将来を有望視された青年が、冤罪で問題山積みの鎮守府に着任されました。 ~地獄の底からこんにちは~ 作:ガリアムス
果たしてアキラは四人に何を語るのでしょうか…?
将来を有望視された青年が、冤罪で問題山積みの鎮守府に着任されました。~集印走開幕。絶縁と繋がりと再結の掌~
「……………」
時刻はマルキュウヨンヨン。場所は大本営内部、正門へと続く廊下の一つ。
牧園 アキラは早く歩く。大本営の第一次予選、選抜集印走へ挑む為。一刻も早く、誰よりも早く。
《オイオイ。アンナ誰ニデモ分カル『宣戦布告』シカケトイテ、当人ハ随分ト余裕ダナ》
心の内側から声がする。アキラが目を綴じて自身の意識を少し落とし込むと、目の前に『白と黒の陰陽印に分けられた世界』が顕れる。そして彼が立つ真っ白な場所と対極に位置する『暗黒の世界』に、それは…『もう一人の自分』は胡座を掻いて座っていた。
純白の雪を彷彿とさせる真白な髪と皮膚、真紅の如き赫炎の赤い瞳。表情は相変わらずニマリと微笑を浮かべ、掴み所が全く見えない。
《マルデ『確信』シテルヨウナ態度ダ。オマエノ絶対不変ノ勝利ヲ》
《そうか?俺は内心、あまり良いとは思わない》
彼が思うのは、開会式の最終辺りで大本営中将の一人、小笠が言った言葉にあった。
『銀の星のカード三枚、もしくは金の星のカード一枚。これを集印走終了時に持っていれば、第一次予選を突破したものとして扱う』
アキラは本来、開会式で優勝宣言を行い、終了と同時にアイオワとサラトガ、吹雪を連れて華裏鎮守府へ速攻で帰る事にしていた。
面倒事に巻き込まれるのを未然に防ぎ、艦隊練度・知識・体力の三つの予選に備えて艦娘達と共に更なる特訓と研鑽を積む…そのつもりで。
本来、予定が変更された時点で『こうゆう事』も起きる可能性が在ると、思考の片隅に置いておくべきだった。
まだまだ『甘い』…いや『甘過ぎる』。
《それで華裏鎮守府を護れるのか?…しっかりしろ、俺》
《…気張ルノハ、オマエノ好キニスレバ良イ。
『此方ニ誰カ向カッテキテルゾ』…シカモ『四人』。全員、オマエノ見知ッタ顔…コッカラハ、オマエニ任セル》
意識が現在に戻る。
『アキラ(君)!!!』
後ろから声がし、ゆっくりと身体半分だけ振り向く。
其処には二階堂 真守と西村 クリス、そして
楓は五人の中で一番背丈が低く、身長は150cm程しかない。髪は肩まで掛かる緑のセミロングで藍色の瞳を持ち、そして一際目を引くのが、白い軍服を押し上げ、たわわに実った大きな、それは大きな胸である。
逆に結紲は最も背が高く、其れなりに背丈のあるアキラや真守を一等親分突き放しており、黒い髪と瞳、軍服の合間から見える小麦色の肌が特徴的な男だ。
「やぁ真守。…そして、久しぶり。クリス、楓、結紲」
のほほんと、済ました表情でアキラは呟く。そんな彼の態度に対し、真っ先に話を切り出したのは、彼の一番の親友である二階堂 真守だった。
「アキラ…何でだ…。何でお前が…華裏鎮守府の提督に、なってるんだよ…」
「理由は既にスピーチで言った通りだよ、真守。俺は誰かも分からない他人の罪を被らされて、
それ以上でも、それ以下でもない。…お前は言ったよな?」
震える声で真意を問う真守を、アキラの冷たく、闇を纏った視線が向けられ、答えが帰ってくる。
「華裏鎮守府の提督に『艦娘達を存外に扱ってる事を謝らせる』ってさ。
良かったじゃないか…今、目の前に『其の提督』が『居るんだ』。謝らせられる絶好の
「違う、違うんだ…アキラ」
「何が違う?華裏鎮守府の『存在理由』を知ってるのに?…お前は昔からそうだ。
何時だって『物事を表面上からしか』見ていない。だから『物事の真実』が見えない。
お前は、華裏鎮守府の『何を』知ってるんだ?
