※この作品はR-18です。

将来を有望視された青年が、冤罪で問題山積みの鎮守府に着任されました。 ~地獄の底からこんにちは~   作:ガリアムス

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今回のお話は禍根の指輪(ダリアス・フレッチェル)の行う、悪魔のゲーム『裁きの天秤』によって起きる波紋を、各陣営の視点から書いていきます。


将来を有望視された青年が、冤罪で問題山積みの鎮守府に着任されました。~禍根の指輪と最凶最悪の事件 其之伍~

『一人が持つ投票数は自由、中間発表は行わない、そして一万票以上の差が生まれた瞬間に、東京都内の某所にセットされた爆弾が起爆する。

 

さぁ━━今この瞬間より君達の手で、二人の運命を選ぶと良い』

 

其の言葉を最後に、禍根の指輪のロゴマークは画面から消え、代わりに制限時間を示す『60:00』のタイマーが現れた。

 

直後、タイマーが動き始める。

 

59:59…59:58…59:57…━━━━━━━

 

牧園 アキラと西村 クリスの、両者が『無事で居られる』残り時間が、一秒ずつ、確実に減って行く。

 

『禍根の指輪は、とうとう暴挙に出たと見るべきかな。タートル』

 

「……どうだか。だが、ハッキリとしている事は二つ。今、奴等によって『民間人二人が人質』にされ。『東京都民達が傷付き』、『東京都内全域が危険に晒された』という事実だけだ。

 

俺達は奴等を許さない。あとソウル、お前は他の隊員を率いて、各所の別部隊に合流しておけ。まだ何処かに潜伏してる可能性が━━━」

 

━━━━ザザザ!!!と、アイアンスラッガーの車内に設置された無線に、緊急の入電が入る。コウゼンは他の隊員達のマスクでも受信可能になるように、電波を調整してリンク用のダイヤルを回しつつ、無線に応答した。

 

「此方タートル、何があった?」

 

『此方、港区の禍根の指輪の一個中隊を鎮圧したガブリエル小隊の隊長、『ガブリエル』です!!タートル!!今さっき、爆発が起きた!!

 

おそらく奴等が言ってた爆弾が、起爆した可能性が非常に高いと思われます!』

 

『速過ぎる』。開始から未だ、三分どころか一分も経過していない。つまり此の三分未満で、牧園 アキラと西村 クリスの得票数に『一万票以上の差が生まれた』のだ。

 

しかし今は。VDFの隊長としての責務を果たさねばならない。コウゼンはガブリエルに対し、爆発が起きた場所を問い掛ける。

 

そうして、ガブリエルから返ってきたのは。

禍根の指輪という巨大テロ組織が、血も涙も無い最凶最悪の集団だと言う事を、VDF隊員全員の肝に改めて銘じるものだった。

 

『爆発が起きた場所は『東京タワー内にあるメインデッキ』!!今、消防と警察に連絡を送っています!

これから俺達ガブリエル小隊は、別箇所の避難誘導に着手します!!』

 

既に禍根の指輪が現れた情報は彼等の特設ネットワークに流れており、確実に何らかの被害が出るだろうとVDFは予測していた。

 

其処で警察並び消防へ働きかけを行い、主要高層建造物を利用中の人々に対し、万が一を想定する避難訓練と称した退避を、同時多発的に実施するよう要請。更には其の全てに立入禁止のロープテープを張り、安全を確保していたのである。

 

もし動くのが後少しでも遅かったなら、メインデッキ内に居た人々は爆発に巻き込まれ、被害は一層拡大していただろう。そう考えただけでも、背筋がゾッとする。

 

「ふぅぃ~……。だが、絶対に油断はすんなよ?良いなガブリエル」

 

『了解です!』

 

「あ、後一つ。これは『俺の勘』なんだが…『東京タワー』と『とうきょうスカイツリー』の周辺にいる一般人や警察官、消防士や消防車を全部『下げさせる』事は可能か?

