※この作品はR-18です。

将来を有望視された青年が、冤罪で問題山積みの鎮守府に着任されました。 ~地獄の底からこんにちは~   作:ガリアムス

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今回から、新章である『牧園 アキラ 絶望之章』が開始します。此の章は主人公の過去に関わった人々、そしてアキラに対し、多くの困難と悲しみが連続して襲い掛かります。

章全体を通しても、シリアスシーンが大多数を占める可能性が高いので御注意下さい


牧園 アキラ、絶望之章 ~世界の悪意と残酷な真実~
将来を有望視された青年が、冤罪で問題山積みの鎮守府に着任されました。~明かされる真実と華裏鎮守府のこれから 其之壱~


━━━………ポコポ……ゴポポ……━━━

 

 

夢を見た。民宿・一ノ瀬で見た時と同じ。

 

口元に管らしき物を含みながら。

 

薄緑の光の中、暖かい、丁度良いくらいの適温の湯船に、全身が包まれている様な感じだ。

 

 

━━━…ボココ……ボボボ……ゴポ…━━━━

 

 

外に誰かいる…。

 

前に聴こえた声に…似ている。

 

 

「…あなた。●●●の━━━成は━━…よ」

 

「…うか。━━━━は何時の日か●●の━━━を変える━━━………」

 

 

何を話しているのだろう…?

 

 

「●●●、━━……━てね」

 

「……━だな」

 

 

二つの手が、隔てられた透明な壁に触れている。

 

一人は眼鏡を掛けた、長い黒髪に白衣を着た女性。

 

もう一人は白髪で、同じ白衣に袖を通したガタイの良さげな男性。

 

 

「●●●。何時か━━━を。いや、━━━を。━━━うんだ」

 

 

視界が微睡み始めた…。

 

眠気が全身を支配し、意識が眠りに落ちて行く…。

 

夢が終わる、最後の瞬間。

 

 

『お前が。●●を救うんだ』

 

 

男性の声が、そう聴こえた。

 

 

 

* * * * * * * * * * * * * * *

 

 

 

「……っ、ん…………━━━━━━」

 

漆黒に染まる海の底から、光に満ちた水面へと浮上するように重い瞼を開かれ、アキラは覚醒を果たした。

 

最初に彼の視界が捉えたのは、真っ白な天井とLED電球の白い光。左右に首を振ると、白地のカーテンが敷かれ、外の様子を見ることは叶わない。

 

背中に出来立ての綿飴のような、柔らかい、ふんわりした感触が当たる。おそらく自分は現在、ベットの中に居るのだろう。

 

「━━……此所、は……何処……(ジャギャリ)……だ?」

 

起き上がろうとした時、手首足首が上がらない。腕や足は僅かばかり動くが、寝返りは出来ない。毛布に頭を潜り込ませ、原因を探ると四肢に革のベルトに鉄の鎖が付いた拘束具が、アキラの自由を制限していたのだ。

 

「どうなったらこうなるんだ…?」

 

まともな行動すら出来ず、とれない窮屈さ。アキラにとって自由に動けない状況は、心が憂鬱な気分に支配させる。ましてや理由も無く、何処かも分からぬ中で拘束されている…未知の場所に居、拘束されている不安も相まって、彼の心に燻るモヤモヤは全身に満ちてゆく。

 

《ドウシテ、ダロウナァ…?モウ一人ノ…オレヨ…》

 

グニュニュ…と毛布から煙のように漂いつつも、其れは意思を纏い、アキラの近くで顔を形成しながら、彼に向き合った。

 

「分からん俺に其れを聞くか?…俺にも分からねぇ」

 

《シッテタ。オマエガ、ワカラネェンジャ…オレニモ、ワカルワキャ…ネェナ…》

 

腹から「はぁあ…」と大きな溜息を溢し、目を閉じた時だった。

 

『アー…アー…。テステス~テステス~』

 

部屋からスピーカーを用いて声が響く。アキラと彼の中に居着く闇のアキラは、其の声に聞き覚えがあった。

 

「此の声…」

 

《アア。マチガイ…ナイ…『ヤツ』、ノコエ…ダ》

 

『おはよう。気分はどうだい、牧園 アキラ提督殿?』

 

提督殿といい、憎たらしさを含んだ声のトーンといい、彼等の記憶の中に在る嫌な人物は数いれども、該当する者はたった一人しかいない。

 

「色々聞きたいことはあるんですが…先ず一つ。

 

