※この作品はR-18です。

将来を有望視された青年が、冤罪で問題山積みの鎮守府に着任されました。 ~地獄の底からこんにちは~   作:ガリアムス

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※三話構成の最終面、三番目になります。

※また今年の『将来を有望視された青年が、冤罪で鎮守府に着任されました ~地獄の底からこんにちわ~』は今回で最後になります。

後、三~五話程度で『牧園 アキラ、反撃之章 ~ウッド島再調査と囚われの米艦娘~』は終了し、次なる章である

『牧園 アキラ、転機之章 ~新たな絆と新たな命~』を書きます。


将来を有望視された青年が、冤罪で鎮守府に着任されました。 ~ウッド島再調査、其之三(下)~

吹雪『お前は、私がやっつけるだけだけど』

 

刀に付いた深海月星帝姫の血を一閃で振り払い、彼女が他愛もない言葉で吐き捨てる。

 

何故、彼女がこうも変わったのか。それは数十秒前に吹雪が目を閉じた所まで遡る…。

 

* * *

 

真っ黒な空間。墨汁で全てを塗り潰した世界に、全身と衣服を含めた全てが純白で、赤目の少女は座っていた。其の姿は『吹雪』と姉妹かクローンかと見間違えてしまうほど酷似しており、唯真っ黒で見るだけで狂いそうになる空を見上げては、脚を投げ出しブラブラさせて、鼻歌を歌う。

 

???『久し振りだね…『表人格の私』。貴女から来るなんて何かあったの?』

 

きょろりと横に首を曲げると、其処には吹雪が居た。

 

彼女の後ろには、純白の穢れ無き白が満たされた空間が在る。まるで陰陽とも言うべき対極の対峙。

 

吹雪「貴女が悦びそうな敵に、久し振りに遭えた。皆だと少し手を焼きそう。私に力を貸して」

 

???『そんなに強いの?』

 

首を小さく、彼女は無言で縦に振る。

 

???『貴女が言うなら、ちょっと相手をしてあげる。無理だったら戻ってくるけど、御了承』

 

吹雪「貴女の方が『ああゆうの』は得意でしょ?私に比べて」

 

???『…そうね。分かった、じゃ行ってきます』

 

白の吹雪が歩み寄る度、黒の空間が白の空間を侵略してゆく。まるで砂地を削り取る川のようにゆっくりとしたもの。

 

だが、其の侵略で黒は白を完全に塗り潰しはしなかった。僅かに一片、ほんの少し、言うなれば分厚い雲の層から射し込む小さな日溜まりのような、本当に小さな白を残した。

 

 

 

 

 

 

吹雪『頼んだよ…『もう一人の私』…ううん。

 

『深海棲艦の私』…』

 

* * *

 

月星帝姫『貴様…何ヲ、シタ!』

 

ボチャボチャと血を海に垂れ流す、月星帝姫。表情に余裕は無く、『自分の脚を一本、駆逐艦に斬られた』と言う事実しか分からない。

 

吹雪『貴女の脚を斬りました、其れ以外に何か有りますか?』

 

月星帝姫『巫山戯ルナァ…ァアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!』

 

月星帝姫の怒りに満ちた怒号の絶叫が大気を震わせる。

 

傷口がボコボコと蠢き、血が止まる。

同時に肉を食い破る異質な音と共に『切り落とされた脚』が『そのまま生えて』きたのだ。

 

大淀「ひっ…!?」

 

金剛「オウフ…crazyネ…」

 

時雨「………」

 

吹雪以外の皆は、戦いを唯見つめる事しか出来ない…吹雪の豹変と圧倒的なまでの戦闘能力の高さを。深海月星帝姫の欠損部の超速度の再生を。

 

吹雪『一点に力を収束しての再生…ですか』

 

月星帝姫『貴様ノ斬撃ナド…効カヌ!『無限』ノ再生力ヲ前二、平伏スガイイ!!!』

 

吹雪『無限…ですか。なら一つ、覚えておいた方が良いと思います。

 

この世には『無限』という『幻想』は存在しないのですから』

 

月星帝姫『其ノ減ラズ口ヲ、今直グ黙ラセテヤルッ!!!!』

 

畝る幾多の灰色の蛸足のような触手が、一斉に先端を吹雪に対して向ける…!

 

そして一瞬の間、一本の触手は他の艦娘達の目にさえ捉えられぬ速度(スピード)で、吹雪に襲い掛かった!

