※この作品はR-18です。

将来を有望視された青年が、冤罪で問題山積みの鎮守府に着任されました。 ~地獄の底からこんにちは~   作:ガリアムス

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*今回のお話は、二つ目の朱印の所在を示す謎へアキラと仲間達が挑みます。

*腕相撲シーンがあります。


将来を有望視された青年が、冤罪で問題山積みの鎮守府に着任されました。~二つ目の朱印と剛腕激突・其之壱~

『最強鎮守府決定戦・第一次選考へ参加中の提督方へお知らせ致します』

 

時刻ヒトヒトサンマル。

 

其の放送は突如として、東京都内全域に響き渡る。それは集印走において一次選考を通過するための条件である、カード所持者を報せる為の放送であった。

 

『尚、今回の放送はカードが最も密集している地域に居る提督の名を報せるものである。

 

銀のカード所持者は『七名』。

 

和歌月(わかつき) 楓(かえで)

魁宮(さきみや) 結絆(ゆづな)

西村(にしむら) クリス

尾瀬(おぜ) 国弘(くにひろ)

坂井(さかい) 健太郎(けんたろう)

柳月(りゅうげつ) ソナタ

立花(たちばな) 亜衣(あい)

 

 

金のカード所持者は『二名』。

 

二階堂(にかいどう) 真守(まもる)

牧園(まきぞの) アキラ

 

以上九名の提督は現在、東京都・中野区犬屋敷跡の五匹の犬の銅像付近に居る。次回放送はヒトフタサンマルに御知らせ致します』

 

放送が終わる。犬屋敷跡に居るアキラ達は各々、別の感情を心に抱く。

 

「…さてと。此処にはもう用は無いって事だよな?なら、俺達は一足先に離脱させて貰おうか」

 

先んじて声を上げたのは、茶黒の髪で右目に付いた大きな傷痕を眼帯で覆う、真守と同じ背丈の男性。

彼の名は尾瀬 国弘、三十歳。提督歴三年の新人提督(ルーキー)だが、艦娘の育成においては一人一人の弱点を見抜き、個々の個性を伸ばす、類い稀なる努力家として三帝の富士に期待された事が知られている。

 

「あぁ。牧園 アキラ、だっけか」

 

背を向けたまま、国弘はアキラに対して静かに。

だが、明確な敵意を向けて言った。

 

「お前は俺達が本選で叩き潰す。首を洗って待ってな」

 

空気がビリビリと電気を流されたかのように震える。

他三名の提督達もアキラを見、一人は国弘と同じく駅へと歩き始め、一人は艦娘と共に次なる朱印を探すための作戦会議をする。

 

そして、そんな中でも一人。紫色の艶やかな髪を揺らし、花飾りのネックレスを付けた高身長で細目の女性提督が、アキラへと近付いてくる。

 

「ごめんなさいね。彼、悪気があって言った訳じゃ無いのだけど…」

 

「自分で言った事なので、そんな反応があるのも当然だと思います。ところで貴女は?」

 

「私?私は立花 亜衣。日本海軍士官育成高等学校の卒業生の一人と言った方が早いかしら。で、彼処で艦娘と作戦会議中の人が坂井 健太郎。

 

此方が私の秘書艦娘の睦月。付き添いの初風と深雪ね。

 

以後御見知り置きを、牧園 アキラ君」

 

つまり、国弘と共に駅へ向かったのは柳月 ソナタと言うことになる。彼女の艦娘達が静かに御辞儀をし、吹雪達も返す。そして亜衣が差し伸べた手をアキラは握り、握手を交わす。

 

と、楓は亜衣がアキラの名を言った事に気付き、彼女へと問い掛ける。

 

「アキラの事、知ってるんですか?」

 

「勿論よ。『数十年の歴史ある学校を皆勤で卒業した最初の学生』…月刊提督バイアスにも掲載された期待の新人提督だって。

正直、アキラ君が華裏鎮守府に送られる理由が、私には全然分からない。仮に君が言った事が本当なら『誰が何の為に、貴方へ冤罪を被せたのか?』…と言う話になるのね」

 

彼女の言うことは最もであり、犯人は理由もなく自分を華裏鎮守府に送るとは考えられない。

仮に私念で冤罪を掛けたのだとしたら、犯人を許すことは出来ない。自分や艦娘達が受けた苦しみや悲しみ、怒りを何千倍にして返さなければ気が済まないのだ。

 

