将来を有望視された青年が、冤罪で問題山積みの鎮守府に着任されました。 ~地獄の底からこんにちは~ 作:ガリアムス
①、アキラの持つ金のカードを狙った四人の提督達の最後の一人がアキラ達にあることを伝達。手に入れたヒントで問弐の答え合わせと残り三つの答えを思考。
②、巨大テロ組織:
③、牧園一族を排斥しようとする大本営内の勢力並びに海軍大将と同じ権力を持つ三帝の二人目の存在と富士の妹の登場
④、血染めのレ級による欧州海域の蹂躙(グロ&胸糞注意)
以上を書いていきます
「……金のカードが『三枚』と銀のカードが『二枚』…現状、アキラ君の第一次選考突破は着実になりつつあると言えるわね」
時刻はヒトマルヨンキュウ。
「だが…懸念材料は消えていない。カード狩りの連中、アキラの存在を面白く思わぬ者等…考え出せば、キリがない」
「そうね。何せ、大本営の多目的ホールで高らかに宣戦布告しちゃったわけだし、金のカードも持ってる。一番に潰されてもおかしくないわけよ」
「でも、私達がさせないわ。アキラ君の友達として、ちゃんと支えるんだから!」
「全くもって同感だ、楓。アキラの友として、無粋な事をする輩は絶対に許さん」
楓と結絆が言っているのは、カード狩りとアキラに敵対心を持つ連中に対してだろう。言葉を発してはいないものの、此所に居る皆も同じく身勝手な考えで、他者に不幸をもたらそうとする連中を嫌い、其の行動を許すことは無い。
「ふわぁあ~……話は、終わった…?」
むにゃむにゃと寝不足気味の口調で、小さな少女は七人に問い掛けた。彼女を揺さぶり、どうにかして起こそうとしている比叡と、彼女を落ち着かせる榛名、そして同じく眠そうに大きな欠伸をした加古。
三人はどうやら彼女の艦娘で間違い無いだろう。
「ああ、終わった。待たせたならすまない」
「問題、ない……むにゃむにゃ……。
私、
自己紹介にも関わらず、コックリと意識を落として眠ってしまった晶紀焔に、彼等の頭の後ろから大きな水玉が浮かぶ。
「司令!起きて!ください!」
「…………ハッ、……寝てない。寝てない……か…ら。大じ……zzz」
「起きて!ドーナツ!あげるから!ちゃんと!起きて!ください!司令!」
比叡が大声と共に耳元でガンガンと叫び、漸く晶紀焔はしっかりと目が覚めて、話を聞ける態勢になったらしい。
「ごめんなさい!ごめんなさい!うちの司令が居眠りシンデレラで、本当にごめんなさい!」
深々と何回も何回も頭を下げる比叡。艦娘それぞれが個々に違う性格を
そして、其の左手薬指には淡く光る一輪の銀輪が在った。
「比叡…あゃまらなくて、いーよ~…私の体は『特性』だから~…どうしようもないの…むにゃり…」
「でも…」
「大丈夫…比叡が、いつも支えてくれるから。私は安心して…眠れるの。…ありがとうね」
穏やかで母の温もりを感じる娘のように、安心している表情を見せた。其れだけ晶紀焔は彼女を信じているのだろう。
其の言葉で比叡は、ステルス機で奇襲爆撃を受けた炎上する建物のように赤面し。榛名は姉の様子を見て表情が孫バカの祖母みたく緩み。加古に至っては涎を垂らして、立ったまま器用に寝ていた。
「…牧園 アキラ、君…だよね…?合ってる…君の名前…」
「あ、ああ…それで、カードを掛けた腕相撲か?」
問い掛けるが、晶紀焔は無言である。
首を傾げた時、一瞬ピクンと体が跳ね頭がクラクラと動いた。先と同じく寝ていたのだろうか?
「腕相撲…そう思った、けど…やめた…」
「━━━━━━━はい?」
カードを狙うと公言した彼女が、前言撤回の宣言。
一体何が狙いなのか?
