将来を有望視された青年が、冤罪で問題山積みの鎮守府に着任されました。 ~地獄の底からこんにちは~ 作:ガリアムス
アキラ「…うん。長門型の二人を起用した時点で覚悟はとっくに出来てた。だが…」
執務室で、(とある資料)を見ていた彼は、大きく。そして心底深い溜息を付いた。
差出人は工厰に年中引き籠り続けて、全くと言っていいほど姿を現さない、明石と夕張からである。
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牧園 アキラ提督殿
先の迎撃戦斗に於ける我が艦娘の被害甚大につき、以下の資源並びに高速修復材を使用した事を報告する物である。
鋼材13580
燃料9670
高速修復材124
なお、夕立・初月・瑞鶴の三名は全体の損傷激しく、少なくとも三ヶ月のリハビリ期間が必要になる事を、進言する。
以上 工作艦・明石 軽巡・夕張
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アキラ「…………………吹雪。大本営からの使者が来るのは、三日後か?」
吹雪「はい…。今回の迎撃戦、無傷で乗り越える事は出来ませんでしたから…」
「ああ…」と、彼は厳重封装を施した(鉄片)と(USBメモリ)を自身の眼前に置く。
これは(超長単装砲を装備した戦艦棲姫の艤装の一部)と、(ヲ級改flagshipが飛ばした、噴式型艦載機を目で捉えた、初月達の視覚を映像に変えたデータ)が込められた物だ。
アキラ「この二つは、あらゆる面で劣る華裏鎮守府(俺達)が大本営に対し、取引出来る(手札)だ。
新型と初めて戦った(証拠)、値千金の価値がある。彼方も情報(こいつ)が欲しいに決まっている。
それを利用して資源搬入の時期と量を減らせるよう、使者と交渉する」
吹雪「ですが…もし、難癖を付けられて司令官がまた傷付いたら…」
「吹雪」と、アキラは不安に思う彼女に一言放って、落ち着かせながら、言葉を紡ぐ。
アキラ「大丈夫、既に手は打った…今回は絶対に上手くいくさ」
何気無い、根拠も無い自信。アキラは一体どのような策を講じ、使者を迎え撃つのだろう?
* * *
男「どうやら此処が、日本の恥の象徴たる華裏鎮守府のようですねぇ…」
港と言うには程遠い海岸に架けられたオンボロの桟橋に、ぶさくれた顔の日焼け男が一人、軍服を腕に下げて立つ。
男の隣には黒の軍服を纏う、軍帽を被る白肌の女性が後ろに腕を組み立っている。
衣服越しでも解る巨大な胸部装甲が、たゆんと揺れた。
アキラ「ようこそいらっしゃいました」
男「君は…ああ、確かこの間の総会で一人だけ立たされていた提督だねぇ…。
名前は確かぁ…」
アキラ「覚えていらっしゃらなければ、無理に思い出さなくて結構です」
男「ふぅん…まぁいい。今回の資源、高速修復材、大発に積め込まれているかな?」
大発と言うワード、アキラにとって大本営が寄越した大発は、最初の受け渡し時に爆破された嫌な思い出が過り、頭が痛くなる。
アキラ(今回は明石さん達に頼んで、機械探知機を作って貰った…前のような爆破はさせない。絶対にだ!)
* * *
男「……………さて、何か言い訳は有るかね」
大発に載せられた資源と高速修復材を見ていた男は、明らかに足りない規定量(それ)に気付くと、アキラを睨み付けてきた。
アキラ「ええ…我が鎮守府は三日前、敵艦隊からの奇襲を受けました。我が艦隊は敵艦隊と交戦し、撃退に成功しましたが、同時に大きな被害を被りました」
男「それが何かの言い訳になるのですかねぇ…?痛い目を見ますかぁ?」
軍服の裏ポケットに手を伸ばし、拳銃を取り出した男は、アキラの眉間へ銃口を突き付ける。セーフティはおそらく解除されているだろう、言い方一つでアキラの運命は終わりかねない。
