将来を有望視された青年が、冤罪で問題山積みの鎮守府に着任されました。 ~地獄の底からこんにちは~ 作:ガリアムス
・3/31で、この小説は二周年を迎えます。
「
拘束された一人の男…牧園一族の人間である、牧園 アキラが『してやったり』といわん顔で、モニターを見ている。
『何を根拠に…ッ━━━━━!?』
ボスの声が詰まる。アキラの軍服の第二ボタン、其処だけが照明の光の反射が他のボタンと『違った』事に気付いたのである。悪い予感がする…其の予感を確信に変えるべく、兵士の一人にこう命令した。
『同志達よ!牧園 アキラの『第二ボタン』を調べるのだ!其所に『何か』が有る筈だ!』
「おっ…セェエ!!!!!』
ボスの命を受け、兵士の一人が動こうとした瞬間。アキラの四肢を拘束していた縄が千切れ飛び、何かが兵士の顔面に高速で直撃する。
もう一人の兵士は機関銃の引き金を引かんとしたが、ヒュン!という音と共に、鋭い痛みが利き手の手首に襲い掛かり、銃を叩き落とされてしまう。
痛みに悶絶する中、首筋に衝撃。そのまま意識をブッツリと絶ち切られ、兵士は地面に倒れ伏す。
「…コレは初めて使ッタ。だが、コイツは『使いヤスイ』…』
禍根の指輪のボスは驚愕する。兵士二人を僅か十秒程度で。棒きれ一本のみで無力化した。それだけではない。拘束に使っていた縄は特注品、力任せにやればより強く締め付ける強力な物…其れを『力だけで千切り飛ばした』事。人間の身では、決して不可能な方法である。
「クリス、大丈夫カ?』
「あ、アキラ…」
クリスはアキラの姿に言葉が詰まる。今のアキラは、
「力をヌケ。拘束の縄が千切ナイからナ』
彼女はアキラを見る。大本営で見た時の灰色だった髪は、より白く雪のような雑じり気の無い純白と化し、赤の輪郭があった瞳は、深紅よりも深い赫焉を纏った紅蓮に。
何より縄を千切る為に、自分の手首足首に触れたアキラの皮膚が、血の通った人間の肌の色であるのに対し、『鉄のように冷たくなっていた』。
『貴様…!其の姿、一体『何だ』…ッ!!?』
絞り出すように、禍根の指輪のボスの声が響く。嘗て、組織を一度壊滅に追い込まれた時に、牧園 カザフミによって心中に深く植え付けられた、絶対的な恐怖に震えながら、問い掛けたのだ。
『其の姿!其の目…!まるで、貴様は…深海棲艦と『同類』ではないかッ━━━!』
「ハ?…『オレ達』が知ルカ、そんなコト』
アキラは…否、アキラ『達』は静かに背中で吐き捨てる。クリスを縛る縄を千切り捨て、彼女を自分の後ろに追いやり、檜木の棒を振るってモニターに其の鋒を向けて言った。
「深海棲艦ダロウが、人間だろうガ、ソンナ事は此方が知ったコッチャねぇーンだヨ』
向けた棒を戻し、両手に取って。
「『俺』は『オレ』だ。其れ以下デモ、ソレ以上でもナイ』
万力に等しい力を以て、檜木の棒を握り締めた。ビシリ…ベキリ…と音を立て、檜木の棒が…『木の部分』が砕け、ボロボロと破片が落ちて行き、中から『銀色の輝き』を持った『棒』が現れた。
『そ、それは…━━━━━!!』
檜木の棒…改め『銀の棒』は、木の拘束が解かれた事が引き金になったのか、質量を無視した超変形を開始する。
展開と拡張を高速で行いながら、片方に銃口とおぼしき孔と其の付近に三つの刃が
其れを見た禍根の指輪のボスの脳裏に『ある記憶』が過る。忘れもしない…組織が一度、牧園 カザフミの手で壊滅的打撃を受けたあの夜の出来事を。
其の時、其の棒に近い物を『カザフミが持っていた』事を。彼が其の棒と共に、組織の全てを破壊し、蹂躙した光景が。
『何故だ…!何故貴様が!其れを持っている!』
「あァ?コレが?渡されたンだよ。イツモ胡散臭ク笑っテイル男からナ。……あァ、ダからか。コイツが『使いヤスイ』って思ったノハ』
『クッ…同志達よ、前へ!牧園 アキラとクリスティアル王女を此処で殺すのだ!』
ガキン!と音が…其れも拘束が外れる音と共に、横の壁が開いて行く。そうして現れたのは禍根の指輪の兵士達、左に四十人・右に六十人、合わせて百人の三個小隊程度の人数。
しかし、其の数とは裏腹に彼等から漂う気は並みの物ではなく、一人一人が
だが…今の彼には『こんな人数』でも、絶対に負けないという『確固たる自信』が在った。
『我が、禍根の指輪が誇る最強の精鋭達だ。お前達は此処で死ね』
一斉に向けられた銃口。アキラも変型した銀棒を前に構え、姿勢を低くする。