 

其の速度…それは艦娘の中でもダントツの最高速度を誇る、島風型駆逐艦・一番艦:島風が持つ最高速度(トップスピード)、否其れすら追い抜き、置き去りにするだけの速度。

 

吹雪『!』

 

彼女が体を反転、艤装のタービンを全開に蒸かし、その場を下がった刹那、パァン!とピストルの発砲音と共に、彼女が居た水面(ばしょ)が真っ二つに割れ、飛沫が舞い散る。

 

月星帝姫『今ノヲ躱ワセタカ…マァ、次ハ無イ!!!』

 

其の台詞の後、月星帝姫の触手が吹雪に対して振るわれた。全てが一斉に、視界に捕捉不可能な速さで。

 

風速を越えた、音速…風を切り裂き、振るわれたそれは触手ではなく、『鞭』。達人と成った者が『鞭』を振るえば、血肉を牽き裂き、骨さえ砕く、鮮烈にして鋭利な打撃となる。

 

其の達人さえ超越したような触手の速度、月星帝姫は確信していた。

 

『この攻撃を、あの駆逐艦は躱わせない』…と。

『この攻撃で、駆逐艦を沈めたなら、次は傍観している艦娘共を沈める』…と。

 

 

 

『貴女の攻撃はよく分かりました』

 

一声、同時に何かが斬れる音。そして其の後に全身を巡り、脳へと到達した…『痛み』。

 

 

 

月星帝姫『ア…!?アアア、ア…ア…アアア!!!』

 

振るわれた筈の触手。音速を越えた打撃を以てすれば駆逐艦を沈める事等、容易く当たり前、雑作の無い筈の打撃。

だが其の撃は、刃は、吹雪には届かない。

 

『触手全てを小間切れにされた』…其れを理解し、納得する等、月星帝姫(かのじょ)には死んでも認められる事では無かった。

自分よりも、全てが圧倒的に劣る、一体の駆逐艦に踊らされ、翻弄されている事実に。

 

吹雪『どうしました?自分の必殺の一撃を真っ正直から打ち破られた感想は?

 

悔しいですか?どうですか?』

 

真っ直ぐ刀身の先で此方を指し、清ました顔で問い掛ける。有頂天に到達していた、月星帝姫の怒りの感情。

 

だがもしも、其れを通り越した時、存在(あ)るのは何なのか?

 

 

 

 

月星帝姫『ヨク…。ヨォク…、分カッタ…。

 

(手心)ハ…モウ無シダ』

 

吹雪(深海月星帝姫(アイツ)が大人しくなった…。いや違う、アレは冷静になったとか、そうゆう状態(レベル)じゃない。

 

アレは、怒りを通り越した…『殺意』。吹雪(表人格の私)が演習で他者から向けられる、一番大好きな感情(モノ)…。成る程…確かに純粋な感情(モノ)だね)

 

吹雪『ふふ…フフフ…』

 

綾波「吹雪…姉さ…ッ!!?」

 

僅かに吹雪の顔に目を向けた綾波は、言葉を失い、動きと呼吸を止めてしまう。何故ならば、彼女の右目は純血した訳ではない『真紅』に染まっていたからだ。

 

極めつけは肌…人の持つ淡い血の廻った肌色が、歌舞伎役者の如く『真っ白』で『冷徹な白』に変貌している…。最早彼女の姿は艦娘などでは無い、艦娘(じぶん)達と相対する深海棲艦(そんざい)と同じでしかない。

 

吹雪『じゃあ…何度でも、何回デモ…『破壊(ハカイ)』スル…だけ…ダ!!!!』

 

戦艦から放たれた砲弾が着水したかのような巨大な水柱と衝撃。そして白波を描き、吹雪が走る、走る、走る!

 

月星帝姫『絶望シロ!貴様達ノ墓場ハ…此処ダ!』

 

三つ首が動き、肩の超長単装と共に月星帝姫が握る三連装砲塔が、けたたまく鳴り響き、怒号の炸裂音を鳴らしながら砲撃を開始した。

 

吹雪『ははははははははは!!!ハハハハハハハハハハハハハハハ!!!アハハハハハハはははは!!!』

 

まるで待ちわびたかのように。

焦燥し、羨望したかのように。

吹雪は最高速度を維持したまま、月星帝姫の攻撃範囲を突き進む。

 

砲撃をヒラリと躱わし。

迫る砲弾を刀で切り裂き。

高角砲と魚雷と斬撃をぶちかます。

 

血肉が弾け、飛び散り、艤装が砕け凹み、海が、空気が揺れ動く。

 

降り注ぐ砲弾の豪雨。

無尽に立ち上る水柱。

戦場で響く狂喜の声。

血と硝煙に充ちる空気。

 

大淀達はもう、吹雪と深海月星帝姫の戦いを、茫然自失で見つめるしかなかった。

 

* * *

 

アキラ「何だよ…この戦い…」

 

華裏鎮守府執務室内…リアルタイムでモニターに流れる映像を見つめる彼は、その言葉しか言えない。

一撃一撃が艦娘の領域を越え、狂喜と殺意に満ち足りた空間。

 

そして何より『吹雪が深海棲艦と同じになっている』状況に思考がフリーズ、そして脳内はオーバーヒートのサイレンが鳴り続けている。

 

鎮守府に着任してから、自分が今まで培った常識がまるで通用しない。自身の範疇を逸脱した事態の連続、彼は限界に近かった。

 

大潮『司令…!アキラ司令ッ…!!!』

 

無線の一つから、切迫した…否。『怒りと悲しみ』を抑えながら、震える声が聞こえてくる。

 

アキラ「…!大潮、どうし」

 

