※この作品はR-18です。

将来を有望視された青年が、冤罪で問題山積みの鎮守府に着任されました。 ~地獄の底からこんにちは~   作:ガリアムス

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※新キャラ、月乃世 甲(つきせ こう)さんの初登場回。彼のキャラ付けとしては、『ハイスクールD×D』のアザゼルさんに近い感じのチョイワルジジイ(53歳)です。尚マッドサイエンティストではありません。大本営に身を置く、一提督です。


将来を有望視された青年が、冤罪で鎮守府に着任されました。 ~月乃世 甲(つきのせ こう)小尉登場~

七月上旬。長くジメジメした梅雨が開ければカラリと晴れる夏へと向かう、そんな時期。

 

未だに止まぬ雨の中にある華裏鎮守府。その執務室内…提督の牧園 アキラは近日中に此所を訪れる使者に備えた最終調整に追われていた。

 

アキラ「資源と資材はどんな感じかな?」

 

書類に目を通しつつ、判子を押す。そして空いた手でグリップを握り締めるアキラは、大淀に問う。

 

大淀「はい…今回指定された納付量に、それぞれ30%ずつを足した数字になっています。万が一もありますので、潜水艦娘達にもバジー島沖へレベリングと平行してボーキサイトの収集に。

 

遠征は鬼怒さんと、如月ちゃんが主体となり長距離と海上護衛を反復中です。バケツも十分に確保出来ました」

 

「そうか…」と、ほっと一息付く。不規則に訪れる大本営の使者は、全員が華裏鎮守府を格下と見ている。故に此方に寄越した封書を「当時はそうだったが、今は状況が違う」等の言い掛かりで、死に物狂いで集めた資源や資材を余計に取り上げようとする。

非公認である以上、命令には逆らえない。

 

そうして何度も底を尽き、歴代の提督と在籍する艦娘達は小規模での行動を余儀無くされてきたのだ。

 

アキラ「そういえば…『アレ』の結果は出ましたか?」

 

大淀「はい。此方に…」

 

そっと渡された一枚の紙。アキラは其れを見て「予想以上だな…」と小さく呟いた。

 

* * *

 

時刻はヒトヒトニーマル。

 

華裏鎮守府、リハビリテーションルーム。

此所では、深海棲艦との戦いで重傷を負った艦娘達が日常生活と戦闘に戻るまでの間を過ごす訓練室である。

 

長門「わざわざ見舞いに来てくれたのか」

 

アキラ「皆の調子とか近況を知りたくて。それと吹雪からジャガイモで作ったクッキーの差し入れ。自信作って言ってたよ」

 

瑞鶴「あ、アキラ。ありがとうって吹雪さんに伝えてくれる?」

 

左腕を包帯でぐるぐる巻きにし、肩からガーゼで固定しつつ、手すりを右手で掴みながら、長門が歩く練習をしていた。他にも視力検査を行う初月や、カプセル治療を終え、指に麻痺が残らぬよう、グーパーと手を開閉運動を続ける瑞鶴の姿が。

 

アキラ「いいよ。それと身体の調子はどう?」

 

長門「私は一週間程、この状態が続くな。瑞鶴は艦載機発艦で指を使う為に、念を入れて二週間と三日。初月はこのままいけば五日後には艤装を着けてリハビリを経て、前線に復帰出来る。ただ…」

 

アキラ「ただ?」

 

長門「…夕立は未だに目が覚めていない。腹部の穴は塞がってはいるが、砲弾の直撃時のショックが大きかったのかは分からん。だが『何かに魘されている』ようには見えた。

 

あと…『サラトガ』には、まだ私がリハビリ中で出られない事を黙っていて欲しい。彼女にとって私は、誇り高いビッグセブンの一人としての記憶が強いと思う。

 

今の私では到底其の姿には成れていない。頼めるだろうか?」

 

アキラは力強く、分かったと返す。きっと長門は今すぐにでもサラトガに会いに行きたいのだろう。だが、其れを堪えて元気な姿で再会したいと思っている。ならば、自分に出来るのは長門が安心して、サラトガと再会出来るようにする事だ。そして白露型の姉妹の為にも、夕立が一刻も早く目覚めるように、自分は心の其処から祈るしか出来ない。

 

だがしかし。そんな空気を一撃でぶち壊す、とんでもない言葉を初月が発する。

 

