将来を有望視された青年が、冤罪で問題山積みの鎮守府に着任されました。 ~地獄の底からこんにちは~ 作:ガリアムス
A島近辺海域を吹雪達が制圧し、母港である華裏鎮守府に吹雪達の艦隊が無事帰投した頃、入れ替わる形でα島航空基地設置部隊とΘ・β・Ω島撃滅部隊を担う艦娘達が、緊急事態に対応出来る頭脳派組の一人である沖波と、軽空母の隼鷹と飛鷹と共にA島へ続くゲートを越えていくのを目撃する。
横を通り過ぎる皆の、やる気に満ちた表情は心の底から元気を少しばかり分けて貰えたような気がした。
木曾「良いな。皆等のああゆう顔」
長良「うんうん♪やっぱり笑顔でなくっちゃ!」
吹雪「アキラ司令官には私から報告しておきますから、皆さんは入居を御願いします」
一同「了解!」
ピシッと敬礼し木曾達と別れた吹雪は、其の足でアキラが居る執務室へと向かった。
* * *
吹雪「ウッド島周辺海域、A島の付近の敵艦隊の撃破に成功しました」
アキラ「お疲れ様でした、吹雪」
椅子から立ち上がり、シャキッと敬礼するアキラ。しっかりと働いた者に労を労うのは、当然の事と考える彼は、吹雪に冷たい焙じ茶を振る舞おうとする。
吹雪も最初は断ろうとしたが、「前線に立って戦う皆を支えるのが俺の仕事だから、せめてこのくらいはさせてくれ」と言ったので、控えて受け取る事にした。
吹雪「ふぅ~…美味しいです」
アキラ「良かった。口に合わなかったらどうしようかと心配したよ」
華裏鎮守府に着任し数ヶ月。彼を未だ良く思わぬ者や、賛同せぬ者、様子見に徹する者が多く居る中で、アキラは彼女達の最大限の力を発揮出来ように、ひたすら考え、行動している。
吹雪は華裏鎮守府(このばしょ)が始まって、今日までやって来た幾人の提督や司令官達を見てきた。ある者は大本営が送り付ける理不尽な命令に苦悩し、またある者は左岸された問題児(かんむすたち)の対応に苦心し。
皆最後は体と心が廃れ、壊れ、絶望と倦怠を味わい、華裏鎮守府から人知れず消えていった。
ある提督(もの)は遺書を書き残し、海に身を投げ。ある提督(もの)は自身の仕事を辞め、この世を去った。
だがアキラは他の提督(ものたち)とは違う…華裏鎮守府を、本気で救いたいと願っている。
吹雪「アキラ司令官…」
アキラ「どうした?」
吹雪「私…。曙ちゃん達にも司令官に協力して貰えるように頼んでみます!」
アキラ「…ありがとう、吹雪」
敬礼し、吹雪は執務室を後にして駆逐艦組の宿舎へと走っていった。アキラは吹雪(かのじょ)の背中を見送って再び書類へと目を通して、サインを書き込んでいた…その時。
(司令官!!…ザザ!司令…!!!)
無線のノイズに混じり、聞こえた声はα島に航空基地建設に向かった朝潮からだった。
アキラ「どうした!!」
(現在…我々、…攻撃……………を!)
アキラ「敵の数と、種類は分かるか!?」
(敵は…1……!!艦種は、駆逐…………!戦…1!!!繰り返す!駆………0!戦艦1………!司令…官…!!!……………!!!…)
アキラ「朝潮!!!朝潮!!!」
ノイズに掻き消された声は、切迫し緊急を有する救難信号(SOS)のように、彼の心に一縷の予感を植え付ける。
彼は直ぐ様、大淀の電探に繋がる黒電話の番号を入力。待機の音がなる度、もどかしさと焦燥に狩られた。
大淀(提督?どうされまし)
アキラ「大淀さん!!朝潮達の部隊が敵に襲われたと無線が来た!今すぐに空母と戦艦を1隻ずつ、重巡と軽巡、そして駆逐艦の島風を含めた6隻を連れて、朝潮達の援護の為にウッド島周辺海域のA島に向かって欲しい!!
緊急を有する!お願いします!!」
大淀(りょ、了解致しました!緊急強襲艦隊を編成し、旗艦・朝潮改二乙率いる航空基地建設部隊救援作戦を実行します!!!)
* * *
華裏鎮守府地下・カタパルトエリア…
大淀(今回の作戦は、敵の襲撃を受け、通信が途絶された朝潮部隊の救援にあります!敵の数は不明、故に道中の敵艦隊との戦闘をなるべく避けつつ、素早い到着が要求されます!誰一人とて沈ませず、全員で帰って来てください!)
