将来を有望視された青年が、冤罪で問題山積みの鎮守府に着任されました。 ~地獄の底からこんにちは~ 作:ガリアムス
禍根の指輪という組織に、牧園一族が何をしたのか。
そして最凶最悪の事件として後世に語り継がれる、禍根の指輪が起こした『ゲーム』を書いていきます。
『忌まわしき牧園一族の血筋を継承する者!牧園 アキラ!!!!!
そして大英帝国王位継承権第一位!エリザベス・エリーゼ・クリスティアル!!!!!
我々は心より!神々に感謝するゥ!!!!』
禍根の指輪のシンボルマークを映す画面から放たれる、狂気を纏った声が、白に密封された空間を揺らし、響き、思考を粗鑢で削られる感覚に襲われる。
だが、この状況下において一番動揺していたのは、他でもない━━━『彼女』。
「…なんで…どうして…━━━━━。どうして、ボクの…ボクの『本名』が………」
西村 クリス━━其の本名改め、エリザベス・エリーゼ・クリスティアル。
大英帝国王位継承権第一位の
自分達平民凡民とは住む場所も、考え方も、格式さえもまるで違う、別世界にいるであろう
『何故、どうして、だと…?クリスティアル王女。貴女の本名を、何故我々が知っているのか?…とな。
我等の恨み、憎しみは、
『我が故郷』を破滅に追い込んだ、大英帝国への『復讐』の為に、あらゆる国勢情報を逐一収集し続けている。四百年前より誓われた我等の祖先との、永く遠い約束なのだ』
禍根の指輪を統べる者。
兵士達に『ボス』と呼ばれる者が語り出すは、禍根の指輪…其の『生誕』へと至る話だった。
『死に逝く貴様達に、冥土の土産として教えてやろう。我等『禍根の指輪』が出来、今日まで辿ってきた『歴史』をな』
* * * * * * * * * * * * * * *
『今は亡き我等の故郷…『スヴィロ王国』はとても小さな国だったが、かつては『錬金術』によって繁栄し、其れにより産まれた純度の高い鉱石を用いて、周辺国と貿易を行い、静かな営みを続けていた。
だが時代は変わった。
船により海外へと進出した国々による、侵略と植民地の政策の時代の到来。大きく畝り、変革し続ける世界情勢の荒波は、我々の国を瞬く間に飲み込んだ。其の中でも大英帝国の侵略が、王国に牙を剥いたのだ』
錬金術…土より金を産み出す、万物の理を越えた術式。かつては奇跡や魔法等と言われた、今は無き御伽噺のような物である。
其れを用いて、昔に栄えた国が在った…世界史や日本史をよく読んだアキラも、初めて聞く事実だった。
『大英帝国の侵略に、我等の祖先は不戦を掲げ、議論による調和を見出だそうとしていた。…だがァ!!!!!
奴等はそんな祖先や先人達の想いと願いを!尽く踏みにじったのだ!!!
何をしたと思う…?
話し合いの為に赴いた、王国の良識有る大臣達を招き入れ、酒に淹れた毒で殺し!!
そのまま王族の宮殿を強襲して、王族達を十字架に張り付け、国民の前で火炙りに処して殺し!!!我等の『国の象徴』を奪い取った!!!
さらには国民達を捕らえ、其れを分けた上で、男達を奴隷として別の国に売り飛ばし!!女達は強姦して娼婦へ堕とし!英国へと連れて行った!!
残された子供と年寄達には、考えられない程の重度の労働を課した!
朝から晩まで馬車馬の様に一日中働かされ!!!まともな給料も!休みも!教養さえも認められない!!!!!