初月「なぁ提督、『子供』はどうやったら出来るんだ?」

 

アキラ「ちょっ!?初月何言ってン!?」

 

瑞鶴「子供!?」

 

初月「秋月姉さんから聞いたんだ。提督と…その、『一緒に寝れば』、子供を儲けられる…とか」

 

秋月、何て事を初月に吹き込んだんだ…。彼女の事だ、きっと此方が教えてくれるまで絶対に引き下がらないだろう。アキラは初月の肩に手を置き、視線を合わせて言った。

 

アキラ「初月。世の中、知らない方が幸せな事だって在るんだぞ?」

 

瑞鶴「そうそう!色々とヤバイから!ね、アキラ!?」

 

長門「うむ。何も知らん方が、ずっと幸せになれる」

 

初月「?」

 

三人揃って答える。今の彼女にはまだ早い。もう少し経って夜這いジャンケンで最後まで勝てた時に、教えてやる事を決意する。

 

そうしてアキラはリハビリテーションルームを後にした…。

 

* * *

 

ヒトヒトゴーイチ、甘味処間宮…

 

アキラ「さてと、今日は何にしようかな~…アレ?」

 

間宮からワイワイガヤガヤと声が聞こえてくる。「失礼しまーす」と白い文字で「間宮」書かれた青の暖簾を目繰り上げて中の様子を見ると、艦娘達が物凄い勢いで何かを食べていた。

目を凝らして見ると、其処には高さ10㎝程の分厚いパンズのハンバーガーと黄金色に輝くポテト、そして瑞々しいサラダを入れた丸深皿がある。

 

アイオワ「アキーラ♪これからlunch timeかしら?」

 

此方に気付いたアイオワが厨房から手を振っている。短い髪をポニーテールに束ね、アメリカ国旗と同じ赤白青のトリコロールに網代われたエプロンを纏う姿は、家庭の台所に立つ若妻にそっくりだった。

 

アキラ「まぁ、そんなところ。所であのハンバーガーはアイオワさんが作ってるの?」

 

アイオワ「Exactly!私の故郷、USAの食文化を艦隊の皆にpresentationしてるの!良かったら食べてかない?」

 

「いただくよ」と答えると満面の笑みを咲かせ、早速準備に取り掛かるアイオワ。そして入れ違う様に現れ、顔を覗かせたのは、甘味処間宮の主人である間宮さん。

 

間宮「提督、今日はアイオワさんが皆ともっと仲良くなれるように、彼女の故郷の食事を提供しています。何時もと違うので心配でしたが、杞憂に終わりました」

 

アキラ「ただカロリーは凄く高いから、一ヶ月に三回程度を目安に組み込んだ方が良いかもしれないね」

 

「ですね」と苦笑する間宮さん。実際、アメリカの食事はカロリーが馬鹿デカイ。食べ続けたら生活習慣病一直線など余裕である。冷水を入れ、出来上がりを待っていると「司令」と声がし、横に不知火の姿が有った。

 

アキラ「不知火。お昼か?」

 

不知火「はい、今日は特別メニューと時津風から聞きまして。何とかばぁがぁ…という、アメリカの食べ物だとか」

 

アキラ「ハンバーガー、だね。パンズっていう専用のパンに、野菜やトマトケチャップにハンバーグ、チーズにピクルスを挟んで食べるんだ。これが食べるとまた美味しいんだ」

 

不知火「…司令が其処まで絶賛するとは。はんばぁがぁ…食べてみたくなりました」

 

そんな話で盛り上がっていると、「アキーラ♪おまたせ~♪」と角盆に『三個』のハンバーガーとセットのサラダとポテトがデデン!と置かれる。

 

分厚く切られたトマト、それに負けぬ厚さを持ち食欲を掻き立てる牛肉のパティ。レタスは出来立てである事を証明するかのように、シャキっと形を維持している。

 

極めつけは茶色の大きなパンズとドロドロに溶けたチーズ、マグマのように半固形ながら持ち前の粘りと艶で自分の下にある食材を包み、型崩れをパンズが防ぎ、食材の体重を支えされていた。

 

アキラ「ハンバーガーの中にパンズが…しかも牛肉パティが四枚と、色が異なるチーズ…。アイオワさん、やるじゃないか」

 

アイオワ「ウフフ♪さぁ召し上がれ!」

 

