部長、がんばりました
なんとかする。そう仰った部長……メルは、まず投げ出していた両手を布団に着き、寝ていた態勢から起き上がった。
反動で密着した接合部、つまり私の男根が入る彼女の華唇が股間と共にぐっと押し出されてくるわけで。
「う……んんっ!」
奥の方で吸い付く子宮口を更に突き開く形となり、もろにその感覚を味わう事となる彼女は起こした上半身と首を反り跳ねさせて小さく喘いだ。
一方の私は私で、感じて締まる肉圧に総毛立ち、身を震わせながら身体を硬直させた。
油断すると今にも射精を行ってしまいそうな快感。
それが目的の性交だというのに思わず堪えてしまう。
「はあっ、はあっ、……さて、と……。それじゃ、あなた……私を抱き締めなさい」
「は、はあ……抱き締める、……ですか?」
赤い頬に流れる汗が雫となって落ちるのを気に留めず。
「そう……こうして、腕を回して」
メルが私の背に腕を回しつつ。
「しっかりと、抱き締めるの」
私の身体を挟む形に投げ出されていた両脚を、丁度赤ん坊が母親に抱き着くような態勢で、私の腰に巻き付かせてきた。
私も言われるままに彼女の背中に腕を回してみると、背に流れる金色の長い髪が手の平に触れ、さらっとした上質の絹糸のような感触を伝え来た。
指を差し入れて数回、その金糸の触り心地を楽しむ私。
その間の空き方、髪に触れられる感触を感じ取っているはずのメルから注意は飛ぶことなく、数十秒程度の戯れの後。背に流れる髪の下、彼女の背中に直接手を添えてみる。
柔らかな金糸は手の甲に触れる形となり、変わって手の平に感じたのはレザースーツの感触だ。
身体にフィットした、彼女によく似合う高級感溢れる黒のレザースーツ。
その服越しだが、背に直接触れた私は、彼女の身体を自分へと引き寄せ、抱き締め合うことで最も密着した態勢となる事が出来た。
大きな胸が私の胸板に押し付けられて、その温かみと弾力を直に伝えてくる。
メルの色香、女の匂い、死ぬまで縁のないものと思っていたものがいま、私を包み込んでいる。
「あ、温かい……、柔らかいです……メル、貴女の……温もり、中も、外も……すべて……」
厚手のレザースーツが無ければ、肌と肌で触れ合うことが出来たならば、どれだけ幸せで心地良い気持ちになれるのだろうか。
想像しただけでも気分が高まる。
こんな枯れた老人の私が、彼女のような女性とこんなことになるなんて。
彼女と、メルとこうして身体を合わせて、抱き合っているなんて。
リストラされるかもと彼女を怖がっていた自分が嘘のように、いまは彼女を前に幸せだけを感じている。
誰もいないこの部屋。なんの暖かみものないこの部屋に、いまはメル=キャリーという女性が居る。
たったひとり、誰かが居て。
そのひとりと触れ合っているだけで、この大都会の孤独のすべてが消え去ってしまった。
そんな不思議な感覚さえ覚えた。
ああ、私は、それほどまでに孤独で寂しい人生を味わってきたんだなあ。
だが、幸福感に打ち震えている私を余所に。
「感動してるところ悪いけれど……、そこじゃ、ないわ……もう少し下」
メルは場所が違うという冷静な指摘をしてきた。
手を添える、抱き締めるために回したその腕の場所が違うということのようだ。
「もう少し……?」
背中ではない。となると、腰の辺りだろうか?
