互いに抑えられぬ恋心
全ては始まる前に終わりを告げた。
覚えている最後の光景から幾ばくばかり時が過ぎたのだろうか。
「う……、うう……」
光の中へと浮上した意識。終わったはずの時が再び舞い戻る。
なにも変わらぬ部屋の中で目を覚ました美女は、軽い目眩に頭を抑えながら身を起こした。
「わ、たし……。生きて、いるの?」
意識の覚醒と、呟く独り言を耳にした美女カオリナイトは、自身がいま生きている事を実感する。
「シプリンは……?」
辺りを見回して確認するのは、自らを殺そうとした少女の存在。
「いない……」
その忌まわしい存在シプリンは既に辺りに居ないようで、誰一人として人の気配のない夜の静けさだけが残されていた。
ただ居るのはそう、自分自身と。そして。
二度に渡り自分を助けた少年。
自身の体の下に、彼の少年の姿はあった。
彼女はその少年もまた自分動揺に息があることを確認してから、彼の身体を大きく揺すった。
「海野……っ、海野起きなさいっ」
もしも目を覚まさなければ私は。
ピュアな心を喪った人間は廃人となり、やがて死ぬ。
息があってもそれは植物状態を意味し、永遠に目を覚ますことはないだろう。
最悪を危惧して一刻も早い本当の意味での無事を確認したかった彼女は、とにかく彼を起こそうとして揺さぶり続けた。
「う……、うう~ん……」
小さな声。唸りはなによりの生の証明。
「無事……のようね……」
唸りながら目を覚ました海野に、ホッと安堵の溜息を付くカオリナイト。
彼女はシプリンの銃による攻撃でまさか目を覚まさないのでは? と、気が気ではなかった己の心を次第に落ち着かせていった。
「う、うう……、あ、あれ? 僕は……カオリナイトさんを庇って……撃たれたんじゃ……?」
目を覚ました海野は相変わらず暢気な様子で疑問を口にした。
「どうやら、誰かが私達を助けてくれたようね」
答えるカオリナイトには大凡の見当は付いている。
ピュアな心を狙うとき、また彼女達も動くからだ。
愛と正義を語るセーラー服姿の地球の守護者達が。
が、それを敢えて口にはしなかった。例え自分がデスバスターズを追放されたとは言え、彼女達は味方でも何でもない故に。
助けられた事に感謝はしても、協力するつもりはない。といって、最早敵対し闘う理由さえも無くなってしまったのだが。
それに彼女はいまそれどころではなかった。
「はぁ~、よくはわかりませんが助かったわけですね。ふ~よかったです~、一時はどうなることかと」
身を起こし無事を喜ぶ少年を前にした彼女は、己に芽生えた感情の最後の確認を行いたいのだ。
その、相手の言葉をこの身に受けることで……、そう、この心の行き場所を求めて。
「海野……貴方どうしてまた私を……、助けたの?」
二度までも海野に助けられたカオリナイトは、早鐘を打つ自分の鼓動の意味をもう理解していた。
シプリンの銃から身を挺して守ってくれ、彼が崩れ落ちる時に見せた微笑み……それを見た時に。
そしてそんな彼をかばった刹那の時の中で。
だが、この暖かな心を、彼女はもっとあつく燃え上がらせたいと想った。
確たる物が欲しい……それを彼に求めるのは、彼の性格からして難しいと分かっていても。
海野にせっついて答えを求めるカオリナイトに対し、彼は照れくさそうに頭をかきながら返答する。
「え、ええっと……、同じ事を繰り返すのもあれですし、上手く言えない物と思いますので、さっき撃たれた時に思った事を率直に言います」
『僕は……、海野ぐりおは、ただカオリナイトさんを守りたいと……、カオリナイトさんが助かるなら死んでも良いと……、そう、思いました』
歯の浮くような科白。
恥ずかしそうに告げた海野に、カオリナイトは心に灯る暖かい物が何かを今あらためて理解した。
(そう、やはり間違いではないのね……)
