将来を有望視された青年が、冤罪で問題山積みの鎮守府に着任されました。 ~地獄の底からこんにちは~ 作:ガリアムス
※今話でウッド島再調査編は終了します。また別小説を執筆するため、暫く更新を止めさせていただきます。
アキラ&龍驤視点…
アキラ「いきなり襲撃って!深海棲艦ですかって感じですよ!」
龍驤「全くや!人が重々しい過去と向き合っとったちゅうに、不粋なヤツがおったで!」
華裏鎮守府の中庭へ続く廊下を走り、敵の姿を目視できる位置を目指す二人。その時。
「Uraaaaaaa…」
ドゴォン!
ボガアアアアアアアアアアアアアアアアン!!!!!!
二人『!?』
進む廊下の先の壁が爆発し、煙の中に倒れる影一つ。急ぎ駆け寄ると、霧島が居た。
側にはレンズが割れ、フレームが曲がった状態で転がる眼鏡、白い巫女服は所々砂埃で汚れ、腹部には蹴られた後が有った。
アキラ『霧島さん!大丈夫ですか!?』
揺するがピクリとも動かない彼女だが、脈はあり気絶しただけだと分かると、ほっと胸を撫で下ろす。
そして彼等は霧島が飛ばされた方角を見る。
だが…
龍驤「何でや…何で『お前が』!華裏鎮守府(こんなとこ)に居るんや!!」
アキラ「龍驤さん…?」
龍驤の纏う気質(オーラ)が殺気を帯びる。いつの間にか戦闘時に使う巻物型の巨大な飛行甲板を手に携え、空いた片手には(勅命)の焔の珠が燃え、浮かび上がる。
???『フフフ…!ハハハハハハハハ!!!
アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!』
砂埃と煙が晴れ、高らかに…『狂喜』の笑い声を挙げる主をアキラは見た。銀の髪にオレンジの瞳、茶色のシャツと白い軍服型のコートと白の軍帽、黒のミニスカートとストッキングに靴。口に咥えた年配物のパイプ。
背中に付けた艤装、瞬間的に彼は察する。『この人は強い、それも吹雪に近い強さを持っている』…と。
が、彼女が放ち言った言葉を聞いた時、彼は衝撃を受ける事となる…
???『まさか貴様達に逢えるとはな!!!
『牧園 ジュウゴ』!そして『雷皇』!
『三十年前の借り』を!こんな形で返せるとはなぁ!!!!!!』
アキラ「え…」
龍驤「アキラ!アイツは危険や、下がっとり!…おい!?聞いとるかないな!!」
アキラ「…どうして、『俺の御祖父ちゃん』の名前を知ってるんだ…!?」
龍驤「!?」
???「牧園 ジュウゴ…貴様に付けられた『頬の傷』、そして『約束』を!
私は果たしに此処まで来た!!!!!!」
彼女が地面を蹴り、二人の視界から消える!
龍驤「!?アキラ逃」
???『Бьιть в пути!』
龍驤の体が台風に打ち倒される樹木のように廊下の天井の破り、宙を舞って、鎮守府二階の西側の部屋の壁を破壊する。
アキラ「龍驤さんッ!!!」
彼女の元に行こうとしたが、首根っこを強力無比な力で掴まれ、廊下の壁に叩き付けられる。そして自身の逃げ道を両腕で封鎖された。
女子が好きな異性にされたいシチュエーションランキング上位に入る行為、壁ドンである。
アキラ「あわわ…」
怖い眼差しで自分を見つめる彼女。良く見るとストレートに伸びた銀髪と、ほのかに香水の匂いが鼻に香り、スラリとしたボディーラインは美しく。
ボタンを一つだけ開けたシャツから覗く、綺麗な肌が印象的だった。
???「久しいな…逢いたかったぞ、ジュウゴ。何時まで私を待たせるつもりか…。全く、待ちくたびれたぞ?」
何を言っているのか分からない。そもそも自分は牧園 ジュウゴではなく、牧園 アキラ。其れが分かっていないのか?
ガングート「ボケてしまったか?それとも惚れたか?
ジュウゴ、私だ。Гангутだ。…覚えてないか?」
覚えてないも何も、此方は初対面に加えて絶賛壁ドンされ中につき、思うように動けません。しかも妙に色気があるせいで、思考があまり働いていない。
原因は…おそらく香水。あの匂いを嗅いでから、自分の頭の中が痺れる感じが居座っている。
アキラ「お、俺は…ジュウゴじゃない…です!」
ガングート「何を言っているんだ?お前はジュウゴだろう?髪も黒く染めて、若さを保っているんだろう?」
理性が働く内に、口を動かす。言わねばならない、彼女は知らぬ自分の祖父の事を。
アキラ「俺の…御祖父ちゃん、牧園 ジュウゴは…『十一年前』。俺が九歳の時に…病気で、死んだ」
俺の言葉で、彼女の目が動揺と驚愕で震える。当たり前だ、この事実は数少ない身内…正確には『俺を育ててくれた親戚』と『葬式に来た人々』、そして『俺』しか知らない。
両親は居らず、親戚ともあまり上手くいかなかった俺を常に心配し、遊びに行く度に色々な事を教えてくれたのが、祖父だった。
棺の中で眠る祖父の顔を見た時、初めて『死』という概念を覚えた。二度と動かず、言葉も発さず、目を閉じたまま、呼吸すらしない。鉄のように硬く、冷たい肌に触れ、十代にも満たなかった俺は『死』を知った。
同時に俺と祖父を結んだ繋がりが、プツリと切れた事を知った。
其の瞬間に俺は葬式にも関わらず大号泣し、泣き止むまで式を止めてしまったのを今も覚えている。
ガングート「何を言っている…?あの男が、病気で…死んだ、だと…?…ありえない!そんな事、誰が信じる!