彼女の身体に触れたまま、その手を下方へと下げていく。
「ん、くすぐったい」
手を添えたまま背中を伝い降ろしていくということは、背中を擽る事とそう変わらない。
こそばゆさを感じたのだろう。
彼女は密着したまま身じろぎをする。
「んぁ……っ!」
それが彼女の身体の奥に収まる私の先を最奥の入り口にこすらせるという二重のくすぐりを以て彼女に刺激を与えた。
「あっ、ああ……ふ、うっ……ん」
喘ぐ彼女は幾重にも重なった刺激に、こてんと頭を私の右肩に載せて息を付く。
「はあっ、はあっ、あなた……、わざとやっているんじゃ、ないでしょうね……っ」
「そ、そんなっ、偶然ですよっ……私も、いっぱいいっぱいで」
70の童貞になにかする余裕も体力もない。
こうしている間にも快感と共に腰はズキズキ痛むのだから。
「……」
右肩に載る彼女の頭。感じる重み。
首だけを動かしてみると碧い双眸が私を見据えている。
「……もう少し、下……お尻を支えるようにしなさい」
「り、了解です……」
頭を私の肩に載せたまま、意図していた抱き方を指示する彼女。
私は従い、腰に添えていた両手を更に下へと移動させて、彼女のお尻を支えるような位置で停止させた。
「あ、あのぉ……メル」
「なに……?」
「これでは、抱き締めると言うより……お尻を掴んでるだけのような……」
スカートを腰までめくりあげているのだから丸出しのお尻を私が掴み持つような態勢となっていた。
指先、手の平、支える尻の柔らかさを感じる。それはいい。メルのお尻に触れて悪い事など一つもない。
正直このままお尻を揉みし抱きたいくらい、老いた性感はこの柔らかな肉の感触に、若きと積極さを取り戻していた。
ただこれは彼女の仰るような抱き締めるではない、強いて挙げるなら抱えている状態だった。
「それで、いいのよ」
彼女は肩に載せていた頭を持ち上げて私を真正面から見つめながら仰った。
「身体の位置を、入れ替えるの……あなたと、私のね」
静かにゆっくりと、近づいてくる顔。
大きくなる碧い双眸には年老いた老人、私の顔が写っている。
その美貌が間近へと近づき、温かい吐息が鼻に頬に顔に、掛かる頃。
碧い双眸がそっと閉じられて、かさかさした私の唇が、潤いを持つ瑞々しいメルの唇に。
「んっ──」
塞がれた。
「んっ……」
かさつく乾いた唇に触れる瑞々しく湿った唇。
「んん──」
二度、三度、啄まれると、乾いたものに水気あるものを付着させて撫でたとき特有の、引き剥がれるような引っ張られるような感触が、私の唇を覆う。
「ん、ふぅ──」
そうしてメルは私の乾ききった唇を、優しい静かなキスで潤わせていく。
自らの水気、濡れた唇を以て。ただ、触れるだけの、唇だけで啄むキスを、こんな老人に贈ってくれる。
「ん──……、……かさかさの唇、……歳は、取りたくないものね」
憐憫とも、励ましともとれそうなメルの言葉。
しかし優しく微笑むその様子から、どういう意味でもない、ただの言葉のキャッチボールであることがわかった。
「キス……はじめて……です」
小学生時代。好きな子はいた。しかし、告白しても別に好きな子がいるからと断られた。
中学生時代。気になる子はもう別の男子と付き合っていた。
高校生時代。自分に恋人は出来ないと悟った。
大学から社会人、底辺を彷徨い生涯雇用のI・E・M入社で人生の運は使い果たした。
女性との縁なんて無かったのだ。だからこそキスも……。
「だと思ったわ。どう、初めてのキスは? 気持ちいい?」
「き、気持ちいい……以外には……。それと、メルの唇……水気、たっぷりで甘い……です」
「そう……ふふふ、私もそう言ってくれると嬉しいわ」
穏やかな、静かな、だが甘い会話。
年甲斐もなく込み上げてくるものを私は感じていた。
「腰、もうひと踏ん張りくらい持ちそう?」
「ど、どれくらいでしょうか?」
「身体の位置を変えるまでの間、ほんの少し頑張ってくれたら後は私に任せればいいわ」
身体の位置を変える為に一度このまま立ち上がれという。
メルのお尻を抱えたのはそういう意味だった。
つまり赤ん坊をだっこする要領で、メルをだっこして立ち上がりくるっと反転。
私が彼女の位置と変わる形で布団に座り寝る。
メルは私の身体の上に乗る形へと体勢を変える。というもの。
「メ、メル……ちなみにメルの体重は──」
「死にたい?」
「あ、いや、なんでもありません」
メルをだっこする。先程お姫様だっこなんてしてアパートの二階まで運んだ私だ。やってやれないことはない。