そんな事を心中で思考していた所、亜衣はアキラ達に『提案』を持ち掛けてきた。

 

「まぁ…今はそれを考えても仕方無いわ。私と健ちゃんはこれから、二つ目の朱印の在りかを示す謎を解くつもりだけど…もし良ければ、此の第一次選考。

 

私達と『協力』しない?」

 

その言葉にアキラ達と健太郎は目を見開く。アキラと共に行動する危険(リスク)を、彼女は知らない訳ではない。其れを加味しても尚、こうして協力を持ち掛けてきた。

 

一体彼女にはどんな狙いが有るのだろうか?

どうしたもんか…アキラが思考していた時、内側からもう一人の自分の囁き声が響く。

 

意識を心中へ移し、彼は感覚の海へ潜る。

 

* * *

 

アキラの心世界。陰陽を象る世界の半分に、真っ白な━いや。深海因子の自分が胡座を掻き、座っていた。

 

『ヨオ。モウ一人ノ…オレ』

 

「お前から呼び出すなんて…昔とは大違いの対応だな。━━で、何か有ったのか?」

 

『オレガ、オマエヲ此方ノ世界ニヨンダノニハ、理由(ワケ)ガアル。ナニセ━━━此処ジャナキャ、ハナセナイラシイ』

 

彼が顎で合図を送る。同時に白い世界から顕れたのは…

 

「え…『吹雪』?」

 

そう、吹雪だった。真っ白い肌と髪、そして真紅の瞳が煌めく以外、身長や顔立ちが全く同じといって良い程に、彼女は似ていたのだ。

 

『アウノハ、ハジメテニ…ナルナ。牧園 アキラ』

 

声は吹雪と何ら変わらない。だが、一つ一つの言葉が冷気を帯び、胸に刺さる…そんな感覚があった。

 

「司令官、其処に居るのは『私』であっても『私』ではありませんよ」

 

自分の後ろから声が一つ。振り向くと、いつも華裏鎮守府で見ている、艦娘の吹雪が居た。二人居ることで、アキラは頭に?マークを浮かべる。

 

「吹雪が、二人…?え、ええぇ…?」

 

「以前、お話したとは思いますが、私は『深海の呪い』を受けた艦娘です。そして此の空間は『深海の呪いを受け入れ、自分の一部として同化した者だけ』が見ることの出来る、不思議な場所。

 

此処は、相当な『侵度』を持った者の『心理の先読み』でもない限り読めない上に、外との時の流れが大きく違うんです。時間で分かりやすく言うと、外の時間が一秒経つ間に、此方の世界は百年経っている程度の差があります。

 

…まさか、司令官も私と同じ世界が見える事に驚きました」

 

吹雪の表情が少しだけ。ほんの一種だが、柔らかく清らかな雰囲気を纏ったのをアキラは感じ取った。

 

『ウフフ。モウ一人ノ私ガ、ソンナ風ニワラウノナンテ。モウ…随分ト、ヒサシイ。牧園 アキラ…礼ヲ言ワナイト、イケナイ…ナ。

 

モウ一人ノ、私ヲ…良クシテクレタ事。感謝スル』

 

闇の自分…ならぬ闇の吹雪から礼に、アキラは言葉をどう返せば良いのか分からない。

 

『阿保ォ。オマエノイツモヤッテル、素直ナ言葉ヲカエセバイインダヨ。ホレ』

 

「あ、あぁ。…吹雪(二人)には、いつも助けて貰っている。何も知らない自分を本当に良くしてくれて、ありがとうございます。これからも、どうか宜しくお願い致します」

 

闇の自分に背を押され、アキラの表裏ない言葉で礼を述べた。其れを聞いた吹雪達の頬が少し赤らんだ事に、闇のアキラは気付けど、表のアキラは気付かない。

 

『モウ一人ノオレヨ、オマエノ『ソウユウ』トコロダゾ』

 

「いや何が?」

 

『ナンデモネェヨ…。マァイイ、闇吹雪。本題ハナンダ?マサカ、コレヲ話スタメデハアルマイ?』

 

『…アァ。亜衣トイウ奴ノ事デダ』

 

