※この作品はR-18です。

部長、すみません・・・   作:夜半の月

8 / 12
リクエストで描いたお話。
幼稚園・保育園でのことなのでとくになにもおこせないというか。

実際何も起こせません。

バトルもえちーもありません。

精々口喧嘩です。


部長、喧嘩はよしましょうッ! 

 

 

 

 

 部長、喧嘩はよしましょうッ! 

 

 

 

 

 その日はそう、娘の幼稚園の参観日だった。

 

 私は相も変わらずI・E・M本社監査部長……おっと、メルの下で雑務に従事する平社員だが、同時にそのメル=キャリーという女性の夫でもあるのだ。当然の事、保護者として参加する権利があって此処に来ている。もちろんメルも一緒に。

 

 20代前半のアメリカ人女性と、70代に入ったくたびれた日本人の老人、半世紀も離れた年の差夫婦になる切っ掛けはまあ色々あり得ない事が一変に起って、平凡な私が彼の大規模かつ陰惨な事件に巻き込まれてしまったというもので、が、まあ今となっては過ぎ去りし良い──くはないが、まあ思いでの1ページとして記憶されていた。

 

 問題はその妻メル=キャリーと共に娘の授業参観に訪れた時に起きた。

 

「あッあんたはI・E・Mの女部長ッ!!」

 

「おッおまえウォーリアーのッ!!」

 

 廊下で良かったと思うほど喧嘩腰の怒号は、一つ括りにした長い金髪の巨乳女性と、髪は下ろしたままカチューシャで止めているだけの金髪女性。二人の女性が出していた。

 

 一つ括りの女性は警戒しながらこちらを伺いつつ、いつでも動ける態勢で背後を守っている、明らかな日本人女性。

 

 カチューシャの女性はもう言うに及ばず完璧に金髪碧眼の白人である私の妻、部ちょ──おおっとメルだ。プライベートではファーストネーム呼びを徹底しておかないと怒るのだこのひとは。夫婦なのにおかしい、アメリカでは当たり前のこと。とかで、とにかくアメリカの風習を押し付けてくる。私はといえば──さからえるわけがないでしょう。一般人の平社員ですよ私。だからまあ余程でない限りイエスマン。余程でも勇気を振り絞って意見しないと気が持たないという有り様で……。

 

 まあそれはどうでもいいことだ。

 

 ところでこの日本人女性、相当な美貌にスタイルを誇っている、うむ。メル並ではないだろうか。などと一瞬分析してしまった自分を私は恥じた。75にもなってまさか女性の値踏みをしてしまうとは何様だ……。

 

 こんなことメルに知られでもしたら殺されてしまう。このひと、自分の物に手を出されるのを嫌う癖に、自分の物扱いしている私が他の女性社員を見ているだけで減俸とか平気でしてくるから懐が寂しくって寂しくって。

 

「あんた、署のファイルに載ってたI・E・M本社監査部長よね? 警視庁ビル爆破までしてくれて攻め込まれたのいまでもハッキリと覚えてるわ」

 

 警戒する相手に、メルさんもまた日本人女性と同じ様に警戒していたが、何を思ったのかふと腕を組んで余裕の笑みを浮かべる態勢にいつの間にかなっていた。

 

「ふ~ん、で? だからなに? いつの話をしているのかしらそれって。すでにもう何年も昔に私の手配は消えてるのではなくって? 警視庁本庁からそこらの交番に至るまで。無論あなたの勤務している署からもね♪」

 

 あ──、ああ思い出した。あの事件のさなかにメルが先手を打って本社を動かして、本社がまさかのアメリカ政府を動かし日本政府に圧力を掛けるというウルトラCをやってのけていたんだった。お陰でメルの手配は次の日には消えてしまい、善良な一民間人に戻っていたと記憶している。どこが善良かというと何もかもおかしくなってしまうが。きっぱりと私は言う、メルは善良な人間ではないと。

 

 私の知らないところで、私の知っているところで、破壊工作・殺人その他、色々やってますので……。

 

