早朝、それはまだ早い刻限のこと。薄暗い群青となる空は、ラピスラズリの彩りをはめ込んだまま。
満天を照らし出す朝の光源を東の彼方に求めて、静かに夜明けのときを待っておりました。
そんな夜明けを控えたボクとカオリナイトさんの部屋は、薄暗くも明るく室内の輪郭を浮かび上がらせて。
見下ろせばそこにある紅玉の赤をボクのこの瞳に映し出すかのようにして、仄かに照らしていたのです。
「その、ですね……。塗り絵やお絵かきで描くお日様の色って、赤色だったりしませんか?」
ベッドの縁にと腰掛けるボクの膝の上、静かに載せられていたのは白魚の様な両手。
その両手はボクの膝の上で組まれています。
それはまるで机に突っ伏して寝るときのボク自身の姿勢みたく、でもそれでいて彼女がそうしているのは少し珍しくて。
……うん? 珍しい?
「……」
うーん、いえ、案外そうでもないかもですね、はい。
いつも姿勢正しくある彼女が机に突っ伏す姿こそは珍しくっても。
けれど、ボクの膝に頭を載せながらそうしてるのは結構、日常的……かな?
それは嬉しい事なのに。
同時に少し恥ずかしい。
「どうでしょう、カオリナイトさん」
何気ないボクの問いかけに、彼女は姿勢を変えずに呟いた。
「赤色?」
「はい、赤色です」
組まれた手に載るその赤いきれいな紅玉は、愛しい彼女自身の頭と髪。
その長く流れる赤い絹束をボクは優しくすくいとる。
「ほ、ほら、この」
艶々と触り心地の良すぎるカオリナイトさんの長い髪を。
ボクはボクの思うままに触ります。
「この、カオリナイトさんの御髪のように」
赤い色。鮮やかで美しい赤。
「……」
言ってて、触ってて、ボク自ら手ずからそうしているのに、恥ずかしさで熱くなる自分の顔。
カオリナイトさんもすぐにお答えくださらないから沈黙が余計に恥ずかしく感じてしまう。
ボクの顔の方こそ赤くなってしまうのでは? と、そう思えるほどに。
でも慣れ親しんだ赤い絹の触感は、よーくボクの手に馴染んでいて。
照れくさいから手放すといった過ちを犯させない。
「鮮やかな赤です」
「……」
白い首筋に沿ってうなじから後頭へとすくい上げ。
そうして両手の平に集めて優しく束ね持ちながら、その滑らかな手触りを楽しむ。
一部を編み込んでポニーテール風に纏められている、艶やかで色鮮やかな赤。
カオリナイトさんの長い髪。
「赤く、艶やかで、とってもきれいで」
手の平に集めたその長く美しい髪の毛の束を、ボクは丸く窄めた両の掌に緩く絞り込むと。
手の中で滑らせて触り心地を楽しみながら。
そして彼女の頭から背中へと戻し、流してあげながら、何度も何度も撫でてみた。
「ん──」
彼女の艶めく紅い唇から、小さな声が漏れた。
色気と自然さと、声色から感じるのはその両方。
熱っぽさも混じってる。
少し、緊張が走った。
「い、痛いですか?」
彼女の髪にボクの爪や指が引っ掛かったりしてはいないか?
爪はきちんと切っておりますが、切った爪はささくれだってはいないだろうか。
も、もしや、髪の毛を引っ張ったりする様な形になってやしないか?!