「代わりに、伝える…事…あった。……『
其の組織の名を聞いた瞬間、彼等の動きはセメントで固められたかのように、微動だに出来なくなった。
テレビを持っておらず、世間の情報を小さなラジオから得るアキラでさえ、『禍根の指輪』の起こしてきた事件は非常にインパクトのある物ばかり。
特に八年前に起きた半社会国家『イズラム国』とアメリカ軍の中東における戦いの際には、彼等は両軍へ武力介入を行い、双方に壊滅的被害をもたらした事件は今も記憶に新しい。
「穂花さん、奴等は何が目的で日本に来たんですか?」
「…………私にも、分からない。………でも…分かってる、ことは…一つだけ。奴等が…何か、
ねむねむ…比叡ぃ~駅へ運んでぇ…」
すやすやと眠り始めた晶紀焔を背中におぶさり、ペコリと一礼して比叡達が駅の方角へと去ってゆく。
「禍根の指輪…」
皆、奴等の目的や動向が気になる様子だ。しかし、自分達は今、本当にやらなければならないことがある。
「よし、皆。一旦、禍根の指輪については頭の隅っこに置いておこう。先ずは問弐の問題を解き明かす!」
魂冴門さんから渡された紙を開き、彼等はヒントの内容を読み上げた。
* * *
難しく読まず、其のまま読むこと♪
『乙』は昔、『いつへん』としても使われたのよん♪
割るのは最後の数字達♪
堀内 魂冴門より
* * *
「難しく読まずに、其のまま読む…えっと」
クリスが問題文の書かれた紙を出し、皆に見えるように中心に寄せる。
内容は『十の漢字が三つ《十十十》』と『木と乙の間に一本の棒《木┃乙》』『一の漢字が並び《一一》』。
そして『白は赤に染まる』、『六本木を区切り四谷と八王子《六本木/四谷八王子》』が続き、最後に『答えは割りて現れる』で〆られていた。
「十が三つ…三つの十…
問題文の暗号を復唱し続ける楓が、答えを手繰り寄せた瞬間だった。
「それだ楓!」
「じゃあ、木と乙の漢字は?」
「乙は、いつ辺として使われた。漢字の礼の右側にある、しに似た形の物だな」
「木といつ辺を合わせると『札』、そして『札の間』…札間…『薩摩』!」
「一一…一々…いい…『井伊』!」
バラバラで、ぐちゃぐちゃになっていたパズルは、一つのピースが嵌まり、徐々に。段々と答えを形作ってゆく。
「割るのは最後の数字…!六本木/四谷八王子、こいつを6/48に変えてから、割る!…『3/24』!」
「答えは出たわ。水戸と薩摩、そして井伊。これが関係して、尚且、3/24に起きた出来事。…もう『一つ』しか浮かび上がらない」
「それは…………『桜田門外の変』!つまり二つ目の朱印は『桜田門』に在る!」
答えは遂に出た。問弐は、其の場所で起きた事件と関わった者達を示すための暗号だったのだ。
「中野区から桜田門までは、かなり距離がある。他の問題を解き、途中で朱印を回収出来ればいいのだが…」
「健太郎さんの意見には賛成だ。時間を無駄にしない為にも、残りを解いてルートを決めよう。奴等と会わないようにしたいしな」
全員一致の答え。禍根の指輪の件も在る以上、電車に乗る時間を上手くずらそうとしたのだろう。皆は頷き合い、自分が持つ問題文が記述された紙を見る。
残された三つの問はこの文章で続いている。
* * *
問参 次の場所に三つ目の朱印在り
トツト トツ トト ツト ツトトト ツツツ トツツ
ツトトト トツト トト ツトト ツツト ト
トトツツ ツト トツツツ トトツトツ ツツトツツ
ツトツツトト ツトツツト トトト ツツトツト
問肆
神の宿る門に向かうべし
怒れる双神を取り持て
時告げる音が響く時
轟と共に証刻まれる
問伍 この問題は大本営で解くべし。
人生は常に、選択が憑き纏う。
軍人は特に顕著だ、選択を誤れば人や仲間を失う。
君達には、選択してもらう。
君は今、一台のトロッコに乗っている。
トロッコはブレーキが壊されており、中には一本の頑丈なロープしかない。
向かうレールの先には分岐点、三つの別れた先には右に老人が一人、左に子供が五人、真ん中に家族がそれぞれ四肢を縄で縛られ、線路上に転がされている。
ロープを使えば、一度だけポイントを切り替えられるだろうが、人を救い上げる事は出来ない。
君達はこの時、どのような選択を取るのか?
