将来を有望視された青年が、冤罪で問題山積みの鎮守府に着任されました。 ~地獄の底からこんにちは~ 作:ガリアムス
※家の龍驤さんは強者+先生ポジの超強キャラとして書かれています。え?ガングートに軽々ブッ飛ばされた?あれはアキラがジュウゴさんの孫と知って動揺しただけだから…(震え声)
※龍驤さんのキャラが色々と崩壊したりしてます。「家の嫁はこんな事、絶対言わねえ!」と申す方々はブラウザバックをお願い致します。
どうしてこうなった…。
アキラ「うぐ…へぉぐ…」
龍驤『後、鎮守府三周!終わるまで止める事も許さへんで、アキラはん!』
アキラ「う゛ぉ…うぼ…う、だよ…それは…」
俺は今、『地獄』にいる。いや…地獄よりも不明確で、ずっと恐ろしく、深い場所。…言葉にするなら『終焉』。
そんな世界。
きっかけは今から三日前のマルナナサンマル、入渠ドックにて彼女…龍驤先生から言われた『ある言葉』が、始まりだった。
* * *
華裏鎮守府、入渠ドック内…
龍驤「アキラはん、風呂から上がったら『修行』するで」
大淀「!?」
アキラ「しゅ…、ぎょお…う…?」
湯槽に浸かり、アキラの口にゼリー飲料を片っ端から注ぎ入れる大淀の顔が、彼女の言葉で真っ青になる。
大淀「先生!?アキラ司令はまだ完全に回復しきってません!其れに『アレ』をやった結果、前任の提督達が『死んだ』のを知らないのですか!?」
龍驤「『知っとるわんなもん』。けどな…『気概と理想』だけで成り立つ程、華裏鎮守府は甘く無い」
大淀「しかし!」
龍驤「いくらアキラはんが強靭な精神力と、駄々広い心を持ってようと、実力と実績がなければ『全部無に還る』。此処はそうゆう場所や大淀。
ウチも、こいつの事は気に入っとる、だからこそや…本当の意味で『華裏鎮守府を担える』か。其れを試さなあかん」
大淀「…もし、もしも…『死んでしまったら』?」
大淀の言葉が震えている。しかし龍驤は優しさ等、吐き捨てる言葉を放った。
龍驤「ウチは『教える』だけや。その過程で誰かが死んでも、そいつが『弱かった』結果、『そうなった』事実が残る。最終的に『誰が生きる』か『誰が死ぬか』。
ウチの教育は『生き残った奴が先に進める』がモットーや、現在の海軍士官や中将共は『生き残った』側の連中。片や辞めてった連中は『生き残れなかった』側の有象無象。
其れ以上でも、其れ以下でも無い。大淀、お前に出来るのは、こいつが死なんよう精々『神様に祈る』くらいや」
体を下ろし、朦朧とした意識の中にいる俺に龍驤さんはこう言った。
『地獄を超えてみな』…と。
* * *
其れから三日後。華裏鎮守府、中庭…
アキラ「お、おわ…た…」
龍驤「次は腕立て伏せ百回。腕は真っ直ぐ、曲げた時に直角九十度維持しつつ、五秒待機。
其れが終わったらスクワットと上体起こし各二百ずつ。出来たら『午前のメニュー』は終了や。『午後のメニュー』は昼休み中にやるで」
アキラ「ひえっ…!?ま、だ…午前…終わっ、て無…い…の?」
「当たり前やないかい」と無情にも言われた一言が心に突き刺さる。海軍士官学校時代に受けた体育授業が何れだけ生温く、優しかったかと思い知らされる程、彼女の訓練は厳しい。それどころか此方が倒れようが叩き起こして続けさせるのだから、余計タチが悪い。
龍驤「ほれ!さっさとやらんと朝食食えへんよ!
はい、いーち!