一瞬の静寂が流れ…━━弾丸の嵐が、アキラに襲い掛か「フン』。
ベキャリ…━━そんな音が鳴り、空間が震え、風が凪いだ。
『…は?』
目の前に居た筈の兵士五人の姿が無い。在るのは彼等が持っていた機関銃、そして天井から吹いてくる風。兵士の一人が見上げた時、其れを見た。見てしまった。
『…な、に…これは…』
『五人の兵士達が天井に突き刺さって、首から下がぶら下がっている』。
有り得ない。棒の打撃で五人を、其れも同時にかっ飛ばし、天井に叩き付けた事実に。
「飛んデロ』
再び衝撃、今度は二回。斜め上と横、三人と二人が叩き付けられ、そのまま動かなくなった。
『ひ、怯むな!銃撃だ!』
一人が叫ぶ。同時に放つ銃弾の暴風雨が殺到。
「!!!!!』
直撃。弾丸がアキラの身体に着弾し、赤の飛沫を撒き散らし、軍服が軍帽が千切れ、弾け飛ぶ。
「アキラッッッッ!!!!!イヤァアアアア!!!!!」
クリスの叫びが銃撃音に掻き消され、アキラは撃たれ、身体が赤に、空間の中で不規則に舞い。
飛び散る血が、まるでテレビで撮影されたスローモーション映像でも見ているかのように、ゆっくりと動き…『形を変えてゆく』。
『フフフ!!!!!フハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!!ハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハハ!!!!!』
完全勝利。そんな言葉が頭に有った。
『やった!やったぞ!先祖よ!私は遂に成しえた!牧園一族の一人を遂に殺した!ハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハッハ!ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!』
『ぼ、ボス……━━━』
『あぁ、同志達よ。我々の勝━━━━━━』
『ボス…聞いていません……!?…『何なんですか』…何なんですか!?『アレ』はぁ…『ドゴン!』━━━━━━━━━』
同志の声に疑問を持ち、モニターを見た瞬間、ボスは何も言えなくなった。そう、何もである。各方向にカメラを動かしても、先程まで銃撃していた兵士達は『誰一人として、立っていない』。倒れ付し、壁にもたれ、天井に食い込み、動かない。
「ヨォ…調子ハどうダァ?禍根ノ指輪のボスサンよぉ』
モニター越しに此方を見ているアキラに、ボスは恐怖し、震えが止まらない。
アキラ…彼の髪は肩に垂れ掛かる程に延びて、血塗れの中でも紅蓮の瞳は煌々と輝く、異形にして異質な『モノ』。ケモノと言うには人であり、しかし人で在るにはあまりにも欠け離れている。
何故ならば。
彼の周りで飛散した筈の血液達が、まるで『意思を持っているかのように』、小さな拳を作っており。
無数の弾丸撃たれ、貫かれ、傷付き、穴だらけの肉体が、拳を作っていた血を集めて、『ゆっくり』と。
独りでに『傷口を塞ぎ、欠損部分を再生し、其の身体が再構築されている』…そんな人知を超越した光景を見てしまったのだから。
「そんな『オモチャ』で、俺達ヲ『殺せる』ト思ったカ?生憎、オレのシニバショは俺が決メル。
テメェ『ごとき』が運命ヲキメル?…お笑いクサにもナリャしねぇ』
銀棒の銃口を向け、モニターに狙いを定めるアキラ。すると、棒先には先程までの戦いで、周りに散開し付いた『血液』が掃除機で吸い込まれるかのように、小さな刃へと飛来・集結し、取り込まれて行く。
同時に、銃口付近に在る三枚の刃が赤・青・黄の三色の輝きを放ち、高速回転を開始したかと思えば、白い電撃が迸り、鈍い赤の光を含んだ、黒い、小さな螺旋状の弾丸が形成されてゆく。
「俺の名ハ、牧園 アキラ。
禍根の指輪ノボス。オレの仲間ヲ殺そうとシタお前ハ達は、『絶対にユルサナイ』。オレが、完膚無きマデニ。オマエが築いてキタ『全て』ヲ。このテデ、必ズ叩き潰すモノだ。
…覚えておけ』
引き金は引かれ、銃口から放たれた弾丸はモニターの真ん中を撃ち抜く。映像が途切れ、再び空間に静寂が訪れた。
「…………ふぅ」
一息付いたアキラの髪は灰色に、目の輪郭は赤身を帯びた黒に戻る。だが、彼は自分の身体に起きた、変化に気付く。