先程のほんわか雰囲気(ムード)は一蹴され、話は静かに始まる。

 

『アノ女。嘘ツキデナイガ、私達ヲ利用スルツモリデイルラシイ』

 

まぁそんなもんだろうな…と、割り切ってる自分も、随分精神面で成長したと思っている。

 

『デ、問題ナノハ奴ノサソイニ、俺達ガノルカソルカ…ダ。ドウスル、モウ一人ノオレヨ。

 

…イヤ、トウニ答エハ出テイルカ』

 

アキラは目を閉じ、思考を重ねた。仲間達を危険に晒す可能性もある。それでも自分の力になりたいと、助けになりたいと言ってくれた皆に、素直に頼る事にした。

 

その選択が出来るようにしてくれたのも、他ならぬ闇の自分。あの時、全てを投げ捨てようとした自分の目を覚ましてくれたからこそ、こうして自分が在るのだから。

 

「彼女に利用されるなら、逆に彼女を利用してやる。これが俺の答えだ」

 

『フッ…オマエハ、ソウ答エルダロウシナ』

 

『イイ答エ、ダネ。モウ一人ノ私』

 

「うん。司令官は、こうゆう人ですから」

 

答えは決まった。覚悟も決めた。

アキラ達は自らの意識を、心中世界から現実世界へと引き戻す。

 

* * *

 

「…亜衣さん。俺達で良ければ協力します」

 

目を開いたアキラが彼女の目を見て、答えを提示する。

 

「うん。ありがとうアキラ君。健ちゃーん!アキラ君達も協力することになったから宜しくねー!」

 

健太郎は問題文を片手に、もう片方の手でサムズアップを行い、返事の代わりとして応答した。

 

「さて、やりましょうか!」

 

七人の提督と二十一名の艦娘達は、二つ目の朱印の所在を示す問題へと挑む。内容はこうなっている。

 

* * *

 

問弐 次なる場所に朱印は眠る。

 

十 十 十

木|乙

 

一 一

 

白は紅に染まる。

 

六本木/四谷八王子

 

答えは、割りて現れる。

 

* * *

 

「何…えっ、何これ?」

 

全員が亜衣と同じ言葉に至る。

 

分からないのだ、この問題文の意味が。

 

「えっと…取り敢えず。俺達が解かないといけないのは、東京都内の地名が何を意味しているのか」

 

「そして『白は赤に染まる』と分けられた漢字達の意味…だね」

 

一先ず指針こそ出来たが、其れが解決に繋がるのかと言われれば、そうはならない。

現実とは常に、残酷で。無情で。無慈悲である。事実、七人は最初の指針以降喋れていない。

 

「……………夢ならば どれほど 良かったでしょう」

 

沈黙から五分が過ぎようとしていた時、誰かが唐突に口ずさんだのを、クリスは聞いた。

 

「最後に 貴方が 教えてくれた」

 

か細い、まるで少しの風でもポッキリと折れて終いそうな、小さな歌声。

 

「あの日の 苦しみさえ あの日の 悲しみさえ

 

その全てを 愛してくれた 貴方と 共に

 

胸に残り ほどけない 苦いレモンの匂い」

 

クリスは此の歌に聞き覚えがある。

失礼の想いを歌った有名な『lemon』と呼ばれる歌━━これは和歌月 楓が気持ちを切り替える時、よく歌う歌である。

 

「雨が降りやむまでは 帰れない━━━━……ふぅ」

 

歌唱を終えて、楓は穏やかな笑みを浮かべていた。

 

「…良い歌声。楓ちゃん、高い歌のセンスを持ってるのね」

 

「えへへ……。でも、私━━これしか歌える歌がないの」

 

褒められた事を嬉し気に、どこか恥ずかしそうに楓は言うが、「そんなことはないと思う」と一声。声の主は健太郎だった。

 

「綺麗な歌だった。他の歌も歌詞を覚えれば、君は上手くなる…そんな確信が、俺にはある」

 

真面目に答えたのだろう、真剣な顔をしている健太郎。

楓は顔を真っ赤に、蒸気を頭から噴き出し、「あうぅ…」と膨らんだ風船が空気を抜かれ、萎んでいくように縮こまった。

 

「健ちゃん…貴方の『そうゆう』ところよ?」

 

「……………?何がだ?」

 

