七夕関連のネタでもあるのですが一日遅れです。
キスばかりでえちいはないです。
部長(織姫)との架け橋は我が娘
今日も今日とて仕事仕事。
と申しましても、やる事と言えばI・E・M本社監査部長のメル=キャリーこと私の妻の雑用係なのですが。
妻と言っても私たちは特殊な関係にあります。
メル=キャリー監査部長は二十代の若いアングロサクソン系の白人でして、国籍はアメリカ。
警察の知り合いに甲子園利緒さんという方がいらっしゃるのですが、その方とも我がキャリー家はお付き合いが有りまして、彼女曰く逮捕できなかった犯罪者のヤンキー。
不良の意味でのヤンキーではなく、本当の意味でのヤンキーだ。アメリカ人ってヤンキーって言われたりしますよね。
容姿はもう美しいの一言、普段着も仕事着も主に黒のレザースーツに身を包んでいらっしゃるのですが、スタイルがもうモデルさん、ハリウッド女優のそれ。
胸はかなり大きく、腰はしっかりとくびれ、すらりと伸びた手足に白磁の肌をしている。白人ですから肌が白いのは当たり前なのですが。
勝ち気で酷薄さも浮かべることもある瞳の色は、透き通った美しい蒼。
蠱惑的な口許に整った目鼻立ち、金色の長い髪は腰を通り越して膝裏辺りにまで伸びている長さをしていて、艶やかな潤いを帯びた美しさをたたえている。
幾度も幾度も美しいという表現を繰り返しますが、綺麗な物は綺麗であって、それ以外の表現のしようも無いから困る。
語彙力が低すぎなのも理解してますけどね、仕方が無いんですよ、元底辺、現底辺の私では。
キャリー家という名の通り、夫の私がキャリー家の婿となってましてね。その関係で監査部長付き雑用係なんて役職を貰ってるけれども要するに平社員。
そして我が家の家長はメル=キャリー。彼女であるのだ、
本当は「家長くらいやってみる? アナタ」と振られたこともあるんだけどね。
いや、七十代半ばともなる私に家長なんて務まらない。そもそもがメルの方がずっと稼ぎも有り、うちの高級タワーマンションの部屋、家はメルが購入した物。
そう、私とメルは半世紀も年齢が離れている。メルに「長生きをしたいなら痩せたら?」と言われてダイエットを始めたけど高齢太りのお腹はこれ以上太らなければ、痩せもしない。たぶん体質。
昨今120年くらい余裕で生きられるようになっている長寿大国と化した日本。アメリカも長寿化していて120,30は普通。
メルは「先に行くのはアナタだとしても私はアナタとずっと一緒に居たいのよ。愛しているのですもの」なんて嬉しい事を言ってくれるけれども。
150歳とか160歳の超長寿の人も居るからあと半世紀は元気に生きられるだろう私でも、私の方が先に逝くのはもうこれ超年の差婚なので仕方が無い。
ただ、それで気がかりなことが一つ。メルは私と一緒に永遠に生きていたいと考えているらしく、生体兵器部門、つまりI・E・Mの裏の部門で不老不死の実験に手を出している。
私は危険だと注意しています。後でどんな副作用があるか分からないと。
不老不死は栄華を極めた人間や組織が必ずと言っても良いくらいに手を出す、悪魔の誘い水。
メルも、メル=キャリーという女性も栄華を極めた側の人間だ。だから手を出そうとしているが、私が引き留めている。
私は私の目の前で書類仕事をしているメルに声を掛けた。
「メル」
「会社では部長か常務と呼びなさい、と言いたいけれど、どうせ重役連中はほとんど帰宅しているし一般社員もほぼ残っていないから、メルでも良いわ」
金色の長い髪をさらりと掻き上げて払いながら、メルはそう呟いた。私はメルの背後でお掃除中。する事が無いなら清掃でもしてたら? という彼女からの業務命令で。
その手を止めて話しかけた。別に彼女は怒らない。事実やることがないからやっているだけで、全く必要の無い作業だからだ。
