※この作品はR-18です。

将来を有望視された青年が、冤罪で問題山積みの鎮守府に着任されました。 ~地獄の底からこんにちは~   作:ガリアムス

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*今回のお話は前後で二つに分けており、アキラ達か集印走の一つ目の謎解きに挑む話になります。

*筆者は問題を作るのが、かなり苦手な人間です。色々おかしい部分があったりするので、こうしてみたらどう?等のアドバイスをください。

*艦これイベントで投稿が遅れます


将来を有望視された青年が、冤罪で問題山積みの鎮守府に着任されました。~集印走開始と一つ目の謎《前編》~

マルキュウゴーロク、大本営・正面正門…。

 

「あ!アキーラ!」

 

正門付近に全力疾走で辿り着いたアキラ達。其処には既にカードを持っていた提督と其の秘書艦娘達で溢れていた。そんな中、一際目立つ格好のアイオワは、逸早くアキラを見付け、手を振り駆け寄ってきた。

 

「アキラ、大丈夫でしたか?」

 

「うん。色々在ったけど、何とかなったよ。それから皆に紹介するね。

 

此方に居るのは俺の大事な友達。和歌月 楓と魁宮 結紲、そして西村 クリスだよ」

 

アイオワとサラトガ、吹雪に自分の友を紹介する。

 

「アキラ君、この二人って…」

 

「…アメリカの、艦娘…だよね?」

 

「あぁ。サラトガさんとアイオワさんだ」

 

「Nice to meet you♪」

 

「よろしくお願いいたします、アキラのfriendsの皆さん。サラと気軽に呼んでくださいね」

 

アイオワとサラトガの名前を聞き、三人は顔を合わせた後、アキラにこう告げる。

 

「アキラ君。貴方この先、絶対有名になるわ」

 

「アイオワさんとサラトガさんが居るからか?」

 

「ああ。アキラは初めて『米国艦娘』を発見・保護した。その事実は『他国の首脳や上層部』…特に『米国海軍(アメリカ)』は先ず無視する事が無い。何かしらの方法で、お前と接触する可能性が高い」

 

「ボク達もアキラの友達だし、アキラから相談された時にアドバイス出来るようにしなくちゃ」

 

ますます話が膨らんで、いつか自分一人の手では終えなくなるだろう。その時は皆を頼れば良い。力になると言ってくれたのだ、存分に借りるとしよう。

 

「俺の艦娘達は…お、彼処だ。全員集合!」

 

結紲の声で人混みの中を縫い此方にやって来たのは、金剛と白露、そして秋月の三人。何れも改装済みである事と、目の座り具合から鎮守府でエースを担っている可能性が浮かぶ。

 

「よろしくデース!」

 

「イッチバーン!」

 

「よろしくお願いいたします!」

 

アキラは元気溌剌な挨拶をした三人を見て、やはり結紲の性格上、馬が会う艦娘を連れてきた事を思考。

 

そんな折「や、やめてよぉ…」と、クリスが可愛らしい涙声を漏らした。声の方へ目をやると、彼の帽子を取って髪の毛に青いリボンを結ぼうとしている鈴谷と、それを阻止せんとする霞を、片手で止める龍田の姿が在った。

 

「なんか…見てて安心するわ」

 

「えっと…何処が?クリスが女装嫌ってるの、知ってるよね楓?」

 

「うん。でもさ…クリス君が『女の子』だったら、アキラ君とくっついても、何ら変な事は無いじゃん?えへへ…」

 

「いや、其の理屈は可笑しい」

 

…出た。楓本人も重々理解(自称)しているという『悪癖』。可愛らしい男子を見ると、脳内で妄想した組み合わせを喋るというもの。

他者曰く、世の中では楓のような人種を『腐女子』と呼ぶらしい。

 

「いや~、提督が言うと納得いくわぁ…クリス提督とアキラ提督だっけ?…おー、いーねぇ…確かに絵になるぅ」

 