アキラ「…………言い訳、ではございません。今から私が話す事は(全て事実)でしかありません。元来、嘘は嫌いであります故」
男「ほぉ…」
アキラ「先も話した通り、我が艦隊は三日前に深海棲艦からの奇襲を受けました。その時、我が艦隊の駆逐艦・時雨の熟練見張り員が撮った写真と、駆逐艦・雪風が双眼鏡が(敵の新型)を確認致しました。
その時の写真と証言を纏めた物が此方になります」
アキラは一枚の報告書、そして束になった写真を男に渡す。彼は写真に記録された日時を見て、嘘偽りを探すがどんなに探そうとも見付かる訳が無い。
何故ならば…(青葉が速攻で焼き付けを行い)、何処からかっさらったかは知らないが(大本営の焼き付け日印を押して)あるのだから。
疑うにしても疑えない。(大本営の印を押される)という事は、実質的に(国がその写真を承認した事と同意)なのである。
男「…敵の戦艦棲姫が射程:超長の武装、そしてヲ級改flagshipが噴式型に類似した新型艦載機を搭載…。
確かに有益な情報ではある…が、しかし、だ。それを易々信じろと頼まれても、私一人ではどうにもなりませんなぁ。
最終的に、君は何がしたいのかね?」
銃口を下ろす気は男に無いらしい、まだ完全に凌げた訳では無く、一時の延命でしかない。
アキラは二つ目の手札を、此処で切る…。
アキラ「…その武装で傷付いた艦娘の修理が遅れています」
彼の放った一言に、男と後ろに立つ女性が少なからずではあるが反応した。アキラはそれを見逃さず、間髪いれずに話を続ける。
アキラ「新型戦艦棲姫の超長単装主砲を受けた長門、夕立。そして瑞鶴の三名は、艤装及び身体に深刻な傷を受けました。本来ならば一つで回復足り得る筈の高速修復材が、数倍量必要になりました」
男は暫し黙り考え、その果てにこう呟いた。
男「…証拠ならびに写真は持って行く。あとは好きにするといい。…御大事にな」
拳銃を退き、軍服の着て、男は振り向かずに華裏鎮守府から去って行く。女性も背筋を伸ばしつつ右手で敬礼し、男の後を追い掛けて行った。
アキラ「…資源を、持ってかれなかった…だと?」
大淀「大本営の使者にも、変わった方が居るのですね…」
背中を見送るアキラ達。この男の行動は彼等に、華裏鎮守府に如何なる結果をもたらすのだろうか?
* * *
華裏鎮守府、工厰…集中修理室内。
???「提督直々にいらっしゃるとは、やはり気になりますか?三人の事」
重い声で発するのは、腰まで掛かる桃色のロングヘアに白の長袖、水色のミニスカート、紫色の襷と白の鉢巻を巻く女性。彼女の名は、工作艦・明石。
アキラ「ああ…使者がどうゆう訳か知らないが、資源や高速修復材を受け取らずに帰ってしまってね。
…どれくらい回復出来ましたか?」
明石「長門さんは四割、夕立と瑞鶴に関しては意識は回復し、現状は一割三部五厘…くらいですね」
アキラ「高速修復材を投与しても傷が治りにくい。本来、高速修復材は(深海棲艦の艤装や砲弾の放つ波長)…此処ではマイナス波とする其れに、プラス波をぶつけて中和し、自己回復能力にブーストを掛けて傷を治すのが基本であり、本質的な事実でもある。
だが…それが出来ない」
明石「敵も進化した…そう言って仕舞えば簡単で、終わり。でも、それでは力が無い。確信には至る事は難しい」
無い頭で考えても、今のアキラにはどうする事も出来なかった。証拠も無い以上、先へ進む事は叶わない。真実に辿り着く事も。
アキラ「…ウッド島再調査、やるしか無いな」
一度の危機は乗り越えた。彼は明石に三人の回復を任せ、工厰を後にする…。
* * *
華裏鎮守府、中庭…
アキラ(…何故だ)
彼は疑問を抱く。それは三人の件とは別、華裏鎮守府を襲撃した深海棲艦の事。
アキラ(何故…奴等は(補給艦)を連れていたんだ…?)