残業で外は夜。I・E・Mの日本支社ビルも超高層ビルで、支社長室や本社監査部長室は最上階。ブラインドを上げていれば見晴らしはとても良く、この大都市の遠くまでもを見通せる。
空も近い。生憎大都市のど真ん中、空が近くとも街の明かりが煌々と空を照らし、一等星や二等星と言った、明るい星しか見えないが。
「では、メル」
「なに?」
「まだ不老不死の実験は続けているのですか?」
「マウスでね。人体を使った生体実験はしてないわ。それがどうかしたの?」
書類仕事の手を止め、椅子を回転させて私と向き合う彼女。
胸元が大きく開いている黒いレザースーツ、スーツの襟と髪を留めているカチューシャの色はヒョウ柄。後は全部黒。
黒のガーターベルト付きの太股まで届くレザーブーツがエロティシズムを掻き立てる。ブーツ自体は黒寄りのグレーっぽい色。
ああ、我が妻ながら相変わらず美しい女性だねメルは。自慢の妻。簡単に人を殺すような生体兵器の実験を行う怖い人だけど。
「私は素人だから余計な提言とも思うでしょうけれど、不老不死の薬とかが出来てもメルには実験に参加して欲しくないんです。参加しても自己投与はして貰いたくない」
「……どうして? 永遠に年も取らず美しいままでありたいという夢が叶うかも知れないのに? 薬か何かが出来たら私はアナタにも投与するつもりよ? だって、愛するアナタと永遠に一緒に居たいもの」
そうか、メルの希望には、若さを保ち、永遠の命を得ることだけではなく、私と一緒に居たいといった女心もあったのか。
嬉しさと背徳感が混ざり合った不思議な感覚に襲われる。
もちろん、それは出来る事ならば、可能であるならば私だってずっとメルと一緒に居たい。
通常ならどうあっても死が私たちを分かつ。逃れられない決定事項だ。生物である以上は逃れられない運命。
プラナリアという生物が永遠の命を持っているとか言われているが、案外実験にはその生物が使われているのかも。
「そのお気持ちはとても嬉しいです」
私はメルの手を取り、彼女を椅子より立たせる。
ブルーカラーな作業服の私に対して、レザースーツのエリートなメル。対照的な私たちはどうして出逢い、結ばれたのか?
今でも彼女の様なアングロサクソンの美女が、自分の様な見目の悪い高齢太りな日本人の私の妻である事が、時々信じられないことがある。
私は長い長い白昼夢でも見ているのではないのかと。
そんな話を彼女にしたら、頬をつねられて「目が覚めたかしら? ここ現実なのだけれどね」なんて戯けられて、呆れられた事があった。
「でも、私はその生体実験、あまり良い感じがしないんですよ。不老不死って栄華を極めた人達が必ず追い求めると言いますけど……、メルもまたそちら側の人間です。だからこその落とし穴があるのではないかと」
「落とし穴ってなに? 私自身のこの身がもう完成された生体実験の結果なのよ? アナタもご承知の通り、M・Dという生体兵器のホルダーなのよ私は、ね」
そんな自分なら、新たにして究極の実験である不老不死実験に参加しても良いのでは? と、彼女は言う。
ええそう、彼女はまだ実験に正式参加はしていない。I・E・Mの大幹部である彼女にだからこそ、不老不死の実験の話が降りてきているだけ。
マウス実験に参加しているのがその証拠だ。正式参加となればM・Dの様な人体実験に移行したとき、その実験の被検体となるか、完成品の投与者となる。
成功すればそれは凄いことだろう。人類の夢の一つである永遠の命が手に入るのだから。
だが本当に、確実に成功するという保証はあるのか? 失敗すれば? どんな副作用が待っているか分からない。
生体実験を繰り返すI・E・Mはその目標の着地点の一つに不老不死があるのだろう。
