将来を有望視された青年が、冤罪で問題山積みの鎮守府に着任されました。 ~地獄の底からこんにちは~ 作:ガリアムス
アキラが華裏鎮守府に着任してから四週間、大本営からの使者が来る電話が掛かってから三週間。アキラ達は執務室で張り詰めた三人は資源の折れ線グラフと睨み合う。
「あれから緊急遠征部隊が頑張ってくれたが…大淀さん。今の資源の備蓄はどうなってますか?」
「資源は各70000に資材は340…高速修復材350です。使者が来るまであと一週間…これなら何とか間に合いそうでしょうか、大淀さん?」
「ええ…『余計な電話がこなければ』、ですけれど…」
一息安堵したが、二人はある事…それも『電話』を恐れるような言い方だ。余計な電話とは一体…?その予感は余りにも早く、流れるように回収される事となってしまった。
ジリリリリリリリリ…!!!
ジリリリリリリリリ…!!!
執務室に備え付けられた黒電話がけたたましく、空気を切り裂き鳴り響く。アキラ達は固唾を呑み込み、震える手で掴むと耳に当て、声を聴く。
「…もしもし?」
「華裏鎮守府のアキラ司令官かね?」
電話越しに聞こえてくる野太い声。アキラの脳裏に甦るのは、自分の人生と提督として着任する淡い期待を打ち砕いた忌まわしき記憶。あの『黒い封筒』を事を伝えた奴の声と同じだった。
「どうやら鎮守府に着任出来たようだね。何にせよ提督就任は平等に祝福しよう…おめでとう。まぁ…
「…御世辞はいらない。用件を伝えろ」
「大本営から連絡だ。先に送り届けた資源の受け渡しの量が有るだろう?あの数値に少々誤りが発覚してな。
それぞれの鎮守府に渡す資材を各『10000』ずつ追加するように…無論『五日後』にくる使者に間に合わせる事を忘れるべからず」
「は…!?ちょ…待ってください!使者は一週間後の筈では!」
アキラの言うことは正しい。だが彼方はそれ以上の力を持って、彼等に権力と言う名の圧力を強いてきたのだ。
「ほぉ…その返答、『
「…ッ!」
「…これは『命令』だ。言い忘れたが、
そして万が一にでも此方に対し反旗を翻すようならば、華裏鎮守府は
其の結果が待っているだけだが?
…そうなりたくなければ、今すぐに資源を血眼になって集める事だな」
断頭台の刃が振り下ろされるが如く、バツンと強引に切られた通話。やるせない気持ちと怒りを食い縛るアキラは、何とか受話器を元の場所へと戻す。
「…どうやら二人の危惧していた事が当たったみたい。前に届いた封筒に記載されていた鎮守府があったのは覚えていますか。あれ全てに各資源10000ずつの追加…使者は五日後に来ます」
「そ、そんな…!此処までやっとの思いで集めたのに!」
自分が居た大本営の鬼畜じみた命令に、大淀は目を反らす。どんよりとした雰囲気にアキラの心がポッキリ折れ、負けそうになるが、天は悲しみに沈む時間も与えてはくれなかった。
「吹雪、やれるだけ何とかやりきろう…!反省はその後すればいい!此処を乗りきれるかは俺達の頑張り次第だ、最後まで諦めるな!」
「アキラ司令官…!私、緊急遠征部隊に状況を知らせてきます!」
「大淀さんは遠征部隊以外の他駆逐艦に連絡お願いして、至急遠征に出て貰うように指示を!」
「了解致しました!」
時間は残されてはいない。彼等の道は迫る期限に必死に抗い、食らい付いて、命令を全うする事。それしか無かった…
* * *
「…華裏鎮守府。相変わらず小汚い場所だ、まぁ我々の
五日後…遂にこの時が訪れた。大本営から資源受け渡しの使者が華裏鎮守府にやって来たのである。使者の乗ってきた船はタンカー並みの武装船で、砕氷機巧・対空機銃など何時何刻、深海悽艦に襲われようとも返り討ちに出来る自信がある事を思わせる重武装。船は巨大であるため鎮守府には侵入出来ず、現在は沖で待機して居るようだ。
使者は赤髪で身長150cmの合法ショタとも呼ぶべき姿をし、海軍軍人の服を着ている。その隣には赤の着物と灰色の袴を着付ける赤髪の少女が、彼の左側にしっかりと付いてきていた。
「海の長旅、大変お疲れ様でした。私が華裏鎮守府の司令官である牧園 アキラと言います」
「ほぉ…司令官直々の出迎えとは。余程君の業務が暇なのかな?」
暇なわけがない。此方も時間ギリギリまで資源を掻き集めてたのに、吹雪達がお前を迎えに行ってあげてくださいと、気配りの言葉を掛けてくれたからに他ないんだ…!