恐る恐るの問いかけに。
「いいえ……、わたくしのうなじをなぞるぐりおの指が、少し、くすぐったかっただけですわ」
ボクの膝の上で伏せるカオリナイトさんは何でもないと呟いた。
「そ、そうですか」
ほっと一息。
(それにしても、カオリナイトさんのうなじを自然になぞってしまうだなんて)
ボクも大胆になった物だなあ。
恋人とは言えども、女性を相手にこのような事ができるようになるだなんて。
ボクはまだ中学生。高校受験を控えた単なる中学生でしかない。
特別な力なんて無い、そう、ただの一中学生だ。
だけど、ボクは日々自分なりに自らを磨いてるつもりです。
中学生という成長途上の中にありながらも、大人なカオリナイトさんに相応しくあろうと。
カオリナイトさんみたいな不思議な力なんて無い、ごく普通の男だけれども。
いざという時はこの身を投げ出してカオリナイトさんを守れる男らしい男であろうと。
特別な力なんて無くても、ボクにはこれまで育んできた強い想いが、彼女への愛があるのだから。
愛のパワーでカオリナイトさんを守ってみせる。
ああ、そうだ、きっと。
他ならぬカオリナイトさんがボクを男として成長させてくれてるんだ。
「ねえ、わたくしの髪……もっと、撫でてくださる?」
思考に止まってしまっていたボクの手。
「は、はい、よろこんで」
彼女の是という言葉に、ボクは再び彼女の髪を撫でる。
今度も先と変わらず、握り込みは優しく。
掌に捕えた赤い束を、流れ落ちる一本の滝の様に、ボクの手の縁より垂れさせながら。
ボクはその流れを追って、そのまま毛先に向けて優しく髪を包み撫でる。
するり。
掌の中を流れていく赤い髪の毛の束。
しゅるる。
滑らかで艶々の髪の毛がその表面をボクの手指に擦れさせていく。
心地良い手触りを肌に残して手から抜け出したそれは、緩やかな曲線を描いて宙に広がると、身を乗り出すカオリナイトさん自身の背中へさらりと戻っていきました。
ボクは休まずに赤い流れに指を通す。
一本一本丁寧に、髪の毛の房全てを手指と絡めさせる感じで。
鮮やかで美しい紅玉の長い髪を撫で梳いていく。
心地いいのかカオリナイトさんは身を捩る。
「ん──気持ち、いいわ」
ボクの胸へと頬を擦り付けながら。
「気持ちいい……ぐりおの手がわたくしの髪を撫でている……、気持ちいい……」
言葉にしてくれた簡潔な感想がボクの心に響きます。
「きれいな、とってもきれいな赤色です。カオリナイトさんはボクのお日様です」
「わたくしの髪の色かしら?」
「いいえ、カオリナイトさん御自身がボクにとって太陽のような女性なのです。もちろん貴女のこの美しい髪は太陽を想起させますが」
ボク、海野ぐりおの前に現れた太陽。
数多の動植物が太陽の光を必要としている様に。
カオリナイトさんの存在は、海野ぐりおに無くてはならない存在なのだ。
大仰に聞こえようとも自分の思うところを包み隠さず彼女に伝える。
「うっふふ……、陽光の色とは何も赤とは限りませんわ。オレンジであったり黄色であったり、表し方は千差万別。太陽の色とは単色ではないのだから」
熱に浮かされる子供なボクとは正反対の、大人な彼女の静かな言葉。
でも、と。
間を置かずして、ボクを見上げる紫の瞳が優しい色を浮かべて。
紅い口許はほころんで、微笑みが浮かんでおりました。
「わたくしを太陽だと仰ってくださるなんて……、嬉しいですわ……」
柔らかく微笑むカオリナイトさん。蠱惑的で妖艶な微笑みなのに、なんだかとても可愛いです。
「あ、朝っぱらキザっぽかったでしょうか? って、あ。まだ日も昇っていなかったっけかなあ」
夜明け前から雰囲気に酔ってしまいました。想いが弾けちゃいましたね、まあいつも弾けちゃってますけど。
カオリナイトさんへの想いは極限のまだ先へと進み続けているために、どうしてもブレーキが効かない。
ともすればアクセルを踏みっぱなしで、且つペダルに足がくっついちゃってる感じ。車の運転なんて勿論したことありませんけど。
でも、だから。
「海野ぐりおは、カオリナイトさんを愛する気持ちだけは何時いかなる時であろうとも全力全開なのです」
自分の気持ちを抑えることも出来ないで、ただ想いのままに言い募ってしまう。
それはなんだか自分の気持ちを押し付けているようで。
「す、少し暴走しちゃってます?」
暑苦しいとお感じではないか。
度々気になってしまうのです。
本当の意味での大人の余裕なんて、やっぱり子供のボクにはまだ到達できない場所にあるのでしょうから。