大潮『今から…今から、私達は!『救援活動(サルベージ)』を行います!許可を!!!』

 

アキラ「救援活動(サルベージ)!?どうゆう事だ!?」

 

訳の分からない事の連続に、更に訳の分からない事が乗し掛かる。混乱から口調は荒れ気味になるが、直後にモニターに表示された映像を見た瞬間、言葉を失い一歩、二歩とよろめき、腰が抜け、床に尻餅を付いてしまう。

 

満潮『…『コレ』を見ても、大潮姉さんの言ったこと…疑う…!』

 

アキラが絶句し、大潮含めた…ウッド島上陸部隊の面々が見たもの。

 

それは…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『目に見える海底に沈んだ、百十数人にも渡る艦娘達の死体と、千切れた艦首や艦尾等の残骸、そして半壊しながらも腕を手を水面へと伸ばす艦娘達の姿』だったのだから…。

 

沈んだ艦娘達には、巨大な黒の鉄らしき杭が深々と刺さり、バラバラに飛散した肉から赤い靄が微かに海中を漂う。眼と肌色は生気を失った白。艤装は粉々になった物や比較的破壊が少ない物、原型が解らない物に真っ二つに割れた物等様々。

 

海底に転がる艦娘達の顔は苦痛や憤怒に歪んだ者、死を認識する間も無く絶命した者、何かに驚愕して死んだ者、絶望した者と、数えればキリがない…そう思える、思えてしまう程に、海底を艦娘達の無惨な亡骸が埋め尽くしていたのだ。

 

満潮『…朝潮姉さんは、上陸任務を擲ってでも救援活動(サルベージ)するつもりよ。命令違反…姉さんが一番嫌うのにさ…。

 

荒潮は涙を流して泣いてるし、霞は血が流れるくらい拳を握ってる。…アンタ、どうするつもりよ…?』

 

ウッド島に上陸し証拠を持ち帰る事…其れが華裏鎮守府(じぶんたち)の目的だった。

だが、其の目的を前にしてこんなものを見せられた…。

 

ウッド島上陸の最大にして、おそらく最後になるかもしれない僅かな好機。逃したら二度と訪れない…そんな気がする。

 

アキラ(俺は…)

 

『人生とは選択』…昔、お祖父ちゃんが言った言葉。

生きている限り、人は常に何かを選ばなければならなくなる。苦しい選択、悲しい選択、怖い選択。…自分自身の運命すら決定付ける、大きな選択。其れをしなければならないと。

 

今自分は其の大きな選択に直面している。

 

アキラ(俺は…!)

 

苦悩する。葛藤する。自分の言葉一つで、全てが決まる。

言葉は『矢』であり『弾丸』だ。一度放てば最後、二度と手元に戻らない。言葉を間違えれば、容易に他者を傷付け、負の螺旋さえも産み出せる。

 

朝潮『アキラ司令!!!救援活動(サルベージ)の許可を!!!』

 

俺はきっと、今日という日を一生忘れる事はない。

自分自身の『選択』を。未来へと続く『運命』を。

 

アキラ「……………………ウッド島上陸部隊へ。『提督』の名を以て…命令する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…『現時点を以て、ウッド島上陸部隊は任務を変更。大至急、ウッド島沖に沈む艦娘達の救援活動(サルベージ)を敢行せよ』…これは『提督』の命令である。

 

…其れからもう一つだ。『一欠片さえ残さず、全てを救援せよ』…以上だ!!!!!!!!!」

 

満潮『ッ…了解!』

 

後悔だけはするな。自分の選択に誇りを持て。

自分を信じられない奴に、真の選択は出来ない。

 

アキラ(お祖父ちゃん…俺は自分を。艦娘達(みんな)を…信じる)

 

彼は静かに立ち上がり、決意と覚悟を秘めた瞳で鎮守府内全てのスピーカーに自分の持つ無線機を接続する。

 

アキラ(俺が出来る事…それは…!)

 

* * *

 

ウッド島上陸部隊改めて、ウッド島救援活動部隊視点…

 

満潮「朝潮姉さん!救援活動(サルベージ)の許可が下りたわ!欠片一つも残さずに全て救援せよって!!!」

 

朝潮「!…皆、やるわよ!!!」

 

荒潮「フフフ…アキラに感謝、ね…」

 

大潮「大潮!アゲアゲで救援しますッ!」

 

朝潮達に搭載された大発動艇のエンジンがブロロロ…と黒煙を吐いて起動する。海に放たれ、ダイビング用水着と酸素ボンベを身に付けた妖精さん達が次々に海に飛び込むのと同時に、朝潮達は鉄製のフック付きロープを海へと投げ入れ、妖精さん達が固定するのを待つ。

 

そして妖精さん達が海に潜って三分経過した頃、鉄製のロープがピンと強張った!

