将来を有望視された青年が、冤罪で問題山積みの鎮守府に着任されました。 ~地獄の底からこんにちは~ 作:ガリアムス
本年もよろしくお願いいたします。
ウッド島沖…
ズズゥウウウウウン…!と鼓膜が張り裂ける程の爆裂音の後、鈍く…重い…全てから『解放』されたような、そんな音がウッド島沖に響き、水面を揺らした。
真っ黒な煙を吐き、赤炎に燃える深海月星帝姫。
落城のように轟々と、だが椿のように儚く静かに、海底へ、巨大な亡骸は沈んで逝った。
大淀「て、敵…新型深海棲艦…撃破、完了…!しましたッ…!
作戦…成功です!!!」
綾波「や…や…!!!」
やったあああああああああああああ!!!
戦いの緊張から解放され、連合艦隊は喜びと達成に声を上げる。
かつてドイツが壁により隔てられ、半世紀の時を経て一つに戻った日のように、皆は想いを分かち合い、肩を手を取り、拳を重ねた。
陸奥「外したらどうしようて…思ったわ…ふぅ」
金剛「ムツー!very、goodjob!最高のスナイプでしたヨ!」
激戦に終止符を打つ弾着観測射撃を行った陸奥は、緊張からの解放で腰から水面に崩れそうになるが、金剛が支え、親指を立てた最高の笑顔で功績を讃える。
時雨「陸奥さん、お疲れ様です」
摩耶「流石、華裏鎮守府(あたしら)の最高戦力だぜ!」
褒められたのが嬉しいのだろう。彼女は「あらあら…」と頬を赤らめ、モジモジしてしまっている。というのも、陸奥自身の砲撃命中率は華裏鎮守府内で最底辺(ワーストワン)であり、演習用の浮き楳にさえ、まともに当てられた事が無かった。
『三重の戦意高揚と33号水上電探×4を装備しているのに』だ。
命中率の悪さ故、前の鎮守府から厄介払いで華裏鎮守府へ左官させられた彼女…吹雪達からのスパルタ講習のお陰で多少の命中率は上がったものの、未だに安定しない。「下手な砲撃、数撃ちゃ当たる」とは言うが、「当たらなければ」意味が無いのである。
吹雪「陸奥さん、ありがとうございます!」
陸奥「ううん…MVPは貴女よ。私は最後の最後に、それも虫の息の敵を倒したに過ぎないから…ね?」
大淀「吹雪さんのお陰です。其れに今回の戦いで私達が得た物はとても有意義な物になりました。鳥海さん」
「はい」と彼女の頭の上に乗る一人の妖精さんが、撮影用のカメラを片手に親指を立てていた。
鳥海「龍驤さんが私に託してくれた見張り員妖精さんです。この子に協力して貰って、敵新型深海棲艦と、戦いの最中に出現した融合深海棲艦との戦いの全てを記録しました。これが有れば深海棲艦の秘密を探れる可能性が在ると、私の計算では出ています」
流石だわと空母組が感心する。大本営で士官達に戦術を叩き込み、育て上げてきた龍驤(かのじょ)。抜け目がない。
古鷹「…あれ?皆!見てください、彼処!」
古鷹が何かに気付き、指を指す。その方向…深海月星帝姫が撃沈された場所から溢れ出す、七色の光。
木曾「あれって…確か…!」
大淀「間違いありません…艦娘が『産まれた』光です!」
深海棲艦を倒すと、極稀に艦娘が現れる事がある。これを『誕生(ドロップ)』と言い、そうして鎮守府や艦隊に加わった艦娘達の事を、提督達は一般的に『保護艦娘』と呼称されている。
そして保護艦娘の戦闘能力等は、倒した深海棲艦の強さや希少度合いに比例し、鬼級や姫級になれば保護艦娘の強さは建造により誕生した艦娘達よりも強い。
ましてや今回、連合艦隊が倒した深海棲艦は今までに確認がされた事のない艦種(帝級とする)であり、姫級2体の融合体。戦闘能力は一戦交えた吹雪は勿論、彼女を見守った艦隊全員が知っている。
