少なすぎた。
だが続く言葉に少しは彼女の溜飲も下がる。意図などありはしない思ったそのままを口にされた事で。
「それ、言われちゃうと返す言葉もありません~。成績悪くなったの事実ですからね。でもカオリナイトさんのお陰で最近は落ちた成績も元に戻ってきたんですよ。だってこんなに親身になって教えてくださってたらそれはね。それにやっぱり貴女に教わっているという事で頭に入りやすくなっているようでして。そういう意味では勉強面にしましてもボクは貴女の事を考えています。学校での勉強中もここカオリナイトさんに教わったところだなーって」
ひたむきさが伝わってくる。なにも言わずとも分かる海野のひたむきさが。自分は想われているのだ。彼がいつ何処に居ようとも彼は自分を想ってくれているのだ。
現金なものだ。言葉一つで機嫌が変わってしまうのだから恋愛とは斯くも難しくあり、且つ簡潔でもある。
そこでふとカオリナイトはひらめいた。
「ねえぐりお。いまから少しの間だけデートに繰り出す気はなくて?」
「えっ、いまからって、こんな夜中にですか? こんな遅くに外に出るなんて怒られちゃいますよ」
「私は大人よ? 大人が同伴しているのならば大丈夫でしょう。それに私は一言も普通の方法でデートをするなんて言ってはおりませんわよ」
「普通じゃない方法って、それって」
「んっふふ、そうこういうことよ」
彼女は微笑んだまま海野の脇に手を差し入れて抱え上げる。抱え上げたままに宙に浮く。
「うわっと、いきなりですね」
座っていた体勢から持ち上げられて浮かび上がる海野の身体。でも特に驚かない。驚く必要がないから。なにせ彼はカオリナイトが宙に浮かべることを知っている。
恋人になった日、カオリナイトは自身の全てを彼に打ち明けていたのだ。空を飛べること、テレポートが出来ること等々、包み隠さず。
さながら自分の全てを奥底まで知っていて貰いたいとでも言うように、彼女は秘密を打ち明けていた。
勿論、デスバスターズという世界征服を目論む秘密結社にいたことも。無論シプリンの襲撃を受けていたので今更隠し立てをしても意味が無いという考えもあった。
その上で海野は彼女を受け入れてくれたのだ、その温かく純朴で優しい心で彼女を包み込むようにして受け入れていたのだ。貴女の居場所は此処ですよと。
此処が居場所。彼女の居場所。カオリナイトの帰るところ。それでいい。受け入れてくれた事を嬉しいと彼女は感じ、彼に心の全てを委ねていた。
だからこそ隠すことなど無いのだ。昔はどうだったかではなく、今がどうかが大切なのだから。そうして二人は時を共にしてきた、この一月という長くも短く、短くも長いひとときを。
それは、これからもずっと変わらない日常なのだ。
「あなたも慣れたものね。初めの頃は私に持ち上げられる度にわーわー騒いでいたというのに」
「それはまあ何度もこうして抱え上げられて宙に浮かされていれば慣れっこにもなりますよ。ボクだって男ですからね。ずっとおっかなびっくりし続けているのも男らしくありませんし」
「言うわね。うふふ、でもこうして密着させれば」
海野の余裕に彼女はいたずらをするかのように笑い、彼の身体を強めに抱き締めながら、その右肩に頭をそっと載せてみた。
背後からの不意打ち。海野の肩を跨いでさらりと流れ落ちるカオリナイトの長い髪。
髪から立ち上る甘い芳香が彼の鼻を擽る。白いきめ細やかな肌をした彼女の頬が、彼の丸い頬に押し付けられる。
「はわっ、ちょっとカオリナイトさんそういうのはずるいですっ、ボクがまだまだこういうこと不慣れなの分かってるでしょう」
触れ合う頬と頬、それを彼女は頬ずりさせて甘える。カオリナイトは海野に甘える。その頬を赤く染めながらもけして手を緩めることなく甘え続ける。
愛しい恋人に甘える一人の女は、募る想いをぶつけるべき相手にぶつけているだけなのだ。
「ぐりお……んっふふ、柔らかいほっぺだわ」
「あ、貴女の頬も、柔らかいですよ……って、まだ、するんですか?」
「ええ、だって愛おしいんですもの。あなたも私の気持ちを知っているでしょうに止めるなんて事はなさらないで。受け入れなさい私を」
「う、受け入れてますよ……。それは、いつだって受け入れますよ。ボクがカオリナイトさんを拒むなんてことをするはずがないじゃないですか」
部屋の中で宙に浮かんだまま続く甘いひとときに終わりはない。
「では、いくわよ?」
シュウン──っ。
小さな空気音だけを残して消え去る二人は、次の瞬間には東京を一望できる場所に居た。
「うわって、え、えええ~~~~っ!!」
「ここなら、この夜景を見下ろせる場所ならば私達のデートには最適の場所なのではなくてと思ってね」
眼下に広がる光の数だけ人々の生活がある。或いはこの中をいまの二人のように甘いひとときを送っている者達もいるだろう。
「どうかしらこの光景は?」
「……綺麗、です。光が、色とりどりの明かりがまるで地上にばらまかれた宝石箱の中身のように」
