将来を有望視された青年が、冤罪で問題山積みの鎮守府に着任されました。 ~地獄の底からこんにちは~ 作:ガリアムス
避難用シェルター内で分けられた艦娘達の視点での話から始まり、牧園 アキラと禍根の指輪のボスとの会話で話が進行していきます。
・次回で『牧園 アキラ、集走之章』が終了し、新章である『牧園アキラ、絶望之章』に移行します。
「ウーン…━━━━ン?」
意識を取り戻し、一人の女が目を覚ます。艶やかで、小麦畑の黄色よりも輝く腰まで伸びた金髪、モデル顔負けのルックスと、異性の視線を一挙にかっさる豊満な胸。露出を抑えているのか、そうでないのか分からない衣装に身を包む存在…彼女は『
「……何これ」
開幕一番に飛び出た言葉がこれだった。今、自分が置かれている現状に。
目の前に広がる光景…髪や目の色、身長、体格…全てが異なり、全員が女性という、異性からすればピンク色の桃源郷に等しい。
しかし、其処に居る女達は目の光を失い、物言わぬ人形のようにピクリとも動かない。ある種の異常な空間だ。
そして━━━━この場所に居る彼女達が『艦娘』である事に気付く。艦娘特有の『匂い』…其れが全員から漂っている事にアイオワは気が付いたのだ。
同時に、艦娘の匂いの中に混じった『嫌な匂い』も同時に関知する。例えると其の匂い…否、『臭い』は『腐食し黴でグヂュグヂュになったトマト』のような気持ち悪さと『納豆とクサヤと糞尿を化学廃棄物で混ぜ合わせた』強烈で、嫌悪感を剥き出しにさせる臭いに他ならなかった。
「Shit…ミー達を一ヶ所に集めて、敵は何するつもりなの…?」
アイオワには分からない。敵が何を考え、
「ん…アイオワ?」
ハッとなり、後ろへ視線を向ける。ゆっくりと起きて瞼を軽く擦るのは、彼女と同郷の艦娘にしてレキシントン級航空母艦・二番艦の名を冠した艦娘であるサラトガ。
「サラ!大丈夫?何処か痛いところ、無い?」
「私は平気ですよ。其れより、これは…ウッ」
異様な光景を目の当たりに、サラトガも心中に不安を抱き。同時に室内に満ちた臭いで、其の表情を歪ませた。
「何なんでしょう、この臭い…サラ、頭が痛くなりそう…」
「ドーカン。ミー達は影響が無いのに、他の皆はこうなってるのって、絶対おかしいわ」
アイオワは近くに力無く座るクリーム色の髪で、赤い瞳の白シャツに、タンクトップスカートを着けた少女の肩にそっと触れるも、全くの無反応。
意識が無いのか、そうでないのか。アイオワとサラトガには判断するための材料が足らず、頭を抱えるしかない。
『*"┫^┫+(([\\]))』
『┃%%@━・・・#(+┗$(++┫+([])))』
『ま、待って!俺はなn…《パァン!パァン!パァン!》━━━━━』
不意に部屋の外から声が響き、三発の発砲音が鳴り、後に静寂が訪れる。
『|$┫┫┫#[[┗$$$[()]]]』
『━…━#$$$¥┣┣┣¥¥┃%@'/"』
『ー[\(|^(\[ー┗\|])┫)]』
壁に耳を当て、二人は外に居るであろう敵の声を聞く。艦娘の学習能力は個々の能力にもよるが、例え艤装を纏わずとも、人間よりも『ずっと高い』。
仮に彼女達が環境に━━━其れも何時、戻るかも分からない極限状況の中で、敵が使う言葉を
『[(\||)…┫\┗…、だ]』
『(……┗┫|ー)……ん。━||ら、助け━…[\((|┗))]』
『\^+#……そうだな。ボスの計画通り、事は進んでいる様だ』
「「………『覚えた』」」
一~二分で言葉を『完全に』理解する等、彼女達にとって其れ程難しい事ではないのである。
『……では、俺はEの奴等を見る。お前はAの方を頼むぞ』