嘘か本当か、会長自身が生体実験に参加しているという。というか、メルが言っている以上は本当のことなのだ。
会長は死にたくないのだ。いや、人間誰だって死にたくはないさ。私だって死ぬのは怖い。
「不老不死はM・Dとはレベルが違います」
私はメルを抱き締める。
「あっ……」
何もしない。ただ抱き締めるだけ。こんな時にそんな気分には成れないからね。
彼女の背に回した手で、彼女の真っ直ぐな長い金色の髪を優しく撫でながら、私は伝える、自分の気持ちを。
「見目の悪い上に高齢者な私ですが、最近は体力も付いてきました。後50年程度で死ぬつもりはありません。160まで元気で生きます。もう一人二人、子供も欲しいし、孫やひ孫の顔だって見たい。そこにメル、貴女も居て欲しいのです。不老不死なんていう、これまでにも様々な研究機関が試みて悪い結果しか残していない生体実験に正式参加するなんて仰らないで下さい」
「だけど、ずっと一緒に生きていけるチャンスなのよっ、私はアナタとずっと一緒に居たいし、若いままの私を見続けて欲しいのよっ」
「五十歳も年下なんですからメルはずっと若いままです、それでも実験に参加したいと言うのならば、不老不死ではなく、若さを保つ不老の実験とかに参加して下さい」
「不老の実験……」
「無いのですか?」
「あるけれど……、危険度も低いけれど、不老は永遠の命じゃないわ。病気で死ぬことも、事故で死ぬこともある、不完全な永遠の命よ」
「不完全な永遠の命……」
どんな状況下に置かれても死なない永遠の命ではなく、溺れれば死ぬ。出血多量なら死ぬ。重い病にかかって手遅れなら死ぬ。必ずや死が付きまとう。
つまりは今と同じ。普通の状況と同じでただ年を取らないだけ。
「それで……それで充分じゃないですか」
「え?」
「事故に気を付ければ良い、紛争に巻き込まれないよう注意すれば良い、病気にかからないよう健康志向で、心掛けていれば若さを保てるのなら、年を取らないのならば、それで良いじゃないですか。今まで、これまでと同じように生きていけば良いだけなんですから」
「アナタ……、アナタはそんな不完全な永遠の命でも良いって言うの?」
メルの蒼い、青い瞳が私を見つめる。常に強い女性だとばかり思っていた。
でも人間いついつでも強いという訳じゃない、彼女も弱いところがあったのだ、愛なんて知ってしまった所為で。
だけど、愛があるから幸せでもある。こうして触れ合える。
私がメルを抱き締めているように、メルも私を抱き締め返してきた。
背に回る彼女の手が、私の背中をさすり撫で、私を心地良くさせてくれる。
彼女の豊かな胸が、私の少したくましくも成れた胸板に当り、お餅のように押し潰れる。
私が回す手は、メル=キャリーの金沙の川の中。その流れに従うように髪に指を絡めては撫で梳いている。
私という老木が長く続く金の髪、メル=キャリーの名を持つ河川の流れに身を任せているかのようだ。
艶々でさらさらの、触り心地が良い流れの中を、私の手指は上流から下流へと抜けていく。
気持ちいい感触なのに、性的な刺激を受けているはずなのに、本当にそういう気分にならない。
唯々メルとこうして、メル=キャリーという私の妻とこうして抱き締め合っていたい。
「不完全な不死でも不死は不死。死なないように気を付けて生きていけば良いんです、それでも死んだのならそれはもう寿命と割り切るしかないでしょう。リスクは?」
「不老の生体実験はほぼ完了しているわ。今、選別された被験者の実験に入っているところ。細胞から各種の測定を行い一日も、一分一秒も年を取っていないかの判定をしているところよ。リスクもほぼ無さそうね、度合いで言えばM・Dレベルかしらね」
「M・Dレベルって充分危険では……?」
