※この作品はR-18です。

将来を有望視された青年が、冤罪で問題山積みの鎮守府に着任されました。 ~地獄の底からこんにちは~   作:ガリアムス

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・今回の話は前回に続き、甲染から最高のニュースを知らされます。


将来を有望視された青年が、冤罪で問題山積みの鎮守府に着任されました。~明かされる真実と華裏鎮守府のこれから 其之弐~

「じゃ、最高のニュースを教えてやる」

 

VDF日本支部内、第三面会室。防音機能を発動させ、外に聴こえぬようにした室内で、VDFの総隊長タートルこと月瀬(つきせ) 甲染(こうぜん)と、指揮官のティニーことステイシー・レイラ、其れに向き合う牧園 アキラと龍驤、そして大淀が話を聞いていた。

 

「最高のニュースも最悪のニュースと同じく『三つ』だ。

 

先ず『一つ目』。今回、禍根の指輪(ダリアス・フレッチェル)と大本営が引き起こした東京襲撃事件において、裁きの天秤で人質になり、命の危険に晒されながらも、命懸けで奴等の関係性を暴き。そして全世界に報じた其の勇気と、英国王室王位継承権第一位のエリザベス・エリーゼ・クリスティアル王女を奴等の魔の手から守った功績を称え、VDF総司令部と英国王室から『感謝状』が授与される事になった。

 

授与式は三週間後、此処VDF日本支部メインロビーにて行う予定。因みに英国王室は、代表者としてクリスティアル王女様が直々に渡したいと述べられたんで、そこんとこ宜しくな」

 

三週間後となると、八月の終わりか九月の初め当たりになるか…そう考えるアキラ。

 

「こーちん、一つエエか?」

 

と、話を聞いていた龍驤が甲染に対し、質問を投げ掛ける。

 

「どうぞ、せんせ」

 

「これまで、二つの組織や国から『同時に』感謝状を授与された事がある奴はおるんけ?」

 

授与式と言えば、一人の人間に対する感謝と敬意を込めて、もしくは功績を称えて行われるものであり、そして一人につき一つが普通でもある。どうだったか…と思い出す甲染より早く、レイラが口を開いた。

 

「…私は記憶力に自信は有りますが、これまでの歴史の中で二つ以上の国や組織から同時に授与された人間は、唯の一人さえ居ませんね。

 

おそらく『前代未聞』の事かと」

 

「ほぉーん。つまり、アキラはんは『二つ』偉業を成し得た事になるんかいな」

 

成程と龍驤が言う。海軍士官育成高等学校の皆勤賞、そしてVDFと英国王室からの感謝状同時授与。どちらも並大抵の事では得られない、勲章に等しい、誇り高い名誉である。そう考えると沈んでいた気持ちも、少しだけ楽になってきた。

 

「んじゃ『二つ目』。アキラが寝てる間に米国海軍長官から、お前さん宛のメッセージをVDFアメリカ支部経由で受け取った。長文でアキラにゃ難しい部分も有るんで、此方で簡略化してまとめておいたぜ」

 

其の言葉を聞いたレイラが防弾スーツの胸元を開く。するとスーツの拘束から解き放たれた張りの有る白い肌と胸の谷間が現れ、まるでプリンのようにプルンと揺れる。

 

其れを見た龍驤と大淀の嫉妬に等しい眼差しが、レイラに注がれるも、彼女は気にせず手を入れ、小さなiPodを取り出し起動、アキラ達に差し出した。青白い光が画面から溢れ出し、記された文章が何もなかった空間に次々と羅列、及び日本語に翻訳されてゆく。

 

「何ですかこれ…」

 

「VDF(ウチ)には、良い意味で頭がおかしい…変態な技術者がいてな。廊下で見たドローンや、このiPodもそいつが作った。本人曰く『俺の頭脳は、人類が此の先三百年掛けて漸く到達する場所にいるぜ!』…とさ」

 

「要するに~。頭が良すぎて、居場所が無くなったボッチなの~。因みに其のiPodを作ったのは『デミウス』っていうのよ~」

 

「は、はぁ…」とアキラはiPodを見つめ、これを作った人間にちょっと会ってみたいなと思いつつ、翻訳された文章に目を通した。

 

内容はこのようになっている。

 

 

 

* * *

 

 

牧園 アキラ殿

 

