将来を有望視された青年が、冤罪で問題山積みの鎮守府に着任されました。 ~地獄の底からこんにちは~ 作:ガリアムス
華裏鎮守府。
大本営から非公認の烙印を押されると共に差別と排斥を受け、血と汗と涙を流して集めた資源と資材、特別作戦における戦果を、何もしていない大本営の界隈の鎮守府に横取りにされ。
不正や命令違反、左官等、あるいは提督からの暴行や不必要の命によって、罪と罰と傷を背負った艦娘が最後に流れ着く、終焉の地と言う名の『墓場』である。
多種多様な艦娘達が在籍する此の場所は、月に一度訪れる大本営からの徴収と、神出鬼没で交戦する度に進化を遂げる、深海棲艦との終わりの見えぬ戦いを続けていた━━━━━━。
* * *
華裏鎮守府内、入渠ドック…
「はぁ~良い汗かいたぁ…」
深海棲艦との死闘を経て、ダメージを負った艦娘達が傷と疲労を、湯船に浸かり癒している。
「風呂上がったら、間宮さんの所でビール飲も♪」
「お、それは良いな。私も同席しよう」
「夜まで祝杯よぉ!」
「私はアイスかな~…いやこの場合は、かき氷が乙…か?」
「どっちも捨てがたいですね!」
「んじゃ、どっちもいっちゃう?」
酒好きの艦娘と氷菓子好きの艦娘は、既にそれぞれのグループを作り、予定を会わせるべく風呂内会議を始めていた。
「皆さん。残念ですけど『今は』食堂は使えませんよ?」
「「「「「「「は?」」」」」」」
そんな彼女らの希望を叩き潰したのは、作戦中の艦隊指示と鎮守府連絡伝達係を兼任する、軽巡洋艦の大淀。
「まさか食中毒!?」
「ガス爆発でも起きたか!?」
「物騒な事言わないでください!…はぁ、今は長門さんと龍驤先生、翻訳係で香取さんと時津風ちゃんが、『三名』の艦娘と話をしています。
其の内の一名は、かなり荒ぶっていて危険なので万が一に備えて近付かない方が良いとの事で…」
騒ぐ面々の静止を促し、頭をもたげる大淀。彼女には現在、風呂場にいる艦娘達のこれからの動向以外に、ある悩みを抱えていた。
《昨日の嘔吐…一体何なのでしょうか?…明石に相談してみようかな…》
目を閉じて左手で胸を、右手で鼠径部に触れ、大淀は静かに。自身に起きた変化を感じていた。
* * *
『どうゆうことよ!』
ダン!と木製の机を叩き、少女が立ち上がる。
金髪をツーサイドテールに分けて結び、綺麗な肌を存分に見せるような、肩と胸元が大きく開いたドレスに似る青い服と、白いミニスカートを着けていた。
「
「姉さんはちょっと黙ってて」
渾名を呼んで宥めようとした少女は、逆に突き刺さる言葉を受けて轟沈。しくしくと泣き出した為、ジャービスが「よしよし」と頭を撫で、泣き止ませる。
彼女の名は
そして駆逐艦娘にも関わらず、大きな胸部装甲がくっついていた。
「…何度も言うが、彼女達は提督と共に『大本営の催し物』に出席するために外出中だ。帰ってくるのは明日以降になる」
「今!直ぐに!呼び戻して!