呼吸した空気が『不味い』事。聞こえる音が『ザリザリする』事。体温が平温よりも『低い』事。視界に映る景色が褪せて『モノクロ』に見える事。
恐らく、この銀棒を握り、血を操り、禍根の指輪の軍隊を撃滅せしめた代償だろうか。
「…アキラ…」
クリスの声が濁った音を含み、耳に届く。友の顔は涙に濡れ、身体は奴等の血で汚れている。奇跡的に怪我は無く、無事である事が何よりの救いだった。
「アキラ、大丈夫…?」
「……………あぁ。俺は…大、丈…ぶ━━━━━━」
様子を見届け、安心した瞬間。まるで糸が切れた操り人形のように、ダラリと肩から落ちて、アキラは地面に倒れ伏す。
「ア、キラ…?」
問い掛けにも応じない。其れはまるで、永久の眠りに着いたように。
「アキラ…ねぇ、アキラ…!」
揺さぶり、声を掛けても、アキラは目覚めない。
「いやだ…嫌だよ!お願いだから、目を覚ましてよ…!アキラッッッッッ!!!!!」
クリスの悲痛な叫びが、ただただ空間に震えて消えた。其の時のアキラの表情はまるで、成し遂げたかのような達成感と満足感に溢れた、誇らしげな悔いの無い笑顔だった。
* * * * * * * * * * * * * * *
東京都内某所、特別シェルター内……
ダダダダダダダダダダ!!
パンパンパン!!
『ぐぁあ!』
『くっ、このままじゃ殺られるぞ!早く援護を…』
ドガァアン!!!!!
『うわああああ!?』
火薬と硝煙と血腥い臭いが、シェルター内を充たしつつある中、シェルターを占拠し、人質を取っている禍根の指輪の兵士達に対し、『二人の艦娘』が大立回りを繰り広げていた。
「アイオワ!右から三人!左側の物影に一人居るわ!援護お願い!」
「OK!倒して奪っておいたショットガン、持っていって!」
「サンクス、助かります!」
アイオワとサラトガ…彼女達は華裏鎮守府に保護され、最強鎮守府決定戦に参加すべくアキラの付き添いで海を渡り、日本の地に足を踏み入れた。だが、大本営の策略により突如として予選に彼共々巻き込まれ、さらに禍根の指輪の介入により都内は大混乱になった。
そんな状況下で出会った
敵の言葉を理解し、隙を突いて兵士の一人から武器や防具を奪い取り、武装した二人は叛逆の狼煙を挙げ、禍根の指輪から人質を解放すべく、戦っている。
『ぐきゃあ!?』
「HEY!HEY!HEY!そんなモノかしら!!テロpartys!もっともっと!暴れたげるんだからネ!」
手榴弾を、弾切れになった武器を、豪速球で投げる。
初めて手に取った銃火器を、そつなく使いこなしている。
兵器として生まれ、害敵と戦う運命を背負った者達は、其の力を以て、自分の大切な人を死に至らしめんとする敵の野望を打ち砕かんと立ち向かう。
『くそ!相手はたった二人、二人なんだぞ!』
数は此方が圧倒的、多勢に無勢のはずだ。だが、実際はどうだ?たかが女二人に、自分達が圧倒されている。これは絶対に、何かの間違いだ…。
「Good-bye!」
手榴弾が投げ込まれ、爆発と共に一人、また一人と味方がやられていく。
『隊長、どうしますか!?このままでは、我々が全滅するまで時間の問題です!』
アイオワとサラトガの進撃を押さえんと迎撃に当たる兵士の一人が、シェルター内の別フロアに居る部隊長に無線連絡を入れる。
《…艦娘達は目標値には至っている。が、今本隊の方で騒動が有ったとの連絡が入った》
『では!』
《…頃合いだ。シェルター内の同志達よ、地下五階にある『潜水艇』に行け。
敵に悟られぬよう、素早く後退し脱出せよ。一人でも生き残れ、以上だ》
『了解!』
連絡を受けた兵士から、シェルター内の同志達に次々と旨が伝わり、彼等はアイオワとサラトガの迎撃を行いながら早急に後退し、非常階段出入口へ一目散に逃げてゆく。
「逃がさない…!」
「待って、アイオワ。わざと退いたように見せ掛けて、待ち伏せする敵の罠かもしれない。それに私達の目的は皆さんを無事に助ける事…そうでしょう?」
敵を叩き潰し、二度とちょっかいを掛けられないようにしようとしたアイオワを諭し、本来の目的を遂行するよう冷静にさせたサラトガ。
「…えぇ。そうだったわ」
一呼吸行い、頭を冷やしてアイオワは何時もの笑顔でサムズアップする。
「とにかく、皆さんが居る部屋へ…」
『あ、彼処です!!』
突如、後ろから声が響き、二人は銃を構えて向き直る。
「待って待って!!私よ!!」
