※この作品はR-18です。

将来を有望視された青年が、冤罪で問題山積みの鎮守府に着任されました。 ~地獄の底からこんにちは~   作:ガリアムス

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前回の続き。

アキラの記憶の続き。

アキラと徳丸亭の人々の話。


将来を有望視された青年が、冤罪で問題山積みの鎮守府に着任されました。~再会せし恩人とアキラの暗い過去 其之参~

「アキラ君~。はぁい、あーん♪」

 

「……あ~」

 

パクリ。シャクシャク…シャクシャク…━━━ゴクン。

 

「ん~~!ちゃんと食べられて偉いねぇ~」

 

「よしよ~し」と、黒髪のお姉さんに頭を撫でられながら、甘やかされて、兎リンゴを食べさせれていました。これではまるで、赤ちゃんと同様の扱い、本当に恥ずかしい。其れだけなら、まだ良いのに……

 

「…………………」

 

「…………………」

 

部屋の入口から此方を無言で覗いてくる、複数人の視線が怖い。羨ましいとか、良いなとか、そんな感情で訴えている男性達の視線。

 

「はい。あーん♪」

 

お姉さんは気にしていないのか、気付いていないのか、そのまま次の兎リンゴをフォークに刺して、口に運んでくる。此方を見ている視線に気付かないふりをしながら、口を開けて果実を頬張った。

 

 

* * * * * * * * * * * * * * *

 

 

徳丸亭で保護されて八日。店の人々の献身的な看病により、傷付いて痛みがあった場所は随分と良くなり、困窮し飢餓に苛まれていた顔色や身体は、すっかり調子を取り戻し、二年弱前の仕事を始める辺り位の体力まで回復を果たした。

 

「御世話になりました。看病していただいた御恩、一生忘れません」

 

店に留まり続ける限り、迷惑を掛けかねない…九日目の夜、働いていた人が帰宅し、篤之助さんと初さんだけが残ったのを見計らい、ボクは開幕で二人にそう告げた。

 

「…坊主。お前個人に話がある」

 

其れを見た篤之助さんは静かに、自分の顔を見ながらこんな提案をしてきた。

 

「今から夜食を一品作る。そいつを食べて、正直な感想を言ってくれ」

 

「…ほえ?」

 

夜食の感想…其れにどうゆう意味があるのか。

 

「言った通り、夜食を食べた感想を言って欲しいだけだ。出て行く前に、家の店で出す新作の味見をしていけってこった」

 

そう言いながら、和食店でよく見てきた調理帽を被り、前掛けをきっちり結ぶと、手付き鍋に湯を沸かしながら昆布と鰹節、干し椎茸を入れつつ、冷凍庫からラップに厳重に包んだ一人前のご飯をレンジで解凍。

 

火加減を見ながら冷蔵庫より銀のバットと山葵を出し、解凍したご飯を黒い漆器に盛り、手付き鍋を沸かしていた火を止め、出汁をペーパーを敷いた笊で濾して茶器に注ぎ入れて蓋をし、箸を使いバットから胡麻と味噌の香るダレに漬けた鮪の切り身をご飯に五切れ添え、中心に山葵と薬味の刻み万能葱を乗せ、茶器とレンゲと共に自分の前に出した。

 

「名付けて『徳丸変化の鮪茶漬け』。コイツは最初に漬け鮪を食べて、次に薬味をかけた丼で食べ、最後に出汁を加えた茶漬けにして食うのを流れにしてる。

 

さぁ、食べな」

 

春の暖かく、命芽吹くような旨味の息吹きが、匂いとして鼻に雪崩れ込む。意図せず喉がゴクリと鳴り、何時の間にか合掌。

 

「いただきます」の一声から、レンゲを左手に添え、篤之助の言った通り、最初に浸け鮪単品を口に運んで、静かに味わう。

 

「…………おいしい!」

 

第一声。其所からはもう早かった。漬け鮪を味わい、薬味を入れた丼を頬張り、出汁を注いだ茶漬けをそそって、あっという間に漆器の中身は空となった。

 

「はぁ~……ごちそうさまでした…」

 

「そうか、んじゃ…感想を言ってくれねぇか。些細な事でも良い、坊主が感じたことを言ってくれ」

 

感じたこと…アキラは茶漬けを食していた時、漬け鮪のタレから僅かながら味噌の香りがしたのを思い出した。其れもタレで主張せずに、香りを込める為に入れたような感じである事に。

 

「あ…鮪のタレから、味噌の香りがしました。種類は…何だろう…?…すいません、分からないです…」

 

其の答えを聞いた篤之助と初さんは顔を見合わせた。そして同時に小さく頷き合い、彼はアキラの肩に手を優しく添えながらに言う。

 

「驚いたな…初見で、しかも隠し味を見抜くたぁ…。よし坊主、明日から此処で働きな」

 

「……………………へ?え、いや…え?なんで!?」

 

「なんでっそりゃ、俺の料理の隠し味を見抜いた舌を見込んでだよ」

 

「其れにな坊主」と篤之助が指を指したのは、自分の利き腕である右手の掌だった。

 