 

倒壊…とまでは行かなくても、倒れた時には備えて起きてぇ」

 

『はい、大至急やってみます!』

 

「んじゃ頼む」と、コウゼンは無線を切った。

 

が、其の矢先に再び緊急の入電が無線に入る。

 

「今度は何だ!?」

 

『タートル!俺だ、『ライガー』だ!今、お台場海浜公園に現れた禍根の指輪を捕らえきった所だ!!

 

だが、ヤベェぞ!『レインボーブリッジの中央付近』から黒い煙が上がってやがる!!禍根の指輪(やつら)の仕業か!?』

 

「レインボーブリッジだと!?火は出てるかライガー!?」

 

レインボーブリッジとは、日本の観光名所の一つでもあり、港区と江東区を結び繋げる大きな吊り橋を指す。

毎日多くの車やモノレールが橋を渡り、荷物や人を乗せて運ぶ、人体で言うところの大動脈に匹敵する重要な場所だ。

 

禍根の指輪は、的確に。自分達の嫌な部分を、こうも簡単に突いてくる。

 

『………出てるぞ!!しかもこんままじゃ、他の車にも引火して、最悪の場合、レインボーブリッジが『割れる』かもしれない!!』

 

割れる。つまり、レインボーブリッジが真っ二つになって、東京湾へ落ちる。

開設されて以来、補修と点検を幾度と無く繰り返し、日本の経済と交通を支え続けた、白い巨大な橋。

 

設計者や工事に携わった人々の、汗と涙と血が創り上げた橋が、禍根の指輪の暴虐により鉄屑へと還される。そんな事は赦されない━━赦してはいけないのだ。

 

コウゼンは再び思考する。

 

このペースで爆発が続けば、被害は確実に拡がり、日本の経済が深刻な麻痺で滞り、国の未来は暗闇に彷徨うのは、火を見るよりも明らかだ。

 

かといって、人質になったアキラとクリスの両名の命を切り捨てる事は、警察官の誇りとプライドが許さない。

 

《どうするべきか━━━━!》

 

コウゼンは常に、『真に正しい選択』をしてきた。

 

ならば今、自分が本当にやらなければならない事は何なのか?

 

《━━━━落ち着け。感情的になりやすいのは、俺の悪い所だ。冷静に考えろ……。

 

奴等は複数箇所に爆弾を仕掛けていた。仮に『爆弾の起爆装置』を兵隊達が持っているとして、まだ捕まっていない仲間が現場で爆発させるか?

 

間違いなく、奴等はやるだろう。………だが。そうなると、『二段構え』の可能性も浮上する。禍根の指輪のボスが起爆装置の大元を持っていて、兵隊達の物(ブツ)が子機だとすりゃ、兵隊がミスったとしても親機が無事なら、爆破は可能。

 

なら………『これ以上の爆破を起こさせないようにする』、そして奴等に悟られる前に人質二人の解放。これが『最善手』だ》

 

コウゼンはスーツの通信機能を操作し、ある隊員にチャンネルを繋ぐ。

 

其れは彼が、VDFの中でも最も信頼し。

VDFの歴代隊員の中で、最高にして最強の身体能力を併せ持った存在。

 

「━━━━━リーファ、聴こえるか?」

 

『コウ…ごめん。━━タートル、どうしたの……?』

 

VDFという組織内で『最強』を示す三つのコードネームが在る。

 

一つは天の世界を治める、最強の大天使の名を頂いた『アズラエル』。

 

一つは生物の至原たる海を統べる、海の神の名と同じ『ポセイデュオ』。

 

そして『リーファ』…其の由来は、ある地方で大樹の名を頂いた、『不動不屈の精神と絶対不変の無敵の肉体』を意味し、正に彼女を顕すのに、これ以上に無い物。

 

「リーファ、早速だが頼みがある。アズラエルに東京全域を射程に収める『超広範囲電波切断フィールド』の使用許可を伝達。

 