其の選択を疑似体験して貰う。
* * *
「一つ言っていいかな?」
「言うな…皆分かっている。何が言いたいのかも」
『大本営の頭脳派が、何考えてるのか分からない』━━全員が其の答えに行き着くのに、さほどの時間はかからなかった。
彼等が自分達の、提督としての『質』を測るのか、或いは『器』か、そはたまた『力』か…もしくは其れ等以外で、全く別の何かを測ろうとしているのか。
「本当に何考えてるんだろ…」
悪態を付くように、彼等は大きな溜息を吐き、ぐんだりと体勢を崩したのであった。
* * * * *
中野駅周辺…。
「…………zzz」
「寝てますね、穂花提督」
「はい…本当に、安心しているんですね…」
アキラ達と別れ、比叡におんぶされながら移動している穂花は、ふわふわとした表情である。其の脇を固める加古、そして榛名は朗らかに様子を見つめている。
「ほのちゃん、元気ィ~?」
そんな時、彼女達に気付いた人物が声を掛ける。其の人物はサラトガとの激戦を終え、他の朱印を回収しに行った筈のゴリオカマッチョ、堀内 魂冴門だった。
「あ、魂冴門さん!」
「ウフフ♪比叡ちゃん、その様子だと相変わらず大変みたいね。
榛名ちゃん。はい、コレ。ほのちゃんの大好物よん♪」
榛名に手渡した物は、ドースター・ドーナツ…通称ドスドの中でも、毎月売上ランキング上位五位に入ったドーナツを其々一個、計五個入った超人気商品『ドスド・ハイテンション・アソート』。
「………ハッ。ドスドハートの匂いがする」
「あ、大好物の匂いで起きましたね」
「……おはよ、おひさ」
「んもぅ。相変わらず、おねむさんなんだからぁ~。ま、立ち話も何だし近くのベンチでどぉ?」
ウインクし、近くベンチへと腰掛ける。榛名達が周辺を警戒・警備する中で、比叡の膝の上に乗った穂花はドーナツを栗鼠が団栗を噛るように、少しずつ味わって食べている。
「ねぇ…『ソウル』。私にドスドハート、くれた理由って…何?」
ジト目で見上げてくる少女に、魂冴門…ソウルはコホンと一拍置いた後で「そうだな…」と先までのオカマ口調から素の言葉使いに豹変し、話し始めた。
これが『組織』において、発足当時から続く大切なやり取り。只一つの『目標』を掲げ、戦い続けている者達の会話。
「…『タートル』から、連絡入ったのは貴女も知っているとは思う。
「うん聞いた。…このタイミングで、来たのは…何か理由有り…私はそうみている…」
アキラ達と会う前、二人は自分達が持っているスマフォとは違う、非常事態用の携帯電話からメールを受け取っていた。
内容は『各員へ通達、禍根の指輪が現れた。現時点で動ける者は他のメンバーと接触し、情報を共有及び戦闘準備を完了せよ。今まで備えて来た全てを以て、奴等を命懸けで捕縛せよ』との事である。
「…現状、行動可能なメンバーは既に対策と逮捕の為の準備をしてる。其れに『ファウスト』と『ホープ』も協力してくれる事になった。
あの二人が居るのは、俺達にとって心強い。」
ファウスト、そしてホープの名前を聞いた穂花の食事の手が止まり、魂冴門の方へと顔を向けて言った。
「ソウル。『あの二人』の手を借りるの、あまりにも危険過ぎるよ。だって━━━━」
「お前の気持ちは分からんでもない。だが…タートルは二人の力を借りる選択をした。彼が常に『真に正しい選択』をした事で、何時も助けられてきた。
其れを一番『理解』しているのは、組織内で『最古参』である、お前だろう?『リーファー』」
「……そう、だけど…………」
「兎に角、これからやらないといけない事は沢山有る。俺はこれから『ソルジャー』と『マジック』、『クラーケン』の小僧に『ウルフ』の馬鹿。
そして万が一も想定し、念の為に『サンダーバード』とも接触し奴等との戦いに備える。そっちも何かあったら必ず連絡してくれ」
魂冴門は立ち、小さく手を振りながらタクシー乗り場へと歩いて行く。
太陽の日射しが照る中で、穂花の表情に暗い影を落とす。
「…分からないよ、貴方には。私の『過去』に、何が遭ったかなんて━━━━━━」