「ふふ、アナタと抱き合っているのはそのM・Dの被験者の成功者よ? M・Dの被験者は特別な能力を持っているから一人被験者に混ざっているわよ。どうも成功しているようだけれど、上は不老ではなく不老不死が飽くまでも欲しいようだから不老の上を目指しているけれど。アナタは危険だと。素人のアナタが危険だと言うのね?」
「はい、言います。言い切ります。絶対に何らかの大きな副作用があると思います。不老実験が確実な成果を持っているのなら数年待って不老実験の参加と投与は、慎重に見極めながら許可します。メルが望むのならば不老不死の研究への参加までは許可します。ですが不老不死薬の投与までは許可できません。慢心は身を滅ぼすが当て嵌まる。貴女は何事にも強気で進んで御自身のお身体すら差し出す。ですがその結果貴女に、メルにもしもの事があっては、私は――」
恥ずかしながら、涙が零れた。
メルのいない人生、そんなの考えられない。
私はメルと平穏な人生を送っていきたいのだ。
つまらない男だと詰られても良い。人間は挑戦を続けるからこそ進化してきた。それは仰る通りそうなのだろう。
M・D兵器のホルダーは皆それだけで特別な能力を持つという。調べたところ、これは嬉しい話だが、メルは現在でも若さを保ち続けているのだという。
それが外見年齢なのか細胞レベルでなのかと言えば、残念ながら活性化している細胞の状態から判別するに、寿命が確実に常人よりも200年以上は長く、且つ見た目の年も取らないだけで寿命は来るという。
他にも特別な能力があるかも知れないので一年ごとの精密検査は受けるらしいが、つまり上手く生きれば、メルは350歳前後までは生きられる超長寿の人間。不老長寿という能力者でもあるのだ。
これに不老実験で薬の投与が成功すれば、真なる不老となり、怪我や病気さえなければ永遠に生き続けられるようになれる。不老不死ではないが、限りなく不老不死に近い人間となれる。
そして、不老についてはメルは適合者の可能性が限りなく高いと。
命としての寿命が350年、若いままの体力と肉体のまま350年生きられるのならば、チャンスはいくらでもあるだろう。でも不老不死はダメだ、人間が手を出してはいけない類いのもの。
といって、すでにI・E・Mは人間が手を出してはいけない禁断の領域を幾度も侵しているわけだから、上は不老不死プロジェクトを諦めないだろう。
不老が終われば不老不死の実験を益々進めていく事となる。不老不死は人類の夢だから。
あと四方山話としては、メルと交わり続けている私はメルとの相性的にM・Dたちの活性の元でもあるらしく、私まで被験者リストに上がっていたらしい。彼女が速効で削除したとか。
その時だった。
すりすりと頬を擦り込まれたのは。
白磁の柔らかく温かい潤いを湛えた彼女の頬が、私の枯れていた、今は若返ったかのように体力漲る男となった私の頬に、すりすりと擦り込まれる。
「嬉しい……、私を愛してくれているのね。アナタの溢れる愛を毎日受けていても、私は愛に飢えているわ。愛なんて感情、二十何年と生きてきているけれど知らなかったもの。……男に愛される。アナタというただ一人の男に愛される事が、これほどに幸せな事なのだと、毎日味わっても尚足りない」
幸せとは、愛とは何?
彼女の質問に私は答えた。
「私と貴女の幸せとは、平凡な日常を生きながら、愛を交わし膨らませ、大きく育てていくことです」
「アナタは永遠に私を愛し続けてくれるのね?」
「はい、永遠に貴女だけを愛しますメル=キャリー」
私がフルネームで呼び捨てにすると彼女はふふっと微笑む、彼女ほどの美女の微笑みは破壊力がありすぎて、中々に耐え難い。
その気は無いというのに愛し合いたくなってしまいます。