大鳳「了解。救援及び緊急強襲艦隊!旗艦!装甲空母、大鳳改!抜錨!」
榛名「金剛型高速戦艦、四番艦、榛名改二!出撃します!」
那珂「四水戦旗艦、川内型軽巡洋艦三番艦、那珂ちゃん改二!お仕事始め~♪」
鳥海「第八艦隊旗艦、鳥海改二、抜錨…出撃します!」
初春「妾も出るぞ!初春型駆逐艦、初春改二、行く!」
島風「んふふ~!島風、出撃しまーす!」
カタパルトが轟音を立てて、6人を海へと射ち出した!タービンが回り、水飛沫と泡を産まれ、白の線を描き、彼女達はゲートへと飛び込む。
だが彼女達は、アキラは知らなかった。その先に待ち構える、凶悪たる2体の化身の存在を…。
* * *
A島とα島間、沖合…鳴り響く爆音と、硝煙の強烈な臭いが支配する場所で、朝潮達はその脅威と戦い続けていた。
朝潮「このぉおお!」
荒潮「今までこんな事態なんて、想定したことも無かったわぁ~…はぁ」
霞「溜息ついてる暇があったら、1体でも沈めなさいよ荒潮!」
高角砲+高射装置から繰り出す砲撃が、1体、また1体と、後期型駆逐艦を沈めてゆく。だがその度に、空いた穴を埋めるよう、別の駆逐艦が現れて攻撃してくる。まるで蜜蜂の如く、集団質量戦法を仕掛け、此方がいずれ力尽きるのを、虎視眈々と狙っているかのようだ。
最上「くそぉ、冗談じゃないよ…こんな数…!」
鈴谷「まじ、テンションがた落ちなんですけど~…」
砲を構える航巡の2人の顔にも疲労の色が見え始める。それもそのはず…何故ならば、今の彼女達が戦っているのは。
駆逐ロ級を中心に、これまで確認された敵駆逐型深海棲艦からなる、総数1000以上は下らない超巨大艦隊だったのだから。
その中には駆逐古鬼、駆逐水鬼、駆逐棲姫と、名だたるネームド級も、ちらほら見受けられる。
加えて駆逐艦隊の奥で、朝潮達の必死の抵抗を見下すように居座る2体の深海棲艦が居た。
髪はプレーンクッキーを焦がしたような黒がりの黄、額には1本の巨大な角が生え、虚ろな目は左が赤で、右が青とオッドアイ。開けはだけた豊満な灰色の胸元と、コルセットで締めたような細い腰回りを白の布が覆い被さる形で着く程度と、痴女の類いの服装。
その背中に巨大なサブアームのような4本の指を彷彿とさせる巨砲、そして血の色をした液体を海へと落とす、三つ首のクリーチャーに護られる形で乗っかっていた。
一方の深海棲艦は灰色に近い、白く長い髪をたなびかせ、頭にはヲ級達が被る蛸足のような巨大な…否、巨大過ぎる一つ目の生物が淡い蒼白の光を放つ。飛行機の真似事のような腕を広げ、ただただ空を眺めている。
???「ナァ…クチクバカリガ、ヤツラトタタカッテイテ、クヤシクハ…ナイノカ?」
???「…ワタシハサイキンニナッテ、メザメタカラ…ヨクハ、ワカラナイ。…デモ」
黒黄の髪を後ろに凪いで、駆逐大艦隊と戦い続けている6人の艦娘達を、彼女はそっと指を指す。
???「アイツラ、ハクヘイセン…ナレテル。ヒトリ…『ヒャクセキ』ハシズメテ、…アソコノ『ツンツンカミ』ハ、『サンビャク』…イジョウ」
彼女は霞達の動きから、かなりの手練れであり、尚且つ荒潮が『艦隊中最高撃沈記録持ち』だと語る。
???「ヒマダ…。チョッカイデモ、ダセレバ、タイクツハシナイ」
???「ジツリョクヲシリタイノハ、ワタシモ…オナジ」
退屈そうに目を細める2体の深海棲艦…その内の白髪の方が大きな欠伸をした時、駆逐大艦隊の西側の空間が突如としてスパークしながら、歪み始めたのを目撃する。
???「ナニ…アレ?」
刹那、大きく膨張した歪みから、1発の砲弾…一式徹甲弾が1体の駆逐水鬼に向かい、飛来する。
否、その速度は通常砲撃速度の何倍にもなるスピードで訪れた。
「エ…」
反応が遅れ、回避不能の敵艦に、会心の一撃となりて着弾する。頭部を覆い守る装甲がポップコーンのように弾け飛び、顔の半分を破壊された駆逐水鬼が膝を着く…!