私達はアメリカ海軍からの直々の任務で、此の鎮守府に保護された、
懐から一枚の手紙を取り出し、机に叩き付けつつジョンストンは言う。あわわと妹と鎮守府の艦娘を心配するフレッチャー、雰囲気最悪の空間で居心地の悪そうなジャービスの表情はげんなりしていた。
長門は手紙の封を開き、其の内容を確認すべきかと考えるも、自身は提督では無いため、この一件はアキラに判断して貰った方が良いと判断。
ジョンストンに時津風の翻訳を通して、答えを伝えた。
「現在、華裏鎮守府には『提督』がいる。彼は私達の意見を加味した上で、『本当に正しい答え』が出せる人だ。
必ず『双方』が納得出来る答えを出す。それまで待っていて欲しい」
寸分の偽りのない真っ直ぐな目。暫しの沈黙が流れ、ハァ…と大きな溜息を溢し、ジョンストンが口を開く。
「……………良いわ。貴女達の提督が鎮守府に帰ってきてから『一日』だけ、議論する時間をあげる。それまで私達は待つ。
けど、もし其の提督が、私達の納得出来る答えが出せなければ、否応無しに二人の身柄を此方に引き渡して貰う。
━━━━━異論は無いわね?」
「無論だ」と静かに長門は答える。
《驚くやろなぁ…きっと。帰ってそうそう、面倒な問題に立ち向かわなアカンちゅうのは》
自分の知らない所で、艦娘達の今後を左右する重大な選択を決められ、求められるという、ある種の身勝手な判断。それは長門が、牧園 アキラという人間を『信じた』上で出した結論でもあるのだが、当の本人からすれば、溜まったものでは無い。
龍驤達は現時点でアキラと仲間達が『過酷な戦い』に巻き込まれた事を知らない。
━━━━━━━━━『ある二人』を除いては。
* * *
同時刻、華裏鎮守府某所…。
『━━━優勝させていただきます。以上』
『━━━もう一度、俺と友達になってくれますか?』
暗闇の室内で、二人の艦娘がモニターに映る景色とアキラの声を観聞きしている。
「なぁ、はっつんよぉ。アキラ司令は、そーとーヤバイ事に巻き込まれてるみたいだね」
「………アイオワさんとも、ヤッてたし……」
「…あれは仕方無くねぇか?彼女、最初から其のつもりでいたし、アキラが断ったら襲う気でいたみたいだし。どう転んでも、結局食われる未来しか無かった」
場面を振り返っては、顔を赤くしたり、此処は自分ならこうすると言った具合に議論を重ねている。
「開会式でアキラ司令が言った「
なんてゆうか、嬉しいしハズイわ…。ああゆう裏表無く孥直球に思いを伝えてくるのってさ…」
「…ワカルマン」
照れ隠しに頭を掻き、二人の頬がほんわかと弛む。ブラックリストに載っている自分達すら、其の中に数えて言い切るアキラ。大きく、広い、優しさを宿した心は、咎人の自分達にはあまりにも眩し過ぎる。
「でも、一番驚いたのはアキラ司令のお祖父さんが総大将だったって事だなぁ。不覚にも飲んでた炭酸ジュース、口から噴き出したよアレは」
「…食べてたカップヌードル、喉に詰まらせかけたし。牧園一族って、本当に凄い人ばっかり」
「だなぁ…もしかしたら、とんでもない人の部下になったのかもって思うよ」
望月はこくりこくりと小さく頷き、目を閉じる。
いつか自分が犯した罪を伝える時、彼はどんな反応を。どんな表情をするのだろう。
そして其れを聞き届けても尚、自分を仲間だと言えるのか…。
ピリリリリ…!
ピリリリリ…!
甲高い着信音が部屋に鳴り響き、先の思考を遮る。
「誰から?」
「ん…『タートル』から」
「はっつん、電話パス」
「あい」と投げ渡された旧式の携帯電話を即座に開き、望月が電話に応じた。
「…『ホープ』です、御用は如何にですか?タートル」
先程迄のだらけた雰囲気は何処にも無く、背筋を伸ばし、真剣な口調で会話に応じている。
『久しいな、ホープ。『ファウスト』は相変わらずか?』
携帯電話から聴こえるのは、変声機を使っているであろうザラザラした声だった。
「おかげさまで。…貴方の助力が無ければ、今の私達は
『気にするな。私は、私自身の『
