将来を有望視された青年が、冤罪で問題山積みの鎮守府に着任されました。 ~地獄の底からこんにちは~ 作:ガリアムス
さてさて、その内容は…おっと。此処から先は皆様の目で御確かめください。(某魔王推しの未来人風voice)
*今回は6話程の構成になります
「…き…!おい…!」
マルサンサンマル、暗転の視界の外から大きな声と強烈な振動がアキラを襲う。
意識が覚醒し、眠気眼を擦り目覚めた彼。その横には二階堂 真守が何時に無く切羽した表情で立っている。
「アキラ、やっと目が覚めたか!…早く支度するぞ!『大変な事』になった!」
「…ん~…。大変な、事って何が…」
「コレだ!取り敢えずコレを見て!」と自分のスマートフォンを渡して、真守はグラーフとウォースパイト、ヴェールヌイを叩き起こしに掛かる。
何の事だと慌ただしくなる中で、アキラは自分の頬を引っ張り、渡されたスマートフォンの画面を見、数秒後に眼を擦って凝視した。
* * *
最強鎮守府決定戦参加の提督方へ
開会式・開始時間変更についてのお知らせ
本日、午前10:00より開始予定の開会式は、諸事情により開始時間を一時間前倒しとし、午前9:00からの開始となりました事を御伝えいたします。
尚、同式参加の提督方は8:50までに大本営内多目的ホールへの入場を御願い致します。
大本営
* * *
「…は?どうゆうこったこりゃ…?いきなり過ぎるだろ!?何があったらこうなんだよ、訳がわかんねぇ!!!」
「俺にも分からない!ただ、始発を待ってたら確実に遅れるって事!日ノ出町駅からタクシーを使って横浜駅に向かう!」
「分かった!サラトガさん!アイオワさん!吹雪!緊急事態発生だ!早く起きて!大本営に向かうよ!」
「ふぁぁ~…えっ、出発…ですか?」
「詳しい事はコレを見て!サラトガさん、アイオワさん起きて!」
神の気紛れか、大本営の策略か。緊急メールが告げた一報は、波紋と混乱を巻き起こす。
アキラに起こされた吹雪は、彼が真守から受け取ったスマートフォンを見つめている。
アキラがサラトガとアイオワを布団から剥がして、白の軍服に袖を通す。真守はウォースパイトに櫛を渡して、ヴェールヌイに歯磨きセットを握らせ洗面所へと送り出す。
慌ただしく縦横無尽右往左往の移動を繰り返し、ただただ出発の為に追われる中、吹雪は衝撃的一言を放つ。
「アキラ司令、真守さん。落ち着きましょう…あと『大丈夫』ですよ」
大丈夫…其の発言にアキラと真守は静止、吹雪を凝視する。
「いや、いやいやいやいや!?吹雪、何言ってんの!?時間が迫ってるのに!」
「そうだぞ!一刻も早く着かなきゃならないんだ!」
「だからこそ。そんな状況こそ、落ち着いて思考を整理し、最善の答えを導く事が必要があります。一旦深呼吸をしてください。
すぅ…はぁ…。さ、やってください」
青年二人は顔を見合わせるが、アキラは吹雪が怒った時の恐ろしさを知っているので、深呼吸しながら従った方が良いと真守に向けてアイコンタクトを送る。
真守も友のサインに気付き、同じくして深呼吸を開始。数回行った事で、急がなければならないと支配された思考の絡まりが解けて、脳内がクリアになった。
「落ち着きました?」
「あ、あぁ…。だけど、何の意味が…?」
「焦りは思考を乱します。思考が乱れれば、簡単な事さえ難しくなってしまい、やる事に失敗します。
では、改めて8:50までに大本営多目的ホールに到着する為の方法を考えましょう。
司令官と真守さんは最初、始発の電車に乗って横浜駅に向かう筈でした。ですが、このメールを見てタクシーを使おうとしました。それは何故ですか?」
「値段は掛かるが、高速道路を通って早く移動出来ると思ったからだ」
成程と吹雪は言う。時間は余り残されてはいない、出来るだけ早く指針を定めねば、取り返しの付かない事態になる。
吹雪も其れは分かっている筈、ならば自分は彼女を信じる以外に他ない。
「確かに一理あります。ところで昨日の夜、御二方が湯船で話し声を聞いたのですが、『ある乗り物』の話が出てませんでしたね」
「ある…」
「乗り物…?」
何故、吹雪が自分達の話を聞けたのか知らないが、この際、考えていては時間を失う。
記憶の本棚から、過去の話を引き出し、捲る。
長考の果て、遂に真守は『答え』を導いた。
「…『地下鉄』。あ、そうだ!地下鉄!!!」
彼は吹雪が持つ自分のスマートフォンを取り、検索を掛ける。
内容は『地下鉄』『大本営前駅行き』『始発』。
画面が移り変わり、幾つものタグが現れる。彼は其の中から二番目の項目をタッチし、内容を見た。
「…あった!日ノ出町始発の品川駅行き!時刻は5:26の奴が!!」
「間に合うか!?」
「…間に、合う…!状況によるけど、品川駅からの大本営前直通路線に乗れば、開始一時間前にはホール前入口に並べる…!」
「大本営前出入り口には、確かコンビニとかは無かったはず…そうなると朝飯はホームの売店で買うって事だな!