「其の右手の『無数のタコ』。並大抵の奴等が包丁握った程度じゃ、先ずぜってぇに出来やしねぇ数だ。コイツは相当な数こなしてきた人間にしか顕れない…ソイツの汗と努力の痕なのさ。

 

頑張ってきたんだな…お前も」

 

右手を其の大きな左手で優しく握り、篤之助は空いた片手でアキラの頭をゆっくりと撫でた。

 

《あ……》

 

誰も自分を認めなかった。

 

其の努力を否定され続けてきた。

 

《アキラは頑張ったなぁ~、えらいぞ~》

 

思い出すのは祖父の…牧園 ジュウゴの言葉と顔。自分の些細な頑張りを褒め、努力を認めてくれた、今は亡き、唯一の心の拠り所だった優しい祖父。

 

「……………………」

 

気付いた時には、大粒の涙がポロポロと両目から涙が零れて、視界はぐしゃぐしゃにボヤけていた。

 

「お、おい!だ、大丈夫か!?山葵が効き過ぎたか!?」

 

「篤さん、其処は直ぐにタオルを渡してあげて。…貴方も大変だったのね…よく頑張ったわ」

 

初さんの胸に抱き寄せられる。此れだけでも恥ずかしいと思っている中で、追い討ちとばかりに「良い子良い子」と撫でられた。今までこんな事をされた事が無かったアキラは一瞬戸惑いを覚えた。

 

が、初の取った此の行為が人間不信を患い、万年雪が何重にも重なり合って出来た氷に閉ざされていたアキラの心の扉を緩やかに溶かして開き、彼が再び人を信じられるようになる『呼び水』となったのは間違いない…。

 

 

* * * * * * * * * * * * * * *

 

 

翌日…徳丸亭の厨房は『新入り』の存在に大なり小なり、様々なざわめきが生まれていた。

 

「ほ…本日から、住み込みの厨房で…お…世話になります…牧園 アキラ…と言います。…あ、あの…精一杯…頑張ります!

 

よろしくお願い致しますッ!!」

 

小さな仕事着に袖を通し、アキラ少年は緊張を持ち、大きな声で従業員達に己が存在を表明した。

 

「てな訳で、今日から新しく此所で働く牧園 アキラだ。こいつの技量は俺の目利きと勘じゃ、板前を張れるだけのもんを持ってる。

 

お前等、油断して自分のポジションを取られないように気張れ!良いな?」

 

『『『はい、親父!!!』』』

 

一糸乱れぬ統率された掛け声。自分は此所で働いて行くと、此の場所で生きてゆくのだと、人知れず心を切り替えた。やることは変わらない…これまでやってきた通りにやるだけ。

 

自分は年少者。意地汚くても良い、子供っぽくても良い。職場に置いて、誰かに気に入られる事は其の職場に根を張る事と同じだ。

 

だけど僕は…牧園の性に古部り付いた『穢れ』を何も知らずに生きている。そして何も知らない物程、此の世界で何より怖い事を、僕自身も身を以て知ることになる。

 

 

* * * * * * * * * * * * * * *

 

 

「あの!…僕は、牧園 アキラと言います。よろしくお願い致します!!」

 

新入りの紹介を兼ねた朝礼が終わり、アキラは各持ち場に付いた同僚に対し、挨拶周りを行っていた。何の前触れも無く、いきなり職場に就職(はい)ってきた上に、このまま仕事を始めれば、職場においての印象は最悪な方向に傾きかねない。

 

故に彼はこうして足を運び、一人一人に挨拶をしていたのだ。

 

「……………よろしく」

 

「あ、よろしくね~」

 

「…………ふん」

 

《やっぱり…牧園の名前で、嫌な顔してる人とそうじゃない人とで、真っ二つになってる…》

 

今までの職場でも、自分の名前を聞いて嫌悪感を顕にした人間と、普通の反応を示した人間とでかなり分かれていた。そして此所も同様に、自分に敵意を抱く者と普通の感情を持つ者とで分かれている。

 

この人達と自分は、距離感を保ち、時に向き合いながら、共に仕事をしていく。

 

「アキラァ!てめ、味付け変えやがったか!?」

 

「すいません!塩味が足らなかったので、少量加えました!」

 

「アキラ君。焦らなくて良いから、注文は落ち着いて取って頂戴」

 

「新入り!酢の物和えるのは出す直前まで待ってろ!其の間に片付け!急げ!」

 

「言われたら直ぐ返事!分かったか、アキラッ!」

 

真新しい環境下で、今まで厨房でやってきた事とは異なる切り方や調理方法に馴れていないアキラは、度々ミスを犯しては同僚達に叱られ、ボロ雑巾のようにコキ使われ、散々罵声を浴びせられた。

 

それでも負けじと皆に食らい付いて、技術とやり方を必死に学び、子供特有の環境適応力とスポンジ染みた吸収力を以て、其れを自らの糧としてゆく。二年間、飲食店で酷い扱いを受けながらも、包丁仕事や火の周りの仕事に使われてきた事だけはあり、彼が徳丸亭の環境に順応しきるまでに、時間はそこまで掛からなかった。