『いただきます』の声と合掌、そしてアキラは大きく口を開き、ハンバーガーに噛り付く。

ふかふかサクサクのパンズに封じられたパン特有の芳ばしい香りと、パティの油とチーズの濃厚な味わいが広がる。それでいてトマトとレタスの歯応え、さっぱりした口当たりが油のしつこさを程好く断ち切って、噛む度に旨味をたっぷりと口一杯に満たす。

 

アキラ「うめぇ…!こんなに美味しいハンバーガー、初めて食べたぞ!」

 

不知火「…美味しい」

 

普段は表情が固く、笑った顔が少し強張っている不知火なのだが、ハンバーガーを咀嚼し飲み込んだ時、年頃の女の子のような、ほっこりとしたものに変わっている。

 

料理は人を幸せにするとは聞いていたが、成程な…と心の中で静かに頷く。と、アキラは一つある事に気付いた。それは『ハンバーガーセットが三個、皿に乗って提供されていた』事だ。

 

アキラ「不知火、ハンバーガーは幾つ取った?」

 

不知火「一つですが…どうかされましたか司令?」

 

アキラ「アイオワさん、確か三個のハンバーガーが在ったよね?もう一個は誰か頼んだの?」

 

アイオワ「アキ―ラ、横。貴方の隣に居るじゃない」

 

アキラ「隣…?」

 

彼女の指差す方へアキラは顔を向けると、其処には、海軍の帽子と上着を背凭れに掛けつつ、ハンバーガーを食べる四十代程の高身長の男が一人。

 

髪はボサボサで寝癖が付き、顎には髭が生えているが顔付きは良く、カッコいいワルな雰囲気。肌は若干焼けているのか茶色、それでいて鍛えられた筋肉が顔を覗かせる。

 

アキラ「…えっと、あの。どちらの方でしょうか?」

 

???「ん?もれか?」

 

アキラ「はい、貴方の事です…」

 

???「むぁはぁ、ふまへ。ひむふまぶぁまぁーふふもまむまま」

 

アキラ(何なんだこの人…)

 

* * *

 

数分後…男は自分のハンバーガーとサラダ、ポテトを完食し、爪楊枝で歯の間を慎重に掻く。

 

???「はぁー食った。うめぇな…『大本営』の食堂よりゃ、格別にイケるぜ此処はよ」

 

アキラ「大本営…まさか、使者!?」

 

アキラの声で不知火を含めた間宮内の艦娘全員が使者に対して視線を送り、ある者は自身が携帯する武器に手を置き身構えた。

 

「おいおいおいおい。そんな物騒な顔すんなって」と両手を前に出す男は、「よいしょっ…と」と言いつつ席を立つ。身長はアキラよりも僅かだが高く、正面を向いた事で改めてガタイの良さを思い知らされる。殴り合いになったら、先ず此方は勝てないと一瞬で判断出来た。

 

甲「自己紹介してなかったな。オレは月乃世 甲(つきのせ こう)…大本営内階級は小尉…んで、今回の華裏鎮守府資源徴収の使者っつうワケだ」

 

アキラ「…華裏鎮守府提督の」

 

甲「あー…アキラ、だっけか。めんどくせーから『アッキー』で」

 

アキラ「あ、アッキー…ですか?」

 

甲「そ、アッキーだ」

 

早速資源受け渡しの話になるかと思いきや、唐突な渾名決定でペースを乱される。見た目はこんな成りだが、大本営の人間。油断したら

 

甲「『何されるか分からない』ってか」

 

アキラ「な…」

 

「お、当たりか」と得意気なニンマリ顔に変わる。間違いない、龍驤と同じく『相手の考え』が分かっている。ガングート曰く『心理の先読み』…其れを使える者が他にも居た事に驚きを隠せないアキラ。

 

甲「まぁ要するに…だ。オレを前にして、隠し事や考えは筒抜けだから『諦めろ』ってワケだよ。おわかり?」

 

仮に自分が心を読まれた事に怒り、激情に任せて彼に殴り掛かろうとする。だが『先読み』が彼方に在る時点で、此方の行動と思考は全て知られ、其れを潰す手を必ず打ってくる。

 

万が一、殴れたとしても力の差は歴然。敗北は九割以上。

 

『勝てない』

 

そう結論付けるのに時間は掛からなかった。

 