そんな楓の様子を見ながら、小さなスケッチブックへ鉛筆を走らせる少女が一人。栗茶色のポニーテールに、赤紫のジャンパースカート、白地のストッキングを纏い、にんまり顔で石階段に座っている。

 

「良いですねぇ!秋雲(あきぐも)先生!青葉、写真撮っちゃいますよ!」

 

「もうやだこの二人…早く何とかしないと」

 

「なーに言ってるんですか衣笠(きぬがさ)!貴女も協力するんですよ!」

 

「私を勝手に巻き込むなぁ!!!」

 

秋雲と青葉の意気投合っぷりに顔を青く、お腹を擦り、今にも戻しそうな表情でツッコミを入れる衣笠と呼ばれる艦娘。

服装に差異は有れど髪や服の色合いが良く似ている。

 

「楓の鎮守府(ところ)も賑やかな艦娘が集まってるな」

 

「というよりは『類は友を呼ぶ』って言うべきじゃない?」

 

「ちょっと真守君、それどうゆう意味よ?」

 

「自分で考えなさい」

 

「なによ~、教えなさ~い」とブー垂れてる楓に、真守は大きく「はぁ…」と溜息を付いた。

 

「アキラ司令の御友人は、とても個性的なんですね」

 

吹雪がそう言ってくる。

本当に彼等が友達で良かった。

 

「ところで皆はカードを持ってるのか?」

 

「当然!…て、言っても私は『銀のカード』だけどね」

 

「ボクも『銀』だよ。結紲は?」

 

「二人と同じ『銀』。因みにアキラと真守はどうだ?」

 

「どっちも『金』。…となると、俺と真守は確実に連中から狙われる事になるな」

 

五人は集印走の最中に起こりうるであろう、カード争奪戦を危惧していた。その時、正面正門に取り付けられた簡易スピーカーからアナウンスが流れる。

 

『これより、カード所持している提督方の、三十分先行スタートを開始致します。交通規制を遵守し、艦娘達と共に健闘する事を祈ります。

 

それでは…始め!!!』

 

ワアッ!と一斉に正門を潜り抜け、提督と艦娘達が走り出す。だが、其の一方で正門から出ず、そのまま留まる者達もいた。アキラ達は…後者の選択をした。其の理由が、集印走において最初の問となる文章を見たため。

 

内容はこのようなもの。

 

 

* * *

 

問壱 今より記される場所に、一つ目の朱印在り。

 

江戸の橋より 濁りを移せ

 

正しき答えは 対なる場所に

 

一途なる者 正しい構えを示すもの

 

望みの印 囲いの中に眠る

 

* * *

 

 

「…何これ」

 

「江戸の橋…江戸時代に橋なんて在った?」

 

「…日本橋だっけ?江戸時代に在るっていったら」

 

「本当に日本橋か?そんな簡単な問題を作るとは限らない。それに大本営の頭脳派の精鋭が作ったんだ、易々と解ける程、柔じゃないと思う」

 

皆、悩むのも無理はない。アキラ達は全員カード所持者の特権として、三十分の猶予が与えられている。然し、先行スタートを切れたとして、11:30にはカードの位置情報を知らせる放送が、東京都内全域に発信されるのだ。

 

そうなればスマフォ等の情報端末で目撃情報は拡散、確実に包囲網は完成。逃げ場は失われ、カードを奪い取らんとする連中が寄って集って朱印集め処の話では無くなる。故に彼等の多くは一刻も早く回答に辿り着き、先行のアドバンテージを生かさねばならない。が、功を焦り答えが解けぬ中で闇雲に向かうのも不味い…そんな思考の中にいた。

 

「江戸の橋…濁り…」

 

悩む提督や艦娘達の中で、クリスは何度も何度も。同じ言葉(ワード)を呟く。心の中で放ち、自身の言葉に変えて。気の遠くなる程に呟く。

 

「江戸の橋…濁り…。

えどのはし…にごり…移す…。

 

えどのはしのにごりを…移動…

 

『え と" の は し』から『濁り』を…『別の場所』に…『移動』させる…?」

 