この、何も特別な力を持たない少年が言ったのは、ハッキリ言えば無駄な行為をする宣言をしたに過ぎない。
現に一度目のトラックの時は、カオリナイトの命を脅かすような物ではなかった。
二度目のシプリンの時も、彼女の身代わりとなって庇う事は出来たが、その後人質に取られ、結果的に彼女を守る事にはならなかった。
それはカオリナイトと海野の間に埋めることの出来ない力の差が有るからに他ならないのだが。
しかし、彼はどれだけ自分が弱くとも、彼女を守る為に死ぬ事さえ厭わずその身を投げ出した。
例えそれが無駄であったとしてもだ。
だからこそ、彼女の心を大きく揺らし、その心に暖かな光を持つ灯を付けたのだ。
(私の為に命を懸けられる男……海野ぐりお……私は……)
「何の力も持たない弱い男のくせに……生意気な」
そう言って悪態を付いたカオリナイトの頬は、雪のように白い肌を持つにも拘わらず、ほんのりと紅色に染まっている。
胸の高鳴りは最早抑えきれない程大きくなって、彼女の体を突き動かそうとしていた。
(でも……愛おしい)
動力源となった心に宿る確かな感情──もうわかるそれは恋する心。
自らを省みず命を助けたこの少年に、カオリナイトは恋心を抱いた。
身体を支配され、心の思うまま。彼女は自分に恋という灯をともした海野へと身体を寄せていく。
「そ、そんな、僕は真剣にそう思っ──」
生意気だというカオリナイトに、そう反論した海野の身体をそっと抱き寄せた彼女。
「カオリ、ナイ──」
漂う色香。鼻を擽る、彼女の匂い。海野が感じるカオリナイトの温もり。
ぼうっと、頭が霞がかり彼は言葉を止めた。
「生意気な子」
彼の耳元に口を近付けるともう一度言った。
「この私に…………恋心を……、抱かせるなんて……」
耳に入った海野は狼狽を見せた。
「こここっ、恋っ、恋ですかっ!?」
突然の、思い掛けぬ告白。
誰しも男なら喜悦の感情一色に心が染まるその瞬間。
海野がそれに浸ることすら許さず、カオリナイトは言葉を続けた。
「そんな生意気な子には……お仕置きが必要だとは思わなくて?」
海野の耳元でそう呟くと、そのまま彼の耳をかぷっと甘く噛んだカオリナイトは、もう自分を止めることが出来なかった。
恋に対して純粋で、そして抵抗力が薄いのだろう。
今更ながら発見した新たな自分の一面に、彼女は心の赴くまま自らの意思を解き放っていく。
「ひゃふうっ! か、かか、カオリナイトさんっ、い、いけ、いけませんですっ」
「何がいけないというのかしら? それとも……、まさか私のことが嫌いだとでも言うおつもり?」
「そ、そそっ、そんなことはありませんっ!」
カオリナイトに好きだと言われ、耳を甘く噛まれた海野は気が動転してしまった。
そして、いきなりこのような行為に及んだ彼女を窘めようとするも、逆に自分の事が嫌いなのか? と質問され、やけくそのような言葉を紡ぎ出してしまう。
「す、すすっ、好きですっ、好きですよっ!」
まるでその場を限りとした雰囲気に流されるかの如き情緒も思慮の欠片も見当たらない……告白。
「あ、貴女のことは、あの日からずっと気になっていました……」
ただ、海野は適当な返事をした訳ではなく、本当にカオリナイトの事が好きなのだ。
数日前に初めて目にして以来、カオリナイトの事ばかり考えて眠れない日が続き、今夜こうして再会した事で、頭の中が彼女一色に染まっていたのだ。
一目惚れと、そう捉えてもいいだろう。
どうして彼女が気になるのか?
どうしてこうも毎夜の如く彼女を思い耽っていたのか?
無事であったのか。怪我などしていなかったか。
自分は彼女のことを助けることができたのだろうか。
病院に問い合わせても直前まで誰も彼女の姿を目にした者はいなかった。
あれは幻?
だとすれば、鼻腔を擽ったあの瞬間の微かな香りと体の温もりは?