「まぁ良い。それより資源はどうなったか、直接確認を取らせて貰うぞ」
「…仰せの通りに」
頭に血が昇り、今にも怒りで暴れてしまうかもしれない。
だが、その怒りを彼は静かに鎮める。
耐えねばならない。例え身を切り裂く程の辛く苦しいものであろうとも。
* * *
俺は鎮守府へ使者達を案内し、中庭に設置した大本営が用意した受け渡し専用大発動艇を見せる。大発に乗せた資材や資源達は全てこれを以て依頼された鎮守府に輸送され、浪費癖の大本営直属の馬鹿共を救う為に使われるのだ。無論奴等も知った上で行動するので余計質が悪い。
「ほぉ…全ての鎮守府に送る資源、確かに規定された量以上である事を確認した。ご苦労、またこの調子で集めたまえ」
「…はっ」
小さく頭を下げたその矢先だった。
奴等の悪意が牙を剥いたのは。
其の引き金は一瞬の出来事の内に引かれた。突如、大発動艇の一つのエンジンが爆発、それが積荷物の燃料に引火。瞬く間に炎上、高速修復材と開発資材もろとも巻き込み、灰塵へ変えてしまったのである。
「な…?!爆発!!?」
「これはどうゆう事だ?」
重々しい声が背筋を凍らせ、突き刺さる。
使者の静かな憤怒の声。
自分と変わらぬであろう歳に関わらず、これだけの威圧をどうしたら出せるのか。
「君達は我等への復讐の為に大発動艇に爆弾を仕掛けたのか?」
「違います…!私達が大本営に反旗を翻す等!」
「ならばこれは何だ?目の前で大発が爆破され、資源諸とも台無しになっただけじゃない!我々の身にも危険が及びかけた、まごうことなき事実!
反旗を翻す事は無いだと?」
ふざけるな!
怒りに燃える眼で使者は、自身の軍服の裏側、胸ポケットに収納していた拳銃を取り出す。
反応が遅れ、無防備のアキラ。其の左太腿に弾丸が撃ち込まれた。
「ぐぁあ…!!!」
「アキラ司令官!!!」
「アキラ!!!」
「おっと動くなよ…?貴様等も同罪…!この提督に利用されたに過ぎないだろう、悲しいものだ…なぁ!」
銃で撃たれ、地面に屈んだアキラ。出血した彼に駆け寄ろうとした吹雪達を銃で止めた使者は、彼の頭へ体重を乗せた革靴で踏みつけ、さらに右足に弾丸をさらに撃ち込む。
「あああ…!!!」
「この!このっ!!!非公認の鎮守府の分際でっ!!!我々大本営に逆らうか!」
頭を、顔を、腹を幾度に渡り蹴られ、白い軍服は彼の血と鎮守府の砂で汚れ、赤黒に染まってゆく…。
「ふーっ…!ふーっ…!思い知ったか…」
気が済んだか、使者の男はアキラから離れた。彼の体は傷付き、撃たれた足からは血が流れ、その眼は朦朧と微かな光を残すのみ。
「だがな…まだ俺の気が治まらない…!」
拳銃を再び構え、今度はアキラの頭部に狙いを定める。
「もうやめてください!こんなのもう体罰じゃない、一方的な虐待です!」
「黙れ、『艦娘の分際』で!我等大本営の命に逆らうか!」
使者が放った一発の銃弾は、あろうことか吹雪の右肩を直撃し貫通。撃たれた衝撃で倒れる彼女を大淀が支えに掛かる。
「あう…ッ!」
「なんて事を…!貴方はそれでも提督ですか?!」
肩が血に染まる吹雪を見、親の仇の様に睨んだ大淀に使者は、暴言とも呼べる言葉を次々にぶつけていった。
「提督だ…。艦娘は『ただ黙って我々の指示に従えば良い』!それとも何か!?『道具の貴様等』は我等が居なければ『何も出来ぬ木偶の棒』だろうが!!