光が強く、更に輝き、軈てそれは『二つの球』に成って水面へ昇ってくる…吹雪達が駆け寄り、ソナー等をフル活用して敵襲に備える中、光の球体は彼女達の前で弾け、形を形成した。
???「…Where here is?」
???「Was…saved…?」
一人は胸元が大きく開いたグレーのスーツと袖無しに近いジャケットを羽織り、紺色のマイクロミニスカート、カラフルで左が白と青、右が赤と青のアメリカの国旗を模したサイハイソックスを着けている。髪はブロンドヘアで腰まで有るほど長く、瞳には星のマークが見える。
もう一人は白いロングワンピースに身を包み、脚を覆うガーターソックスから覗く白い肌。煙突状の髪止めにから伸びる赤茶色の長い髪に、後ろで束ねたポニーテール、そして赤いバンダナと錨をモチーフにしたネックレスを身に付けている。
そして何よりも、二人とも…
連合艦隊一同『…デカい』
圧倒的な胸部装甲である。彼女達の大きさなら大和型にも負けず劣らずの大きさ、下手すれば、それ以上は下らない。
大淀「…私より、ずっと…大きい…グズッ」
綾波「…チョモランマが、四つ…」
大鳳「負けた…ガフ」
木曾「大鳳が倒れた!誰か!誰か応急修理要員!」
彼女達の慌て具合に、二人は顔を見合わせる。この事態が終息するまで、待つ他に選択肢はなかった。
* * *
数分後…
大淀「オホン…では、改めまして。先程は御見苦しい姿を御見せしました。申し訳御座いません」
???「o…oh」
???「It is amazing…」
木曾(…分からん)
雲龍(何を言ってるの…?)
古鷹(…何処の言葉なの、かな…?)
そう。彼女達には、二人が何を言っているのか全くと言って良い程、分からないのだ。吹雪の声帯の妖精さんは露語には対応してはいるものの、其れに対して当てはまらない。つまり意味が理解出来ないため手が付けられないのである。
だが、そんな彼女達の中で、ある人物だけは二人の前に歩み出て、その口から言葉を発する。
金剛「Hello! My name is Kongou, what's your name?」
一同驚愕。金剛が二人と同じ言葉を口にし、喋っている。その言葉に二人の顔は満面の笑みが咲き、金剛の手を握りながら、言葉を返した。
???「Oh! My name is Iowa! I'm happy you understand my English!」
???「My name is Saratoga! Please do feel free to call Sara!」
金剛「Painful! Not held very strong because they hurt the hand!」
ペラペラと言葉を綴り、会話する金剛。同時に連合艦隊の電探に感が入る。すると先迄分からなかった二人の言葉が、自分達が使う日本語と同じになり、意味が理解出来るようになった。
アイオワ「コンゴウ、ごめんね?」
サラトガ「sorry…サラ達、嬉しくて力加減を」
金剛「ノンノン。次は気を付けて下サーイ、皆サーン!アイオワとサラトガデース!」
吹雪「華裏鎮守府を代表して挨拶をさせて頂きます。私は吹雪、連合艦隊の一員で有りますが、華裏鎮守府ではリーダーを勤めさせて戴いています」
アイオワ「フブーキね、私はアイオワ。U.S.A.の誇るスーパークラスのバトルシップ、アイオワ級のファーストネームシップ。よろしくね♪」
サラトガ「レキシントン級航空母艦・二番艦のサラトガです。気軽にサラと呼んでくださいね、どうぞよろしくお願いします」