思考のレールが…彼の中で、一直線に繋がった。

 

「…………………ねぇ、皆。ボク、分かった気がする」

 

「クリス?」

 

「えっとね…先ず、江戸の橋を『平仮名』に戻して書いてみるね?そしたら、こう…」

 

「え と" の は し…此処から『濁りを移せ』って…」

 

「うん。濁りを移せ…『濁点を移せ』って意味だと思う」

 

「えと"のはし…あっ」

 

「えどのはし…えとのはじ…『干支の端』か」

 

「…てことは『亥(いのしし)』だよな」

 

干支とは昔話に出てくる十二匹の獣を示す言葉であり、子(ね)・丑(うし)・寅(とら)・卯(う)・辰(たつ)・巳(み)・午(うま)・未(ひつじ)・申(さる)・酉(とり)・戌(いぬ)・亥(い)とそれぞれ一文字の感じで表す事が出来る。

 

「でもでも。亥だとしても、次の『対なる場所』って意味が分からないわ」

 

「いや、楓よ。俺はクリスのお陰で其の意味が分かった」

 

結紲は懐からメモ帳とボールペンを取り出し、干支の漢字を『上下に分けるように』して書いていった。

 

「昔、親父殿から聞いた事がある。干支には陰陽…光と影に獣達は属すると。子・寅・辰・午・申・戌は陽、丑・卯・巳・未・酉・亥は陰に分けられている。

 

問題文の『正しき答えは 対なる場所に』…これは、干支の端である『亥』と『対極の場所』にいる獣。即ち『戌』を現す」

 

「おぉ…って事は『犬』に関係ある場所に在るのか、朱印は」

 

答えは絞られた。だが、これで終わりではない。ここからなのである。五人はまだ『一部』しか解けていないのだ。

 

「よし、取り敢えず地下鉄まで行こう!後は電車に乗りながらでも考えられる!」

 

おう!とアキラ達は動き出し、彼等が解いたヒントに触発され、他の提督達もまた、駅を目指して一斉に移動を開始していた。

時刻はヒトマルマルハチ、東京都内を舞台に始められた第一次予選・集印走。

 

アキラ達はこの時点で、知るよしもなかった。それも『命を賭けた』壮絶な選択が、差し迫りつつある事に。

 

 

* * *

 

 

「…さて。現在、集印走は先行して電車に乗った者達と、謎を解いて電車に向かった者達の二つに分かれた。

 

この状況、諸君等はどのように見るかな?」

 

同時刻、大本営内某一室。薄暗い室内に十数名の人影が、モニターに投写される映像を椅子に腰掛けながら観ている。

 

「現時点では『まだ』差は生まれんでしょう。おそらく『問弐』から早解きが出来たか否かの、はっきりした差は現れる」

 

彼等は長きに渡り、大本営が催した最強鎮守府決定戦の予選・本選を観てきた。故に大間かな流れが、自ずと分かるのである。

 

「それより…だ。開会式が異様な荒れ様をみせたと聞いたが、やはり『牧園一族(きゃつら)』が何か言ったのか?」

 

一人が挙手と共に立ち、問いを投げる。そして一人が立ち問いへ答えた。

 

「えぇ。何でも『優勝する』と高らかに宣言したらしく。現在の提督達は、牧園 アキラを潰さんと躍起にやっています。一部はまた違う反応を示していますがな」

 

示された答えに室内はざわめき、各々違った反応を見せる。驚き、困惑、呆然…そんな中、ある者はこう話題を切り出す。

 

『牧園一族』の事を。

 

「…『牧園 ジュウゴ』もそうだった。自らの発言や行動で周囲を巻き込み、意識や思考、社会さえも大きく変えて行く。

意識の変革を起こし、表も裏も。国内外全体に影響を与え、人間を『正しく導こう』とする。

 

━━━━━困るのだ。『ああゆう輩』が大本営で、のさばり、大手を奮うのは」

 

全くだ…。其の通り…。そんな言葉が室内に響き、空気に溶けて行く。人間の持つ深く、於曾ましき『悪意』が、闇の中で蠢き、嗤っている。

 