薄暗い影から蛍光灯の照らす光の元へ現れたのは、自分達の提督であるアキラに協力を持ち掛け、更に大本営によって嵌められた事に気付いた
「御無事でしたか?」
「なんとかね。それよりも『コレ』…貴女達がやったの?」
亜衣や悠、楓に健太郎、そして多くの人々は見る。足元に倒れ、動かなくなった禍根の指輪の兵士達を。ある者は血を流し、ある者は壁や柱に凭れ掛かり、ある者は指や足が無くなってしまっていた。
「えぇ。やらなければ、やられる…私達も彼等の命を取りたくはありませんでした」
「これは仕方無い…なんて、ミー達は言い訳したくないわ」
経緯はどうであれ、害敵から人類を守るべき立場にある艦娘の自分達が、人類に手を上げ、あまつさえ其の生命を奪った事実。其の罪を心に刻み、受け止める…其れが自分達に課せられた贖罪だと彼女達は思っている。
「それでも」
そう声を発したのは亜衣だった。
「私達は貴女達に救われました。…ありがとうございます」
誠意と感謝を込めて、彼女は深く頭を下げた。亜衣の行動を見て、一人…また一人、アイオワとサラトガに礼をし、一部は「ありがとう」と言葉にして思いを伝えた。
彼等、もしくは彼女等は、そうして自分の指揮下にある艦娘を探すべく部屋のドアを開いたり、声を立てて名前を呼んでゆく。
「ありがとうですって…ミー、ちょっと複雑だわ。でも今は…」
「はい。アキラを探しましょう」
悪い気分では無いのだが、二人の心の霧は晴れない。大切な人がどうなっているかわからないためだ。彼女達は防弾チョッキ以外の武装を解除して、地上口に続く階段へと急ぎ、駆け上がってゆく。
《アキーラ、待ってて。今助けに行くから…!》
《アキラ、どうか御無事で…!》
閉ざされた入口の鉄扉を、二人は力を合わせて無理矢理抉じ開け、外へ出る。閑散とした不気味な静寂の中を、一先ず東京タワーの方向を目指して突き進む。
だが、彼女達は知らない。アキラの身に起きた、怪奇な出来事を…。そして彼の戦いを…。
* * * * * * * * * * * * * * *
数分前、東京都内・某国道…
『くそが!ソウル、もっとスピード出せねえのか!』
アスファルトの道を削るように駆ける其れは、VDFが開発した対禍根の指輪機甲師団用、戦車型機動兵器のアイアンスラッガー。黒鋼の鉄騎を駆り、人気の無い街並みを猛スピードで疾駆させている。
其れに乗り込むのは、これまで多外国で起きたテロを鎮圧し、現在はVDF日本支部総隊長の座に就任している、『タートル』こと、
『変型機構に、機動性能!お前が求めた物を、予算限度まで詰め込んで、極限まで絞って作ったんだぞ!これ以上速度を出せば
『うるせぇ!もっと速度出せるようにしやがれ!』
両者が焦っていたのには理由が『三つ』ある。
一つ目は、華裏鎮守府の提督の牧園 アキラ、そして西村 クリスこと英国王位継承権第一位のエリザベス・エリーゼ・クリスティアル王女が、禍根の指輪によって捕らわれ、彼等の投票殺戮遊戯『裁きの天秤』に掛けられている事。
二つ目は其の遊戯中、どちらかの投票数に一万票の差が生まれる度に東京都内の某所で爆破が起き、其れが既に三十回に届きかけている事。
そして三つ目は━━━━━━━━━
『まだ『バラすんじゃねぇぞ』…!』
牧園 アキラの軍服の第二ボタンに着いた『小型特殊カメラ』の存在が何時明かされるか解らない事…この三つ目が、普段冷静な判断で部下達を率いる二人を、焦燥に駆らせていた。カメラの現在地を示す信号電波と現在の映像と音声は、VDF最高戦術予報士の『ホープ』と『ファウスト』が送っているので問題は無い。しかし、牧園 アキラが何時如何なるタイミングでカメラの所在を奴等に明かし、其れを潰されるか迄は二人にも予測出来ない。
甲染は『心理の先読み』と呼ばれる、牧園一族の中でも極一部の人間に継承された秘技があり、これは相手の表情や呼吸、目の動き等の様々な要因から『思考』を読み、次に何を言おうとしているのか、何をしようとするのかが解る。其れを利用すれば、『普通ならば』アキラが仕出かすタイミングを読み取り、其の瞬間にアイアンスラッガーを突貫させに行ける。
しかし、現在のアキラにはどうゆう訳なのか、其の先読みが『一切効かない』。つまり、思考が読み解けないのである。そして其れが出来ないとなると、救出作戦は困難なものに変わる。