地獄のような横暴の連続に、祖先達は『国を捨てる』苦渋の決断をするしかなくなったのだ!!!!!』
自国の発展と繁栄の為に、力を持たぬ
其れはかつて
歴史には必ず、誰もが知り得て語り継がれている『光』にあたる部分と、語られず忘れられた当事者のみが知り得る『闇』にあたる部分が存在している。
言うなれば、スヴィロ王国に起きた悲劇とは。
『イギリスの歴史書にも、世界史の歴史にも記されていない。其れを知る当事者から刻々と引き継がれ、現在まで継承し、紡がれた『闇の歴史』の一つ』なのである。
『国を捨てて生き残り、地獄の底よりも深い深淵で泥水を啜ってきた祖先達から、私は此の話を毎日のように聞かされてきた。
『英国に復讐を果たし、かつて我等の祖先が味わい続けた屈辱を、奴等に。英国王族達に果たすべし』と。
そして五十年前だ。私はかつて国を捨て、別の場所へと散り散りに逃げ延びた祖先達の子孫を探し当て、呼び戻し、復讐の為に決起した。
志同じくした仲間を集め、練密な計画を練り、戦うための訓練を施し、十年の歳月を掛けて、我々は一つの組織を作り上げるに至った。
其れこそが『禍根の指輪』だ。スヴィロ王国に生きた王族達と其の地で生きた民達が、大英帝国への復讐を成すべく
我が組織は復讐を始めた。其の第一歩として、我々は『ダイアナ妃の暗殺』を計画、そして実行したのだ』
「……………は?」
「ダイアナ…様、が…?」
ダイアナ妃、本名ダイアナ・フランセス。英国国民達に、『ヴェールズ公妃ダイアナ』や、『プリンセス・オブ・ヴェールズ』と呼ばれ、広く知られた美しい女性。
彼女の波瀾に満ちた人生は書籍となって語り継がれ、彼女を襲った事故の真相は今尚解明には至っていない。
其のダイアナ妃を仮に禍根の指輪が暗殺したとするならば、これまでの捜査や考察は180度逆転し、世間は更に大騒ぎになる。
『我々は同志達が築いた情報網を駆使し、仲間の一人が彼女の乗る車の運転手に成り済まして搭乗し、同時にマスコミに変装した別動隊で車を追い、私は猛スピードで逃げつつ、事故に見せ掛けるように、そのまま激突し死ぬように指示を出した。
奴は喜んで、我等の為に其の命を捧げてくれた。
そして其の先は…お前達がよく知っているだろう』
仲間に対して『大義の為に死ね』と言い、其の為なら仲間達は軽く。己の命を天秤に掛けて、ボスや仲間の為に投げ出せる。いや、『投げ出せてしまう』。
最早狂気の沙汰だ…アキラもクリスも、そう思わずにはいられなかった。胸の奥底から吐き気が襲い掛かり、酷い頭痛に見舞われる。
『ダイアナ妃の暗殺成功は、我々にとって最初の復讐となった。このまま行けば、我等の最終目標である『英国陥落』も夢ではないと。私はそう思っていたのだよ』
『だがァ!!!!!!!』と声色には怒りと憎しみを含みながら、ボスはスピーカー越しに、とんでもない事実をぶちまけたのである。
『ダイアナ妃の暗殺から二ヶ月後の事だ。奴が………『牧園 ミノル』が単身、我等のアジトへ突如として乗り込んできた!
『ダイアナ妃を殺した貴様達を、俺は!俺達、牧園一族は絶対に許さないッ!!!!!』━━そう叫びながら、我が組織を蹂躙したのだ!
一撃も攻撃を受ける事なく同胞達を倒し、捕らえ!掻き集めたの武器を破壊し!作戦案を滅茶苦茶に破り捨て!我々の心を壊す鬼神の如き姿を見る其の時まではなァ!!!!!』
《…牧園 ミノル…?というより、牧園一族は何でダイアナ妃が、事故死じゃなくて暗殺されたって解ったんだ!?》
アキラは衝撃を受けた。牧園一族の人間が単身、名が知れ渡り、危険極まる巨大テロ組織を、孤軍奮闘の末に叩き潰していた事に。
そして禍根の指輪がダイアナ妃を暗殺した事に気付いていた事に。
『私は逃げた!必死に逃げた!同胞達を見捨てて、逃げて逃げて、ひたすら逃げ続けた!牧園一族の気配に怯え!震え!眠れぬ夜を幾星霜と過ごした!
奴の!たった一人の人間によって、再び地獄の底に叩き落とされたのだ!私はなァ!!!!!!』
ガァン!と、机か何かを蹴り飛ばした音が響く。息が荒振り、憤怒の呼吸が聞こえてくる。
一発の弾丸を浴びる事なく、多数の敵を圧倒したというボスの発言から、牧園 ミノルという人間は少なからず『心理の先読み』を使用して、禍根の指輪の兵士が放った多重の銃撃を躱わした可能性がある。
『ふぅッ…!ふぅッ…!
だが…私は諦めなかった』
スッと呼吸を調える。
そして再び語り出す。
『私は生きる希望を自らに定め、同時に課した。『牧園一族への復讐』と『大英帝国への復讐』と言う名の薪を魂の炉へと焼べて、業火に変えて生きてきた!
地獄の底より深い深淵を歩き続けながら、もう一度!0から仲間を集め!資金を調達し!訓練を重ねながら組織を再編させるまでに至った!
かつて牧園 ミノルに与えられた屈辱を反省し、同じ過ちを繰り返さぬ為に世界各地に仲間達を送り、テロを起こし、諸外国の動きを牽制するように動き!