「歴史の節目、転換点…そう呼ばれるようになった時期には、必ずと言って良いほど牧園一族(奴等)は現れ、多大な影響を与え続けてきた」

 

「…100年前。世界を跋扈し恐怖を振り撒く深海棲艦から日本を救うため、其の身を捧げた人体実験の果てに『最初の艦娘』となった『牧園 シュナ』。

 

艦娘の力を引き出す為、艦娘と共に生き、艦娘と共に死んだ『最初の提督』、『牧園 カザフミ』。

 

そして特に。『あの男の研究』のせいで、大本営(我等)の『最終目的』を頓挫させられかけた。間一髪『粛清』出来たが、彼方の勢力に気付かれず、事後処理をするのには苦労させられた」

 

「左様。だからこそ、あの一族は自由にさせてはならん。確実に、完璧に。そして完全に」

 

 

 

この世から。一人残さず。歴史諸とも。

 

『絶滅させなければならない』

 

ドス黒い、深淵すら生温い、そんな『悪意と殺意』が、其処には在った。

 

 

 

「…して、だ。既に『策』は出来ているか?」

 

「うむ。出来ている。例え逃れようとしても、完全に無駄な行為である事を、牧園 アキラ(あの青年)も悟るだろう」

 

そうして人影達は再びモニターへと視線を戻す。其処には、駅へと走り続ける牧園アキラ達一向の姿が撮されていた。

 

* * *

 

同時刻、東京都内・銀座四丁目交差点付近…

 

「はぁ~あ~あ…あーねんみぃ」

 

「甲染さん。欠伸してないで外見てください。職務中ですよ」

 

アキラとヴェールヌイを大本営に送り届けた甲染と善吉。彼等は現在、パトカーの中から車窓の外を行き交う大勢の人々を注視していた。

 

「わーとるわボケェ。俺を誰だと思ってやがる」

 

「分かってないから言ったんですけど。…それよりも、先程の『通信』を甲染さんはどう思いますか」

 

善吉が言う通信は、彼等が大本営から警視庁へと戻るため、警察官以外には普通の乗用車に見える、特殊なカモフラージュ機能を発動中に在ったパトカーに乗ろうとした時に流れてきた特殊無線からだった。

 

《警察官各員に通達。数週間前から不特定多数の人間に送信されている『犯行予告』が先程、SNS上に発信された。

 

今回の場所は銀座四丁目の交差点、付近の警察官は直ちに現場へ直行、市民の安全確認及び周辺パトロールを実施するように。以上》

 

「…善吉よぉ~。数週間、つぅか正確にやぁ『二十三日前』から送信されてる『殺人予告』やら『爆破予告』やらはよぉ~。

 

なぁんで『交差点』に照準を合わせてるんだろうなぁ~?」

 

真っ黒い笑みを浮かべ、見下すような視線で呟いた甲染は、まるで悪役のような言い方であった。

 

「遊んでないでしっかりやってください。…理由としては交差点という明確な場所を指定し、未然に防いでみろと、我々警察に対する挑戦を仕掛けているように思います」

 

「…ん。そうだな、其れで合ってる。ま、其れも『ちょっち違う』がな」

 

「…どうゆう意味ですか」

 

欠伸を再びした後、甲染はパトカーのバックミラーを調節し、窓を開けつつ、銀座の繁華街に立つ建物の隙間から覗く青空を見ながら言う。

 

「こっから話すのは俺の勘になるんだが…予告をSNSやらにバラ撒く『野郎共』は、何か『違う目的』の為にやってるのかもしんねぇ。

 

例えば…『バスや電車のジャック』をする為に警察(俺等)の視線や思考を『誘導』してんのかもな」

 

善吉は甲染を見る。表情こそヘラヘラと笑っており、相変わらずムカつく其れをしている。

だが、其の目は全く『笑っていない』のである。彼はハッキリと、甲染が『警察官として』この予告を無視出来ないと…そう理解したのだ。

 

