本編(老人がメル=キャリー監査部長を助けて結ばれるまでの部分)は完結しておりますので、後日談のお話しとなります。
部長、なにをなされたのですか?
株式会社I・E・M。
アメリカ合衆国にその本社を置く巨大企業は数々の違法研究を行っている。
国家から、組織から、個人から、あらゆる方面からの依頼を受ける形で。
また、己が企業拡大と業績の為に殺人や破壊活動すらをもしてのけてしまうような、およそ倫理と言う言葉が存在しない会社である。
私は現在そんな恐るべき会社に於いて、日本支社を統括しているメル=キャリー本社監査部長の下で雑務要員として働いていた。
元々私はこの会社の一清掃作業員。70を迎えてなお平社員といううだつの上がらない男だった──のだが、日本支社の開発部の元責任者が起こした事件を切っ掛けに、キャリー部長の専属として取り立てられていたのだ。
とは言え、所詮は雑務要員でしかない。課長職や部長職に就いたわけでもなく、70半ばとなっても立場は平社員のままであったが、だがしかし、私個人としては今の立場で満足していた。
愛する妻と同じ職場で働く。
これ以上の幸せは無かろうて。
同じ職場で働く妻とは無論、専属で雑務をしている以上目の前に居る一人に限られている。
ワンピースの黒いレザースーツにその悩ましげな体を包み、サイハイソックスと繋がるガーターベルトを覗かせた太腿はどこまでも男の情欲を誘う、腰の下まで伸ばされた明るい金色の長い髪を豹柄のカチューシャで留めた白人女性。
I・E・M本社監査部長にして実質的な日本支社長、取締役常務である、メル=キャリーその人だった。
年若く役職も雲の上の彼女と、私のような平社員の老人がどうして夫婦となったのかには勿論の事理由があった。
その理由とは、開発部の事件が起きた年にまで遡る事となる。開発部の事件その物が私とメル=キャリー監査部長──メルを引き合わせ、結ばさせたのだから皮肉としか言えない。
メルは日本支社の開発部の事件に巻き込まれて人生最大の屈辱を味あわされたのだ。
プライドの高い彼女が当時の開発部部長から、一方的な暴力を受けた事。
それはきっと彼女の人生の汚点に違いない。
だが、皮肉というのは、その事が有ったればこそ、私とメルが結婚できたと言う事に他ならず、事件が起きなければ。
私がその事件の最中の彼女が暴力を振るわれていた場面に出会さなければそう、いま現在は無かったのだ。
最も、彼女自身も彼女自身でまた警察への襲撃という事を試み、実行へと移していたので、巡り巡った行いが災いとなって降りかかってきたとも言えなくもない事件であったが……。
数年前、私達はそんな事件のさなかに、必要であったればこそ肉体関係を結び、それがまた遠因となり結ばれた。
メルと肉体関係を結んだ事。それは何も行きずりからでも一目惚れからでも、日本支社開発部元部長の故・今田俊明氏への恐怖からでもない。
Merciful Doom 究極生体兵器M・D──人工的に作り出された生体脳を極限まで凝縮し、チタンで外殻の装甲を施し、念動力(サイコキネシス)で自らを動かす超伝導技術を組み込むことによってプラズマを自在に操る力を持つ兵器が事に至る原因だった。
究極生体兵器M・Dとは、破壊出来ない物などこの地球上には存在しないと言われている程強力な兵器だ。
しかしその強力さと引き替えにして問題点もある。M・Dを扱う事が可能なホルダー=保持者が女性に限られる事がその一つとして挙げられるだろう。
M・Dは戦闘に必要な物以外は全て排除し、通常は同じく生態的な改造を受けた女性の子宮内で、M・D自身の生体維持に必要なエネルギーや酸素を補給するように出来ている。
それにより、単純且つ頑強な構造の実現と小型化が可能となり、M・Dその物の維持に必要な設備やコスト及び移動手段の問題も全てが解決されるようになっているのだ。
M・Dのホルダーが女性でなければならない理由は、女性が生まれながらにして別の生物、つまり自身とは異なる個としての命、己が子を胎内で養育する器官、即ち子宮を持っている為だ。