時には戦場で争う者共を強襲して、我等の組織の武力・統率力を戦闘によって証明した!其の甲斐在って、嘗て以上の力を手に入れたのだ!
フハハハハハハハハハハハハハ!!!!!!!!!』
高らかに、勝ち誇ったように、笑っている。
転んで、地獄を見、其れでも尚諦めずに、声主は組織再編を成し得た。形や方法、過程は置いておくにしても、これだけの事が出来たのは、声主の持つカリスマや組織経営手腕等も要因だと思われる。
復讐の為に人生を
もしも…彼が生まれ育った環境が違っていたらと、そうアキラは思わずにはいられなかった。
『…さて、だ。語るべき事は語り終えた。貴様等は今すぐに殺す』
声色に殺意が再燃し、兵士達のヘルメットで見えないが確実に向けられている視線が、アキラとクリスに突き刺さる。
だが……
『━━━と。言いたいところだったが、このまま殺すのは余りにも『面白味』に欠ける。其処で、だ。
二人には『ゲーム』に参加して貰おうか。
言っておくが、クリスティアル王女。貴様が参加を拒んだなら『コイツ等』が犠牲になるだけだ』
モニターの表示が切り替わり、映った光景を見た時。クリスの顔は蒼白へと変わり果て、絶望に歪むしか無い。
二人が見ている映像は『何処かの建物内』、其れも『高貴と気品に充ちる宮殿』のようである。
「何で…何で。…どうして貴方達が『バッキンガム宮殿』の中の映像………を!?」
バッキンガム宮殿…其れは英国王室にとって、最も権威の在る王族達の住まう城にして、受け継がれてきた歴史ある崇高な建物。普段ならば内部の撮影は愚か、建物に入ることさえ出来ない。まさにアキラのような一般人にとって、ある種の憧れを抱かずにはいられない謎多き場所なのである。
『バッキンガム宮殿内部の映像』…二人の頭を同時に過った疑問はこうだった。
ならば『禍根の指輪が言った『コイツ等』とは『誰の事』を言っているのか?』━━━━と。
「………あ━━━!!!!!?????」
其の答えに辿り着いた瞬間。アキラは、人生でこれ以上にない程の激震が走り。
「……まさか……!!そんな…………!!!」
クリスは、考えられる中で最も最悪の状況に震撼する。
『そのまさかだ』
モニターの映像がゆっくりと。少しずつ動き…室内の中央へと移ってゆく。
撮されたのは、宝石装飾に彩られた一際大きな二つの玉座…其処には二人の男女が、苦渋で歪んだ顔を下へと落とし、腕掛けに乗せた両手を強く握っていた。
そして其の周りには。禍根の指輪の兵士達が機関銃を構えて、銃口を二人に対して向けている。
クリスは『知っている』━━其の男女が『誰』なのかを。
そして同時に、禍根の指輪が『何』を仕出かしたのかを『知った』。
「
禍根の指輪に、人質とされていたのは━━━あろうことか、英国の『国王と女王』。奴等は遂に、其の領域にまで足を踏入れ。且、
最早、
『我等が祖先よ!!!!!!
私は遂に、貴殿方の積年の願いを成就させる!
今こそ、牧園一族に我等が正義の鉄槌を!!
故郷を食い漁った大英帝国に神罰を!!!
さぁ、始めよう!』
『裁きの天秤』を!!!!!!!!!!
ボスの高らかな。絶対的声量を皮切りに、突如スマフォのブザーが緊急事態メールを知らせるかのようにけたたましく鳴り始めた。
これが後に、最凶最悪の事件として日本犯罪史、ならびに当世期最大の世界的大犯罪として語り継がれる『悪魔のゲーム』の始まりであり。
そして同時に。
『牧園 アキラ』が『日之國の英雄』と至る、其の伝説を語る上で、決して外すことの出来ぬ『逸話』が生まれた事件でもあったのだ。
* * * * * * * * * * * * * * *
━━━━━き━━。……━━起き━━━━……
……━━━━起き━━━!
━━━━……起きて!