地上に煌めく夜景はいったい何ドル用意すれば良いのか分からないほどに美麗なるもの。
夜空に輝く星々とはまた一味違う輝きを持つ人工的な星々の煌めきに、海野は魅せられていた。
空に輝く星も大好きだが、地上に輝く星もこれはまた綺麗であると。
ふと見上げれば、天上にも月が輝いている。明るい星も。天上の天体と地上の天体が織り成すイルミネーション。
ここへ連れてきてくれた最愛の女性は、変わらず頬ずりをしてくる。
柔らかく温かい頬の触れ合う感触、肩を跨ぎ来て自分の身体に沿って流れ落ちる赤色の長い髪が風に揺れていた。
海野が自由になっている手で何とはなしに、自然にそうするかのようにその髪の房を掴み指を差し入れて撫でる。
親指に人差し指に、五指に絡まり来る艶のある髪の房、カオリナイトのしっとりとした長く艶やかな紅い、赤い髪。
「この、貴女の髪の毛は地上の宝石に例えるならルビーですね。ルビーで出来た繊維。細やかで繊細な……。綺麗です。地上の宝石も、空に浮かぶ月や星も、貴女の髪も、今夜という一夜の宝物です。まあ、貴女の髪の毛はいつでも触れちゃいますけれどね」
「うふふふ、そうね。私の髪の毛だけはいつでも触れるわね。でも、この光景はそういつでもとはいかないわ」
彼が語ると、同時に、そうして自分へと触れてくるのを待っていた彼女も語った。
「ここ、あなたが学校に行っている間にふと通りかかって見つけたのよ。夜ならばさぞ素敵な宝石をちりばめられた世界が広がっていることでしょうと思ってね」
事実訪れてみて正解であった。この宝石の海を互いに想い合う者同士で手に収める事が出来たのだから。
「カオリナイトさん……」
「ぐりお……」
何処かのビルの屋上。その屋上に宙に浮いたままの体勢で海野は右へ顔を傾け、カオリナイトは傾き来たその唇を身を乗り出して塞ぐ。
そうして二人は小さく口付けを交わしながら、ただどこまでも広がる地上と空、二つの宝石箱の輝きを見つめていた。
カオリナイトさんは空も飛べますしテレポートも出来ます。ならこういうデートもしてるんじゃないだろうかということです。
出してほしいキャラは誰ですか?本当はもっと書きたいですデマンドとかちびうさとか(期待に応えられるかは分かりません)
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カオリナイト
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海野ぐりお
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ユージアル
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天野ぐりかず
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地場衛
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月野うさぎ
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ネフライト様
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大阪なる
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テルル
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ビリユイ
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シプリン
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プチロル
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水野亜美
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浦和良
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火野レイ
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木野まこと
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愛野美奈子
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天皇はるか
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海王みちる
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冥王せつな