だが、体内に全く別の生命を己が子以外で人工的に飼い養う。当然この事は肉体の拒否反応や抗体の適合性の問題にも直結しており、9割の女性は不適格となる。
更には残り1割の適格者の中よりM・Dを起動させられるだけの能力を持つ女性など殆ど居らず、といった具合の非常に難しい事情を抱えた兵器でもあった。
メル=キャリ──―メルは、その数少ないM・Dのホルダーの一人だった。
日本支社開発部の事件当時、彼女のM・Dは警察の特殊部隊との戦いにより大きく損傷していた。この損傷を修復する為に彼女の胎内へと収納されたM・Dが彼女の生体エネルギーを大量に吸い取っていたため、呼吸さえおぼつかない状態へと彼女の体は追い込まれていたのだ。
その不意を突かれて今田氏に襲われていたところへ私が通りかかり、私は意図せずして彼女を助ける結果となった。その後、今田氏や警察から逃れようと私の家へと逃げ込み、M・Dの修復を早める事を目的にメルは私との性交へ及ぶ。
性交を行い、彼女の胎内へ生命の源、生体エネルギーその物となる私自身の精子を注ぎ込み、M・Dの修復を行う。愛も切なさも無い件の性交こそが、後々より今へと続く私とメルの営みへと繋がったわけだ。
その後もメルは雑務要員として私に人事異動を行いながらも生体エネルギーの補給、事実当時はそうであったろう事を名目に、時折私との性交を行うようになった。
他の誰とも彼女は性交を行っては居らず、常に私とのみ行っていた。体の具合が良い、相性が良い──実際にその通りだったのであろう。しかし、当時の彼女の心中までは今以て私には分からない。
しかし生体エネルギーの補給中の事故──私との子を身籠もるに至り、否やもなく結婚してくれた事を鑑みるのならば、それまでの間にもきっと愛情を抱かれ始めていたに違いないと私は信じたい。
少なくとも私はいつしか時置かずして愛情を抱きながら彼女との行為に臨むようになっていた。けして補給行為などではなく、愛の有る行為として。
『殺人も破壊行為も人体実験も行う。こんな私と結婚してあなたは幸せ?』
新婚時代に贈られた彼女からの物騒な言葉に、だが私は結婚当初も今も変わらずな答えを胸に抱いていたし、言葉にもしていた。
“幸せだ”と。
私からしてみれば、メルの方こそ老齢の私と結婚して幸せなのかと問い質してもみたが、彼女は寸分違わず返してくれた『幸せよ』。
「ねえ」
そんな愛する妻メルが、ふと気付けばその両の碧眼で私を見つめていた。
「なんでしょうか?」
対する私は丁寧な言葉遣いで問う。会社の上司であるからと言えばそうだが、普段より敬語で話しているので特に互いへ抱く違和感など無い。
彼女も彼女で普段も会社でも変わらずの態度を崩さないのだが、強いて挙げるのならば会社に於いての私からの彼女への呼称が“キャリー部長”という処くらいだろうか。
仕事さえ終わればメルと呼ぶのだが、しかし私もキャリー姓なので結婚当初はどうしましょうと彼女に尋ねたりした物だ。
日本では男性側の姓が一般的なのだが、社会的立場や家柄等から私がメルの方へと籍を入れさせて貰う側となったわけで、ならばと彼女が出した案が仕事上では私の事を旧姓で呼ぶという折衝案であった。
これまでが旧姓で呼ばれていたので、今にして思えば丁度良かったのかも知れない。
と、そんな感じで呼ばれた私だが、仕事中にもかかわらず、何故か名前で呼ばれていた。
「あなた、最近疲れてない?」
言いながら彼女は事実上の日本支社長室である自室のソファを指差した。
「座りなさい」
「は、はあ」
私は言われるがままにソファへと座った。
「繰り返しになるけど疲れてないかしら」
「さ、さあ、何を以て疲れているのかにも因りますが」
メルもデスクチェアから立ち上がると、ソファに座る私に近付いてくる。
「仕事上の疲れならばそれはその、言い難いことではありますがそれなりに」
