※この作品はR-18です。

将来を有望視された青年が、冤罪で問題山積みの鎮守府に着任されました。 ~地獄の底からこんにちは~   作:ガリアムス

59 / 67
・今回のお話は…

禍根の指輪に不意打ちを受け、気絶した後で目覚めた楓達や真守達の話

大本営の地下牢獄に居る牧園 セイシュウ達に迫る魔の手

九聖天崩壊

となります。

また、殺戮描写が入ります。苦手な方は御注意下さい。

三帝最後の一人が明らかになります。

* * *

・二ヶ月ぶりの更新になります。お待たせしました


将来を有望視された青年が、冤罪で問題山積みの鎮守府に着任されました。~禍根の指輪と最凶最悪の事件 其之漆~

━━━…い━━━━!

 

━━━━お………お………━!!!

 

…………起きろ……真守…━━━!!!!!

 

「……………ん…━━━」

 

『起きろってんだぁ!真守ぅう!!!!!』

 

耳元で雷が落ちたかのような爆量音が、真守の鼓膜に刺さって、勢い其のままに突き破らんとした。

 

「どわあああ!?って、何すんだよ結絆だぁ!?」

 

驚き、跳ね起き、身体を動かそうとするが、四肢を縛られているらしく動けない。彼の真横には同じく、魁宮(さきみや) 結絆(ゆずな)が手首足首を縛られ、動けずにいる。

 

「どうするも、こうするもない!アキラの秘書艦娘の吹雪がいないんだよ!」

 

「はぁっ!?どうゆうこと!?」と、辺りを見渡すが、彼女の姿は何処にもない。まさか、彼女は自分達を置いて、一人で逃げ出したのだろうか?

 

「俺に解る訳無いだろうが!それよりも大事なのは、このロープを切って脱出する事だ!」

 

結絆は動き、ポケットに手を伸ばそうとするが、藻掻く度、ギチリ…ギチリ…拘束するロープから音が鳴り、手首足首を更に締め付けてゆく。

 

「あででででで!?いってぇ!」

 

「下手に動くと、より強くなる巻き方をしてるのか!くそ、思ったより厄介だぞこれは!」

 

何とか大きく動く事なく、此の縄の拘束から抜け出せないかと模索する。

 

だが━━━━━━━━

 

「!……真守…何かが、此方に近付いて来ている。俺の直感が囁いている」

 

結絆は昔から運動神経が良く、そして直感というものが俺達五人の中では一番優れていた。其の男が冷静に言うということは、余程の危険が迫っていると考えて良い。

 

「何処から来てる?」

 

「八時の方向からだ。此の感じ…三か四人で小走り気味に接近している。それと俺の勘だが…かなり手練れの可能性が高い。

 

気を付けろよ、真守」

 

神経を研ぎ澄まし、結絆が目を閉じて聞き耳を立てた。張り詰めた空気と不動の地面から来る振動から、仮に其の答えを導き出したのだとすれば、彼の感覚が優れている事を、改めて証明する事になる。

 

無言で集中し、呼吸する結絆の邪魔をしないようにと、此方も黙って背中合わせ越しに見守ることにした。そうして二・三分が経った時━━━

 

「…………来る!」

 

八時の方角から三人、黒い防弾チョッキと衣服を纏い、此方に向かってやってきたのだ。結絆の直感は当たっている…ただし、一つ問題があるとするならば。

 

「……すまん、真守」

 

「どうしたよ、結絆?」

 

「……敵か味方かまでは、分からなかった。そして今更になって気付いた。此方に来ている三人の手練れ。あれは…『敵』のようだ」

 

真守の言葉が信じられず、首が稼働する範囲ギリギリまで捻り、其の方向を真守は見て、目を細めつつ三人組を見る。

 

そして、彼もまた結絆が言った意味を理解した。黒を纏い機関銃を携える者達の、其のヘルメットに刻まれた『十字架に吊るされた、血涙を流す髑髏の首飾り』を。

 

「…最悪だ」

 

禍根の指輪(ダリアス・フレッチェル)。今この時点で、最も遭遇(であ)ってはならない存在と逢ってしまった。陽炎に揺れ、迫り来る奴等の殺気が、三人しかいない存在を十数人居るかのように思わせる。━━━━いや…自分達はもう助からないと、己の心が弱気になったせいだろうか。