けれども、カオリナイトさんのお返事は。
「まあっ、うっふふ。でもそこがぐりおらしいのではなくて?」
カオリナイトさんの答えは、否、ではなく。
やっぱり是で。
「事の前後を顧みること無く、唯々わたくしだけを深く愛してくださるところが、わたくしは……うふふふふ」
ボクの膝の上で組まれていた手がふっと離される。
伏せていたお身体を起こして膝立ちになったカオリナイトさんはその手をボクの背中に回してきて。
頭はそっとボクの胸元へ。ボク達を隔てるのはお気に入りのボクの青いパジャマ一枚と、カオリナイトさんの白衣。
起き抜けだって言うのに、いま、カオリナイトさんは白衣を着てたりしてます。先生モードです。
ええそれは勿論事実としてボクの個人的な家庭教師の先生でもいらっしゃいますし、まあ。
「家人としては程々にと思わないでもないけれど。熱い愛を向けてくださると女としては幸せですわ」
ぐぐっと頭でボクの胸部を押してくるカオリナイトさん。
首筋に擦れた彼女の髪からは甘い香りが漂う。
白衣の胸元を押し上げている彼女の胸部も、ボクの腹部に押し当てられて。
柔らかなその母性に、ボクの胸は高鳴ってしまいます。
「ふわっ、か、カオリナイトさんっ」
昨日お休みになる前に『明日の朝は早起きをして予習をしましょう』と言って、ボクとおねむになったカオリナイトさん。
ただ静かに眠る時でも。
また夜を通して愛を語らう時でも。
ボク達はいつも一緒に眠っています。
お互い、離れるのが嫌で、離れがたくって。
家でも、お外でも、一緒に居る時にはよく寄り添いながら過ごしています。
学校だけはそうは行きませんけど。
そして基本がボクよりも早起きなカオリナイトさんに、ボクは毎日起こされて。
それは決められた手順のようで。
今日は夜明け前の起床だった。
朝の予習、家庭教師な彼女とのお勉強のお時間。
中学生としてのボクのとても大切な時間でもあり。
そう言った意味での本日の早起き。日もまだ昇る前の。
とっても早い、早いお目覚め。
朝の予習時は早起きながらも、しかし、それにしても今日は早すぎたから。
まだお勉強には少しだけ早いから、だからきっと、自然に。
ボクはカオリナイトさんに愛をささやいてしまっていて。
ああ、でも本当に、本当に甘い空気。
カオリナイトさんの長い髪に、今一度指を差し入れて撫で下ろしながら。
「カオリナイトさん──」
彼女の背中に手を当て自分の方へと引き寄せる。
彼女がボクの背中に両手を回している様に、ボクも彼女を抱き寄せます。
「ん……ん……、ぐりお」
幸せだ……、カオリナイトさん以外に何も要らない。
彼女の他に何を望むというのだろうか。
率直に申し上げて、本音で彼女が傍に居てくださるならボクは何も望まない。
愛する人が居てくれる、それでもう十二分なのですからね。
カオリナイトさんが居てくださればそれで。
お父様とお母様曰くボクらの関係は甘すぎるという。
おはようも、行ってらっしゃいも、お帰りなさいも、愛の囁きが付いてきます。
お口付けが付いてくることもままありまして。
どちらがどちらと決めているわけではありませんが、自然にそうなってしまっている。
そんなちょっとアダルティな空気になってしまうのは、カオリナイトさんが大人だからでしょうか。
ボクがまだ子供で、無理とに背伸びをしてしまっているからなのか。
「あらゆる事を差し置き、わたくしに対してだけ踏み込む……。常にわたくしを優先してくださるその姿勢に、わたくしの胸はいつもときめきを覚えますわ……まるで少女のように──」
十数秒、時間が止まる。たった十数秒なのに果てしなく長く感じた。
「……」
「……」
カオリナイトさんは右を向いたまま、ボクの胸にお耳を当てています。
今イヤリングは付けていませんから、ぺたっと彼女のお耳がボクの胸板について。
どっくん、どっくん。
ああ、ボクの心臓の音聞こえてますよねカオリナイトさん。
大きく脈打つボクの心臓、ボクの胸の内。
パジャマの襟の隙間に触れる赤い髪がさらさら肌をくすぐってきて、ボクはふあっと息を漏らす。
「フフ」
紫色の瞳が上目遣いにボクを見ている。
紅の引かれた唇が弧を描き、細い眉が穏やかな表情を彩ります。
優しい微笑み。
妖艶な女性なのに。
大人っぽい筈なのに。
大人の女性なのに。
今は何故かしら可愛らしくって……。
ああ、可愛いな、カオリナイトさん。
「カオリナイトさんカワイイです」
「え……?」