違う。
幻なんかじゃない。
幻で終わらせたくない。
もし、彼女が亡くなっていて、それを気にした医者が事実を伏せていたなら。
後々になって彼女の死を知ってしまえば。
きっとこの心には深い後悔と悔しさがいつまでも残されていたことだろう。
なんども、なんども。
来る日も来る日も自問自答を繰り返している彼の中で、彼の美女の存在は心全体を支配するようになっていた。
それは海野が抱いた恋慕の情。
気になるその女性へと抱いた、突発的な、されど考え続ける事で確かな物へと成長を遂げた恋心。
誰憚ることなく云える、自らの心の中に芽生えてしまった淡くない気持ちを示していた訳だが、彼女のような大人の、それもとびっきりの美人が自分のようなさえない男に興味など持つはずがないと諦めていた。
ましてや逢うことの出来ない、何処に居るのか誰も知らないような女性。
生きているのか死んでいるのかすらも、知る術を持たない自分。
いつしか彼は諦め掛けていた。ただ彼女の無事を祈るだけでいい。
無事ならばそれでもう……。
所詮、縁の無かった恋であるとして彼は諦める寸前だったのだ。
だがこの夜、運命の糸が再び繋がった。
祈りが通じたのだろうか。
それともこの再会は必然だったのだろうか。
再び相見える事ができた。
彼女の方から会いに来てくれて、内心飛び上がる程嬉しかった。
冷たさ、怖さ、色んな物を彼女より感じたが本心は、彼女の存在をとらえて放さなかった。
また逢えた喜び。
言葉を交わせた充足感。
今だからわかる。
カオリナイトという女性の存在が、自らの心に強い働きかけをしていたことを。
忘れることは出来ない。
思わずにはいられない。
好き──。
そのたった一つの感情が、狂おしい程に彼女を求めようとするから。
だが、それも件の理由から表に出さないようにしていたのである。
それをシプリンの襲撃の後、こうして好きだと言われた事で外された箍に、自由を得られた彼の心はぶちまけさせたのだ。
それに嫌いなのかと訊かれて答えなかったら誤解されてしまうだろう。
故に伝えなければならないはっきりと。
「僕は、海野ぐりおは貴女を忘れることができませんでした」
そうした経緯の下に第一声がやけくそな感じになってしまったのである。
「僕の心は、ずっと貴女に逢いたいと叫び続けていました。貴女と逢えて、そして貴女をもう一度護りたいと思ったとき──、僕の心の中ですべてが一つに繋がったのです」
彼女に逢えたことで、彼女からの問いかけと彼女をもう一度護ったその行動の果て。
頑強な形へと姿を変えた心は、すべての想いを吐き出すことをこそ良しとしたのだ。
「好きです。愛しています。僕は貴女を……、海野ぐりおは──カオリナイトさんのことを、心の底から愛しています」
真剣なる告白。目を見据えたまま心の内を吐き出した少年を前に、カオリナイトの心は既にはち切れんばかりの大きな膨らみに育っていた。
一瞬だ、一瞬の内に心という風船へ燃えるように熱く煮えた息を吹き込まれて容積を超え溢れ出してしまった。
(この少年も……、私への好意を抱いていた……)
恋心を自覚し、己自身の口より零してしまったが。
それは同時に正しく至る間柄を誘う呼び水となった。
即ち、カオリナイトは海野ぐりおを愛し。
海野ぐりおはカオリナイトを愛する。
互いの心がそうであるならば、一つにするのは当たり前だ。
「そう、私が愛おしいのね? 他の誰でもなくこの私が……、僅かすぎる程に矮小な時を過ごしただけのこの私を、貴方はそれでも愛していると言うのね?」
「はい、僕は貴女が愛おしいです。時間なんて関係在りませんよ。僕の心にはただ貴女へのどうすることもできないほどの愛おしさだけが燻り続けていますので」
「フフ、そう……。そうなの……、そこまで訊けばわかるわ貴方の心……。私と同じということのようね、この私の心に芽生えた想いと」