「それ、中東の巨大テロ組織じゃないですか。な『奴等が日本に現れた』━━━えっ?」
望月の表情が固まり、空気に晒される肌の全てから汗が沸きだし、滝の様に皮膚を伝い落ち。呼吸は恐怖に乱れ、焦燥に駆られている。
「どうゆう、こと…ですか。…其れは」
やっとの思いで絞り出した言葉。初雪も、望月に起きた変化を気にしているようだ。
『此方でも其の事を現在進行形で調べている。だが、分かっている事は一つ。奴等が『ロクでもない何か』を仕出かそうとしている。これだけは、絶対不変の事実だ』
「…………………」
『今から私が話すことは、お前の『トラウマ』を抉り、更に傷付ける事に繋がる。だが、其の無礼を承知の上で頼みたい』
そう言って、タートルは望月…ホープへと依頼内容を話す。彼女の表情は話を聞いてゆくに連れて、更に恐れで染まり、肌も蒼白へと変わる。
「━━━分かり、ました…直ぐに。……調べます」
『…すまない。早急に頼む』
通話が切れ、鼓膜へツー…ツー…と電子音が等間隔で鳴り続けるのみ。吐き気と立ち眩みで倒れそうになった所を初雪が支えに入る。
「もっち…」
「…情けないな。
自分が、今まで『してきた事』なのに。
自分の、今まで『犯した罪』なのに。
いざ、現実として突き付けられて一切逃げられないのって…本当に嫌になる」
彼女の纏う闇が刻々と黒く、深みを増してゆく。そんな中で初雪は、彼女を恋人へ愛を伝えるかのように、静かに。そして、優しく抱き締める。
「もっち…。私達、一心同体。罪も、罰も、私達は一緒に受ける…死ぬ時だって、同じだよ…」
「…ゴメン、ありがと」
初雪に支えられ、鼻声ながら落ち着きを取り戻した望月。頬を叩き、戸棚に立て掛けられた別のパソコンにコードを接続。電源を入れ、パスワードでロックを解除し、ある項目をダブルクリックする。
「はっつん。失敗すりゃウチ等の…いいや、下手すりゃ『日本の危機』に直結かもしんねぇ。
其れでも最後まで付いてくる、其の覚悟は…有るか?」
彼女のマウスが指した項目。拡大された画面に写されていたのは…『
「…やるんだね。私も同罪だし、行くところまで行くよ」
「あぁ。償うのが私達の責務、奴等の事を『一番理解している』…私達にしか、コイツは出来ない」
自分達の罪、自分達の業。それらを背負い、二人の少女は暗闇の部屋の中で、静かに一文字ずつパスワードを打ち込んだ。
* * *
同時刻、中野区・犬屋敷跡…
「んじゃあ、次はアタシの番ねぇ♪」
アキラ達の前に歩き出たのはゴリオカマッチョな提督。アイシャドウや口紅等、極め細かな所にまで化粧を施してあるのが、彼の気持ち悪さを助長させていた。
ただでさえ耐性が無い真守やクリスは、まともに目を合わせる事すらままならず、亜衣や楓は今にも吐き出しそうな顔をして秘書艦娘の後ろに隠れる。
「アタシ、
牧園 アキラ君!アナタがアタシに勝てたのなら、アタシが持つ『金のカード』と『問弐を解くためのヒント』を教えて挙げマスキュラー♥️」
ギッチギチに悲鳴を上げ、今にもキャストオフしてしまいそうになる軍服と、誰得なボディービル自己紹介。
只々気持ち悪い…のだが、『金のカード』に『難問解読に繋がる可能性』を賭けに出された以上、此方は退く事が出来なくなった。
其処に追い討ちを掛けるように、魂冴門は自分の勝利で得る対価を言い放ったのである。
「でも、アタシが勝ったなら━━━」
彼が指差す先には、鈴谷の後ろで様子を伺うクリスが居た。
「…へ?ボク?」
「そう♪サラサラの素敵な金髪で、美し可愛い君と『お・ち・か・づ・き』に、なりたいの♪だから協力して頂戴な。ウッフ♥️」
クリスと否応なしに親密な関係になる。ただ、其れだけの為に『第一次選考を突破出来る切札』を秤に懸けられる。魂冴門の狂気に近い信念に、クリスは恐怖で怯えてしまい、亜衣と楓は「うわぁ…」と益々引いてしまう。
「俺と勝負するのは、クリスが絶対に断るからと考えたからか…」
「そうよん。アタシ、彼とお友達になりたいのよん。でも、こんな見た目や口調だから、中々友達が出来なくてねぇ」