『タートル!カメラの電波発信源は高速道路を進行し続けている!この先に高速への入口があるから、其所に行け!』
『わかっとるわ、そんなこった!』
アクセルを緩めず、交差点を駆け抜け、料金所のバーをぶち破り、上り坂を駆け上がって道路を猛スピードで走る。
普段なら乗用車やトラック等が世話しなく走る首都圏高速道路だが、禍根の指輪の影響か車は通っておらず、見掛けたとしても車線外に停車し、裳抜けの空になった物しかない。例えるなら…死んだ血管内だろう。
《なぁ…禍根の指輪の頭目さん》
その時、リアルタイムの映像で変化が起きる。アキラが『何か』を思い付いたように、モニター越しに居る可能性がある、
《あなた方は、一体『誰に依頼されて』日本に…其れも東京都内にやって来たのですか?
どうしても死ぬ前に、この疑問をハッキリさせたかったのです。でなければ、私は死んでも死にきれない》
一見すれば彼の言葉は、死ぬ前に答えを知り、悔いを遺さぬようにするために発したように見える。普通の人間ならば、そうする者も多くいる━━死の恐怖を和らげたり、末代まで呪い殺したり等…そうゆう類いに繋げるための行動なのだ。
だが、甲染には。アキラの言葉に『別の意図』が含まれている事を、通信音で響く彼の声の波長から汲み取っていた。
『おいおいおいおい…!』
嫌な予感がする。同じ『牧園一族』だからこそ
そして二人は━━否、この映像を観ていた『者達』は。
衝撃の『真実』を知った。
《ほぉう…知りたいか?まぁ、貴様と王女の死は確定済み。時間もある、教えてやろう。
今回、我々禍根の指輪に東京襲撃を依頼したのは━━━━
『大本営』だ。
奴等も『牧園一族の排斥と抹殺』に関して、『利害が一致していた』。
奴等はこうも言っていたよ。━━━『増え過ぎた提督と艦娘を選別し、真の精鋭艦隊を設立するために、集印走を以て篩に掛ける。其の際、殺した提督の指揮下に在った艦娘は我々にくれてやる』とな。
フフフ…組織というのは、つくづく思うが馬鹿とマヌケと無能しかいないとみえる》
禍根の指輪により明かされた真実。VDFの中には身分を隠す為に提督として、大本営に身を置き、戦っている者達も少なくはない。更に『組織内の実情を知っている者』も、極僅かだが居る。そんな中で彼等からすれば『此の真実』は、自分達が『何の為』に提督をしてきたのか分からなくするものだった。
『…ふざけてやがらァ、大本営の
『……ああ。本当にな』
タートルは月之世 甲として、ソウルは堀内 魂冴門として、大本営の一員だった。二人が提督として戦ってきたのは護国の為、大本営に裏切られ、彼等の中に『悲しみ』の感情は微塵も浮かばない。寧ろ『怒り』の方が強く滲み出たのだ。
が…
《フッ…フフフ》
突然笑い声が聞こえ、ソウルは映像に再度注目する。
《フフフフ…!フッハハハハッ…!
ハハハハ!ハハハハハハハ…!ハハハハハハハッ!》
画面が下を向いたと思えば、ゆっくりと上に上がってゆく。アキラの笑い声は、壊れた者が放つ特有の声の波長ではない。
『強く自信』に満ちた、何か━━『勝利』を確信している笑いなのだ。
《ハァ…━━━━━━━━━━━━成程なぁ…。大本営が。此所まで落ちぶれて、クソッタレになってたのは、流石に予想外だったわ》
上がっていた画面が下に降りて、元の位置に戻る。そして禍根の指輪の兵士二人が、武装している機関銃の銃口をアキラに対して向けた。彼等の構えから察するに、頭と心臓に狙いを定めている。
《ふん。そんな表情を見せて何になる?また言うが、君達の死は確定している。妙な真似をすれば死ぬのはお前だ、牧園 アキラ》
どんな表情かは分からないが、ボスの言っている事もまた事実だ。何らかの動きを見せれば、奴等は容赦なく人の命を奪う。国外での活動中に彼等と出逢い、其れをまざまざと見せ付けられた記憶を持つ二人は、アキラが余計な事を仕出かさないように、一刻も早く電波発信源に到着する事を祈るしかない。
《死が確定している…か。じゃあ聞くけど、其の運命は一体『誰が決めたんだ?』》
《…ハッ、其れは私だ。お前達は此処で死ぬ》
《そうかい…でも、俺を殺したところで禍根の指輪あんたらと大本営は━━━━『確実に崩壊する』事になるだろうけどな》
『『…………ん?』』
アキラの放った一言。其の言葉に、二人はとてつもなく嫌な予感がした。
《…何を言っている》
《気付いて無いのか?…ハハハハ!