コツン…コツン…と靴が鳴り、此方の部屋へ敵が近付いて来る。アイオワとサラトガは音を立てぬ様に、床に寝そべって呼吸を殺して様子を見ることにした。
『…さて、艦娘共は…っと』
ギィィィ…と音が鳴り、扉が開く。ゆっくりと、慎重に。細心の注意を払いながら、其れは中へ入ってきた。黒ずくめの防弾着と機関銃を手に武装した兵士。其の左腕に巻かれたバンドと、防弾ヘルメットには『十字架に吊るされた、左目から血涙を流す髑髏の首飾り』の紋章が描かれている。
『異常なし…しっかし、こんな美人共とヤれねーのは残念だなぁ…』
ヘルメットの後部を擦り、兵士は小言を漏らしながら、部屋を後にしようとした。
「Hey boy?」
『へ…!?』
振り向き様、後頭部が何者かに引っ張られ、直後に自分の顔面を柔らかい温かなモノが包む。
『~!?~~~!!!?』
何が起こったのか分からず、兵士は混乱し、状況を打破しようと藻掻く。しかし自分を押さえつけている存在は、自分よりずっと力があるようで、逃げることも叶わなかった。
そうして兵士の意識は微睡み、軈て深海に沈んで行く様に、気を失ったのであった。気絶した兵士を室内に引き込み、彼女達は彼が持っている拳銃やマシンガン、手榴弾に防弾チョッキ等を剥ぎ取り、自らに武装を施して行く。
「アイオワ、ちょっとこれ…!」
サラトガが何かに気付いて、手招き。そうして近付いたアイオワにヘルメットのマークを見せる。
「これ…禍根の指輪のマークじゃない…!」
アキラと親友達を危険に晒し、東京に壊滅的な被害を与え、同族をこんな状態に陥れた、紛れもない撃滅しなければならない敵である。
「サラ。此処で奴等を叩き潰して、アキーラのFriendsと他の人達も救って、アキーラを探しましょ」
「ええ、私も同じです。背中は任せました」
互いに背中を預け合う。覚悟は決まった。後は自分の力を出し切り、命の限り戦うのみ。
たった二人の艦娘による、禍根の指輪への叛逆が始まった。
* * * * * * * * * * * * * * *
某所、アキラ&クリス 監禁場所内━━━━━
『残り時間まで後40分。我々禍根の指輪にとって、この時間は勝利までの予告時間だ。同時に君達にとって己の命が尽きる迄に残された、僅かな時間だ。
抵抗は無駄。少しでも妙な真似をすれば、其の時点で彼等の銃が火を噴く。だが、私は紳士でもある。二人仲良く、終わりの時まで下らぬ話でもしながら、死への恐怖を紛らわせると良い』
一秒、また一秒とモニターに刻まれる時と共に、
激情と共に組織の生い立ちを暴露した時とはうって代わり、どっしりと落ち着きを持ちつつも、自信と狂気に満ちているのが犇々と伝わってくる。
「……………」
クリスは俯き、床を見つめている。彼女の綺麗で透き通った蒼の瞳は、光を失くし、悲しみと絶望の色に染まっていた。
《何か無いか…こんなクソッタレな状況一発で逆転出来る、何か…『とんでもない一手』……!!》
四肢の拘束、目の前の武装兵士二人、そしてクリスの存在。拘束を解除しつつ、彼女の安全を確保して兵士二人を無力化する。
《━━━━『無理だ』。今の俺には、そんな力は無い…!》
アキラは分かっている。龍驤に鍛えられたとはいえ、自分の身体能力は未だ『常人の域』でしかない事を。提督というのは、何れ程鍛練を積もうとも『超人』には成りきれない。
『人』は、『人』にしか成れないのである。
《…ククク。オマエハ、『オレ』ノ存在ヲ忘レタカ?》
反射的に体が、ビクンと跳ねた。兵士達が一斉に銃口を向け、引き金に掛ける指先に力を込め、此方を睨んでいる。
