※この作品はR-18です。

将来を有望視された青年が、冤罪で問題山積みの鎮守府に着任されました。 ~地獄の底からこんにちは~   作:ガリアムス

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前回、アキラは自分を痴漢冤罪の無実を証明してくれたヴェールヌイのお願いを了承し、華裏鎮守府に置くため真守との交渉に臨む事が決まりました。

そんな彼等に、またまた厄介事が転がり込むようです。さて、アキラは此れ等を乗り切り、大本営に辿り着けるでしょうか…?


将来を有望視された青年が、冤罪で問題山積みの鎮守府に着任されました。~開幕宣言と仕組まれた罠・其之肆~

「アキラ『提督殿』…いや、『アッキー』だな。久しぶり」

 

「えっ…?」

 

警官帽を少し上げ、男は悪い笑みを浮かべた。

自分はこの男を知っている。二之名『神運(ゴッドラック)』で方向音痴のプリンツ・オイゲンを秘書艦娘として置いている、大本営の提督・月之世 甲少尉。その男が何故、警察官の服装を纏っているのか。自分は何か悪い夢でも見ているのか。

 

「おいこら、現実だ」

 

「『夢じゃねぇぞ』…随分乱暴な口調を使うんだね。警察官さん」

 

アキラの心境を『心理の先読み』で読んだ甲だが、その先で言おうとした言葉を、ヴェールヌイが更に先読みする。

ピクリと反応し、甲(かれ)の視線がヴェールヌイに向けられた。

 

「ほぉ…せんせ以外で先読み(おんなじわざ)が使える奴が居たとはなぁ」

 

「その技術(心理の先読み)は本来、『限られた極一部の中の、ほんの一握りの人間にしか伝承されていない』技だ。

 

…一体『何処で』、『誰から』教わった」

 

「なら『読んでみろ』、其の技を使ってな」

 

無言で火花を散らし合う両者、其の間に相方の警官が輪って入る。

 

「甲染さん、私達が今やらなければならないことは何ですか」

 

「む…そうだな善吉。俺達には、やらなきゃならねぇ事がある。ちびっこ、読み合い勝負はまた今度だ。二人とも付いてきな」

 

くいっと首を振り、甲少尉…もとい甲染はアキラ達を呼ぶ。

 

「付いてこいって、まさかパトカーに乗れと?」

 

「其のまさかだ。パトカーでお前らを大本営まで送ってやる。速い方が良いしな。聞いたぞ、痴漢冤罪にあったんだってな。お前」

 

パトカーの無線で話を聞いていたのだろう。詰まる話は車内で聞くと言われ、アキラとヴェールヌイは集まりつつあった野次馬達の視線を振り切りながら、半信半疑で乗り込んで行く。相方の警官の善吉は、野次馬達にスピーカーでカメラ撮影を止め、即刻此の場を離れるよう叫び、パトカーへと乗った。

 

エンジンを吹かし、車体はゆっくりと駅を離れ、大本営に向けて、静かに走り出したのだった…。

 

* * *

 

パトカー車内…

 

「ほぉーん…ソリャサイナンダッタナ、アッキー」

 

「まぁ、はい…そうですね」

 

棒読みで白々しく言葉を漏らす甲染に、アキラは何も言えなかった。彼が話そうとすれば、速攻で言葉を言われて、話すことが出来ない。何よりヘラヘラと自分を笑っているのが神経を逆撫でし、沸点に迫らせているのが尚の事許せない。其れを分かっている上でやっているのだから、余計タチが悪い。

 

「甲染さん、戯れは程々にしてください」

 

「わーとるわ、俺を誰だと思ってる」

 

ムッフンと鼻息を吐くが、善吉は死んだ魚のような目で無表情でこう告げる。

 

「夜の遊び人、心読みのセクハラ鬼畜魔人」

 

「オイコラ善吉。そう言った奴等を開会式の後で会議室に集めろ、目にもの見せてやる」

 

「…大本営内では当たり前の反応です。特に女性提督からの人気は『あの』荒垣 演作中将に並ぶ不人気。そう思われたくなければ、少し自重してください」

 

「喧しゃぁ、俺は生きたいように生きるんだ」

 

わーわーギャーギャーと騒ぎ立てる甲染と、呆れ顔で溜息を漏らしハンドルを握る善吉。アキラは速く無事に辿り着きたいと心の中で祈り、ヴェールヌイはスマートフォンを弄っていた。

 

「ところで、だ…アッキー。何で俺達が『こんな格好でパトカーに乗ってんのか』…気になってんだろ?」

 