アキラ「ひゃあああ!?いーち!」
涙目になりながら、腕立て伏せを開始するアキラ。午前と午後そして夜の一時間、計三時間。彼女によってミッチリ濃厚に心身をシゴかれる日々が始まり、僅か三日目にして彼は限界を迎えていた。
* * *
フタフタマルマル。華裏鎮守府、中庭…
龍驤「はい、『今日は』これで終わりや。よう頑張ったなアキラはん」
アキラ「つ…かれ…だぁ…」
全身に重りが乗し掛かったように、その場でぐったりと倒れ伏すアキラと、其れを見下ろしパチパチと軽い拍手を贈る龍驤。
龍驤「ゆっくり休みな、アキラはん。『明日から』は更に『厳しく』いくで」
アキラ「えぇ…ぇ…!?これ、これでも十分キツいんですけど!?」
龍驤「当たり前やん。『入門編』でしか無いんやから。ああ、其れと朗報や。アンタの修行が終わるまでの間は夜這いは中止になったから安心して集中しぃ」
背を向け宿舎に戻ってゆく龍驤を見て、アキラは此れ迄に無い程の、深い絶望…終焉を感じた。体が心が壊れ。最後には死すら、何事もなく受け入れてしまうのではないか?
夜の闇は、明日見えぬ彼の心を写すように、漆黒に深く染まってゆく…。
* * *
翌日、龍驤は言葉通り彼の授業を『厳しく』した。彼女手始めにアキラの四肢や腰に合計で10㎏の重りを付けさせ、昨日までと同じ訓練を行う。始めこそ何とか走れていたアキラだったが、体力の消耗に連れて体感の何倍以上にも跳ね上がった重りが彼の動きを鈍らせ、終いには動けなくしてしまったのだ。
『止まるんや無い!』と怒号が飛び、龍驤のタイキックが彼の尻を直撃し、重量が増したにも関わらず前方へ大きく蹴り飛ばされた。
『うすのろ!』や『チ○カス!』等の罵声を浴び、タイキックが炸裂し、その度に彼は泣きそうになりながら、再び立ち上がって動き始めた。
毎日毎日、朝昼晩…雨が降ろうが関係なく、血深泥になるような、そんな龍驤による指導の日々が続いていた。
???「龍驤さんのシゴキに付いていけるなんて…」
???「今までの提督と比べると、骨は有るようだ」
そんな彼を鎮守府二階の窓から覗く影達。
彼女達は皆、紫色の服と黒のミニスカートを着ており、出で立ちはエレベーターガールか二十代半ばのオフィスレディである。
彼女達は妙高型重巡洋艦姉妹…。艦歴も皆、武闘派揃いで艦隊旗艦を勤めたり、様々な作戦に参加して戦果を挙げている。
足柄「えぐっ…ひっぐ…」
???「足柄…お前、まだ夜這い決めのじゃんけんに負けた事で泣いてるのか」
???「足柄姉さん…ちょっとお酒臭いです」
足柄「だっでぇ!あだし程の美人がげっこんできらいらんて、ほがじいばよぉ~!?」
ウイスキーの瓶を閉じる蓋を馬鹿力を持って回し開け、そのまま一気に飲み干すのは、結婚願望で頭が一杯の三女の足柄。そんな彼女を膝枕で慰める末っ子の羽黒と、妹の醜態に呆れて頭を抱える次女の那智。
そして雨に打たれる窓ガラスからアキラの姿を見続ける長女の妙高は、何を想ったのかカーテンを閉めた…。
* * *
六月の最終週、其の日は朝から大雨が降り続け、華裏鎮守府内部は雨漏りによる浸水を防ぐために、使い終わりの高速修復材のバケツを置くなど朝から忙しく、慌ただしくなっていた。
アキラ「ひぃ~!ひぃ~!」
龍驤「アキラはん、気張りな!雨は天からの試練や!其れに負けなきゃアンタはもっと強うなれる!」
連日の雨で滑りやすくなった地面を三週間で総重量を10㎏から15㎏に増量、胸と肩にも其れを付けられたアキラが走る。雨による体温低下と、重りがもたらした体力の浪費が、彼を苦しめ、追い詰めていた。
アキラ「あっ…!?」