あの男が、病気如きで死ぬなど!絶対に…!ありえない……!!!」
ガングートの目から光が消えて、先程までの勇ましい女将校とは正反対の、ヨロヨロと弱々しい老婆のように、肩から崩れ落ちて、その場にへたり、座り込む。
龍驤「残念やけどなぁ…ガングート。アキラの言っとるのは事実や」
彼女の後ろから声がする。服に付いた砂埃を払い、サンバイザーを被り直す龍驤の姿があった。
アキラ「龍驤さん、大丈夫ですか!」
龍驤「問題ないよ。ウチ、こう見えて結構体鍛えとるからな。
…さて、ガングート。アキラのじいさん…もとい、牧園 ジュウゴ『さん』の葬式は、アキラが言うた通り十一年前に行われとるんや。お前があの人とどんな『約束事』を取り付けたかは知らんが…
『もう二度と、叶う事はないんや』」
冷徹に、龍驤はガングートに今在る『現実』を叩き付けた。最早それはオーバーキル以外の何物でもない、死体蹴りに等しい行為。だが、この手の類いは、それくらいきつく言わねば、現実を受け入れられないと分かっているからこそである。
ガングート「嘘だ…Я лоина решимости лгать…!!!」
俯き、手を拳に変えて握り締める。彼女の瞳に大粒の涙が浮かび上がり、零れ落ちて床を濡らす。
ガングート「あああ…あ、あああああ…!あああああ、あああああああ、ああ…!!!」
遺された者の嘆きの様に、悲しみ以外の何物でもない泣き声。涙はボロボロと落ちては濡らし、泣き叫び続けるガングート。
ガングート「私は…ジュウゴと、約束したのに…!こんな…!こんな…!!!」
アキラ「…あの」
龍驤「ガングートや。それで、約束事っちゅうのは一体何や?心底号泣するんや、よっぽどの理由が有るんやろね?」
ガングート「ッ…!当たり、前だ…!」
アキラが言うよりも早く、龍驤がガングートへと問い掛ける。涙を拭い、泣きそうになりながら、悲しみを何とか圧し殺して、彼女はまだ震える口を開く。
アキラ(御祖父ちゃん…彼女と一体、どんな約束を交わしたのかな?凄い重要な事…いや、それとも軽いやつなのか?)
ガングート「彼は。…彼は、私に…言った」
アキラ(御祖父ちゃんの事だ。自分が違えない約束は絶対にしない。だから、きっと彼女に言った事も…)
ガングート「…ちゃんと、出所したら…。お…
『俺と結婚しろ』…と、言った…んだ…」
静寂が訪れる。例えるなら、ロシアの風物詩たる氷点下-50℃にも成る大寒波だろうか。
アキラ(御祖父ちゃんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんんん!?!?!?
何で!?何で結婚を申し込んだの!?馬鹿なの!?何やってんの!?)
龍驤「アッハッハッハッハッハッハッハッハッハッ!!!!!!!
なーるほど!やっぱりあの人はそうゆう奴やで!」
予想外過ぎる約束に漠然と心中で亡き祖父にツッコミを入れるアキラと、高らかに成程納得といった具合に笑う龍驤。
龍驤「いやー今日はほんま、色々あり過ぎて疲れとうたわ…。アキラはん、ガングートの処遇は…いや、聞かんでも決まっとるか」
アキラ「え?あ、はい!龍驤さん!」
我に返り、頬を叩き、アキラは片膝を付いてガングートと向き合う。
アキラ「さっきの砲撃は、貴女の国の挨拶として、不問に伏します。華裏鎮守府に着任した以上、貴方にも此方のやり方に従って貰います。
…と、堅苦しい挨拶はこのくらいで。よろしくお願いします、ガングートさん。もし困った事が有ったら言ってください」
「『俺が必ず、力になるから』」
彼女へ手を差し伸べたアキラ。ガングートの目には、ほんの一瞬、アキラに『ジュウゴの姿が重なって』見えた。
ガングート「!…ああ、えっと…」
「アキラでも、提督でも良いよ?」と彼が助け船を出すと、彼女は「ならば、アキラ。よろしく頼む…」と、恥ずかしがりながら、軍帽を深く被って握手を返したのだった。
* * *
数十分後、甘味処間宮…。避難指示が解除され、皆がそれぞれやるべき事をせんと戻る前に、アキラは吹雪と共に皆を間宮へと呼び集めた。
理由は一つ、これから共に戦うガングートを紹介するためだ。
アキラ「細かい前置きは無しで、今日新しく華裏鎮守府に加わったガングートさんです。ロシアの戦艦艦娘で、先程の砲撃は彼女なりの挨拶だから心配しないでください」
摩耶「インター砲ってやつか!」
鬼怒「誰うま、だよ!てかそんな『物騒』な挨拶を『仏頂』面でされても困るって!」
摩耶と鬼怒のギャグが炸裂するも、周りはあまりにも寒いギャグに失笑を隠せない。と、ガングートが皆の前に躍り出る。
ガングート「私が、Гангут級戦艦一番艦の、ガングートだ。よろしく頼む。
さて…皆には一つ、宣言せねばならぬ事がある」
そして彼女は俺の腕を引っ張り、自分の胸元に引き寄せ、自分の腕をクロスさせて言った。
「アキラは『私の夫(モノ)になるから』よろしくな?」…と。誰の目にも明らかな宣戦布告。
瞬間、間宮の中に殺気が満ちて、空気がビリビリと震え始めた…!