「…どうします、私達はこれから」

 

「んじゃ、俺達は…」

 

甲染が次の言葉を紡ごうとした。まさにその時。

 

《警察官各員に緊急伝達!》

 

パトカーに一本の無線が飛び込む。

其の内容を聞いた二人、そして同じく警戒任務に就いていた警察官達は衝撃を受けることとなった。

 

* * *

 

同時刻、華裏鎮守府・医務室…

 

「…うん。各部異常無し。麻痺も見当たらず。初月さん、瑞鶴さん、長門さん。明日から通常通り演習及び艦隊での任務復帰を許可します」

 

華裏鎮守府に攻めてきた深海棲艦との戦いで大きな傷を負った三人は、長いリハビリ期間を経て、漸く出撃許可が降りた。

 

「よし。これで、今まで治療とリハビリで遅れた分を取り返せるぞ」

 

「姉さん達に良い報告が出来る。ありがとう、明石さん。夕張さん」

 

「艦載機の子達とまたコミュニケーション取らなくちゃ。あ、後は翔鶴姉と龍驤先生にも報告して…」

 

「はいはい、頑張る気張るは良いですけれど、また無茶して大怪我しないでくださいよ?」

 

治す身にもなってくれと夕張は彼女達にそう言った。

そんな折、長門が二人にこんな質問を投げ掛ける。

 

「夕張、明石。…それより、アキラ司令と共に私達が戦った『新型艤装の深海棲艦』について、新しい成果は得られたのか?」

 

新型艤装の深海棲艦…以前、アキラが艦隊指揮を取り、華裏鎮守府に攻めてきた深海棲艦を退ける作戦時に戦った敵艦の存在。

 

それが『噴式型の艦載機』と『超長射程の砲撃艤装』を装備した深海棲艦が存在(い)た事に加え、其の艤装によって傷を負った艦娘達の『修復が遅れた』上に、本来なら一個で足りる筈の高速修復材(バケツ)が、傷を完治させる為に『大量』に使用しなければならなかった事である。

 

「新型艤装については、潜水艦娘達に海底を調査して貰ったのですが…。破片一つさえ無く、進展は得られていません」

 

「…そうか」

 

「ただ…、何も無かった訳では無いんです」と夕張はそう言いつつ、机の下から鋼鉄製のアタッシュケースを一つ取り出し、専用の鍵を使って慎重に開いて行く。

 

中には防弾ガラスで密封された『真っ黒な鉄の杭』が入っていた。あらゆる光を飲み込んで、絶対に逃がさないような闇のような黒に長門達は息を飲み、物体について問う。

 

「…何だコレは?」

 

「ウッド島再調査時に、朝潮ちゃん達が海底に沈んでいた艦娘達の残骸を発見し、私達でサルベージしました。コレはその時の艦娘達の体に突き刺さっていた物の一本です」

 

夕張は軍手を付け、ガラス筒のロックを解除する。納められた杭は取り出され、皆の眼下に顕となった。

 

「アキラ司令が艦娘達からコレを引っこ抜いた後、私達は研究をしようと『素手』で触ってみたんです。そしたら全身の体温を『一瞬』で吸い尽くされ、おまけに触れた掌からは『感覚』が奪われて、全く動かなくなりました…。

 

ほんの一瞬だったから良かったものの、あれはもう二度とやりたくないですね」

 

「で、この杭の成分を調べたらとんでもない事実が判明してしまって…」

 

「とんでもない事実?」

 

「えぇ。この黒い杭…其の成分が…」

 

 

 

 

 

 

 

 

『深海因子』を超高密度と超濃密度で圧縮して出来た棒を『何十本』と束ねて造られた物だったんです。

 

 

 

 

 

 

 

長門、初月、瑞鶴の三人は言葉を失ってしまう。

バラバラに身体を引き裂かれ、死に体となった所にこんな物を突き刺された艦娘達。

 

深海棲艦になれた方が、まだ救いが有っただろう。それすら出来ず、半死半生のまま海底の底に転がされていたのだ。耐え難い事実を知り、長門は唇から血を流す程の強く深い怒りを噛み締める。

 

「私達は引き続き、この杭の調査・研究を続けていきます。また何か有ったら直ぐに連絡を要れます」

 

「…頼む」

 

長門達は部屋を後にする。そして同時に決意した。

自分はウッド島の惨劇を起こした敵…『血染めのレ級』を、必ずや打ち倒さねばならないと。あのような悲劇を二度と繰り返させない為にも、今以上に強くならねばならないと。

 

ヴゥウウウウウウウウウウウウウウウウ!!