俺が『わざと』、禍根の指輪に捕まった事にさ》
『おい、まさか…!』
『あぁ。多分、其のまさかだと思う…!』
アクセル全開、フルスロットル。止まった乗用車を弾き飛ばし、キャタピラで押し潰し、兎に角早く辿り着かんとした。しかし、現実はそう甘くはない。
《俺はある人から『極秘の依頼』を受けていた。そして今日、まさにあんたらが攻めてきた。まさにドンピシャだったのさ》
アキラの言葉は、おそらく虚言だろう。警察として容疑者尋問に当たった事のある甲染には、其れが分かった。しかし真実味を含んだ虚言もまた、厄介な物である事を彼はよく知っている。
そして━━━━少ない時間で彼は察した。
『このタイミング』だと。
『ソウル!発信源はまだ見えねぇのか!?』
『後七キロ!この先左カーブがある!其所で見える筈だ!』
多重過熱で戦車が止まる覚悟を決め、さらにアクセルを踏み込むタートル。動力部がギリギリと悲鳴を上げ、赤く発光を始める中、アイアンスラッガーはカーブへ突撃。ハンドリングとブレーキを使い分け、某箱根山カーレース漫画並の高速ドリフトで車やトラックをぶっ飛ばし、切り裂いてゆく。
其の間にソウルはアイアンスラッガー上部の出入口から上半身を出して、索敵。
『タートル!見えたぞ、アレだ!』
キャタピラがアスファルトをギャリギャリと削る中、ソウルは自分達の前方を走る、一台の巨大なトレーラーを発見。其のトレーラーは三車線の道路を完全に牛耳る程巨大な物で、貨車を牽引する本体は某ゾンビ映画の中で死体の群れに突っ込みにいくかのような刺々しい物であり、見た目からしてかなり頑強に造られているのが伺えた。
事実、其のスパイクのような武装で乗用車を次々に串刺し、瓦礫を退かすブルドーザーの如く、ゴリ押し続けている。このままでは、何時火花がガソリンに引火してトレーラーごと爆発するか分からない。そうなれば、アキラもクリスティアル王女も、只では済まない。
『前方に回り込めそうか?』
『駄目だ!三車線を占領されている!アイアンスラッガーでも回り込むのは…』
何か無いかと辺りを見回した時、ソウルの目に反対車線が映る。
『いや、行ける!中央分離帯の策を砲撃で破壊し、ドリフしながら乗り換えれば!』
『其の案貰った!』
言うが早いかタートルは砲身を動かし、カーブが終わる辺りの鉄柵に狙いを定め、一発の砲撃を放つ。轟々と飛来し、着弾と共に鉄柵は爆ぜ飛び、抜けるための穴が出来上がる。
『いけやぁ!アイアンスラッガーァ!』
細い糸を針穴に通すが如く、反対車線へ鋼鉄の機動戦車は抜け出した。スピードを落とさず、巨大トレーラーを追い掛ける。
が…━━━━━━━━
《なぁ、禍根の指輪の頭目さん━━━━━━━━此迄の会話、現在進行形で全世界に生配信されてるんだよ》
アキラの口から、バラされてはいけない事がバラされた。車内に戻ったソウルは、アキラの行動に『くそっ!』と毒づき、ガン!と内側を叩く。
《何を根拠に…ッ━━━━━!?