此所は何処で。一体何をやってるんですか。『月乃世(つきの) 甲(こう)』少佐」

 

此の空間の何処かに在るだろうカメラから、動けない自分を見ている者へ、アキラはジト目で言った。其の様子を見て、甲染はニィッ…と獰猛に笑い、アキラに向けてこう宣う。

 

『フッ…『合格』だ、アッキー。んじゃ、改めて…。

 

我等VDF日本支部へようこそ。英雄…牧園 アキラ殿。私達は貴方に対し、最大限の敬意と感謝を表します』

 

ガチャ…と扉が開く音がし、誰かが此方に向かって歩いてくる。カーテンが開かれ、其処にはVDFの紋章を胸に光らせる、一人の兵士が立っていた。

 

『タートルが手荒な真似をしてしまって御免なさい。不便だったでしょう?』

 

謝罪し、四肢を拘束するベルトを外し始めた。声から其の人が女性である事が分かるが、マスク型の防弾ヘルメットを被っている為、表情が分からない。

 

『おい『ティニー』。彼は特別な客だ、丁寧に頼むぞ?』

 

『あらあら、そんな事言って…緊急手術した後に『この子は安全が確保出来るまでは、此方で拘束…もとい保護しよう』って言って、厳重治療室にぶちこんだのは何処の御馬鹿さんかしら?』

 

「待って待って待って!?えっ、手術!?厳重治療!?俺何か仕出かしました?!」

 

話をぶち切る形でアキラが声を上げる。自分の意識が無い間、甲達が身体を弄くっていたり、何か危険なものでも取り付けたのでは無いかと、そういった理由で問い掛けた。

 

『…取り敢えずティニーと一緒に、第三面会室まで来い。話しは其処でしよう。

 

後、お前さんに『客人達』が会いたがってるしな』

 

 

 

* * * * * * * * * * * * * * *

 

 

タートルこと甲少佐から、ティニーと呼ばれる隊員の一人に案内され、アキラは基地の中を歩いていた。

 

《VDFの基地…何て言うか未来都市感があるな》

 

廊下の天井や壁には無数の細いパイプが取り付けられ、LED照明に照らされた空間は、手入れが細部にまで行き届き、綺麗で清潔感に満たされている。

 

更には廊下の一部は、空港で見掛けるコンベア式の歩行路で二面四線に敷かれ、小型ドローンが飛び回り、行き交う隊員達にメッセージを送ったり、警備員の目の届かない範囲をカバーしていたりと、アキラは自分が今、一つ先の未来にいる気持ちになった。

 

『着きました。少し待っていてください』

 

白い扉の近くで止められ、待機するよう言われたアキラ。ティニーは手袋を外し、扉の横に在る指紋認証パットに掌を翳しつつ、少しだけ身体を屈み、視線を扉の中心にある小さな水晶体に合わせた。

 

《指紋認証及び光彩認証確認。VDF隊員ティニーの入室を許可します》

 

ロックが外れ、扉が開く。追従し、アキラは部屋へと入る。

 

「アキラ…?」

 

聞き覚えのある声に彼が横を向く。

 

「えっ…龍驤…先生に、大淀さん?何で…━━」

 

そう…其処には本来ならば、華裏鎮守府に居る筈の大淀と龍驤がテーブルを挟んだ椅子に座り。驚きの表情で此方を見てたのである。

 

「大よ━━「アキラッ!」どうぇっ!?」

 

言葉を言う前に、大淀が一気に接近。ティニーの前にも関わらず彼に抱き付き、床に押し倒す。

 

「アキラ…ッ!アキラ…ッ!アキラ……!

 

東京で貴方が禍根の指輪に捕まって、処刑されそうになってるのを見て、華裏鎮守府を飛び出して…!東京へ向かって、艤装を着けて一日掛けて海を渡って…!

 

ボロボロになった東京でアキラを探して…三日間も経って…!四日目の昼辺りでVDFの兵隊さんが来て、貴方を保護していたと聞きました…!