「逮捕も拘束も不可能。第一、私に罪はない──そういうことになっているでしょう?」

 

「腹立つわねその余裕ぶった態度ッ! あんたなんかに御指摘されなくったって知ってるわよんなことはッ!! あんたの裏工作のお陰でこっちは今田ひとり制圧してハイ終わりにされちゃったんだからいまこの瞬間にあんたの顔面にグーパン入れてない自分を褒めてやりたいわッ!!」

 

 がるるると牙を剥く女性。いや分かりますそのお気持ち。メルさんって仕事上はとても厳しいひとですので私も胃が痛かったりしますんで。

 

 時たま、ホントに時たま言い返したくなること私にだって有るんです。そんな感じで女性に同意していると。

 

「利緒ッ、気持ちは分かるけどやめろッ!!」

 

 後ろから女性を止めようとするひとが現れた。

 

 肩まで伸ばしたロン毛と呼ばれる髪型を一つ括りにしている偉い美形の男の人だ。年の頃は女性やメルと同じくらいだろうか? 

 

 右手には私たちの娘と同じくらいの娘の手が握られていた。美形+美形で大層かわいらしい女の子だ。

 

 私のとこは遺伝子の99%がメルのを引き継いでくれたお陰でやっぱり可愛らしい女の子だが、世の中上手く出来てる物だと感心した。

 

「おい利緒マジでやめとけって! I・E・M絡みはこれ以上突けば警察がどうので終わらなくなってマジで日米戦争ンなって碌な事になんねーからやめろって警察庁長官からお達しがあったろ!!」

 

「そんなもんやってみなきゃわから──―」

 

『『わかるって!!』』

 

 私は警察官だという女性、利緒さんを止めていたたぶんこの人も警察官だろう男性と声をハモらせていた。

 

 国防費に70兆も投じるような巨大国家に日本がどうやったって勝てるわきゃーない。

 

 全身全霊を以て断言しよう。第二次太平洋戦争などやらかそうもんなら日本は焼け野原にされるよ再びね……他の何処とやっても良いが、アメリカとだけはダメだ。

 

 私の爺さんが口を酸っぱくして言ってたよ。世界第2位の国から第10位の国が手を組んでアメリカと戦争しても、核無しの通常兵器による戦争なら負けるとか……。

 

「むうううう、じゃあ結局I・E・M──アメ公の勝ち逃げじゃんっ」

 

「アメ公とはずいぶんな言い方だけれど、勝ち逃げっていうのは聞き逃せないわね。あんたみたいな下っ端警官には分からないでしょうけれどうちもねえ、それなりの大損害が出てるのよ」

 

 今井氏の暴走による一連の事件の損害額は、警視庁ビル爆破のそれを大きく上回っていた。

 

 よし、ここはフォローしておきましょうかね。

 

「プロジェクト全体に影響が出たこと、今田氏暴走の損害、計画の再度の見直し、色々ありまして」

 

「へえ、そうなんだ。てっきり勝ち逃げされたとばかり思ってたわ。ちょっとスッキリ感出てきた」

 

 利緒さんは少しばかり溜飲が下がった様子ながら、馬鹿正直に内部情報を謡ってる私を、メルが睨んでいる。

 

 ちょっと怖いがふて腐れたような睨み方なので多分大丈夫だ。やばいときは本当にヤバイと知ってるから。

 

 そのマジヤバ加減は得意の蹴り技を顔の横で寸止めされたときなどがそう。

 

 あのときは生きた心地がしなかった。あれはそう。確か本社のプロジェクトに余計な突っ込みを入れたときだ。

 

『口は災いの元。ジャパニーズの戒めの言葉にあるのでしょう? 私と貴方の関係でもね、ゆずれないところはゆずれない。あなたは平で私は本社監査部長にして常務取締役。キチンと分けて考えなさい』

 

 あの時は怖かった。本当に殺されてしまうかと思った。でもま後に訊いたら旦那にそこまでするわけないでしょと笑い飛ばされたが、本当にそうだったのだろうか? 