穂花の脳裏に焼き付いた記憶は、刺鉄格子のように縛り付き、真剣に裂かれた傷みとして残り続ける。
彼女にとっての『過去』とは、忘却の彼方へと消し飛ばし、二度と見たくも聞きたくもない凄惨の出来事。
消し去れぬ痛みを抱え、彼女はドスドを噛み千切り、真剣な。そして悲哀の表情と共に立つ。
「それでも…それでも私は、生きなきゃ…いけない。
『パパ』、『ママ』…どうか、見てて。必ず…『仇』は討つから」
* * * * *
「集印走は、順調に進んでいるようだな」
大本営・某会議室内。一際大きな室内で曇硝子を隔て、小さなモニターで各々第一次選考の様子を伺う者達が居た。
彼等は『
彼等の口から『有罪』と言われれば、其の者は文字通り『有罪』とされる。そして『特例』が無い限り、決定が覆る事は『決して』有り得ない。事実、今日に至る迄の提督が起こした事件や事故を、様々な視点から観つつ卓越した知識と共に解決へと導いている。
「今のところ、問弐を解き明かして朱印を手にした者は全体の『三割』……前回よりゃマシじゃが、それでも『まずまず』といった具合じゃの」
「それでも今年は、頭のキレる連中が多い。無論『悪い方向』の考え方に至る者も居はしてるがな」
様々な場所から視点を常に切り替えつつ、各々自身の価値観を元に状況を吟味、提督達の力を見定めている。
「だが、我々にとって重要なのは其処に在らず」
「うむ…『奴』の動きには、未だ十分な注意が必要だ」
九聖天の構築員全員が、モニターで観ている者…其の人物は『牧園 アキラ』。
「牧園一族…奴等には我々の決断を、幾度と無く狂わされてきた。
「其れを変えたのも、牧園一族の仕業。でなければ『日露両国首相』が動く等、誰が予想出来ようか」
「故に奴等は常に監視し、綻びや隙を見つけ、即刻『処分』しなくてはならん。真の『世界平和』実現は、奴等の血を一片遺さず『根絶』し」
「日本…否、世界に仇なし。歯向かった『叛逆者』として血祭りに上げ、『完全絶滅』を成してこそ、初めて実現するのだからな」
「既に『策』は講じてある。なぁに…『多少の犠牲』は出るが、これも『護国』の為の致し方無い。寧ろ、尊い犠牲だ」
九聖天は静かに嗤う。深海棲艦との終わり見えぬ戦いを続け、既に百年の歴史を刻んだ地球と世界。
だが、百年の長い時間は大本営という大木の芯を、確実に、だが着実に蝕み、ゆっくりと腐敗させてきた。
牧園一族の存在━━━彼の一族が成し遂げ、紡ぎ続けた其の歴史は、九聖天の構成員の視点からすれば、ただただ『邪魔』でしかない。
自分達の威厳や立場を侵食される事に対し、人一倍敏感で許容を許さない者達は、牧園一族絶滅に尽力を注ぐ中で、正常な判断能力を失おうとしている。
其れが、日本史上類を見ない『最凶最悪の大事件』を引き起こす事に成る等と、知る由もなく━━━━━━。
* * *
大本営内。静かな廊下の窓硝子越しに見る景色を一人、静かに眺めていた。
鼠色のコートを羽織り、白の手袋と軍服軍帽を付け、其の黒く艶やかで、黒真珠の深みよりも深い、全ての光さえも一片たりとも逃がさず、呑み込む
彼女の名は
「
ぼんやりと窓の外の様子を眺めていると、声を掛けてくる一人の女性がいた。富士とは異なり、其の女性の髪は全ての偽りを一片残らず白日へと晒すかのような、純白で淀みも濁りもない清廉潔白に等しい真っ白な短髪。
そして黒いフレームの眼鏡を掛けて、明治時代の袴を彷彿とさせる足元まで隠す、長いロングスカートを着付けている。
「…『
富士型前孥級戦艦、其の二番艦の御霊と名を冠する艦娘・八島。彼女の前世は、戦艦として建造され、富士・三笠等と共に、当時世界最強と云わしめた
そして現在は艦娘として現代に甦り、富士の妹として、同時に片腕として、彼女の補佐を務める身である。
「そうですか…ところで富士姉。『三帝』の三笠殿から
八島が言う三笠と呼ばれる存在。日本海軍唯一無二の現存する戦艦であり、富士・八島と共にバルチック艦隊を撃ち破った英雄艦。そして何より、日本海海戦を勝利に導いた偉大な軍人である