溝に脚を取られ、彼が盛大に転び、地面を滑った。
龍驤「ほれ、さっさと立ちや!まだ終わっとらんやん、蹴飛ばすぞ!」
雨音に負けない大きな声で叫ぶ龍驤。
アキラ「分かって…いる…んです…。でも…
でも…動かない、…動かないん、ですよ…!!!」
やっとの思いで絞り出した言葉。だが彼は、その場からピクリとも動かず、倒れたまま。呼吸も途切れ途切れになるまで消耗し、指の一本も動かせない。
重りが自由を奪い、取り上げた…最早これまでか。
龍驤「アキラはん!『華裏鎮守府の皆が、深海棲艦に捕まった』と想像してみ?」
アキラ「!?…え…?」
龍驤「そいつらは『とんでもない本数の触手』と、『服だけ溶かす溶解液』で、『艦娘達をぐちゃぐちゃに犯そうとしとる』んや。
アンタは其れを『倒れ伏したまんま』見とるつもりかいな」
体温低下と体力消耗でぼやけた視界…そして龍驤の言葉が、彼に強力な幻影(イメージ)を見せた。ウネウネと蛸や烏賊、海月のような数え切れない無数の触手達が、吹雪やサラトガ達を次々に捕まえ、先端からシャワーのように液体を放ち、彼女達の服をドロドロに溶かす。
アキラ「…嫌、だ…」
龍驤「ウチも奴等に捕らえられて、女の尊厳すら踏みにじられるくらい、無茶苦茶にされてまう。あんた以外、誰も助けは無い。
君なら…もう、何をするか決まっとるやろ?」
絶対に嫌だ。そんな事、認めたくない。認める訳にはいかない。地べたに這いつくばり、とうに力尽きた身体の中心から、力が湧いてくる。だが、其れは普通の物とは違う。
酸化し腐敗したオイルのようにドロドロで、心底気持ち悪いと思える物。人が誰しもが必ず一度は抱く『怒り』から成る、負の濁流。
口内の全ての歯を食い縛り、延びたままの指を地面に突き立て、爪で引っ掻きながら拳に変える。
全身に力が巡る。腕が脚が動き出し、身体が少しずつ起きてゆく。膝立ちから片膝立ち、屈み状態を経て、彼は地面へ立った。
アキラ「はぁ!はぁ…!」
龍驤「よう立ったで、アキラはん。今みたく自分がボロボロになったり、起き上がれん時なんかは、『自分の一番嫌いな事』を幾つか強くイメージするんや。
『自分が止めなきゃ、其れが実行されてまう』やったり、『おはんらに任せられへん』と意識せい。『怒り』ちゅうやっちゃ、マイナス意識が強う見えるが、ウチに言わせりゃエネルギーを産み出すんに、『一番効率が良い感情(モノ)』やと考えとる。
ただし。これはあくまでも『エネルギーを作る手段』であって、過ぎた怒りの先には『己の破滅』しか無いで。ウチもそうゆうので死んでった連中を幾人も見てきたんや。『正しい怒り』のコントロール、其れを成し得た時、アンタは今よりもっと強うなれる」
粗い呼吸にある彼の胸の中心に、彼女は自分の指をトンと指す。
アキラ「正しい怒りの…コントロール…」
龍驤「せや。一緒に頑張ろうな」
アキラ「…はい、先…せ…うわっ?!」
フラリと体勢を崩しかけたが、何とか前に脚を出して踏ん張り、落下を踏み止まる。
アキラ「あ、ぶな…か…った」
龍驤「さ。講義も終わったし再開しよか、アキラはん?」
ニッコリと、されどタイキックの構えを取った龍驤に、アキラは顔を青ざめて、ひーこら言いながら全速力で走り出す。
龍驤『其れ終わったら腹筋とスクワット三百回な~アキラはーん』
アキラ『む…無茶苦茶だぁああああああああ!?!?!?』
* * *
七月一日…月が変わろうとも、未だに雨は止むことなく降り続ける。
アキラ「ごへぇ…も、つらひ…マジで…」
龍驤「よう頑張るな~アキラはん」
腕立て伏せを終え、ばたんと地面にぶっ倒れた彼を龍驤は見ていた。既に重りは合計で20㎏、今度は其れを身に付けたまま日々の生活をしろと指示を出された。