雑務とは言え、いやさ雑務だからこそであろうか、疲れは溜まるという物だ。
これを率直に述べられたのは私と彼女の関係だからだ。
まさに勝手知ったる夫婦間とでも呼ぶべきか。
仕事とプライベートは分けていても、少しくらい大きく物を言った処で二人だけしか居ないこの場でなら問題視されない。
「なら良いけれど、あなたももう70半ば。あまり無理は出来ないでしょう。これでも飲んで少し一息入れなさい」
するとそんな私の対面まで来たメルは、懐からなにやら液体の入った瓶を取り出した。
休憩しながら飲め、という事のようだ。
瓶を受け取り礼を述べる私。
「ありがとうございます部長」
何でもないとえも言うような彼女の様子。
「休憩に入るのだから部長ではなくてメルでいいわ」
「はい、メル。お気遣いくださりありがとうございます」
見てくれは見るからに栄養ドリンクだ。
受け取った瓶の外見上はそんな感触だが、ラベルにはI・E・Mの関連企業の名前が書いてある。
製造番号も真新しく怪しさ満点だ。
I・E・Mは生体兵器を開発している会社だから尚更に某かあるのではないのかとの疑念が拭い去れない。
といって、メルが私に危険な物を渡す事もないだろうとも思い直しつつ、私は程良く冷えた瓶を開けてみた。
「あのぅ、部長、ああいえメル。これは何の栄養ドリンクなのでしょうか」
漂う香りは良く飲む栄養ドリンクと変わらない。
だが、何かある。
私にはそう思えてならないのだ。何せI・E・Mの製品なのだから。
しかし、対面して自らは立ったまま腰に手を当てて私と目を合わせている彼女は、笑顔を浮かべながら言う。
「元気になる、ただそれだけのドリンクよ。さあ、遠慮無く飲みなさい我が社の、いえ、私の開発部が作った栄養ドリンクを、ね」
メルの言葉にますます緊張感が増してしまった。
彼女の研究とは他ならぬM・Dその物の研究なのだ。
度々改修を重ねては実験の繰り返しを行っている。
無論、被検体はM・Dの保持者=ホルダーたる彼女自身だが、それは即ち人体実験である。
違法実験を繰り返す開発部の作った栄養ドリンク。
何もないというのは虫が良すぎるだろう。
(うーんしかしメルが私に悪い物を飲ませるとも思えないしな……)
そう、老人の私と年若いメルという大きな年の差こそあれ、これでも愛し合う夫婦同士だ。
夫たる私が、毎晩のように愛し合い、想いを重ねる妻を信ぜずして何になる。
キャップを開けた私は意を決して中身を飲んでやった。
「どうかしらねお味の程は」
「え、ええ、まあ普通に美味しいですよ」
一息に飲み干したドリンクは市販品の物より濃厚な味だったが、十二分に舌を唸らせる美味しさだった。
十二分に美味しい、舌が痺れるほどに美味い……しび、痺れ。あれ……?
「す、すみませんメル、何だか舌が痺れ……体も熱くなって……こ、これは、いった、い」
体が熱い、呼吸が乱れる、舌が痺れる、何だこれは。
特に、特に顕著な事だと気が付いたのはメルを見た時だった。
彼女を見ていると心臓がどくんどくんと早鐘を打つのだ。
愛する女性であるからという事はそれは当然としてあるだろう。
男は好きな女性を見てときめく生き物なのだからしてこうなるのは必然の事。
私がメルと見つめ合えば良くこうなる。
だがしかしこれは違う。何かが違う感覚だった。
言うなれば、端的に言うなれば女性に対しての男性的な興奮や奮起と同種の物。
夜のベッドでもなく、そういう雰囲気でもない、突然の性的興奮だった。
「な、何を、飲ませたのですか……っ」
当たり前な私からの質問に対し、彼女は悪びれる事無く不敵な笑顔のままに返事を寄越してくれた。
「M・D研究の際に偶然出来た新種の薬物を用いた新しい精力剤よ。マウス実験でも被検体への投与実験でも結果は出ているけれど、別段これと言った危険性はないわ。マウスも被検体も特段あそこが元気になった以外はね」
「せ、精力剤っ!?」
M・D研究の副産物から出来た精力剤。そんな物を飲まされてしまったのか!?
