将来を有望視された青年が、冤罪で問題山積みの鎮守府に着任されました。 ~地獄の底からこんにちは~ 作:ガリアムス
「大淀さん!吹雪さん!見張り妖精さんのおかげで、敵艦隊の正確な詳細が分かりました…あ、その人は?」
「電ちゃん、今日着任した牧園 アキラ新司令官です」
「は、はい…よろしくお願い致します。それよりも敵艦隊の情報です!」
茶毛のショートヘアに長袖と藍色のミニスカートの少女は、アキラを見て、何処かおどおどした表情になりつつも三人に見張り時に得た情報を提示する。
「敵艦隊はル級改flagship・リ級改flagship、駆逐艦後期型エリートが3体で、ワ級flagship11隻…これは輸送部隊と見るべきか?」
「はい、そう見て間違いありません。しかし気になるのは、flagship級の輸送艦が何故此所に来たのかです。鎮守府そのものを攻めるなら、空母や戦艦がもっと多く居なければ辻褄が合ません」
「それに輸送艦を含むと言う事は、何かを採集しに来た…のでしょうか…?」
輸送艦…資源採集…アキラは考える。彼は頭が良い訳ではない。言ってしまえば全体の中の下が妥当とも言える位置にいる。だが仮にも、彼は海軍士官育成高等学校を卒業し、強制的でこそあれど、提督として華裏鎮守府に着任した。
差し迫る敵へ立ち向かう。退く事は最初から許されていない。もし職務を放棄し、尻尾を巻いて逃げ出そうものなら、待っているのは軍事裁判のみ。
此所で終わる訳にはいかないのだ。冤罪を被せた犯人を追い詰め、自らの無実を証明するまでは。
「吹雪、電ちゃん。現状出撃可能な艦娘の中で信頼出来る娘を四人を選んで欲しい。ただし!俺を『司令官』とか『提督』と認めてない娘は外してくれ!
大淀さんは鎮守府の保有している武装の一覧表を持ってきて!十分以内に撃退作戦のミーティングを始める!」
「はい!」
「お任せください!」
未熟ならば未熟らしく、自分が出来る事をやりきる。大淀、吹雪、電の三人の協力を経て、彼は華裏鎮守府で初めてとなる作戦:敵輸送船団撃退作戦を立案したのだった。
* * *
「……これが二人の選んだ艦娘達か」
集まった艦娘は四人、いずれもそれぞれが独特の雰囲気を持つ娘達ばかり。だが間違っても彼女達は犯罪者か被害者である事を忘れてはならない。
だがしかし、今はそんな事を気にしている時間はない。事態は一刻を争う。
「時間はありません、皆さん自己紹介を!」
吹雪が示した四人の艦娘達。
一人は吹雪と顔立ちとセーラー服の似た少女。
一人は赤髪黄色目に黒のマントと袖が分離した独特の服にミニスカートとソックスを。
一人は灰色チョッキにミニスカート、白シャツにブラックスパッツに橙色のツインテール。
一人はブカブカの船員服に袖を通し、首に大きな双眼鏡をぶら下げている。
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「あとは吹雪と電ちゃんで六人か…皆、緊急に関わらず集まってくれて、本当にありがとう!
今回の敵は輸送艦隊、しかしflagship級の強敵だけしかいない。作戦はあくまで敵艦隊をこの海域から追い返す事、撃滅ではない事を頭に入れて欲しい!
それから約束だ…絶対に無茶をするな。誰一人欠ける事無く、必ず帰投してくれ!」
「了解!」と敬礼から彼女達は出撃用ハッチに飛び込み、滑り台で下り降りて出撃シークエンスに移行。
地下に設置された出撃専用カタパルトへ走って行く中で、彼女達の身体へ自分達の持つ艤装が取り付けられ、各自カタパルトに飛び乗る!
「各員出撃準備完了、出撃を各艦娘に委ねます。何時でもどうぞ!」
「水雷戦隊旗艦、特型駆逐艦・吹雪型一番艦、吹雪改ニ!出撃します!」
「吹雪型二番艦、白雪改!出撃です!」
「白露型駆逐艦九番艦・改白露型、江風改ニ!やったるぜぇ!」
「特Ⅲ型駆逐艦・暁型四番艦、電改!なのです!」
「陽炎型駆逐艦・一番艦!陽炎改、抜錨するわ!」
「陽炎型駆逐艦八番艦・雪風改!出撃出来ます!」
カタパルトの留め具が外れ、六人の艦娘を海へ送り出す。着水と同時に靴型のタービンが唸りを挙げる。彼女達は目標地点到達に向けて、海を走って行った。
(ザザッ…あーあー。吹雪、聞こえてるか?)
