※この作品はR-18です。

将来を有望視された青年が、冤罪で問題山積みの鎮守府に着任されました。 ~地獄の底からこんにちは~   作:ガリアムス

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*準備篇、其の二。前回は香取姉妹と大井っちにしごかれたアキラでしたが、はてさて今回はどうなる事か…。

*陸奥の過去の一端が明らかになります。シリアス注意報

*別小説執筆の為、次回更新が大幅に遅れます。


将来を有望視された青年が、冤罪で鎮守府に着任されました。 ~準備編:不屈の心と不動の意思~

* * *

 

 

 

気付いた時、俺は真っ暗な世界の中を、枯れ葉のようにフワフワと宛てもなく彷徨っていた。

激しくもなければ、速くもないし、遅くもない。

穏やかで、暖かい何か分からないに満たされた…そんな場所。

 

その世界は一見するとパニックになりかねないのだが、何故か自分は『安心』していた。

此処なら何時までも落ち着いていられる。そんな錯覚を覚えてしまうかのような、甘美な感覚に思考が溶け落ちて…

 

 

 

………………キ…………………………

 

…ア……………………ラ………………

 

…ア………ラ………アキ………ラ……

 

 

そんな折、うっすらと掠れ細々とした声が、失い欠けた意識を覚醒させた。

今、自分は何をしなければならない?大本営と戦うと決めたのだろう?

ならば、もう充分休んだろう。いい加減に起きろ、一分一秒だって無駄には出来ないのだから。

 

 

 

* * *

 

「…………う、ん………」

 

ぼやけた視界が徐々に、明確にはっきりとする。

 

「…アキラ?よく眠れましたか?」

 

優しく母性に溢れた声が耳に届く。声の主はサラトガであり、アキラの頭を自身の太腿に乗せつつ、微笑んでいた。ただ、彼女の服は清潔感に満ちた『白』から、艶やかな美肌と大人の魅力がより際立つ『黒』という、真逆に変わっている。

 

「あ…うん、まぁ…ね…………」

 

少し間を置き、返事を返しつつ顔を横へ向けた。理由は一つ、サラトガのエベレスト並みのバストが目覚めたばかりのアキラの視界に一番槍で映ったためだ。

 

彼女と居ると、あの日の夜を思い出す。

キスを交わし、大きな胸を赤ん坊のように味わい、そして…彼女の膣を満たすまで、在らんばかりの精を吐き出した。

 

自分はそれ以降の場面に関しての記憶は飛んではいたが。

 

「…アキラの視線、ちょっとエッチでした。やっぱり、サラのおっぱい…気になります?」

 

「…うん」

 

数秒置いて、今自分は何を言ったんだと焦り、冷や汗が無数に浮かび上がる。

昔から、何も考えずに思った事を口に出してしまう悪い癖があった。祖父のジュウゴからも「素直なのは良いことだが、何でもかんでも口にしてはいけないよ」と注意された覚えが在った。

 

たかが言葉、されど事刃。

取り返しの付かない事態への引き金にもなる危険な物。其れが分かっているにも関わらず言ったとするなら、全くもって救いようがない馬鹿な人間だ。

 

「もう…アキラ」

 

小さく溜息を溢したサラトガが上半身を下に屈めてアキラの顔に巨大な胸部を押し付けて、サンドイッチしたのである。

 

「サラふもっ!?」

 

「本当に…アキラは赤ちゃんみたいに可愛いですっ♪」

 

…やばい。色々な意味でやばい。サラトガの胸の柔らかさとか、息が出来ないとか、ポカポカした温かさとか、何だかよく分からない感情が入り雑じって、とにかくやばい。

 

バタバタと手足を振り、必死に抵抗しようとして暴れるものの、段々と意識が遠退いて、闇の中に沈んで行く。

 

嗚呼、このまま自分は…

 

『何やっとんねん、サラトガァ!?』

 

鼓膜を破る大声がし、扉が勢いよく開いた音が鳴る。絶大な乳圧から解放されたアキラ。其の視線を向けた瞬間、二人の顔は真っ青に恐怖で震え始めた。

 

入口に立つは、華裏鎮守府内最強の一人に数えられる、艦娘・龍驤。静かな怒りを宿した瞳が、アキラとサラトガを捉えて放さない。

 

『おーおー…流石、アキラはんやわ。目ぇ放した隙に女連れ込んで、膝枕たぁ…満足しとったんやろうなぁ?