着任当時、そして先の襲撃。どちらの艦隊にも(補給艦)がおおよそ半数を占める形で組み込まれていた。鎮守府そのものを潰すだけなら、補給艦は二・三隻程度で十分。にも関わらず、彼方は三倍の数を連れている。
不知火「司令。どうかしましたか?」
アキラが振り向くと、少し見上げる形で不知火が其処に居た。普通に話し掛けているとはいえ、その眼はキリリと鋭く、空のように綺麗に澄んでいる。
アキラ「不知火か。実はな、俺が着任した時に襲撃してきた深海棲艦の艦隊が、どうも気になっていて。
何で奴等は(補給艦)を連れているのかなって…一隻や二隻入れば良いのに、奴等七~八は居る。不知火はどう思う?」
不知火「私の考え…ですか…。奴等は(何かを求めて此処に来た)、と考えるのが良いとは思います」
アキラ「俺も不知火と同じ考えだ。だがその(何か)が分からなきゃ、奴等の真意には近付け無い」
不知火「…はい。私もそう思います」
互いの考察も、決定的な答えには至らない。もどかしさとむず痒い感覚はどうにも馴れないし、嫌いだ。
???「おお~…♪しれ~、不知火ね~、二人で何してるの~?」
振り返ったが見当たらず、「ココ、ココ~」と下に視線を落とすと、小さな帽子を被った黒短髪で毛先が白い、セーラー服と黒ストッキングを履いた少女が、アキラを見上げていた。
おっとりした顔付きと髪の毛、そして小さな体格が、彼女を小型犬のように見せる。その手には二本のストローが握られていた。
不知火「時津風、どうして此処に?」
時津風「香取せんせーの授業が終わって~、一休みしよぉとしたら、二人が居たから声掛けたんだよ~。
二人って恋人同士だったりするの~?」
不知火「!?」
アキラ「いや違うぞ!頼れる相談相手の一人だよ!」
時津風「ふぅ~ん…ほーんーと~?」
二人「「ほんと、ほんと」」
静寂の後、「ん~…じゃー二人の事信じるね~」と彼女はストローを前に突き出しながら、彼等の周りを歩く。
不知火「…時津風。先程から気になっていましたが、貴女は何をしているのですか?」
時津風「(ダウジング)だよー。これで宝物を見つけて、私はお金持ちになる~!」
ワッハッハ~!と有り余っているかのような、元気で高らかな笑い声を放つ時津風に、不知火は鳩が豆鉄砲を食らったようなポカンとした顔をしていた。
それはアキラも同じで、(時津風)という艦娘は(基本的)にはおっとりした性格なのだが、建造や保護(ドロップ)した時の艦娘(かのじょ)達は、その性格に添わない別の性格で有る事が極稀に確認される。
この時津風も例に漏れず、オリジナルよりもポジティブな性格で、遊びに関しては誰よりも全力投球するタイプだろう。
不知火「はぁ…全くこの子は。アキラ司令、義妹が御迷惑を」
アキラ「いや大丈夫だ、しかしダウジング…懐かしいなぁ。子供の頃によく地中に眠る、宝探ししたっ…」
刹那、アキラの脳に電撃走る…!
アキラ「まさか…いや、もしそうなら!」
不知火「司令?」
「時津風!不知火!サンキューな!」と言い残して、彼は脇目も振らずに一目散に走り出す。その目に宿った光は今までの物とは違う。希望と期待に満ちたそれなのだから…。
* * *
アキラ「大淀さん!」
大淀「提督!?一体どうなされたのですか!?そんなに慌てて…」
アキラ「大淀さん…良い?これは吹雪にも言えない。他言無用で、(潜水艦娘達)に貴女の口からお願いして欲しい事があるのです」
一際真剣な眼差しに、大淀は彼が何かを決意した事を少なからず感じ取り、小さく頷く。
そして彼の口から、潜水艦娘達へと伝える話の内容が綴られた…。
* * *
二日後、海軍大本営会議室…
???「何故、華裏鎮守府(やつら)の資源が届いて居ないのですか?」
華裏鎮守府に赴いた男を取り囲む形で、十人程の人物達が曇硝子のボード越しから尋問を掛けていた。話は華裏鎮守府から送られる筈の資源が規定量を満たしていない事についてだ。
男「…聞きたいのは此方ですねぇ」
???「何…?」
男「数年…性格には(十年)と言うべきですか。気になって調べていたのですよ…。貴殿方、どうも華裏鎮守府(あの古びた場所)に異様とも呼べる執着心を御持ちのようですから」
???「我々の質問に答えろ。君に発言して良い許可は出てはいない」
男「私はねぇ。知りたいのですよ、華裏鎮守府が何故大本営に搾取続けられている、その真の理由をね」
男は胸ポケットから(あるもの)を取り出し、自分の前に置かれた証言台に放り投げる。
男「華裏鎮守府の提督…名を牧園 アキラ君と呼ぶらしいですねぇ」
???「それがどうした」
男「その彼から情報…もとい(証拠)が届いたのですよ。初めてそれを見た時、私は今までにない衝撃を受けましたよ。
(噴式型の新型敵艦載機)、そして(射程:超長の新型艤装)…此処まで言えば、私の言葉の意味。御理解頂けましたかね?」
???「この男を会議室から叩き出せ!今すぐにだ!!!自宅謹慎をさせておけ!!!」
男「…後悔しますよ」
彼は二人の憲兵に押さえられ、会議室から半ば強引と言った形で連れ出された。静寂に返った室内に漂う重い空気。その中で一人が改めて切り出す。
???「奴が持ってきた(証拠)…形はどうであれ、(消さねば)なるまい。これは我々にとって(不利益)だからな」
???「牧園 アキラ…、余計な事をしおって」
???「そう言えば、華裏鎮守府は近々ウッド島の再調査に乗り出すらしいですな」
???「放っておけば良い。どうせ奴等は最深部に到達出来ん」
???「その通り。だが念には念を入れておいた方が良いじゃろて」
それぞれの思惑が交錯し合う。陰謀、策謀、思い、真実。
果てに、勝利を掴むのは一体誰なのか。
ウッド島再調査編、開幕の時。