駆逐艦隊が敵方の増援に動揺し、艦同士で衝突、陣形が乱れた合間を縫い、榛名達は朝潮達と電光石火の合流を果たす。
榛名「朝潮ちゃん!」
朝潮「は、榛名さん!増援、感謝します!」
榛名「私だけじゃない。鳥海に初春ちゃん、島風ちゃんに大鳳さん、そして那珂ちゃんも居るわ」
朝潮達を囲むようにして敵駆逐大艦隊に相対した緊急救援&撃滅部隊の面々は、皆力強い光を目に宿し、艤装を構え、今にも爆発しそうな程に加熱した缶を唸らせる。
那珂「榛名さん、此処は那珂ちゃんからで良いかな?」
「お任せします」と榛名の一声に、綺羅として凛に佇む第四水雷戦隊旗艦[かのじょ]が左腕を高く空に掲げ、人差し指で天を指し、右手に持ったマイク型の探照灯を構えた。
那珂『みんなぁ~!!!今日は那珂ちゃんの単独[ソロ]ライブに着てくれて~!本当にありがとー!!!』
戦場にも関わらず、とんでもない発言[こと]をぶちかました彼女。突然の奇襲に加えて、那珂の場違いの言葉が、敵のさらなる混乱を引き起こし、助長。
そして那珂が綺麗な唇から紡ぎ、歌を調べ奏でた時、艦娘全員に変化が起きる…!体の奥底から力が沸き出し、五臓六腑に満々てゆくのだ。
朝潮「これは…!」
荒潮「凄いわぁ~…力が溢れてくるじゃな~い♪」
最上「これが那珂ちゃんの歌…その力なの!?」
鈴谷「やるじゃ~ん!ファイトー那珂ちゃんー!」
笑顔に溢れるウインクを送り、歌を歌い、彼女[かんむす]達を援護する。まるで那珂は戦場に咲き誇り、曇天の空から射し込む、陽の光を一身に受けたように、綺麗で美しかった。
大鳳「第六○一航空隊!発艦始め!」
敵の混乱に乗じて大鳳は、ボウガン型の射出機に箱形マガジンをセットし、打ち出す。そして、素早く切り替えし、更に2発空へと放った。
炎を払いて顕現するのは、烈風と流星改を上回る性能を持つという、流星[六○一空]と烈風[六○一空]。
厳しい訓練と厳密な審査を経て、選ばれた機体に載る事を許された妖精さんの目にはハッキリと、鮮烈に敵艦隊の姿が映る。
そして彼女達や、彼等には分かる。『どの深海棲艦を潰せば、敵艦隊は指揮を失うか』が…。
烈風[六○一空]部隊が、機銃で鬼級と姫級の敵を狙い撃つ。これは敵の脚を止め、尚且つ爆撃・雷撃を正確に当てるための行動。『本来なら』それが正しい。
ドガガガガガガガガガガガガ!!!
古姫「イタイ!?ドウシテ…!」
徹甲弾にも屈する事の無い筈の駆逐古姫の艤装と装甲が、障子戸の和紙の様に容易く、蜂の巣にされてゆく…!左腕で防御しようとした時、既に遅く、その視界が真っ黒に染め上がる!!!
古姫「アアアアアア!!!メガ…!メ、ガ…!?」
視力を奪われ、何処へ回避すれば良いのかさえ分からなくなり、闇雲に四方八方へと砲撃を繰り返す駆逐古姫。朝潮達はその砲火を掻い潜り、敵同士が潰し合うように海を走り、敵を撃った。
水鬼「オチツケ…!ウグ、キコエナイ…カ!」
棲姫「アイツハ、ダメ…!ハヤク、タイセイヲ…」
荒潮「建て直させるわけ、ないじゃなぁい~?」
「!?」
妖しく、恐ろしい声の後、腹部に襲った衝撃が二体の深海棲艦の体勢を崩し、天から落ちる艦載機の弾丸の雨に艤装が爆発する。
荒潮「今よ~♪」
榛名「榛名、全力で参ります!覚悟!!!」
彼女の掛け声高らかに、二体のネームド級に突撃する彼女。さらにその艤装のシールド部分が、巨大な手に変型し、左右の砲塔を載せた船体が横に伸びた。それはまるで腕…損壊覚悟、殴り合い上等の近接戦闘形態である。
水鬼「クル、ナァア!!!」
最上「撃たせないよ!」
高角砲が動き出した時、駆逐水鬼の真っ正面に三機の水上機、瑞雲12型が割り込んだ。時間にしてコンマ三秒、だがその刹那は榛名の機動力で近接間合いに入るには十分過ぎた。
水鬼「ハヤ…イ!」
榛名「決める!」
展開された艤装アームが駆逐水姫を逃さず鷲掴み、その強大な圧力を以て、敵の艤装ごと体を破壊する。
水姫「グア、アアアアア…アア!?」
榛名「これで!!!」
だが、榛名が駆逐水鬼を仕留める事は叶わなかった。何故ならば。
ズドゴォン!!!!!!