同じ心を相手に抱く。それは心通わせ相通じる──恋人の誕生。
共有した時間は僅か。だがその時は幾年もの年月に換算して余りある濃厚さを内包していた。
「だったら──」
どうして耳への甘噛みを押し止めようとしたのか。恋い焦がれる者同士、互いを求めようとするのは自然なこと。
お互いに伝えた以上、誰がどう言おうと止めてはならないもの。
「私達は、恋人となったのよ」
その恋人の愛を受け入れる義務が海野にはある。
「こここ、こい……びと……? 僕とカオリナイトさんが、恋人……?」
「そう、たったいまこの時にね」
「恋、びと……」
感激の涙を流し始めた海野に、彼女も満足げに頷く。
「そうですね、そうですよっ、お互いを愛している者同士なのですから恋人なんですよね僕らはっ! 恋人──ああっなんて甘美な響きなのでしょう!」
殆ど一足飛びに築かれてしまった関係は、お互いを想う気持ちが同時に芽生えていたからだ。
「そう、そして恋人だからこそ触れるのよ。世の恋人達をごらんなさい。皆、触れ合っているわ」
いい歳をして逸るこの気持ちを抑えながら、カオリナイトは自分を愛おしいと言った少年に訊いた。
愛しようとする自分の邪魔をするのは何故にと。
「そ、それはまだ中学生の身で、こんなことは不健全といいますか」
彼は述べる。確かにカオリナイトが愛おしい。
「僕だって行く行くはカオリナイトさんとそういったことを……! あ、あーんなことや、こーんなことを……し、してみたいとっ!」
それでいて彼女の行為を押し止めようとするのは、“男女の交際は健全でなければならない”という、自分の考える交際像というのがあるからだと彼は嘯いた。
尤も、そんな物はカオリナイトには関係ない。彼女は自分の思うようにするだけだ。心の赴くままに……。
「尚更に生意気だこと。貴方如きが私を拒むなど許されるとでも思ったの?」
「そ、そんなっ、僕はただっ」
無論、口ではそう言いつつも彼女は彼女で嬉しいと感じている。
自分が恋心を抱いてしまったと自覚した相手もまた、自分に向けて恋心を抱いているのだから。
たとえ拒まれようとも、自分達の間柄が恋人同士という事実が消え去ることなど無い。
「それに、私が好きだというのなら最早いけないなどとは言えなくてよ」
カオリナイトは海野を抱き締めたまま、少し顔を離してぐるぐる眼鏡の奥にある彼の瞳を見つめる。
(綺麗な瞳……澱みのない美しい瞳)
とても純粋で濁りのないその瞳は、デスバスターズという組織に居た彼女には縁のない物──その筈だった。
それが今では自分の目の前にある。それも、その瞳に映っているのは自分自身。
カオリナイトはその瞳に映る自身の顔を見ながら、濁りのない瞳に自分の姿を映してくれた海野に顔を近付けていく。
「か、カオリナイトさん……っ、お、おち、落ち着いてください……っ」
この期に及んでまだそんな事をほざくうるさい口を黙らせようと、カオリナイトは気持ちだけ頭を傾けながら彼の唇に自らの唇を近付けていき──
「んっ……」
塞いだ。
愛する少年と交わす、初めての口付け。
「んっ……、ふむっ……」
海野の唇を自らの唇で塞いだカオリナイトは、そのまま彼の唇を甘く噛むように啄む。
その唇に自分の唇の味を覚えさせる為に、はむっ、はむっ、と柔らかい食べ物でも食するかのような感じで。
そうして海野の唇を啄みながら万が一にも彼を逃がさないように、彼の背中に回した腕に力を入れて強く抱き寄せた。
「んふぅっ、あむっ」
しかし、海野を逃がしたりする心配は彼女の取り越し苦労でしかない。何せ、海野はカオリナイトに口づけられた瞬間から身体が石のように硬直して動くにも動けないでいたからだ。
女性にキスをされるなど皆無に等しい所か全くない彼にとって、カオリナイトのような美女からの口付けは刺激が強すぎるのだ。
