将来を有望視された青年が、冤罪で問題山積みの鎮守府に着任されました。 ~地獄の底からこんにちは~ 作:ガリアムス
将来を有望視された青年が、冤罪で鎮守府に着任されました。 ~血染めの円舞(ワルツ)と引き金を引く覚悟~
金剛「起きてくだサーイ!テイトクー!数日前から耳鳴りが酷くて眠れないデース!!!」
…眠れないのは此方の台詞だ。真夜中に関わらず叩き起こされ、訳の分からぬ事を言われても、眠くて相談には乗れない。乗りたくない、乗るわけにはいかない。
今は寝る時間だ。絶対に譲らない。
アキラ「金剛さん…明日じっくり聴きますので、取り敢えず寝て下さい。妹さん達も心配すると思います」
金剛「不気味な声なんデス!不吉以外の何モノでもありまセーン!!」
彼女の声が聞こえるが睡魔に勝てなかった俺は、意識を手放し、闇の中へと静かに落ちた。
後にこれを早く聴いていたら…と、後悔する事になったのは、随分と後の御話し…。
* * *
翌朝…俺はまたしても金剛に怒鳴られ、叩き起こされた。時刻はマルゴーマルマル、あれから二時間も経っていないにも関わらず、何故此処まで元気でいられるのか…全く分からない。
アキラ「それで…昨日金剛さんが聞いたっていう不気味な声とは?」
金剛「help…つまり助けて、デス。掠れた細々した声で私達に語り掛けてくるヨ~…。
怨念…なんでしょーカ…」
彼女はお化けが苦手なのかは、この際関係ではない。
アキラは「金剛さん以外に、その声を聞いた艦娘は誰かいますか?」とだけ尋ね、彼女は一拍置き、艦娘達の名前を述べた。
金剛「まず私と霧島、ブッキー、フルタカー、摩耶、木曾、鳥海、雲龍…まだまだ居ますネー」
アキラ「ちょっと待った。……もう一度言ってくれないか?メモを取って置きたい」
金剛「…?分かりました、では…私と霧島、ブッキー、フルタカー、摩耶、木曾、鳥海、雲龍…私が知る範囲で、このくらいデース」
アキラ「…よし、ありがとう金剛さん。こっちでも調べてみるよ」
金剛「お願いしマース…」
金剛が自室に戻る為、執務室を後にする。アキラはメモをぼんやりと眺め、何か無いかと静かに考えだす…。
アキラ(…………何か見覚えがある。そうだ、電光石火作戦の時に俺が選んだ、出撃メンバーの一部だ…)
電光石火作戦…西部海域最深部に位置する有数のボーキサイト産出地のウッド島に居座った離島棲姫を艦隊を四部隊に分けた上で、撃滅するという作戦だった。
アキラ達、華裏鎮守府もこの作戦に参加したが、大本営の強大な権力により、作戦に於ける戦果は愚か、参加さえ抹消された。
挙げ句にはその戦果は他の提督達に振り分けられ、更なる資源調達を余儀無くされたのである…。
アキラ(仮に参加した艦娘達全員に聞こえているとすると、詳しく聞かなきゃな…)
* * *
古鷹「電光石火作戦時に、私にも確かに声が聞こえました…」
木曾「俺もだな。だがそいつは随分と弱々しい声で、何時消えちまうかも分からねぇ…そんな感じさ」
アキラ(天龍達と同じ事を言っているな…問題は、「皆同じ事を言っている」から、余計に分からないって事だ)
人は耳で得た音を脳で還元し様々な解釈を行い、表現する。人により、それは「楽しい」や「悲しい」、もしくは「怒っている」と捉える事が出来る。
しかしアキラは金剛達が聴いたという声を聴いてはいない。つまるところ、彼には判断すべくして判断する材料が足りないのだ。
アキラ「…実際聴いてみないと分からないな。大淀さん、吹雪。華裏鎮守府内で声の再現が得意な人は居ないかな?」
大淀「声を再現…ですか?」
吹雪「あ…でしたら1人、私に心当たりがあります。アキラ司令官」
アキラ「案内を頼めるか?」
* * *
吹雪と大淀さんに案内され、やって来たのは陽炎型駆逐艦娘が中心となる宿舎で、他の宿舎よりも少しだけ大きいのが特徴となっている。
アキラ「此処が陽炎型の宿舎か…」
吹雪「司令官、もしかして…」