吹雪「此方こそ、よろしくお願いいたします」
握手を交わし合い、アイオワとサラトガを連合艦隊は無事保護し、数分後に開かれたゲートを越えて、全艦無事に華裏鎮守府へと帰投した…。
* * *
華裏鎮守府、カタパルトエリア内…
明石「米艦娘!?」
夕張「マジで!?」
望月「敵国の艦じゃん…」
初雪「何で連れてきたの、吹雪ねーちゃん…」
予想してはいたが、やはりこうなるか…そんな表情で吹雪は破片を分け終わり、一休み中の彼女達を見た。
何せ第二次世界大戦時、日本海軍の軍艦だった頃の自分達を沈めた存在が、アメリカの軍艦や艦載機であり、今も其の記憶やトラウマに苦しむ艦娘達は多い。
だが哀しきかな、此れは現実である。
吹雪「例え嘗ては敵国の艦だとしても、私達には彼女達を見捨てて良い理由にはなりません」
吹雪の言葉を聞き、望月がこう返す。
望月「確かにそーだけどさぁ~…本当に信頼出来るの?裏切らない保証は何処に在るの?」
吹雪「ありません」
木曾「おい、無いのかよ吹雪さん」
吹雪「…『昔の』私だったら間違いなく、そう答えていました」
一拍置いて、彼女は言う。
吹雪「アキラ司令は、大本営のスパイであった龍田さんさえ受け入れ、仲間にしました。…私達にとって、アイオワさんやサラトガさんは、昔の私や姉妹達を沈めた敵国の艦(ぞんざい)。本当は許せない…絶対に許せなかった。
けれど、彼なら。…アキラ司令なら。どんな事情を抱えていようとも、艦娘(わたし)達を受け入れて、大切にしてくれる。
艦娘(わたし)達を『兵器(どうぐ)』としてではなく、『人間(ひと)』として考えてくれている。
…だから。私はアイオワさんとサラトガさんを。二人を『仲間(なかま)』として迎えたい…そう思えた、思う事が出来たんです」
綾波「吹雪姉さん…」
アイオワ「フブーキ…」
金剛「(…ブッキー。何処か刺々しかったのが、少しだけ薄れた感じがするネー)…もっちー、ハッツー。二人の気持ちも分かりますが、今は時代が変わりましタ。どんなに苦しくても、怖くても、痛みを抱えても、私達は進まなければいけません。
分かってくれますカ?」
初雪「…うん、分かった…」
望月「…ゴメンな?アイオワさん、サラトガさん。ちょっと言い方が悪かった…」
アイオワ「ノー。ワタシも、気に障ったなら謝るわ」
初雪「…昔から、あたしと望月は…こうゆうの、苦手だったから…」
サラトガ「ハツユキ…モチヅキ…」
初雪「…でも、アメリカが嫌いとかじゃ…ないし。二人が悪い人には見えないから…。
…何とか、上手く…やれるように、頑張る」
サラトガ「…センクス」
頭を下げた二人。その表情は真剣で、心からの感謝が現れていた。
明石「まぁ…色々在るけれど、この際置いといて」
夕張「で!お二方の事!調べさせてください!」
目を椎茸模様に輝かせ、三重戦意高揚状態でズイズイと迫ってくる。その手には工具箱とよく分からない色々な道具を目一杯指に挟んで。
アイオワ「ワァイ…?調べる?何を?」
サラトガ「フ、フブキ…。サラ、す、すごく…嫌な予感がします…」
夕張「フッフッフッフッフ…」
吹雪「綾波ちゃん、木曾さん、時雨ちゃんはアイオワさんとサラさんを、アキラ司令の居る執務室に案内!大淀さんと古鷹さんはアキラ司令に執務室に向かうよう連絡を!
雲龍さん達は補給、摩耶さんは金剛さんの入渠補佐!このマッドメカニック二人は私が止めます!各員、行動開始!」
吹雪の指示が飛び、一斉に動く艦娘。明石と夕張が飛び掛かる最中、吹雪も構えて迎撃する!
