将来を有望視された青年が、冤罪で問題山積みの鎮守府に着任されました。 ~地獄の底からこんにちは~ 作:ガリアムス
「あ、こりゃ駄目だわ」と思ったら即ブラウザバック推奨。そして前後編の二話構成になっています。
「着いた…」
三笠桟橋から歩き、横須賀中央駅から電車に乗り、金沢八景駅・京急豊岡駅・井土ヶ谷駅を経由して、辿り着いたのは日ノ出町駅。其処から少し歩いた先、街並みの中に『民宿・一ノ瀬』と書かれた看板が立っている事を除けば、ありふれた何の変哲もない普通の二階建ての建物である。
「司令官、此の場所で間違いないみたいです」
「ニッポン式バンガロー、楽しみ♪」
サラトガとアイオワも民宿を前にワクワクを全面に出していた。と…
「此処かぁ…」
どうやら、時を同じくしてもう一組、この民宿の利用客が到着したようだ。
見たところ、自分と同年代の青年。後ろには三人の女の子が居た。
肩と胸元が空いた象牙色のドレスローブに身を包み、首にはネックレス、胸元を赤いリボンと薔薇の飾りが結ぶ。腹部はコルセットが巻かれ、フリルスカートとプリーツスカートを付け、黒のガターとフットリング、それらをニーソックスが止め、低めのヒールの靴を履く、女王の趣を覚える美しい淑女。
赤と黒、灰色のラインが入った真っ白な軍服と軍帽を着、錨型の留め具が付いた赤いネクタイを通し、下は黒のスカートとストッキング。そして薄金の長髪をツインテールに纏める白肌の女性で、特に腹部周りは軍服がピッチリとくっついているせいか、臍や括れがはっきりと見えている。
薄い青の瞳に腰まで届く、真っ白な白銀の髪の少女。吹雪より小さい背丈、衣服は白のセーラー服に黒のスカートとベルトにストッキング、そして頭に被る帽子は赤のラインに鎌とハンマー、星という変わったアクセサリーを付けた、白のキャップを被っていた。
「あ、どうも…」
「いえ、こちらこそ…」
小さな御辞儀をしてきたので、アキラもつられて静かに返す。が…
「え…」
「あ…」
「「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!?!?!?!?」」
顔と視線が合わさり、同時に驚愕の声を張り上げ、叫んだのであった…。
* * *
民宿・一ノ瀬、某一室…
「いやぁ~、まさかお前とこんな所で再会するなんてな、思いもしなかったよ。アキラ」
「久しぶり。その様子だと元気にしてたみたいだな、真守」
牧園 アキラと二階堂 真守。大本営戦果報告会で会って、数ヶ月ぶりの再会であった。
「ああ。明日は開会式だし、混雑するだろうから早く大本営に向かいたい。けど、都心部だと
「うん、そんなとこ」
艦娘専門の人攫いが居るので注意するように…学生時代士官学校で習った事である。実際、アキラの場合は自分を貶めようと企む連中から身を隠す為でもあるのだが。
「皆に紹介するね。彼は二階堂 真守。俺の士官学校時代の同級生で、提督でもあり、そして親友だ」
「初めまして。二階堂 真守です」
「MeはIowa。Youがアキーラのfriendのマモールなのね?フフ、ヨロシクゥー!」
「Saratogaです。気軽にサラと呼んでくださいね、よろしくお願いします」
フレンドリーに言葉を交わすアイオワと、大和撫子を彷彿とさせる上品な御辞儀をしたサラトガ。
「よろしく。アキラ、二人は『英国』の艦娘で良いんだよな?」
「えっ」
「え?」
「え」
「えっ?」
疑問に疑問が返ってくる。
もしかして、二人が英語で話していたから英国の艦娘と勘違いしたのか。
「真守、二人は『米国』の艦娘だ…よ?」
「えっ…?いや、米国の艦娘は『今まで』確認されていな…?え、えっ…??」
真守の発言にアキラの中で、何とも言えぬ違和感が突っ掛かる。月之世 甲によって、大本営には米国艦娘の存在は既に知れ渡っていてもおかしくはない。
寧ろ、彼ならば思い付かぬ筈がないのだ。
ならば何故?
意図的に伏せたのか?
だとすれば、大本営の真意は何だ?
何を以て、米国艦娘の存在を公にしていないのか?
「てことはさ…アキラ。もしかして、世界で初めて米国艦娘を保護したって事に…なるんだよ、な…?」
「…そうなるのかな?」
「分かってないのか!?未確認の艦娘を助けたって事は、其の艦娘の故郷の人達に『感謝』されるんだぞ!
それだけじゃない、其の艦娘が居るって事は対象国との連携や協力の交渉!技術開発の支援とか諸々含めて受けられるようになる!