それから、早急にレインボーブリッジに向かい、引火した車の排除を行ってくれ。奴等、車を連動爆破で橋を破壊し、海に落とすつもりだ」

 

『…了解…。けど、アズラエルに直接頼んだ方が……良いんじゃ……?』

 

タートルからの依頼に、リーファは数拍置いて問い掛ける。

 

「あのな…アイツとの仲が『最悪』なんは百も承知だろ?お前から伝えた方が、状況的に見ても一番手っ取り早い。

 

それに…此の組織(VDF)で、お前の身体能力で右に出る奴は居ない。

 

事態は一刻を争う。取り返しが付かなくなったら、俺は此の決断と選択を下した自分を許せなくなる。━━━頼む」

 

普段ならば、ふざけてチャラ気た言葉や頼み方をするタートルが、何時も以上に真剣に。誠意を深々に込めて、自分に頼んできている。

 

『………ドーナツ』

 

「…何?」

 

『……この…混乱が終わったら………一杯……沢山……私に、ドーナツ…食べさせて……。………約束、なんだから………』

 

「!!━━━━分かった。百個だろうが、千個だろうが、俺が全部!お前が満腹になるまで奢ってやるよ!」

 

『…………ありがとう。………頑張ってくる』

 

タートルから言質を取ったリーファ。通信は其処で切れる。

 

「覚悟しなきゃかぁ…やれやれ、俺もヤキが回ったかぁ…」

 

パシン!と拳で自分の掌を叩くと、彼は隊員達に指示を出す。

 

「オメェ等!よく聞け!

 

俺とソウルはこれから、禍根の指輪の人質となった牧園 アキラと西村 クリスの『救出』に当たる!他の隊員は東京都内全域に展開!警察と消防の救援並びに、潜伏してる禍根の指輪の兵士達を見つけ出し、無力化!もし、可能ならば捕縛するように動け!

 

尚、この後に電波切断フィールドが発動し、一切の『通信機器と電波受信機器』が使えなくなる!だが、お前達はこうゆう状況下でも戦えるように訓練を重ねた筈だ!自分を信じて、仲間を信じろ!

 

各員、行動開━━『待ってタートル!』って何だよ!?誰だよ、此所でビシッて決まるはずだったってのによ!?」

 

コウゼンの号令を良いところで仏切りにしたのは、VDFの隊員の一人であり、『ホープ』…其の正体は、牧園 アキラの在籍する華裏鎮守府の艦娘の一人、望月(もちづき)だ。

 

『私だ、ホープだよ。…張り切った所で悪いんだけど、『物凄く悪い案件』が上がった。皆のメットに其の一部始終を流すから…『覚悟』してくれ』

 

始めるよ。そう言いきって、望月が流したのは━━━

 

『大英帝国、王位継承権第一位!エリザベス・エリーゼ・クリスティアル王女よ!』

 

西村 クリスが、イギリスの王女である事を示し。

 

『我等、禍根の指輪(ダリアス・フレッチェル)は今は亡きスヴィロ王国の英霊達の怨念が、大英帝国への憎悪と憤怒により地獄の底より甦った亡霊達だ』

 

禍根の指輪の誕生と、今に至る迄の歴史を紐解き。

 

『最初の復讐としてダイアナ王妃の暗殺を計画、そして実行したのだ』

 

謎に包まれたダイアナ王妃の死に関与し。

 

『もし。貴様が参加を拒めば、コイツ等が死ぬだけだ』

 

『御父様(パパッ)!御母様(ママッ)!』

 

更なる人質として、大英帝国の現国王夫妻が、禍根の指輪の手の内に在る事を示す、重要な証拠映像だったのである。

 

「……ホープ。イギリスに居るVDFには状況は、コイツは見せたのか?」

 

『見せたよ。既に隠密機動隊がバッキンガム宮殿に向かっている。おそらく、9~10分で確実に決着が着くと思う』

 