ヴゥウウウウウウウウウウウウウウウウ!!

 

刹那。鎮守府に『緊急警報』を告げるアラームが鳴り、スピーカーから大淀の緊迫した大声が響く。

 

『鎮守府各員に緊急入電!現在、華裏鎮守府から東8900m辺りと、北西13050mの沖合で深海棲艦の艦隊らしき存在が此方に向けて進行しているのを、周回中の偵察機が確認しました!

 

また、其の艦隊に追われている艦影も『三つ』確認!敵の数はまだ分かっていませんが、見過ごす事は出来ません!此方も早急に迎撃艦隊を二部隊結成し、敵艦隊を迎え撃ちます!』

 

「…瑞鶴、初月」

 

「行くんですよね?空は任せてください、長門さん」

 

「僕も行く。今まで姉さん達が代わりに頑張ってくれたんだ、必ず戦果を挙げてみせる」

 

「…よし、やるぞッ!」

 

牧園 アキラが不在の最中、鎮守府は迎撃戦に向けて慌ただしく稼働し始める。

彼女達は知っている。艦種の垣根を越え、鎮守府が一丸とならなければ、華裏鎮守府(自分達の居場所)は深海棲艦に滅ぼされてしまうことを。

 

故に必ず、奴等を撃退し守り抜くのだと。

 

* * *

 

華裏鎮守府から北西13050mの沖合…

 

「ハアッ…!ハアッ…!ハアッ…!」

 

艤装の至る所から黒煙が上がり、悲鳴にも似た金切り音を発するタービンを最大船速(フルスロットル)で回転させ、全速力で逃げる…否、逃げ続けている艦娘が一人居た。

 

綺麗な薄い金髪は硝煙に煤け、一部は焼け焦げ。

澄んだ蒼の瞳には大粒の涙が浮かび、顔は恐怖に震えている。

彼女の着用している、黒のリボンを付けた白の海軍帽とミニスカート、青い半袖のセーラ服は既にボロボロで、あられもない姿を晒していた。

 

砲撃音が鳴り響き、彼女の周りに幾重にも大きな水柱が立ち上がる。

 

「ひぃっ…!」

 

一発一発放たれる度に、逃げ場を塞がれる。

魚雷が船底を掠め。機銃が皮膚を衣服を切り裂く度に。彼女は自分の『轟沈(死)』を、否応なしに。ハッキリと意識させられる。

 

《もう…予備の燃料も弾薬も…!深海棲艦にやられて、殆ど残ってない…!

 

救援信号出しても、海の真ん中じゃ誰も分からない…!》

 

状況の過酷さを知る度に少女の顔は、みるみる絶望へと染まってゆく。

自分自身の浅はかさを呪えば呪うほど、蒼の瞳から涙が零れ落ち、視界が簿やけて霞んで見えた。

 

《こんなことなら…!『家出』なんか、しなきゃ良かったんだ…!!》

 

少女は海を駆ける。命の灯が残り幾ばくしかなくとも。

 

「アノ少女ハ、絶望サセテカラ…シズメロト、『命令』サレテイル。イイナ…オマエタチ、絶対ニ…アテルナヨ?」

 

『イーッ!』と、金色のオーラを纏う駆逐イ級flagship達が一斉に肯定を示すように吠える。イ級やホ級、ヲ級等の艦隊の中心に、その深海棲艦はいた。

 