何でもないッとそっぽを向いた亜衣に、健太郎は分からず頭を傾げる。アキラは此の光景に既視感(デジャブ)を覚えていた。

 

「だが、歌を歌うのは良いアイデアかもしれない。話し合いの場では、このような淀んだ空気程厄介になる。

最も駄目なことは、行き詰まる事。其れを避けるには何かしらの方法で空気を変え、滞りを無くす。これに限るのだ」

 

結絆がそう述べ、こくりと頭を上下させた。

 

「あ、じゃあさ。第一次選考が無事に終わったら、祝賀会も踏まえて、皆でカラオケに行きましょうよ♪きっと楽しいわ」

 

亜衣の提案に、良いねと賛同したクリスや真守。油断してはいけないのだが、空気が変わると気持ちも良い方へ向くのだろう━━自然と顔色が良くなりつつある。

 

 

 

『見つけたぞぉ!!マキゾノアキラァ!!!!!』

 

 

 

 

…そんな風に思っていた時期がアキラにも在った。複数人の提督が此方へ歩いてくる。内一人は血眼であり、何故こうも良いタイミングで横槍が入るのだろう。

 

「牧園 アキラ、お前が持つ『金のカード』。頂くぞ」

 

「牧園ォ!テメェのカードを奪うついでに、資源も徴収してやらぁ!」

 

「…銀のカード、欲しい…。五人…何枚か取られても…大丈夫…」

 

「あら、可愛い子がいるじゃなぁい?ウフ♥️」

 

やって来たのは青縁の眼鏡を掛ける160cm程度の男子、黒髭を顎まで生やしたマッチョの四十代。眠気眼と睡魔でこっくりを繰り返す女の子、そしてゴリオカマッチョである。

 

誰も彼も個性が強すぎる為、耐性を持たない楓と健太郎、そしてクリスは目の前の現実から、思わず目を背けてしまう。ズカズカと歩き、四人の中で唯一明確なアキラへの敵意を剥き出しにした髭男が、近付いて向き合ってきた。

 

「アンタは?」

 

「俺は駕藤(がとう) 久光(ひさみつ)!

 

牧園 アキラ!俺が勝てば、テメェの持つ金のカードと資源を全て頂く!拒否権は無い!」

 

強引な取引を持ち掛けてくる、久光と名乗った髭マッチョ…本来の鎮守府の場合、余程の理由が無ければ、従わなくても良い。

 

だが、自分が在籍しているのは、大本営が定めた権力ヒエラルキーの最底辺たる華裏鎮守府。一般的な鎮守府が持つ拒否権も無ければ、反論も許されない。

 

「…受けます。けれど、もし俺が勝ったなら『今後一切』、華裏鎮守府に対して資源徴収を行わないと、此処で誓ってください」

 

受ける以上、相応のリスクを背負うのは相手方も同じで無ければならない。其れが何かを賭ける事であり、常識なのだ。

 

「…ハッ!誰がそんな約束を守る?

 

お前は我々に対して願い出る等、言語道断!あってはならない!其れが華裏鎮守府に在籍(い)ると言う事だ!」

 

典型的な華裏鎮守府提督排斥派《自分流命名》の考え方、本当に嫌になる。相手は何の危険(リスク)も無く、此方は其の危険(リスク)を背負う。

 

まるで不平等な盟約を結んだ気分だ。

 

『いいえ、駕藤提督。貴方が間違っています』

 

刹那、駕藤とアキラの間へ一つの声と共に何者かが割り込んできた。其の者は紅白のシャツと黒のズボンを身に付ける四十代程の男性。

 

「誰だ貴『口を謹んでください』

 

たった一言。放たれた威圧に、其の場に居る全ての提督と艦娘が萎縮する。

 

『━━━申し遅れました。私、大本営より腕相撲の審判員を務めさせて頂く者。我々が居る限り、公正公平の審判を保証致します』

 

駕藤を睨み付けた後、アキラの方へと向き直り一礼した男。そしてズボンのポケットから正四方形のキューブを取り出し、其れを徐に地面へと投げる。

 

地面に当たったと同時にキューブは音を立てて変形し、公式戦で使われる腕相撲のステージが完成したのだ。

 

