ご都合設定で超歳の差の純愛です
pixivユーザーのアリーヴェデルチ様の御意見をちょっとした小話にしてみました。
本当に小話で短く濃いとは言えないうえに、全年齢の内容です。
pixiv様にも投稿しております。
部長にもまだ無い引き出し
大きめな襟元は豹柄で、丈が太腿上部までと短いスカートの黒いタイトなワンピース風レザースーツを着た女性がひとり、自室の窓から地上を眺めながら碧い瞳を静かに瞑り考え事をしていた。
着脱衣するときに触るだろう衣服の正面左に付いているジッパーは、しっかりと閉められていて、黒のサイハイソックスもガーターベルトで留められ、着衣の乱れはない。
スーツの胸元からはシースルーの胸部を締める二本の紐が腹部に掛けて垂れ下がり、頭にはスーツの襟と同じ豹柄のカチューシャが付けられている。腰の下まで届く長い髪は綺麗な金髪で染めても居ない地毛。
金髪碧眼の美女は見てくれからしても日本人とは異なる白人女性だ。国籍はアメリカで、アメリカ有数の軍需企業I・E・Mの監査部長兼、現在は日本支社の支社長的な立ち位置にあり、取締役常務という地位に就いていた。
そんな立場に居ながら若干20代後半に入ったばかりという若さ。所謂超エリートな家系で本人も端倪すべからざる才覚の持ち主である。
その女性、メル=キャリーの、なにもなくただ佇む姿は様になっており、衣服の意匠も相まってエロチシズムを感じさせる様相ながら彼女自身はそれを気にするでもなく普段、仕事でもプライベートでも着ていたりする。
彼女曰く「日本人は見た目を気にしすぎる」のだという。アメリカでは多少派手な意匠の衣服などそこらで見掛けられるという。無論地域にもよるが。そんな彼女だが、少し変わった結婚をしていた。所謂歳の差婚なのだが、その年齢が孫-祖父の間くらいに離れている。事実年齢差は凡そ半世紀。
珍しいと言えば珍しいだろう、その日本人の老齢男性との結婚は、仕事上近すぎる関係になったが故の恋心の発露が決め手と成っていた。それは彼女が日本を訪れたばかりの頃、ある事件を起こしその事件の最中に日本支社開発部の部長に襲われるという出来事があった。そこを通りがかりの同社平社員だった老人に助けられて──といった具合の始まりを経て、間もなく仕事上の関係から恋にいたり結婚となったのである。
メルの夫となった老人は、所謂庶民。普通の家より若干貧しい家の出身で、通った学校も普通なら、最終学歴も高卒。本来I・E・Mのような大企業に入社できるはずもないのだが、技術職、それもただの清掃員としてなら別となり入社。現在は主にメルの雑務要員──やはり平社員として変わらずI・E・M日本支社で働いていた。
彼女は今、その老齢な夫との意見の違いで少々考え事をしていた。夫は、彼は平凡な家庭で育った平凡な人。つまり言い方は悪いが凡人である。
だがメルは、英才教育を受けて育ち20代前半という異例の若さで巨大軍需産業I・E・Mの本社監査部長にまでなっていた。
意見の違いとは3歳になる娘の教育について。メルは自らと同じく英才教育を施し、M・D計画の進行状況から考えて、将来は生物工学分野でもより大きくなること確実なI・E・Mの幹部候補となさせるべく育て上げたかった。
しかし夫は、普通の家庭で育ってきた為か、幼い頃からの親のエゴとも言うべき英才教育には反対の立場だったのだ。娘には静かに穏やかに育って欲しいという考えを持っていたのである。
無論、喧嘩にはならない。口論はしても手出し脚出しの喧嘩だけは絶対にしない。単純に素人で老齢の夫に、武術の達人級の実力者である自分が少しでも加減を間違えれば大けがを負わせてしまいかねないからだ。
『メっメルは英才教育を受けてきたかも知れませんが、それをこの子に押し付けるのは間違ってますっ、結果的に正しいとしてもそれは親のエゴです……だと、私は思い、ます』
