※この作品はR-18です。

それは平凡なる恋の日々   作:夜半の月

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小話27 呼び捨て

 

 

 

 呼び捨て

 

 

 

「ぐりお」

 

 帰宅直後。制服を脱いで私服に着替えたばかりの海野の名を呼ぶカオリナイト。

 

 処は二人の部屋、海野は緑と橙を基調としたセーターに、青いジーパン。カオリナイトはいつもと同じ赤色の露出過多なワンピース姿。

 

 特に代わり映えのしない日常の風景だろう。

 

「はい?」

 

 呼ばれた海野はカオリナイトの顔を見つめる。

 

 ぐるぐる眼鏡の奥に隠された瞳で、自身の恋人にして、婚約者にして、奥さんである、妖艶で美しい大人の女性である彼女を見つめる。

 

「ぐりお」

 

 また、カオリナイトは教え子であり、恋人であり、婚約者にして夫──海野ぐりおの顔を、彼女自身の紫色の双眸で見つめながら名を呼んだ。

 

「はい。如何されましたかカオリナイトさん」

 

 見つめ合う二人。海野とカオリナイト、二人の部屋で。

 

 奏でられるのは色気を帯びた声音と、声変わりを終えてそれ程の間を置かない、幼さを残す声音の掛け合い、ハーモニー。

 

 宛ら恋人同士が名を呼び合って、呼び合うことで愛の交換を果たしている様な。

 

 しかし、カオリナイトの妖艶な美貌にはその色はない。

 

 最近は大分と緩和され、多種な感情を浮かべるようになった、物を語るようになった表情には、不満の色が滲み出ている。

 

 美人が怒ると怖いと言うが、海野のぐりぐり眼鏡の幼い顔には少しおっかなびっくりの表情が浮かび上がる。

 

「ねえぐりお」

 

 三度呼ばれる海野の名。今度は問い掛け。

 

「私とぐりおは恋人よね?」

 

 カオリナイトと海野ぐりおは恋人か? 知っている人なら誰でも言うだろう。恋人なんて通り越えた夫婦関係であると。

 

 口付けの回数も、愛し合い求め合う回数も、恋人の域を超えている。否、或いは彼女と彼はただそういった関係な今が普通なのかもしれない。

 

 だが、そういう話しではなかった。彼女が問いたいのはそんな当たり前のことではない。

 

 勿論、海野もカオリナイトという女性を愛するひとかどの男の子。

 

 彼女の問いかけが恋人かどうかの確認のその先にあると勘付いた。

 

「は、はい。ボクとカオリナイトさんは恋人です。家庭教師と教え子で、家政婦さんと世話をされる子で、婚約者で夫婦です」

 

 顔を赤らめて恥ずかしそうに言い切った海野。

 

 結婚はしていない物の関係としては夫婦関係。

 

 心なしカオリナイトの頬も朱に染まり、紫色の透き通った瞳が潤み、揺れた。

 

「そう、私とぐりおは恋人で、婚約者で、夫と妻。進みきった関係よ」

 

 感情的にも、距離的にも、生活面でも、──身体同士でも。

 

 カオリナイトと海野ぐりおは進みきった関係にある。

 

「そう、進んだ関係。これ以上は無い程に深い関係。ぐりお、それを踏まえて私を呼んでみなさい」

 

 彼女を呼べ。自分たちの関係を考えた上で自分の名を呼べとカオリナイトは呟く。

 

 海野ぐりおとカオリナイトは噛み砕いた。噛み砕く間もないだろう関係性。

 

 同じ部屋で寝起き生活をし、共に入浴をし、共に食事を摂り、そして日に三度は愛を交わす。

 

 そこを踏まえて。

 

 海野は。

 

「カオリナイトさん」

 

 呼んだ。

 

 カオリナイト‟さん”と。

 

 

 海野に呼ばれたカオリナイトの美貌に、再び不満の色が滲み出る。

 

「……あ、あの、な、なぁんか怒って、いらっしゃいます?」

 

「いいえ、怒ってはいないわ。ただ、もう少し気を回して戴けないかと考えただけですわ」

 

「気を、回す?」

 

「ふう、……うさぎさんは恋人のことをなんとお呼びしていらっしゃるのかしら?」

 

