将来を有望視された青年が、冤罪で問題山積みの鎮守府に着任されました。 ~地獄の底からこんにちは~ 作:ガリアムス
そしてこの事件は、アキラ達を含めた多くの提督や艦娘達の心に大きな傷を遺すことになります。例え自らが傷付いたとして、それでも此の小説を読み切る覚悟が…貴方にはあるか?
※此のお話の途中、アキラの『一番最初の友』が登場します。彼にとって其の人の存在は、彼のトラウマとも言える『最悪の時期』に大きく関係しています。
大本営最強鎮守府決定戦には、幾つかの予選がある。
頭脳・知識・体力…何れも提督として必要不可欠な要素の資質を見極め、決定戦に相応しい存在であるかを見極める為に存在する。
中でも『特殊選考』として、まことしやかに噂されているのが『集印走』。
東京都内に点在する五つの朱印を集めきる其の選考は、提督と艦娘達の強い繋がりを試すとも言われている。
そして、この集印走には『ある噂』も流れていた。
『集印走は、護国の戦士達に厄災を招く、呪われた競技だ』…と。
* * * * *
「さて、どうしようか…」
中野駅・駅前大通り。都心部程では無いものの、中位の高さで建ち並ぶビルと人々の賑わいが耳に響く。
流れる人々を眺め、牧園 アキラはコンビニで買った飲料水を喉に流し込みつつ、冷を取った。
喉を鳴らす度に冷たい衝撃が、神経を駆け巡り、熱射で乾ききった五臓六腑の細胞達に、涼みと潤いをもたらして行く。
「…ぷはぁ。あ~…水がうめぇ」
心底から脱力の溜息を付く。緊張感は拭い切れないが、こうして息抜きをしておかないと体が持たない。
「ツトトツ ツ トト…何か聞き覚えがあるのよね」
「双神に由来が有り、東京都内限定の地域…そうなると『雷門』が有力になるが…」
「ツトト…何だろう?私達に関係あるのは確かな筈…」
そんな小休憩でも、
「ツ…そして…ト。何の意味だか、俺にはさっぱりだ」
「私も~…頭捻っても、ぜっんぜん分かんない」
問参の文章、ツにトが羅列する其れには、必ず意味が在る筈。しかしアキラは、楓達のような秀才ではない…凡人程度の頭脳しか、彼は持ち合わせていない。
ただただ延々と唸り、どうする事も出来ない、無力な自分が嫌になる。何の力にもなれず、誰の役にも立てない。己の非力さが、憎くて、醜くて、仕方無い。
このままでは『あの頃』と━━━『最悪の時期』の自分と、同じになってしまう。
視界が暗闇に充ちてゆく。このままでは━━━
《モウヒトリノオレヨ》
刹那、其の暗闇に光刃が差し込み、帳を割き切るが如く、心理の内側に潜む闇の自分の声が響いた。
《オレトオマエノ、『視覚』ヲ『繋ゲロ』。オマエハワスレテイルダロウガ、オレハ『過去』ノキオクヲ、イマデモオボエテイル。
オレタチノキオクノナカニ、コタエガアルハズダ》
絶妙なタイミングでの助け船、
《分かった…やろう》
《…イクゾ!》
眼を閉じ、心の奥底から上がってくる闇の自分と、意識を重ね合わせる。
光の自分の魂と闇の自分の魂の、魂から放つ波長の同調と連動。そして━━━共鳴。
直後。彼の灰色の髪は更なる白を帯び、ゆっくりと開いた眼は光彩が赤から真紅に変化していた。
《頼むぜ…》
* * *
埃臭い…『彼』が第一印象に覚えた物だ。あちこちが埃を被り、不快感と不潔なものとして写る。
何かガラクタのような、それでいて何処か見覚えのある、とても懐かしさを覚える…そんなものばかり。
アキラ…彼の魂に存在する其れを、此処では闇アキラとでも呼ぶことにしよう。彼が歩く度に、床に着いた綿埃が巻き上がり、臭いが鼻に引っ付く。
嫌そうな表情を浮かべつつ、彼との視界共有で見ている映像を横目に、奥まで歩き着いた闇アキラは、机の上に一冊の青い表紙の本を見付けた。
他の物とは比べ物にならない程、一際古びた其の本。まるで蝋燭の灯に集る蛾達の様に、闇アキラは其れを手に取り、頁を捲った。
『━━━━━アァ…ナツカシイ。ソンナコトモ、アッタカ』
柄にもなく、深い溜息と満足感に充ちた言葉を吐いた。
幾度も、幾重にも。捲り、読む毎に、残骸となり忘却していた物が復元され、甦ってくる。