 

荒潮「…来た!」

 

朝潮「引いて、早く!」

 

キュラキュラ!と高速で鉄同士が摩れ合う金切り音が耳をつんざく。水面が白波を立てて盛り上がり、艦娘達の亡骸の一部が浮上した。

 

満潮「酷い…」

 

毒づくのも無理はない、艦娘(かのじょ)達の無念を想像するにも容易い傷痕の数々。非道等通り越した残虐な実態に、朝潮達は言葉を失う。

 

荒潮「後はこれを鎮守府に運ぶだけね…」

 

満潮「司令、聞こえる!?至急ゲートを繋いで!」

 

アキラ『分かった!後、そっちに『救援活動増援部隊が来る』!』

 

満潮「増援…?」

 

まさにその時だった。朝潮達の周りにスパークが迸ると共に、数多の青白い円のゲートが開く。其処から現れたのは、様々な駆逐艦達。

 

鎮守府で待機していた筈の吹雪型、陽炎型、綾波型、朝潮型、初春型、睦月型、白露型、秋月型、暁型、夕雲型の面々が次々に現れたのだ。

無論『全員』という訳ではないが。

 

其れだけでは無い。

 

軽巡洋艦も川内型、球磨型、長良型、天龍型。重巡洋艦は高雄型に妙高型、青葉型。

 

金剛型戦艦に伊勢と日向を加えて、航空巡洋艦の利根姉妹、最上型、軽空母や正規空母組、果ては水上機母艦の瑞穂や秋津洲、伊号潜水艦組までもが、一斉に到着したのだから…!

 

満潮「す、凄い…こんなに…」

 

朝雲「満潮姉さん!司令が言ってたけれど、こんなに酷いなんて…!」

 

満潮を見つけ、駆け寄って来たのは、赤髪の小学生の様な服装とランドセル形の艤装を纏う、朝潮型駆逐艦の五番艦・朝雲。

 

満潮「朝雲…」

 

陽炎「信じられないわ、こんな事…!」

 

不知火「彼女達、無念でしょうね…」

 

惨状を目の当たりにし、艦娘達は怒りに歯を縛り、悲しみに心を傷める。

 

利根「我輩達も、やるべき事をやるだけじゃ」

 

衣笠「…見たくないわよ。こんな光景…」

 

高雄「一体誰が…!…ッ!」

 

曙「…外道だわ」

 

霧島「無駄口は後よ!各員ロープを海へ、細かい破片は潜水艦組が回収してくれる!大きなパーツは戦艦の私達と巡洋艦で運ぶ!これは迅速かつ早急な反復出撃になるわ!さぁ、行動開始よ!」

 

霧島の指示から皆、海にロープを投げ入れる。一分或いは数分、異なる時間が流れる度に、海底に沈んだ艦娘達が引き上がる。残骸を見る者達は黙祷を捧げ、開かれたゲートへと入り、一分の間を置き戻って来た。

 

潮「榛名さん!此方に大きな杭が突き刺さった艦娘が居ます!」

 

霧島「榛名姉さんは潮ちゃん達の応援に!私はこのパーツを運ぶ!高雄さん達は中位の艤装が北東八方面にあるから、其れを引いて頂戴!」

 

榛名「は、はい!」

 

愛宕「りょーかーい」

 

一つ、また一つと冷たい海から引き上げられ、海上に姿を見せる艦娘達の残骸。

二度と沈めない、黒く冷たい海底(みなぞこ)に沈ませない…其の想いを胸に、彼女達は曳航する…。

 

* * *

 

華裏鎮守府、カタパルトエリア内…

 

明石「艦娘の残骸を上げたら、補給を受けて、また出撃だからね!この破片を更にぶ…ゲフン!接合して元通りに直してやるんだから!」

 

夕張「これだけの破壊が行われる事になった理由…早く調べてみたいわぁ…!」

 

???「久々過ぎて腕が鈍ってないか、心配だな~…。でも、こんまんまじゃバラバラにされた彼女等の顔が浮かばないし、ちょっとヤル気出すかぁ…」

 

???「右に…親父」

 

明石「其れを言うなら、同じでしょ。…まぁ、二人が加わってくれれば千人力だし、凄く助かるわ。望月ちゃん、初雪ちゃん」

 

「あーい~…」と「うーん…」で、だらしない返事を返したのは、睦月型駆逐艦十一番艦の望月と吹雪型駆逐艦三番艦の初雪の二人。

 

普段からやる気無く、遠征や演習にもあまり参加せず、のんびりスローライフ真っ只中な生活を送る彼女達。機械やメンテナンス系統を趣味として嗜み、部屋か工厰に引き隠って居るので、皆からは「駄目ニート」やら「芋虫」と言われる事が多い。だが、やる時はとことんやるタイプなので、文句を言われる事は殆ど無い。

 

しかし二人は、大本営の『最優先処分対象(ブラックリスト)に載り』、命を狙われた事があった。あの手この手で何とか自分達の足取りや存在やらを抹消し、大本営の追撃を振り切って、命からがら華裏鎮守府に転がり込んだのが、今から数年前。

 

その時二人は『華裏鎮守府に措ける技術及び戦闘協力を惜しまない』事を見返りに、『自分達の正体を秘匿する』事を条件として居着き、現在に至る。

 