貴君の誠意と勇気有る行動により、英国王室王女の安全と日本の大本営の暗部を白日の元に晒し、更には禍根の指輪の成り立ちを引き出し、其の策略を打ち砕いた事に敬意を表する。

 

其の功績を称え、現在、貴君の鎮守府で保護している米国(アメリカ)艦娘のアイオワ並びにサラトガ、両名の指揮権を貴君に譲渡する次第となった。

 

また、米国海軍は貴君と、貴君の指揮する艦娘全員を受け入れる用意がある。これについては貴君の独断ではなく、周りの信頼出来る者達とよく相談して決めて欲しい。

 

例え君がこの提案を受け入れずとも、我々米国海軍が用意した政策で、君を守らせて貰いたい。

 

米国海軍長官 フランクリン・A・アーノルド

 

 

* * *

 

 

 

「………ん?」

 

翻訳文章に目を通し終えたアキラの額から汗が溢れ出し、ダクダクと滝のように流れ出す。

 

「はぇ~…こら、ヤバイこっちゃなぁ…こーちん」

 

「俺も正直言って、ヤバイとしか言えませんよ」

 

同時に小さな溜息を溢した甲染と龍驤。理由は単純明快、軍艦数・軍団規模・軍隊練度…何れもが世界最強最大規模を誇り、謳われる米国海軍が自分の…華裏鎮守府の後ろ楯になるという事。

 

其れ程、アキラが成し得た事は偉大であり、米国海軍が彼を守るに値する存在であると考えているのだ。

 

「仮に華裏鎮守府が米国に属すとなると、米国は日本の領海内に自国の中継拠点を創ることになる。そうなれば、アジア方面に輸送する安全航路を入手する上、日本の領海内に入ることも可能だ。

 

アキラの判断次第で、日本に良くも悪くも影響が出ることになるのは間違いない」

 

最高のニュースであるはずが、自国の未来を決める選択になっている。アキラの方に日本の行く末に関わる重圧と責任が大きく、重く乗し掛かる。

 

「そして最後の『三つ目』なんだが…こいつが結構『面倒』なもんでな」

 

「面倒…?」

 

「あぁ、其の文章の『政策』って部分。昨日、米国が報じた『緊急声明』で、鎮守府だった面々どころか『自衛隊』にまで混乱が広がってる。

 

其のiPodを左にスライドで、ホーム画面を開いたら、YouTubeのタブがあるからタップして、『アメリカ 緊急声明』で検索してみろ。緊急ニュースが報じられた動画が幾つかあるはずだ」

 

甲染に言われた通りに、画面を操作しYouTubeのタブを軽く叩く。そして検索欄に『アメリカ 緊急声明』を打ち込み、検索結果を出す。

 

検索結果にヒットする映像が縦並びに表示されてゆき、其の中には『アメリカ緊急声明発表』や『どうなる日本』等の、タイトルの時点で嫌な予感しかしない物が羅列し、アキラは其の中から一番再生数の多い、昨日投稿された『アメリカの決断、日本の今後』と名の映像を再生する。

 

十五秒程の公告映像が流れ出し、五秒経過したあたりで右下に表示された『画像をスキップする』をタップして終了、本編が始まる。

写されたのは、一番チャンネルの七時から始まるニュースでよく見るスタジオと、若い女性アナウンサー。

 

『では、次のニュースで…はい!たった今、緊急ニュースが入りました』

 

慌ただしくなるスタジオ。画面がスタジオから米国海軍の物へと切り替わる。

 

『先程、米国海軍長官 フランクリン・A・アーノルド氏が緊急声明を発表。

 

アーノルド氏は声明で『今回の一件で、日本は罪の無い人々の生命を危機に陥れ、国民は愚か、我々米国や世界に対する信頼を大きく損った。

 

其れを考慮し、今後米国は自国の艦娘に関する一切の情報と使用権限を、華裏鎮守府の提督 牧園 アキラと、彼が信頼し、許可した者にのみとする』と発表。

 

其の上で『日本に対する襲撃事件の検証や状況捜査といった、様々な情報の提示や追求を国連安保理を通して推し進めて行く。今後、世界で同じ過ちが繰り返されぬよう、国の垣根を越えて団結し、禍根の指輪の打倒へ積極的に動いてゆく』としました』

 

映像が終わり、もう一度見ると表示された。

 

「これマジでヤバイやん…洒落にもならへんわ」

 

「米国は、とんでもない事を宣言しましたね…」

 