アキラ「磯風と、その取り巻きの3人には会いたくはねぇなぁ…」
彼はあのギスギスした四人と会えば、また高角砲で撃たれると警戒しているのだ。そうはさせませんと大淀さんが彼に言ってくれ、アキラが少しだけ気が楽になった所で、宿舎に入る。
廊下を歩き角を曲がった辺りで吹雪が止まり、扉を叩く。アキラはその扉の横に「舞風/野分/嵐/萩風」の名前らしき立札と、それを入れる為のケースを発見。
さらに舞風以外は裏向きでセットされていて、おそらくその舞風以外は外出しているのだと推測した。
???「あ…吹雪さん。それに…司令も」
扉から顔を覗かせる学生服を身に付けた金髪の少女。吹雪と同い年位と思われる彼女は、(顔の左側半分を)扉で隠し、小さく礼をしていた。
吹雪「舞風ちゃん。実は電光石火作戦で私や木曾さん達の耳に「助けて」って声が聴こえたんです。それを真似て貰えませんか?」
舞風「え…、うん。良い…けど。それで、それはどんな感じだったの?」
舞風が幾つかの質問を投げ掛け、吹雪と大淀さんが事細かに説明すると彼女は一つ一つメモに取り、その後発声練習を開始…。
アキラ「吹雪、あの娘…舞風は何してるの?」
吹雪「舞風ちゃんは声を真似る為に声の大きさや強さ、高さをしっかりと把握した上で、発声練習をするんです。そろそろですよ」
暫くア~アーの声が響いた後、大きく深呼吸。…そして。
舞風「助けて…」
全身の毛という毛が逆立つ。アキラは戦慄したのだ、舞風の口から発せられた…声に。
吹雪「それです、それです!アキラ司令官、私や金剛さん達が聴いた声はこのような感じなんです!」
アキラ「…成程。よし、すぐにウッド島に向けて部隊を編成だ。吹雪、大淀さん、資源とバケツを確認して最適と思われる艦娘を召集するぞ!」
二人「了解!!!」
舞風に礼を述べようとしたが、それよりも早く扉は閉じられた。此方を避けるように、逃げるようにして…
アキラ(…………………)
静かに背を向けてゆっくりと彼は宿舎を去った。舞風が孕む闇を感じ取りながら…
* * *
執務室に戻ったアキラはウッド島へ向かうと聴き、空母を採用するだろうと踏んだ龍驤から、空母の持つスロットについて教授を受ける。
龍驤「艦載機を載せる時のコツはな、出来るだけ小さなスロットに艦戦や艦偵、大きいスロットは艦攻か艦爆を載せる事なんや。
注意したいのは、陸上敵艦相手に艦爆を1つでも着けてると攻撃出来へんちゅーこっちゃ」
アキラ「ただ、艦爆を載せるメリットは砲撃戦時に高いダメージが与えられる事があり、デメリットは艦攻よりも低空を飛行するために敵の対空迎撃を受けやすい事です」
龍驤「ん。正解や、よぉー勉強しとるなぁ」
アキラ「ありがとうございます。次のウッド島に向け、龍驤さんの力を借りたいと思いまして。
俺…龍驤さんの力、信じますから」
彼の真剣な眼差しは龍驤(かのじょ)に何を思わせたのか、小さく「フフフ…」と笑わせた。
* * *
アキラ「うんみゃあああああああいいいいいいいい!!」
時移ろいて、ヒトキュウサンマル。甘味処・間宮にてアキラの歓喜の声が響き渡る。それは同時に艦娘達の落胆とヘイトを集める事になる訳だが…
磯風「また貴様か…これで何度目だ、私の料理を引き当てたのは」
アキラ「…二回目?」
冗談雑じり気で宣った結果、彼の眉間に突き付けられる磯風の装備品の高角砲。鬼さえ睨み殺さんとする眼光と、噛み千切る程に縛る奥歯が、怒りの感情を伝えるには十分過ぎたのだ。
磯風「三度目だ。私は基本、同じ相手に対して料理は当たらないように調整している。それを、さも見透かしたように引き当て、他の仲間を悲しませる行為。許さんぞ」
言い掛かりにも聞こえるが、一部は正論でもある彼女の意見。少し考えた後、アキラは磯風に対し…問う。
アキラ「…………そんなに食われたくない?俺に料理を」
磯風「当たり前だ」
有無を言わさず即答した彼女。アキラは溜息して立ち上がると、彼女の高角砲の砲口を己の心臓へ押し当てた…!!!