望月「しっかし…今回の提督。なんて名前だっけ?…えっとぉ~…」

 

夕張「牧園 アキラ。日本海軍士官育成高等学校卒業の新参提督よ」

 

眼鏡の額に押し上げ、ペンライトで艤装に標記されている型式番号を読み取り、それぞれを細かく区分けし、鉄製の台車へ載せる夕張。

そして一定以上溜まった台車(もの)を、妖精さん達が工厰へと運搬していった。

 

望月「それだ。アキラ司令だ…うん…、最初観た時、冤罪で此処に来たとか言ってたけどさぁ~…。アレが悪い事出来る顔に見えるかぁ?」

 

三人は口を揃えて『無理』と即決で答える。

 

望月「…因みに理由ってあるか?」

 

明石「御馬鹿に見えました、最初だけですけど」

 

夕張「嘘つくの無理そうね、ああゆう人は」

 

初雪「…へなちょこモナカ」

 

「だろうなぁ」と手を動かす望月。もし此の場にアキラが居たなら、間違いなく落ち込んで居るだろう。

 

望月「牧園…なぁんか聞いたことあるんだよなぁ…」

 

明石「頭ボケてる?ネジ締めようか?」

 

「ちげーよ」とかったるく言って、作業の手を止めた彼女はこう言う。

 

望月「何つうか…気になってさ」

 

初雪「…好きって意味で?」

 

望月「…突っ込む気力ねぇーからパス。しゃーね…」

 

頬を叩き、彼女の手がボクサーのジャブ並みに速く、残骸の仕分け作業のペースが格段に上がってゆく。

其の目は先程までの倦怠感は無く、活力と気迫で満ち溢れている。

やるべき事を見つけた時の望月(かのじょ)は、まるで負ける気がしないのだ。

 

望月「久々に、『調べてみるかぁ』~…。取り敢えず、チャッチャッと終わらせよっと」

 

* * *

 

華裏鎮守府、工厰内…

 

アキラ「酷い…」

 

満潮達はこれを見て救援活動(サルベージ)を行ったのかと考えさせられる。百聞は一見に如かずとは言うものの、実際に見るのとでは話が違う。黙祷し、一分の沈黙を捧げる。

 

アキラ「一体誰がこんな事をやったんだ…!絶対に許さな…ん?」

 

運ばれてきた残骸を見つめ、犯人に怒りを奮わせるアキラは、其れ等に遺された『ある共通点』を見つけた。

 

アキラ「…この黒い杭、何で『腹部にしか』刺さって無いんだろう?」

 

そう。杭が突き刺さっているのは、艦娘達の胴体部分。人間で言うなら、鳩尾より少し下にあたる場所。駆逐艦や空母問わず、今彼の目の前にある残骸全てが『腹部を貫かれて』いるのだ。

 

アキラ「明石達が接合する時に、杭は邪魔になりそうだ。抜いて別に分けておこう」

 

何があるか分からないので彼は上着を脱ぎ、Tシャツ一枚になり、手袋をして慎重に黒い杭に指先で触れて、パッと、沸騰するやかんに素手で触れた時のような反射で直ぐに離れる。

 

アキラ「何も起きない…のか?」

 

手袋をしているから、はたまた只の鉄杭だったのか。取り敢えずは安全だと半信半疑しつつ、杭を次々に抜いていった。

 

だがアキラは知らない。自分が行った行動が、戦局そのものに影響を与える事に。

そして、この『杭』こそが、深海棲艦にとっての『命綱』で在る事を。

 

* * *

 

同時刻、ウッド島沖…

 

吹雪『シツコイ再生力ですね…嫌にナリますよ!』

 

息と口調がブレながら、白い肌と真っ赤な瞳に変わった吹雪は、苛立ちと共に、月星帝姫に睨み付ける。

木曾の刀で奴の腕と脚を叩き斬った、高角砲と魚雷で体を爆破し肉を破壊した。

 

何回も何十回も何百回も…。普通の深海棲艦ならば、とっくに絶命しうるだけの致命打を浴びせた。既に決着は付いているはずなのだ。

 

しかし其れでも尚、月星帝姫は健在。それどころか、破壊され、再生する度に強さが増して行く一方である。

 

月星帝姫『諦メロ、貴様ニ勝チ目ハ…ナイ!』

 

甲板型艤装を空に向けると、彼女の体から溢れ出るオーラが収束し、其処から放たれる猫型艦載機が蝗の大群衆が如き数で、天へと昇り、彼女の周りを囲うようにして回る…!

 

月星帝姫『サァ…死ネ!!!』

 

吹雪『死ヌのは…お前だ!!!』

 

叫ぶと同時に、吹雪が刀を振るいて走り始め、月星帝姫の艦載機が轟々と吹雪に襲い掛かった!

 

吹雪『ハアアアアア…!』

 

魚雷が発射管から上空へと高く飛ぶ。彼女は其れを刀の峰の部分でかっ飛ばし、高角砲で狙撃し爆砕。猫型艦載機が、黒煙を吐きながら海面に落ちてゆく…。

 

吹雪は落ちる猫型艦載機を足場に、空へ上り、月星帝姫の真上を取った!