「これって、他の皆さんのヘイトをもれなく買いそうよね~。タートル~?」

 

「だから俺は面倒なことだって言ったんだ。場合によっちゃ、アキラ含めてタコ殴りにされてもおかしかねぇぞ」

 

各々が感想を述べるなかで、アキラは口を栗の形に開けたまま、目を丸く、ポカーンとしていた。おそらく、彼の脳が此等の情報に対する理解が全く追い付けておらず、オーバーヒートしているからなのだろう。

 

「「「「………アキラ?」」」」

 

呼び掛けにも応じず、ピクリとも動かず、アキラはただただ固まっていた。結局、彼が此の状況を完全に把握・理解するのに、一時間を要する事となったのだった…。

 

 

* * * * * * * * * * * * * * *

 

 

「えーと、つまるところさ…。米国は俺達華裏鎮守府の味方…で、良いんだよね…?

 

ほ、本当に…大丈夫なんだよね…?何かの詐欺じゃないよね…?」

 

あ、これ本気で疑心暗鬼になってるやつだ。アキラの震える声にレイラと甲染が察するまで、そう時間は掛からなかった。最高のニュースを聞く予定が、国の未来に関わる重大な決断を迫られ、背負わされた事で、彼の脳内は『VDFも米国海軍も、華裏鎮守府や自分を罠に嵌め、滅茶苦茶にしようと企む敵なのではないか?』という、訳の解らぬ状態にあった。

 

あらぬ誤解が疑心暗鬼を引き起こしたのなら、其れを解いておかねばならない。吸った息を小さく吐いて、甲染は真剣な眼差しを向けつつ、アキラに向けてアーノルドの事を語り始めた。

 

「…ハァ。アーノルド長官は米国海軍のトップとして長年、海上保安に大きく関わってきた人間だ。俺も嘗てはあの人の元で学んだ事もある。更に言うと、自国で産み出された艦娘達の指揮も全て、彼はこれまで唯一人で担っている。

 

そんな男が一人の人間を、其れも牧園 アキラ(お前さん)を名指しで指名してきたんだ。あの人が他の誰かに、其れも自国の艦娘の指揮権を託すなんてのは『今まで』、『一度』だって無かったのに…だ。

 

それだけ、牧園 アキラという人間に『期待』を寄せてるってこった」

 

両手で彼の顔に触れ、自分と目を合わせ、甲染は言う。

 

「いいか、アキラ。

 

『どんな状況(とき)でも自信を持て。人は不安や迷いを抱えると、得意な事でさえ失敗する。自分を信じ、生き方と信念を曲げない人間にのみ、勝利の女神は微笑んでくれる』んだぜ」

 

「…えっ…━━━」

 

ほんの一瞬。この男…甲染の姿が自分の尊敬する『牧園 ジュウゴ』に重なって見えた。

 

「………って、ある人から譲り受けた言葉だ。要は誰に何と言われようが、お前はお前の道を貫き通しきれ!…っう意味。

 

其れに言ったはずだ。お前が俺を裏切らない限り、俺もお前を裏切らないってよ」

 

甲染は席を立ちつつ、背を向けてレイラに指示を出す。

 

「レイラ。お前が信用出来る隊員に、この三名を横浜港まで送り届けてやって欲しい。あと、アキラに渡したiPodはそのまま預けておいてやれ。いざって時の連絡手段は一つでも多い方が良い」

 

「OK、任されたわ~」

 

「じゃあな、アキラ。また困ったことがありゃ、遠慮せず連絡を入れろよ」

 

そう言い残し、甲染は防弾ヘルメットを被りつつ、第三会議室から退出していった。

 

「それでは、牧園 アキラ殿と部下の艦娘の皆様、本日はお疲れ様でした。迎えの者を用意致しますので、メインロビーにてお待ち下さい。

 

メインロビーへの行き方は、この第三会議室を出て左側の歩行式コンベアに乗り、第七エレベーターで一階まで降りて貰うと早いです」

 

レイラも小さく御辞儀をし、自分のiPodを取り出し何かを打ち込んだ後、防弾装備を着直すと、三人を第三会議室の出入口に歩かせ、退出させる。そして去り際にアキラへ敬礼し、自身は右側へ歩いていった。

 

「はぁ…これから、どうしよう…、ホント…」

 