今、其の『鍵』を握ってるって事だよ!やっぱり凄いよ…アキラは」
熱く語り、一息付く真守。そんな中、あれ?とアキラは何かに気付く。
万が一、自分が何らかの形でアメリカのお偉いさんと接触し、アイオワとサラトガの事を伝え、実際に確認や精密検査やらをして『本物』だと判断された場合。
『米国の世論を味方に付ける事が出来るのでは?』と。
成功すれば、大本営は米国に対し『
間違い無く、大本営は世界中からのバッシングも避けられず、結果として根本的な改革を強いられる。
大本営を潰す…途方もない大きな
と、『普通ならば』心中イヤッフー!と某超跳躍力持ちの土管整備員みたいな事になるのだが、彼は大井達との教鞭から学んだ『リスク』を考えた。
自分のやろうとしている事が大本営にバレていて、水面下で其れを阻止出来る状況が既に形成されていたなら、此方の思惑は完全に破綻。反逆罪等の更なる冤罪を掛けられ、逮捕・裁判へ直結…大本営の思う壺となり、最悪の場合、自分は刑務所で一生を終えることになるだろう。
故にアキラは、慎重な決断が求められる。
勝利による解放か、敗北による終焉か。
在るのは二つに一つの未来。
「と…話が脱線した。じゃあ次は此方だな。左から順に英国戦艦艦娘の
因みにウォースパイトとグラーフは五包囲電光石火作戦時に
「どうぞ、よろしくお願いします」
「
「
それぞれの挨拶を経て、アキラもまた、よろしくお願いしますと頭を下げる。
「そう言えば…俺達が選んだ艦娘の艦種、同じだな」
「確かに…吹雪とヴェールヌイは駆逐艦、サラトガさんとグラーフさんは正規空母。
そして、ウォースパイトさんとアイオワさんは戦艦だね」
始まる…親友同士の何気ない話。
語り合うは、最近の出来事。身に起きた様々な事。
艦娘達も加わり、盛り上がる。
「そしたら暁の奴が言ったんだ。『私もウォースパイトさんみたいな女王様になるんだ』って。私は『じゃあ苦手なピーマンも、女王様なら残さず食べられるよね?』と言ったんだが、『やっぱり良いや!』と逃げられてしまった。
ああであっても、私の姉だ。何とかしたいのだがな…」
「ピーマン食べられない艦娘って結構居るんだな…。
「ホントか!?今度レシピ見せて欲しい、参考にしたい!」
何でもない、ごくごく普通の会話。
だが、何故だろう。
言葉を紡ぐ度、会話が交じる度、心に積もった重圧から解放されてゆく。
まるで冬季に風雨で凝り固まった雪塊が、春の温もりでゆっくり溶け落ちるような…。
「やっぱり、演習は全員でやる方が良いのだろうか?」
「そうだなぁ…其処は六人一組の艦隊を作って、朝・昼・番の三交代制にした方が、資源の節約になるし、グラフ化した時に分かりやすいと思う。後は…」
時は刻々と流れてゆく…
* * *
「ふぅ…なんか久しぶりにすっごく会話した気がした」
「それ、すっごい分かる」
時刻はヒトキュウマルマル。外は黒の帳が降り始め、電気の灯が灯り、人々が往々と今日も自分の居場所へと帰る。と…
ぎゅるる~…。真守の腹の虫が小さく鳴いた。
「あ…」
「そう言えば、もうこんな時間か…お腹空いたね。何食べよっかなぁ…」
「お好み焼きとか…あ、でも難しいか…?」
「Meはハンバーガー!」
「テイクアウト出来る物…牛丼等、どうだろうか?」
「ステーキはありますか?」
「おうどん食べたい」
皆、浮かんだ意見を述べるが見事なまでにバラバラである。寝る時間も有るので、じゃんけんで一番最後まで残った人の意見に従う事で一致。
「「「「「「「「じゃーんけーん、ポン」」」」」」」」
八人同士に右手を繰り出す。其処からあいこで一度やり直し、最終的にアキラとグラーフの二人が残って、彼女がパー、アキラはグーを出して決着となった。
「それじゃ、グラーフの牛丼で決定。俺が取りに行くけど、皆は牛丼のトッピングはどうする?」
「サラと私はチーズをpleaseね!あとlarge size!」
「俺はトッピング無しのシンプルで。ヴェールヌイは何にする?」
「司令官と同じで」
「私も普通でお願いします。グラーフはどうするの?」
「私は…そうだな。オロシ…というのがあれば、其れを頼みたい」
「あ、私も大根おろしを」
「えっと…チーズ大盛二つ、普通三つ、おろしが二つ…ね。よし、メモ出来た」