 

良かった…!本当に…ッ……良かった……!!」

 

頬を擦り合わせ、安堵と歓喜の涙で滝を作り、心配と怒りと無事を混ぜて、ぐしゃぐしゃになった顔で大淀はアキラを万力に等しい力で抱き締める。

 

「痛っ……ごめん」

 

締め付けに耐え、右腕を背中に回しつつ、空いた左手で優しく、愛おしく、彼女の頭を撫でた。きっとこれだけでは『足りない』だろう…何か御願いされても断らずに受けるしか道は無い。アキラはそう決意する。

 

其の決意が彼と大淀の関係を深く、そして強く結び付ける事になる等と、アキラ自身が知る止しもなく…。

 

「…………アキラ」

 

「はい。大淀さん」

 

「あの、私………ね」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アキラの子、妊娠したの。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………………………へ?」

 

口火は素早く、予期せぬ内に切って落とされた。

 

「……もう一回、言ってくれる?」

 

「アキラの子が、私のお腹に居るの」

 

状況が呑み込めず、記憶に該当する事が無かったか思考するアキラを他所に、拘束を解いた大淀が優しく自分の腹部を擦る。腹の上に彼女が馬乗りになっている状態…この光景でアキラは思い出した。

 

おそらく彼女が妊娠したのは、自分が着任して一ヶ月も経たぬ内に起きた、『あの時』の出来事だったと。

 

「えっと…。ね、アキラ…?

 

『責任』…取って、くれますか?」

 

優しい笑顔と潤んだ瞳で、彼女はアキラに対し宣う。 対する答えは既に決まっていた。

 

「はい。大淀さん」

 

パァァと晴れ渡る顔で、彼女がぎゅゅっとアキラを抱き締める。身体のあちこちから悲鳴に近い声が上がっているが、今は耐えることにする。

 

が。

 

『あの~?御二方仲睦まじく、人目気にせずイチャイチャするのは、私からすれば結構なんですけど~?話が進まない上に、ちょっと段々ムカッってするので、席についていただけます~?』

 

ティニーの殺気が防弾スーツとヘルメット越しに滲み出て、此方を親の敵の殺さんとばかりに威圧してくる。

 

「「は、はい!すいません!」」

 

ほぼ同時に声が飛び出し、龍驤の座るテーブルの方へと逃げるように小走る。滅茶苦茶怖い。VDFの一員として禍根の指輪と戦っているのとは違う、何というか嫉妬に近いものを感じて怖い。

 

『全く、若い子達はイチャコラしてて困るわぁ~』と毒づきながら、ティニーが龍驤と対面になるように座る。

 

《VDF総隊長、タートルの指紋及び光彩を確認。入室を許可します》

 

ガチャリと扉が開き、甲少佐…タートルが入ってきた。

 

『ティニー、待たせたな』

 

『タートル。室内の『防音機能』、ONにしておいたから安心なさいね』

 

『ん。ありがとうな』

 

防音機能がある室内、そして自分を含め最も信頼出来る人間しか居れていない。この事から龍驤は今からこの二人が話す事は慎重な扱いを要求する、かなり厄介であり、尚且つ他言無用にしなければ自分達の身に危険が及ぶ代物だと予測を立てる。

 

『さてと…牧園 アキラ殿』

 

タートルがティニーの方を少し向き、ティニーが小さく頷く。両者が同時にヘルメットの横に在る小さなボタンに触れると、プシュゥ…と空気音が漏れ、ガチャンと解錠音が鳴る。

 

そして…ヘルメットが外された。其処には髭と髪をしっかりと刈り、清潔感に溢れた甲少佐と。自分達と同じくらいの若々しい、金髪蒼眼の女性が顔を現したのである。

 

「改めまして。VDF日本支部の総指揮官として、御礼を申し上げさせて頂きます。私はステイシー・レイラ、VDF内ではコードネーム:ティニーで名を通しています」

 

「VDF日本支部総隊長、タートルこと月瀬 甲染。月乃世 甲は提督として、此の世を忍ぶ為の仮の名だ。以後宜しくな」

 

レイラと甲染…禍根の指輪の撃滅掃討を掲げる組織の、其れも戦闘時の司令塔と屈強極まる隊長達を統率する総隊長が揃い、非公認鎮守府の自分に対して礼を述べてきたのだ。

 

既にこの時点で只事ではない。緊張で汗が湧き、口内が急激に乾燥してゆく。

 

「なぁ…こーちん」

 

そんな中、先に言葉を発したのは龍驤だった。

 

「アンタの名前、月瀬 甲染で間違いない?」

 

「えぇ。そうですよ、龍驤せんせ」

 

「…そうかい」

 

一体二人が何を言っているか分からない。?マークを浮かべる大淀とアキラに、龍驤は驚くべき言葉を言い放つ。

 

「いやぁ、驚きやわ。まさかなぁ…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『日本の特例警視総監』自ら出張って礼を言うなんてな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……………は?」