へなへなと膝を付き、弱音を吐きながらアキラは頭を抱える。自分が眠っている間に、日本は…いや世界は大きな畝りが起き始めていた。

其の畝りを引き起こし、大本営を解体に追い込み、世界へ影響を与えたのは、紛れもなく自分の行動…日本が此の先の未来、第二次世界大戦前の世界から孤立するかも知れない恐怖と、自分自身の選択に掛けられた重過ぎる責任に思い悩み、アキラの心は苦しみと共に悲鳴を上げていた。

 

「俺は…」

 

視界が歪み、淀んでゆく。最善と判断・選択した事が、自分は愚か、不特定多数の運命さえも大きく変えてしまった事実に自分自身が怯え、恐怖している。

今までは簡単な事だと、当たり前だと思ってやってきた事が、此程の事態に発展する等と考えてもせずに。

 

「アキラ」

 

大淀がアキラの顔を両手で掴み、捉える。彼女の目は真剣に。彼の迷いに染まり、支配された目を見つめていた。

 

「アキラ、私が居ます」

 

「大淀…さん……」

 

「アキラが…アキラ『だけ』が。独りぼっちで何もかも、其の体や心に背負う必要なんて、これっぽっちも無いんです。私が…貴方を愛し、信じている艦娘達(みんな)が…傍に居ます」

 

優しく、微笑み掛けてくる。彼女の笑みが、心や瞳に立ち込めた迷いと言う名の霧をゆっくりと、春風のような暖かさで晴らしていく。

 

「アキラが辛くて、生きるのを止めてしまいたいと思った時は、皆で貴方を支えます。

 

アキラが哀しくて、誰にも話せない事が有ったら、私達が話を聞きます。

 

アキラの選択を貫き通す為に、私達が力になります」

 

自信と希望に満ちた、力強い言葉にアキラは視線を横に反らしたくなる。何故なら、こんなにも強く、輝いている彼女を、自分は初めてみたからだ。

 

「どうして…だ………?……どうして、そんなに…俺を………」

 

「決まっています」と一言。そして━━━━━

 

「私達にとって…アキラが。

 

…アキラこそが、華裏鎮守府の『提督』だからです」

 

単純明快では片付けられない。だが、今ある事実の中で、自分が一番気付くべきにして、一番言って欲しかった『答え』を彼女が言ってくれたのである。

 

「貴方は罪を背負い、日本から隔絶された私達を信じて、貴方と同じ人として見て、大本営の横暴に真正面から立ち向かってくれた。

 

兵器として此の世に産まれ、他の鎮守府で蔑ろにされ、罪や罰を背負った私達を。最強鎮守府決定戦の、開会式の檀上に立って。真っ直ぐな瞳と迷いのない言葉で、私達の事を誰よりも気高く、高潔な人間だと言ってくれた。

 

其の言葉に、私や皆は…心の底から、本当に救われたんです」

 

《アキラや。どんなことがあっても、人には常に優しく接するんじゃ。自分がしてきた事は必ず自分に返ってくる…その時に、其の人の力になってやっていれば、次は自分の力になってくれる…。

 

じいちゃんが、そうだったようにな…》

 

自分が尊敬する、祖父の言葉を思い出した。今まで自分で選び、決めてきたことは、間違いではない。其れが後悔しない為の選択であったのならば、尚更である。

赤を帯びた瞳に涙が溢れ、一筋の線を刻むのを袖で拭い、アキラの表情は大淀が好きな、力強い瞳を宿す優しい物へと戻った。

 

「大淀さん……ありがとう。華裏鎮守府に帰ったら、今後の事を皆で話し合おう」

 

「はいっ!」

 

《…ジュウゴ、見とるかいな。アンタの孫はまた一つ、アンタに似るカッコイイ男の顔になりおったよ》

 

二人の背中を見つめ、龍驤は彼の背中に恩師であるジュウゴの面影を重ねていた。そんな三人の前に一機のドローンが飛来。機械の音声を以て、彼等に伝言を伝えに来たのだった。

 

《緊急連絡、緊急連絡。牧園 アキラ殿、並びに艦娘の大淀さん、龍驤さん。至急メインロビーに来て下さい。繰り返します。牧園 アキラ殿、並びに艦娘の大淀さん、龍驤さん。至急メインロビーに来て下さい》

 

其のドローンはアキラ達に風雲急を告げ。そして、その後に響き渡る声は、アキラにとって聞き覚えのある声だった。

 

『アキーラ~!!!!!アキーラ~!!!!!』




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