 

自分が何しなアカンか、分かっとんのか?オォ?』

 

言い回しが完全にヤクザのそれである。

 

『ま、ええわ。次どっちにすんか決めさせたろと思ったけど、この有り様。やる事は既に決まったな』

 

一歩、また一歩とアキラに歩み寄り、その首根っこを鷲掴みにすると、満面の黒笑を浮かべて言う。

 

 

 

 

「アキラはん。次は『君の心』を鍛えてやるで」

 

 

* * *

 

 

「先生」

 

「なんや」

 

「そろそろ放してくれても…」

 

「断る」

 

「…ですよね」

 

鎮守府の廊下を無抵抗のまま引き擦られ、連行されているアキラ。軈て彼女の足が『ある場所』を前にゆっくりと止まった。

 

「あれ、此処って…」

 

見覚えがある。以前、日向・長門・陸奥・霧島等といった戦艦艦娘達の指揮権を得るべく訪れた宿舎だ。

資源確保や債務処理の激務に追われたせいか、随分久しく訪れたような感覚を覚える。

 

「君の訓練相手は宿舎二階に居る。ウチは残りの訓練の準備を始めるから、頑張りや」

 

鷲掴みされた手が離れる。振り返るアキラに背を向け、龍驤が手を振って去ってゆく。

彼は立ち上がり、取り敢えずは大きく背伸びと深呼吸を行って、建物へ歩を進めた。

 

* * *

 

『心の修練場』

 

二階に上がる階段を登り、左へ曲がった先に在る扉上部の立て掛けに、見るからに真新しい其の札は有った。

 

そしてアキラ自身、この景色に確かな既視感(デジャブ)を感じている。

 

「…長門さん達の部屋じゃん…」

 

一際広い間取り、曇り硝子の和風窓、微かな古い畳の香り…それなりに広い華裏鎮守府の中で該当する場所を答える問題が出されたなら、真っ先に長門型姉妹の部屋(このばしょ)を答えるだろう。

 

「…さて、と。だ…」

 

喚いても始まらない。大本営を叩き潰す等、今まで口にしなかった言葉を吐いた以上、甘えや迷いは許されない。自分が艦娘達(かのじょたち)を、如何なる道に巻き込もうとしているのかは百も承知。

 

為れば徹底的にやるまで。

全てやりきり、そして散るならば本望。

 

「失礼します」

 

三度のノック、扉を開き広間へと躍り出る。同時に、顔面と衣服を焼き付けるような熱が襲うも、彼は其れに耐え、視線を奥へと向けた。

 

其処には一人の女性が、部屋の奥の掛軸の前に座っており、大和撫子のように美しくも、獅子のようにしなやかな姿。彼女の衣服を着物に変えるだけで、この和室に相応しい女性になる。

 

「あら…『心の特訓』を受けに来たのね?」

 

御伽噺の中の姫君が長い呪いから解放され、眠りより目覚めるよう…ゆっくりと陸奥は瞼を開き、翡翠色の瞳で目の前に立つ青年を見上げ、呟く。

 

「はい。龍驤先生が今後の自分の事を考えて、先に受けた方が良い…と」

 

「ふ~ん…あの人がねぇ。随分、貴方に入れ込んでるみたいだけれど、何かあったの?」

 

そんな覚えは一切無いのだが、陸奥が言うところによると華裏鎮守府歴代提督の中でも、アキラはかなり『特異』な存在らしい。『牧園 ジュウゴの孫』としてでは無く、一提督として…との事。

 

特異な存在ね…そんな風にアキラは考える。

 

「ま、話はこれくらいにして…修行を始める前に先ずは私と向き合う形で正座して頂戴」

 

「どうしてですか?」

 

「必要だからよ。さ、早く。時間が足らなくなるわ」

 

取り敢えず彼女を前に正座し、改めて対面する両者。

 

「始めるわ。先ずは目を綴じて。…そしたら『絶対に目を開けない』で。良いわね?」

 

「…はい」

 

瞼を降ろす。暗闇の中、自分がゆっくり落ちて行くような感覚に陥る。

 

「アキラ…寝てないわね?」

 

「大丈夫です」

 