同志達よ!牧園 アキラの『第二ボタン』を調べるのだ!其所に何かある筈だ!》
『タートル!カメラが敵にバレたぞ!』
『音声で聞いてる!』と返した其の時、トレーラーのバックミラーに禍根の指輪の兵士の姿が見えた。其の直後、巨大な車体がジリジリと此方側に寄り始めたのである。
『おいおいおいおい…!このまま『此方に来る』つもりか!?』
アイアンスラッガーは変型機構を搭載しているが為に、装甲が少し厚い小型戦車程度でしかない。一方の巨大トレーラーは大型列車と同等サイズ、そんな重量差・質量差で体当たり等されれば、いくら戦車といえど一溜まりもない。
次の瞬間。
《怯むな!銃撃だ!》と一声。直後、機関銃の引き金が引かれ、無数の銃撃音と共に赤い血飛沫が飛び、見ていた画面が砂嵐に変わった。
『タートル!』
『ちぃ、牧園 アキラの馬鹿野郎が!!』
アキラと王女の安否情報が気掛かりな二人に、そんな事等知ったことかと、トレーラーは前面に付いたスパイクで中央分離帯をガリガリガリガリ!と粗削りに砕きながら、アイアンスラッガーの居る車内に入ってくる。
『…そんな程度でアイアンスラッガーを。俺等を殺れると思ってんなら、奴等も相当御目出度いもんだなぁ!!』
車内にあるレバーを引いたタートル。ランプが『戦車』のマークから『砲座とキャタピラが直列している』マークに切り替わる。刹那、アイアンスラッガーは変型を開始し、ソウルが載る砲座部分が前に、タートルが運転してる車体部分が後ろへ移動した。結果、車高が『半分』になり、車体が『倍』に延びたのである。
これが通常の
『タートル、来るぞ!』
『分かってらァ!』
迫るトレーラーの牽引台車の隙間へ、アイアンスラッガー回避形態は滑り込む。小型車両特有の小回りの良さに加え、半分になった車高が、破壊の危機を絶対安全の状況に一変させたのである。
『成功だ!トレーラーの下に入った!』
『しゃあ!そっからコンテナに穴を開けられるか!!』
『やってみる!』とソウルは慎重に出入口の丸扉を開く。砲撃を撃ち込む際どの辺りを狙うか、何処ならば被害を出さずに済むかを計算するためである。吹き付ける風が防弾ヘルメットに当たる中、彼はガコン!ドゴン!ズガン!というコンテナから響く、重い打撃音を耳にした。
其れも単発ではなく複数。一回ではなく連続で。ハンマーでも使っているかのような力強い、勢いがある。
コンテナ内で何が起きているのか映像を確認しようにも、画面は砂嵐を起こしており、状況が一切把握出来ない。
と、不意に先程まで響いていた打撃音が止み、静寂が訪れたと思えば、ダーン!と一発の銃撃が響く。
『ソウル!急げ!』
『分かった!』
砲座に戻り、砲身を動かす。
そして…砲火は放たれた。
* * * * * * * * * * * * * * *
「アキラ…!嫌だよ…!お願い、目を開けて…!」
巨大トレーラーのコンテナ内部…
西村 クリスは…エリザベス・エリーゼ・クリスティアル王女は、泣いていた。自分を守り、禍根の指輪の兵士百人を打ち倒し、倒れ付した友を前に。
「アキラ…!アキラ…ッ!」
揺さぶり、頬を叩き、覚醒を促し続ける。だが、友は目を覚ますことなく、まるで死んでいるかのように静かだ。
「アキラ…ッ!アキラ……お願い、だから……!」
ボロボロと涙が零れ落ちて、アキラの身体を濡らす。それでも…友の声は彼に届かない、聞こえない。
「アキラ……アキラ………アキラぁ……!」
其の時。
ドコオオオオオオオオ!!!!!という轟音がコンテナを揺らし、響き、彼女の前方50m付近の床と70m程先の天井に大穴が穿たれた。
「えっ…何、何なの…?」
アキラの腹部に覆い被さり、穴を警戒する彼女。禍根の指輪の仲間が来たのかと。アキラの近くに転がっている銀の棒状武器を何とか持ち上げ、構えながら、彼女は未知なる存在に備えた。
ドゴン!ドゴン!と空いた穴から二発、三発と轟音が立て続けに鳴り響き、コンテナ内が大きく揺れ動く。数秒を置いて、四発か五発程轟き響いた後、揺れは治まり、其れまで感じていた微振動も止まった。
『エリザベス・エリーゼ・クリスティアル王女様!御無事でしょうか!?』
穴が顔を出し、乗り込んできた存在に彼女は棒を構えるが、直ぐに警戒を解き、地面にへたれ込む。
胸の防弾ベストに刻まれた、VDFの紋章を見たためだ。
『此方ソウル!人質となっていた牧園 アキラ、並びにエリザベス・エリーゼ・クリスティアル王女を発見しました!現在、タートルが人質を乗せたトレーラーを鎮圧!禍根の指輪の兵士はコンテナ内だけでも百人近く気絶しており、現在の所在地より近い隊員は、これよりコンテナ内の兵士の捕縛をお願いします!
