将来を有望視された青年が、冤罪で問題山積みの鎮守府に着任されました。 ~地獄の底からこんにちは~ 作:ガリアムス
アキラ『吹雪ぃいいいいいいいいいいいいいい!!!』
走る、走る、走る。親友を殺させまいと、死に物狂いで走る勇者(メロス)のように、アキラは走っていた。
走って、走って、走り続けて。彼は執務室に戻って来た。
アキラ「吹雪!吹雪は居るか!?」
大淀「アキラ司令!?どうしたんですか!?」
慌てふためく姿から、彼女は彼が何か怖い物を見たと思っているようだ。
実際、その予想は当たっていた訳で。
アキラ「ざ、残骸の!艦娘達の残骸の!『目』が動いたんだ!!!其れも独りでに!!!」
* * *
華裏鎮守府、カタパルトエリア内…
明石「強…い…」
夕張「流石は…吹雪、さん…」
戦場と化していた場所でボコボコにのされ、マッドメカニック二人が伸びている。腹部に傷を負いながらも、吹雪は一人で彼女達を撃退していたのだ。
吹雪「技術研究やらするのは止めませんが、此所の実態さえ把握していない、アイオワさんとサラトガさんに対して、二人の言い方やらは余りにも軽率でした」
明石「だって、アメリカの技術を知れば開発だって、捗るじゃないですか!」
夕張「新しいデータで新艤装を作りたいですよ!」
全く反省の色を見せない二人に吹雪は頭をもたげる。実際問題、伊艦娘のイタリアとローマは、メカニック二人との仲が最悪で、其の原因が今回のような行動から始まったのを知っているからである。
吹雪「取り敢えず、彼女達が此処に慣れるまでは二人共、大人しくしている事」
明石「んな横暴な!?」
夕張「パワハラ反対!」
吹雪『良 い で す ね ?』
黙らなければ有無を言わさず殺される。吹雪の纏う殺意と威圧に、マッドメカニック達は発言出来ず、引き下がる事を余儀無くされた。
アキラ『吹雪!夕張さん!あがじぶ!?』
カタパルトエリアの非常用扉が勢い良く開き、アキラが扉の縁に足が引っ掛かけて盛大にずっこける。
吹雪「司令官!?」
アキラ「吹雪!夕張さん!明石さん!工廠に早く来て!ヤバイ物を見たんだ!」
三人はすぐに何か有ったのかと疑問視するが、その後に来た大淀の説明を聞き、にわかに信じ難い顔をした。
しかし工廠に着いた時、大淀の言葉の意味を理解する事になる…。
* * *
華裏鎮守府、工廠内…
明石「これは…」
夕張「信じられませんね…」
誰もが其の光景に言葉を失う。艦娘達の残骸の目がアキラに殺意を帯びた視線を向ける、この状況。
アキラは大淀の影に隠れるが、殺気はより鋭利になるばかり。
明石「…夕張」
夕張「何も言わなくて良い。やりましょう、大淀さんはアキラ司令を執務室に。数日間は工廠に望月と初雪以外を近付けないように指示を」
いつの間にか工具とバーナーを所狭しと持ち合わせ、真剣な眼差しで残骸に向き合うマッドメカニック達。二人の意思を汲み取り、大淀は彼の背中を押して工廠を後にした…。
* * *
華裏鎮守府、某廊下…
アキラ「大丈夫かな、明石さん達…」
二人を心配するアキラに「アキラさん」と大淀が一言。振り向き様、廊下の壁に追いやられ、壁に手を付けられた。
アキラ「大よ」
大淀「はっきり答えて。…『荒潮ちゃんを抱いた』のは、本当ですか?」
すっかり忘れていた。長門型姉妹に指揮権を了承しに行った時、長門に質問された後に「後で二人っきりで話がしたい」と言われたのを。だけどウッド島再調査に乗り出して、話す時間が無かった。
アキラ「はい。…抱きました」
嘘を付ける訳がない。そんな事をすれば荒潮の涙も、笑顔も、想いも。全てを無下にしてしまう事に等しいから。
大淀さんの表情がどんどん崩れて、今にも泣きそうになっている…。
大淀「どうして言ってくれなかったんですか…」
嫌われたな、確実に。彼女の初めてを貰って、それでいて他の艦娘に手を出したのだから、当選の報いだ。
死を覚悟するしかな
大淀『私だって!貴方に抱いて欲しいのに!』
…あれ?