下半身は歪で醜悪な獣の顎(アギト)と二本の腕があり、腕は黒済み、指先までも異様な変形を遂げ。血の朱の瞳と漆黒のロングストレートの髪、黒く大きな蝶々のリボンが風に揺れている。

 

彼女の名は『水母棲姫(すいぼせいき)』と呼ばれる、姫級(ひめクラス)の深海棲艦の一体。この深海棲艦、最大の特徴にして最も厄介な特性を持っており、それが『航空戦・砲撃戦・雷撃戦・夜戦の全艦隊攻撃フェーズに置いて行動出来る』というもの。

 

随伴の深海棲艦次第だが、攻撃範囲は広く、彼女の攻撃は何かしら刺さる上に、対空能力も低くない。万が一にでも制空権を失えば、其の多彩な攻撃をまともに受けることになる。

 

事実、逃走中の少女を多種多様な攻撃で、ゆっくりと疲弊させ、追い詰め、絶望を与えているのが彼女なのだ。

 

と、此所で博識のある読者は『何故、水母棲姫は他の深海棲艦達に攻撃をさせないのか?追い詰めるなら早い段階でやれば良いのに』と、そんな考えを持つ人もいるだろう。

 

一説によると『艦娘が無念や後悔、自責、絶望といった負の感情に侵食・支配された状態になると、深海因子が混入・増殖しやすくなる傾向有り。万が一、その状態で解体・轟沈した際に深海因子が僅かでも体内に入れば、艦娘はたちまち深海棲艦へと成り果てる』とされている。また、深海棲艦の強さは『より深い後悔や自責を味わい、真に絶望した中で沈んだ艦娘』であれば、規格外の力を経て深海棲艦へと変わるのだと。

 

そして何よりも、この水母棲姫は『艦娘へ絶望を与える事』が兎に角上手い。他の深海棲艦も、彼女のやり方を真似する者も居る程に。

 

「あぁっ…!!」

 

少女の履いていた靴の紐が、音を立ててブチリと切れた。体勢が崩れて、彼女は水面に身体を叩き付けられる。

燃料と弾薬は無く、此処まで酷使してきたタービンは多過熱(オーバーヒート)を起こして使い物にならない。

 

目の前には何もない水平線が続く海。

後方は夥しい数の深海棲艦の艦隊。

 

《mother(ママ)…!darling(ダーリン)…!

 

…sorry(ごめんなさい)……!!!

 

…sorry(ごめんなさい)………!!!!》

 

自分の『轟沈(死)』を悟った時、少女は立ち上がる力と術を無くし、水面に伏したまま動かなくなった。大粒の涙を流し、絶望と後悔を味わいながら、心の中で走馬灯の様に謝罪を述べ続ける。

 

「ヨウヤク、ニゲルノヲ…ヤメタ、カ。随分ト…ナガクニゲタ…ガ、ソノブン…『絶望』モ、蓄積シテイル。

 

サァ…オマエタチ。マチニマッタ『深堕(しんらく)』ノ…時間、ダ。

 

オモイキリ…ヤレ」

 

砲塔が。魚雷が。艦載機が。機銃が。

倒れ伏した少女へ向けられる。

 

そして。命を絶断する鐘楼が、死神の手で鳴らされるように。

 

深海棲艦の砲塔が。撃音と共に火を噴いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

━━━━━効かんぞ。そんな攻撃は。

 

 

 

幾重の爆炎と黒煙の帳が引き裂かれる。

 

倒れた少女の絶望と涙で霞んだ瞳は、自分の守り、目前に立つ大きな。本当に大きな背中が写っていた。

 

長門だった。ゲートを利用し、誰よりも早く、此の場所へと到着していたのである。

 

「ナンダ…?オマエタチ、ハ?」

 

「名乗る義理は無い。…今、私は自分でも抑えきれない『怒り』がある。深海棲艦共、悪いが私の鬱憤晴らしの為に沈んで貰うぞ」

 

長門の瞳孔の中心…其処からは『漆黒の闇』を纏った黒い炎が、小さく。しかしチリチリと燃え盛っていたのだった。

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