 

「さて…真守よ、どうするか」

 

「へっ…精々足掻いてみるしかねぇな」

 

死にたくない…。死ねない…。そんな感情が、彼等の心にある。

今、この状態━━━四肢を拘束されていなければ、逃亡も選択肢に有っただろう。

 

《アキラ…クリス…無事でいてくれよ…!》

 

《くっ…此所で終わるなど…!》

 

訪れる最後の瞬間(とき)に、思い思いの言葉を残し、二人は目を閉じた。残虐極まる奴等の事だ、一瞬で意識を切断するようには撃たないだろう。一発、また一発と嬲(なぶ)るように弾丸を撃ち込んで、ゆっくりと殺そうとするに違いない。

 

━━━━━━━━━だが。

 

 

ババババババババババババ!!!!!

 

 

突如、真守と結絆の上から無数で多量の銃撃音が、静寂とビルの間に響き渡り、此方に向かって来ていた禍根の指輪の兵士三人の頭や体、脚などから血を噴き倒れた。

 

『其処の二人!怪我は無い?』

 

上からスピーカーを使っているであろう声が聴こえ、青年達は天を仰ぐ。其処には、黒いカイトで滑空しつつ機関銃をぶっ放した後、其のまま真っ直ぐに飛び去って行く三つの影があった。

 

其の後に二人、青みがかった黒の戦闘スーツと胸にVDF の紋章を掲げ、手には拳銃を握り周囲を警戒しながら、此方にやって来る。

 

『此方、ベルディージュ!ソウルさん、禍根の指輪に拘束され、放置されていた青年二人を発見!これから保護し、所定ポイントまで迅速に護衛します!』

 

一人が組織に連絡を取りながら辺りに注意を払い、もう一人は腰に納めたコンバットナイフを抜くと、真守達を縛り付けたロープを切り、開放した。

 

『何時また、禍根の指輪の連中が襲いに来るか分かりません。我々が安全な場所まで護衛致します』

 

二人の手を取り、軽々と立たせるVDFの隊員。日頃から彼等がこのような危機に備えて、鍛え続けている事が容易に伺える。

 

『ソウルさん、此方デゴイチ!これより青年二人をベルディージュと共に護衛し、所定ポイントに向かいます!』

 

二人をサンドイッチにする形で、デゴイチとベルディージュが前後をカバーしながら移動を開始しようとした。

 

《━━━━━━!━━━━━━━!》

 

『此方、デゴイチ!何か有りましたか!?』

 

デゴイチとベルディージュに入った緊急入電。真守と結絆が固唾を飲み、其の話に聞き耳を立てる。

 

《━━━━━━!━━━━━━━!》

 

『何だって!?其れは本当なのか!!』

 

《━━━!━━━!》

 

真守は彼等の話している内容が、ザリザリとしたノイズが混じり、聞くことが叶わない。だが結絆は、デゴイチの無線から漏れる僅かな音声から、其の内容を聞き、衝撃を受け、肩から地面に崩れ落ちる。

 

「結絆!?おい、どうした!」

 

真守が結絆の真正面に立ち、彼の体を揺らすと、彼は彼らしからぬ震えた声で言葉を繋ぎ、聞いた内容を伝え、真守もまた其れに匹敵する衝撃を受けた。

 

《…そんな、そんな…!!》

 

 

 

 

 

━━━━━━━━━アキラッッッッッ!

 

 

* * * * * * * * * * * * * * *

 

暗い━━意識が還るまで、私…和歌月 楓が抱いた感覚。

 

体が、動かない。底無し沼に濱って、全身が沈み、音も聴こえず、光すら届かない。

 

まるで━━━━━━━━闇だ。

 

一生、目覚める事は無い…。そして、見えない深淵の底から、巨大な真っ黒な化物が這い上がってきて。無防備な私を丸呑みにしようとした時。

 

突如として私は、身の芯さえ凍り付く程の激烈な寒さと冷たさ、そして濁流に襲われる。

 

「うっぶ!?!?げほっ、げほ!!…っぼっほぉ!!」

 

意識が覚醒して、私が最初に得た情報は、水を掛けられたせいで、頭や軍服がびしょびしょに濡れている事。

 