大淀「毎晩毎晩入渠ドックから貴方と荒潮ちゃんの甘い声が聴こえてるのを知っているんですよ!私だって、あんな風に、優しく貴方に抱いて欲しい!
そもそも二人で話す時間を作ったのは、貴方と身体を重ねる為の言い訳で、荒潮ちゃんにも協力して貰おうと画策してたのに!」
アキラ「え、え?ええ…?」
大淀「この際ハッキリ言いますが、私は貴方が吹雪さんに話していたジュウコンカッコカリ政策に賛成です。華裏鎮守府には傷付いた艦娘も多いですし、何よりも私は貴方がそんな艦娘達を救いたいと言った言葉に、嘘が無い事を知っています。
…ですので」
此方が困惑して言葉が続かない内に。
彼女の唇が、俺の唇と静かに重なった。
大淀「『私も』含めて皆を。幸せにしてあげてくださいね」
林檎のように真っ赤な頬で、彼女は俺にそう言った。
とても愛らしく、可愛らしく、そして…大切にしなければならない。俺は心底思わざるをえなかった。
* * *
華裏鎮守府、執務室内…
アイオワ「フブーキ、彼がこの鎮守府のアドミラールなのね?」
吹雪「はい、アイオワさん」
アキラ「吹雪の言う通り、俺は牧園 アキラと言います。まだ着任して数ヶ月程度の若輩提督ですが、よろしくお願い致します」
すっと笑顔でアイオワに手を差し出す。が…
アイオワ「ヨロシクー!アキーラ!」
手を握られ、引き寄せられたと思えば、ものの数秒で俺は彼女にキスをされた。ステルス戦闘機にミサイル爆撃を食らったみたいな不意討ちに、吹雪と大淀さんはポカンとしている。
大淀「な、ななな!?何をしてるんですか!?!」
アイオワ「何って、私達の国の挨拶よ?ウフフ♪刺激が強かったかしら?」
大淀「破廉恥ですッ!!!!」
アキラ(大淀さん…貴方も似たような事を、初対面でやってたよね?)
サラトガ「もう、アイオワったら…。提督、彼女は悪気が有って、あのような行動を取った訳じゃないんです」
アキラ「う、うん…えっと、サラトガさん…だよね?牧園 アキラです」
サラトガ「サラトガです。提督、よろしくお願いします。サラと呼んでくださって構いません」
天真爛漫なアイオワさんと、清楚な見た目と優しい柔らかな雰囲気を持つサラトガさん。かくして二人は華裏鎮守府の一員として加わる事となった。
だが、まだ一つ問題がある。それは彼女達の部屋決めだ。
* * *
甘味処間宮…艦娘達が集う食事の場。この日、この場所は緊迫した状態にある。
アキラ(…居辛い)
食事をする者や、受け取る者の視線が此方に向けられる。理由は十中八九、アイオワさんとサラトガさんだ。
姿形は変われども、嘗て敵同士だったのだ…至極当然の反応である。
アキラ(その上…目の前に居る、龍驤さんのサラトガさんへの視線がヤバイ。…脅えて俺と大淀さんの後ろに隠れてるし…)
龍驤の視線…其れはアキラが着任当初に磯風から向けられたモノと同レベルで、恐ろしく、鋭く、何よりも怖い。
龍驤「のぉ、アキラはん」
アキラ「は、はい!何で御座いましょうか!?!龍驤大先生!!!」
龍驤「ウチの見聞き間違いならええんや。今、君の後ろんに居んの『サラトガ』やろ?」
はい、ビンゴです。この人を相手に俺が隠し徹せる訳無いですね。本当にありがとうございました。
大淀「サラトガ?いえ、知らない人で」
龍驤『黙っとれ大淀』
刹那、甘味処間宮全体に走った殺気と威圧の暴風。大淀を含む、食事中の艦娘の一部が彼女の気に当てられ、次々に気絶していっているではないか!