不意に甲染の口調と声色がちゃらけた物から、年相応のダンディで落ち着いた物になる。ヴェールヌイが彼を睨む中、衝撃の事実を口にする。

 

「俺達はな…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『警察側の人間なんだよ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…は?」

 

「どうゆうこと?」

 

「言葉の通りですよ、御二人共」

 

運転中の善吉が静かな声で話す。

 

「私達は『ある事件の真実』を明らかにするために、大本営に潜入捜査を行っている『警察官』…言うなれば、貴殿方とは『国防』を担いながら、『違う立場』にある組織の人間…という事です」

 

「同じ任なのに、違う立場…?それってどうゆう…」

 

混乱するアキラ、其処へ聴いたことがあるとヴェールヌイが発言し、こう述べる。

 

「大本営の人間が何らかの形で犯罪が起こしても、現行犯でない限り、大本営が取り調べを行ってからじゃないと『逮捕や起訴』が出来ない。

 

そして、その制度が有るせいで大本営が『事件や事故、延いては重大犯罪の温床になっている』。今の時代、警察より大本営の方が、持てる権力や発言力が強いから起きている現象。…そうゆうことだね?」

 

その通りですと善吉は悔しそうに答える。

 

現在の日本の安全を守っているのは、主に『陸上自衛隊』や『警察庁』に『海上保安庁』、そして鎮守府と提督を従えている『大本営』の三つ。中でも現在、深海棲艦に唯一と言って良い程に対抗出来、広範囲の海を奴等の魔の手から奪還・死守しているのは、他ならぬ大本営。

 

未知の脅威に対抗出来るという、揺るがない『事実』と『成果』。その事実と成果で得た『力』を彼等は、『独善的』に奮い続け、段々と暴走し、それが様々な事件や事故という形を成して、多方面に皺寄せとなっている。事実、ニュースや報道には出ていないが、大本営によって掻き消された、数多くの真実(じけんやじこ)が未だ闇の中に埋もれたまま…警察にとって大本営のこれ以上の暴走を、何としても阻止したいのである。

 

「我々警察は市民と国家の安全を守ると同時に、大本営等の組織の権力乱用を抑え、防ぐのが役目です。しかし今の警察は大本営の権力(ちから)を前に、自らの役割を執行出来ずにいる。

 

情けない話です…」

 

バックミラー越しに見た彼の目の中には、底知れぬ険しさと怒りが混じっているようにみえたのを、アキラは感じた。

 

「まぁ要するに俺達は、大本営(やーさん)の悪事を世間様にバラして、此迄の事件やらの真意を問いつつ、『大本営の抜本的改革推進を促す』…っうのが目的なのさ」

 

善吉の苦い表情とは真逆で、余裕と堕落けた状態で腕枕と足を膝に乗せて、甲染は寛いでいた。

人が真剣な話をしているというのに、そんな態度でいられるのか。この男の神経は、一体どうゆう時間と経験を経てこうなったのだろうか。

 

無言の沈黙を帯び、パトカーが首都圏へと続く、高速道路の入口にある料金所のETCレーンを抜けて坂を登り、高所に位置する合流地点へと走って行く。

三車線の道路を走り、通り過ぎて行く車達に並べられるように、徐々に…少しずつ加速を初め、ランプを灯し、一番左の路線から中央、そして一番右へとスムーズに手慣れたハンドル捌きで、車線変更を行い、パトカーは風に乗った。

 

轟音が車窓を揺らし、鋼鉄の弾丸は目的地を目指して走る…

 

 

「…で?貴方達の『本当の目的』は何?」

 

 

静寂は再び破られた。スマフォを弄っていたヴェールヌイの放った一言が、車内の空気を一瞬で緊迫状態へと導いたのだ。

 

「私達をパトカーに乗せ、貴方達は己の目的を話した。そうまでした『理由』は何?」

 

「ヴェールヌイ…?」

 

アキラは何が何やら分からず、おろおろとヴェールヌイに問うが、彼女の口から告げられたのは、あまりにも悲しい現実だった。

 

「アキラ…私達はどうやら、彼等に『嵌められた』ようだ」

 

「は、められ…た?え?」

 

そんとおりだぜぇ~…不気味な声を甲染が発した。

ミラー越しに見えた男の表情は、獰猛で悪意に満ちた表情(もの)。全身に悪寒が走る。

 

「ちびっこの言う通り。乗せた上で、俺達の目的を話したのには、これから御二人さんには『協力』をして貰うためだ。拒否権?んなもん、ありゃしねぇ」

 

甲染がニンマリと笑みを浮かべている。しかも、口調や声色は明らかに此方を『挑発』し、冷静な思考を削ぎ落としにかかっていた。

一触即発のムードの中、ヴェールヌイが先に切り出す。

 

「…断ればどうなる」

 

「少なくとも、お前らは開会式には間に合わねぇなぁ…確実に遅刻(アウト)だ」

 

「…スマフォで録音しているけど」

 

「バラした時点で同罪な。裏切り者を大本営の連中が絶対に許さないのは知ってるだろう?…俺達と会ったお前らも、既に同じ沼に填まった人間つぅ訳だ」

 

固い表情で歯を軋るヴェールヌイを見、カッカッカ!と笑い、甲染は余裕を以て言う。二度目だ。再び彼に騙された。

 

何故、過去から学習しなかった?