直せる部分は他諸々を含めて沢山有るだろうと、ツッコミを入れるのは野暮だろうか。悪意が無いのは分かったが、其れでも御似合いと言われるとそうじゃない。
どうしたものかと頭をもたげた時、自分の肩を軽くポンポン叩かれる。横に視線を向けるとサラトガがおり、耳元で小さく呟く。
「アキラ。このfight、サラに任せて貰って良いですか?」
「…何か勝算が在るのか?」
「Yes」
彼女の瞳に移る確かで、揺るぎない自信を感じ取る。
「………分かった。『サラ』、任せるよ」
「!…Thank You♪」
初めて、アキラが彼女を『さん』付けではなく、愛称で呼んだ。サラトガにとって其れは、一番身に入る応答であり、同時に大切な人から信頼され、彼と彼の友の命運を託された事に等しい。
全身に今までに無い程、力が満ちる。
負ける未来が一切見えない。
此の腕相撲に必ず勝つ。
魂冴門とサラトガ…両者が決戦のフィールドに肘を着き、互いの右手を握り締める。
《あらヤダ…この娘。ほっそりした腕をしてるのに、とんでもない握力と腕力だわ。久ちゃんが負けたのは何か理由があったのかって考えたけど…成程。納得出来た》
《艤装を纏っていないとは言え、サラと張り合えるなんて。…この人、生半可なtrainingをしてきた訳じゃない。戦いに勝つために、自分を磨いてきたのね》
僅か数秒の間に、二人は互いの持ち得る力を理解した。
『ショートランド泊地・第八鎮守府代表、堀内 魂冴門提督 対 華裏鎮守府代表、サラトガの腕相撲を始めます。
両者構え━━━━━━始め』
開戦の合図、同時に放たれる闘気の風圧が、アキラ達を襲う。力みが足先まで伝わり、地面には皹が走り、舗装されたアスファルトの一部が割れたのである。
「━━━━マジかよ」
声を漏らしたのは真守だった。
人間が何かしらの方法で弱体化させない限り、『本来』勝てない筈の艦娘…艤装が無い状態でも人間が勝てる可能性は皆無に等しい。其れを相手取り、尚且『本気の状態で互角』にあるという
《この人…強いッ!》
「ウフフ♥️アタシの『強さ』、気になっちゃった…か・し・ら?『サラちゃん』♪」
「!」
「簡単な話よん。人は『恋』をするとね…」
誰よりも強くなれるの
ギギギ!とサラトガの手骨が軋み、均衡が魂冴門有利に崩れ始める。並外れた鍛練の果てに得た彼の剛腕が、艦娘の規格外の耐久力を誇る骨格に直接影響を与える等、本来なら有り得ない。
「………魂冴門さん。私も『同じ』ですよ」
しかし、サラトガは軋み続ける手の痛みに負けず、魂冴門の手を、握り潰すつもりで圧を掛け返した。魂冴門有利であった態勢が、再び戻り始める。否、其処からサラトガ有利に動いた。
「…あら、中々やるじゃないの♪」
魂冴門の視界にサラトガが写る。其の目には、赤桃色に燃える焔が、ハートのマークを浮かばせていた。
「サラは今。恋をし、自分を人として見てくれる
だから━━━━━絶対に負けません!」
「其れは此方も同じよん!」
拮抗、互角、一進一退━━━互いに同じ想いを乗せた者同士の激突は観る者の心に、魂に灼熱の太陽に似た熱さを帯びさせた。
「頑張れ!サラ!!!!」
「サラさんファイト!」
「Go!Go!Go!」
譲れない想いを腕に籠め、信念を貫く為に剛腕を奮う。
純粋で、凄まじい闘志が、何者も、何人たりとも邪魔を許さない。
《負けられない…負けたくないのよねぇ!》
《アキラの想いに答える為にも!》
《美し可愛い君の為に!》
《絶対!》《必ず!》
『勝つ!!!!!!!!!!』
望みと願いを宿した両者の只一瞬に掛けた剛力が、頑強に造られた台の鉄柱の芯を壊し、連鎖して台の真ん中から一刀両断されたかのような裂目が走って、割れたのである。
「ゲホッ、ゲホッ…!」
「どっちが━━━どっちが、勝ったんだ!?」
期待。焦燥。願望。数多の交錯した思いを現すかのように、砂塵が風に吹かれて晴れた。
「……………………」
「………ふっ━━━負けちゃった」
陽に照され、地面に付けられた手の甲。