甲「まぁ…悪いようにはしねぇよ。今回の資源徴収量は華裏鎮守府が現状備蓄してる内の九割に加えて、バケツ650と開発資材700、そんでネジが100。こんだけだ」

 

悪いようにはしないと言いながら、最後のネジは此方が所持している分の93%相当を持っていこうと言う。ぼったくりにも程がある。

 

「じゃ頼んだぜ♪」と黒い笑みを浮かべて言った。こんなふざけた人間が大本営にのさばって居るのかと考えると、無性に於曾気が全身に走る。

 

が、その時…

 

???『おうおう、『こーちん』。随分『先読み』が上手うなりよったのぉ~♪』

 

パチパチパチ…と、拍手を送る声一つ。

 

甲「いやぁ~…まさか、貴方が此処に居たなんて。正直予想外でしたよ、龍驤せんっせ」

 

間宮出入口、暖簾を挙げ一歩一歩と甲小尉に歩み寄る龍驤。甲の口調も龍驤の登場により、茶ら気た雰囲気から一転し真剣味を帯びる。

 

アキラ「龍驤先生」

 

龍驤「や。…さて、こーちん。大本営のアホんだら共の現状備蓄資源やらは分かるかいな?」

 

彼女の問いに甲小尉は掌で何かしらの数字を指先で綴っていく。すると龍驤の顔には無数の青筋が浮かび上がり、終いには『ばっかやないかい!』と間宮の床を蹴り砕く迄に怒り狂う。まるで逆鱗に矢を射たれただけでなく、守ってきた財宝を根刮全て奪われ、暴れるドラゴンのように…。

 

龍驤「『おっさん』に伝えとき!『その浪費癖治さんと、いずれ後悔する』ってな!」

 

甲「はいはい、分かったから。取り敢えず落ち着いて、龍驤せんっせ」

 

龍驤「落ち着けるかボケェ!!」

 

二人以外(何これ…)

 

* * *

 

数分後…

 

龍驤「はぁああああ…。全く、あの頃の大本営の方が今よりもずっとマシやん…。

 

何時からこうなってまったんやろ…」

 

甲「…おそらく『彼』が亡くなってからでしょう。今の上層部が自重やらを忘れたのは」

 

甲小尉の言葉にアキラは「彼とは…?」と聞く。

 

甲「『牧園 ジュウゴ』さんだよ。ま、知らねぇならアッキーにゃ関係無い話だ…」

 

アキラ「俺の御祖父ちゃんが?」

 

甲「そうだ、アッキーの御祖父さん…彼くらいなんだよ、昔の大本営の中にあった…僅かな『良心』の全てが。あの人が亡くなって、十一年…大本営は随分様変わりしちまった。

 

正直言って居苦しいわ…全くよ…」

 

そう言って煙草の箱を取り出し、上着のポケットからライターを握って、火を着ける。が…

 

甲「…ん?アッキー…今、何つっ…た?」

 

アキラ「牧園 ジュウゴさんの事ですよね?それ、俺の御祖父ちゃんです」

 

甲「…マジ?…ジュウゴさんの好きな食べ物は」

 

アキラ「ポテトサラダ、ゆで卵抜き胡瓜増々」

 

甲「好きな伝記」

 

アキラ「世界の軍艦百選、ver3」

 

甲「……………」

 

あまりの事態に甲の顔から余裕の表情が失われ、咥えていた煙草を小さな灰皿に潰し入れる。眉間を指で挟み、暫し状況を整理する。

 

と、何かを思い出したかアキラに指差し言った。

 

甲「まっさか十一年前の葬式で大号泣した、あのチビ助か!?」

 

アキラ「そのチビ助です」

 

甲「マジか!?随分でっかくなりやがって!」

 

アキラ「痛っ!?」

 

バシン!と肩を思いっきり叩かれた。

 

甲「そうか、アッキーがジュウゴさんの孫だったとはな!龍驤せんっせ、運命ってヤツは随分粋な事をしますね」

 

龍驤「やな。ウチもアキラはんがジュウゴの孫やと知った時は驚かされたわ」

 

二人で昔を懐かしむように話始めてしまい、アキラが入る隙がない。

 

龍驤「そいや、アンタの秘書艦娘は何処に行ったんや?」

 

龍驤の言葉に甲小尉は辺りを見渡す。そして「また迷ったのかアイツは…」と頭をもたげ、帽子の縁から小さな鈴を取り出した。其れを二・三度振ると綺麗な音が間宮から鎮守府全域までに響き渡る。