アイオワ『あらあら…ロシアの『おばさん』にホレる馬鹿は居ないわよ、ガングート?」
サラトガ『良いでしょう、戦争です。サラ、徹底交戦します』
大淀『貴女方にアキラを渡すつもりは一切合切有りませんよ?』
荒潮『あらあらァ…死にたい奴等が多いみたいねぇ…ウフフフフ!』
ヤバい、ヤバすぎる。彼女達が争ったら只でさえボロボロの華裏鎮守府が倒壊する未来しか見えてこない。何とかして沈めねば…
摩耶『オイオイ、私を差し引いて何言ってんだ?』
鳥海『私の計算では、貴女達に勝ち目は無いですね。諦めて引き下がってください』
綾波『綾波は…『いつでも』大丈夫ですよ?』
江風『キシシ…!第一次正妻大戦の幕開けだ!!!』
足柄『じゅるり…フフフフ!!!』
竜田『ウフフフフ…!』
画策せんとしたアキラだったが、それをも無に返すかのように激化の一途を辿るのみ。最早これまでか?天に祈りを捧げようとした時だ。
龍驤「はい、ストップ。そんなにアキラの事が『欲しいんなら』、全員やりゃあええやんか」
アキラ「龍驤さん?やれば良いって…な」
龍驤「決まっとるやろ。そんなん」
瞬間、「あ、もうこれ駄目かもしれない」と自分の直感が囁く。だがもう遅い、自分の運命は更なる修羅の道を辿るのみとなった。
龍驤「『夜這い』や。欲しい奴は一日の終わりにアキラはんの寝室所に行って、めっさ盛ればエエんやで♪
まぁ彼の体調とかも考慮して、一日一人先着やな。さぁ、アキラはん。頑張りや♪」
アキラ「え…」
エエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエ!?!?!?!?
その日、アキラの悲鳴が鎮守府に木霊した。同時に其れは、彼を狙う艦娘達や彼に好意を抱く艦娘達の戦いの幕開けを知らせるゴングとなったのである…。
* * *
同時刻、海軍大本営某室内…
???「何…!?華裏鎮守府がウッド島最深部まで到達しただと…!」
その衝撃は、瞬く間に室内にいた人々に拡散。動揺とざわめきとなる。
???「一体どんな手品を使ったんだ…」
???「奴等が最深部に到達出来た理由は、あの男が華裏鎮守府から資源資材を回収しなかったからに他ならん!やはり『牧園一族』の人間か…!」
???「奴を早く叩かねば、また『面倒な事態』になりかねんな…策は有るか?」
???「問題無かろう。奴がどんなに足掻こうが、最後に勝つのは大本営(われわれ)だ。『牧園一族』の彼には…」
『屈辱的敗北を味わい』
『絶望の中で』
『恥を晒し』
『多くの嘲笑と侮蔑の目で見られ』
『悲しみと後悔の中』
『醜く死んで貰わねば困るのだからな』
大本営に潜む闇が、剥き出した悪意の牙。
『人』の持つ最も恐ろしく、最も立ちの悪い力がアキラに向けられる…。
大本営と華裏鎮守府の戦いは、新たなる段階(ステージ)に突入した。
人物紹介
牧園 ジュウゴ…本作の主人公、牧園 アキラの祖父で、彼が尊敬する人物。彼が九歳の時に他界し、今は故人である。
三十年前、当時『雷皇』の二之名を持っていた龍驤達と共に、ガングートを捕らえた。また大本営地下獄中に居た彼女に、求婚を申し込んでいた事が明らかになる。
大本営の中では彼の存在を『海軍の恥』、『問題児』と非難する者達が居る一方、『海軍の英雄』や『人としての手本』と称賛する者達も多く、其の評価の違いにより、未だ『善人』か『悪人』か、はっきりとしていない。
牧園一族…大本営の一部の人間が、アキラを含めた存在を呼称する際の別名。
牧園一族と彼等の間には深い隔絶が存在し、牧園一族が表舞台に宣う事を嫌い、様々な手を使い排除しようとしている。
其の理由は、いずれ本編にて明かされる事になるだろう。