「これから貴方に『幾つかの質問』するわ。其の問いに『はい』か『いいえ』だけで答えて。あと、私は『心理の先読み』を使うから言い訳は出来ないわよ」

 

彼女が龍驤と同じ技を使える事に驚く隙も与えず、陸奥はアキラに向けて、言葉を投げ掛けた。

 

「アキラ。貴方は過去に…

 

『友人を助け、自分の居場所を失った事』が有る?」

 

ゾリュ…ゾリュ…

 

背中を金鑢(かなやすり)で力任せに削られる、痛みと恐怖が同時に襲う。

 

「どっち?」

 

心理の先読み…読んで字の如く、『相手の思考』と『心の中』を覗き込み、読み解く、恐るべき技。

仮に持つ者と持たざる者が戦場で相対した時、心理を読めるか否かは勝敗に直結する重大で決定的な差となる。

 

さらに、心の中を見る事が出来るというのは、その者の深層心理に封じ込めた心的外傷(トラウマ)や精神的苦痛(つらいかこ)を見れる。

詰まる所、『習得者』相手に、あらゆる虚偽や嘘、隠蔽も秘匿すら一切通じない。

 

真実は全て白日の元に曝される。

 

「…はい」

 

故にアキラや不得者に残された最善手は、『正直な答え』を出す以外に何も出来ないのである。

 

「そう。…次の質問。

 

『自ら命を棄てようとした事』が一度でも有った?」

 

ベリリッ…

 

削られた皮を根本から剥ぎ取られる。まるで…『自分が調理されている』かのよう…

 

「あり…ました…」

 

「分かった。…じゃあ最後の質問よ」

 

陸奥が呼吸を整え、アキラは異質で異様な空気を味わう中、何とか唾を飲み込んだ。

 

「アキラ。貴方は」

 

『人間(ひと)に失望している?』

 

メギョ…メギリ…

 

心を護る鉄壁や扉が、陸奥の言葉の圧力を受けて、軋み金切り音を上げながら潰れていく…。

 

痛い…

 

辛い…

 

苦しい…

 

胸の奥底から粘着質の泥が、瞳の裏に佇む自分の足下を満たし、軈ては全身を飲み込むように、じわりじわりと昇り詰めてくる。

今までもこれと同じ感覚を味わった。

これは生きている限り、絶対に避けられない、馴れる事もない、嫌な感覚。

 

これまで幾多の裏切りを経験し、苦汁を、煮え湯を飲まされ、理不尽な目に有った。其の度に人知れず涙を溢して、悔しさを噛み締め殺し、嘲笑の中で生きてきた。

 

それでも。

 

「………いいえ………」

 

アキラは信じている。『人間(ひと)』の全てが、必ずしも『悪(やみ)』で染まりきっていない事を。

 

「…そう。…質問は以上よ」

 

ふぅ…と、彼女が大きな溜息を付く。心理の先読みを行った反動なのだろうか。しかしながら、それを付きたいのは此方の方だと、アキラは胸を締め付けられるような痛みを感じながら、陸奥を見つめた。

 

「ごめんなさいね。辛かったでしょ…?こんな事して」

 

「いえ…でも驚きました。陸奥さん、『心理の先読み』が使えるんですね。龍驤先生から教わったのですか?」

 

彼の問いに、陸奥は衝撃的な答えを返した。

 

「ううん。だって…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ジュウゴさんから直接教わったもの』、私。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………………………………………………はい?」

 

言っとくけれど、私と長門は龍驤より年上(おねえさん)よ?と清ました顔で、とんでもない事実を言い放った陸奥。

話に付いていけないアキラは唯々、口が開いたまま、入ってくる情報を整理するしか出来ない。

 

「貴方が着任した日に部屋の窓から貴方の姿を見ていたわ。あの人の顔の輪郭と髪の色が似てて、少し気になった。

 

吹雪さんが就任式で紹介した時に言った『牧園』という変わった名字。長門型姉妹(わたしたち)から指揮権を手に入れるために部屋を訪れて、向き合った時の雰囲気。

 

幾つものヒントが繋がり、最後にガングートと対面した貴方が言った言葉で、確信に至った」

 

柔らかな微笑み。龍驤より年上であるにも関わらず、色気と美肌は二十代半ばの女性と同じよう。だが人間(ひと)の姿をし、人の領分を越えた能力(ちから)が艦娘に備わっていても、生き物には『老い』が在る。それは絶対に避ける事の叶わない『運命(こと)』だ。