 

アキラ「その鈴は?」

 

甲「こいつはちょっと変わったヤツでな。オレの秘書艦娘を呼び寄せたい時に鳴らすんだ。尤も、コレを使わなきゃなんねー理由として、そいつが酷い『方向音痴』ってのが一番の理由なんだがな」

 

方向音痴が理由?と考えるアキラ。

 

その時。

 

『ア~~~~~~~~ド~~~~~~~~ミ~~~~~~~~ラ~~~~~~~~ル~~~~~~~~さ~~~~~~~~ん~~~~~~~~!!!!!!!!!!!!』

 

大きな声で返事が木霊し、ボガン!ズガン!と何かが激突し破壊される音が、どんどん此方に迫ってくる。そして…

 

バリィイイイイイイイイイイイイイイン!!!!!!

 

と、稲妻が落ちたかのような巨大な炸裂音と共に間宮の窓ガラスが砕け散り、スタッと着地する一つの影…否、女の子。突然の出来事にアキラを含め、殆どの艦娘達が口をぱっくり開けた。

 

青い瞳に金の髪。ツインテールを錨型の髪止めで結い、首に掛けたネックレスも錨の形をしている。帽子と長袖の上着は灰色のメタリックグレーとブラックに、白と黒のラインが引かれ、肩には黒十字の刺繍が。

 

僅かでも動けばパンツが見えてしまう程に短い白のミニスカートと黒いハイソックスを付けている。

 

???「アドミラールさん!やっと見つけました!私を置いてき放りにするなんてヒドイです!」

 

プンスカ!プンスカ!と怒る姿が可愛いとアキラが思っていると、何をトチ狂ったか甲小尉が空手チョップを彼女の頭へ叩き付けたのである。

 

アキラ「ちょっ!?」

 

???「うぅ…痛いです!チョップは止めてって言ってるのに!」

 

甲「あのな…人様の鎮守府に行っては毎度の如く迷って、変な場所に突き当たり、呼び戻すとしても器物損壊しながら、最短距離で帰って来ようとするのは止めろと何回も言ったよな?

 

毎回毎回請求書と格闘せにゃならねー、オレの身にもなれってンだ。フルーツオイル」

 

プリンツ「プリンツ・オイゲンですよ!アドミラールさん!」

 

ワーワーギャーギャーと口喧嘩が始まり、華裏鎮守府の面々が入る隙間が無い。何と言うか、仲が良いのか悪いのかアキラにはよく分からなかった。

 

アキラ「龍驤先生、プリンツ・オイゲンって娘は…」

 

龍驤「あぁ…こーちんの秘書艦並びケッコンカッコカリ艦娘やな。因みにコイツ、『神運(ゴッドラック)』ちゅう二之名を持っとって。

 

『たまたま』辿り着いた場所が敵さんの最重要拠点やったり、一発の砲弾で『偶然にも』艦載機を百機ドミノ倒しで撃ち落としたり、『適当に』選んだ宝くじのチケットで特・一・二・三等のクワトロフィニッシュ咬ましたりと、神が依り憑いたような豪運に恵まれた事が由来やな」

 

何それ怖いと思うアキラ。そして同時に、こんな運が少しでも自分に有れば、冤罪で華裏鎮守府に左官されなかったのかな…とも考えてしまう。

 

* * *

 

ヒトロクヨンマル…華裏鎮守府中庭。雨は降り、所々に泥を含んだ水溜まりが、ちらほら点在する。

 

甲「あー、少し良いかアッキー?」

 

吹雪が作業中の明石と夕張に使者が来たことを伝え、艦娘達は特大発に資源とバケツを積み、甲小尉が乗ってきた船へ積み込もうとしていた時、彼がそう言って作業を止めさせる。

 

アキラ「どうしましたか?」

 

甲「資源徴収について、ちょいとばかし変更があってな。資源は全体の九割から八割、バケツと資材は500ずつで良い。ま、上手く此方で誤魔化しとくから安心しな」

 

どうやって誤魔化すのだろうか…そう疑問に思ったが、ふとアキラはプリンツ・オイゲンを見て、ある考えを閃く。

 

アキラ「甲小尉、これから少しだけ時間をいただけますか?」

 

甲「別に構わねぇが…何かあんのか?」

 