『…ン、コレハ。…ソウカ。ドウヤラ、『謎』ハトケタヨウダナ』
闇アキラの手が止まる。獰猛な、それでいて自信と確信に満ちる、真っ黒な悪い笑みを浮かべつつ、表人格のアキラへ自分が得た情報を伝達していった。
* * *
「…………そうゆう事か」
七人の提督と二十一人の艦娘達が、一心に見つめる状況で、アキラは一言そう呟いた。
「アキラ、何か分かったのか?」
「うん…昔の記憶を何とか引っ張り出したら、答えが見えた。問参の問題文を解読するには、ツとトを読む必要がある…そう思っていた」
「違うの?」
「うん。ツ、ト…これは『線』と『点』を表している。そして線と点を使って打つ暗号を、俺達は皆知っていると思うよ」
「線…点…暗号…あ、そうか!『モールス符号』だね、アキラ!」
モールス符号とは、『可変長符号』と呼ばれる物を文字コードにした物を指す。其のモールス符号を電信にした物を『モールス信号』と言い、現在でも船が嵐等で電子機器が使えない時に、電探の光や紅白の旗を用いて、隣船に状況を伝える等に使われている。
「正解だ、クリス」と、アキラは右手でサムズアップ。彼の答えを聞いて「成程~」と納得する楓と、「よくやったぞ、アキラ!」と背中を叩く結絆。
《へぇ~…あんまり頭が良くないって思ったけど、意外と出来るじゃないの、アキラ君。
いざって時に頭が回る子は、私や健ちゃんの経験上、窮地で何皮も剥けて化ける事が多い…其の上、化けた後はより『厄介』になる。
…浮か浮かしてたら、私達も寝首を掻かれちゃうかも、ね…》
希望は見出だされた。後は問題文をモールス符号に従い、解読する。
━━━━━『其れだけの筈だった』
ゴォォォォォォォ━━━━━━━━!!!!!
響く、大馬力の重低音。そして時折、ガウン!ゴズン!と何かに激突した音が混じって聞こえている。
「…ん、何の音だ?」
「司令官、どうしました?」
「さっきから、物凄い音が響いているんだけどさ…何だろう…って」
ゴォォォォォォォ━━━━!!!!!
其の音は段々と、確実に、そして着実に、此方へと近付いてくる。更には激突音に加え、人の悲鳴迄もが聞こえ始めた。
「…何か、来る…のか?」
「アドミラール、私達の後ろに。何が起きても、貴方は私が守る」
「皆、気を付けて!第一優先は『自分の身を守る』!!何か起きたら『直ぐに逃げる』!!其れに全神経を注いで!!」
亜衣の掛け声で重要人物を護衛するSPの如く、艦娘達は各々の提督を護るべくを背を提督達に向け、三方向にに展開。辺りに起こる、僅かな変化にも対処出来るように身構えた。
ゴォォォォォォォ!!!!!!!!!!
只でさえ遠くからでも響いて聞こえた音が、益々大きく激しくなり、此方に近付いてくる。人の悲鳴や激突音が先程よりも増えてゆき、アキラ達の心に恐怖の震えをもたらし。暑さとは別の、冷たい汗を滲ませ、全身に滴り、服を下着を濡らす。
━━━━━━━━━━━其の直後。
廃墟の撤去で使うダイナマイトが炸裂するように、彼等の近くに有ったコンビニのゴミ箱が、突如として大爆発を起こして、店の内側外側を爆炎で焼き尽くしたのである。其れを皮切りとするかの様に、コンビニの両隣の蕎麦屋と美容室が爆発。更に其れ等の店の隣の店舗が、ドミノ倒しを彷彿とさせる連鎖爆発が起きた。
平和な街並みは、僅か一分足らずで地獄絵図へと変わり果て、怪我をし倒れた人や火に巻かれた者達が、苦しみと嘆きの声を挙げる。
そして…大通りを時速150kmは出ているだろう、超猛スピードで目の前を突っ切った、大型アメリカントレーラーが鉄道橋に激突し、大爆発と共に完全崩壊させたのだった。
「キャアアアア!!」
「逃げろぉぉぉぉ!!」
混乱と混沌に満ちた広場に、人々の声が響いては消える。爆破の残り火で生まれた熱で揺れる景色の中、トレーラーのコンテナ部の扉が開かれた。
其の中からは、覆面と防弾装備を整えた『百人』程の機関銃等で武装した者達が一斉に飛び出し、あろうことか何の躊躇もなく街中で銃撃を始めたのであった。
『逃げろ!!振り向くな!!走れ!!早く!!』