 

であるのに…。

 

「…其れは艦娘に対して絶対に聞いちゃいけない事。一部の娘達は凄く気にしているし、万が一そんな事を聞いた日には…

 

貴方の頭は胴体から分離(さよなら)するわね、確実に」

 

警鐘が鳴らされた。同時に身の毛が逆立ち、血の気が退く。静かに無言で、コクコクと、縦に首を振るしかなく、その様子を見て、分かれば宜しいと陸奥は言う。

 

「…うーん。でも『心理の先読み』って凄いな。俺も其れが出来たら、色々と事を有利に持っていけたのかな…?」

 

もしも『心理の先読み』が習得出来れば、敵の弱味を握る事が出来る上に、状況によっては抑止力や切り札に成り得る。月之世 甲(ほかのひと)でも使えたのならば自分でも出来る筈。

 

「………………アキラ。人の心が読めるのは、必ずしも良い事(メリット)ばかりになるとは限らないの」

 

再び心の中を読まれた。鉄格子に縛られたかのように、胸が固められ、苦しく、痛い。

 

「何より、私は姉(ながと)に。消えない傷を与えてしまったから」

 

今にも壊れ、砕け散って仕舞うほどに。小さく細々とした呟く。表情は暗い影を纏い、未亡人の如く悲哀を帯びる。

 

「…大切な戦友(とも)が居たの。名前は春雨(はるさめ)、白露型駆逐艦・五番艦の霊と記憶を宿した艦娘。

 

彼女は私と長門が前に在籍(い)た鎮守府の秘書艦を務めていた娘で、鎮守府の限界突破練度艦娘(ケッコンカッコカリかんむす)の一人だった」

 

遠く、過ぎ去った日々を、懐かしむように語り出す。

 

「艦娘としてこの世に産まれて、鎮守府に着任したばかりで、どう生活すれば良いのかも分からなかった私達に、春雨は優しく接して、面倒を見てくれた。

 

日常生活で使う用具の使い方や他の艦娘達との接し方は勿論、艦娘としての戦闘時に置ける立ち回りや其々が担うべき役割…。彼女から教わった事は今では数知れないわ」

 

出逢いを喜ぶように。

 

「春雨のおかげで鎮守府での生活に慣れた頃、大本営の視察団が各地の鎮守府の様子や文化を見るために訪れたの。其の中には牧園 ジュウゴさん…まだ若かった貴方のおじいさんも居た。

 

最初に話した時は、本当に変わった人だと思ったわ。艦娘(わたしたち)を人間(ひと)として見ていたり、興味が湧いたら直ぐに手帳に何かを書き込んだり。…けれど。

 

提督や艦娘を相手に、『自然体のまま』で『心理の先読み』を使った後は、皆、彼の事を気持ち悪いと怖がったり、少し距離を置いたりしてたわ。

 

私と春雨(かのじょ)を除いてはね」

 

運命に感謝するように。

 

「月に一度、大本営の報告会が開かれる時に私と春雨は、提督を護衛する形でジュウゴさんに会いに行った。心理の先読みを習得する為に。けど、学ぶまでの道程は半端なものじゃなかったわ。

 

初めの頃なんて、私達が御願いしても涼しい顔して『教えられないんだ』の一点張り。誘惑してみたり、拉致監禁したりもしたのだけど、首を縦に振らなかったのよ。ガードの堅い武人のような人だなって」

 

「今さらっと聞き逃しちゃいけない単語が出てきたんですけど。やっちゃいけない事を言ってた気がしたんですけど」

 

アキラのツッコミを無視し、陸奥は話を続けてゆく。

 

「…彼との戦いが続いて三年、漸く首を縦に振ってくれた。長かったと、そう思ってた。

 

彼が私と春雨に言った事は一つだけ。

『心と意志を強く持て。さもなくば壊れるのみ』…と。

 

最初は意味が分からなかった。…けれど、彼から先読みを教わる前と後の世界は、余りにも違いすぎていた」

 

かつての恐怖を思い出すように。

 

「道行く人や艦娘達…何気無い会話…その人達の心の中は殆ど『真逆』だったの。口に言えない事を心で押し留め、苛立ちや苦しみを裏側(しんちゅう)で吐き散らす。

 