龍驤「アキラはん。ウチの『軍艦時代の艦歴』は知っとるかいな?」
アキラ「はい…」
まだアキラが幼かった頃、祖父から沢山の軍艦の話や本を読み聞かせて貰った。彼の憧れである気高き戦艦・長門や、仲間達の仇を取らんとした二航空・飛龍、奇跡の救出作戦を成し得た軽巡洋艦・阿武隈等々、思い出す度に鮮明に其の記憶は甦る。
軈て歳月が過ぎ、士官を目指し学校に入った彼は、軍艦の歴史を記した本を読むようになる。
アキラ「龍驤さんを…沈めた存在。其れが…サラトガさん、ですよね」
龍驤「せや。ウチに言わせれば、自分を殺した存在や。出逢いたくも、思い出したくも無かった」
艦娘達には軍艦時代の記憶がある。誕生…戦い…そして沈没の記憶。
彼女達が持つ記憶には、自分自身のトラウマとも言えるモノもある。
ローマにとって、フリッツXが。
深雪にとって、電が。
陸奥にとって、砲塔の爆発が。
そして…龍驤にとって、サラトガが其の関係にあるのだ。
龍驤「正直に言うで。…ウチはな、サラトガ。
アンタが嫌いや、それも大っ嫌いや。昔に載っとった船員や艦長がアンタを許しても、ウチは絶対に許さへん。
これまでも、これからもな」
サラトガ「………」
重々しい空気に、サラトガさんは今すぐにでも逃げたいと思ったに違いないだろう。顔は真っ青、汗はダラダラ、気絶させない程度で当てられ続ける殺気と彼女にとって、これ以上の拷問は無い。
龍驤「けどな。…『それはそれや』」
はぁあ…と喫煙者が溜めた煙草の煙を吐き捨てるように、腹の底から重ったるい息を出す。
龍驤「昔の事を気にしとったら、『今』が楽しくないやん。ちゅうから、さっきまでの話は無視してくれや。
年寄りの愚痴に付き合わせた礼に、好きなもん頼み。ウチの奢りやね」
放った殺気は既に消え、何時もの気軽で落ち着いた表情の彼女が其処にいた。過去と現在、二つの記憶を宿し、終わる事の無い戦いに身を投じる艦娘達。
彼女達は嘗ての蟠りを、遺恨を越えて、新たな仲間として歩み寄り、新たな関係を築こうとしているのかもしれない…。アキラはそんな風に思っていた。
ドガアアアアアアアアアアアアアアアン!!!!!!
鎮守府全体に鳴り響いた砲音が、この空気を破壊するまでは。
アキラ「砲撃!?」
大淀「はっ!私は一体!」
電『鎮守府に通達!現在、鎮守府正面入口にて、未確認生物の奇襲を受けたのです!?はにゃあ!!!』
ドガアアアアアアアアアアアアアアアン!!!!!!