「ありがとうございます、少々御待ちください」と頭を下げ、アキラはダッシュで鎮守府内に入って行った。

 

龍驤「…はぁ~ん、成程なぁ~」

 

甲「せんっせ?」

 

龍驤「アキラはん、どうやらプリンツに会わせたいヤツを連れてくるみたいや。絶対驚くと自信を持っとるらしいし」

 

プリンツ「私?誰かなぁ~♪楽しみだなぁ~♪」

 

ルンルンと口笛を吹き、メトロノームのように体を横に振って雨に打たれながらも待つプリンツ。そんな彼女を見つつ、吸い損なった煙草に火をようとするも、湿気った状態では楽しめないと、懐に戻す甲。

 

そして数分後、「御待たせしました」とアキラが戻ってきた。

 

アキラ「プリンツさん、この人が貴女に会わせたかった人です」

 

プリンツ「あ、アッキーさん。それでい…ったい…」

 

彼女が絶句した。目の前の衝撃的な光景に。

 

『日之國の英雄』…アキラがジュウゴに読んで貰った戦艦長門の『軍艦』としての生涯を綴ったそれは、長門の最後の作戦である『クロスロード』の事も載っていた。

 

クロスロードとは…アメリカが行った水素爆弾実験の事であり、同時に第二次世界大戦の軍艦達を標的として使い、威力と範囲を確かめる事が目的だった。

 

…実際には、敗戦国や勝戦国の船を纏めて処分するといった狙いが在ったのだろうが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

サラトガ「プリン…ツ…?」

 

プリンツ「え…?…サラ…さ…ん?」

 

アキラの後ろ…高身長の女性は青い傘を射して立っていた。プリンツは其の姿に震える…それは寒さから来る物ではない。

 

艦娘の記憶には軍艦時代の記憶が色濃く染み付いている。『最後の瞬間の記憶を共にした艦』ともなれば、喩え姿形が変わろうとも、直感的に分かる。同じ作戦で標的となったサラトガとプリンツ・オイゲン。

 

時代を越えた、二人の再会はこうして果たされた。

 

甲「おい…アッキー、そいつは…」

 

アキラ「レキシントン級…航空母艦の二番艦の魂を宿した艦娘…サラトガさん。

 

数週間前、ある海域で遭遇した深海棲艦を撃沈した時に保護した艦娘です。因みにハンバーガーを作っていた金髪のお姉さん…彼女はアイオワ級超孥級戦艦の一番艦のアイオワさん。

 

彼女もまた、サラトガさんと同じ海域で保護しました」

 

甲「…成程。せんっせが言った事はこうゆう意味か。…しかしお前も、良い事するな」

 

アキラ「徴収量を減らしてくれた事に対する、此方からのせめてもの御礼です。甲小尉」

 

甲「へっ…んじゃ、お邪魔虫はクールに去るか」

 

軍帽を深く被り、二人の艦娘に背中を向けるように歩く男達は小さく笑った。…抱き合い、再会に涙を流す彼女達の邪魔にならぬように。

 

雨は止んだ。遠い東の方角に沈む夕日が、分厚い雲の隙間を縫って光が海へ射し込んでゆく…。

 

* * *

 

ヒトハチサンナナ…島内唯一の船着き場。資源資材の搬入が終わって約二時間。再会を果たして、泣き疲れたプリンツを小型船に乗せ終えた甲は、エンジンを始動させ、ハンドル等の確認をしていた。

 

甲「すまねぇな、見送りまでして貰っちまって」

 

アキラ「良いんです、プリンツさんにとって今日は忘れる事の出来ない大切な日になったと思います。サラトガさんにも…ね」

 

甲「…ああ、そうだ。アキラ」

 

そう言って甲は彼に向けて、巻物状に丸めた紙を渡す。広げると其処には羅列した数字が書かれていた。

 

甲「オレん所の直通番号だ。何かあったら其れに掛けてこい。ある程度だが力になるぜ」

 

それじゃあな♪と小型船を動かし、嵐のような男、月乃世 甲小尉は華裏鎮守府から去った。

 

サラトガ「アキラ、サラ…本当に嬉しかった。プリンツとまた会うことが出来た…」

 

アキラ「ああ…」

 

胸に手を置き、感謝の涙を流したサラトガ。彼女の頭を撫でながら、アキラもまた華裏鎮守府を守るという想いを強くしたのであった。

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