「あ、アキラ司令。此方吹雪、通信良好」
『よし…!改めて今回の作戦内容を再確認だ』
海を走る吹雪達は、艤装に備えた無線からアキラの声を聞く。
『今回の作戦は敵輸送船団の撤退が目標となる。夜闇に紛れて敵へ奇襲をかける。敵はflagship連中ばかり、撃沈せず混乱させるだけでいい。
俺達の勝利条件は、敵艦隊の海域からの撤退又は敵輸送艦八隻以上を大破させ、航行不能に陥れる事。
敗北条件は二つ。
1、六人中三人以上の大破者が出て誰が囮にならなければ撤退出来ない状態になる事。
2、夜が明けて夜戦が不可能になり、皆の火力が著しく低下してしまう事。
皆の事を信じてる。頼むぞ!』
「了解!」
無線をONにしたまま、吹雪達は敵艦隊発見の為に全神経
を集中させ、海を駆けてゆく。
迫る戦いに、艦娘達の肌はひりつき、心臓の鼓動が加速してゆく。
* * *
「皆…」
彼は不安だった。戦えば艦娘達は傷付く事は百も承知である。だが、自分の作戦一つで彼女達は危険に晒され、最悪の事態も起こりうる。
一瞬の隙や油断、過信に慢心等で命が狩り取られる場所…戦場とはそうゆうものだと、自分を含めた生徒全員に対して、教師が口酸っぱく言った事を思い出す。
それでも…不安なのだ。もしも失敗したらと考えてしまう。
「提督…提督!」
ハッとなり顔を上げると、大淀の顔がある。じっと見つめる眼は真剣で、彼女の口から言葉が放たれた。
「提督、皆を信じてると言った事。あれは本心でしょう?ならば信じてください。貴方が信じてくれれば、あの子達も貴方を信じてくれます。
艦娘は提督からの『信頼』が在って、初めて其の力を遺憾無く発揮出来るのです」
信じる事。艦娘達がこの世に生まれた時に施された、本来の実力を封じ、縛り付ける為の
其の内の一つが艦娘と提督の間の信頼…言うなれば社会に於ける人間関係と何ら変わらない物が、艦娘達の力に変わる。提督と深く強く繋がった艦娘は、一騎当千とも呼べる力を得るのだと言う。
「…そう、だよな。俺が皆を信じないでどうするんだ!」
艦娘を信じる。提督ならば自分を必要とする
「それからもう一つ。今回作戦に協力してくださった艦娘達の現在の練度になります」
渡された紙を受け取ったアキラの顔が真っ青に染まる…。
書き記されていた其れを見た彼は、確かな恐怖を得たのだった。
* * *
「良いねぇ…!やっぱ駆逐艦の本分は戦闘だねぇ!」
「江風ちゃん、あまり無茶しないでね?貴女のお姉さん、怒ると怖いんだから…」
「まぁ…家も磯風が毎度問題起こしてるし」
「かつての『
「さらっと毒舌吐く余力があるなら電探使って敵を捜せ、なのです」
戦闘以前に、彼女達がそもそもの連係が取れる雰囲気とは程遠い。間違いなくバラバラで戦いしかねない事もあり得る。
「…?妖精さん、どうしました?…!」
白雪が持つ熟練見張り員妖精が何かを見つけたらしい。其の方角を見、目を凝らすと暗闇に紛れて動く複数の影が蠢いていた。
「吹雪姉さん、目標敵艦隊発見!距離75000!構成、戦艦1・重巡1・駆逐3・輸送11!敵はまだ此方に気付いてません!」
「電ちゃんの伝達通り…だけど何処かに敵も居ると仮定して動き…」
「ヒャッハァ!獲物だ獲物だ!者共掛かれぇ!」
アキラや吹雪が危惧した事態が発生してしまった。
江風が一人、旗艦吹雪の命令を待たずに、敵艦隊へ真正面から全速力で突撃を開始し、それどころか装備していた証明弾を勝手に打ち上げて、ただでさえ負けている頭数を敵に教えるいう、馬鹿気た事をやらかす。
「江風ちゃん!?陽炎ちゃんと雪風ちゃんは江風ちゃんを今すぐ止めて!白雪ちゃんはアキラ司令にこの事を直ぐに連絡!