叩き付けられた其れは、相当な力を加えられた痕を示すかのように、赤く腫れていた。
『━━━━━魂冴門提督の手甲が地面に接地した事を確認。よって勝者、華裏鎮守府代表艦娘・サラトガ』
「やったぁあああ!」
「しゃあ!やったぜ、アキラ!」
「イェイ!」とアキラ・真守はハイタッチ。勝利の喜びを分かち合い、彼はサラトガの方へ駆け出した。
「サラ!…ありがとう」
「アキラ…!サラ、今本当に嬉しい!」
美しい笑顔で、最前線戦地から帰還した恋人と再会した時のように、彼女はアキラに抱き付いた。大きく柔らかな胸が彼の胸板に当たるが、そんな事は今はどうでもいい。彼女は良くやってくれた…其れが今のアキラにとって、何物にも変えられない喜びなのだから。
━━そんな二人の包容を羨ましそうに見つめているアイオワと、写真に撮ってニヤニヤしている青葉と、スケッチブックに鉛筆を走らせ真剣な眼差しを向けている秋雲の姿が。
「サラばっかりズルい。私にも同じようにしてアキーラ」
ぷくぅ~と効果音が響くような、両頬を大きく膨らませたアイオワ。サラトガが離れない状態で、もし飛び掛かられたら腰をやる可能性が出てきそうだ。そんなアキラの表情から何かを読み取った彼女がすっと離れ、にっこりと笑う。其の刹那、アイオワが飛び掛かって抱き付いた。
「アキーラ♪アキーラ♪」
「ちょっ、アイオワさん!?この体勢は不味い気がするんですけど!?!」
子犬のように甘えてくる彼女。しかし問題が其の体勢に有った。両腕を首に、両足を腰に絡め、胸部が密着した所謂『だいしゅきホールド』の状態で…。
そんな様子を不満そうに見ているサラトガと、写真に取る青葉に、血走り眼と鬼気迫る表情でスケッチブックに鉛筆を走らせる秋雲、そしてニヤニヤしながら悶えるようにして何か考えている鈴谷が。
「……アイオワ、ズルい。アキラ、サラにも同じ事して」
「無限ループになるからね!?応じたら無限ループになるの解るからね!?」
柄にも無く大声でツッコミを入れてしまった。冗談ですっと、不機嫌そうにそっぽ向いたサラトガ。
「…アキラ君、そうゆう時は応じてあげなきゃ駄目よ」
「…同感だ。信頼関係をより良くするには、コミュニケーションは大切だ」
「二人まで何言ってるんですか!!?」
追い討ちの如く、健太郎並びに亜衣からも言われてしまい、アキラのツッコミが追い付かない。
「話をそろそろ、終わりにしてくれても良いかしらん?アキラ君に勝利報酬を渡さなきゃいけないのだけど」
『『『『『アッハイ』』』』』
話をぶつ切りように、魂冴門がアキラの方へと歩き、正面に立つ。差し出し、彼の手に握らせたのは『問弐を解くヒントが書かれた紙』と『金のカードが二枚』。
「あれ?何でカードが二枚も?」
「一枚は私で、もう一枚は私のカードを狙った御馬鹿さんを返り討ちにして入手したの。
其れに私は『問肆までの答え』が解っちゃった。カードがあると目的地に向かうまでに妨害に逢うから、どうにかして流したかったのよん♪」
彼の言葉に楓や健太郎、クリスは眼を丸くした。カードが無くとも、彼は既に其の段階まで辿り着いている。
もしかしたら自分達が見たのは、此の男…魂冴門の強さの、ほんの些細な一端だけなのかも知れない。
「じゃ、アタシは朱印をゲットしに行くわ。でも、その前に一つ、皆に伝えておく事が有ったの」
何処と無く真剣な顔で、魂冴門は皆にこう言ったのである。
「集印走は『二人一組の男女』に要注意。会ったらそいつ等は大抵『カード狩り』の連中だと思いなさいな」
「カード狩り?」
「そうよん。タチの悪すぎる連中でねぇ~…自分達の必要数以上のカードを『あらゆる方法』で入手するの。それはもう、御構い無しで。何で入手するかと言うと、大体が救済策のカードを使って一方的に恩を着せつつ、自分本意で有利な条約を結ぶ為や、其の鎮守府の最高練度艦娘や資源・資材を奪うとか…そんな事ばっかり。
実際、そいつ等のせいで艦隊指揮・運営が出来なくなって、潰れた鎮守府が相当数在るのよ。