何故、二度目があるかもと予測しなかった?

何故、彼の言葉を疑わずに信じた?

 

人を信じて疑わなかった結果、最後は必ず裏切られ、いつも酷い目に遇い続けた。何度も何度も…自分はまた、同じ過ち(こと)を繰り返す。一番分かっている筈だ。他者を信じる事は『自分の首を絞める行為』に繋がると。

 

「…アッキーの過去に何が有ったかなんさ、俺ぁ興味ねぇが、こっから話すことは全部、今後のお前にとって『有意義』な物になる。

 

後、俺達の目的に協力するってんなら、『警察の威信と誇り』に誓って、俺達がお前らの『後ろ楯』になると断言して良いぜ」

 

心理の先読みを利用して、またしてもこの男は恐ろしい事を宣う。神経がガリガリと削られ、傷付いて、粉々の塵になっていく感覚に襲われる。

どうせ此方を利用するだけ利用して、最後の最後に切り捨てるつもりだ。分かりきっている、そんな事は…。

 

「さぁて…ちびっこ。俺が話す事に対して、心理の先読みを全力で使え。俺は今から『本当の事』しか話さない」

 

バックミラーで視線をヴェールヌイに送る甲染。少女は何を思ったのか、苦い顔と嫌そうな表情で渋々首を縦に小さく振った。甲染の表情が真剣な表情(それ)に変わり、彼に事実を告げる。

 

「アキラ、集中して俺の話をよく聞け。…俺達が解き明かそうとしている事件の中にはな…

 

お前のお祖父さん、牧園 ジュウゴさんが『被害にあった事件(もん)』も含まれてるんだ」

 

祖父の名前が出た瞬間、アキラの視線が上に上がる。

 

「俺も善吉も、あの人には随分良くして貰った。恩もある。其の恩人が巻き込まれた事件、其れを大本営の邪魔で調べられねぇのは、警察の…『一人の人間』として許せねぇ。

 

『真実は必ず、明らかにする』…其れが俺の『警官』として、同時に『提督』としての信念(モットー)だ」

 

今までに見たことも、聞いたこともない、確固たる意を示す月乃世 甲少尉の言葉だった。

人の言葉は時として聴き手の魂を震わせ掴み、脳裏に明確でハッキリとした未来の映像(ヴィジョン)を写す事が出来るという。

有名な小泉元首相の街頭演説もまた、当時の視聴者達の指示集めたというが、まさに今、この男がやった事と同じに近い。

 

彼の話を聴き、アキラは沈黙する。数十秒の沈黙と静寂を経て、ヴェールヌイが先に口を開く。

 

「…私は『まだ』、貴方を信用出来ない。でも、貴方の言葉が『嘘偽りのない』言葉なのは分かった。

 

…けれど、最後に決めるのはアキラ自身。そして彼は必ず『真に正しい決断』をする。私はその決断に従うよ」

 

ヴェールヌイはスマフォの録音機能と電源を切り、静かに彼の決断を待つ。

 

《俺は、どうすればいい…》

 

目を閉じ、心の奥底まで潜る。彼が思い出すのは、二つの記憶と一つの言葉。

 

一つは数ヶ月前、ウッド島再調査の時に朝潮達が目撃した、壮絶な光景を見て、己が定めた作戦内容を提督命令で変えた時と同じ感覚。

あの時、自分は『救出する』という選択をしたが故に、深海に沈んだ五人の艦娘達の魂の歯車を再び動かし、牧園一族(自分の先祖)の成してきた道程や恐ろしき深海棲艦(血染めのレ級)を知ることが出来た。

 

もう一つは、自華裏鎮守府に着任した一ヶ月後、大本営で行われた『五包囲電光石火作戦』の戦果報告会。大本営の裏路地、浪費癖の提督と司令官に囲まれ半ば喝上げの資源資材を要求された時。

己の心に従い、自らの言葉を以て反論。結果は彼等の怒りを買い、気絶するほどズタボロにされた訳だが、その選択に『後悔』は無かった。

 