これより私は、両名救助活動を始めます!』
無線で指示を出す、ソウルに安心からへたっていたクリスはハッと我に返るや、彼に組み付き、必死に願い出た。
「お願いします!アキラを!私の友達を助けて!!」
『王女様!?』
「お願い!アキラは、私を守って!機関銃に撃たれて、意識が戻ってない!このままじゃ、アキラが死んじゃうの!
私は良い!お願いします!アキラを助けてくださいッ!」
必死に訴えるクリスを見、ソウルはアキラの元に駆け寄り首筋の脈を取る。
《微弱だが脈拍が有る。だがこれは、何時死んでしまってもおかしくない、極めて危険な状態だ…!》
そう判断し、ソウルは無線連絡を飛ばす。
『此方ソウル!先程の連絡に一つ誤りがあり!現在、牧園 アキラは極めて危険な状態にあります!至急、我々の基地に輸送、第一種緊急手術を行う用意をしてください!
繰り返す!牧園 アキラを我々の基地に輸送し、第一種緊急救命手術を行う用意を!』
連絡を終えたソウルはアキラを御姫抱っこで抱え、大穴下に止めたアイアンスラッガーに乗り込む。
『王女様も御早く!』
添えられた手を取り、彼女は何時の間にか小さく縮んだ銀棒と共にアイアンスラッガーに乗り込んだ。回避形態のまま180度旋回し、アクセルペダルを踏み込みながら、貨車の下を潜り抜け、タートルは回避形態からレバーを操作し、戦車形態のランプに切り替える。
アイアンスラッガーもまた其れに準じて変型し、小型戦車へと戻り、人っこ一人居ない高速道路を駆けていった。
20XX年7月31日。
東京都内で発生した、禍根の指輪による襲撃及び爆発事件は、集印走を一目観ようとした一般市民や参加中の提督と指揮下の艦娘をも巻き込んだ。
一連の事件により、敵味方・人も艦娘も含めて5,893人の尊い命が失われ、32,000人以上の重軽傷者と500人以上の行方不明者を出すという、日本の犯罪史上類を見ない事件として、後の世に『最凶最悪の事件』と命名、歴史に記される事となった。
また同日、ネット上には牧園 アキラが命懸けで録画していた『映像記録』がアップロードされ、これにより大本営は国内外問わずメディアや国民から非難と追求の嵐を受ける結果となり、組織は大変革を否応なしに余儀無くされる事となる。
『大本営の闇を暴きし者』…『女王の守護者』…。其れが『日之國の英雄』牧園 アキラに付けられた、最初の通り名となったのだった。
オリ武器解説
月世 甲染《本名:牧園 コウゼン》より託された檜木の棒の内部に在った、銀色の棍棒型の武具。使用者のポテンシャルと潜在能力を最も発揮出来るように自動で形を変える機能が備わっており、初めて握ったアキラ(?)に「使いやすい」と言わしめた。
アキラが持った此の武器の場合、銃口付近に付いた赤・青・黄の三枚の刃が在り、使用者の遺伝子を表示する機能がある。赤が人間因子・青が深海因子・黄色が艦娘因子を検知すると発光、何れか一つの因子が全身を占めた場合は三つの刃全てが其の色に変わる。
自分や他者の血液を収集・収束し、血中に含まれる鉄分でコーティングした弾丸を作る機構が存在しており、使用した血の性質を精製した弾丸に読み込ませ、放つ事が出来たり、三枚の刃に性質を付与する事も可能となっている。
武装の形のモチーフは、ウルトラマンジード・ウルティメイトファイナルの専用武装ギガファイナライザーと、デュエル・マスターズのカードで最高レアリティのマスターレア ジョギラスタ・ザ・ジョニー(通常イラストver)が持つ銃槍武器が融合したような物
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オリメカ解説
アイアンスラッガー
VDFの技術部門のメンバーがコウゼンことタートルの要望を汲み取り、実現可能な範囲で自分達の技術の粋を結集して造り上げた小型機動変型戦車。
車内にあるレバーを操作する事で、緊急回避や狭い場所を潜り抜ける事に特化した
また、動力部を意図的に熱暴走させ、戦車を敵に突貫・爆破させる自爆特攻技、アイアンストライクと呼ばれる機能も存在している。
元ネタはメタルスラッグシリーズに登場する兵器の一つ、スラグガンナー。
武装
400mm単装戦車砲×1(前面)
150mmガトリング砲×1(左アーム)
パイルバンカー×1(右アーム)
自動空中迎撃用50mm高角ガトリング銃×2(後部)