「ああ、アナタ……、私に水を掛けた清掃員、私をイマダから救ってくれた男、私のM・Dの生体エネルギー補給要員にして雑用係。そして私の夫……私に愛を教えてくれた人。私もアナタを永遠に愛するわ……。アナタ……」
んっ――。
重なる唇、重なり合う私とメルの唇。以前のようなカサカサだった唇じゃない、まるで若さを取り戻したかのような私の唇と。
甘酸っぱくて瑞々しい、若さ溢れるメル=キャリーの唇が、静かに啄まされ合う。
誰も居ない本社監査部長室で、私とメルは静かな愛の時間を送り過ごす。
「んっ、あ、あむっ」
啄ませるだけだった口付けは、彼女の側より均衡を崩され、彼女の舌が私の唇を無理とに押し開けて、口の中に入ってきた。
お帰りなさい。それが私の想いだ。キャリー家の家長は飽くまでも私の妻であるメル=キャリー。私は入り婿さんに過ぎない雑用係。
だから、お帰りなさい――それが、私が彼女に対し掛けるべき言葉。
歯茎をさらりと撫でられていく。メルの舌の感触が心地良く、背筋をぞくぞくとした感触が襲い来ては、私の興奮を誘う。
そんな事にはお構いなしの彼女、口の中全体を一通り舐めてくださり、唾を付けていく。
この人は私の物だから、とでも言わないばかりの濃密なるキスは続けられる。
下の裏筋をペトッと、触れ合わされた彼女の舌は、優しく撫でるように私の舌の裏筋を、舌先に向けてなぞり上げてきて、このぞくぞくとした感触を増幅させていき。
最後に仕上げとばかりに舌を絡みつけられ、絡まった舌同士がちゅるちゅると音を立てて、お互いを抱き締め合った。
私とメルが今こうして抱き締め合っているのと同じように。
「んんっ、ちゅっ、あむっ」
メルはアメリカ人だ。
アメリカ人はキスなんて挨拶だという人も居るだろう。
だけど、だけどこれはけして挨拶のキスではないこと……、受けている私自身が分かるし、行っているメル自身が分かっていることだろう。
このキスは、この深い口付けは、愛し合う者同士が、その心に持ち抱きうる愛をパートナーに伝えんが為の口付けなのだと。
家族愛のそれではない、母性愛のそれでもない。
男と女、一人の女として、私という一人の男を愛して下さっているからの、熱く深い口付け。
私の口内にメルの唾液が蓄積していく。絡み合わされ締め上げられつつ、するするにゅるにゅると私の舌と撫で合わされていた彼女の舌が解かれて、私の口内に溜まったメル自身の唾液を舌で送り出すように、奥へ奥へと舌先を巧みに使って唾液を誘導、流し込んでくる。
「ごくっ、こくんっ」
私はその唾液を、彼女と私の唾液が混ざり合わされた、甘酸っぱい味の唾液を嚥下していく。
愛する妻の唾液を飲まない夫は居ないでしょう。居たらもうその夫婦は残念ながら愛が冷めていると、私は勝手に考えます。
たとえ唾液、ただの唾であろうとも、愛する女の身体の一部。
これを飲まないなど男失格であるし、私自身も是非に飲みたいところです。
「ごくっ、ごくんっ、ごくっ……」
ああ、全て飲んでしまった、彼女の甘酸っぱい唾液を。
すると彼女は満足したのでしょう。私の口内より舌を引き抜かれていきますが、私はその舌先に自分の舌をくっつけたまま。
「んん――っ」
今度は私から彼女の口の中に侵入。
背を抱き合うお互いの手の力が一瞬弱まり掛け、また強く抱き締め合う形になった。
作業服越しにであっても、メルは私の背中の熱を感じ取ってくれているだろうか?
私はメルのレザースーツ越しにでも彼女の熱を感じ取れている。暖かい身体。
抱き締め合うことで身体の前面は衣服越しに触れ合っているが、先ほどよりメルの身体の熱が急上昇しているのが良く分かるのだ。
豊かな胸の柔らかさを感じつつ、その胸その物も熱を帯びていて。
体温計で測れば今のメルの熱は、軽く37℃を超えているのではないだろうか?