 

吹雪『ッグ!?』

 

が、彼女の脇腹を砲撃が掠め、大量の血が噴き出した。

攻撃された方角には三つ首の獣が嘶き、砲口から硝煙を吐いている。

 

思わぬ奇襲によって空中でバランスを崩し、真っ逆さまに頭から墜落する吹雪。肋骨が数本折れたどころではない鈍くて重い痛みが頭と体を締め付ける。

そして…最悪のタイミングで、其処に襲い掛かる猫型艦載機。

 

吹雪(参ッタ…結構限界近いや…動ケ、…ナイ)

 

不思議な感覚だった。

 

無念による悔しさや、自身の非力さを恨んだりする、そんな感情が湧いてこない。寧ろ『やりきれた』と、胸を張って言い切れる…清々しい気分。

 

吹雪(…『一度沈んで』…ロクナ目にアって…『もう一人の私』と、何度もぶつかって、ワカリ合って…

 

『楽しかった』…やっと)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『自分を、終わる事が出来る』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

月星帝姫『グボ!?フォゥ…!?』

 

吹雪『!?!?今、私…!!!!』

 

(ジカンギレ…ミタイ、ワタシハ…『ワタシタチ』ハ、マダ、オワレナイ。オワッチャ…イケナイ…ヨ?)

 

吹雪「あっ…!!!まだ…!」

 

金剛『ブッキィイイイイイイイイイイイイ!!!!!!!!!!!!』

 

月星帝姫が突如体を海面に崩し、全身と眼と口から血反吐を吐き散らし苦悶に満ちた顔で身を捩り出す。

 

切迫した声で金剛が投げた鎖が吹雪の体に巻き付くと、空中落下中の彼女をくの字にする勢いで、連合艦隊の元へと引き寄せ戻し、彼女の体が金剛の豊満で柔らかな胸にダイブする。

同時に摩耶の対空砲火で、次々と猫型艦載機が爆裂し、海へと還る。

 

吹雪「金剛さ…放して、アイツは私が」

 

金剛『馬鹿な事をするんじゃありまセン!!私が助けなかったら、あのまま化物に食い殺されていたんデスよ!分かってますカ!?』

 

吹雪「…放し」

 

傷を負って尚も戦おうとし、回りが邪魔にしか感じない吹雪。刹那、金剛の平手打ちが炸裂した。痛烈で滲み込む痛みに頬を押さえる吹雪を、金剛は負傷した右手で抱き寄せ、包み込む。

 

金剛「…『人間達の手で沈められ』、それでも『還って来てくれた』貴女は…生き急ぎ過ぎてマス。

 

…『沈んで欲しいなんて』…誰も望んでいまセーン」

 

吹雪「私…、私…は…」

 

金剛「大本営が何と言おうと、貴女は。私達の…最高のleader…、何だって出来てしまう…強過ぎる艦娘。

 

デモ…皆、貴女が居てくれたから…居場所をくれたから、此処に生きて居られているのデスよ?」

 

吹雪「あ、あああ、あ…」

 

金剛「まだ…泣いてはnothing。深海月星帝姫(アイツ)とケリを付ける…デスよね?ブッキー?」

 

肩を叩き、自分の衣服を破いて、彼女の脇腹に硬く結んで止血する。

 

吹雪「…ッ、ごめんなさい…見苦しい所を」

 

摩耶「吹雪さん、…その、あのな!帰ったら私に対空訓練をしてくれよ!」

 

吹雪「摩耶さん…」

 

綾波「吹雪姉さん!お風呂に入りましょう!皆で帰って、全員で同じ湯船に!」

 

陸奥「貴女には沢山の恩があるわ、まだまだ返しきれて無いもの…ね」

 

吹雪「皆…」

 

一人だと思っていた。

けれど違った。

自分の周りには仲間が在った。

 

冷たい孤独ではない。

支えてくれる艦娘(なかま)が居る。

忘れてはいけない心(もの)が有る。

 

体内に溜まり滞る、嫌な空気全てを吐き出して、前を向いた。

 

体の中に淀みはない、脇腹の痛みが己の『生』を犇々と伝えてくる。

 

深海棲艦(もうひとり)の自分は心の奥底で眠りに着いた。今、自分が自分を動かさなければ、月星帝姫は倒せない。

 

月星帝姫『体カラ…力…ガ…!『再生力』ガ!失ワレテ…ユク!!ナ、ナニオ…シタ…ァ!!!!!!』

 

吹雪「私に分かる訳ありません。けれど、貴女には感謝していますよ?」

 

木曾の愛刀を構え、真っ直ぐにリラックスした状態で向き、血を撒き散らす月星帝姫に言い放つ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

吹雪『私が忘れかけていた、大切な事を思い出させてくれた事を!!!』

 

月星帝姫『ダマレェエエエエエエエエエエエエエエエ!!!!!!!!!!!!』

 