よし…!少しずつだけど希望が湧いてきた!」
しゃあ!と、年相応に似合わぬはしゃぎ具合でハイタッチ。勢いそのまま、パッパッパとアキラ達は身支度を整えた。
「…行こう」
「あぁ、いざ…大本営へ!!!」
民宿・一ノ瀬に別れを告げ、彼等は戦いの舞台へと歩を進める。希望と不安を織り混ぜて、其の歩みは真っ直ぐに目的地を目指す。
* * *
同時刻、大本営内・某一室…
「…各提督へ、時間変更の電報を無事に送信しました。無論『華裏鎮守府』以外に」
女性の声を聞き届け、そうかと一人の男が呟く。
「ヒッヒヒヒ…これで『牧園一族』は開会式には出れまいて、奴の悔しがる顔が目に浮かぶわい」
「して、次なる一手。どうしますかいな?」
「ただの開会式では面白味に欠ける…そして毎年の運営費も安くはない。そこで、だ。
今回は『アレ』を催し、参加者を『選別』しようと思っている」
男の言葉に室内の空気がざわめく。中には頭をもたげる者や、青ざめる者の姿もある。
「…『アレ』を、やるのですか」
「無論。万が一、何かの間違いで
男は懐から一枚のトランプに似た形のカードを一枚取り出して、高らかな宣言の如く言ったのである。
「さぁ、諸君。始めようじゃないか」
────大本営・選抜印集走をな
* * *
「ひぇ~…」
「予想はしてたけど…やっぱりこうなってる、か…」
時刻はマルヨンサンハチ。民宿を経ち、駆け足気味にで日ノ出町地下鉄へ辿り着き、ホームへ向かったアキラ達が目にしたのは、所狭しと並び行列を作る人混みだった。
其の大多数は同じ白い軍服を纏い、側には二人もしくは三人の女性達が付いている。
はっきりと分かる…彼等彼女等は提督や司令官であり、自分と同じく都心部を避け、一夜を過ごし、日も開けない早朝にメールを見、地下鉄を使うことを選んだ面々だ。
「地下鉄まで一時間もある、どうしたもんか…」
「真守、俺が皆の朝飯を買ってくる。吹雪達の事を頼む」
「良いのか?金は俺が」
「大丈夫、任せて」
「…分かった。おにぎりとサンドイッチがあれば何とかなるかな」
覚悟を汲み取ってくれた真守に行ってくると言い、アイオワとサラトガ、吹雪を託し駅売店へと走り出す。
売店は今日の事を考えて、何時もより多く仕入れているはず…彼の中にはそんな直感が在った。何故なら自分が其の立場に在ったのなら、必ずそうするから。
そして其の直感は当たっていた。
「…やっぱり。沢山外に積み上げられてる!商品の入った折り畳み式のプラスチック製の箱!つまり、在る!」
ホーム内の混み具合もさる事ながら、売店の内部と外の壁沿い、そして青の長方形の箱が鎮座した付近は、人が圧し蔵饅頭しながら、各々が千円札を掲げて買おうとしており、店員達は慌ただしく往々と商品を渡していた。
「…やるっきゃねぇ!!」
財布から千円札を取り出して、人の壁へと突っ込んだ。
熱と圧と声の三重奏を奏でる中、あっちに揺られ、此方に押され、アキラはもみくちゃにされて行く。
十数分掛けて漸く売店員の居る臨時カウンター付近まで来ることが出来たが、此処からが一番の難所になる。
「すいませーん!」
『ツナサンド4つ!ワカメと明太子スパゲティ3つ!』
『私、唐揚げ弁当とハンバーグ定食!1個づつ!』
声と手を挙げても、他者の有象無象の声に磨り潰され、全く店員に届かない。もっと声を張らなければならないが、そうすると必然的に周りからの反発が高まり、後方へ押し流される危険がある。そうなってしまえば延々と繰り返される無限ループに嵌まる。
一発で決めなくては…!