年下も年下、中学生の身で生意気な事ですが、今だけはそんなカオリナイトさんがとてもいじらしく思えます。
ボクの愛おしい女性、なんて美しくも可愛いのでしょう。
「可憐です」
ボクはこの可憐な人の頭の後ろへ手を運び、彼女の頭を自分の胸に引き寄せた。
ぐい──くっついたままでいたボクとカオリナイトさんの距離は0をまだ踏み越えて。
「んっ──」
ボクはカオリナイトさんの頭を自分の胸で抱き締めました。だって、可愛いんですもん。
胸に抱いたまま、ボクは彼女の頭をなでなでしちゃいます。
「ん、ぐりお……どうしたの?」
「え、ええっと、カオリナイトさんをなでなでしてますっ」
赤い髪に隠れた首の後ろを左手で抱き込むようにして、右手は彼女のおでこから髪の編み込み部分までを撫でる。
髪の表面を指でなぞりながら彼女の頭を撫でています。
「ん──、……フフ、わたくしは子供ではなくてよ」
ええ、はい、カオリナイトさんは大人さんです。海野ぐりおは重々承知いたしております。
そして貴女のすべてを愛しております。言葉で語り尽くせる物ではありません。
「きめ細やかな白磁のお肌に、虹彩煌めくアメジストの瞳。真紅の紅を引いた唇はボクを惑わし、ひとたび口付けを交わされるともうそれでボクはカオリナイトさんの虜。滑らかで光沢のある長い髪の毛にはいつまでも触れていたいという欲を抱かせます。身長なんてボクより頭一つ分は高いですし、モデルさんみたいで気後れしそうな程にお美しい」
まだまだ少年真っ只中のボクが、果たしてついて行けているのかと時々不安になってしまう程に大人。魅力溢れる女性です。
「褒め殺しかしら」
「い、いえいえっ、とんでもありませんっ! それはもう真っ当な私的意見と断固たる事実を述べさせて頂いたまででして!」
事実以上に褒めそやして褒め殺し?
とんでもない。事実を事実として語ったまでです。
カオリナイトさんはお美しい。
それは単なる事実なのですから。
「付け加えておきますが、ただお美しい女性だから虜なのではなく、それが他ならないカオリナイトさんだからこそ海野ぐりおは虜となっているというわけです」
「ええ、承知しておりますわ。わたくしもぐりおだけに愛を捧げているのですもの……うふふふ」
ああでもその白いお肌も、紫紺のお目々も、赤い唇も、いまはボクの手の平の中で。
「くすぐったいわ」
ボクの腕の中で身じろぐ彼女。ただでさえ大人で、その上特別なお力もお持ちなのだからして本当にお嫌ならボクの手から簡単に抜け出せるでしょう。
しかしながら彼女の頭はボクの腕に抱き込まれたまま、ボクの好きなように触れられていて。
ボクはかまわずカオリナイトさんの頭をなでなでしながら、髪の毛に手指を差し入れて撫でます。
とても高い背丈も、彼女が膝立ちになっているいまは、それ程背の高くないボクでも見下ろせるくらいの低さで。
ボクみたいな子供の手の中に居るとってもお美しいけれども、でもとっても可愛い……ボクのカオリナイトさん。
この手に収めた妖艶にして可憐な美女。
こんな時くらい大胆に積極的に行かなくっちゃ。
だってカオリナイトさんはこんなにも可愛いのですから。
「わたくしが可愛い?」
「そうです可憐です可愛いです、笑顔がとっても素敵な女性です。艶っぽい微笑みは胸がドッキンこしますが、優しい微笑みは可愛らしくってチャーミング」
「んっ」
ボクの腕の中でおとなしくされています。
頭や髪をなでなでしても怒らない。
カオリナイトさん、愛しています。
「ん──……ウフ、フフフフ」
こぼれた吐息がパジャマ越しにかかる。
濡れたその息は赤い唇より零れ出ていて、吐息を吹き掛けられるボクの彼女への愛しさを唯々高めゆくのです。
「愛される、というのは……本当に心地の良い事ですわね」
すり──。
ボクの胸にカオリナイトさんのお顔が擦り付けられました。
ああ、ボクの心の中が幸せで、愛で満たされます。
「ねえ、わたくしを愛してくださる?」
「は、はい、それは……」
勿論です──。
出してほしいキャラは誰ですか?本当はもっと書きたいですデマンドとかちびうさとか(期待に応えられるかは分かりません)
-
カオリナイト
-
海野ぐりお
-
ユージアル
-
天野ぐりかず
-
地場衛
-
月野うさぎ
-
ネフライト様
-
大阪なる
-
テルル
-
ビリユイ
-
シプリン
-
プチロル
-
水野亜美
-
浦和良
-
火野レイ
-
木野まこと
-
愛野美奈子
-
天皇はるか
-
海王みちる
-
冥王せつな