…『何も知らないで』言うんじゃない」
真守は言い返す言葉を失っていた。
アキラの言った言葉は、
自分は何も知らない。華裏鎮守府の事も、其処に居る艦娘達の事も一切…。放った言葉は、もう口には戻せない。自然と視線が下に落ちて行く。
「アキラ!真守はお前に対して謝ろうとしているだけだ!何故、そんな風に『突き放す』!?
お前はそんな薄情な奴な訳がない!」
大声で真守との間に切り込んだのは結紲。しかしアキラの目は更に冷酷な物に変わり、
「…はぁ。ホント、相変わらず五月蝿いな…。俺は昔から『こうゆう性格』だった。そして『今も変わらない』。
…大体さ、結紲。お前を『友達だと思った覚えは無いぞ』?」
「は…!?」
結紲は彼の予想外の声に目を丸くした。アキラは静かに、追撃とばかりに発する。
「この際、ハッキリ言わせてもらう。身体能力だけが取り柄で卒業した『木偶の坊』に、上から物事を言われるのは『大嫌い』なんだ。大体身長が高いだけで、ちやほやされてる奴に、俺の『心』が理解出来る訳がないだろ」
「…アキラ、お前!!」
「お、落ち着いて!暴動起こしたら駄目だって!!」
ブチギレて、今にもアキラを絞め殺してしまいそうな結紲を楓が止める。
「ま、俺がお前達に抱いている『本心』は、そうゆう事だ。
『金輪際』、俺に関わるな」
あばよ。そう言って彼は背を向けて、再び歩き出す。
真守は下を向いたまま、呼び止める資格が自分には無い。
楓は怒りと歯軋りで暴走寸前の結紲を止めるのに必死で、彼を止められない。
「…どうして」
そんな折、クリスがアキラに対して声を掛けたのだ。
「どうして、アキラは『いつもそうなの』?」
「…何が?俺は何も変わっちゃいねぇぞ、クリス」
「違う…、アキラ。…何で」
ボク達を遠避けようとするの…?
「…………………」
「クリス…、其れはどうゆう事だ?」
「ずっと、気になってたの。ホールで、スピーチした時から。アキラ…『ひとりぼっち』に…なろうとしてた」
『!』
クリスの一言。真守、結紲、楓は彼の顔を見る。
「アキラは華裏鎮守府の提督…ボク達がアキラと関わってるのが、分かったら…他の提督達は、ボク達に色々、面倒事を押し付ける…そんな気がするの」
「例えば、どんな事?」
「…そこまでは、ボクも分からない」
クリスでも分からない事に、楓と結紲が分かるはずもない。三人うんうんと悩む姿を見て、アキラは面倒くさいし、これ以上話を聞くメリットも無い。正門へ向かおうと思考の果てに至り、歩こうとした。
「……………あ」
唯一人、この男が。真守が『真の答え』に辿り着いた事を除いては。
「アキラ…お前…!
まさか、俺達を『守ろう』としているのか…!?