其の次に、自分何処かの部屋の地べたに寝転がされて、周りに長方形のテーブルと円椅子が並べれている事。

亜衣さんや悠さん、健太郎さんを含め、同じ様な状態にある者達が大勢いるという事を知った。

 

そして、禍根の指輪の兵士達が銃器を構えて立っている。

 

『━#*^%・'』

 

何を言っているのか分からない中、ふと兵士の一人が、私の腕を掴んで乱暴に椅子に座らせる。其処には一台のスマホが置かれており、画面には『牧園 アキラ』と『西村 クリス』の赤青二つに区分された選択肢が表示されていた。

 

『│(━…[^||*"])』

 

銃を後頭部に突き付け、スマホにタッチしろと彼等がジェスチャーと雰囲気で、私達にそう伝えてくる。

 

「…………投票はどちらでも?」

 

私の言葉に対し、彼等が小さく頷く。しかし、其の指先は小刻みに画面を指している。そして小刻みを止めた瞬間、一人が持っていたピストルで天井を発砲。

親指を真上に立て、直ぐに真下へ、ぐるりとひっくり返した。

 

「つまり…投票し続けてる間は無事、止めたりしたら死ぬ事になるのね」

 

亜衣さんの答えに彼等は頷くや、皆を立たせて椅子に座らせると、手首のロープだけを切り落として自由にした。足首をほどかなかったのは、やはり逃走防止と反逆させない為だろう。

 

『・'*"━|||^│━┫┣┫┣』

 

私が…私達が出来るのは、自分達が死なないために不本意な投票行動を続ける事しかない。

 

《アキラ君…クリス君…》

 

苦虫を噛み砕いた時の、苦く苦しい思い出が頭に浮かぶ。此所は感情的になるのを堪えて、好機を待つ。健太郎さんと亜衣さんも私に視線を合わせて、小さく頷いてスマホと向き合い、画面をタッチし始める。

 

《気になる事もあるわ…》

 

横目で辺りを見た亜衣と健太郎は、小さな『違和感』に気付いた。

 

《此所にいる人々は…全員が『提督』や『司令官』達だ。そして、私達が連れてきた艦娘達と『引き離されている』という事。

 

……まさか、禍根の指輪の『狙い』は……》

 

 

* * * * * * * * * * * * * * *

 

 

 

「残念です。貴方なら、九聖天を変えられると思っていたのですが━━━━━━━━ねっ!」

 

大本営・地下牢獄。暗闇を駆け抜け、三笠が帯刀した刀を抜き、セイシュウへと一切躊躇せずに斬り付ける。

 

《不味い…!》

 

逃げられない、速すぎる。

 

既に彼女との間は、1mにも満たない。

 

白い光の一閃が、あまりにもゆっくりで、美しい三日月の曲線を描きながら、自分の頸(くび)を飛ばそうとしている。

 

《ここまでか━━━━》

 

セイシュウは静かに、目を閉じた。

 

自分の運命を、受け入れるかのように。

 

一閃の煌めきが闇を走り、赤い血飛沫が暗闇の中で舞う。

 

「がふっ…!」

 

「…………えっ」

 

セイシュウが恐る恐る目を開けると。

 

其処には三笠が放った斬擊を首に受け、刃の進行を両手で押さえつけ、両手と首から血を吹き出しながら、彼の前に立つ富士の姿があった。

 

「姉ッ!!━━━━三笠ァ!!!」

 

八島の悲痛な声が響く。されど、其れも一瞬。

 

目に殺意の焔を燃やし、線香が煙の如く、闇の中で軌道を描きながら、三笠の背後を取る。

 

だが━━━━━━

 

「甘いんですよ、相変わらず」

 

富士が押さえた刀から手を離し、富士の脇腹を蹴って、壁に叩き付けるや、懐に忍ばせた短刀を抜いて、八島の右腕に迷うことなく突き刺した。

 

「あぐっ…!?」

 

「だから、弱い」

 

足を払い、体勢を崩す。そして短刀が刺さった右腕を、まるで蛆虫でも潰すかのように、本気で踏み付けた。

 

「アアア……ア…ア、ア!?」

 

筆舌し難い痛み。深く打ち込まれ、磔に等しい其れで、八島は動けない。

 

「國に仇なし、死滅に追いやらんとする逆賊、牧園一族の一人、牧園 セイシュウ。

 

同じく逆賊に堕ちた、三帝の一人、富士。

 