それに今度は真正面から抱き合う形。彼女は両手足を私の背と腰に巻き付けしがみついているのだから、さっきよりかは楽なはず。
腹を決めた私はメルのお尻を支える手に力を入れ、脚を踏ん張りその場に立ち上がった。
「ぐっ!! ふんぬうううう~~~~~ッ!!」
途端にずしっと掛かる重みに、腰は悲鳴を上げる。
限界は疾に超えているために相当な激痛が襲い来るのは覚悟していたのでこれくらいなら想定内だ。
「くッううううう──―」
し、しかし、成人女性。痩せていようが重い。
口に出したら殴られそうだがやはり──―重い。
「ほら、しっかりしなさい」
メルはメルで立ち上がった私にコアラのようにぎゅっとしがみついている。
背中に回された手は指を立て爪を食い込ませるように。
腰に巻き付けられた両脚は腰を砕かんばかりに強く締め付けて。
その動作でまた私たちの結合部は引き合い求め合うかのようにぐっと押し付け合う格好となって、私の切っ先がメルの入り口を突き開き胎内まで突き抜いた。
「んっあぁ──!」
切っ先の貫きにあがるメルの喘ぎ、そしてその先に何かが触れた。ぬるっとした何か、暑い熱を帯びている。
先端に触れたそれは私とメルの結合の動きに胎内で揺さぶられ、ぬるん、ぬるん、と先端をくすぐっている。
「え、M・D……ですか、これ? なんか、私のモノの先に、当たってますが……っ」
「うっんん──! あなたの先が、中までっ……入ってる、ようね……っ、だったら、その、当たってるのが……M・Dよ……。胎内では……、休眠してる、から……っ、安心、なさい……っ」
基本、ホルダーの命令がなければ自己防衛に留まるというM・Dだが、胎内に収納されているときは完全に休眠しているらしく、生体エネルギーの自動補給以外はなにも機能しないから安心していいという。
そう聞くとまるで子宮内で育っている途上にある赤子のようにも感じる。
その赤子が私の男根の先に戯れるようにぬるぬると触れている。
考えると地上最強とも呼ぶべき兵器であるはずのM・Dがなぜか可愛く感じてしまった。
と、そんな思考に浸り続けられるほど私の腰にも余裕が無かった。
なんとか身体の位置を変えた私は、メルをだっこしたままゆっくりと腰を下ろした。
「ぐう~~~っ、も、もう駄目です~~~っ!!」
降ろそうとして付いた尻餅。
ドスンッ
「~~~~~ッッッ?!」
反動で走る腰の痛みは強烈で声さえ出ない。
コアラ状態のメルも接合部の突き上げにも似た反動を受けてひときわ大きく喘いだ。
「あううッ!!」
背中が反り、彼女の背後で長い髪が流れる。
下から痛みに耐えながら見ていたその様子に、暫し身体を震わせていた彼女。
「は、あああ──……はあ、はあ」
彼女は大きく一呼吸して、自らがの騎乗する腰の主である私を見下ろす。
「はあ、ふぅぅぅ……、ふう……どう、腰は?」
「もう、駄目です……、本気で、動けません……」
ギックリ腰、とまでは行かないものの、もうさすがに動かせなくなってしまった私の腰。
無理に動けばそれは動けない事もないだろう。しかし激痛に堪えながら動かなくてはならない。
ではそんな痛みでなにかできるのかといえば、なんにもできないわけで、役立たずな老人が一人居るだけである。
充分、充分がんばったのではなかろうか?
すると腰に跨る格好のメルは、そこまで頑張った私に上半身を折り曲げて顔を寄せてくる。
彼女の肩より流れる金糸が私の顔に掛かり、次いでもう一方の肩からもさらりと流れ落ちた髪が、私の顔を覆い隠した。
見えるのは金色のベールで私を包んだ主、メル=キャリー監査部長の碧い双眸を持つ美貌だけ。白磁の肌だけに、染まった頬の赤が目立つ。
彼女は更に顔を近付きつつ、私に頬を触れ合わせてひとこすり。
触れ合う肌、下半身の熱い触れ合いとは異なり、頬による触れ合いには穏やかさだけを感じた。
今田氏の件でお互いに緊張状態だった私たちは、こうして触れ合うことで心が落ち着いてきたのかも知れない。
それとも、いま私が彼女に安心感を抱いていることや、彼女と居ることで孤独感から解放されているように。
彼女も私に対して安心感を抱いてくれているのだろうか?
もしもそうならば、とても嬉しい。
彼女はそうして頬を触れ合わせながら、私の頭をそっと両手で包み込む。
「ん──」
そして一呼吸だけ唇を塞ぎキスを贈ってくれた。
離れた唇。ちょんとこすれた頬。
倒されていた上半身が起こされると、金色のベールも取り払われる。
「よく頑張ったわ……後は、私が……ね」