『牧園提督。貴方には『もう一つ』勝利報酬を望む事が出来ます。駕藤提督は貴方に勝利した場合の報酬として、『鎮守府の資源』と『金のカード』を要求しました。

 

対して貴方は『資源徴収の永久無効』のみ。勝負の場において、条件は『平等』、かつ『対等』で無ければなりません』

 

「おい、審判とか言ったな!華裏鎮守府は『非公認鎮守府』だと知っているだろう!そんな『当たり前』は奴等には『いらない』のだ!」

 

言動が気に入らないのか、駕藤は審判に食い付き物申すが、無視されている。最早、審判にとって駕藤という存在は既に眼中に無く、アキラの答えを聞き届け、腕相撲の開始・決着の宣言(コール)を行うのみといった具合だ。

 

「審判さん。俺の勝利報酬は『駕藤提督が私達、華裏鎮守府に対する資源徴収の永久無効』、其れだけで良いです」

 

アキラの発言に、他の提督達も表情に驚きの色を隠せない。それもそうだ。アキラは後一つ、報酬として何かを望める。

 

その気になれば、資源徴収を肩代わりさせるといった条件を提示することも容易な筈。にも関わらず、たった一つの条件のみで良いとはどうゆう見解なのか?

 

『理由をお聞かせ頂けますか?』

 

「ゆくゆくの事を考え、其れだけで十分だと判断しました」

 

アキラの答えに審判は小さく頷き、こう言った。

 

『…分かりました。それでは、これより腕相撲を始めます。両鎮守府提督は代表者一名を選抜してください』

 

「ふん!俺が直々に潰してやるぞ、牧園 アキラ!」

 

十秒経たぬ内に、駕藤が名乗りを挙げ、ステージに肘を乗せ構える。対するアキラ…彼はある名前を口にし、皆を更に驚かせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………『アイオワさん』。行けますか?」

 

驚愕、動揺、ざわめき。そんな空気が満たし始める。

 

「えっ、ミーが…Armw restlingを?」

 

「うん。お願いしても良い?」

 

「ちょっと待て!?提督である貴様がやるのだろう!?艦娘がやるのはルール違反だ!」

 

『いいえ、駕藤提督。確かに小笠中将は、腕相撲によるカードの争奪とは言いました。しかし『誰が腕相撲をするか』迄は公言していません。

 

よって、牧園提督が艦娘であるアイオワを選抜したところで、其のルールに違反してはおりません』

 

三度、駕藤が物申すが審判がバッサリと切り捨てる。

苦虫でも齧った顔をし、舌打ちを漏らす駕藤へ向き合うように、アイオワは右腕を差し出し、準備を整えた。

 

「よろしくゥ♪」

 

「…まぁ良い。勝てば良いのだから、な」

 

駕藤もアイオワの右手を握り、準備を終える。

 

『それでは両者共、全力を尽くすように。━━━━━始め』

 

審判が掌を静かに下に振り下ろす。

 

まさに其の瞬間だった。

 

駕藤の服が弾け飛んで、漫画の中でしか見ないような筋骨隆々の姿へと変貌したのは。

 

「何あれ!!?」

 

「はっはっはァ!一気に片を付けてやらぁよ!!!」

 

右腕の筋肉が唸りを挙げ、渾身の力がアイオワの右腕に襲い掛かる。

 

《俺が艦娘との腕相撲を想定してないとでも思っただろう!だが、甘い!甘いのだ、牧園 アキラ!

 

こうゆう事もあろうかと、肉体改造と手術の日々を行ってきた!今の俺は誰にも負けぬのだぁ!!!!!》

 

勝利を確信した顔である。其の豪腕がアイオワの腕を

 

 

 

 

「其れがyouの『本気』なの?」

 

 

 

 

 

倒す事は無かった。

 

 

 

「……………は?あ?」

 

 

駕藤は驚愕する。どんなに力を加え、どんなに握力を増しても、アイオワの腕を寸分たりとも『動かせていない』事実に。

 

「ねぇ、其れが貴方の本気なのかしら?」

 

ん?と涼しげに、まるで子供と戯れるように、アイオワは駕藤へ笑顔を向けた。

 

「アイオワさん。決めてください」

 

「OK、アキーラ♪」

 

今まで、一切本気で無かったかのように。

 

全力を出したアイオワの剛腕が、屈強な駕藤の右腕を面へ叩き付ける。

 