其処で静かに、二人の死を見届けていろ」

 

コツン…コツン…と靴を鳴らし、三笠は富士の前に立つ。

 

「ハァッ…━━!ハァッ……━!」

 

壁に沈んだ富士…其の姿は、威厳に満ちた物ではない。全身が汚れ、首筋から血が吹き出し、呼吸する度に其処から空気が漏れている。

 

目や表情に生気は殆ど失われ、常人ならとっくに死んでいてもおかしくない…そんな状態だ。

 

「まだ、生きている。伊達に三帝の一人であると言った所か」

 

富士が押さえる刀を取り返す為、彼女の胸部を蹴り砕く。三帝の殺意が籠った蹴りで、富士の胸骨と肋骨が砕け、破片が肺に突き刺さり、気管と肺が圧迫され、呼吸が出来なくなる。

 

「ごふぅっ……!……━━━━━━━━━━」

 

腕力が働かなくなり、刀を押さえていた両手が、力無くだらりと落ちた。

 

《セイシュウ…。…八島…。すまない…━━━。

どうやら…私は、ここまで…みたい……だ………》

 

頭も動かない。全身から体温が失われてゆく。

 

命が終わる事を。富士は否応なしに理解した。

 

「これで終わりだ」

 

三笠が刀を、富士の首筋から引き抜いて、切っ先で心臓に狙い定める。

 

《………ジュウゴ。私は最後に、貴方のように…成れただろうか………》

 

朧気な意識の中で、富士の脳裏に浮かんだのは、自分を変えてくれた恩人の後ろ姿。

 

《…………私は…━━━━》

 

富士。お前が残した『正義の芽』は、既に多くの提督や、艦娘達の心に。魂に。しっかりと受け継がれた。『正しい行いから生まれ出た物は、必ず成就する』んだ。だが、お前は…。自分が十分にやり遂げたと…本当に思っているか?

 

ゆっくりと振り向いた恩人は、まるで彼女の努力を讃えるかのように。優しく、穏やかな表情と声で、そう言ったのである。

 

《……ジュウゴ━━━━━そうだ、…私はまだ…!》

 

富士は覚醒し。

 

そして━━━━━━三笠の振るう断罪の刺突が、彼女の胸の中心に吸い込まれ、突き刺る━━━

 

 

 

『バキィィィン!!!!!』

 

 

 

━━━筈だった。刺突の為に出した三笠の日本刀は、富士の手刀によって、刀身の中央から真っ二つに叩き割られ、砕け散ったのである。

 

「な━━━」

 

言葉より早く、富士は右腕で壁を殴り付け、其の反動で起き上がる。そして左掌が三笠の顔面を鷲掴むと、一気に押し返し、向かい側の壁へ御返しとばかりに、三笠の後頭部を打ち付けた。

 

「がっ…!?」

 

「姉ッ!?」

 

「ハァッ…!そうだ、私は…まだ…死ねない━!」

 

歯を食い縛り、富士は圧力を加えてゆく。だが、首筋に受けた傷が痛み、負傷箇所から血が噴き出す状況で、本来の握力を発揮する事は叶わない。

 

「……ふっ、右手で掴んで居れば勝てていただろうに。やはり、お前も甘い」

 

折れた刀を深く握り、三笠が富士の右手首を握り、力ずくで顔から手を引き剥がす。ミシリ…!と骨が軋み、砕かれてもおかしくない痛みが、満身創痍の富士を襲う。

 

「あぐ…ッ!!」

 

「姉ッ!!」

 

「もう…死ね━━━!?」

 

三笠が折れた刀を振り上げる。だが突如、静止したかと思えば、刀を落とし、手を放し、頭を押さえて後退りしたのだ。

 

「あがっ…!あっあ"ァ"ア"!…な、ンダ…いだい!?頭が…割れ…割れる!!痛ぃ…痛いい"!!」

 

汗がダクダクと溢れ出し、息が荒振り、頭蓋に指がめり込む。そして何よりも、彼女の瞳に浮かんでいる『船錨の紋章』が点滅し、皹が走り、濁った瞳に嘗て見た光が戻り始めている事に。

 

《どうゆう事だ…私は怪我をし、三笠の頭を強くは握れなかった。術式の綻びが在った部分に、私の攻撃が偶然入ったのか?…それとも━━━いや、今は好都合…!