「…分かった」

 

コウゼンは静かに無線を切ろうとした。だが再び、緊急入電を報せるブザーが鳴り響き、彼は取らざるをえなくなる。

 

「今度は何だ!!?」

 

『タートル!私よ、リーファ!今、箱崎ジャンクションと其の周辺の高速道路橋が爆発して、道路が倒壊!下を走っていた車が潰されて下敷きになったり、瓦礫で身動きが取れなくなってる!!』

 

制限時間を示す時計を見る。残りは56:54、そしてこの時点で『三回』も爆発が起こった。

 

一万票の差が『こんなにも早く出来るか』?……はっきり言って、其れは『不可能』なのだ。どんなにタップするにしても、人一人がスマフォの画面を叩く速度には『限界』がある。疲労すれば尚の事、速度は落ちる。

 

これは━━━明らかに『異常』だ。

 

ならば、其れを可能にしている『カラクリ』は『一体何なのだ』?

 

「《くっそ…何か引っ掛かる…!!何だ、何なんだ━━!》…ちぃ、リーファ!ジャンクションの瓦礫の撤去と救助活動を始めろ!近くの隊員にも連絡し援護!!

 

他は先の通り各所に展開し、救援と救護、禍根の指輪の排除と捕縛だ!時間はねぇ、始めるぞ!」

 

VDFは改めて、護国の為に、自らの成すべき事の為に、動き出す。

 

国を、民を、これ以上奴等の好きにさせぬ為に。

 

 

* * * * * * * * * * * * * * *

 

同時刻、大本営・某会議室内。

名を改め、九聖天・特別応接室。

 

「フム…どうやら、禍根の指輪が何やら面白い事を始めているようだ」

 

机にセットされた、小さなモニターに映る禍根の指輪のシンボルを見つめた者達の中の一人が、顎を指先で擦り、呟いた。

 

彼等の名は九聖天、大本営最高最終意思決定機関の最重要役職に着く、選ばれた『九人』の人間達。しかし現在、曇硝子の壁越しに写る影と輪郭は『八つ』しかない。

 

「裁きの天秤…牧園 アキラと西村 クリスのどちらかに投票せよ…と」

 

「奴等の思惑はどうであれ…『牧園一族の抹殺』が出来る良い好機」

 

「左様。既に『用意した策』も発動済。これで、牧園 アキラの死は『確実』なものとなった。フフフ…今から一時間後が楽しみだ」

 

「牧園 アキラ…奴の死を以て、大本営は。否、此の世界に生きとし生きる、全ての人類は『未来永劫の安寧』を得る」

 

牧園一族の抹消…其れが九聖天の出した『最終決定』である。

 

だが、九聖天は知らない。

 

西村 クリスの本名が、エリザベス・エリーゼ・クリスティアルであり、同時に彼女が大英帝国王位継承権第一位の王女である事を。

 

そして、其のクリスの両親━━大英帝国国王夫妻達が、禍根の指輪によって人質に取られている事を。

 

「ところで…一人おらんようだな。奴は何をしている?」

 

「手洗いに行く…とか言っていたな。だが、万が一もある。私の手下二人に後を付けさせ、監視しておく」

 

「面倒事は起こす前に防ぐ。当然ですな」

 

「仮に…『地下牢に監禁した』富士と八島の『解放』でも画策した時は。其の時は『反逆者』として憂い無く『排除』出来ますしな」

 

「「「其の通り」」」と彼等は納得し、再びモニターに視線を移す。其処には本来なら『有り得ない』光景が映っている。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

禍根の指輪のリーダーが『大局を見せず、ゲームをより面白くする為に、隠した筈の得票数』。

 

其れが彼等…九聖天の見る小型のモニターには『ハッキリ』と。早送りでもしているかのような、爆発的な上昇を見せる数字がリアルタイムで刻々と刻まれ続けているのが『見えていた』のだ。