その為に『こんな事を』言ったのか…!?」
「……………」
アキラの足が止まる。
「アキラ、お前ッ…!!!」
真守が歩み寄り、アキラの軍服の胸ぐらを掴む。
彼の目は『今まで』見たことが無い。深く…暗い…『自責と憤怒』がごちゃ混ぜになった、苦しい物。
「何でだ…答えろ!アキラッ!!!」
「……………どうやら、最後まで隠し徹す事は出来なかった…か」
数秒の沈黙の後、アキラは諦め…真守の手を優しく払い、自身の言動の真意を語った。
「先ず、皆を悪く言った事は謝る。…本当に済まない。
…クリスが言った通り、俺は皆との繋がりを断ち切って、一人になるつもりでいた。
あまりにも無謀で、愚かな『目的』に、皆を巻き込む訳にはいかない。手を貸せば、同じ『人間の悪意』に晒され、深い『苦しみ』を背負う事になる。
そして二度と…『光の射す世界』には戻れない。
皆には自分自身の将来を潰して欲しくない。
…だからもう、これで『終わりにしよう』皆」
闇の自分が言った…繋がりを捨て、一人になることこそが最善の道だと。
計らずして自分は、其の道を選んでいた。
大切な仲間を守る為…己が望んだ答え。
後悔は無い…無い筈。なのに…何故。
こんなにも苦しいのだろう
『いたぞ!彼処だ!』
そうこうしていたのが仇になった。自分のスピーチに憤慨した他の提督達が此方に向かって走ってきている。目が怖い、確実に暴動になるだろう。
『牧園 アキラ!てめえ、覚悟出来てんだろうなぁ!?アァ!!!』
『ぶっ殺してやる!!』
『先ずは一人、リタイアだ!』
これが人間の闇。人間の業。
集団を作る者達に起きる必然の事態。
アキラは『闇の世界を垣間見て』、そして『其れを変える為』に開会式で優勝宣言をして此所に居る。
自分等と真逆の世界に触れ、深く黒く穢れ、二度と元の場所に戻れない…帰る事すら叶わぬ深淵にまで堕ちようとしている事を、四人は漸く理解した。
《真守。楓。クリス。結紲。
皆に出逢えて『友達』になれた事、本当に感謝している。皆と過ごした時間は、俺にとって一生の思い出と誇りだ。
願わくはどうか…光射す世界で、幸せに生きてくれ》
迫り来る人の波。これで友は居なくなる。
振り返る事は無い。背を向けて走れ。奴等に捕まる前に。
「…サヨナラ」
遺すべき断絶の言葉は言えた。
これで、四人とは二度と。永久に会うこともない。
彼等が進むべきは、光が射し希望と未来に溢れる世界。
闇を背負うのは…自分一人だけで良い。
『うわぁ!?』
『なんだテメェら!』
突如、後方から声が上がる。アキラが振り返り、目にしたのは、迫り来ると其処には奴等の波を抑える、結紲と楓、真守にクリスの姿だった。
「光射す世界…?自分達の将来を潰して欲しくはない…?アキラ君!貴方の『言い分』は…良く解ったわ!!『守りたい』なんて…随分『水臭い台詞』を吐くのね!」
「だがな!アキラがそう望んだとしても、俺達は『納得』出来ない!出来るわけがない!
何時、俺達がアキラに『守ってくれ』と頼んだ!!!」
廊下を所狭しと埋め、詰め掛ける人津波。
四人で止め続けていたが、其の限界も既に差し迫っていた。
「何でだよ…!どうして…!俺の言ってる意味が解らないのか!?」
『分かってないのはアキラの方だよ!!!』
「!?」
「アキラは!ひとりぼっちでも大丈夫だって思ってるみたいだけど!!