平凡を形にした彼の姿、一部変わり者でもある様子の彼を見てそれは薄々感じていたカオリナイトだったが、彼女は遠慮する所か益々行為をエスカレートさせていく。
僅かに開いている海野の唇を、自らの舌で強引にこじ開けると、彼女は舌を彼の口内へと進入させた。
「ふむうっ……!」
舌を入れられた事に口の中で驚きの声を上げる海野だったが、彼女はそれさえも許す気はなく、自分の舌を彼の舌に絡ませてねじ伏せ、愛撫するかのようにそのぬめりにぬめる表面を舐めていく。
よく味わいなさい、これが私の味なのだと覚え込ませるのだ。
「んっ、ちゅむっ、ちゅるっ」
舌を口内の奥の方まで伸ばして奥から順に歯茎を舐め、次いで歯その物に舌を這わせて縦横無尽に貪った彼女は、彼の舌の裏側に触れ、そこを撫でるように舐めてから再び舌に絡み付かせた。
ここまで執拗に舌を触れさせたのは、ある種の独占欲が働いている。
(貴方の唇は私のもの)
海野の口の中に、自分が触れていない場所が僅かでも在るのは許さない。
「んちゅっ、れるっ」
舌も、その裏側も。歯茎も、奥歯に犬歯に前歯も。
およそ口内の隅々まで自分の唾液を塗り込まなければ我慢できない。
そうやって時間を掛けて海野の唇を貪り続けたカオリナイトは、五分近くに渡る口付けを終えると漸くその唇を解放した。
無論未だ満足などしていない、どれだけ唇を貪っても足りないと思う彼女だったが、その心は、先へ進むために我慢せざるを得ないということだ。
「んっ……」
ゆっくり離れる唇の間には粘り気を持つ混ざり合った唾液がつーっと糸を引いて伸び、今行われた口付けの激しさ深さを物語っている。
伸びた唾液の糸はカオリナイトがそれほど顔を離していないのもあって、未だ二人の唇を吊り橋のように繋いでいた。
「きっ、きっ、きっ、きすっ、キスっ……キス……っ」
海野はその瞳に美しく妖艶なカオリナイトの笑みを映しながら、壊れたスピーカーのような言葉を発した。
そこから読み取れるのは、これが彼にとって初めての口付けであるという事だ。
彼女からの一方的なキスを受けた彼は。
(キスというのはこのように激しい物だったのですかぁ~)
などと、映画で見た初々しいキスシーンとの違いに、気持ち良くはあったが驚かされ悩まされた。
してよかったのか中学生の身でこのような口付けを。
舌を隅々まで唾液で濡らされて、絡み合う舌を通じ流し込まれる彼女の唾液を飲み下すというような濃密且つ凄い口付けを本当にしてもよかったのか?
だからといって彼女から贈られたこの熱いベーゼを断るなんてしたくない。
「フフ……、初めてのキスのお味は如何?」
顔を耳まで真っ赤に染めて思い悩んでいる海野に対して、蠱惑的な笑みを浮かべたカオリナイトは、まだ始まったばかりだと再び顔を近付けては、リンゴのように赤くなった彼の頬に口付けた。
「ちゅっ」
「ひあっ!」
彼女は海野が混乱の真っ直中にあるのを理解して尚、彼を愛する手を緩めるつもりはない。
愛おしさが募り、それを塗り込みたい気持ちが抑えられないのだ。
「まだまだ……、これからよ……」
そう言いながら海野の背中に回していた右手を離して前に持ってくると、カオリナイトは彼のパジャマの第一ボタンに手を掛けてプチンっと外した。
「なっ、何をするんですか……?」
震える声。
初であろうとも海野は小学生ではない。中学三年生ともなれば当然わかっていようこれからのことに未知への不安が生じているのだ。
「お黙りなさい」
優しい声で黙らせたカオリナイトは、続いて第二ボタン・第三ボタンと純にボタンを外していき、全てのボタンを外すとパジャマを左右に広げて、彼の上半身をさらけ出させる。
袖はまだ抜いていないので肩までが脱がされている状態だ。
「フフ──」
引き締まった体……とは、とても言えない細身で華奢な肉体。