 

これ以上犠牲を出さない為に、刺し違えてでも彼奴の呪縛を解く!》

 

「おおおお!!」

 

富士が吼えた。一流ラグビー選手が繰り出す、強烈極まるタックルで警戒が緩んだ三笠の腰下にぶつけ、そのまま背中からタッチダウンに持ち込んだ。

 

「がはっ…!」

 

「三笠!目を覚ませ!嘗ての自分を思い出せ!!」

 

「あああ"ぁ…!牧園…ごろ、ず…!私は…三笠…護国の…戦士…!あがあぁ"!」

 

「姉!」

 

「八島、私が富士を押さえる!お前はその間にセイシュウを外に逃がせ!」

 

「姉!やめて!」

 

「八島ッ!!」

 

ビクリと八島の体が跳ねる。彼女の瞳に映る富士は、もう既に『覚悟』を完全に決めていた。分かっていた━━自分の姉は真面目で、一度でも決めた事は絶対に曲げない人である事を。

 

「…分かったよ。姉…『さよなら』…」

 

「あぁ」

 

満足気な富士の。姉の言葉を聞き届け、八島は悲しみを力に変えた。左手で短刀の柄を殴って減し折り、刺さった右手を自由にし、セイシュウへ駆け寄って肩にお米様抱っこで抱えるや、唯一の出入口に続く階段を猛スピードで駆け上がる。

 

「…三笠、これで私とお前だけだ」

 

「放せ…牧園…を、殺す…富士ぃぃぃぃ!…逃げ…ろ…ああぁあああ!!」

 

《体内爆弾は既に起動した。後は時間になれば爆弾は弾けて、私は死ぬ。だが三笠なら、この爆発にも耐えられる。…やるべき事はやった。

 

ジュウゴ…貴方の元に、やっと…逝ける━━━━━━》

 

抵抗し暴れる三笠を押さえ付け、富士は目を閉じた。テンポ良く、内側から聴こえてくるのは、爆破へのカウントダウン。

 

数秒後、其の音が途切れ。彼女の中で、爆弾が爆ぜる━━━━━

 

 

『筈だった』。

 

 

刹那、彼女達の真上で大きな衝撃と共に天井が崩れ、瓦礫が降り注ぐ。

 

「…!富士、どけっ…がああ!!」

 

「三笠!?うぉあ!?」

 

腹部に入れられた蹴りで、富士は押し退けられ。直後、彼女が居た場所は瓦礫のスコールが襲い掛かった。

 

「三笠……!」

 

富士の声が響く。しかし三笠から返事は返ってはこなかった。

 

「三笠あああああああああああああああああああああ!!!!!」

 

富士は叫び、傷付いた体で瓦礫の山へと飛び掛かろうとした。三帝の一人をこのまま殺させない為に。

其の時、空いた天井から差し込む僅かばかりの光の中から飛来した『何か』が、左胸に刺さる。

 

瞬間、強烈な痺れと睡魔が意識をバツンと切断し、彼女は地面に倒れ付した。

 

『……対艦娘用の麻酔剤入りの極細針ッス。ついでに、其の針にはちょっとした『細工』が在るんで、安心すると良いッスよ…って寝ちゃってますよね』

 

砕けた天井をひょっこりと誰かが覗き込んで言う。

 

『さてさて…あとは『あの人』が大体済ませますし、ボクは少し隠れてますかね。

 

其れに……何だか、面白い展開になったみたいッス』

 

手裏剣カバーのスマホを取り出し、手際よく画面をスライドさせてゆく。其処には緊急速報の画面と、入りたてホカホカのニュースがあった。

 

 

 

 

* * * * * * * * * * * * * * *

 

 

地下牢屋地帯での三笠と富士の戦いの最中……

 

 

ずどぉおおおおおおおん………━━━━!!!!!