それがどんな状況でも『常に見えてしまう』…。私達はあの瞬間、ジュウゴさんの言葉を否応なしに理解したの」

 

人は、何を考えているか分からない…。

 

かつてジュウゴが不意に溢した言葉の一つが、アキラの記憶の中の本棚から引き抜かれ、頁(ページ)が捲れて甦る。何時の事かは忘れてしまったが、その時の祖父は何処か『悲しそうな』顔をしていた。

 

何れだけの人の心を見(み)、何れ程の感情を読み取ってきたのだろう。

同じ牧園(な)を持つ自分等、比較すらならぬ程の悪意や暴意に曝されながら、己が信じた道を歩み、理不尽と戦い、龍驤達を育て、日本の未来を託し、天寿を全うした祖父。

 

其の大きな背中が似合うような男になりたいと思っていた。

 

「…そして。先読みを習得して直ぐ…『悲劇』が起きた。…起きてしまった」

 

蘇る痛みと悲しみの中で、陸奥は過去を紡いでゆく。

 

「当時の私達は特別作戦海域下で解放した、ある港の警護に当たっていた。最深部からかなり離れた場所で、占領完了後、深海棲艦の一匹さえ見当たらない。

私達はあの時、心の何処かで『慢心』していたのかもしれない。

 

心理の先読みが在るから、相手の行動を封じる事が出来るだろうと。

限界練度突破した春雨達が入るから、防衛は上手くいく。大丈夫だと。

 

それが…最悪の結果を産み出してしまった」

 

「…何が、起きたんですか…?」

 

「…今でも、あの日の出来事を思い出す。

 

港の防衛の最中、海が突如として深紅に染まり、深海棲艦(やつら)は海底から現れ、私達を強襲した。練度の積んだ私達でさえ対応出来ない程、圧倒的な物量で攻め立てられ、艦隊は完全に分断。

皆、必死に闘った。けど、倒しても倒しても湧いてくる敵に一人、また一人と倒されて、其の身体に深海棲艦達は鎖を巌字絡めに引っ掛けて、海の中に引き摺り込んだ。私は心理の先読みを使って、何とか持ち堪えつつ、援軍要請信号を放とうとしたの。

でも、長門が奴等に捕まり、海中に沈められそうになったのを見てしまった。

 

やめてと叫び、動きが止まった私を敵が見逃す筈も無い。鎖が絡まり、体を倒され、冷たい闇に落とされる。そう思った…」

 

「…まさか」

 

「…ええ、当たりよ。春雨は深海棲艦達に『降伏』を申し出た。

 

『防衛中の港の即時放棄』と『自身の身柄を渡す』事を条件として『私達を含めた自分以外の艦娘達全員の解放』を申し出たの。彼女に何を思ったのか、奴等は長門や仲間達を海から引き上げ自由の身とし、春雨は拘束された」

 

自分が情けなくて仕方が無い。

悔いが一生遺る選択をしてしまった。

彼女にどう詫びれば良い、どんな選択をすれば彼女を救えたのか。

 

翡翠色の瞳が潤み淀んで、雫に変わり畳へ落ちた。

 

「長門は今でも春雨を守れなかった自分を憎んで、ただただ力を高めている…。私は其れ以来、前線に出る事が恐ろしくなって、自分自身の砲撃命中率が極端に低下した…。

 

大本営の再教育とカウンセリングを受けたけれど、心理の先読みの影響で、人を信じる事が難しくなってしまったの…」

 

亡き祖父が遺した言葉の一つに、このような物がある。

 

『大きな力は常に、危険と責任が付き纏う』

 

心理の先読み(きょだいなちから)を会得(てにし)た陸奥は、僅かな慢心と些細な判断ミスによって、大切な友(はるさめ)を失う、最悪の結果を経験した。

永久に消えず、忘れる事も叶わぬ力と傷を背負い、命潰える瞬間(とき)まで生きねばならない。

 

 

『お前はどうしたい?』

『何を成す?』

 

心層意識の虚像(じぶん)が問い掛ける。

 

「決まっている、彼女の支えになる」

「俺は華裏鎮守府の提督なんだ」

 

虚像の己に自分の言葉を返す。

 

『本当に出来るのか』

『力を正しく使えない、彼女自身の自業自得じゃないのか』

 