艦娘として再び世に生を受けた後は、彼女等と共に東奔西走し、獅子奮迅の活躍で、来る日も来る日も、深海棲艦から日本を護った三笠は、艦娘として最高の称号たる『三帝』を賜る迄に至った。
「三笠から…?彼奴から私に対して言伝てをするとは、随分珍しい。何かあったのか」
ずれた眼鏡の縁を動かし、八島は富士へと託された言葉を伝えた。
「三笠殿は『禍根の指輪が東京都内に現れた』…そう言っていた。姉は…どうする?」
妹から伝えられた事実。富士は一瞬、殺意を面に出しかけたが、直ぐに深呼吸を行い、冷静を保つ。
「決まっている。九聖天に大本営と警視庁の両組織で事に当たるべきだと、直接意見を具申しに行く。禍根の指輪の暴虐は、大本営とて許す事も見逃す事もない。
放置し事件を起こされれば、我々は国防を担う者として、これ以上の屈辱を受ける上に、多くの国民が危険に晒される事になる。早急に動かなければ、大惨事になりかねん。━━━八島。九聖天との具申、お前も協力してくれ」
「仰せのままに、姉」
《三笠も情報を入手している事から、既に動いているだろう…問題は九聖天が重い腰を上げるかどうか。もし動かないなら、強行手段も視野に入れるしかない…。
覚悟し待っていろ、禍根の指輪。日本は貴様達の思い通りにはさせん、絶対にな》
コツリと、靴が廊下のタイルを踏み鳴らす。日本全土を震撼させる、大きな嵐は直ぐ其処まで迫っていた。
* * * * *
地中海に面する国、イタリア。観光とグルメの名所として名高い長靴型の国土を持つ。
白石で造られた住宅街は青い海と赤い焼き煉瓦のコントラストを受け、賑わいに包まれている。
「だ、誰か!助ぶ━━━ぇ!?」
「ヒィッ…!や、ヤダ…お願い、こない━━」
━━━━『筈だった』。『十数分前』までは。
観光客が乗ったボートは駆逐型深海棲艦に噛み砕かれ、乗客達の赤い血をぶちまけながら、海を赤黒く染め。
空爆と機銃が逃げ惑う人々を穿ち、血肉の欠片に変えて、破壊され残った残骸にべったりと刻み付ける。
軍の飛行機も、戦艦も。全て破壊され、海に大地に墜ちていった。
阿鼻叫喚…地獄絵図…いずれの言葉も表現にするには生温い。現すならば、此処は『
「パバァ~!ママ"~!どご~!」
「あづい!アヅイ、アヅイィィィ!!だずげで!だずげ…で……━━━」
戦火に巻かれ、逃げ場を失った者達は、煙を浴びて、肌を焼かれ、ただただ燃え朽ち、消えるのみ。
『オマエタチ、チチュウカイハ…ワレワレノテニオチタ!スキナヨウニ、アバレ…!クライ…!ハシャゲ…!
ジンルイノ…オエツ…ヒアイ、フンヌ…ゾウオ!ソレラヲスイトリ、サラナル…カテトシロ…!!』
深海棲艦達の蹂躙…其の災禍の中心に立つ、一体の異形。赤いコートを纏い、竜の顎を尾とする厄災。通称『血染めのレ級』。
『レキュウサマ、コノチイキ…イエ。チチュウカイゼンイキ、ホボ…セイアツ、カンリョウ…シテオリマス』
『カンムスモ…デテキタガ、アノ『ヨワサ』。…タイクツシノギニモ、ナリャシネェ…ジャネェノ』
レ級達、深海棲艦を撃退せんと立ち向かったイタリアの艦娘達は、全員が『
其れを、血染めのレ級は『たった一騎』で、艦隊を『壊滅』させたのだ。其れも僅か『三分』…一人に掛けた時間は平均『七秒』程度。
最早、其の強さは圧倒的と現す以外ない。
『マァ…コレカラ『オモシロイ』コトヲ、スル…ワケダカラ…。ソコハ、ドウデモ…イイカ』
素っ気なく言葉を吐き捨て、顎で合図を出すレ級。其れを受けた深海棲艦達が、動き出し体に付けた鎖を巻き取り引き上げる。
『サァ…ゼツボウヲ、アジワエ…ジンルイ』
海面を押し上げ、水柱を巻き上げて現れた物。
其れを見た者達は、其の表情を絶望に染め上げる事しか出来ない。
彼等が見たのは━━『巨大な十字架で張り付けに、四肢と身体中至る所を深海因子の杭で刺され、殆ど生気を失った、地中海最高峰の艦娘達の姿』。
少女だろうが、成人女性だろうが、関係は無い。皆全裸にされ、目の光は無く、抵抗さえままならない程に弱りきり、身体中に深海因子の侵食が見られている。最早、彼女達はどんな手を施したとしても救いようが無い…手遅れな状態。