「ところでアキラは何にするんだ?」
「ふっふっふっ…其れは帰ってくるまでの、お楽しみ~♪」
じゃ、行ってきまーす!と上機嫌に鼻歌を奏で、アキラは民宿から外へ出ていった。そんな背中を目で追った後、アイオワは言う。
「アキーラ、随分ハッピーみたいね…凄く子供に見えたわ…」
「そう言えば、牛丼って単語を聞くと滅茶苦茶落ち込んでる状態からでも復活して、すっごく元気になるんだった」
「…もしかして、牛丼を食べたいが為にわざと負けた…のか?」
「違うよグラーフ、アキラはあの瞬間を本気で勝負してた。あいつはそんな事で手を抜く程、呆けた人間じゃないのは俺が一番知ってるから。
そうだ、せっかくだしアキラの学生時代に興味がある人いる?」
アイオワ、サラトガは勿論の事、吹雪もアキラという人間が提督となる前の事を知らない。特にサラトガはアキラとケッコンカッコカリを誓い合った仲、大切な人の事をより知りたいと思うのは、ある意味必然的である。
真守は頷いた後、胡座姿勢に足を組み直し、足首に両手を起きながら、前屈みになって話し始めたのであった。
* * *
アキラside…
「牛丼♪牛丼♪嬉しいな~♪」
路地をスキップで縫い、ランランと楽しげに口ずさみながら彼が辿り着いたのは、全国に大規模展開している牛丼チェーン店・『しゅき屋』の一つ。ガラスの扉を開くと『いらっしゃいませ~』とプログラミングされた電子音が響く。
「ご注文をお伺い致します」
店員の前に立ち、小さく呼吸を整えた後、アキラはピンと背筋を伸ばし、頼み始めた。
「チーズ牛丼大盛が二つ、おろしポン酢牛丼普通盛を三つ、牛丼普通盛二つ、後は…」
DXトッピング牛丼のメガ盛り…一つ。
全て持ち帰りで…。
刹那、激震…!
掌握する…!店内の人々の視線…聴覚…!
何故ならば、アキラが頼んだDXトッピング牛丼メガ盛り…しゅき屋の牛丼の中でも最大サイズを誇り、とろとろの温泉卵・ざく切りのネギ・四種のチーズをふんだんに盛り込んだ、知る人ぞ知る大食いメニュー。
挑戦するにしても相応の覚悟が必要な一品。さらに御世辞にもアキラは、大食いに適した身体であるようには見えない。店員も利用客も、彼が罰ゲームで其れを食べる事になったという結論に至るまで、そう時間は掛からなかった。
「かしこまりました、番号札で御呼び致します。店内でお待ち下さい」
受け取り、会計する客や自分と同じく持ち帰る客の邪魔にならない壁際に寄り、出来上がりを待った。彼が注文してから三人の利用客が会計を終えた頃、アキラの持つ番号札と同じ数字がアナウンスされ、会計に立つ。
「チーズ牛丼大盛二つ、おろしポン酢牛丼普通盛三つ、牛丼普通盛二つ、DXトッピング牛丼メガ盛りが一つ。合計で5270円になります。おろし牛丼の大根おろしとポン酢、DXトッピング牛丼とチーズ牛丼のタバスコと温泉卵は別に分けてあります」
親切な気遣いに感謝しつつ、財布から千円札四枚と百円玉三枚を置いて、勘定を終えた。
「5300円お預かり致しましたので、30円とレシートの御返しになります。ありがとうございました、またお越し下さいませ」
笑顔で御辞儀をした店員に頭を下げて、店を出た彼は、仲間達の待つ民宿・一ノ瀬へと急ぎ戻っていった。
* * *
時間を少しだけ戻し、真守side…
「士官学校時代のアキラはあまり目立たない、静かな感じで、口数も今よりずっと少ない。部活動には参加しなかったり、委員会も掃除にしか入ってなかった。
クラスでも孤立してて、男子生徒にちょっかいを掛けられても、ぼんやりと明後日の方を眺めて、聞き流していたんだ」
ふむふむと艦娘達は真守の話を聞き、彼はそのまま続けて行く。
「俺はあいつと友達になろうとした。けど「自分と関わらない方が良い。関わったら君も必ず不幸な目に遭う」…そう警告してきた。でも、それが逆に俺の心を滾らせて、アキラと絶対に友達になってやるって決心した。
最初は小さな挨拶から、お昼になったら一緒に食べる為に誘ったり、とにかく色々試してみた。最初、アキラはすごく嫌な顔して、時には教室から逃げ出したりもしてたっけ。
そんな日々が続いて五ヶ月経った頃だったけ…初めてアキラと弁当の中身がガッチリ合った。