いつものように自信なさげで、最後は消え入りそうになりながらも自分が示した教育案を否定してきた夫に、つい口調厳しく反論する彼女。
『平凡に育ってきたから凡人そのものなあなたになったのでしょう? 私の雑事と清掃と、それ以外何か会社の役に立てることはできるのあなたに。I・E・Mという大企業に貢献できてるの?』
『でっ、できてないとっ、思われますっ。で、ですが、子供というのは延び延び育つのが一番なんですっ……と、思うんです……部長』
『いつまで経っても治らないわね。弱気になったときに出るその“部長”っていうのは』
『す、すみません……』
そしてそんな二人の喧嘩はだいたい娘が仲裁に入って終わることが多かった。
『ママっ、パパっ、けんかしないで……』
ほぼ99%メルの遺伝子を受け継いだ娘は、夫の唯一の遺伝子である黒い瞳を潤ませて二人を止めるのがお約束。
さすがのメルも自分が腹を痛めて生んだ子供には、とくにこうもうるうると泣きそうになっている娘には弱く。
『わ、わかったわかったから、別にね、パパもママも仲悪いわけじゃないんだから。ねえ?』
と同意を求めるしか無く。
『そ、そうだよっ。私もメルも仲は良いからっ、だから、そんな泣きそうにしなくっても、いいんだよ?』
求められる彼も孫をあやすお爺ちゃんのように、娘を撫でながら泣き止むように伝えて。
本当に仲は良いことをアピールする。
『それじゃ今日もベッドでプロレスごっこみたいなのする~?』
『~~ッ?!』
『ち、ちょっとあなたどうしてッ?!』
『扉が開いてたから昨日こっそり見てたの~♪ ママもパパも嬉しそうで仲良さそうだったからぁ~♪ でもあれプロレス……なのかなぁ~?』
聡い娘に困ったメルは、あれは大きくなってからするものなのよと誤魔化して、とにかく仲は良いから安心しなさいとだけ伝え、もう寝るようにと娘を部屋へ連れて行った。
という出来事があったのだ。
「どうしてあげましょうか。あの子の教育……う~ん」
悩むメル。そこへ、彼女と意見別れしている夫がやってくる。
「メ、メル少しよろしいですか?」
「……よろしいですかって、夫婦なんだから遠慮無く入って来なさい」
「は、はい、しつれい致します」
「で、どうしたの?」
「はい、あの、ですね……あの子のアリスの、娘の教育のことでお話しが──」
「ふぅ、考える事は同じねえ……ちょうど私もその事を考えていたのよ……そんな入り口に突っ立ってないで、こっちへおいで」
「はい……、ではしつれいして」
メルの傍に寄る夫の身体に、メルはそっと身体をもたれかけさせた。
「どうしたものかしらね」
彼はそんなメルを抱き寄せて頭を撫でながら。
「私にもどうしたものやら……メルの方がずっと学歴とか頭いいんですから、引き出し多いでしょう?」
「んもう、馬鹿ねえ。初めてのことなのだから無いわよ子育ての引き出しなんて。これはあなたと夫婦二人で考えるべきことなんだから」
「はあ、確かにそれも、そうですか……しかし私も子育て経験無しの老人ですから……」
悩みながら二人は互いの身体を引き寄せていく。
寄せ合うだけだったそれが抱き締め合いに変わり。
離れていた唇が一つになる。
「ね、あの子の言っていたように、“仲良くしながら”考えない?」
「な、仲良くの、い、意味が違うような……」
「違わないでしょう……♪」
重なる身体。考えても出ないことは、適度な運動と適度な気持ち良さの中で。
そんな二人はいつものように自分たちの愛の交接と、そして、メルの中に収まるM・Dのほどよい栄養補給のための時間を過ごし始めた。
結婚4年目を迎えて益々仲の深まっていく二人の愛の時間。無論言うまでもなく今度こそ念のために扉はキチンと閉めていた。