答えを否定する虚像(じぶん)。

 

「確かに彼女は間違いを犯した。…けれど」

「『人』は間違いから学んで、考えて、無限に成長出来る」

 

人間は柔な生き物ではない。どんなに苦しく辛い事が在っても、乗り越え、立ち上がる力が有る。

紡がれた歴史の中で、数多の災害や戦いで傷付き、それでも希望を見出だし、未来へ想いと願いを繋いだ。

 

間違いをする事もある。問題は其処から何を学び、どう生かすのか。陸奥には今、其れが必要なのだ。

 

ならば、自分がやる事は決まっている。

アキラは膝歩きで陸奥に近付き、俯く彼女の顔を上げて言う。

 

「陸奥さん。…止まっちゃ駄目だよ」

 

「え…」

 

「心理の先読みは確かに凄い。でも、貴女は其の力が原因で、色々な物を失ってしまった。だったら…

 

『心理の先読み(そのちから)を正しく使えるよう』に、一緒に頑張ろう。貴女は一人じゃない、俺や吹雪、皆が付いてる」

 

「アキラ…」

 

身体の内側から込み上げる、じんわりとした熱いものを陸奥は感じていた。

 

 

━━陸奥さん。困った時は私や皆を頼って下さいね。力になりますから!

 

 

春雨との出逢い。自分と長門に優しく接してくれた彼女の言葉が甦る。

 

「うっううぅ………あああ…」

 

「辛かったんですね…もう一人で背負って、苦しまなくていい。俺達が居る。大丈夫」

 

凭れ掛かった彼女に肩を貸し、しっかりと受け止め、頭を撫でる。時間経過以外で脱出出来ぬ部屋に嗚咽の声が掠れて響く。其の度に彼は大丈夫、良く頑張ったと励まし、支えた。

 

吹雪なら、この状況できっとこうするだろう。あの時、自らを傷付け、生きる事を放棄しようとしていた自分を止めて、大切な事を思い出させてくれたように…。

 

* * *

 

あれから幾時が流れたのだろう。雲の子一つも無い青空に、大手を振って居座ってギラギラと笑っていた太陽が、西の水平線へ役者の如く鮮やな退場をし、大きな半月と無数の星々が入れ替わり、舞台へ躍り出る。

 

すぅ…すぅ…

 

細く、可愛らしい寝音を立てて、陸奥が猫のように丸まり、眠りに着いていた。数時間も徹して泣き続け、流石に疲れきってしまったのだろう。

そんな彼女の横で、アキラは頭を撫でながら、陸奥の言った言葉を思い出し、自分がこの先やらねばならぬ事を考えていた。

 

ガチャリ…不意に唯一の出入口に掛けられていた鍵の解錠音がし、彼は忍び足で陸奥を守るように前に出て、警戒を強める。

 

「よっ、アキラはん」

 

ひょっこりと現れる影一つ、淡い月光に照らされる其の正体は龍驤だった。

 

「先生…」

 

「…成程成程。さっきまで『心理の先読み』に対抗する方法考えとったんやね、君は。と、言う事は陸奥を『救って』まった訳か」

 

やはり心を読んでくる。この手の相手が最強鎮守府決定戦に置いて戦う事になった場合、苦戦は必至。そうならない為にも、アキラは何かしらの対抗策を用意しなければならないのだ。

 

少し顔をしかめていると、露骨に嫌そうな顔をすんなやと叱られる。が、仕方無いのだ。誰しも考えを読まれるというのは、気分が良いものではない。

 

「ま、ええやろ。アキラはん、少し休んだら最後一つ、ウチ自らが行う『身体の特訓』や。

 

君には、この中で『後の先』を習得して貰う。無論、教えるからには『本気(マジ)』でやるから、覚悟しぃ」

 

「え、まだ時間が」

 

「言い忘れとったが、三つの特訓は『一定時間が経過』するか、『試験官を救う』事でクリアになる。アンタは陸奥の心を救い上げた。だからウチが出向いて、此処の鍵を開けたんや。お分かり?」

 

「そうなんですか?」

 

「せやで。歴代提督の中にも試験官を救ってクリアした事例が幾つか在ったんや。けど、心の特訓を『心を救う形(こうゆうの)』でクリアしたんは君を含めて『二人しか』おらんねん。寧ろ誇るべき事なんよ?」