 

其れも━━━『牧園 アキラ』の方に、濁流の如く得票数が雪崩れ込むのを見て、心の底から樮笑みながら…。

 

 

* * * * * * * * * * * * * * *

 

 

「…用心深い事は理解していたが、彼等はこうまでするか」

 

九聖天の暴意が牙を剥いていた其の頃、大本営内・多目的トイレでは、一人の黒軍服姿の男性が、水道で手を洗っていた。

 

『血』で、汚れてしまったからだ。

 

「……分かっている。自分が何をしたのかも、これから何をするべきかも、今の自分なら分かる。

 

…『潮時』だな」

 

彼の後ろの個室…床の小さな隙間から少しずつ、血の海が広がり、灰色のタイルを汚してゆく。

 

其の中には二名の男達が顔をぐちゃぐちゃに殴られ、元はどんな顔形をしていたのか、分からなくなる程に変形し、乱雑に放り込まれていたのである。

 

「行こう」

 

ハンカチで手を拭き上げ、彼は行動を開始する。

 

廊下を進み、非常用階段へ続く扉を開き、素早く降りる。そうして一階の出入口まで辿り着くと…徐に床を擦り、何かを探し始めた。

 

「…………『在った』。影の噂と思っていたが、『実在』していたのか…」

 

色を塗られ、カモフラージュされていた。彼は右手の親指でそれをグッと押し込む。出てきたのは『取手』、床下倉庫へと進む際によく見るような、分度器型の取手である。

 

持ち上げるとギイイ…と、不気味な金切り声を上げて開かれた。其の先は所々、錆び付いた古い階段と暗闇が唯々在るのみで、灯りは一切無い。

 

男は其の闇へ、自ら飛び込んでいった。一段…また一段と…先の見えぬ果てへ、彼は進んで行く。そうして辿り着いた終着点…其処には只成らぬ異臭と不潔さが漂い、息をするだけで腹の中の物を全て戻してしまうかのような、異質な空気に満たされていた。

 

「…うぅう"~……━━」

 

「…………アバァア━━━━」

 

ゾンビのような声がして、彼は慎重に歩みを進め、角から顔を出す。暗闇に目が適応し、左右を見渡すと、其処には鉄格子が長い直線廊下の果ての果てまで、ベルリンの壁の如く続いている。

 

そして、頑強な鉄柵で隔てた向こう側を見た時、彼は言葉を失い、言葉にすら出来ぬような、今までにない怒りの感情を抱いた。

 

何故なら━━━━

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『白骨化した死体』や『餓死寸前の人間達』が、手首足首に鉄錠の枷を嵌められ、内部には犬等のペットに与える餌皿以外に何もなく。汚物や汚泥にまみれ、そして年月を経て変色した頭蓋骨や肋骨等が散開する『廃棄所』に等しい惨状が、隠すこともなく広がっていたのだから。

 

《これが大本営の…!俺が『正義』と信じてきた組織の、やる事かッ……!》

 

唇を噛み締める。

 

自分は国を守る為、大本営に入った筈だった。努力し、役割を果たし、地位に至る為に色々な物を切り捨て、敵を蹴落とし、漸く九聖天という一つの場所に辿り着いた。

 

だが、他の九聖天が見せた『悪意』に、彼の正義は揺らいだ。そして、モニターに映った物を見た時、彼の中にあった大本営という正義を成す組織は、硝子細工の如く粉々に砕け散った。

 

彼に残されたものは最早、修羅の道に堕ちようとも護国の為に命を懸ける事しかない。

 

其の為に此処に来たのだから。

 

「…裏切り者が、何の用だ」

 

彼の三個後ろの牢屋から、静かな怒りを内封した声が聞こえる。牢屋の前まで歩いて行き、スマフォのライトをオンにして中を照らす。

 