「━━━━…う、うぅ……?」
身体中を気だるさが支配する。其れはまるで、錆び付いた機械のように重苦しく、ダルい。
混濁した意識と視覚の迷宮を抜け出て、
「…あ、気が付いた!健ちゃん!楓ちゃんが目を覚ましたわ!」
重い瞼を上げると、ぼやけた視界に仲間達の顔と身体の輪郭が映る。安堵の息を漏らす者、状況を伝達するため走る者と、それぞれだ。
「…み、んなは…無事、なの?」
まだ意識が完全にハッキリとしない中で、楓は仲間に安否を問う。
「楓……」
「それは……」
仲間達が口隠る。何か後ろめたい事でもあるのか。
だが、其の答えは早くに健太郎の口から告げられる。
「……西村 クリス『だけ』が、今此所に居ない」
「ちょっ、健ちゃん!?其れは言わないって言ったでしょ!」
「目が覚めた以上、当たり前の事実を言━━ムグ」
「だから其れが駄目だって━━━」
「━━━━………其れは、本当何ですか」
亜衣が口を塞ぐが時既に遅く。楓はポカンとした表情から一転、口調が重くなる。
「か、楓ちゃん…あのね━━」
「あぁ。そして、おそらく。クリスは禍根の指輪の連中に『誘拐』された可能性が高い。
奴等は麻酔弾を使って俺達を眠らせ、其の間にクリスを連れ去った。被弾直後に全身から力が抜け落ちたような感覚があった事から、間違いない。
問題は奴等が『何故』彼だけを誘拐したのか。其処に答えは必ず在る筈だ」
亜衣の言い訳が始まるよりも早くに、健太郎が自分達に起きた出来事を語る。
「クリス君は………」
「……『今』は無事だろう。だが、其れも何時まで無事かは『解らない』。必ず奴等は何かしら『要求と解放条件』を提示してくる。其れまでは━━━」
ブゥゥゥゥゥゥゥゥ!
ブゥゥゥゥゥゥゥゥ!
「え!?何!?何の音!?」
「うわ?!何これ!?」
大きく、けたたましく、鳴り響く音にビクンと身体が跳ねる。其のブザーはスマフォから鳴っており、画面には禍根の指輪のロゴマークがデカデカと表示されている。
「禍根の指輪…!!!」
健太郎と鈴谷のスマフォの画面を囲うように艦娘達や楓、亜衣が集まる。そして変声機を使ったかのような声が、スピーカーから聞こえてくる。
『日本国民の諸君、ごきげんよう。
私は
まるで英国紳士が、朝の軽やかな挨拶を交わすかのように。声主は静かに、こう伝えたのだ。
『これより君達には、
無論拒否権は無い。不参加の者には漏れ無く『死の片道切符』が飛来する』
* * * * * * * * * * * * * * *
東京都内、新橋駅周辺。禍根の指輪によって荒らされたビル街の間を、小型の戦車と十数名の武装した人々が駆け抜けている。
彼等は、対禍根の指輪撃滅掃討部隊…通称VDFと呼ばれる武装集団であり、新橋駅に現れ、狂気と猛威を奮い、警官隊に大打撃を与えていた禍根の指輪の一個中隊を、難無く撃砕したのだ。
『此方、タートル。別地域の部隊、現状報告を頼む』
VDFの小型変型機動戦車・アイアンスラッガーを駆り、指示を呷るのは、此の武装集団のリーダーであり、コードネーム『タートル』こと『牧園 コウゼン』。
『此方ソルジャー♪上野駅周辺に出て来た、
『エイプリル。品川駅周辺の
『相変わらず過激にやったろ、お前ら。…まぁ良い━━』
『タートル、其れに皆』とリーファの声が事態を一転させる。
『今、スマフォを持ってる人は其れを。そうじゃない人は、街中にあるスクリーンを見て。
指示を受けた部隊の面々は、周囲に警戒しつつも、各々のスマフォや大型ディスプレイに視線を向けて行く。
『今この映像を視聴している者達のスマートフォン及びパソコンには、このような画面が表示されているはずだ』
ロゴマークが右下に縮小し、空いたスペースに二つの画像が現れた時。
『タートル』こと『
二つに区分され、現れた画像…其処には『左側に牧園 アキラ、右側に西村 クリスの顔写真』が在った。
『君達にはこれから、二人の『運命』を決める為の『投票』を行って貰う。制限時間は今より『一時間』、画像に映るどちらかのパネルにタッチするだけで良い。
ただし…投票するに当たって、諸君等には幾つかの注意事項がある。
先ず始めに、投票は『何度行っても構わない』。一票だろうが、一万票だろうが、一度でも画面に触れれば良いのだ。
次に投票時間中の『中間発表は一切行われない』。これは、時間経過で結果が見えてしまっていては『面白味に欠ける』とした、私の独断である。
そして最後に。投票時間中に『二人のどちらかに一万票以上の差が生じる度に』━━━』
東京都内の何処かにセットされた爆弾を起動させ、爆破する
禍根の指輪のボスの告げた、衝撃の言葉が東京と国民に激震を走らせ、底知れぬ恐怖の竜巻へと無理矢理巻き込む。
想像を絶する。長い、永い、一時間の戦いが━━━始まる。