「し、しかし何故そんな物を私にっ?!!」
薬の影響かメルを見ているだけで興奮を抑えられなくなってきた私は、気を紛らわせるためとして畳み掛けるように問い掛けた。
「簡単な事よ。少し心配になってきたのよ夫婦の営みについてね。ほら、あなたもう70も半ばでしょう。幾ら昨今のジャパニーズの平均寿命が100超で70代ならばまだまだ元気であるとは言えね、精力的な衰えもあるかも知れないと思ったの。そこへちょうど都合良く新種の精力剤が開発されたからあなたで試してみたらどうかとね。再三となるけれど本当に危険はないわ。少しでも危険だと判断すれば私があなたに飲ませるはずがないでしょう?」
危険なら飲ませない、愛されてる証明とも言えるが、それならそうと予め教えて置いて欲しかった。
そうすれば家ででも試せられたというのに。それを、こんなオフィスで試すなんて……。
「メル……っ」
私は眼前のメルの手を掴み、自分へと引き寄せた。
「きゃっ……!」
火照りきり燃えるように熱くなった体と、メルを求めようとする感情が、理性を上回ってしまったのだ。
「メルっ、もう駄目です我慢が出来ませんっ、貴女の所為なのですからこのまま責任を……取って、戴き……ますっ」
ぼーっとしてきた思考。回らなくなる呂律。
理性も思考も吹き飛ばす性的欲求を引き出すなんて、この精力剤本当に大丈夫なのだろうか。
虚ろになり始めた思考のままに私はメルをソファへ押し倒す。
彼女の金色の長い髪がさらりとソファの端から流れ落ちて垂れ下がり、胸部を押し上げる二つの膨らみが服越しに上を向いた。
「ち、ちょっと待ちなさいっ、まだ前戯もしてな……っ」
焦りを帯びたその美貌と碧い瞳が私に向けられる。
私はその様を見ながら、彼女のスカートを腰の位置まで捲りあげては、股間部を守る薄い布地を引きずり下ろした。
「ちょッ、まだ早いと言ってるでしょうッ!?」
そして私は彼女の太腿を大きく開いて、手早く自身の物をズボンの前開きのチャックを下ろして引きずり出し、ガーターベルトが張り詰めた彼女の太腿をそっと撫でながら、精力剤の効果でいきり立ちはち切れそうな程に大きくなった血管の脈打つ己が物を、彼女の股間の筋へと宛がう。
「あっ、まっ待って……っ」
否定をしながら伸ばされた彼女の両手は、身を乗り出す私の両肩を力無く捉える。
彼女はテコンドーの達人クラスの実力を持ち、体術も相当な物を持っていた。だがそんな彼女にしては私を否定するには全くと言って良い程、体に力が入っていなかった。
まるでそうだ。このまま私を受け入れても良いと考えて居るかのように。
もう呂律の回りそうのない口を閉ざした私はこれを彼女からの了であると受け取った。
勝手にそう考えた私が、彼女の左足を抱え上げて準備の一切出来ていない彼女の奥深くへと続く穴へ、いきる物を力強く挿入。
「まちなさッ……あッ、ぁぁっああああ──―ッッッ」
メルの叫びを聞き、乾ききった物と彼女の中を引きずるような強引な摩擦と、膣を突き破るような突き込みの感覚に痛さを感じながら、私と彼女の股間が“バチーンッ! ”とぶつかり合った事を感じた処で、私の意識は薄れていった……。