『人生には何時も、沢山の選択が訪れる。その時に、悔い無き選択をしなさい』…嘗て、お祖父ちゃんが俺に言った言葉。ヴェールヌイが言う『全てを分けられる人間』の原点を作ったであろう言葉。

 

この選択は自分の…華裏鎮守府の未来を決定付ける大事な選択になる。走るパトカーの中、沈黙から覚醒(めざ)め、目を開いたアキラは己の答えを口にした。

 

「俺は…」

 

* * *

 

真守side…

 

現在の時刻はマルナナマルサン。

 

『品川~品川~。御出口は先に、右側から開きます。大本営前、上野方面へお急ぎの方は御乗り換えください』

 

ぎゅうぎゅう詰めの満員電車に、アナウンスの声が響く。多くの乗客達がやっと、この苦しみから解放されると溜息を吐きながら、出口に向かうべく自分に与えられた空間の中で下車の準備を進める。

 

「や、やっと…出られるわ…」

 

「アドミラール、大丈夫か?」

 

「ああ、何とか…ね…」

 

電車が品川駅のホームへと入る。ブレーキで放つ金切り音を鳴らしながら、ゆっくりと車体は速度を落とし、停止する。

 

『パンポーン♪』

 

開閉を知らせる音色が響き、ドアが開かれる。同時に乗客達は、傾けられた薬缶(やかん)からお湯が外に流れるように、車外へと飛び出し、各々が次の乗り物に乗るべく移動して行く。

 

「皆、はぐれないように!次、8番線の大本営前行きの電車に乗るよ!」

 

「OK!」

 

真守の後ろにアイオワ→ウォースパイト→吹雪→サラトガ→グラーフの順に彼の背中へピッタリと付き、乗り換え路線のホームへ向かう。横浜駅での出来事もあった…六人は気を引き締め、人の濁流の中を進む。階段を上って下りて、往来と交錯を越えて、彼等は8番ホームに続く道を歩き、到着した。

 

「…ん?」

 

ふと、スマフォを見る。緑のランプが灯っており、電源を入れると『メールが届いています』と記されていた。彼がメールボックスを開くと、ヴェールヌイから自分宛に送信された一通のメールがあった。

 

「横浜駅のタクシー乗場に居ます。必ず追い付くので、先に大本営に向かってください…か」

 

真守は返信ボタンをタップし、右手親指を使い慣れた手つきで文章を入力していった。

 

* * *

 

Re.ヴェールヌイへ

 

メールは確認した。此方は品川駅の8番ホームで、これから大本営前行きの電車に乗ります。

 

ヴェールヌイ、アキラの事を頼む。

俺の大事な友達を、必ず守って下さい。

 

真守

 

* * *

 

「…よし」

 

『まもなく8番ホームに、急行・大本営前行きが十両編成で、参ります。黄色い線の内側でお待ち下さい』

 

次なる道へと向かう電車がやってくる。

牧園 アキラと二階堂 真守。各々違う場所に在れど、目指す場所は同じ、大本営。

 

迫る時は刻々と、静かに針を刻み続け、確実に着実に無くなってゆく…。

 

《アキラ…必ず大本営で会おう》

 

願いを胸に、真守は電車へと乗る。

多くの人々の想いを内封し、鋼鉄の車輪は回り、敷かれたレールを走り出した。




艦娘紹介

夕立(ゆうだち)…元・佐世保第八七鎮守府所属の艦娘。過去に任に着いていた提督の『ある作戦』によって、当時艦隊で作戦行動を取っていた駆逐艦娘の白露と共に作戦海域に囮として置き去りされ、支援も無い中で大破状態に在った白露を守りながら数日間を生き残り、吹雪達に保護された経歴がある。

保護後、華裏鎮守府が過去の演習で相手方の艦娘を夜戦開始時、夕立本人が単機かつ圧倒的な力で敵艦娘を蹂躙し、海に出られなくした事件があり、これが切っ掛けとなり華裏鎮守府は演習リストから抹消された。

時雨(しぐれ)…元・横須賀一七三鎮守府所属の艦娘で『天使(アルティア)』の二之名を持っていた。かつて魚雷攻撃命中率ランキングにおいて上位五十位以内に入る好成績を収めていたが、演習中、魚雷の誤射で提督に瀕死の重症を負わせてしまい、反逆者の汚名を背負い、二之名を『天使(アルティア)』から『堕天使(ルシファー)』へと強制改名、並びに鎮守府から除名処分を受ける。

行く宛も無く、無気力の中さ迷っていたところを龍驤と出逢い、彼女にスカウトされる形で華裏鎮守府に着任した。
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