望月「あたしらは…」
初雪「避難、しとこ…」
パソコンやらの貴重品を持って、カタパルトエリアからそそくさと退散するダメニートズ。暫しの間、地下は戦場と化していたと言う…。
* * *
華裏鎮守府、工廠内…
アキラ「これで全部…だろうか?」
寒冷地に住む人のような色白肌で、アキラは額の汗を拭う。彼の周りには、ウッド島救援部隊が回収した残骸に刺さっていた黒い杭が、どっさりと置かれていた。
アキラ「しかし…これだけの杭で艦娘達が沈むなんて…ちょっと想像出来ないな」
杭の一本を手に持ってみる。重さは約15㎏程度で、長さは1m50cmくらい。もし此れが相当の速さで射出され、人間に刺さったのなら良くて重傷、下手すれば死ぬ。
だが艦娘達ならどうだろうか?彼女達は確かに人の形をしてはいるが、軍艦の魂と記憶を宿し、其の力を最大限に発揮出来る鋼鉄の身体を持っている。仮に杭が身体に刺さっても、並大抵の威力では絶対に沈まないし、大きな損傷も高速修復材(バケツ)が有れば、簡単に直せる。
アキラ(…『引き千切られてる』んだよな、彼女達の体は…)
鋼鉄の身体は耐久力に富み、只の打撃でも一流の格闘家の其れに並ぶ。武術を嗜む艦娘なら、最早威力は桁違い。簡単に、まるで紙粘土をバラバラに解体出来るだろうか?否、不可能だ。
アキラ「(これ以上考えたら頭が爆発しそうだ)…戻るかぁ、執務」
助 け て
アキラ「…し、つ、に…!?」
聞き覚えのある声だった。
全ては、金剛達が聞いた『声』から始まった。
舞風が再現し、発した『声』。今にも消えてしまいそうで、弱々しく細々とした…小さな小さな声。
助 け て
アキラ「声!?え、声、だよ…な!?」
身体に寒気が走る。全身を濡れた手で触られた様な、異質で於曾ましい感覚に、鳥肌が立つ。
恐る恐る…慎重に…ゆっくりと。
視線を後ろに向け
アキラ『!?!!!?!?』
この状況を端的に、読者に分かりやすく伝えるならば
『目と目が合う~♪ 瞬間に 好きだと 気付いた~♪』
と
『うーう きっと来る~♪ きっと来る~♪ 軌跡は白~♪』
のBGMが同時に流されたと伝えた方が良いだろうか。
『残骸の目が、アキラの方を見ている』。だが、その目が明らかに違うとするならば。
『殺意や恨み、怒りと憎しみで満ちた目』である。
長い時を越え、幾つもの障害と戦い、死線と修羅の果てに、漸く親兄弟や恋人を殺した仇敵を追い詰めた復讐者の目そのものだった。
アキラ『あ、あああ、あ…!
ふ、ふふふふふ…!!!?!?
吹雪ぃいいいいいいいいいいいいいい!!!!!!!大淀さぁああああああああああああん!!!!!!!明石ぃいいいいいいいいいいいいいい!!!!!!!夕張さぁああああああああああああん!!!!!!!』
一目散に工廠を飛び出し、アキラの恐怖の叫び声が鎮守府全域に木霊した…。
* * *
華裏鎮守府近海…
???「全く…『華裏鎮守府』は何処にある?奴等地図さえ寄越さず向かえと言いやがって…der'mo!」
海の上をイラつき、ぶてくされた顔で歩く存在は、憤りを隠せず、口に加えたパイプから吸殻を捨て、新しい物に切り替える。
???「……………はぁ~…Toshkentは今頃、何をしているだろ…」
ああああああああああああああああああ……………
???「…か?」
不意に声が響き、其の方角に視線を向ける。其処には小島があり、頂上にはポツンと建物らしきものが見えた。
???「Vov i vse!捉えたぞ…!さぁて…」
Mne budet veselo ?
アキラが恐怖で叫び戦き、脇目も振らずに全力疾走し、大本営が解放した危険な存在が、華裏鎮守府に迫る。
彼に平穏な提督ライフが訪れるのは、一体何時になるのだろうか?
艦娘紹介
陽炎…元鹿屋基地第八三五鎮守府出身艦娘。駆逐艦娘達のリーダー的存在だったが、大本営の『特別作戦』にて当時の提督が行った『戦法』に失望、自ら異動願を提出し、紆余曲折を経て華裏鎮守府へと着任した。
彼女は今も『其の作戦』を嫌い続けている。
不知火…元大本営直属の艦娘の一人。仕事は真面目で優秀だったが、人付き合いが悪く、艦隊戦に於ける軍隊行動適性の低さから、華裏鎮守府へ左官させられる。
吹雪達との触れ合いを経て、ある程度は丸くなり、周りの動きに合わせる事が出来るようにはなっている。
黒潮…陽炎と同じく元鹿屋基地第八三五鎮守府の艦娘。リーダーだった陽炎を支え、彼女が異動願を出した時に自身も付いて行った。陽炎の事を一番理解していると自負している。