自分の視界に黒い、不定形の泥のような物が現れる。
其の存在を眼で認知出来るのは、世界で俺だけだ。
《おぁ!?いきなり何だよ、びっくりしたぞ!?》
《深層心理ニコイ。話ガアル》
其の言葉を残し、黒い存在は自分の体の中にニュルンと引っ込んだ。仕方なくアキラも、深層心理へ自分の意識を落とす。暗闇の中を潜り、最底辺まで降ると、其処には陰陽の紋章が広がる空間が眼下に広がり、彼は白の方へと降り立つ。
《ヨォ、モウ一人ノオレヨ》
黒の方に居た不定形のソレが、形を変えて人の姿を成す。顔も髪型も、体格さえクローンと思わずにはいられない程にそっくりな、もう一人の『自分』が獰猛な笑みを浮かべて座っていた。
物心付いた頃から、自分の心の片隅に居た『ソレ』は、同時に自分がこれまで目を反らし、封印している『自分の人生における負と闇と地獄』、そして『人の悪意』知っている存在。
《オマエハ、マタ『一人』デ色々ヤロウトスル。オマエノ『悪癖』ダ。オレガイルダロウガ》
こいつを受け入れてから、今までの凶暴でハリネズミが凶器で武装していたかのような、触れるだけで傷付ける狂暴なオーラは驚くほど成りを潜め、柔軟さを手にしたように感じる。最も、未だに其の狂暴さや粗相な所は完全に無くなったわけではなく、現に野獣の如き気迫を俺にぶつけているのだが。
《……じゃあ何か?お前なら、其れが出来ると?》
《出来ル》
速攻で答えられ、アキラは言葉が出なかった。禍根の指輪のボスと同じ、自信に満ちた力強い声だ。
《オレノ『力』ナラ、禍根ノ指輪ノ兵士二人ナゾ、『一秒』デ、両方トモ『殺セル』シ『無力化』モ可能ダ。
ダガ…ソレヲスルニハ、最低デモ『四秒』、時間ガ必要ニナル。オマエガ時間ヲ稼ゲ》
仮にも自分だ。嘘を嫌っているのが自分が良く知っている。
《つまり…俺が何らかの方法で『四秒』稼げば、この状況を『絶対に』ひっくり返せるんだな?》
《無論ダ。其処ノ女ニハ手出シサセル間モ与エズ、奴等ヲ完膚無キ迄ニ叩キ潰ス》
《……分かった。んじゃ、此方は此方で何とかするよ》
深層に落とした意識を引き上げ、彼は改めて状況を確認し直す。今、自分達が居るのは長方形の空間であり、目の前にはモニターと武装した禍根の指輪の兵士が二名と、隣にはクリスことエリザベス・エリーゼ・クリスティアル王女が居る。
そして甲善さんから貰い、腰のベルトに差した檜の棒は外されておらず、そのままだった。
《さて…時間稼ぎ、やりますか。『気になる事』もあるしな》
すぅ…と息を吸って、アキラは顔をゆっくり上げながら、モニターに視線を合わせてこう話す。
「禍根の指輪の
人と話す時に常に意識している、穏やかな声でモニターの向こう側に居るで在ろう存在に対し、アキラは問い掛ける。『人と話す時。人に話を切り出す時。心を冷静にし、最たる情報を引き出せるように心掛けろ』━━これは今まで生きた、自分の人生から生まれた言葉。
チャンスは一度、聞き出さなければならない答えは一つのみ。
『よろしい。質問を聞こうじゃないか。牧園 アキラ』
「ありがとうございます。それでは…━━━━」
モニターからの返答に一礼。呼吸を調え、目と口を開き、言葉を放つ。
《気になった事……。何故、禍根の指輪は『大多数の人々を巻き込んだ暴動を起こしたのか』?
どうして『騒ぎを大きくし、都市部を混乱させたのか』?
そして…》
《ナゼ、『集印走』ノ行ワレテイル時ヲ、『正確無比ニ襲撃出来タノカ』…ダロウ?》
《……あぁ。答え合わせに行こう》
「━━━━………貴殿方は『誰に依頼されて』、日本に。其れも東京にやって来たのですか?