アキラの一声で攻守交代から僅か五秒弱。

 

其れは、あまりにも無情な。速すぎる決着の瞬間であった。

 

 

『駕藤提督の右腕が面に接地した事を確認。よって勝者、華裏鎮守府在籍艦娘・Iowa(アイオワ)』

 

「Year!!」

 

ボディビルダーが自分の筋肉を見せ付けるように、アイオワもまた、勝利のポーズとして示した。

 

「何故、だ…どうして…負け、た…?この、俺…が…?」

 

一方の駕藤は、起こった事態に脳の処理が追い付かず、地面に崩れて土下座に近い状態で、永遠とブツブツ呟き続けている。

 

《あの駕藤提督は、艦娘との腕相撲を想定していたみたい。だけど、認識が甘かったようね。Iowa級戦艦…其の馬力は、翔鶴型やグラーフ・ツェッペリンでさえ軽く凌駕している。

 

彼は用意周到に備えていたでしょうけど、其れを一瞬で無へ返したのは、華裏鎮守府に対する『傲り』や『慢心』。華裏鎮守府の艦娘なら絶対に勝てる…そう踏んだ時点で、既にアキラ君に『負けていた』。

 

ただ、それだけの事よ。さて━━━私もどうしようかしら…ね》

 

細目から覗く瞳は虎視眈々とアキラを見つめ、彼女の思考のパズルを組み立てて行く。アイオワ、そしてもう一人のサラトガと言う艦娘も、彼女に引きを取らぬ剛力の持ち主だろう━━━まともに戦えば、駆逐艦を連れている自分は負ける可能性が大いにある。

 

真正面から戦う必要は無い。それならそれで、戦略や戦法は幾らでも在る。今は彼女達の情報を引き出し、少しでも優位になれるように努める事…これしかない。

 

「駕藤、話にならんな。私が行こう」

 

そう言い、アキラの前に躍り出たのは四人の中で最も背が低く、眼鏡を唯一掛けている男子。

初対面でアキラを名指しし、金のカードを狙っている宣言した提督だ。

 

「須天(すてん) 刃(やいば)と申し上げる、牧園 アキラ。私が勝てば、お前の持っている金のカードを貰う。お前が勝ったのなら、俺の銀のカードを『二枚』渡す。

 

生憎、駕藤のように資源に困り果てている訳ではないので、賭けに出せる物がこれだけなのだ」

 

須天は審判に銀のカードを見せる。不正が無いか確かめて貰うためだろう。

 

『カードは本物と確認。牧園提督、須天提督の条件を承諾し、腕相撲に挑みますか?』

 

「………良いですよ。其の条件で」

 

『両者共に承諾。では、代表者一名を選抜してください』

 

「此方は彼女を出す」

 

須天が送り出したのは赤城。アイオワの剛力を見た上で判断を下したのなら、確実に勝てる『何か』を彼女は持っているに違いない。

 

「《俺が選択べきは…》……吹雪、腕相撲を御願い出来るか?」

 

「分かりました、司令官」

 

台に両者が向き合う。静かな緊張感の中で、互いが右腕を差し出し、握り合い、呼吸を整え、決戦の合図を待ちわびる。

 

『それでは━━━始め』

 

合図と同時に、二人の気迫が空気を揺るがし、目に見えぬ電撃が迸ったかのようなイメージを見る。

 

「やりますね」

 

「そちらこそ」

 

ギギギ…と手骨(しゅこつ)が軋み、細い腕の筋肉が隆起する。

 

《吹雪、凄い…》

 

《私の赤城と張り合うとは…》

 

体格差、身長差を諸ともせず、吹雪と赤城が『拮抗』する。互いに一歩も退かず、一歩も譲らぬ互角の戦い。

 

だからこそ━━どちらが先に仕掛けてもおかしくない。

 

「フッ!」

 

三分十七秒の膠着を破り、先に仕掛けたのは赤城。吹雪が呼吸し、身体が脱力する隙間を狙い、攻勢を掛けた。

吹雪の右腕が徐々に。そして段々と。敗北を示す面に近づいて行く。

 

「上手い。相手の呼吸を読んで、其の隙を突く。流石は赤城」

 

「吹雪ぃー!頑張れーっ!」

 