 

「……………へ?」

 

「あ。そいや、アキラにゃコレ言ってなかったな。ハッハッハッハッハ」

 

アキラは以前、警察官姿の甲染を見ており、警察関係者である事を知っていた。しかし、其れを踏まえても特例とはいえ警視総監という日本の警察組織のトップの肩書を持っている等と、誰が予想出来ただろうか。

 

「ま、俺はあくまで『特例』だからな。緊急時以外は大体VDFの身分隠して提督業さ。因みにVDF隊員の中にも、俺と同じ、提督として戦っている奴もいるぜ」

 

「そのせいで提督をやってない私を含めた、他の隊員の負担が大きいのよね~。いい加減にして欲しいのだけど~?」

 

「わーとるわ」と少しぶっきらぼうに甲染はレイラへ返す。

 

「でだ、アキラ。お前さんが『五日間』眠ってる間に、色々と世間は大きく変化した」

 

「五日!?そんなに寝てたんですか、俺!?」

 

「一つ聞くぜ?」

 

「話を聞いて!?」

 

「『最高のニュース』と『最悪のニュース』、お前はどっちから聞きたい?」

 

アキラの意見は聞き入れられず、甲染は二者の選択を与えてきた。心理の先読みが効かなくなったにも関わらず、マイペースで独特の言い回しを用いて、此方にペースを握らせない。

 

《アイカワラズ…コイツノ、イイカタ…ハ…オレノシャク、ニ…サワル…ナァ》

 

自分の横にもう一人の自分が湧き出し、そう呟く。甲染は自分と違い、本心を露呈する事なく、相手から情報や本音を引き出すのが『とてつもなく上手い』。

 

狂言回しとも異なる、異質な『才能』…其れがこの男には有るのだ。

 

《サテ、ドウスル…サイアク、カ。サイコウ、カ。オマエハ、ドッチヲ…エラブ》

 

《そうだな…》

 

心がざわつく。最高のニュースから聞き、ジェットコースターの如く気分がドン底まで沈むか。最悪のニュースの後に最高のニュースを聞いてドン底から這い上がるか。この選択は、自分にとって大事なものになる。

 

「だったら…『最悪のニュース』から聞くよ。甲染さん」

 

「…そうか。んじゃ、御望み通り話すぜ。最悪のニュースは『三つ』ある」

 

一拍、そして。

 

「先ず『一つ』。…今回の禍根の指輪の東京襲撃事件で、大きく関わった大本営に警察の強制捜査が入った。色々と厄介なもんがわんさか出てきた上、東京都民や参加した提督達の心理的状況を考慮した結果、今年の最強鎮守府決定戦は『中止』になった。

 

そして以後の開催は、東京都の復興が完全に済むまで『未定』。どーもアキラは、決定戦優勝を開会式で、其れも大々的に宣言したらしいが、残念無念なこった」

 

相変わらず言い方が、一々相手の癇に触る。龍驤も甲染を睨み付け、視線で『そろそろ真面目にやらんと、ガチで殴るで?オォ?』と送っているかのようだ。

 

「……………ハァ…━━━」

 

「アキラ…………」

 

禍根の指輪の蹂躙の一部始終を見たアキラは、小声で納得の言葉を漏らし、床に視線を落とす。大淀がアキラを心配する中、甲染は先程よりも重く。そして耐え難い事実を含んだ、最悪のニュースを彼に叩き付ける。

 

「んで『二つ目』。大本営は今回の一件を踏まえて、大本営の元帥により『大本営解体宣言』がされ、今後は『日本の自衛隊組織』に属する扱いを受けることになった。

其の際に公認鎮守府だった所には、今後の艦隊運営の為に国から様々な保証や支援が出るが、華裏鎮守府は非公認鎮守府である為に、其の保証と支援は『一切無い』。

 

そして…華裏鎮守府は『日本に存在しない物として扱われる』ことになった。喩え国に抗議しても、見ざる聞かざる存じ得ずの扱いだ」

 

非情な言葉であった。甲染の口から明かされた其れは、自分を含めた華裏鎮守府の面々が祖国に見限られ、絶縁された事に等しいものだった。

 

「そんな!じゃあ、私達はどうしたら!」

 

除外扱いに、大淀が怒りを含んだ声を上げ、椅子から立ち上がる。これまで不当とはいえ、少なからず国に対して貢献してきた筈の自分達が、更に苦境に立たされなければならないのか。

 

「…俺も其れについては反対したさ。華裏鎮守府だけを『例外』扱いするのは、一体どうゆう領分か…とさ。

 

そしたら奴等、何て返したと思う?