 息を吐き出し、一度目を閉じ、彼女は愛する少年に声を向けた。

 

「まも、ちゃんさんでしたね?」

 

 まもちゃん。愛称だ。

 

「そう。愛称でお呼びですわね? 将来を誓い合った恋人関係の男性を愛称で呼んでいらっしゃるわ。そして、私たちの関係は──法では未だの話しですけれど事実上の夫婦……愛称の一つ、或いは呼び捨ててみようとは試みないのかしらね」

 

 カオリナイトが伝えたかったことは、さん付けで呼ぶことに対して何か思わないのかという話し。

 

 しかし、それは初心で幼げな少年には難しい話しであった。

 

 元より誰かを呼び捨てで呼んだことが海野にはないのだ。

 

 カオリナイトのことだけは初めて呼び捨ててもいたが、それは時が時でのこと。普段からの呼び捨て等としたことがない。

 

「か、カオリナイトさんのことを呼び捨てになんてっ、そんなの出来ませんよおっ」

 

「どうしてかしら? 世の恋人達は多くが互いを呼び捨てているわ。私も一度くらいぐりおに呼び捨てにされてみたいと思う物よ?」

 

 単純な話しながらもかなりの無理難題。

 

 カオリナイトも分かっていて呼び捨てろと言っていた。

 

「カオリナイト」

 

 誘導する彼女。静かに近づき、そっと海野の身体を抱き締め。

 

「はうっ」

 

 驚き戸惑う彼の耳元で囁いた。

 

「カオリナイトよ……、ほら、口にしてみなさい、ぐりお」

 

 愛するが故に。愛あるが故に。カオリナイトは海野に甘える様に全身で抱き着き、彼の背中に腕を回して、彼の肩に顎を乗せては頬をすりすりとなすり付ける。

 

 そして、耳元で囁くのだ。──カオリナイト、と。

 

「ふ、はわぁっ……ちょ、っと、気持ちいい」

 

 カオリナイトの赤い艶やかな長い髪がさらさらふわふわと海野の鼻腔を擽る。

 

 きめ細やかな白く透き通った頬がぷくっとした海野の頬に擦り付けられる。

 

 カオリナイト自身、いい年をした大人。28歳にもなって中学生の小柄な身体に甘えるというのはどうかと思う。

 

 性格的にも自分の性分ではないと分かってもいた。

 

 だが、その一方、一面で見ればカオリナイトは海野ぐりおの新妻であるとも言える。

 

 新婚なのだから甘えても良いでしょうと強請ってしまう訳だ。

 

「ほら、仰いなさいカオリナイトと」

 

 彼女は幾度となく愛する少年を誘惑する。

 

 頬を擦り合わせ、髪を擦り付け、耳に息を吹きかけて。

 

 恋人の猛攻に汗を滲ませ、身体がかあっと熱くなってきていた海野は。

 

「ひゃい!」

 

 彼女の厚い唇に、はむっと耳たぶを啄まれて、遂に根負けした。

 

 もういい。そんなに呼んで欲しいのでしたら呼んで差し上げますよと。

 

「か、カオリナイトっ!!」

 

 鼓膜に響く自分の名前。

 

「……ん、んふふ」

 

 含み笑いが零れてしまうカオリナイト。ただ、嬉しい。

 

 

 愛し合っている時でなら低くなっているハードルは、その時のみ呼び捨てを可としている。

 

 だがしかし、こうして普通で居る時に、普通である時に呼び捨てられたことは、恐らく無かったように。

 

 あったとしても数えるほど。

 

 それがいま、確かに呼ばれた「カオリナイト」と。

 

 気分が良い。彼女はとても不思議な高揚感を味わっていた。

 

「もう一度よ。私の名前をお呼びなさい」

 

「カオリナイトっ」

 

「んふ、んっふふふふ……」

 

 カオリナイトの美貌に妖艶な微笑みが浮かぶ。妖しげな色香を漂わせながらも不思議と無邪気さをも感じさせる微笑みを。

 

 自棄を起こしている海野は、彼女にされているように、彼女の背中へと手を回して、自分からも磁石のように彼女と身体を重ね合わせた。

 