「んちゅ、ふううっ、あ、ンっ」
私の舌はメルの舌先とぴたりと付け合っていたので、するっと、彼女の口内に入っていけた。
口内に入ってまず行うことは、歯磨き。
「んっ、んんっ」
舌先でメルの歯並びの良い歯を綺麗になぞって、キレイキレイにしていくのです。
虫歯になってはいけませんからねって、まあ、年寄りな私の方がリスクが高いので、メルはいつもキレイキレイにしてくれているのですが。
私も同様にメルの歯を、奥歯から前歯。反対側の奥歯に抜けて撫でていき、今度は反対側の奥歯より同じコースを通って始めの歯へと逆戻り。
次いで歯周病にも気を付けましょうと、歯茎をなぞります。
「んちゅうっ、んっ、あむっ」
メルのくぐもった声が耳に良い。この声をいつまでも聞いていたい気持ちになる。いや、聞こうと思えばいつでも聴けるのだ。私がその気になりさえすれば。今はそうでは無いだけだ。
続き、歯茎を右から左、左から右へ、優しく丁寧に撫でてあげながら、私の唾液を塗り込んでいく。
この白人美女は私の物なのだ。メル=キャリーという女は私という男の物なのだとマーキングをするかの様にして。
実際にマーキングしている、続いて口内全体を探りつつ、メルの舌を探り当て、彼女の舌の裏筋をなぞり上げては自分の女だという独占欲の元、自身の唾液をたっぷりと塗り込ませているのだから、これをマーキングと呼ばずして何と呼べば良いのやら。
「んっ! んんっ!」
感じている声が本当に心地良い。性交はもちろん、こういった愛し合い方も良い物ですね、メル。
性交のうち、M・Dへの生体エネルギー補充行為は補充行為で別物として、しっかりと愛し合う意味での性交とはまた違う、口付けだけの触れ合い。
彼女の舌の裏筋をなぞり上げ、なぞり上げ、もっとなぞり上げ。
「んっ! んんーっ!」
ああ、気持ちいい、心地良い、こんな平穏な愛し合える時間が何よりも愛おしいんだ。
この時間を崩してしまう、メルの身に何かが起きてて仕舞うかも知れない薬の投与なんてさせたくない。
本音で言えば、私はメルと別れたくない。永遠に一緒に生きていきたい。その為の不老の実験になら被検体になっても良い。
しかし、どう考えても実験事故が起こりそうな不老“不死”の薬の投与だけは見送らせたい。
私の真剣な言葉ならば彼女は聞いてくれる。
私を愛して下さって居るからこそ、彼女は私の真面目な意思の籠もった言葉だけは必ず聞いてくれる。
不老不死? 素人の私にだって何となくだが分かる、大きな副作用が必ず待ち受けていると。もしも副作用が無いとすればM・D実験同様に奇跡的確率。
だと、私が勝手に推測している訳だけれど、どうなのだろうか?
「んふぅぅぅっ!」
舌をなぞり上げていた仕上げに、絡みつかせて締め上げた。
優しく優しく、愛し合う私たちに相応しい交合の時の様に優しく。
「ん……、んっっ……」
メルのくぐもった声が落ち着きを取り戻す。先のイク寸前のような声ではない。イッた後の静かな余韻のような。
ちゅく、ちゅくと、舌を絡ませ合ったままに互いを優しく愛撫し続けた。
五分はそうしていた。メルの口内で五分ほど私は滞在していた。
キスのために閉じていた瞳。薄目を開けてみると、彼女の長い綺麗なまつげを間近に捉えることが出来た。
ああ、本当に美しい女だよ私の妻は。
彼女は落ち着いた様子で瞳を閉じたまま。視界の下の方に捉えられるかと思った白磁の頬は見えなかったけれども、きっと赤く色付いていることだろう。
膠着状態は、私の側より解かれる。
「んんっ……」
絡ませ合わせ、擦り合わせていた舌を解き、彼女の口内に溜まっていた私の唾液を、私は彼女の口の奥へざあっと流し込み始めた。
「んううっ」
彼女は少しの驚きを持つが、直ぐさま受け入れてくれ、唾液を嚥下し始める。
「こくんっ、こくんっ」
ああ、飲んでくれている。私の唾液をしっかりと呑み込んでくれている。味わってくれているだろうか?