再び産み出され、空へと無数の猫型艦載機が飛び立つ。最早、月星帝姫に余裕など皆無であり、目の前に存在(い)る敵の全てを沈める事しか頭にない。

 

だが、数の暴力で圧し潰さんとした猫型艦載機達が其の力を発揮する事はなかった。

 

摩耶「吹雪さんに良いとこばっかりは譲れないぜ!」

 

綾波「吹雪姉さん!今度は!私達が守ります!」

 

摩耶と綾波の対空攻撃で艦載機の大半を破壊され、月星帝姫の動きが止まる。

 

陸奥「撃てぇ!」

 

金剛「fireー!!!!」

 

古鷹「砲撃開始!!!」

 

間髪入れぬ、戦艦と重巡組の砲撃が飛行甲板を直撃し、真っ二つに砕き、三つ首の獣の頭を破壊する!

 

獣「グキャアラアアアアアアアアアアァアアアアァァア!?!?!?!?」

 

陸奥「私達も居るんだから!」

 

鳥海「余所見してる暇は無いわよ!」

 

度重なる攻撃に、吹雪との戦いに傷付いた体。再生力を失い、全身から黒煙を炊き出し、あちこちが火に包まれ始める月星帝姫。

 

月星帝姫『終ラナイ…マダ!終ワル事ハ…ユルサレナイ!!!私ニハ!!!!!!』

 

獣の前足が海面を叩き、水飛沫を巻き上げて、体の火を鎮火した彼女は、気力体力の全てを振り絞り叫ぶ。

 

月星帝姫『殺ス…貴様達ヲ!全テヲ、海ヘ沈メテヤル!!!!!!』

 

放たれる殺気。纏う気迫。姫や鬼…それもネームド級(クラス)の深海棲艦が背水の陣なる程に追い込まれた時に現れる現象。其れを見た吹雪達は確信に至る。

 

最終局面(ラストダンス)に入ったのだと。

 

その時。

 

大鳳「何…この音!?」

 

連合艦隊の耳に届く、無数の『航空機』のプロペラ音。

 

翔鶴「あれは…!」

 

翔鶴が指差す先に、その答えは在った。

 

曇天の空を翡翠に煌めく航空機が此方へと向かって来ている。大きな翼と巨大な爆弾を抱えながら、やってくる…!

 

大淀「基地航空隊…!このタイミングで来るなんて!」

 

???(ナイスタイミングだったでしょ?)

 

連合艦隊の電探に届く声。その主は最上型航空巡洋艦一番艦の最上だった。

 

時雨「最上!?基地航空隊を飛ばしたのは君なのか?」

 

最上(うん。念のために長良達とA島で待機してたら、アキラ司令から基地航空隊の出撃要請が着てね。戦闘の様子とかから此方で逆算して、最終局面(ラストダンス)に間に合うように出撃させたんだ)

 

大淀「最上さん、助かりました。…必ず勝ちます!」

 

「武運を祈るよ」と通信が切れる。

 

突如の空からの攻撃に、月星帝姫は残り少ない猫型艦載機を発艦させ、食い止めようとする。

しかし、その行動は余りにも浅はかで、愚かな行為であった。

 

翔鶴「今よ!」

 

雲龍「艦載機、発艦始め!」

 

大鳳「第三次攻撃隊、発艦!!!」

 

この時、この瞬間を待ち焦がれ、堪えに堪えて、堪え忍んだ空母艦娘達が、敵に割り込む形で自身に残された艦載機の全てを出撃させる!

 

敵の放った三式弾で攻撃力は皆無に等しく、敵に深傷を与えられない事も分かっている。しかしそれでも、この機を逃すまいと、自らを奮い起たせ、艦載機に載る妖精達を鼓舞し、一撃に全てを賭けて、その弓とボウガンから矢を空に放ったのだ。

 

顕現した艦載機達は機銃を乱打し、月星帝姫の艦載機発艦の足留めを計る。

 

月星帝姫『邪魔ヲ…!スルナァアアアアアアアアアア!!!』

 

咆哮と共に三つ首の獣達が放つ対空放火を前に、艦載機は次々に撃墜され、黒い煙を吐いて、水面に消えて逝く…。

 

雲龍「艦載機達(みんな)…!」

 

大鳳「御願い…後少し…!」

 

翔鶴「頑張って…!」

 

風穴が空き、翼が減し折れ、火が燃料に引火、機体が爆ぜる。空母艦娘達の行為は、自身に残された攻撃方法を態々失うだけで、何も戦果を上げる事は出来なかった。

 

月星帝姫『愚カデ!無意味…!無駄ナ行為ダ!』

 

雲龍「貴女の言う通りかもしれない…けれど、彼等が身を捧げて作ってくれた『時間』、其れは無駄な事ではない」

 

大鳳「私達に残された行動は『傍観』、『足留め』、そして『艦隊の盾』になる。その何れかしかなかった」

 

翔鶴「だから私達は選んだのです。『貴女を倒す為』、私達が出来る事を」

 

空母艦娘達は選択した。

艦隊の、皆の、勝利の為の選択を。

 

月星帝姫『貴様等、マサカッ!?!?』

 

空母艦娘達は行動を起こした。

ただ一瞬の好機を、絶対の結果とする為に。

 

自らの艦載機を盾に、基地航空隊の攻撃を深海月星帝姫に届かせ、この戦いに終止符を打つ為に。

 

刹那

 

月星帝姫を、無数の炎と衝撃と痛みの三重奏が包み込む。

 

熱い!