其処には、普段の気品と気高さに満ちた表情と姿とは真逆の。汚物に塗(まみ)れ、死んだ魚の目で此方を睨み威圧する、手首を壁に埋め込まれた鎖付鉄錠で繋がれた、富士と八島の二人が居た。

 

「…貴殿方の護国に基づいた正義と最適解の具申を、我々九聖天が身勝手な行動と悪意で踏みにじった事。

 

謝罪させて頂きたい」

 

彼は静かに、不潔な床に膝と掌を置き、額を擦り付けて土下座をしたのである。普通ならば、誰しもが『躊躇』する筈だ。にも関わらず、彼は迷い無く其れを実行した。簡単に出来ることでは無い。

 

「そして御願い致したい。貴殿方御二人の力で、大本営の一部を『破壊』して欲しいのです。

 

今、VDFと警察が協力して、東京都中の禍根の禍根の兵士達を捕らえようと動いています。大本営で爆発が起きたとなれば、必ず疾風の如く駆け付ける。

 

其の時に此の惨状が目撃されれば、必ず警察は動きます。そうなれば大本営は…此の組織は必ず、大きな変革を余儀無くされる。

 

例え悪に染まろうとも、私は━━私自身の正義に嘘を付き、約束を庇護する事をしたくないのです」

 

彼はそう言い切った。自分の地位と信念を秤に掛け、護国の為に、信念を選び取ったのである。

 

「何故…そうまで、言い切れる?」

 

話を聞き終えた富士が、彼に対して疑問を投げ掛ける。

 

「お前は、九聖天の一人だ。だが、あの中では…『唯一』と言っても過言じゃ無い程に━━━『異質』だ。

 

何故…其処まで出来るんだ…。お前は━━━『何なのだ』?」

 

富士の問い。男は静かに、床から顔を上げて、こう答えた。

 

「私は、九聖天の一人…『鈴宮(すずみや) 清秀(せいしゅう)』と申し上げる者。

 

ですが━━━。其の名前は世を忍び、身分を隠すための『偽名』でしかありません」

 

清秀は汚れた手で、自分の頭に着けた軍帽を外す。そして片膝立ちで、二人にこう告げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「私の本名は━━━『牧園 セイシュウ』。牧園一族の人間の一人として。

 

そして、我が一族の希望。『牧園 アキラ』の命を救う為に、こうして貴殿方に御願い申し上げたのです」

 

 

* * * * * * * * * * * * * * *

 

 

同時刻、華裏鎮守府…。

 

「━━━━━今、何と?」

 

フレッチャー・ジョンストンと、長門・龍驤による華裏鎮守府で保護したアイオワ並びにサラトガの身柄についての会議。緊迫した口論の末に、互いの妥協点を見出だした事で、両陣営は一先ず事なきを得た。

 

━━━━のだが。

 

「もう一度言うわ。貴方達の提督が此処に帰って来て、私達と話し合うまで、私と姉さんは『此処に留まらせて貰う』から。

 

既に本国には状況を伝えてあるし、この際だから鎮守府を見させて貰う事にするわ」

 

ジョンストンの発言にポカンとしている長門。あまりにも自由奔放で、あまりにも身勝手過ぎる。

そんな彼女に、フレッチャーは待ったを掛けた。

 

「ジョン。此処の皆さんも、いきなりそんな事を言っては困ってしまうわ。ナガトさんもあんな顔をしていますよ?」

 

「じゃあ聞くけど姉さん。壊れた艤装でどうやって海を渡るの?正直無理ね、チャーター便もこんな場所に来るわけ無いし、陸地は遥か水平線の先。

 

取り敢えず、艤装の修理を終えるまでは停留するしかない。何か間違った事を私が言ってる?」

 

至極まともな理由に、フレッチャーは立つ瀬がない。『妹が淡白過ぎて、お姉ちゃん悲しい…』━━━━そんな想いを抱いているのを、龍驤は心理の先読みで、ジャービスと時津風に頭を撫でられ、慰められているフレッチャーの心境を読み解いた。