小柄なその体躯に力強さを感じられる要素は無く、どこまでも平坦な腹部と平らな胸部には筋肉らしき物一つ見てとることが出来なかった。
間違っても逞しいなどとは言えない海野の上半身を見たカオリナイトは、右手を再び彼の背中に回すとその首筋に口付ける。
「ひはっ……!」
キスをされた海野は何とも情けない声を上げて身体を震わせた。
首筋に受ける唇の感触と、カオリナイトの肩から流れ落ちた彼女の紅色の長い髪に頬や胸を撫でられて、背筋をゾクゾクとした言い知れぬ感覚が走り抜けたのだ。
未知の感覚は無自覚なまでに彼を刺激し、大人の階段への脚をまた一歩踏み出させる。
そんな未知の感覚を味わっている少年を余所に、カオリナイトは彼の首筋に落とした唇を内側へとずらしていく。
「筋肉の付き具合は至って普通……。ん……無理のない運動と、健康的な生活を心掛けることで……、得られた肉体と……、ちゅ……、そう、言えなくもないのかしら」
鎖骨をなぞり、首の真下辺りまで来ると、舌を出してぴちゃぴちゃと彼の肌を舐め始めた。
「ひゃああっ……、か、カオリナイトさ……っ、う、ああっ」
そうやって海野の肌に口を付けたまま、彼女は下方に向かってゆっくりと舌を這わせていく。
首の舌から胸へと下ろし、小さな乳首に舌を触れさせると、そこを重点的に舐める。
「ひっ、ふああっ──」
紅い舌先が触れる乳首は唾液に濡れていき、喘ぐ少年の声音と合わせて心ばかり硬さを増した。
無論女性ではない海野の乳首がある一定以上の反応を超えることはなく。
むしろその声に煽られたのは愛撫するカオリナイトの方であった。
身体を舐められて感じている彼の声を聞きながら、カオリナイトは次のステップへ移るために、名残惜しくも彼の肌から口を離した。
「海野……」
「は、はひっ!」
「どう? 私からの愛撫は気持ちいいかしら?」
「そ、それはもう、何と、言いましょうかっ……、一言で表現できる範囲を、逸脱しておりましてですね……っ、こう、深く胸の奥を疼かせながらも痛みではなく快楽の突端に感動を覚えさせられる感じがぐっと押し寄せて」
「そう。それじゃあ……、もっと気持ち良くして差し上げあげましょうか?」
「い、いい、いえいえっ、これ以上はいけませんっ」
カオリナイトの言葉にあくまでも否定的になる海野。
普通に考えれば彼女のような美しい女性にここまでされて、否定するような男などいないだろうに。
それこそ男色かと疑いをもたれてもおかしくない。
実際の所、彼もこういう事をされて悦びを感じてはいた。
ただ、余りに純情すぎるのだ。
恋人とは休日に遊園地でデートしたり、互いのお弁当の交換をしたり、カフェで一つのパフェを二人で食べたり、一緒に星空を見ながら良い雰囲気になった時に触れ合わせるだけのキスをしたりと、そういうものだと考えていたのである。
勿論、そのずっと先にはこういう事をするようにもなるのだというのは知っているが、まさかお互いの気持ちを交わし合い恋人になって直ぐこうなるとは考えてもなかったのだ。
そう、相手が彼と同年代の女子ならではというのが前提となる話であった。
つまり大人であるカオリナイトにはそもそも通じない話なのだ。
「やはりですねっ、僕は清く正しい交際であるべきだと思うわけでしてっ」
「あら? これも清く正しい男女の交際でしてよ? 愛し合う男と女の至極当然に至る極地というものよ坊や」
「い、いいえ違いますよっ、清く正しいというのはですねっ」
カオリナイトの言うことは尤もだ。愛し合う男と女は最終的に一つとなり、そして頂を目指す。
古来より変わらぬ正しき男女の営みであり、二人も共に此処へと向かうべきである。
間違いではない紛うことなき正論に、しかし海野は自分の考える清く正しい交際というのを説明した。
尤も、それはカオリナイトという大人の女性に、前述に在るべき立場をとうに迎えていた年齢の相手に通用するような類のものではないのだが……。