 

そうして一ヶ月が経った頃…━━━━

 

「三卓の海鮮盛り合わせと、ホタテのメレンゲバター焼き!十七卓の焼肉巻き寿司完成しました!チェックお願いします!」

 

「…よし!運び子に渡してこい!上手くなったな、アキラ!」

 

「はいっ!ありがとうございます!」

 

元来の素直な性格と優しさに、真面目さが相まった結果、アキラは徳丸亭内において、篤之助の補佐として彼が作り上げる創作料理に携わるまでに成っていた。

そんな彼に触発されてか、他の従業員も負けじと研鑽し、追い付け追い抜けと言わんばかりに、互いが互いを伸ばし始め、其れと平行して売上や評判も右肩上がりになった。

 

最近では「何だか、店の雰囲気が更に良くなったんじゃないか?」と客の間で専ら噂になっている。牧園 アキラの存在が徳丸亭の質をより高めた事実は間違いないだろう。

 

 

しかし━━━━━━━━━━━━彼の存在を良く思わない者達もまた、少なからず徳丸亭の中にいたのである。

 

 

* * * * * * * * * * * * * * *

 

 

徳丸亭、営業時間外…

 

『あぁああ!?ぐそがぁ!』

 

怒号を上げながら、ドカン!と青いプラスチックのゴミ箱を八つ当たり気味に蹴る。夜の街灯に照らされた青年の顔は、怒りによって頭に血が上った結果、林檎や梅干しのような真っ赤に染まっていた。

 

「あの糞ガキが…!俺の役目を取りやがってよぉ…!」

 

青年はアキラが来る前から、篤之助の補佐として腕を奮っていた。料理もそれなりに作り、接客も出来るマルチブルな存在。

 

其れがアキラが来てから、自分の状況は一変。客に対する気遣いが繊細で、包丁裁きも料理の出来も自分より上。彼を冷ややかな視線で見、どうせすぐ弱音を吐いて辞めるだろうと胡座を掻いていた結果がコレだ。

 

今のポジションを自分より年下の少年に奪われた挙げ句、御払い扱いを受けている。

 

「糞ッ!」

 

散開した生ゴミや不燃ゴミを見ながら、心の底から沸き上がる、牧園 アキラに対する怒りを奥歯で歯軋りしながら、彼は呪詛のように呟く。

 

「アイツさえ…アイツさえ居なけりゃヨォ…!今も俺は親父の料理を作っていたのによぉ…!!」

 

コンクリートの壁を殴る。アキラさえ居なければ、彼の近くで料理を見れていた筈なのに。嫉妬と憤怒が自分を支配する。

 

『牧園一族が憎いか?』

 

其の声は不意に自分の耳に飛び込んできた。

 

「な、何だ…」

 

『問おう。牧園一族が憎いか?』

 

「………あぁ。俺の役目を奪って、親父を技を盗み見る糞ガキ!あの野郎はぜってぇ許さねぇ!」

 

内に秘めていた黒い想いを、負の感情と共に吐き出した時。暗闇から街灯の光の中へ、サングラスを掛け、二人の黒服を纏った男女がヌルリ…と、まるで突如として現れたかのように姿を見せた。

 

『成程。君も牧園一族の『被害者』と』

 

男女は青年の前後を即座に塞ぐと、彼の周りをグルグルと、まるでパラパラ漫画のように動きながら、声を紡いでいく。

 

『彼等は此の世で、絶対に『生きていてはいけない』存在』

 

『彼等が存在する限り、此の世に『安寧』は永劫訪れる事は無い』

 

『君には『二つの選択肢』があります』

 

『一つは我等に協力し、徳丸亭から牧園 アキラを『排除』する道』

 

『もう一つは、このまま彼と共に過ごし、自分の惨めさを味わい続ける道』

 

『『さぁ…どちらにします?』』

 

与えられた道…彼の選択は、既に決まっていた。

 

「牧園 アキラを…徳丸亭から排除する!其れが俺の選択!」

 

其の言葉を受けて、黒服男女は微笑み。彼の選択を讃えるようにして言った。

 

『君は素晴らしい『選択』をしました。牧園一族を排斥し、此の世界に平穏をもたらすという勇気ある選択を!』

 

『一族を絶滅させた曉には、君は勇者の一人として、其の名前は未来永劫語り継がれる事になります!』

 

スッと差し出された手を取り、青年と黒服の契約は確立されたのである。

 

「それで?俺は何をすれば良いんだ?」

 

『貴方は普段通り仕事をしていれば問題ありません』

 

『ただし。時折、徳丸亭の内部情報を我々に流していただければ、それで良いのです。演出、実行は此方でやりますので御安心を』

 

『『では』』と、彼等は夜闇の中に音もなく消えてゆく。

 

《…………糞ガキぃ…。

 

テメェは、ゆぅっくり…じぃっくり…確実に追い詰めて、俺が味わった屈辱を何百倍にして返してやるぜ……!!!》

 

アキラと徳丸亭に、暗い闇の魔の手が迫っていた……。




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