一番『孤独』を恐れてるのは!『アキラ自身』じゃないの!!!」
「…俺が、孤独を…恐れている…?」
《アァ…、ソコノ金髪ノ言葉。全クモッテ『大当リ』ダナ…『表世界』ノ、オレヨ》
意識の深層の更に奥から、真っ白な自分が今度は幻影となって顕れる。腕を組み、自分の真横に立っている。
《オレハ、オマエノ人生ヲ共ニ感ジ、経験シテキタ。
ソシテ、オマエノ『最悪ノ時間』モ、ヨォォオク…シッテイル》
ぐるぐると回りながら、もう一人の自分が米神に触れ、半透明の薄淡い光を取り出して、目の前で丸めて膨らませつつ、見せた。
《…『思い出せ』。アノ地獄ノ中カラ『真に大切なもの』ヲシッタノダロウ?》
「…………ッ!!!」
《目ヲソムケルナ。記憶ヲ見、思イ出セ。オマエガ本当ハ『何が欲しいのか』ヲ》
電撃が脳を走り、シナプスが焼ける。細胞の一つ一つが悲鳴を上げた先、アキラは再生される記憶の一場面に行き着いた。
《『
《何『当たり前の事』を聞くんだ?アキラ。俺達は『家族』だ。大切な『繋がり』を守るのに、取り繕う『理由』なんざ、なぁんにも要らねぇのさ》
「…あ」
《…オマエガ『本当に』欲シカッタモノハ…ドンナ困難ヤ逆境ニ陥ッテモ、絶対ニ切レナイ『繋がり』…『絆』。
オマエハ絆ヲマモルタメ、ソノ絆ヲ捨テヨウトシタ。仲間ヲ己ノ復讐ニマキコマント、仲間ヲツキハナソウトシタ。
ダガ、ヤツラハ。ソレニ待ッタヲカケタ。…スコシ
朝霧が消えるように。もう一人の自分が世界に融けて、見えなくなった。
「………俺は、華裏鎮守府の提督だ。関わったら、どうなるかなんて…解ってるだろ?」
必死で押さえ続ける四人に、彼は震えた声で問う。
「…そうだな。ま、なるようになるさ」
「ちょっと!具体的に言わなきゃ、私、今後の事を考えられないじゃない!」
楓と結紲は自分のペースを崩さない。
そんな中、クリスがアキラに言った。
「アキラ。ボクはアキラに助けて貰った事、今も覚えてる。今度は…ボクが、アキラを助けるよ。だよね?真守」
「…あぁ。俺達は『友達』だからな。それに…
俺達は『助けたいと思ったから助けたんだ』。其れ以外に『理由は要らない』…そうだろう?」
闇の自分が四人を御人好しの大馬鹿野郎共と言った。
だが、一番の大馬鹿野郎は…大切な事を忘れて、自己満足に捕らわれていた『自分自身』だった事に。
『邪魔だ、退きやがれ!』
此所まで四人が必死になって押さえ続けていたが、奴等の圧力によって、とうとう崩壊。人の雪崩に飲み込まれる四人、そして眼前にまで迫った時。
『何をしているか、貴君等は!!!』
アキラの後ろから、大鐘楼を耳元で鳴らされたような大声量が廊下に響いたのだ。
カツカツと鳴らされる黒いヒール。
「富士殿だ…」
「『三帝』の御方が、何故こんな所に…」
先程の暴動は何処へやら、皆ざわざわとし始める。
「大本営では暴動行為は禁止されている。お前達はそんな事も忘れたか!仮にも貴君等は、此の日ノ國の民の安全を護る、誉れ高き軍人なのだぞ!
理解したのならば、即刻集印走の準備に入れ!!!」
『は、はいッ!』
アキラ達も、そして他の提督達も。其の放たれる威圧に飲まれ、いつの間にか敬礼していた。自然に終え、各々バラバラに散って行く。
「おっと…牧園 アキラと二階堂 真守。西村 クリスに和歌月 楓、魁宮 結紲。君達は少し残ってくれ」
呼び止められたアキラ達はその場に残り、落ち着いたところで富士が話を切り出す。
「初めましてだな、牧園 アキラ。私は富士という者だ。先程のスピーチ、しっかりと聞かせて貰った。随分と大胆な宣戦布告だったよ」
「え、えっと…初めまして。牧園 アキラです」
握手を求められ、アキラは其れに応じる。
その様子を見て、羨ましそうにしていたのがクリスと楓だった。
「あの…どうしたの?」
「え!?べ、別に!?アキラ君が『あの』富士殿と握手を交わせた事が羨ましいとか!そんなんじゃないんだからね!本当よ!?」
「ん?握手をして欲しいのか?なに、御安い御用だ」
即座に楓の手を取り、強く握る富士。楓の顔が熟れた林檎の様に真っ赤になって、蒸気機関車のように白い湯気を発している。
「あ、あの…初め、まして…『三帝』の御一人と出逢えて光栄に思います」
「そうか。それならば良かった」
力強い握手を交わす富士。アキラは真守に近寄って、状況の説明を願い出た。
「真守。あの富士って人はいったい誰なの?」
「ちょっ…アキラ、お前『三帝』を知らないのか!?三帝って言うのは、大本営が取り決めるニ之名の制度の中でも『最高の称号』として位置付けられて、選び抜かれた三人の艦娘達を指してる!