 

「そうなると、部屋を決めなアカンね。サラトガにアイオワと同じ部屋んなっても構わへん?」

 

「そうね…出来れば、そうして頂戴」

 

龍驤の質問に、ジョンストンはそう答えると、椅子に座り、取り出したスマフォを弄り始めた。まるで実家の自分の部屋のような寛ぎ具合に、龍驤も目を丸くする。

 

だが…其の手は突然止まった。

 

「…ジョン?どうした?」

 

「姉さん…日本のトーキョーに『禍根の指輪』が現れて、犠牲者が沢山出たって…緊急ニュース速報が入った。其れから……『軍人二人』が、奴等に人質として捕らえられていて、何かゲーム?みたいなので、運命を決めるとか何とか…」

 

ジョンストンがスマフォを操作し、彼女に其の証拠を提示する。だが、其の画面を遠目で見ていた長門は目を見開き、そして震えた。

 

「おい、其れを此方によく見せろ。ジョンストン」

 

「は?いや、何で見せなくちゃいけ━━『見せろ』ピィ!!?」

 

今まで味わった事の無いような、別次元の殺気にジョンストンの身体はビクン!と跳ね、フレッチャーと時津風はあわわと怯え、ジャービスは何々?と背伸びして見ようとしていた。

 

「見せろ。…二度も、言わせるな」

 

ゴゴゴゴゴゴゴ…と空気が震え、長門の威圧が空間を握り潰さんとするような、圧迫感とプレッシャーにジョンストンは堪らず、スマフォを彼女に手渡した。

 

「………何故、お前が人質になっている」

 

握る手に力が籠り、スマフォのフレームがミシミシと嫌な音を立てている。隠し通せぬ怒りが、彼女の内側から漏れ出し、溢れて、纏ってゆく。

 

「長門はん、どしたん?何かヤバそうな顔しとるけ━━━「アキラが。…『私達の提督』が、禍根の指輪に捕まり、殺されそうになっている」━━何やて?」

 

龍驤もまた、其の小さな身体から、有り得ぬ程に膨大な剥き出しの殺意を放ち、長門に問う。

 

「長門。アキラと、もう一人の人質は後何分で『処刑される』?」

 

「この速報から計算して…残り時間は後『53分』と考えられます」

 

「分かった。ウチはこれから、明石ん所に向かう。何か分かったら報告しぃ」

 

龍驤はそう言って、窓から飛び出すと自身の持つ特権を行使し、艤装を展開して工廠の方へと全力疾走していった。

 

「ちょっと、私のスマフォ!あああ!画面にヒビ入ってる!何してくれたのよ!」

 

長門の手の中に在ったスマフォを取り返し、ジョンストンは彼女に文句をぶつける。

 

「…済まん。私達の提督の身に、危険が及んだ事を知って、頭に血が登り、カッとなってしまった」

 

深々と頭を下げて、謝罪の意を示した長門。そんな中、ジャービスはジョンストンの右後ろから、彼女のひび割れたスマフォの画面を見た。

 

そして、一瞬の内に絶望の表情へと豹変し、へなへなと床に座り込んでしまう。

 

「ジャービスちゃん…?大丈夫…?」

 

「嘘だ…嘘だ、嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だッ!!!!!」

 

頭を抱え、恐怖に震える。そしてジャービスは、彼女達の予想を超える発言を放ったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何で!何でッッッ…!!!!!

 

『クリスティアル王女』が!禍根の指輪の人質として捕らえられてるのッッッッッ!!!!!!?」

 

彼女の言葉に、長門・ジョンストン・フレッチャー・時津風は戦慄し、凍り付いた。

 

其の名は、大英帝国王位継承権第一位のプリンセスと同じ名前であるからだ。

 

事態は更なる混沌を纏い、多くの人々と艦娘達の運命を狂わせてゆく…━━━━━━

 

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