アキラが叫ぶと同時に、皆一目散に走り出す。何時自分が撃たれるか分からず、捕まれば只では済まない『恐怖』。最早、残された選択肢は『逃走』のみ…其れ以外、生きる者達に出来る事は何もない。
「ぐぁ…!」
「やめ…おね『バンバンバン』ツ……━━━━」
逃げる途中、悲痛な声が耳にべとりと張り付いて離れない。逃げ遅れたり、転び止まってしまった者達の結末を想像するだけで、身体中に鳥肌が立ち、震えが止まらない。
『ビルの方に走れ!何が在っても絶対に止まるな!』
遠くで機関銃が鳴り、人々の悲鳴が聞こえてくる。
今すぐにでも助けに行きたい。
一人でも多くの命を救いたい。
それでも。
そう望んでも。
アキラ達は、自分の身を守る為、其の場から必死に逃げる事しか出来ない。現代においても、銃所持の有無は戦闘能力に天地の差を生む。牙を持たぬ者達は、保身の為に強者に下るか、被害を受けぬ為に逃げるか、単に蹂躙されるのみ。
『力の無い者に、自分や他人の未来や平和は護れない』
おじいちゃんの言葉が胸に木霊し、心に突き刺さる。
自分達には、彼等を護れる力は無い。
誰かが撃たれ、次は自分が狙われる…そう思うだけで、怖くて恐くて仕方が無い。
逃げて、逃げて、逃げて…息が苦しくても、心臓が潰れそうになろうとも。ただただ…逃げる。
それしか、彼等には出来なかったのだ。
* * * * *
同時刻、新橋駅周辺。
「何!?中野駅周辺で爆発と銃撃があっただと!?」
『現在、中野駅交番の警官との連絡が取れておらず、詳しい被害状況が把握出来ていない。現場に急行し、状況を確認されたし!どうぞ!』
「っ…分かった!だが、その前に!衛星ハナブサの超ズームレンズを使って、中野駅周辺で何が起きているのかを確認し、其の映像を此方に送れ!
後、『SAT』並びに『VDF』にも連絡を入れておくように!」
『了解です!』
「…よし。皆、聞いてくれ!」
無線を切り、甲染は仲間達に向けて指示を出す。
「先程、中野駅周辺で所属不明の武装集団が銃撃と爆破テロを行ったという、緊急入電が入った!俺と善吉、数名で中野駅に向かう!残りは此の場所の後処理後、警視庁に帰還し武装を整えておけ!
これは『訓練』じゃねぇ、『戦争』だ!全員覚悟を決めろ!良いな!」
『はっ!』と全員、甲染に一糸乱れぬ敬礼をする。大本営内の軍人のだらけた彼とは、打って変わった様な真逆の態度を知っているのは、警察界隈でも善吉を含む十数名だけ。真実を知れば、どんな反応をみせるのだろう。
だが、そんな彼等の横を『何か』が高速で通過する。
そして一番奥に停めてあったパトカーが、アクション映画
「何だ!?」
「全員伏せるか、パトカーの影に隠れろ!」
甲染の指示が飛び、警官達も一斉に車体を盾に隠れ、ホルスターに閉まった拳銃を引き抜き、
数秒の時が過ぎた時、三十代前半の男性警官が双眼鏡で犯人を捉えた。
「━━━━━…マジですか」
驚愕の後に漸く絞り出した言葉だった。彼が見たのは『三台の装甲車両と中型戦車を主力とし、八十人以上は居るであろう武装集団』の姿。
そして何よりも、戦車や防弾ヘルメットの正面に付いているロゴマークは『十字架と左の穴から血を流す、髑髏の首飾り』…見まごう事など、警官なら有り得ない。
「甲染さん、敵を見付けました!敵は
繰り返す!て『パーン』……━━━━」
其の言葉が紡がれる前に、警官の右米神から血が噴いた。彼の身体はまるで、糸が切れた操り人形のようにアスファルトへと吸われ、倒れ伏し、血の赤で灰色の大地を染めた。
「即死…狙撃銃か!全員、周囲にも気ぃ付けろ!」
ダダダダダ!ダダダダダ!!
刻まれる発火のリズム、無数に飛来する弾丸。
車道の横に止められた車やタクシー、トラック、正面のパトカーを瞬く間に貫き、破壊し、爆破する。まるで自分達の視界に映る『モノ』を有象無象関係無く破壊する、麻薬中毒狂人の其れのようであった。
「クソッ、撃ってきやがった!!未だ、此方とは距離が在るっていうのに!!」
「泣き言、寝言は後で言ってろ!今は増援到着まで絶対に『生き残る』事が最優先だ!俺の許可無く、勝手に死んだらもう一回叩き起こしてブッ殺す!分かったかお前等!!