 

 

「ぬおっ!?」

 

大本営が揺れた。創設当時より、大地震にも怯む事も、揺らぐ事も無い、正義の象徴とも呼ぶべき建舎が揺れたのである。

 

「今の爆発は…地下からですかな」

 

「富士と八島が暴れているのでしょう。まぁ、三笠が制圧に行っているので全く問題ないでしょうが」

 

「其れよりも…だ。我々の目的である『牧園一族の血と歴史の完全なる抹消』…いよいよ、牧園 アキラの死が確実のものになる」

 

モニターに映る、西村 クリスと牧園 アキラの投票数を示すメーター。クリスがゆっくりであるのに対し、アキラの方は何倍とも言うべき速度で、急激な上昇を続けていた。

 

「さぁ、早く訪れろ…時の終わりを」

 

「牧園一族の血脈が、また一つ途切れる瞬間を」

 

ククク…と。ヒヒヒ…と。悪魔に似た、そんな嗤い声が聞こえてくる。

 

彼等に人の心は無い。牧園一族を根絶やしにすると決めた日から、持ち合わせた情は捨て置いた。一片も遺さず、奴等の痕跡の全てを消し去るには、生半可な覚悟では意味を成さない。

 

例えるならば、雑草。どんなに毟り取ろうが、どんなに切り落とそうが、必ず新たに生え代わり、強くなって湧き出てくる。一人でも生かしてしまえば、何十年…何百年の時間を掛け、彼等は今以上の数になって大本営(自分達)に反逆するだろう。

そうなる前に、確実に。此処で牧園 ジュウゴの血脈を絶ち、次の牧園一族を殺す準備をしなければならない。

 

「さぁ…さぁ…。早く届くのじゃ…奴が死んだとの報━━━━━」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

パァ……ン━━━━━━━

 

 

 

 

悪意に満ちた室内を、乾いた一声の発砲音が貫き鳴らす。

 

「なんだなんだ」と辺りを見回す九聖天の八人だが、其の内の一人…白髭を蓄えた八十代程の老人の着る白い軍服の左胸部分が徐々に、じんわりと真っ赤に染まってゆく。

 

「━━━……ご、…ぶっ━━━━━━━」

 

瞳孔が震え、口から吐血し、机に倒れ伏す。バチャリと濡れた衣類が地面に落とした時に鳴る音と同じ、もしくは熟れ過ぎた甘柿が潰れた時に出る音だろう。

 

「なっ…!?誰だ、今発砲したのは!!」

 

「私では無いぞ?!」

 

室内がざわめく。出入口は一つ、窓や入口には許可の無い提督や将校以外が入れば、大音量で鳴るセンサーが仕込まれている。

 

其の上、この部屋は極一部の人間しか認知していない隠されている。場所が割れる等、有り得ない筈なのだ。

 

「くっ…私は逃げるぞ!此処に居ては自分も死『ドドゥン!!』……ぁ?」

 

退室せんと席を立った男、其の背後から再び発砲音が鳴る。だが先程のとは違い、軽い単発ではなく、重々しい連射。

 

男の体には縦に二つ、大きな穴がぽっかりと空いて、上の穴からはベロリと、男の拳一つ分の大きな赤い塊が、太い管でぶら下がりながら、ドクン…ドクン…と、リズミカルに動き、命の鼓動を鳴らしていた。

 

「ご…ぶばぁ…!!…わ、私の…心臓………」

 

『成程…此所が大本営の闇巣食う部屋、と言う訳か』

 

一声、そして再び重い発砲音。轟きと共に赤塊は叩き潰れ、男は空いた穴から血を撒き散らし、床へと崩れ落ちる。暫く痙攣していたが、軈て物言わぬ存在へと成り果てたのだった。

 

「ヒッ…」

 

『脆い…あまりにも、脆い』

 

撃ち殺された男の後ろに一人、此の部屋の黒より深い漆黒のローブを纏った者が立っていた。顔、手、足といった外見から得られる情報を完全に断ち切っている。

 

声もザリザリとノイズが混り、怪物じみた異質なモノであり、唯でさえ見せ付けられた惨劇による恐怖を、九聖天の面々に伝染させる事は確実だった。

 

『さて…九聖天。お前達には主君から『メッセージ』を言付かっている』

 

「メッセージ…だと」

 

『そうだ』

 

ローブの腕袖からポイっと投げられ、床を滑りながら六人の足元に止まる。其れは細長く、一般に販売されている物よりも少し小さなボイスレコーダーであった。

 

『あー。あー。━━━九聖天一同諸君』

 

再生された音声に彼等は戦慄した。自分達を一同諸君等と呼べる存在は大本営内は愚か、日本国内でも十指で数えられる程度しか存在しない。

 