だが━━

 

「━━━━まだまだです」

 

吹雪が体をゆるりと、更なる脱力を行う。瞬間、赤城の身体が一瞬、膝カックンをされた時のように、ぐらついたのである。

 

「ッ━━━合気道!?」

 

「ハァッ!!!!!」

 

其の刹那、吹雪は赤城の右腕を一気に台面へと捩じ伏せた。

 

『赤城の右腕が面に接地した事を確認。よって勝者、吹雪』

 

「やったぁ!お疲れ様、吹雪!」

 

「ふぅ…あ、ありがとうございます。司令官」

 

勝利を喜び、手の痺れと汗を流した吹雪へ駆け寄り、アキラはタオルを渡す。

 

「…すみません、提督。負けてしまいました」

 

「今回は彼方が一歩上手だった。何度負けようとも、最後に勝てば其れで良い」

 

「…はい!」

 

敗北したものの、健闘した部下を称え、次の糧にするよう諭す須天。彼はアキラの元へと歩いて行き、二枚の銀のカードを差し出した。

 

「牧園 アキラ。健闘を祈る」

 

「…はい!」

 

須天は落ち込んだままの駕藤を赤城に抱えさせ、駅の方へと歩いていった。

金のカード一枚と銀のカード二枚。アキラは現在この場所に置いて、カード所持数トップへと昇る。だが、まだ油断は出来ない。

 

此処から先に、彼等を更なる困難が待ち受けている事を、アキラ達は知らない。

 

* * *

 

東京都内・某所…

 

「な、なんて…強、さ━━━━」

 

都会の裏路地、どさりとアスファルトの大地に力無く倒れ伏した提督を見下ろし、懐からカードを抜き取った。

 

「カッカッカ!よぇーよぇー…そんなんでカード守れるっう阿保カスな考え方、マジいらねぇわ」

 

『…………』

 

審判が見つめる中、声の主は暗闇へと消えて行く。

 

「アハハ!アンタ相変わらず口わるーい♪」

 

物影から御茶等気たギャルの声が響き、其の者の行く手に立ち、そして向き合う。

 

「おーオメェか。そっちはどうだ?」

 

「んー順調順調、マジ余裕っしょ。腕相撲だけで予選突破出来ちゃうんだし、カードは集めたら集めたで『使い道』があるし、私等ツイてるわ。

 

で、私が『銀七枚』に『金一枚』。身体売って交渉したら八百長で金一枚貰っちった!ホント、男ってアホよねぇ~♪」

 

「おーおー悪い女だ。俺は『銀二枚』と『金五枚』。あの開会式でカード所持者の名前と顔は大体『記憶』出来た。後は放送で、所持者の居場所が分かればどうにでもなる。

最終的にカードは俺達である程度回収し、第一次選考に落ちた奴等の泣き叫びを特等席で拝むとしよう」

 

「イヒヒヒヒ♪楽しみぃ~アイツ等が泣き叫んで私達に助けを乞う…最高のインスタ映えになるわぁ!アッハハハハ!!」

 

二人の人間━━否、二人の提督は闇影に紛れ、不敵に嗤い、善からぬ事を企む。

既に二人の他、別の場所でも時同じくして、其の考えに至る者達がいた。

 

第一次選考は、混沌の嵐へと。

着実に。確実に。呑み込まれようとしている…。

 

* * *

 

同時刻、華裏鎮守府・東8900m沖合。

 

此所は今…『ある者達』を追跡していた深海棲艦と、其の深海棲艦を迎撃する華裏鎮守府の艦娘で、大乱戦になっていた。

 

「撃てぇ!」

 

「其処!たぁああ!!」

 

『イーッ!イーッ!』

 

『ブチコロセ!ヤツラヲ…一人デモ、ミチズレ…ニ、シロォッ!』

 

砲火が混じり、空気と海が爆ぜ、魚雷が交錯し、幾重にも水柱と火柱が上がる。数と物量で押し込む深海棲艦に対し、華裏鎮守府の艦娘達は個々人の実力と一日一夜で身に付かない連携で、数的不利を補いながら戦う。

 

「きゃあ!」

 

「負傷者は後退を!各員、前線を維持しつつ、敵を分断お願いします!」

 

「五月雨さん!曙さん!霞さん!高速移動しつつ、敵の前線を乱してください!」

 