奴等は『他者の不幸の為』なら、ありとあらゆる物を利用するの。だから気を付けて、皆」
彼の話を聞き終えた時、アキラは喉の中を百足やゲジゲジに這われたような、表現し難き嫌悪感に襲われ、同時に其の感情から、底知れない憤怒と憎悪に駆られた。
真守は、自分の呼んだ漫画の中にあるワードから彼等の行動は『吐き気を催す邪悪』だと理解し、眉間に皺を寄せ、表情を険しくする。
クリスも、結絆も、楓も、健太郎も、亜衣も。皆それぞれ、思い思いの感情を抱く。
「それじゃあね」
魂冴門は背を向け、左手を振りながら駅の方角へと歩いて行った。
静かに動き続ける歯車は、更なる歯車と噛み合い、彼等の運命と共に加速して行く。
其れは僅かな崩壊から、怒涛の勢いへと変貌を遂げ、全てを薙ぎ倒す雪崩の様に。
* * *
同時刻、スエズ運河…
戦艦の残骸が水面に浮かび、軍人達の悲鳴や嘆き、怒りの声が響く。漏れ出た石油に火が着き、辺り一面は火焔の壁で埋められていた。
地獄絵図…惨状を現すなら其の言葉一つに尽きる程、此の場所は酷く荒れ果て、正常な思考を奪い、現実から眼を背けてしまいたくなる。
『ヤレ』
砲撃が。空爆が。海に落ち、何とか残骸まで泳ぎ着いた者達に襲い掛かる。軍艦・航空機という抵抗する術も全て失った彼等は、無情の暴力を前に藻屑の如く命を散らしていく。
「あ、ああぁ…あ……」
『コレガ、オレタチニサカラッタ…ヤツラノマツロ。オマエハ『ナニモ』…『ダレヒトリ』…『マモレナカッタ』…』
「うぅっ…!」
金色の髪をむしり上げるようにして引き、衣服を千切られ半裸になり、嫌がる女性に惨状を見せつける。
其の深海棲艦は『真っ赤な血に染め上げられたレインコート』を身に付け、竜の顔の尾を持つ白髪と青い瞳に金色のオーラを纏っている。
「
『キヒッ…オマエハ、コレカラワレワレノ『ナカマ』ニナル』
悪魔の笑みを浮かべ、有無を言わさず背中にマウントしていた、巨大にして漆黒の
「ガバッ…!」
意識が揺らぎ、吐血し、水面へと崩れ落ちる。
『ホォ、イシキガアルノカ…。ナカナカ━━━━オ?ナンダ、コイツハ』
失神の瀬戸際で、尚も立ち上がろうとする女性。彼女の左腕に巻き付いている『赤と白と青のトリコロールのスカーフ』に眼を付け、力ずくで奪う。
「!━━やめて…!それ……は!」
奪われたスカーフを見て、顔を真っ青に乞うように取り戻そうと藻掻く。其の姿を見た深海棲艦は、風に靡かせるようにして広げ、呟く。
『…ダイジナ、モノ━━━━カ』
「そうよ…!だから!」
ジャア━━━━━コワス
邪悪で。
愉悦を帯びた。
真っ黒で。
とても純粋な笑顔と共に。
彼女の目の前で。
其のスカーフを、木っ端微塵に破り捨てた。
「あ…ぁあぁぁあ、あぁぁあ…」
青い瞳からハイライトが消え失せる。黒い三又大槍が不気味に嘶き、点灯し始めた。
深海棲艦は悪魔の笑みで、絶望に叩き落とした彼女の耳元に寄り、最後の仕上げと言わぬばかりの、トドメの一言を放ったのである。
『オマエハ『サイキョウ』デモナニデモナイ。
『ナニモマモレナカッタ』。ジブンノ『タカラモノ』モ。ジブンノ『ナカマ』モ。
ナニヒトツサエモ、ヒトツトシテモナ』
『ああ…ああああ、あぁあ━━━━━━━』
ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"ア"アアアア!!!!!!!!!!!
絶望に堕ちた彼女の、魂の絶叫。黒い槍はドロドロに
直後、身体は人肌の淡いピンク色、腰まで掛かる綺麗な金の長髪は色を失い、白骨死体のような冷たい白へと変わり果ててしまった。
『コレデマタヒトリ、タノシメソウナ…オモチャガ、ウマレタ。ツギハ、ドイツニ…シヨウカナ?キヒヒッ』
無垢な笑みと白いギザ歯を浮かべ、彼女は新たな深海棲艦の誕生を祝い、そして嗤う。
其の深海棲艦は百の鎮守府を攻め落とし、五百以上の艦娘を闇へ堕した、最凶最悪の
過去類を見ない未曾有の歩く厄災に、大本営は其の存在を畏怖し、名前を付けた。
━━━━━━『血染めのレ級』━━━━━と。