アキラ「何だってこんな時に!!!」
龍驤「アキラはん、行くで!」
アイオワ「ミー達も!」
アキラ「いや、二人は大淀の指示に従って安全な場所に避難して!大丈夫、此所の艦娘(みんな)はそう簡単に倒れやしない。さぁ、行って!大淀さん!」
大淀「了解しました!」
大淀の指示で、他の艦娘達と共にアイオワとサラトガは避難する。アキラは龍驤と共に、この混乱の元凶を叩くべく、行動を開始した。
* * *
華裏鎮守府、正面入口…
???「さて。小手調べはこのくらいか」
一歩、また一歩と鎮守府内部に侵入してくる存在は、『艤装』を装着している。見た目はかなり使い込まれながらも、新品同様の光沢を放ち続けている。
軍帽を乗せ、銀の髪を揺らしながらパイプを咥え、茶色のシャツの上に白の軍服を肩で止めている。頬付いた小さな斬り傷を軽く撫でながら、黒のミニスカートとストッキングを身に纏い、黒い靴でコツコツと地面を鳴らし、不敵な笑みとオレンジの瞳で辺りを鋭く威圧する姿は、歴戦の女将校の出で立ちに等しい。
???「何時まで無抵抗を貫くつもりだ?それとも…!」
何を感じ取ったか、彼女は足を一歩後ろにずらして体を横に移動。瞬間、彼女が立っていた場所には砲撃で空いた物よりも、ずっと大きなクレーターが出来上がる。
霧島「躱したか」
???「ほぉ…『拳撃』でここまでの威力を出すか。いや、正確には『身体能力』だけで…か」
緑の眼鏡を少し上げて、拳をパキポキと鳴らす霧島。その顔は深海棲艦との戦闘時と同じである。
霧島「…何処の所属かしら?何か私達の鎮守府に用でも?」
???「フッ…Net nikakogo obyazatel'stva otvechat'。刃向かうなら、殲滅する…それだけだ」
霧島が仕掛ける。高速戦艦、金剛型三番艦の彼女は『金剛粉砕(ダイヤクラッシャー)』の二之名を持つ。単純な(力比べ)ならば、あの長門型姉妹にさえ負けぬ力がある。
一気に接近し、敵の顎を砕く。もしくは股を蹴り潰して行動不能にする。それで終わりだからだ。
が。
???「ハッ!」
霧島「!?」
彼女の視界が180度回転し、背中に走る大きな衝撃。
…自分が仰向けに倒されている。自分が名も知らぬ艦娘(?)に『投げられた』という事実。あり得ない、信じられる訳がない。
???「Yeshche bol'she…そんな力任せの戦い方で、この私を倒せると思ったのか?」
霧島『ブッ殺す!』
直ぐ様立ち上がり、右フックで脇腹を抉る角度で放つ。
霧島(これでッ!!)
刹那。彼女の視界が真上にカチ上げられ、同時に自身の意識が削り取られたのを感じた。
霧島(今、…何をされた!?)
???「Uraaaaaaaaaaaaaa!!!」
腹部に襲い掛かった一撃。右足を軸に捻りを加えて加速、繰り出された、左後蹴り。その威力に霧島の全体重が後ろへと引っ張られ、体がくの字に曲がり、鎮守府の壁をぶち抜いた。
???「Shuchyy delayet。奴は器では無かっ」
アキラ『霧島さん!大丈夫ですか!?』
???「…か」
煙が晴れ、霧島が吹き飛んで壊れた壁の方角。倒れた彼女を起こす一人の青年と艦娘を見た時、彼女は目を丸くする。
同時に口角が三日月のように吊り上がり、白い犬歯が顕になった。
???『フフフ…!ハハハハハハハハ!!!
アハハハハハハハハハハハハハハハ!!!
まさか貴様達に逢えるとはな!!!
『牧園 ジュウゴ』!!!『雷皇(らいおう)』!!!
『三十年前の借り』を!こんな形で返せるとはなぁ!!!!!!』
艦娘紹介
金剛…華裏鎮守府が大本営に公認されていた時代に、建造によって誕生した艦娘の一人。吹雪の過去を知る極僅かな艦娘の一人でもある。華裏鎮守府に在籍する数多の艦娘達を見守り、育ててきた。
荒潮…華裏鎮守府に在籍する艦娘の一人。前に居た鎮守府に於いて『肉奴隷』として過ごした、壮絶な過去を持つ。自分の苦しみの過去と背に負った傷を知り、それでも救いたいと言ったアキラに指揮権を譲渡し、体を重ねる。
満潮によると、彼女は『殲滅者(バーサーク)』の二之名を持っているらしい。