鼻からむさ苦しい空気を吸い込む。やりたく無くともやらなければならないのならば、四の五の言っている場合ではない。
『すいませーん!!!塩おにぎり6個と梅干しおにぎり3個にミックスサンド6個!そして500cc.のお茶を6本!お願いします!!!』
今世紀最大声量を出したと思える声で店員に向かって叫んだ。同時に眼力を全開、視線で更に伝達を謀る。
『うっせえぞゴラァ!』
『静かにしてよ!』
案の定周りからの反発やら怒りやらと言った、その他諸々を一手に買い占める形となり、元居た位置まで圧し返されそうになる。
なおのこと負けられない、負けてはいけない。
全身全力で圧力に抵抗するアキラ。それによって服が引っ張られ、胸のボタンを止める糸が、白地の軍服がプツリプツリと切れてゆく。
人間達の分厚く畝る壁に阻まれ、彼の肉体は悲鳴をあげた。
それでもアキラは叫び続ける、待っている者のために。
* * *
真守side…
「アキラ…暴力沙汰に巻き込まれてないといいが…」
「アキーラ…大丈夫かしら…?」
「アキラ…」
アキラが離れてから既に30分。
と…
「お、其処の御二人さん♪」
「君達可愛いねぇ~」
「良かったらウチラとしゃべくりしなぁい?」
チャラい声で話し掛ける数人の男達。真守と同じ軍服を着てはいたがボタンを閉めておらず、軍帽からはみ出した髪は金や赤、緑に紫。耳に金臭いピアスを付けた彼等は提督や司令官と呼ぶには何処か疑問を覚える。
そして其の眼はアイオワとサラトガという、艶やかで可憐な華に近付く、空気の読めない不純な下衆野郎であると、ヴェールヌイとウォースパイトは心中で思った。
仮にも秘書艦娘が後ろに居るというのに。
これを見ていた真守は彼等の前へと躍り出る。
「すいません。此方の二人は友人の鎮守府に居る艦娘なんです。それと此の場でそうゆうことを言うのは、デリカシーが皆無では」
その時である。真守の胸ぐらを一人の男が掴んだのは。
「お前に話してる訳じゃねぇんだよねぇ…ちょっと退いてくれっか?」
横に突き飛ばされ、尻餅をつく真守。其れを見たグラーフが瞳孔全開で動こうとするも、他の男達が前に出て彼女の行く手を塞ぎつつ、こう言った。
「おぅおぅ、なぁにしてんのかなぁ?艦娘の身分でさぁ」
「提督や司令官に逆らっちゃあいけない…そうゆう『ルール』があんのを知らないのかなぁ?」
歯軋り、凛とした表情さえ崩れる程にグラーフは怒っていた。ヴェールヌイも、ウォースパイトも。吹雪さえも。
だが奴等を裁けない。何故ならば艦娘だから。提督や司令官に逆らってはならない、絶対の要約があるから。
まさに、怒りに挙げた拳を封じられるとはこの事か。
「ま、そうゆう事なんで…♪」
「さてさて、お嬢さん方」
職権を乱用し不正を働く輩達。こんな奴等が日本を、世界の海を護っている現実。艦娘からすれば最早、己の力を証明し、身を守る方法が無いことを突き付けられたも同然な行為である。
そして、怯える二人に魔の手が迫り───
「何してるんだ。アンタら」
「二人に…何をしてる…!」
同時に奴等の腕を掴む、二つの手と二つの声が響く。
一人は腕に大きなビニール袋を二つ引っ提げ、乱れた呼吸と静かな怒りで瞳を燃やすアキラ。
もう一人は腰ほどまで掛かる、漆で塗られた陶器のように美しく長い黒髪に、灰色の袴と黒の着物を纏ったアキラよりも頭一つ高い男性。
其の出で立ちは、大小の刀を腰に添えれば侍と言われてもおかしくない。
「おっ、アンタがこの娘達の提督さんかぁ~。んじゃ悪いんだけど、貸してくんねぇかな?この二人をさ」
「分かってるよね?『君自身の立場』がどうゆう場所に在るかって事くらい、さ」
寄り耳元で囁いた言葉に、アキラの中で何かがブチンと切れる音がした。
力無き者のために戦う艦娘を、欲求を満たす道具としてしか考えていない…こんな奴等に大切な仲間を渡すなど言語道断…絶対に出来ない事である。
が、彼が言葉に出し、行動するより更に早く、目の前に居た男の腕を着物男が握り締めた。
「アギャアアアアアア!?!?」
メギメギと骨が軋み、男の顔から血の気が一瞬で引く。同時に襲来した絶大な痛みに悶えて苦しみ、引き剥がそうと藻掻いた。