其の変わり果てた無惨で酷い姿に、人々は現実を思い知らされた。欧州は深海棲艦の手に堕ちたのだ…と。悲しみと怒りと嘆きが黒い靄へ変わり、彼女達の体に刺さる杭へと流れ込んで行く。
『イイゾ…ソウダ、コウユウノデ…イイ。ワレワレニハ、カテナイ…ト、カンゼンナル…ゼツボウ。ソレ…ヲ、イッシュンデモ…イダカセル。
『タマウガチ』ハ、フカイカンジョウ…ノ、キフクデ、チカラヲ…ハッキ…スル。ソシテ…サイゴノ、シアゲト…イコウ』
再び指示を出し、イ級やロ級達が体内で強大な電撃を帯びる。其の電流が鎖を伝い、十字架に流れ込み
「あああああァイアア!?」
「がぁあ…アアァア…!!」
ブスブスと黒い煙を立たせ、朧気に写る景色を艦娘達は見た。火に巻かれた護るべき筈だった故郷は、見る影も無い無惨な廃墟にまで成り下がった。
自分達にとって、これ以上の絶望が在るというのか。
『オハヨウ、オマエタチ。…イヤ、コレカラマタゼツボウ二、シズムノダカラ…オヤスミ、ガ…アッテイルカ…』
「ぐ…ううぅぅ…!!」
睨むことしか出来ない。艤装も破壊され、あられもない姿を人々に晒した。今すぐにでも死にたい…そう思った。
『ヨクミテオケ…オマエタチノ、コキョウ…。ソレガ、ウシナワレル…シュンカンヲ』
駆逐、軽巡、重巡、戦艦と前線に出て複縦の隊列を取る。そしてレ級の指がパチンと一際甲高く鳴った瞬間、一斉に砲撃を開始した。
其の砲弾は只の砲弾に在らず。
此迄、幾度と無く陸上型の深海棲艦達が討ち滅ぼされてきた、自分達にとって忌まわしき歴史とも言うべき兵装『三式弾』、そして『WG42』。
其れを深海棲艦達は長い戦いの中で得てきたデータと経験を元に独自で製作を行い、遂に身に付けていたのである。空中で炸裂し、流星群のように降り注ぐ鋼鉄の雨は、イタリアの壊された町並みを、更なる破壊の旋風で凪ぎ払う。
彼女達の耳には、何とか残った人々が死に行く幻影が映り。骸と変わり果て、自分達に怨みを抱きながら、迫ってくるのが見えた。
「うぁあぁ…アアアアアあああああ!!イヤだ…い、ヤメテ…やめてぇえええええ!!!!アア"ア"アアアア"アア"ア"アアア"ア!!!!!」
絶望…絶叫…嗚咽…深海因子が蝕む中で彼女達が見た、焼け落ちる故郷。嗅覚を犯す血肉の焼け焦げ、噎せ変えり、吐き気をもたらす異臭。
光を無くし、曇り、くすんだ瞳から、赤から青へと変わる血の涙と、懺悔の言葉を吐露し、彼女達は深海棲艦へと堕ちて行く。
『イイ…ヒメイダ…!フッ…フフフ…!
アッハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!!
ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!!ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!!』
血染めのレ級、そして彼女に組する深海棲艦達が引き起こした、この出来事は『欧州壊滅』として、後の世に語り継がれる事となる。
しかし、人類はまだ知る由も無い。
これが、深海棲艦による『全人類絶滅計画』のほんの些細で。これが後に起こる地獄への、単なる『
・人物紹介
産まれた時、医者が重いと違和感を覚えた為に精密検査をした結果、常人の七十倍の筋繊維密度を持っている事が判明。単純な力比べでは並の艦娘を寄せ付けぬ怪力を持ち、軽巡級深海棲艦(ネームドを除く)までなら砲撃を真正面から受けても掠り傷すら負わない。反面、常に膨大なエネルギーを体内で消費しており、眠る事で体力の消耗を押さえている。
食べても食べても太らない事を女性提督から羨まわられているが、本人はとても気にしており、普通でありたいと心の中で思っている。
ある組織内では最古参であり、コードネームは『リーファー』。
・艦娘紹介
趣味は富士の観察と、官能小説(かなりハードな)の読書。