『はい!私、頑張りますから!』

 

『敵の目を引けって!?冗談じゃない…って、其れでもやるしかないんでしょ!!分かったわよ!』

 

『大淀!沖波!指揮で気張って、空回りしないようにね!まだ敵は居るんだから!』

 

通信しつつ、単縦陣で三人の艦娘達が砲撃の雨を掻い潜り、高角砲で深海棲艦の目玉を正確に叩きつつ、氷上を滑る一流スケート選手顔負けの速度で駆け抜けて行く。

 

『イマイマ、シイ…!イマ、イマシイ…!!ガラクタ…ガァ…!オチロォ!』

 

「落ちるのは…テメェだけだゴラァ!」

 

別の場所では、艦隊を指揮する戦艦棲姫と其れを見付けた霧島の砲撃がクロスカウンターで直撃する。だが、爆煙の中から先に這い出たのは霧島。熱を帯びる片手が戦艦棲姫の顔面を捉え、白い肌を焼き肉の如く焼き尽くす。

 

『ヴァア"ア"ア"ア"ア"!?』

 

「死にモノ晒せやオラァ!!」

 

トマトが握り潰され、ジェル上の中身が飛び出すように、戦艦棲姫の頭骨が碎け散り、脳漿が弾け飛ぶ。

握り閉じた手から崩れ落ちるように、海面に崩れ落ちた。

 

『姫様ガ…ヤラレタ!』

 

『撤退…セヨ!撤退、セヨ…!』

 

指揮艦を撃破され、戦闘継続が困難になった深海棲艦達が、煙幕を張りつつ海中へと撤退して行く。

海を覆った赤は消え、残されたのは普段と変わらぬ群青の海と、彼方へと続く水平線のみである。

 

『敵艦隊撤退を確認!…私達の勝利です!皆さん、お疲れ様でした!!』

 

大淀の声。同時に、革命を成し遂げ勝利した市民のように、華裏鎮守府の艦娘達の歓喜の声が轟々と響く。

 

だが、彼女達はまだ知らない。

 

助けた二人の艦娘が、華裏鎮守府に新たな嵐をもたらす事になるのを。




人物紹介

尾瀬(おぜ)国弘(くにひろ)…ショートランド泊地・第六一基地在籍の提督。幼少期に家族と旅行中に深海棲艦と艦娘の戦いに巻き込まれ、両親を失い、自身は深海棲艦の飛び散った破片が右目に刺さり、八ヶ月もの間、高熱と悪夢に魘された過去を持つ。

懸命な治療によって一命を取り止めるも、其の代償に右眼球全摘出及び右顔面神経麻痺、右聴覚消失という深い傷を負う。

それでもハンディキャップを諸ともせず、たゆまぬ努力を重ねた結果、海軍士官育成高等学校を卒業し、富士から一目置かれる存在になった。


立花(たちばな) 亜衣(あい)…呉・第二四鎮守府に在籍している女性提督。細目とラベンダーのような綺麗な紫色の髪がトレードマーク。

差別を受けているアキラ達を対等な相手として接しているが、闇吹雪曰く、確実に利用しようとしている事から、腹黒い疑惑が浮上している。


坂井(さかい) 健太郎(けんたろう)…呉・第一四三鎮守府在籍の提督。基本的に興味の無いことには自分から話したり、喋らない等をモットーとしているが、気になった事や、思った事は簡潔に話す。

無言で本を読んでいる時の横顔が、一部の女性提督の人気を得ている。


駕藤(がとう) 久光(ひさみつ)…単冠湾・第ニ七五鎮守府在籍の提督で、華裏鎮守府を差別・排斥思考を宣う一人。アキラの持つ金のカードを狙い、肉体改造手術を施した身体で腕相撲勝負に挑むが、アイオワを剛腕を前に善戦すらまま成らず、呆気なく敗れた。

趣味はクロスワードパズルと漬物作り。

須天(すてん) 刃(やいば)…パラオ・第四四鎮守府在籍の提督。アキラが持つ金のカードを狙い、銀のカード二枚を賭けた勝負に赤城を送り出し、吹雪を相手に善戦したが、合気道を使われた事によって敗北。

勝負の後、アキラの実力を認め、彼に銀のカード二枚を渡した。
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