電ちゃんは私に続いて!リ級とル級の足を止めます!」
「はい!なのです!」
事態は更に深刻の一途を辿る。
* * *
「敵に自分達の位置がバレた!?」
この緊急事態は直ぐにアキラと大淀さんに報じられ、彼はまたも頭を抱える羽目になる…。
「通信の時点で予感はしてたが…速過ぎるだろうが…」
敵を追い返す筈の作戦は、江風のたった一度の身勝手な行動によって一瞬の内に破綻し、水泡に帰す。もう最悪の結果しか見えてこない。完全に詰んだ。
が、此所で無線に反応有り。
『キシシ…提督、元気してるかー?』
声の主は戦犯とも言える行動に至った江風。アキラは
「江風!…お前のせいで作戦が台無しだよ!何勝手に証明弾打ち上げる!?誰からそれを習った!」
『ン~?なもン知~らね』
唖然。呆然。そして脱力感に見回れ、提督としての自分の無力さを。非力さを味合わされる。この時までは。
江風がある言葉を放った事で、状況は一辺することになった…。
『提督~聞こえてるか~?…ンまぁどうでも良いけどさ。私今から…』
バリってくるゼ…!
「え…江風」
『ンじゃ、ちょっくらぶっ潰してくるわ!敵輸送艦隊?江風には関係ないね!』
江風との無線はこの瞬間に切断され、声を聞く事は出来なくなる。アキラは白雪と繋いだ無線で何とか江風の事を聞こうとした。
『ある事実』を確かめる為に…。
「白雪!聞こえるか!?白雪!応答を!」
『…白雪です、アキラ司令!江風ちゃんが…!』
「白雪!江風は!?大丈夫なのか!?無事なのか!?」
『江風ちゃんが…敵艦隊に飛び込んで行って…』
部下の暴走一つ止められなかった。自分は提督として失格だ。
がっくりと床に膝を付き、絶望で顔が歪み…
『敵艦隊を全滅させてしまいました』
刹那、驚愕に変貌した。
* * *
帰投した吹雪達から話を聞いた俺は、ただ恐ろしさに狩られて江風を直視出来なかった。
江風は敵艦隊の射程距離に入ったと同時に黒のマントでステルスを施しながら突撃し、後期型エリートを1体を爆沈させ、残骸を盾に魚雷を輸送艦4体に向けて発射。三隻撃沈、一隻大破&炎上発生。
ル級の砲撃には盾を投げて相殺、リ級を高角砲連撃で武器諸とも粉砕。残骸リ級を盾に輸送艦へ突貫、七隻の輸送艦を粉砕させ、ついでに残り後期型駆逐二隻も藻屑に変え、最後には戦艦ル級改flagshipの四肢を一つずつ潰し、頭を胴体から引き千切ったという。
しかし、江風自身もステルス効果切れの瞬間を残ったワ級に狙われ、砲撃を受けて中破したものの、吹雪が有無を言わさず即座に沈めていた。
これは駆逐艦娘が本分とする夜戦下の戦いではない。
夜戦を名目にした敵艦隊の一方的で圧倒的な蹂躙…。それが出来るのは彼の記憶上、たった一人…中破状態でニシシと笑い立つ、目の前の彼女以外に考えられないのだ。
「江風…まさかとは思うが、『
「おおお!私の『二之名《にのな》』じゃん!何で知ってンだ?」
『二之名』…海軍大本営が世界中に幾数ある鎮守府の中でも、前代未聞の戦果を挙げた艦娘や、偉業を成した艦娘へと贈る、称賛と畏怖を込めた別の名前の事であり、二之名を持つ艦娘の力は、第二次改装を終えた艦娘を凌駕しうる実力を持つ。
事実、其の二之名を持つ艦娘を多く保有している鎮守府と、そうでない鎮守府の実力は、雲泥の差が在るほど。そして何より、二之名を持つ事は仲間達から憧れと期待を抱かれ、同時に羨望や劣等感を受け、重大な作戦の正否を担う事になる。
名前とは己の存在を現す、大切な物。二之名を誇りに思う者もいれば、逆もまた然別。
やっぱり俺、とんでもない鎮守府に着任したみたい…。
彼は天井を仰ぎ、掠れた笑いを発するだけ…。果たして前途多難にして、行先真っ暗闇のアキラは己の無実を証明する事は出来るのだろうか?
それ以前に彼の精神は最後まで保つのか!?