『絶対に生き残れ』!!!!!」
武装の質。敵の数。滅入りそうになる気持ちを蹴り飛ばし、甲染は先輩を、同僚を、そして後輩を鼓舞し、押し上げる。
「…へっ!クソガキが、一丁前にイキッてんじゃねぇやい!」
「禍根の指輪だか何だか知らねぇが、そんな屑野郎共にビビって怖じ気付く程、俺達性根は腐っちゃいねぇぞ!」
彼に触発された仲間達の強がりの発言、死への恐怖に揺らいでいた者達に希望の火が灯る。
《取り敢えず、何とかなった。後は『アイツ等』が早く来る事を祈るしかねぇな》
差し迫る禍根の指輪の軍勢を前に、甲染も自分の拳銃を握り、呼吸を調える。
死ぬ訳にはいかない、何としても生き残る。
覚悟を決め、飛び交う弾丸の中で彼は、自分達の敵を睨み付けた…。
* * * * *
『失礼するッ!』
其の一際大きく、遠くまで響く声と共に、扉を勢いよく押し開き、バン!と高らかな音が鳴る。
「…ノックをしたまえ、富士。其れが礼儀というものだ」
「無礼は承知している。だが、今は緊急を要する。多少の無礼は許容願いたい」
九聖天の一人から叱りの声が上がるが、富士は静かに返し、彼女は彼等の前へと歩み出る。
「…で、君は何をしにきたのかね?」
「貴殿方なら既に、三帝の三笠から情報を得ている筈であろう?禍根の指輪が、東京都内に現れた…其の情報を」
彼女の言葉に、曇硝子越しの彼等の雰囲気が変わったのを富士は見逃さず、勢い其のままに畳み掛ける。
「私が貴殿方の元に来たのは他でもない。禍根の指輪から国民を守るために、ある『御願い』をする為。
回りくどいのは、何分嫌な性なので単刀直入に言おう。今現在、東京都内に居る艦娘全てに対し、設けられた制約である『
富士が言う、能力縛鎖は艦娘が人類に反旗を翻さぬよう、此の世界に産まれた時から持つ『烙印』に似た物。これがある限り、彼女達は本来の
しかし、大本営に実力や価値を認められた一部の艦娘は、自らに設けられた縛鎖を解除、艤装を展開し、其の力を最大限に発揮出来るようにする者達も居る…『先導者』の龍驤や、『三帝』の富士、三笠も其の中に居、非常事態に自身の艤装を纏い、戦うことが可能だ。
其れが可能になれば、艦娘達は兵力として十分な力となり、禍根の指輪に決して負けぬ力を得られる。
「事態は一刻を争う。機を見謝れば、取り返しのつかない大惨事になる。貴殿方の慧眼ならば此の状況に対する答えは既に出ているはずだ。
…今は警察、大本営と対立している場合ではない。両組織が垣根を越え、力を合わせて此の問題に当たるべきだと、私は断言する」
日本という欠け換えの無い國を、其処に生きる無数の民を救い、そして守り抜く。富士の言動には常に護国の二文字が在り、其の意味を成す為に動いてきた。
今までも、これからも、其れが変わることはない。
「成程…君の意見はよく分かった。君も…そう思うだろう?『三笠』よ」
コツン…コツン…と床をヒールが鳴らし、出入口に待機している八島の前を通り、富士に似た服装に身を包んだ三帝の一人にして、艦娘である三笠が歩いてくる。
「えぇ…富士の意見は、此の状況に対する大本営の最善策を的得ており、良い答えだと思います」
「三笠━━」
「でも…」
そうゆうのは、『要らない』んですよ、富士。
「………は?三笠、何を言━━━」
其の直後、彼女の懐から取り出されたスタンガンが、富士の頚部に触れ、バチィッ!と雷が落ちた様な音が響いて、部屋を揺らした。
「あ…ア━━━…み、が……ざ━━」
全身から黒煙を立たせ、床に落ちる富士は薄れゆく意識の中で、三笠の顔を見た。そして驚愕する。彼女の瞳からハイライトが失われ、『金色の
其の紋章は、大本営が深海棲艦や犯罪者から『拷問』を用いて情報を引き出す際に使っていたとされる、今は歴史の流々で消えたとされている筈の物だった。
「…お、まえ……何を………さ━━━━━」
真実を聞き出す前に、富士の意識は完全に絶断され、暗闇の中に墜ちていった。
「姉!!三笠、貴様ァ!姉によくも!!」