 

いまいち実感が沸かないアキラを尻目に龍驤は言う。

 

「取り敢えず誤解招かん内に修練場を離れな。他の連中等に変な眼で見られても、ウチは知らへんし助けんからな?」

 

其れは色々と困る。更に言うと荒潮や竜田に見られた場合は特に不味い。普段の雰囲気さえ何を考えているか分からない上に、此方を絶妙に誘惑し、誘導してくるテクニシャンだ。

何らかの形で自分が他の艦娘と寝てる場面を目の当たりにすれば、血の雨は避けて通れない。

 

彼は青ざめつつも、眠る陸奥を見て此処には布団がないかと探し始め、押し入れの中に二つ重なった敷布団を見つけ出す。其れを素早く敷いて、彼女の背中と膝裏に腕を通し、お姫様抱っこの要領で持ち上げて布団に静かに着地させた。

 

そして、おやすみなさいと耳元で囁いて、静かに部屋を後にする。

 

「君、本当に律儀やね」

 

「一部の艦娘に誤解されて命を落としたくないです」

 

気持ちは分からんでもないけどな、彼女は苦笑を浮かべる。形はどうであれ、アキラは二つ目の特訓を終えた。残すは『身体の特訓』のみ。

龍驤が手を下す最後の試練を、彼は無事に乗り越え、大本営中将に匹敵しうる力を手に出来るのだろうか?




極秘報告書 筆者:■■

此処では現在までに登場している艦娘達の一覧であり、また名前の隣に付いているマークは、其の艦娘と提督(アキラ)の関係を現すものである。

☆…最良&アキラと夜戦経験済み
◎…良好
○…普通
△…不信
×…嫌悪

駆逐艦娘…吹雪(◎)、電(○)、初雪(○)、綾波(◎)、時雨(○)、夕立(○)、江風(○)、皐月(○)、望月(○)、秋月(○)、照月(○)、初月(○)、朝潮(○)、大潮(○)、満潮(△)、荒潮(☆)、朝雲(○)、山雲(○)、霰(○)、霞(×)、陽炎(○)、不知火(◎)、黒潮(○)、雪風(○)、時津風(○)、浦風(△)、浜風(△)、磯風(×)、谷風(△)、舞風(△)

軽巡艦娘…大淀(☆)、夕張(○)、天龍(○)、竜田(◎)、川内(○)、神通(○)、那珂(○)、長良(○)、阿賀野(○)、能代(○)、矢矧(○)、酒匂(○)

重巡艦娘…古鷹(◎)、高雄(○)、愛宕(○)、摩耶(◎)、鳥海(○)、妙高(△)、那智(△)、足柄(△)、羽黒(△)

航巡艦娘…最上(○)、利根(○)、筑摩(○)

雷巡艦娘…木曾(○)

戦艦艦娘…長門(○)、陸奥(◎)、金剛(○)、比叡(○)、霧島(◎)、榛名(○)、Iowa(◎)

航戦艦娘…扶桑(○)、山城(○)、伊勢(○)、日向(○)

空母艦娘…赤城(○)、加賀(○)、飛龍(○)、蒼龍(○)、翔鶴(○)、瑞鶴(◎)、雲龍(○)、天城(○)、葛城(○)、Saratoga(☆)、大鳳(○)、龍驤(◎)、祥鳳()、瑞鳳(○)

潜水艦娘…呂500(○)

特殊艦娘…明石(○)

着任半年足らずで、癖多き艦娘達の心を掴む類い稀なカリスマを有しており、やはり■■■■の人間である。また、上記の艦娘の中には『二之名持ち』が■■人程度居り、最強鎮守府決定戦において、強豪鎮守府と肩を並べるだけの実力は有ると思われる。

更に二之名持ちでは無いが、其れに匹敵、もしくは凌駕する強さを持った艦娘も多々あり。新たな二之名持ちが決定戦終了後に生まれる可能性も否定出来ない。

また、新たに華裏鎮守府に加入したIowa・Saratogaの両名は、未だ粗削りでこそあるが、近い将来『軍聖(ぐんせい)・■■』、『覇王(はおう)・■■』を超え、『守護神(しゅごしん)・■■』と対等に渡り合うだけの才覚を宿している。

故に早急の対策を講じる必要があると進言させて頂く。

以上
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