「貴官等、TOPを御存知か?第一服装と装飾品が派手、髪も黒や茶と異なる色に染めている。そんなチャラチャラした格好で開会式に参加するつもりか?」
着物男はそう言って腕から手を離すと、一人の男の懐にするりと入り込み、耳朶に付けたピアスに指を通して力任せに引っ張った。
「ィデデデデデデデデデデデ!?!!!ああああああああああ!!!!?」
「だ、てめぇ何しやがる!?」
殴り掛かろうとしたその時、着物男は胸元に手を入れ、掌サイズの手帳に似た黒革の物体を取り出し、彼等の前に翳した。
「あ……………!?」
青ざめる男達、真守もアキラもそれを見た時、仰天と共に驚愕の表情で着物男を見る。無論、他の者達も。
開かれ、外下に晒された中身は『大日本海軍大本営のシンボル』である、『菊と錨の紋章』が刻まれた金塗りの紋章。
この紋章、海軍大本営に本籍を置き『重要な役職』に就く者にしか持つ事が許されていない、名誉ある物。
駅のフォームで待つ提督や司令官、そして艦娘達は一瞬で着物男が『大本営出身の重役』であることを理解するには充分過ぎる代物であった。
「…えー、現時刻マルゴーイチマル。お前達を他の提督に対する恐喝罪で、現行犯逮捕してやっても…良いんだぞ?」
「ヒッ…!」
「お、オイ!?逃げるぞ!!!」
駄目押しとばかりに手錠まで取り出した所で、男達は畏れを成し一斉に逃走。人混みを掻き分け、姿は見えなくなった。
「あ、あの!ありがとうございました!」
「助かりました…えっと、その…」
「…俺は自分の職務を全うしたに過ぎないし、ああゆう輩にはちょいとばかし痛い目を見ないと学習しない。頑張れ、若い提督さん。
あと、コレを」
二人に手渡されたのは一枚のカード。内容を聞こうとしたが、気にするなと真守とアキラの肩を叩く着物男。と、ホームに警戒音とアナウンスが響く。
『まもなく、一番ホームに当駅始発・急行品川駅行が10両編成で、参ります。黄色い線の内側で、お待ち下さい』
「あ、電車が来る…貴方も」
目を離した一瞬、着物男の姿は既に其処には無く、人混みも電車に早く乗るべく移動を始めている。
一体誰だったのか…疑問を抱えながら、アキラと真守達は電車へと乗り込んだ。
* * *
同時刻、日ノ出町駅西口・タクシー乗場…
《任務、御苦労。…して、ターゲットに
『はい、確かに渡しました。問題有りません』
《よろしい。君はこのまま大本営に戻りつつ、運転手が渡すであろうファイルに目を通すのだ。次の司令は其の中に在る。以上》
ブツリと電話が切れ、着物男は胸元にスマートフォンをしまい、タクシー乗場に停車する一際黒い車へと乗り込む。ゆっくりとエンジンを鳴らし、車が動き出す。
「おぅ、おつかれ。で、首尾はどうだった?」
運転手が着物男に対し、バックミラー越しに視線を向けて、そう問いを投げ掛けた。
「…謂われずとも、しっかり任務はこなしましたよ『
「そっか。ま、お前ならそう言うか」
「…分かっているとは思いますが、『大本営内』では私が『上司』みたいな物です」
「わーっとる、わーっとる。皆まで言うな
ほれっと甲…もとい甲染が渡したのは、青いファイルと黒いファイル。
手に取り、それぞれの項目に善吉は目を通した後、発言した。
「いつの間に『ここまで』調べたんです?」
「色々さ。お前は知ってるか?『華裏鎮守府』へ資材徴収へと赴いた使者が自宅謹慎されたっつう話を」
「はい。異を唱えたそうですね、大本営のやり方に対して」
バックミラーを通して答えた善吉に、甲染はこのように返す。
「ま、『半分』は正解だ。
だが実際は違う。華裏鎮守府の提督が其の使者に渡した物が、結構ヤバい物だった。んで、そいつを追及したらお偉いさん方の地雷を踏み抜きガッチャーン…。
だがそれだけじゃあねぇ、『あの事件』と其の使者の一件は『繋がっている』。間違いなくな」
甲染の表情が硬くなり、善吉は生唾をゴクリと飲み込む。そして彼は衝撃的な言葉を発したのだ。
「…つまり」
「あぁ…
元総大将、牧園 ジュウゴの『毒殺隠蔽事件』。
大本営開発部門の『極秘兵器開発データの消滅』。
そして今回の使者が持ち帰った『深海棲艦の新型武装』と『融合深海棲艦との戦闘記録』の抹消。
…確実に居やがるな。大本営内部に『深海棲艦に肩入れして』やがる『裏切り者』がよ」