間違いなら言ってみろ!貴様等の言い分とやらをな!!!」
底深き悪意と外道じみた思考。人間という生物が徒党を組めば、其処には必ず輝かしい栄光の『光』と、隠された『影』が産まれ、組織が大きく広くなれば平行して影が出来、やがて積もり、闇となって現れる。
今まさに、この使者は大本営の中に潜む闇の氷山の一角が、形を成した存在なのかもしれない。
だが、その言葉は『正論』でもあった。
『艦娘』とは、『提督』在ってこそ力を奮える存在である。故に其の関係は『絶対不変』、何があっても覆る事の無い『事実』である。
何も言い返せない。悔しさに大淀は目を綴じ、奥歯を食い縛った…
『艦娘が…何て言った…?』
空気が震える。ハッと見上げた視界の先、フラフラと傷付いた体で立ち上がる者が居る。
足は撃たれた出血で膝下が殆ど真っ赤に染まり、体は水流を力無くフラフラと漂い揉まれる落葉のようだった。
「木偶の棒だと言ったんだ…!あとお前も、ひれ伏せ…邪魔だ!」
拳銃を構え、引き金は三度引かれた。アキラの意識は殆ど残されてはいない。
しかし、彼の視界は音速で飛来する弾丸が『ゆっくりと鮮明な軌道を描いている』のを見た。彼は己に残された力を足に注ぎ、弾丸が『当たらない場所』をすり抜け、相手との間合いに滑り込む。
「なぁ!?」
予想だにしない出来事に、使者は冷静さを失う。同時に自身の顔と青年の顔が僅か『5cm』の距離にあり、先程まで力無く倒れて居た時と明らかに違う、『異質な胎動』を感じた。
「拳銃で何発撃たれようが。殴られ蹴られて骨折しようが。大抵の事は悔しさやら屈辱なんかと一緒に噛み締めて、我慢はしてやるよ…
だがなッ!!!」
右腕がゆっくりと上がる。赤着物を着た少女も懐から何かを引き抜かんとした、まさに一瞬。アキラの指先が使者の眉間の刹那で止まった。
同時に開く彼の瞳…其処には人の持つ
『
彼自身の怒りに満ちた、『無手』であり『報復なき威圧』だった。
使者の男はアキラの纏う
「…へへっ。くそ…ざまーみ、やが…れ…」
呟いたアキラは崩れ落ち、意識は完全にブラックアウト。闇の中へと溶けていった…
* * *
俺が目を覚ましたのはあれから二日が経った後の事。吹雪達から話を聞くと、使者の男は付き添いで付いて来た秘書艦艦娘の神風に担がれ、武装船にて大本営に帰ったと知らされた。さらに爆破された大発の処理を「資源搬入中、敵深海悽艦襲撃により一つは破壊され放棄せざるをえなかった」と報告書に記載したらしく、俺達は大本営から消失について追及を一切受けなかった。
「いっつ…!あいたたた!!!痛いって大淀さん!」
「駄目です…!足に銃弾二発を受けた以上、数日は激しい運動は控えろと明石に言われましたよね?…まぁ車イスで過ごすなら、大丈夫ですけれど」
「車イスなら大丈夫だな?じゃあ今すぐ間宮に行こう!腹が減っては戦は出来ないからな!」
「…はい。おまかせください!」
* * *
車イスで移動中、俺は鎮守府の空気が変わった事に気付いた。最初に着任した際に感じたギスギスと張り積めた空気が、少しだけだが軟らかくなったのを。
それともう一つ、あの憎たらしい使者とのやり取りを見て自分を信じて良いのではと、考える艦娘が増えてきた。まだ大多数は俺を毛嫌い…もとい認めてはいない。俺自身も今回の一件で、全員から認められたとは思っていない、寧ろ長い目で行こうとキッパリ決断する機会になった。
「こんにちは~。間宮さん今日って蕎麦の日でしょうか?」
「ええ、今日のオススメはかき揚げと冷やし蕎麦ですね」
「じゃあそれを。大淀さんのもお願いします」
込み合う店内を縫って適度な席を発見。大淀さんと二人で座り、冷水を飲んで空腹を埋めていると、一人此方に艦娘が歩いてくる。
「お前…大本営の
「摩耶さん…今日は御一人で食事ですか?」
摩耶さんと呼ばれる彼女は緑の帽子を被り、チョッキのような服と白の手袋、空色のミニスカートを着用している。腹部は布一枚も無く、冬は間違いなく風を引きかねない姿。
「まぁな♪それにしてもよぉ…今回は中々見所のある提督みたいだ、腰が座ってるっつーか。
うん…ぜってー化ける。私の眼は誤魔化せないぜ…?」
ずいずいっと迫り寄ってくる。威圧している訳では無いのだろうが、言動もあって少し怖い。
「摩耶さん。まだ新米の提督ですが今後ともよろしくお願い致します」
「おう、よろしくな!提督!」
彼女、手袋をわざわざ取って握手をして、注文した品を取りに戻っていった。何というか不思議と牽かれる艦娘で、俺は嫌いじゃない。
* * *
「司令はん、司令はん」
美味しいかき揚げと一緒に、ズルズルズルズルと蕎麦を啜っていたら、陽炎と似た服装で黒髪の女の子が声を掛けてきた。
「んよ?呼んだかな?」
「こんにちわ。うちは黒潮ゆうてな、陽炎姉さんと雪風が世話なったっちゅうから、一度顔を見ときたくてなぁ」
関西弁で喋り「隣座るよー」と大淀さんと向かい合う形で席に座る。
「見てたで使者との戦い。あいつら此方が苦労して集めたっちゅう資源を爆破して無に返しおってからに…ホンマ許せんけ…!」
彼女の気持ち共感出来る。無駄遣いの馬鹿共は一度キツイ御灸を添えてやらねば分かるまい。もしくは彼女達が今まで渡してきた全ての資源資材を返して貰うまで、昼夜問わず取り立て電話と包囲網で封鎖してやるか。
「同感ですね黒潮さん、私も今回の一件で大本営の現状に疑問を抱きました。提督、私はいずれ来るべき時に備えて準備を進めます」
彼女の言う『来るべき時』と『準備』の二つのキーワード。この時は分からなかったけど、凄く重要な事だったんだと、今は思えた。
* * *
同時刻…海軍大本営総本部内、会議室。物々しく重い雰囲気が張り積め、席に座る全ての者達は額に滴る汗を、手持ちのハンカチで拭う。
「これより、海軍大本営定例会議を始める」
一番奥の最大の椅子に座り開幕の一声の挙げた男。
「まずは一つ。各自今月も良くやってくれた、戦果上位100名の鎮守府にはそれぞれ特別な贈り物を与える。期待して待つべし。
そして…だ。敵の本拠地は定まったかな?