もう何年もの間こんな関係は続いているけれども、熟年夫婦とならず、新婚夫婦の様な関係で居られるのは嬉し恥ずかしだった。
メル、メル=キャリー、監査部長、私は貴女を愛しております。
「こくんっ、こくんっ……こくっ」
メルの嚥下が止まり、彼女の口内に溜まっていた私と彼女の唾液の混合物は、全て彼女が飲んでしまった。
その時が来る。
「んっ……」
静かに離れ行く私たちの唇。銀色に輝く架け橋が、私とメルの唇の間でつつーっと長く延びる。
どれくらいの時間キスをしていたのだろうか? こんなに唾液がねばねばになるほど、口付けの時間は長かったと言うことだから。
恐らく余裕で十分は超えている。私たちは一度愛し合い始めると周りが気にならないくらいに深く愛し合う。
口付けもまた愛し合うという時間には違いない。
「……」
「……」
どちらとも声を発しない。その間もそれ程距離の空いていない彼女の顔は、頬は、鬼灯色に染まっていてとても綺麗で妖艶だ。
つーーっと、垂れ落ちていく唾液の架け橋が胸の辺りまで落ちた頃、彼女は口を開いた。
「……不老不死の実験、私自身への投与は止めておくわ。それがアナタのご希望なのでしょう?」
「は、はいっ!」
二人共に喋ったことで垂れ落ちていた透明で銀色に輝く架け橋がプツンとちぎれ、メルのレザースーツの胸元に雫を残し、私の作業着に染み込んだが、お互いそんな事は気にしない。もう、慣れている。
「不老不死は副作用の可能性、か、素人目に見てもそう感じるのならリスクが高いわね。まあ、危険な生体実験をこの私自身の身体でも繰り返してきてM・Dなんて物を操れるようになったから、感覚がおかしくなっているのかも知れないわ」
「そうですよ。不老の実験で成果が出ているのならばそちらに切り替えるべきです」
「その代わり、アナタにも付き合って貰うわよ?」
「ええっ?!」
私までですか?
「当然でしょう? リスクがないなら不老実験の被験者として付き合って貰わなきゃ……私に永遠の愛を誓ってくれているのでしょう?」
依然として抱き締め合ったままで居る私たち。私の背に回されているメルの手が強く抱き締め私の背をさするように動かされた。
私もメルの背に回した手で、彼女の金色の長い髪を、優しく優しく繰り返し撫でて撫でて、五指を差し入れて髪に絡ませ撫で続けながら伝えた。
「もちろんですよ。いつも言っているでしょう? 私はメル=キャリー監査部長に永遠の愛をお誓いしていると」
昨日今日、この一生ではない。死んでも尚、メル=キャリーただ一人だけを愛し続けるという約束を交している。
馬鹿な話だが、契約書まで書いたりした。この契約は永遠なのだ。
「お付き合い致します。……妙なリスクが無いこと。これが最低条件ですが。もちろんメル、貴女が危険であってもダメですよ?」
「わかってるわ……実験が成功すれば、不老になるから病気と怪我と事故にさえ気を付ければ永遠に生きられる。不老実験の方は確実性が得られたなら表舞台に出てくるかも、ね」
人類皆不老。結構なことです。人口の増えすぎで宇宙進出も進むし、宇宙関連の分野でもI・E・Mはかなり先を突っ走っているから、100年以内の月移住、火星移住も可能となるかも。
食事は嗜好品になる時代が来るのだろうか?
◇
――ああーっ! パパとママまた抱き合ってるーっ!
「わっ?!」
「きゃっ!!」
本来ならココは驚いてお互いに離れるところだろう。
だけど私たちは違う。まあ他にもいらっしゃるかもしれませんがね。逆により強く抱き締め合う形になるんですよ。
声のする方を見ると、この監査部長室には勝手に入れないはずなのに、入室してきたあの子の姿。
真っ直ぐな長い金色の髪は腰下まで届き、瞳の色は蒼い色。顔立ちはメル=キャリーをそのまま幼くした顔立ちで、背は幼稚園児くらいで実際に幼稚園児。
名前をフルネームでアリス=キャリー。
私とメル=キャリーの間に産まれた娘。
メルが産んだ私たち二人の子供だ。
もう四歳児で立派な幼稚園児でもあった。
何故彼女がここに居るのかというと、能力実験のために、会社に呼ばれていたから。
連れてきたのは私たち。
この子は僅か四歳にしてテレキネシス(サイコキネシス)つまり念動力。手を使わずに物を動かせる力と。