 海野の手がカオリナイトの長い髪を撫で掬う。

 

 さらさら、するする。

 

 手指の股を滑り抜けていく艶やかな赤い髪。何度も何度も、撫でる。

 

 その艶めかしい手触りを確かめながら彼女と抱き締め合ったまま。

 

「ん、ぐりお、もっと、もっと呼びなさい」

 

「カオリナイトっ! カオリナイトっ! カオリナイトっ! カオリナイト────っ!!」

 

 自暴自棄気味に、恋人にして妻の名前を叫び続ける海野は、彼女の髪を撫でながら、彼女の背中を掻き抱く。

 

 強く強く、小柄な体躯で以て、長身な彼女の身体を掻き抱く。

 

「ぐりお……ぐりお、私のぐりお……ああ、アナタ」

 

 彼女も歩を進めた。アナタ、と。

 

 別に求め合っているわけでもないというのに求め合っているかのような気持ち。

 

 カオリナイトも求め合っている時には海野のことを「アナタ」と、夫を呼ぶべくして呼称する時もある。

 

 しかし、そうではない状況下でアナタと呼ぶことは、やはり無い。

 

 海野もカオリナイトも、共に幸福感で満たされていく。

 

 心が、身体が、喜んでいる。

 

 男と女として。

 

「カオリナイト、ボクのカオリナイト……愛してるよボクのカオリナイト」

 

「私も……私も愛しているわぐりお」

 

 カオリナイトの白魚のような指を持つ手が、海野の背を上背に掛けて抱え抱くように。

 

 海野の発展途上な少年の小さな手指が、カオリナイトの長い髪を巻き付かせたままに、彼女の上体を引き寄せて。

 

 こすり合わされていた頬を離して、少年と女は見つめ合う。

 

 

 終焉の鐘は。

 

 

 厚く赤い唇と、大人には未だ遠い少年の唇が。

 

『ん──』

 

 熱くも静かに重ねられた瞬間に鳴り響いた。

 

 

 

 ◇

 

 

 

「ああ~~~っ、もう~~恥ずかしです~~っ! ボクがっ、ボクがカオリナイトさんのことを呼び捨てにしてしまうだなんて~~~っ」

 

 頭を抱えてベッドの上に伏せている海野ぐりお。彼の頭は、二人で使っている大きな枕に沈んでいた。

 

 思い出しても恥ずかしい。自分が恋人の名を呼び捨てていただなんて。

 

「うふふ、でも私は嬉しかったわ。また一段とぐりおへの愛が膨らんだ感じで」

 

 カオリナイトはベッドに突っ伏す恋人の背をさすりながら、自身の思うところを伝えていた。

 

「ボクらの愛はとっくの昔に膨らみきってますって! これ以上空気を入れたら愛情が破裂して一昼夜求め合ってしまいますよおお~~~っっ」

 

「いいですわ。わたくしをお求めでしたら何時何時であっても受け入れて差し上げましてよ?」

 

 実際に過去幾度もそうなっている。自身とこの少年は愛し合っているのだ。誰の許しを得ずとも求め合うべきで、それを止めることは自分たちにも出来ない。

 

「そんな風にカオリナイトさんがボクを誘惑なさるからあっ! ボク未だ中学生なんですよおっ!」

 

「あら? わたくし以前にもお伝えしていた筈ですわ。求め合うこともまた清い交際であると」

 

 カオリナイトの美貌に湛えられた微笑みは、妖しげでいて喜びを交わらせつ、何処か悪戯げ。

 

 そんな微笑みが浮かんでいた。

 

 その手で海野の頭を優しく撫でながら──

 

 

出してほしいキャラは誰ですか?本当はもっと書きたいですデマンドとかちびうさとか(期待に応えられるかは分かりません)

  • カオリナイト
  • 海野ぐりお
  • ユージアル
  • 天野ぐりかず
  • 地場衛
  • 月野うさぎ
  • ネフライト様
  • 大阪なる
  • テルル
  • ビリユイ
  • シプリン
  • プチロル
  • 水野亜美
  • 浦和良
  • 火野レイ
  • 木野まこと
  • 愛野美奈子
  • 天皇はるか
  • 海王みちる
  • 冥王せつな
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