倒れ伏して動かない富士。凶行に及んだ三笠に殺意を以て叫んだ八島だったが、「貴女もです、八島」と懐へ飛び込み、スタンガンで彼女の脇腹に超高圧電流を流し込み無力化。
八島もまた、
「…ふはははは、はっはっは……!いやはや、超一流役者さえ顔負けの良い演技であった。御苦労、三笠」
三笠は死んだ魚のような濁った目で二人を見下ろし、直ぐに九聖天に一礼、二歩後ろへと下がり片膝を付いて、彼等への忠誠を示す
「しかし富士の奴が、能力縛鎖開放を具申するとはの…。だが、三笠が富士達を『裏切り』、此方側に付いていたとは思うまいて」
「裏切る…か。我々が十数年も手塩に掛けて『洗脳』してきたのだ。其の成果だろう」
「これで『邪魔者』は居なくなった。予定通り、我々は『報告』を待つ…。『牧園 アキラ』━━━━奴の。牧園 ジュウゴの血と意思を継ぐ男の『死亡報告』を…な」
大本営最高最終意思決定機関・九聖天。
積み重ねた悪意の牙が、罪無き者達に迫ろうとしている。ドス黒い、狂気に染まった彼等の言葉と瞳には『正義』と『護国』の文字は存在していない。
唯一人の人間を殺す為だけに、数十万人の人々の命を危険に晒し、あまつさえ犠牲にしようというのだ。
《俺は…何の為に、此所で働いている…何の為に…》
彼等の持つ恐るべき顔を見たメンバーの一人は、静かに。己の中にある正義に問い掛けていた。
* * * * *
「ハァッ…ハァッ…!畜生、本当に何なんだアレは!!いきなりゴミ箱は爆発する!トレーラーが鉄橋に突っ込む!そして銃撃が始まる!
何なんだ…何なんだよ、アレはッ…!!!!!」
中野駅から離れた、とあるビルの隙間。
へなへなと建物の壁に背中を凭れ、真守は息と愚痴を漏らした。
「もしかして、アレが。…楪さんが、ボク達に言っていた…禍根の指輪…の、軍勢…なの?」
「分からない。でも、可能性が有るとするなら…其れしか有り得ないよ」
最悪としか言いようがない。自分達が隠れているビルの谷間の外からは、未だに鳴り止まぬ銃撃音と、人の悲鳴が途切れ途切れに響いてくる。
「此処も何時奴等に嗅ぎ付けられるか…取り敢えず、此処から移動しましょう。…出来るだけ、遠くまで…」
亜衣の意見に皆が賛同。静かに、だが素早く、移動を始めた。谷間を抜け、路地に出る辺りで亜衣はスマフォのビデオ機能を使い、慎重に左右を見、安全を確認する。
「《駅方面は銃撃が続いているから論外…。新宿方面は音が聞こえないから、大丈夫と断言出来ないけれど『安全』であるはず…》
皆、左方面に走るわよ」
全員一致で頷き、機を見計らい一気に走り出した。
ナビ機能で地図を開き、最短ルートを表示。
走り、走り、走り続ける。
振り返らず、耳を塞ぎ。
止まらず、足を動かした。
「よし、前にある信号を真っ直ぐ突っ切るわ。そうしたら…」
「あ、亜衣さん前!」
スマフォの地図情報をナビで見ながら走っていた亜衣、それにより彼女は、左から現れた人影に気付く事が出来なかった。
「きゃあ!?」
「痛っ!?」
楓の呼び掛けも虚しく、出逢い頭に衝突してしまい、互いに尻餅。亜衣とぶつかった衝撃で、もう一人の持ち物を入れた鞄が吹っ飛び、地面に落ちた衝撃で中に入れた物が散開してしまう。
「亜衣、大丈夫か?」
「う、うん…私は平気よ。それより…」
「あ、あぁ!ごめんなさい!」
彼女は謝りながら、散開した中身を鞄に押し込む。
「後は、資料が…」
「これか?」とアキラが足元に落ちていた紙を拾い上げ、手渡そうとした。
「あ!ありがとうございます、大事な…物……何で……す………」
「……あ………━━━━」
アキラと彼女の言葉が詰まり、止まった。
「あ、アキラ…君、よね?」
彼女が震える声と、今にも泣き出しそうな表情で、アキラに近づいてくる。だが、アキラの顔は瞬く間に怒りの感情に支配され、鬼が宿ったかのような形相を成しながら、彼女から遠ざかってゆく。
俺達は知る事となった。
彼女の名は『
彼女がアキラと『小学校時代の同級生』で、アキラにとっての『初めての友達』だった事を。
そして━━━━
アキラの『最悪の時期を作った存在』である事を。