就寝時も業務時も関係無し…この人はまさに鬼だ。
龍驤「んで、どうする?今日はもう止めるかいな?」
止めるか?等、今まで言われた事など無かったのに、急に何を言い出すんだこの人はと、彼は考えた。
龍驤「どうしてウチがそう言ったか気になるんやろ?ん?アキラはん?」
「人の、考えを読める…からって…、煽らないで、ください…よ…」と、萎びた声で彼は返す。
龍驤「よぉ頑張っとるからな、今日くらい早く終わりにしてもエエか、ちゅうやつや」
アキラ「…『遠慮しておきます』、龍驤先生…」
彼女が少し表情を崩した。予想外…そんな感じで此方を見る。
アキラ「きっと…此所で止めたら、貴方は二度と俺に修行を付けてくれなくなる。其れは『諦める』事と同じだと思います…。
確かに人間には、諦める事は必要です。でも、簡単に諦めたらつまらない。やれるだけ…やって、それでも駄目なら諦める。其れが俺のモットー…です。
其れに『守られて』ばかりじゃなくて…。強くなって皆を…『守りたい』んです」
龍驤「…………そうか。じゃ、早く起きてスクワット三百やりな!」
アキラ「はい…!頑張ります!」
龍驤(…全く、『昔のウチ』を見とる感じや…)
雨に打たれながらも、全身に力を籠めて立ち上がり、ゆっくりとスクワットを開始したアキラ。彼の背中を見る龍驤の脳裏に、数十年前の出来事が朧気に甦ってくる。
―――もぉう、ムリや!こんなんおかしいで!
―――龍驤。そんな事で泣き言を吐いていたら、守れるものも守れないぞ!
自分が艦娘に成り立ての頃…当時存在していた艦娘訓練校の過酷な修練に身をボロボロにされ、心を折られかけた。その時の教官がジュウゴだった。現在では絶対に考えられないような訓練の数々、生徒や教員からの反発は強かった。だが彼は逃げる事無く、生徒や教員達と向き合い、ひたむきに努力を重ね、やがて皆から認めらるだけの存在になっていった。
―――ウチは…もっと、強うなりたい…!こんまま…弱いままは、絶対嫌や…!
―――なら、その悔しさを忘れるな。悔しいっう『心』が有ればな龍驤。お前は今より、もっと強くなれる。
同期に入った仲間が次々と鎮守府へと着任して行き、たった一人残された自分に、そう言ってくれたのもジュウゴだった。艦娘(じぶん)達を『兵器(もの)』ではなく『人間(ひと)』として接し、まるで家族のように、一緒に悩み、笑い、泣いて、喜んだ。鎮守府へ着任した龍驤は度重なる戦価を挙げ、『雷皇』の二之名を賜り、大本営の艦隊へと参加。そしてジュウゴや仲間の艦娘達と共に数多くの作戦を全うしたのである。
龍驤(ジュウゴ…アンタの孫は、ウチが必ず強くする。だから…見とってや)
心の中で静かな決意を固め、「もっと膝曲げんかい!」と激を飛ばす。
「重ねた努力は無駄にはならぬ、そして己を絶対に裏切らない」…ジュウゴが嘗ての自分に言った言葉を胸に、龍驤はアキラの修行を続けた。
* * *
同時刻、大本営内某室…
???「華裏鎮守府?非公認の鎮守府に向かえと?」
???「ああ。夏の大演習会任務の報酬に資源は必要。その上、納付時期も丁度良い。故に使者の役目を担って貰いたいのだ」
???「ムリっす♪」
???「お前…」
???「ジョーダン、ジョーダン。で、何時いきゃいんですかい?」
???「…はぁ。…先に予告の封書は送った。五日後、華裏鎮守府に向かえ。奴等の資源と資材を『奪って』こい。失敗は許さん…以上だ」
???「アラホラサッサ~」
気だるい返事で部屋を出た者。アキラは知らない…。
この者との出逢いが、後の彼の運命を大きく変える事を…。