そして三帝には『特権』として、大本営の大将と『同等』の権力を行使する事が出来るし、将校会議にも顔を出せる!」
つまり富士さんは、とんでもない人だって事だよ!!と周りに聞こえる程に、ずいずいと迫ってくる。彼女の語り具合が半端じゃない。
「二階堂 真守君の言う通り、私には大本営の大将と同じ存在と思って貰って良い。
私が今現在此所に居るのは、あのスピーチで確実に暴動が起きると予測したからだ。案の定そうなっていたわけだがな。
それに私は、牧園 アキラ。君のような軍人は『嫌いではない』。
自らの意思を貫き、権力や報復を恐れない姿勢…まるで『あの人』を見ているかのようだ」
この瞬間、アキラは甲染と同じ匂いを感じたことから『自分の祖父の事』だと察した。仮に自分がジュウゴの孫だと答えたら、彼女は一体どんな反応をするのだろう…と、そんな『地雷的な思考』を真っ先に思い付いた自分は、一体何をしているんだと、心中で自らを律する。
彼女は三帝の一角。そして大将と同等の権力を持つ。
口を滑らせてそんな事を言って、万が一『自分を排斥しようとする側の人間』なら、即刻クビにさせられる。
故に、アキラが出した答えが「そうなのですか?」と問う事だった。
「あぁ。私もその人からは、多くの事を学ばせて貰った。今でも感謝している」
上手く躱わす事が出来た。このまま話を逸らせれば何とかなる…彼はそう思っていた。
「富士殿、その人の『名前』は?」
結紲の質問が地雷を踏み抜く瞬間までは。
「…『牧園 ジュウゴ』。海軍大本営の『総大将』を務めた、私や皆が認めた『偉大な軍人』だよ」
「え!?『お祖父ちゃん』が『総大将』!?
……………あ」
空気が一瞬で凍り付く。富士の放った言葉が、衝撃の事実であっただけに『禁句中の禁句』を言ってしまった。
「………………牧園 アキラ」
ビクッと全身が震えた。目の前、ワンインチとも言うべき眼前に、富士が居る。
近付かれた事で、今ハッキリと彼女の『力』が分かる…自分を『黒蟻』とするならば、彼女は『山』…其れもずっしりと高く、流転の時を過ぎようが変わることの無い『富士の山』。
あらゆるものを惹き付ける、圧力的なまでの『力』。其れがこうして今、自分の前に居る。
完全に人生が終わったと…そう思った。
「…そうか。君が…ジュウゴの『孫』だったのか」
ふわりと軟らかな羽が包むように。それでいて大樹の如き強さで、頭に手を置かれた。
「目付きや髪の色…そして雰囲気。確かに、彼の血を受け継いでいるのがよく分かる。不思議な物だな…。
『期待している』。…頑張れよ」
富士はそう言って、五人の横を通り過ぎて行った。
「アキラ君…貴方、凄い人に目を付けられたわね」
「そうなの?」
「あぁ。あの人が目を掛けられた人は、後々躍進するって言われている。実際、将校まで至った提督達も多い」
「今の大将の一人も、富士さんのおかげで今の自分があるって、一ヶ月前のテレビのインタビューで言ってた」
「本当に…お前は知らず知らずの内に、俺達の手の届かないような場所に行くようで、ハラハラするよ…」
話が大きくなりそうな予感だ…。しかし、自分がやらなければならないことは一つある。
「真守。クリス。楓。結紲。…さっきは御免なさい」
深く、深く。彼は只、頭を下げて言った。
「許されないのは分かっている。だけど、皆が許すなら…もう一度。俺と『友達』になってくれますか?」
謝罪の意を示し、改めて友達となる事。
自ら率先して行動し、非を認める事。
そうしなければ、愁いを遺す。
「…アキラ、俺達と『約束』してくれ。