 

 と思いつつもその日は帰ったあとに、頭を撫で撫で、首を撫で撫で、口付けいっぱいにそこから最後まで日を跨いでの組んず解れつだったから。まあ、ね。言葉通りなんでしょう。

 

 おっと話の途中だった。もう一個フォローを。

 

「部長、刑事さん達との闘いのあと、今田氏に腹を蹴られたりしてまして……身体疲労しまくりの状態でですよ」

 

 あの日の夜を思い出す。思い出したくもない今田氏の冷たい顔と共に。

 

 でまあ、事の詳細を話してみると。

 

「なーる。それじゃ痛み分けってより、そっちのが痛み増しってことなんだ」

 

 そりゃよかったよかった。そう利緒さんは快活に笑った。

 

 積年の恨みを晴らせた。敵討ちが終わったという感じの様相だ。

 

 そんなに腹が立っていたのかメルとの闘いのこと。

 

 と、今度はメルを見ると。唇を噛み締めて手をグーに握り締めながら全身をわなわなと振るわせていた。

 

 これはまずい、怒り心頭な様子だ。今田氏の話が利いてるのだろう、順当な経歴の中で屈辱を味わわされた唯一の相手だろうし。そんな男のことを思い出させられるような話を持ち出されて、こうなると足が出かねない。

 

 メルは足技の、テコンドー系統の武術の達人だから手癖より足癖が悪い。蹴り一発で相手の首をへし折れるほどキック力がもの凄いのだ。

 

 まさに一触即発──となったところを、フォローするのが私の。それと、どうやら彼、もうひとりの刑事さんの努めでもあったようだ。

 

「んう──!?」

 

 まず聞こえるのはメルの声。

 

「ふむうう──っっ!??」

 

 次に聞こえるのは利緒さんの声。

 

 私と刑事さんが、それぞれのパートナーの唇を塞いでやったのだ。

 

 こんなときにはこうするのが一番効く。愛する女性を愛する男性が、愛を以て制止するのが。

 

 こういう不意のキスを受けた女性は、大抵思考が一時停止するのだ。

 

 それが愛する相手からの物なら、そのあとも滞りなく収まるだろう。

 

 経験はある。ずっと、メルとそうしてきた経験がね。

 

 しかしなんだろうね。

 

「ンっ……むっ……」

 

 あちらは美男美女の美しいキスなのに対して。

 

「はむっ……、ンンっ」

 

 こちらは美醜のキス。老人の上に不細工ですからね私。

 

 メルが超絶美女なだけに恐ろしく様になってない。

 

 ある意味完全に負けているような。

 

 そんなことを考えて居るときだった。

 

「ねえ」

 

 私のズボンを引っ張る少女の声。

 

「ねえねえ」

 

 向こうも男性の方のズボンを引っ張る声。

 

「お口付けたら仲良しさんなんだよね」

 

 娘が言う。

 

「パパもママも喧嘩ダメ」

 

 あちらの娘さんも言う。

 

「「「「…………ここは一時、休戦ということで」」」」

 

 純真な子供の前でいつまでもいがみ合っているのはみっともないことなのだ。

 

 とまあ、一時休戦と成った。

 

 正直言うと、この九千が一生続いて欲しい。刑事さんたちやメルの様に身体的能力のない私は、荒事が苦手なのだ

 

 

 ああ、例の美形青年刑事さんは、利緒さんの旦那さんで、鳴尾祐治さんというらしい。

 

 利緒さん曰く「出逢ったときからめんどくさい男だった」とのこと。

 

 詳しく聞くような間柄でもないので、訊かなかったけれども、なんか色々あったのだろう。

 

 明るく茶目っ気で口より先に手が出る利緒さんと、冷静で冷酷で殺人さえ平気で行えるような超重役なメル。

 

 タイプは違えどお互いに苦労する嫁さんな為か、祐治さんとはその後飲み友達になれたりする。

 

 まったく以て一寸先はどうなるのか分からないものだ。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。