榛名「ああ!!!」
彼女の背中を襲った衝撃と重圧。艤装の左半分が撃ち壊され、彼女の体が海を転がる…!アームから零れ落ちた駆逐水鬼は脇目も触れず、急ぎ海の中に潜り消える。
一同「榛名(さん)!」
朝潮達が榛名の周りに直ぐ様着き、追撃に備える。ところが、敵の駆逐艦隊は追撃をする事は無く、少しずつ後退し、海の中へと次々に消えて行った。
朝潮「どうゆうこと…?敵が退くなんて…」
鈴谷「…!?何、あれ…」
鈴谷の指差す先に、[其れ]は居たのである。
二体のネームド級の深海棲艦の姿。其れが彼女達にとって何れ程の衝撃を与えただろうか。
???「コンニチ…ワ、艦娘。タチ…」
???「ユー、タチ…ナニシニ、ココニ…キタノ?」
大鳳「…っ」
朝潮「…私達はウッド島の再調査の為に着ました」
最上「ちょ…朝潮!?」
戦闘突入さえ辞さない敵の構えに、朝潮は理由を答えた。奇しくも彼女は、アキラが同じように戦場に居た場合と同じ決断をする事になったのである。
???「フゥン…ソウ…」
空気が震え、何時撃たれても可笑しくない状況下。ところが、彼女達に帰って来た答えは、予想外過ぎるものであった。
???「イイワ、トオリ…ナサイ」
艦娘一同『へ…?』
???「ドウシタ?ナニカ、オカシイ…ノカ?」
鈴谷「いやいや!?此処は『オマエタチ…ゼンイン!ココデ、スクラップ…ダ!』って言うのが普通じゃん!?」
???「メンドウ…」
艦娘一同(面倒って…)
呆れて何も言えない艦娘達(かのじょたち)に飛行機ポーズを続けている深海棲艦がこう発言する。
???「ココデ、タタカッテモ…イミ…ナイ。ワタシ…ハ、ゼンリョクノ…タタカイ、ガ…ノゾミ。ソコノ…コタチノ、ブッシ…ワタシタチト、タタカウタメノ…モノ。
ワタシタチ…ウッドトウ…デ、マツ。タガイニ…ゼンリョク…ヤロウ」
去ろうとする敵に、「待って!」と朝潮が叫ぶ。
朝潮「名前…貴女達の名前、は…?」
二体のネームド級の深海棲艦は互いに顔を見合わせ、一拍置いて、その名前を静かに伝えた。
???「ミー…ハ、[深海星条姫]…ネー♪」
???「ワタシハ…[深海海月姫]。…ウッドトウヲ…マモル…モノ」
二体は名を告げ、海の中に潜り、虚ろな青の光は軈て深海の黒に塗り潰され、融け落ちる。
深海棲艦とは思えぬ空気を宿す敵に、朝潮達は恐怖をただひたすらに感じていた。
まるで自分の首を死神に握られたような…。そんな恐ろしい空気を…。
* * *
アキラ「何それ…意味が全く分からないんですが」
ゲートを潜り、帰還した朝潮達からの報告に、アキラは頭を傾げ、ハテナマークを量産する。
どう考えても敵の罠にしか聞こえないので、当然と言えば当然の反応。
鈴谷「まーじ死ぬかと思ったぁ~…。敵さんが見逃してくれたから良かったけどさ~…。
正直マジ、アイツ等の言葉どう受けとれば良いのか、困るぅ~…」
ウッド島で待つ…その意味を丸呑みにするか、砕いて考えるか、それはアキラの仕事だ。
と、此処で無線が繋がる。
アキラ「もしもし…え?何だって!?」
内容はβ、Θ、Ω島に向かった各艦隊旗艦からだった。それはアキラでさえも予想だにしなかった、異質とも呼べる事態。
アキラ「敵艦隊の戦力全てが…二体の姫を残して、ウッド島の海域から離脱していってる…!?」