 

焦い!!

 

アツイ!!!

 

月星帝姫が其れを理解した時、其れは自分が焼かれて少し後の事。

 

月星帝姫『ッァアアアアァァアァアアアァアアアァァア!?!?!?!?!?』

 

冷たく、凍り付いた体が、焼け尽くされてゆく。

獣が上げる悲鳴は、爆音と注がれる熱に掻き消され。

肉が焼け溶け、骨が焦げ落ちる熱さに襲われる。

 

月星帝姫『イタイ!イタイ!イタイ!イタイ!!!イタイイタイイタイイタイイタイ!!!イタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイイタイィイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイァアアアアァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!』

 

一度では終わらない。第二部隊が。第三部隊が。

 

空より放つ破壊の雨。止まらぬ質量攻撃。

 

自分の体が蹂躙される。ありとあらゆる行動を根本から封じられている。

 

どうしてこうなった?

何故自分が一方的に攻められている?

口は悲鳴を上げ続け、全身が千切れ飛ぶのも時間の問題。

 

脱け出せない。八方塞がり。王手。チェックメイト。

 

そして月星帝姫は漸く、自分自身の過ちに気付く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アア…ワタシハ…『ヒトツ』ニナッテ、『ヒトリ』ニナッタカラカ

 

深傷を負い、使い物にならなくなった深海海月姫(かのじょ)を星条姫(わたし)は喰らい、『深化』して、月星帝姫になった。

海月姫の無念を力にして、敵を屠り、沈めんとした。

 

だが一人になった。孤立して孤独になった。

 

心の奥底から産まれて、全身を巡り湧いたのは、虚しいだけの、空っぽな。それでいて強大で、最弱の力。

 

航空機の連撃は、既に終わっていた…

 

視界が真っ赤に染まり、景色はボヤけて、霞んで見える。

融合した三つ首の獣に意識は無く、四肢を動かす事も砲撃する事も叶わず、彼女の身体に感覚は既に無かった。

 

虚ろな視線の先には茶のショートヘアーの艦娘が、巨大な連装砲塔付きの艤装を向けて、狙いを一点に絞り込む姿。おそらくは胸の中心…いや、鳩尾辺りか。

 

ソウカ…オワリ…ナノ、ダナ。…ワタシ、ノ…タタ…カイハ

 

耳にはノイズが走り、彼女が何を言っているのか、殆ど分からない。だが…最後に一言だけ、聞こえた言葉が有った…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『御休みなさい』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

鳩尾を貫き、獣の腰骨を粉砕し、深海月星帝姫がビル解体工事に於ける爆破解体のように、幾重に連鎖しながら身を爆ぜ、海へと消えた。

 

 

 

 

 

 

ワタシハ…ワタシハ、シネナイ…!

 

オワレナ、イン…ダ…!

 

オワッテハ…スベテガ…ムダニ…!

 

ナッテ…シマ、ウゥウ…!!!

 

 

 

 

 

 

ソンナ…わたし…、望んで…いい、の…?

 

ああ…。やっと…、自由に…

 

 

 

 

 

 

…なれた…!

 

 

 




艦娘紹介

摩耶…元ショートランド泊地第七三鎮守府出身の艦娘。建造されてから、誰とも交わらず空を眺めていた。

だがある日の演習で、強力な南雲機動部隊を相手に艦載機全スロット全滅の結果を繰り出し、完全勝利をもぎ取る。以後も艦隊に降り掛かる火の粉を払うが如く、演習相手の艦載機全滅を続ける偉業を成したが、他の提督から『ボーキサイトの破壊者』、『防空棲姫の生まれ変わり』等の誹謗中傷を浴び、居場所を無くした彼女は、居場所を求めて華裏鎮守府に来た。

二之名は、対空を極めた者にのみに送る最上位の称号『千針鼠(サウザニュード)』

鳥海…華裏鎮守府古参艦娘の一人であり、大淀や沖波達に並ぶ頭脳派組。また、華裏鎮守府稼働初期に保護(ドロップ)された艦娘の一人。華裏鎮守府の演習では夜戦時戦闘演習を担当し、圧倒的夜戦火力で駆逐艦娘をシゴく事に快感を覚えているとか…

余談だが必殺仕事人シリーズが好きな変わり者である。

雲龍…元横須賀第二鎮守府出身の艦娘。在籍していた鎮守府の提督から度重なるセクハラに加え、自分の部屋に来るようにと周陽に迫られ、終いには強姦させられかけた過去を持つ。アキラの指示には従ってはいるももの、彼を完全には信頼しきれていない。

好きな食べ物はトマトで、いつか塩害に強いトマトを栽培し、自分で食べるのが夢。
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