「お弁当の交換? パフェを食べながらの談笑? 何をバカなことを言っているの」
冗談も休み休み言え。
一笑に付す彼女は、それではあまりに冷たいと心ばかりの譲歩くらいは行ったが。
「まあ……、遊園地でのデートくらいならばして差しあげても宜しくてよ?」
ただしカオリナイトの言うそれは、ただ手を繋いで歩き遊具を楽しむだけのものではなく。
腕を組み、身体を寄せながら時に口付けを交わし、時に抱き締め合うような。人目を忍びつつも時折織り交ぜる大人の恋を楽しむというデートだ。
そしてデートの後に待つのは、男と女として融け合う至福の時間……。
「夜も更ければ邪魔者は居ない……。公園で、ホテルで……この部屋でもいいわ」
「あわわわ、それって──!」
真っ赤に染まる海野の顔。
想像したのだ。カオリナイトと一つに融け合う自分の姿を。
「フフフ。そうよ」
愛に満ちた一日の終わりは、だからこそ最上の愛を以て終わらせる必要がある。
肉欲に溺れるのではない、ただ大人である自身に海野を合わせさせるだけのこと。
手を繋ぐだけの小学生のデートではない。
互いを意識しすぎて手も繋げない中学生の恋など埒外すぎる。
より高い場所で、より深い経験を経て男は成長していくのだ。
「お子様の下校デートではないのだから甘い考えはこの場で捨てておしまいなさい」
海野の抱く子供の交際に、彼女はきっぱりとNOを突き付けた。
「そ、そんなっ、僕の理想とするラブライフなのに始まったばかりで否定されるなんてあんまりだ~っ!」
嘆きに悲しむように見えても彼のその心には不安と共に、熱っぽいときめきも浮かび上がっていた。
大人の交際。
それは思春期の途上を歩く少年が知らず興味を覚えてしまうもの故に考えてしまう。
“大人の恋”
カオリナイトという女と出逢ったときにもう、それは始まっていた。
そしてそのハードルを彼女が中学生に合わせて下げることもありはしない。
なればこそ二人の間で清く正しい恋の成立は成り立つはずがなかった。
海野はカオリナイトに合わせ、カオリナイトは自分の位置で海野を愛する。
それ以外の形にこの恋が進むことはない。
無論、その中で彼の理想の形を見出すことは出来ようが、手を引くのはあくまでも彼女なのだ。
「お黙り。貴方もう既に精通を迎えているのでしょう? そのような歳の男がこれしきのことで見苦しく騒ぎ立てるなんてみっともない」
「ううっ」
口籠もる海野。その様子はカオリナイトの言葉に対し是を肯定したということ。
仮に否定したところでその不審な挙動から誤魔化し通すのは不可能。
「た、確かに仰る通りです……」
性的な成熟期を迎えれば誰しも経験しよう身に起る変化を通り過ぎた先の今に彼もいた。
つまり体は既に整っている。大人の恋を形として紡ぎ合うために必要な体は。
ならば大人の彼女が階段を上らせるのも、そんな彼の成長に合わせてのもの。
都合よく考えるのなら、この流れもまた成熟期の一過程に過ぎないということになる。
「わかったら──もういいわね?」
「へ?」
最早聞く耳持たないとばかりに海野のパジャマのズボンを下着ごと掴んだカオリナイトは。
「もうこれからの事に邪魔なコレはいらないでしょう」
有無を云わさず引き摺り下ろしてしまった。
出してほしいキャラは誰ですか?本当はもっと書きたいですデマンドとかちびうさとか(期待に応えられるかは分かりません)
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カオリナイト
-
海野ぐりお
-
ユージアル
-
天野ぐりかず
-
地場衛
-
月野うさぎ
-
ネフライト様
-
大阪なる
-
テルル
-
ビリユイ
-
シプリン
-
プチロル
-
水野亜美
-
浦和良
-
火野レイ
-
木野まこと
-
愛野美奈子
-
天皇はるか
-
海王みちる
-
冥王せつな