もし、お前が本当にどうしようも無い状況や、困難に陥ったら、俺達に『必ず』相談してほしい」
「辛かったり、苦しかったりしたら、ボク達にちゃんと言って…?一人で抱え込んだりするの、アキラの悪い癖だから。…絶対に駄目だからね?」
「私もクリス君と同じ。アキラ君、強がってばっかりで、本音を漏らしてくれないんだもん。たまには素直に甘えて頂戴」
「木偶の坊と言ったことは許さんが、お前が誠意で謝罪したから許す。過去は過ぎた事だ。改めて宜しくな?」
《本当に…皆、大馬鹿野郎だよ。でも…。
あぁ…こんなにも温かくて、こんなにも心に深く響く…》
人の温もり…『
恩人に救われて、忘れかけたそれを、闇の自分が思い出させてくれた。
差し出された四つの掌を集めて、アキラは強く両手で握る。二度と失くさないように、忘れる事のないように、自らに戒めの杭を打つ。
「…って、もうこんな時間じゃない!?私達のスタートまで、そんなに猶予無いわ!!!」
「不味いな…早く行かないと出遅れるぞ!」
「よし、行こう!な、アキラ!!!」
「…あぁ!!!」
五人は正門へと走り出す。窓ガラスから射し込む光は、彼等の絆の再結を明るく、そして祝福するかのように、燦々と降り注いでいた…。
* * *
カツン…カツン…。
人の賑わいを無くし、閑散とした大本営の廊下を、富士のヒールが規則的に鳴らす。
「………………其処に居るのは分かっている。私に用が有るのだろう?」
「…ありゃりゃ。気配消してたつもりだったのに、流石は三帝の一角を担う御方…易々と見破りますか」
彼女の死角となっている廊下の角から、軍服姿の甲少尉こと甲染が現れる。
相変わらずヘラヘラとした笑い顔であり、何を考えているのか、当の本人以外は全く分からない。
「なんだ、貴様か。その笑い顔…気分を害する、止めておいた方が良い」
「御忠告に感謝を…しかしながら、私は元来このような性格。直せと言われても、簡単には直せません。
…ところで、どうでしたか?牧園 アキラ君は」
「悪くない。牧園 ジュウゴの孫というだけの事はある…それで?私に話し掛けたと言う事は、何かしらの『証拠』を手に入れたのだな?」
「えぇ、おかげさまで」と甲染は、富士に一枚の何重にも折られた紙を手渡す。富士は開き、其れを見て成る程といった表情で紙を畳んで言った。
「…全く、こうゆう『仕事』は本当に早いな。普段からこうであれば尚の事良いのだが」
「私は気紛れです。やりたいようにやって、生きたいように生きる。梃子だろうと変わりませんよ」
では、これにて。甲染は敬礼し、その場を後にする。
「仕事の速さ…業務遂行力…。性格や態度を加味しなければ、今頃大本営『大将』の地位で凄腕を奮い、よくやっていただろうに…本当に侮れん男だ、
いや…」
『
登場人物紹介
細マッチョながら身体能力が段違いに高く、特に持久走やマラソンといった足を使う競技は無類の強さを発揮し、他の追随を許さない。学生時代、マラソンの日本代表にも推薦されたこともあったが、提督として働きたいと断った経歴を持つ。
本人は身長の高さをかなり気にしており、木偶の坊等のNGワードがある。
理系や科学に精通し、学生時代に発表した自身の研究論文で大賞を取った事がある。150㎝程しかない背丈ながらMカップという絶大な凶器を持ち、理科室でよく屯って居たことから『理科室のマーメイド』という自身に不名誉な渾名を付けられた。
アキラとの出会いは、彼が理科と科学のテストを教えて欲しいと理科室にやって来たことから。
好きなものは理科室のビーカーで沸かしたコーヒー、尊敬する人物は三帝の富士。