会議室の右側、男が大多数を占める中で一際目立髪と黄色の目を持つ女性。大森 芳子中将はまだまだ数が少ない女性軍人で、今最も勢いのある提督である。
「私でも出来る事、出来ない事くらいあるのは知っているはず。…全力で捜索してますが、出たら叩いて、また現れての繰り返し。もぐら叩きで何も変わってませんよ」
「やはりか…。奴等の本拠地を叩き潰せれば、戦いは一気に此方に傾くのだが」
「………………話、進まない。オレの報告は、前々から確認、されていた…敵補給隊。それを二つ、潰した。…これでウッド島に居座る、離島悽姫共を…殺せる」
某小鬼殺しを生業にする男が被る煤けた騎士兜を被る男が居る。その兜の間から覗く赤い光が不気味に揺らめく。
大森「あんたも寡黙に深海悽艦潰すね…何を怨んで奴等を殺すのさ?
「お前には…関係、ない」
「縫蒲田中将、御苦労であります。私、
情報を纏めた資料を片手に、眼鏡の男…眞船が立ち上がる。
「今回、私の方で作戦を組み立てました。縫蒲田中将が潰してくれた補給艦隊により、離島悽姫への道程が出来ましたので早急に。
まず偵察部隊を派遣、敵艦隊の規模並びに位置を把握。続けて、陽動部隊・水上打撃・空母機動・輸送部隊の四大隊に分解・再構成。
輸送部隊で敵を誘導し、陽動部隊で敵戦力を分断。
我等が持てる最強精鋭部隊で離島悽姫が鎮座するウッド島に総攻撃を仕掛け、撃滅するのが今回の流れになります」
「成程…。して、問題は偵察部隊と陽動部隊が敵の猛攻に晒される事だ。機動力に優れ、尚且つ夜戦を想定した編成が必要になるが…」
輸送に加え夜戦でも戦える部隊…。少将並びに中将達は各々が持つ戦力を計算し、作戦を組み立てていた…
「皆さん。偵察と陽動に戦力を削ぐなど、愚の骨頂以外の何物でもない!」
その空気を一蹴し、高らかに宣言する肥満体の男。喋り方が地味にうざったいらしく、他の面子からは冷たい視線を送られている。
「じゃあアンタなによ…適任の艦隊が他んとこに居るとでも?
「ええ…もちろん」
不敵に策謀に満ちた笑みで、執事のように頭を下げるこの男。彼はアキラと華裏鎮守府に幾度となく立ちはだかり、数多の災厄をもたらす事になる…
* * *
「…五方包囲電光石火作戦?」
定例会議翌日、各鎮守府宛に大本営からの作戦令書が甲府・配達される。アキラの在籍する華裏鎮守府は大本営非公認であるはずだが、表向きは属している扱いで有るため、令書が届いた。
形はどうであれ、
「今回の作戦、大本営はおそらく攻略作戦を中規模で想定している筈です。提督如何いたしましょうか?」
大淀さんの問に対し、アキラの答えは既に決まっていた。
「…やろう。この五方包囲電光石火作戦!日程がまだ決まっていないなら、その間に備蓄を整え、大本営が資源やらを要求してきても良いようにして…ね。
まぁ…皆の練度があれだから安心出来るんだけどさ…アハハ」
乾いた笑いで頭を擦るアキラ。大淀さんも頷き、華裏鎮守府全体にスピーカーを用いて作戦を伝達。此処にアキラが提督として初参戦する事になった特別作戦・「五方包囲!電光石火作戦」が幕を開けた!