アキラ「撃てよ」
磯風「何?」
突然の状況に間宮内部はどよめき、混乱の声が響き合う。
アキラ「そんなに食われたくないなら、俺を撃て。そして俺が生き残ったら、お前の飯を一生食わせろ」
磯風「………お前等、殺す価値もない」
アキラ「怖いのか?」
厨房に立ち去ろうとした磯風に、アキラが一声放つ。そして畳み掛ける。
アキラ「陽炎や雪風から聞いたぞ。お前…(無敗王)とか言う二之名を持ってるそうだな」
ざわざわ…ざわざわ…
磯風「………ふざけて言っているなら、今すぐにやめろ」
アキラ「無敗王…かつて演習・戦闘・練度において一度の負けも、傷さえも負わずに、敵を撃滅・駆逐した艦娘。学校でも教科書にさえ載っている、いわば生きる伝説そのもの」
磯風「…その名は既に捨てた。今の私は無敗王ではない。艦娘の…磯風だ」
アキラ「そうかい…」
彼女はそれだけ言い、厨房へと戻ってゆく。アキラは負けたのだ…磯風の。彼女の精神に。
現状の自分では、どう足掻いても彼女の心を揺さぶり動かす事は出来ない事を。
アキラ(引き金を、引かせる事さえ叶わなかった…)
* * *
???「提督さん、提督さん。夕立に何か御用っぽい?」
執務室でアキラが焙茶を飲んでいた時だ。呼んでもいないのにも関わらず、突如として彼の元にやって来たのは、肩まで掛かる金髪と赤目に八重歯が特徴的な少女。のほほんとした口調で。
だが、その眼の奥底に眠る猟奇で、狂気で…。
助けとも呼べるモノを孕んでいる。
アキラ「夕立か。呼んでないけど、どうしたんだ?」
「ぽいっ」と彼女が投げ付けたのは、ペット用品の骨。…骨にしては、あまりにもリアリティーがあり、白く、頑丈。
アキラ「骨…?夕立、コイツは」
夕立「自分の骨だよ~」
血の気が凍り付く。自分の骨…即ち自身を支える大切な物。
夕立「夕立ってばね~気に入ったヒトに、自分の骨をプレゼントするの♪あ、でも気にしないで良いっぽい、私の骨は明石さんに創り直して貰ってるから大丈夫♪
夕立は提督さんが好きだから、その骨は夕立の二の腕の骨っぽい♪
大切に…大切に…取っておいてね♪」
身を翻し、鼻唄とスキップで出ていった夕立。彼女の骨を机に落としたアキラは、壁に凭れ壁を叩く。
アキラ「…狂ってやがる」
人は環境によって善人にも、聖人にも、狂人にも、悪人にも、死人にも、罪人にもなれる。それが大半。
人の手により捻じ曲げられるのは、まあまあ。
夕立はおそらく自らそれを望んだ…極少数の稀有な事例。
海軍の組織と鎮守府の枠組みが産み出した、人間の悪意。艦娘達は人間の犠牲者なのだろうかと、アキラはつくづく考えさせられるのだった。
* * *
???「華裏鎮守府が再びウッド島に…?
…はい、はい。ええ…はい。はい…此方には優秀な工作員が居ます故…
はい、分かりました。ではまた…ええ、後程…」
???「どうした?」
???「聴いての通りだ。奴等、我等が攻略したウッド島へ再び偵察を行うそうだ。此方も打てる手を打ち、奴等を足止めする。お前も出来る事をしておけ」
???「…了解」
華裏鎮守府に潜む…牙。
明かされぬ正体は、アキラ達にゆっくりと確実に迫る…。
華裏鎮守府の西方海域・ウッド島沖偵察、並びに攻略作戦…開幕