 

『華裏鎮守府は日本の汚点だ。ならば、汚点は汚点らしく、切り捨てられて当然の次第だ』…ってな」

 

大本営を潰す…其れを叶えれば、日本は変わると信じ、アキラは戦ってきた。だが、其れも無へと変わり果てた。

華裏鎮守府の艦娘達が、これまで何れ程の苦渋を味わい、堪え忍び続けた日々と努力が全て否定された事に、どうしようもない…止めどない怒りのマグマが、心の奥底からどんどん沸き上がってくる。

 

「…あぁ。ほんっっっとうに、最悪だ」

 

天を仰ぎ、片手で顔を覆い隠す。これを華裏鎮守府の皆が知れば、大混乱は必至。最悪暴動が起きて、流血沙汰に発展しかねない。

 

「そんで『三つ目』。欧州諸国と欧州連合艦隊が『血染めのレ級』率いる深海棲艦の大連合艦隊によって大損害を受け、崩壊し、奴等の手中に落ちた。幸い通信機能まではやられてねぇから、一部の国には連絡を取ることは出来てる。

 

そして現在、深海棲艦達は地中海を中心に紅海と北海を制圧。海上からの爆撃機と弾着射撃で、欧州や北方、中東や其の周辺諸国に無差別攻撃を敢行。

 

迎撃に当たった部隊も、既に全滅に等しい状況だ」

 

「血染めのレ級…!其れは本当なのか!?」

 

血染めのレ級…其の言葉にアキラが反応する。

 

「あぁ。現状、深海棲艦側が優勢状況で、何とかこれ以上の侵攻を防がんとしているが、正直何時まで持つかは分からない。そして万が一侵攻を許した場合…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

華裏鎮守府は、深海棲艦から真っ先に標的にされる可能性が高い。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そんな…こんなのって………」

 

「ハァアア…こら、マジでアカンわ…」

 

「…………俺が華裏鎮守府に着任した時よりも、明らかに状況が悪化してる」

 

大淀は力無く椅子に凭れ、龍驤はでかい溜め息を溢し、アキラは改めて自分達が置かれている状況を整理し始めた。

 

《要約すると……

 

 

一・大本営に最強鎮守府決定戦を通して、華裏鎮守府の力を見せ付け、公認に持っていくという自分の目論みは水泡に帰した事。

 

二・大本営の解体によって、華裏鎮守府は日本から切り離され、更に国からも見捨てられ、完全な孤立無援の小さな鎮守府になった事。

 

三・欧州諸国を制圧した深海棲艦が現在進行形で太平洋方面に魔の手を伸ばしており、これ以上侵攻すれば間違い無く標的とされ、物量で擂り潰される未来しかない。

 

 

…何だこの無理ゲー》

 

自分の予想していたドン底より、更に深い、真っ暗闇の深淵に落とされた気分に陥り、頭が痛くなる。まるで日本が、自分という存在を抹消せんと動いているかのようで、何とも言えない気持ち悪さとタチの悪さが入り交じっているのだ。

 

「これで最悪のニュースは終わりだ。今の気分はどうだ?アキラ」

 

「………最悪なんてもんじゃない。ふざけんじゃねぇ。

 

華裏鎮守府の艦娘達が、日本に何したって言うんだ」

 

口調が荒振り、瞳の中に黒い焔が燃え上がる。龍驤はアキラの瞳を見た時、其れが長門の宿す焔に近いものを直感的に感じ取る。

 

「あ、アキラ…」

 

「…この一連の流れを企んだクソ野郎には、必ず落とし前を付けさせる。皆の努力や苦難を無下にした事、華裏鎮守府の艦娘達の前でキッチリと詫びさせる…絶対にだ」

 

自分の人生を無茶苦茶にし、更にはこのような状況に陥れ、其れを嘲笑う存在をアキラは許さない。彼女達の苦悩を知り、其の中で過ごした自分にしか出来ない事だと。

 

「だが、其れは今じゃない。その前に…甲染さん。最高のニュースを頼みます」

 

新たな決意を胸に穿ち、彼は心を切り替えて、甲染に申し出る。

其の目を見た甲染は何を思ったか、フッと小さく笑う。

 

「…あぁ、良いぜ。じゃあ『最高のニュース』を教えてやる」

 

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