どうしても死ぬ前に、この疑問をスッキリさせたかったのです。そうじゃなきゃ私は、死んでも死にきれない」
アキラの質問…それは禍根の指輪に襲撃を依頼した『依頼主』の存在を認知する事だった。禍根の指輪という組織は、主にテロに関する行為や密輸や武器商売等の闇取引に深く関わっているのだが、同時に彼等はある種の『傭兵稼業』にも携わっている事を、アキラはインターネットのとあるサイトで見た記憶を覚えていた。
禍根の指輪は、未だに紛争の絶えない中東諸国に新入りの兵士達を傭兵の形で戦場に送り込み、実戦形式で武器や生き残る為の経験を積ませるという、恐ろしい方法で教育を行い、兵士達を育てるのだ。
無論、此れは新入りの心にある『人間性』や『罪悪感』を放棄させ、『無心に人を殺す軍人』を作る為に行っているに過ぎず、彼等からすれば『生きられない兵士に価値は無し』程度にしか考えていないのだろうが。
クリスがアキラの言葉で彼の方をゆっくりと見つめ、モニターから、『ほぉう…』と愉悦を含んだ声が微かに聞こえ。同時に二人は、禍根の指輪のボスが放つ衝撃の『真実』を知る事となった。
『知りたいか?まぁ…お前と王女の死は既に確定済み、まだ時間もある。教えてやろう…今回、
『大本営だ』
アキラは其の言葉に、自分の耳を疑った。こんな馬鹿げた事が有り得るのかと。そしてクリスも、
そして立て続けるように、モニターから放たれる言葉達が、彼等を更なる絶望に追いやる事となる。
『奴等もまた『牧園一族の排斥と抹殺』に関して、『我々と利害が一致していた』。
奴等はこうも言っていたよ…『増え過ぎた提督と艦娘を選別し、真の精鋭艦隊を設立する為に、集印走を以て篩を掛ける。其の際、殺した提督の指揮下に居た艦娘達は君達にくれてやる』とな。
フフフ…組織とはつくづく思うが、馬鹿とマヌケと無能しか居ないと見受ける』
護国の為に尽くしていたと思っていた大本営。其の闇を垣間見たアキラは、更なる深淵の闇を覗き見た気分になった。
取り返しの付かない所まで腐敗し、牧園一族を殺すためだけにテロ組織に簡単に尻尾を振る所まで堕落した。これを嘗て日本の為に命を徹して戦い、守り、散っていった人々が見たのなら、きっと怒り狂うに違いない。
「フッ…フフフ…」
『?』
「フフフフ…フッハハハハッ…!
ハハハハ!ハハハハハハハ…!ハハハハハハハッ!!」
天を仰ぎ、アキラは突如として笑い始めたのだ。腹から声を出して、高らかに笑っているのである。絶望で完全に壊れたか…禍根の指輪の兵士二人が顔を見合せ、首を傾げたその時、笑っていたアキラがピタリと止まった。
そしてゆっくりと、ゆらりと顔を正面に戻してゆく。
其の表情を見たクリスは、後に真守等の友人達に対し、このように語った。
あんな獣のような、怖くて恐ろしい顔、私は初めて見ました━━と。
「ハァ…━━━━━━━━━成程なぁ。大本営が…。此処まで落ちぶれて、クソッタレになってたのは、正直予想外だったわ」
表情を崩さず、鋭い視線でモニターを見つめるアキラ。必然的に兵士二人は彼に対する警戒心を抱き、手持ちの機関銃の銃口を頭蓋と心臓に向け、何時でも引き金を引けるように構える。
『ふん。そんな表情を見せて何になる?また言うが、君達の死は確定している。妙な真似をすれば死ぬのはお前だ、牧園 アキラ』
声はまだまだ余裕と言った具合で、此方の言葉がハッタリだと思っているのだろう。
ならば、ここで『アレ』を明かすとしよう。
「死が確定している…か。じゃあ聞くけど、其の運命は一体『誰が決めたんだ?』」
『…ハッ、其れは私だ。お前達は此処で死ぬ』
「そうかい…でも、俺を殺したところで
『…何を言っている』
「気付いて無いのか?…ハハハハ!
俺が『わざと』、禍根の指輪に捕まった事にさ」
何だと?━━モニターから、余裕だった声色が揺らいでいるのが分かる。しかしこれは『虚言』でしかない。嘘が嫌いな俺にとっては、こうゆうのは神経を磨り減らし、自分という存在を削ってゆく。
だが、此方の最大にして最強の一撃を確実に着弾させ、崩すためならば、其の為に虚言が必要ならば、幾らでも吐いてやる。
自分自身の人生を絶対後悔しない為に。
「俺はある人から『極秘の依頼』を受けていた。そして今日、まさにあんたらが攻めてきた。まさにドンピシャだったのさ」
今こそ切ろう、自分の持つ手札を。
そして同時に、意識の底に眠るもう一人の自分を表に繰り出そう。
『貴様…さっきから何』
「なぁ、禍根の指輪の頭目さん━━━━━━━━」
此迄の会話、現在進行形で全世界に生配信されてるんだよ