つまり、今このボイスレコーダーに記録された音声は。自分達よりも『ずっと上の。それも、最上位の権力を持つ存在』だと判断して相違無いのである。

 

『これまで、牧園一族の抹殺に表裏から呼び掛け、動いてくれたことに心から感謝している』

 

穏やかな声がボイスレコーダーから流れる。しかし。

 

『だぁが…』の一言で、其の声は怒りに満ちた物へと変わる。それだけなら、まだ彼等にとっては良かっただろう。

 

『君達はあまりにも『殺り過ぎた』。事が大きく成り過ぎたのだよ。既に大本営内にも、複数の牧園一族の潜入を許した挙句に、様々な情報の流出が確認されているようじゃあないか』

 

『…私は面倒事と非効率が大嫌いでね。よって決断を下させて貰ったよ。

 

元時刻をもって、牧園 セイシュウ『以外』の九聖天全員を━━━━

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『即刻処刑し』、九聖天のシステムを完全解体し、組織を改変する事にした。

 

新たな時代と新たなる大本営の為に、君達は我が懐刀の犠牲となり━━━永遠に消え去るが良い』

 

そうして音声は途絶え。黒いローブを纏った者は、其の手に九聖天の二人を殺めた武器を向けて、一歩踏み出した。

 

「ひっ…!!」

 

「くっ、来るなぁ!」

 

一人、また一人と護身用の拳銃を取り出し、銃口を向ける。このまま殺されるなど、真っ平御免だ。恐怖に震え、戦いながら、彼等は歩み寄る敵に、何度も発砲した。

 

大抵の生物は、銃弾に撃ち抜かれるだけで死ぬ。故に彼等の行動は無意味…という訳では無いのだ。

 

ただし━━━━━━━━━━━

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『効きませんよ。そんなものじゃ』

 

纏うローブが『防弾性能』に優れた物である『かもしれない』と、予測の範疇に入れていなかった場合だが。

 

「………は?」

 

次の瞬間、九聖天の一人の首に弾丸が撃ち込まれて風穴が空く。事態の急変に加え、喉から漏れる血と息。手で止めようとした矢先に、両肩・両股関節を重い衝撃が襲う。

 

「あがっ………」

 

皮膚と肉が爆ぜ、骨が砕け飛んだ。四肢を喪った達磨のような状態に成り果て、一人は地面に転がり落ちた。

 

「ひぃぃぃぃぃぃ!!」と小太りの男は叫び、拳銃を投げて、出入口に一目散に走り出した。早く逃げねばならない。今の瞬殺劇を見た瞬間に、彼はアレに勝てないと確信し、何としても逃げなければならないと判断した。

 

だが━━━━━

 

『誰一人として逃がすか』

 

漆黒の殺戮者は逃げる先に一瞬で移動するや、右手に持った武器をプロ野球選手の比でもない豪速球で投げ、男の後ろに居た、一人の頭蓋を粉砕しながら減し折る。

 

其の勢いは衰える事なく、頭を胴体から分断して、武器と共にコンクリートの壁にめり込み、赤い血花を咲かせる。そして、空いた右腕の穴から武装として身に付けた、黒鋼のガンドレットを振るい、男の鳩尾に貫手を叩き込み、貫き通した。

 

「ごぼぼ…ごほっ!」

 

『死に絶えろ』

 

ガンドレットの腕甲からジャキン!と刃が、男の肉に食い込む。其の腕を、ガンドレットを上へと勢いよく振るい、男の体をアジの開きのように変え、直後に下へと振るって完全に真っ二つに変えたのだ。

 

『あと『四人』…いや、『牧園 セイシュウを除けば』、あと『三人』…か』

 

「このッ…化物がああああああ!!」

 

ぶつぶつと小声で何かを言っている最中、九聖天の中でも比較的若い男性が、発狂気味に椅子を振るって頭にぶつけた。だが、振るった筈の椅子のみがひっしゃげてしまい、全身を寒気が襲う。

 

『効かないと言ったが?』

 

左手に握った銃で、肝臓を撃ち抜かれていた。迷いも躊躇も無い、正確無比な一撃に男性の体がぐらついて、床に片膝を付いた。

 

次の瞬間━━━━━彼の体は『軽くなった』。

 

「……え?」

 

