将来を有望視された青年が、冤罪で問題山積みの鎮守府に着任されました。 ~地獄の底からこんにちは~ 作:ガリアムス
将来を有望視された青年が、冤罪で鎮守府に着任されました。 ~地獄の底からこんにちは~
深海棲艦…いつ、一体、どのような目的で現れたのか、一切解らぬ未知の存在。現代兵器を全く寄せ付けず、海を血の朱に染め、蹂躙する。対抗する唯一の手段は、艦娘と呼ばれる、第二次世界大戦の軍艦の魂と力宿す少女達しか在らず。
海軍は艦娘と、それを指揮する提督を選び抜き、鎮守府という形で管理し、深海棲艦を迎撃。真っ向から立ち向かう姿勢を取った。
だが、組織という輪を創れば、必ず綻びは生まれる。違反すれば必ず罰せられ、除け者にされる。世界とはそうして形成され、維持しているのだから…
* * *
「どっかーん!」
「那珂ちゃん、フォーメーションを維持して!敵はまだ多いの!」
土砂降りの雨だった。西部方面海域の中程のエリアが戦場と化し、砲撃戦が行われ、爆炎と硝煙で呼吸に苦しみ、鼻が捻曲がりそうになる。
先行する橙色の衣服を纏う二人の少女…。一人はアイドルのような出で立ちで、戦場にも関わらず笑顔を振り撒き。もう一人は真正面の敵を捉え、鋭い視線は侍の如く殺意を込め、睨み、砲撃を続けた。
「全主砲一点集中!目標、前方敵旗艦!てぇー!」
白と黒の衣服を纏った女性が自らの右手を翳し、瞳が敵を追い、艦隊内最強の砲撃を放つ。鼓膜が千切れかねない轟音、そして爆発。一つ、また一つと水面から消えて行く、命…。
「敵艦隊、全員中破以上!雷撃、何時でもどうぞ!」
「いけ!初霜、神通、那珂、雪風!」
「第一艦隊、旗艦長門より雷撃許可降りました!各駆逐艦、軽巡洋艦、雷撃を開始してください!」
無数の水泡と、直線に延びて消える白波。鉄片が零れ、海に没し、海底の闇に溶けて行く…
「アキラは~ん。敵艦隊壊滅、確認出来たで。
どないする?進軍するかいな?」
「いや、今回の作戦は偵察だ。無理せずに潜水艦警戒を行い帰投してくれ」
「…との事だ。速やかに対潜警戒を実施、敵増援到着前に、全速力でこの海域を離脱する!」
「了解!」
* * *
日本の本土から離れて数十キロ。太平洋の某所に浮かぶ小さな島が一つ在る。見渡す限りの海に囲まれ、絶海の孤島と言える場所。
そんな偏狭の島の頂上にポツリと建つ、建物が一軒。
建物の名前は
『表向きは』
「…ふぅ」
無線を付け、小さく息を吐いたのは、まだ二十代程度の若い青年。頭には軍帽を被り、白い軍服に袖を通している。だが…其の表情は硬く、目には活気が見えない。
睡眠も不十分なのか、目の周りには薄いクマが見える。
「アキラ司令…あ、あの…お疲れ様です」
緊迫した空気の中、黒襟のセーラー服の少女…吹雪が机に座り、白い海軍服に袖を通す一人の青年に声を掛ける。彼の前に積まれた書類の山々…一枚書いては判子を押し、手元へ手繰り寄せては書いて行く。
「吹雪か。すまないが、此方は今手が離せない。書類は俺の横に置いてくれ」
「…はい。あの…無理だけはしないでください。私達は貴方だけが頼りですから…」
紙の束と山に向き合う彼に一礼し、吹雪は執務室を後にする。
(どんなに戦果を挙げようと、その全ては大本営により彼方に加担する鎮守府の手柄に差し替えられて、俺達は何も得られない…)
手に握り締めた羽ペンを走らせ、終わりの見えない書類の荒野にサインの光を綴る。これらは全て、他の鎮守府から送られてきた「資源・資材の受け渡し」と「戦闘における艦娘の被害請求」に関する物だけだった。
(決して生かさず、されど決して殺さず…か)
ジリリリリリリリ…と静寂の執務室に鳴り響く、黒電話。心辺りのある彼は、受話器を静かに取る。
「…もしもし」
「やぁアキラ君。私達の鎮守府宛に各資源1万5000ずつ用意するように、今すぐにな」
中古テレビの電源が落ちた音に後続して鳴る、通話終了の合図。
「…くそが」
小さく呟き、受話器を半ば乱暴に元の位置へと戻す。帰還する艦隊の補給もある。
資源はこれでほぼ500を下回り、1ヶ月前に逆戻り…思考を重ねる度、脳が磨り減らされ、心が悲鳴を挙げる。
「地獄だよ…此処は」
天井を仰げど返らぬ答えと、心の奥底から沸き上がる復讐と憎悪の炎。
それら一切を睡魔と疲労でごまかす以外に、取れる選択肢は存在しない。
華裏鎮守府…其処は大本営に属しながらも、何時の頃か大本営によって『非公認』の烙印を押された場所。
そして此処に着任した提督は、他の者から侮蔑と嘲笑を受け、終わることなき紙束に精神と体力を削られ、軈て人知れずに消えて行く…。
提督達は、そんな華裏鎮守府をこう読んでいる。
一度でも堕ちれば、二度と這い上がれぬ提督の墓場…と。