驚いた顔してたよ。それ以来、俺達は弁当の中身を交換したり、勉強を教え合ったり、親しい友になった」
「もしかして、その時の中身が…」
「ああ…牛丼だった訳だ」
目を綴じれば甦る。色褪せる事の無い、思い出の一品。
と…再び真守の腹の虫がぐるる~と可愛らしく鳴いた。
「…あはは、牛丼食べたいって体が叫んじゃってるな…こりゃ」
ハハハと室内が和やかな笑い声に包まれた。そんな折、ふと窓から流れてくる…匂い。其れは食欲を刺激し口内を溢れ出た涎が満たさんとする、肉と甘い出汁の香りだ。
「おーい!みんなー!ただいまー!」
窓際から通りを覗くと、大きなビニール袋を持ったアキラが手を振りながら、走っている。今まさに最高のタイミングでの帰還。靴を脱ぎ、勢いそのまま階段を登り、真守や吹雪達が待つ部屋へと入る。
「おまたせ!食べよう!」
その顔はとびっきり元気で無垢な、幸福と満面の笑みに包まれていた。
* * *
「「「「「「「「いただきます」」」」」」」」
手洗いうがいを終え、一同はテーブルを囲むように座る。この卓でやはりと言うか、注目を集めるのは一際大きな容器を置いたアキラである。アイオワとサラトガが選んだ牛丼の一・五倍近い高さと広さの器、皆驚きの表情の中、彼はむふんっと得意気に胸を張っていた。
「あ、アキーラ…?そのBig boxの中身は…?」
ニコニコと微笑み、プラスチックの蓋にそっと手を掛けて、ゆっくりと宝箱を開くようにして持ち上げる。すると内側で抑圧されていた牛丼の旨味をたっぷりと含んだ熱々の湯気が、蓋の隙間から外界へ勢いよく飛び出した。
「DXトッピング牛丼メガ盛り、しゅき屋で一番高額な品だ」
まず始めに目に入るのは、容器にぎゅうぎゅうにこれでもかと積み込まれた牛肉と、時間の経過によってドロリと溶けて茶色の肉絨毯を覆う、黄色とオレンジの蕩ける山盛りのチーズ達。チーズの芳醇な香り、そして其れに負けず劣らずの牛肉の食欲増進を促す匂いが、見る者や嗅ぐ者の心をがっちりと鷲掴み、決して離さない。
「そして、これはまだ『未完成』。此処に付属してる、パックのタバスコと輪切りの青ネギ。そして温泉卵を順番に乗せて、仕上げて行く」
アキラは牛丼の茶色を隠さないように注意しつつ、チーズと牛肉の境界線に沿って青ネギを堤防のように乗せ、タバスコで円を描く。そしてテーブルの角で数回叩き、皹を入れた温泉卵を牛肉の真ん中目掛けて割り落とした。
卵は頂点に着地し、静かにプルンと震え、そのまま動かなくなった。
「これで…完成だ!」
出来上がったそれは茶・緑・黄・赤・白の色に飾られ、まるでドレスのような一種の芸術品。
今一度合掌し、アキラは頂上に乗せた温泉卵に箸を切り込みに行く。始めは柔らかですべすべの白身に阻まれるも、一点に圧力を加えれば、つぷりと入り白の内側から黄金の黄身が姿を見せ、黄色のチーズに更なる色合いをもたらす。
口を大きく開け、牛丼を頬張る。濃厚なチーズと熱々のごはん、そしてタバスコの絶妙な辛味が、牛肉のジューシーさをより引き出す。
二口目に彼はチーズの掛かっていない部分に箸を伸ばして、再び口に含み、咀嚼する。
先ほどとは違い、今度はざく切りネギのジャキジャキした歯ごたえが、チーズと絡んでいた牛丼とは違う食感を与え、且つ噛む度に純粋な牛肉の旨味が弾け出し、口の中を満たしてゆく。
チーズの部分を食べ、ネギの部分を食べる。こうすることにより、彼は油ものに有りがちな大量摂取による食欲減衰を防ぎつつ、ペースを維持…寧ろ更に速度が上がっていた。
ガツガツガツガツ…!ガツガツガツガツ…!
ガツガツガツガツ…!ガツガツガツガツ…!
「ップハァ!!…御馳走様でした!」
『早いよ!?』
ほぼ同時のツッコミに、え?と首を傾げたアキラに牛丼をテーブルに置いて真守が言った。
「いや、だから早いって!?アイオワさん達はまだ半分だってのに、何なんだ今のハイペース!?ダイソンなの?お前の食道と胃袋はダイソンなのか?」
「お、美味しかったから…」
美味しかったからという、ただそれだけの理由に真守は開いた口が塞がらず、グラーフとウォースパイトは互いの顔を見合せ。吹雪とヴェールヌイは何も聞かなかったように再び箸を進め、アイオワとサラトガは目を光らせていた…