右腕のガンドレットが、鮮血の三日月を描いている。首に空気が通った時、彼は自分に何が起きたのかを知った。

 

あまりにも速く。自分の首を斬られた事。

 

《何なんだ…コイツは━━━━━━━》

 

彼の意識と命は此の瞬間に潰えたのである。

 

『後二人』

 

コツ…コツ…と、ゆっくり歩きつつ、残された二人に歩み寄る。七十代程の丸ハゲの老人は失禁し、床にへたりこんでおり、もう一人のやせ形の男は泡を吹いて、完全に気絶していた。

 

殺戮者は気絶して動かない、やせ形の男の近くまで近付くと、少し脚を上げ、万力に匹敵する力で頭を踏みつけた。頭蓋骨が粉砕され、潰した完熟トマトの如く、脳漿をぶちまけた男は、二か三度痙攣した後、七人と同じ運命を辿る。

 

『後一人』

 

「あ、ああ…ああああ、あああ………」

 

老人は恐怖に震え、泣きぐじゃり、更なる失禁で床を盛大に濡らした。これまで彼は知略と策略を巡らせ、政敵を蹴落とし、九聖天に昇り詰めた。

 

行く行くは九聖天のトップとなり、延いては元帥の地位さえも狙い、其の為の策を巡らせていた。其れがこんな、何とも知らぬ殺戮者に全て台無しにされる等と、予想だにしなかったのである。

 

「た、頼む!殺さないでくれ!」

 

『何を今さら』

 

「わ、儂は既に元帥になるための策がある!ど、どうじゃ!儂に協力せんか!?悪いようにはせん!!」

 

命乞い…これも彼が生き残ってきた術の一つ。全身全霊で行い、多少の犠牲を払う。そうする事で自分は生きてきた。これまでも、これからも変わらない。

 

『六十五』

 

不意に其の言葉が飛んできた。何の数字だ…?…そう考えた時、不意に左手の銃で発砲され、自身の股間を撃ち抜かれた。

 

「あぎゃあああああああああああああああああああああああ!?!?」

 

『何の数字か…だと?知りたいか?』

 

一歩踏み込み、ガンドレットの鋭利な指先で老人の左耳を切り落とす。

 

「な…何故、儂の考えた事……を」

 

『牧園一族』と声が返った時、老人の体はビクリと跳ねた。

 

『お前が今日。この瞬間に至る迄の間。

 

『お前が直接、もしくは間接的に殺した』…牧園一族の総数だ』

 

続け様に左目を潰される。悲痛な悲鳴を挙げる老人を押し倒し、ガンドレットの指先が、しなれた体に刺さってゆく。

 

「いぎゃああああああああああ!!痛い!痛い!痛い!?」

 

『お前が殺した牧園一族の中には、まだ赤子や十歳にも成れぬまま死んだ者達が大多数を占めていた。

 

お前は自らの保身の為に、牧園一族の若い世帯を狙い、罪を擦り付けた。

 

親を殺し、子達を引き取り、そして━━━━━『強姦』し、『拷問器具』で痛ぶり尽くし、殺した』

 

右目が大きく開く。何故知っている?アレは誰にも知られていない筈の『趣味』━━━!

 

『…趣味か。つくづく、救いようがない』

 

終わりだ━━━其の言葉を最後に、老人の顔面に拳が振るわれ、壁にグチャリと赤い花火が弾けたのだった。

 

『…主君。セイシュウ以外の九聖天の処刑、完了しました』

 

《御苦労。迅速かつ正確な仕事だ、いつも君には助けられているよ》

 

『恐縮です』と殺戮を終えた者は頭のローブを捲り上げ、ふぅ…と息を漏らした。

 

《後は『紫電』に任せて、君は元の居場所に帰ると良い。これからも、私の邪魔をする者達の殺しを頼むぞ?》

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

《三帝・氷雪大将軍の吹雪よ》

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

落ち行く夕日が、殺戮後の室内で唯一の曇硝子に注がれる。其の光が血の池の赤に反射され、其の者の顔を写す。

 

其の者…否、彼女の名は━━━『吹雪』。

 

華裏鎮守府の艦娘の一人にして、最古の二之名である『氷雪大将軍』を『現在進行形』で守りし者。

 

そして彼女の双眼には…三笠と同じ『船錨の紋章』が煌々と輝いていたのである。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。