パイロキネシス。何も無いところに火を、炎を発生させる超能力を併せ持つ、Dual person with supernatural powerだ。複数の超能力が使える能力者。
メル=キャリーという能力者の才能を思い切り引き継いだ娘で、その能力の制御実験をしていたのだ。
普通に育てて行きたい私としては複雑ながら、普通ではないからこそI・E・Mの施設を頼らざるを得ないし、メルを、つまりI・E・Mの裏を頼らざるを得なかった。
能力が暴走して人でも殺したら大変だからね。
それで社に来ていて先ほどまで実験中だった様だけど、彼女の能力制御実験が終わるまで残業していたのだ。
可愛い我が娘をこんな何百mの高さもある怪しい超高層ビルの研究所に置いて帰れるか。
「ママ、パパ、あいしあっていたの?」
この子は意味も分からずこんな言葉を使う。私たちの悪い影響だ。愛し合うのは良いことなんだけれど、こんな幼い子供が使うにはませすぎているだろう。
利緒さんところの娘さん、美緒ちゃんもませてる方だと思うけど、うちの娘は輪を掛けてませているような……。
「アリスっ、勝手にお部屋に入って来ちゃダメでしょう!」
抱き締め合ったまま首だけをアリスの方に向けて言っても説得力がありませんよメル。
「アリスちゃん、お部屋に入るときにはノック。超能力で開けてはいけません」
私もメルと抱き締め合ったまま何を言っているのだろうかと思わなくも無いけれど、仕方が無いのだ。愛する彼女と離れるのが嫌だから……。
「はーいパパ。……でも、ママとパパ、織姫様と彦星様みたいだね。だってぴったりくっついてるんだもん」
ああ、そう言えば今日は七月七日か。
七夕である。
「オリヒメとヒコボシ……ああ、タナバタね。アルタイルとベガのことでしょう?」
「アルタイルとベガってなーにママ」
とててと抱き締め合っている私たちの間に割り込んできたアリス。
ここで漸く名残惜しげに身体を離した私とメルは、降ろされたブラインドの窓のところまで行き、ブラインドを上げた。
社の最上階付近。この高さなら誰にも見えないだろう。見えても他人の事なんて気にしないだろうし。
「アリス、良く見なさい、お空の彼処に光っている星がアルタイル。その近くで光っている星がベガ」
生憎とこんな大都会だ。明るすぎて空の星なんて碌に見えやしない。流石に一等星クラスの星は見えるけれどね。
「あれ、先生の言ってた天の川が無いよ?」
小さな子供には星だけじゃ意味が分からないだろう。
でも残念ながら、この大都会で天の川は見えない。
するとメルがしゃがみ込んでアリスと目線を合わせながら言い聞かせる。
「川は見えないけど、あの間には大きな大きな川が流れているの。でも曇ったりしているとオリヒメとヒコボシは逢えなかったりするわ」
「かわいそう……」
「でもねアリス。そんな時には川の上にカササギが飛んできて橋を架けてくれて二人は逢えるようになるのよ?」
七夕のお話は所説あると思うけれど大筋ではメルの言ってる感じだろう。
「でも、一年に一回しかでーと出来ないんだよね。ママとパパはいつだってあいしあってるのに」
ボッと赤くなるメル。私も顔が熱くなる。娘に醜態を知られているから恥ずかしい事この上ない。
「で、でもほら、」
ブラインドは上げたままアルタイルとベガを見遣りつつ、メルは無意味なことを言った。
「ママとパパは今離れているでしょう?」
口付け合い愛し合っていた私とメルを、先ほどアリスが引き離したのだ。
別に怒っちゃいない。可愛い娘なら仕方が無いしね。
するとアリスは、立ったままで居た私の手を取る。
「どうしたのかなアリスちゃん?」
「パパはそのままで居てね。ママは立って」
私とメルは顔を見合わせる。何しようとしてるのかしら? さあ? 目で語り合うと、メルは急かされて立ち上がった。金色の長い髪がさらりと流れる。ああ、メル、美しいな……。
「ママは織姫様。パパは彦星様。ママとパパを繋ぐ橋が私、えへへ。これでいつもと一緒だね」
「……」
「……」
私たちは見つめ合い、そしてアリスを間にして近寄りつつ。
「ヒコボシ様、今日も逢えたわね」
「織姫様、今日もいつものように」
甘い口付けを交し合った。
「えへへ、ママとパパはいつでも逢えて良いね」
そんなアリスの短冊に書いた願いは。
『ママとパパがずっと一緒に居られますように』
であった。