将来を有望視された青年が、冤罪で問題山積みの鎮守府に着任されました。 ~地獄の底からこんにちは~ 作:ガリアムス
アキラ「現在の華裏鎮守府に在籍する皆の実力を知るために、個人演習を行いたい」
全ては彼の一言から始まった。
* * *
アキラ「………これは本当なのかな?」
アキラが疑問の視線を向けたのは、以前敵輸送艦隊との戦闘時に大淀さんが渡してくれた艦娘達の練度を示した紙。彼は其所に記された数字をまだ信じた訳ではなかったのだ。
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華裏鎮守府在籍艦娘練度一覧(夜襲作戦時)
吹雪 レベル155
白雪 レベル84
江風 レベル90
陽炎 レベル81
雪風 レベル78
電 レベル80
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アキラ(吹雪だけダントツで練度が高いのはこの際置いておこう…聞き出したらキリが無いだろうし。それよりも艦娘の平均レベルが高い…きっと元の鎮守府では皆、エースとして扱われていたんだろうか?)
彼はさらに、指揮権を承認してくれた艦娘達の練度も確認に移る。
アキラ(利根姉妹…両者とも88、天龍77、木曾81、黒潮69、摩耶84、大淀72、龍驤89、霧島94…高いな、やっぱり)
練度だけを見れば一流鎮守府のそれに負けておらず、アキラも驚くのも無理はない。性格等さえ災いしなければ…考えるだけでゾッとする。
アキラ「(それでも偽造された可能性もある…大淀さんを信頼していない訳じゃない。確証を得るにはやはり…)大淀さん、ちょっといいでしょうか?」
大淀「はい、何でしょうか提督?」
アキラ「…今、俺達華裏鎮守府に在籍する艦娘達の練度を知るために、個人演習を行いたい」
* * *
作戦の準備を推し進めながら、アキラは自身に指揮権を託してくれた艦娘を執務室に集め、自分の言葉で要件を伝えた。
艦娘一同「個人演習…?」
アキラ「そう、今の皆の練度と実力を照らし合わせて、自分の中に生じた誤差を修正したいんだ」
主に江風の蹂躙が原因であるので、今後精神をやられないためにも必要になる。そんなアキラの心境を露知らず、皆殺る気満々で早く戦わせろと言わんばかりの、獰猛な獣の眼光で輝いていた。
アキラ(なぁんか嫌な予感しかしねぇ…)
* * *
個人演習は地獄絵図を超越した、世界終焉を彷彿とさせる光景そのものだった。普通ならば空を飛ぶ筈のない魚雷が豪雪雨の様に降り注ぎ、斬撃に空と海が砕き割れ、爆音業熱で鼻と肌が焼かれた。
砲撃で砲塔が融解。艤装は拳により凹凸にされたり、刀で斬られた物や、爆発され大穴の空いた物…事情を知らない者がこの光景を見れば、内乱だと誤認するのは確実だろう。
アキラ「なに…これ…?」
江風「か、艦こ…れ(ガクッ)」
演習のメリットは通常戦闘で受けるダメージが一切残らず、高速修復材や資源を消耗する事無く練度を上げられ、さらに多くの鎮守府と交流を重ね、いざという時に連携を取り合える等、提督は運営開始から世話になる。
華裏鎮守府も大本営公認当時は様々な鎮守府と演習を通じて情報を共有していたが、ある時から大本営の非公認とされ、見せしめとして存在するようになって以降、在籍艦娘達は各々で演習を組み、殺意を籠め戦う事で実際の戦闘に近付けるのが狙い…らしい。
アキラ「皆無事ですか!?」
利根「全く問題無い。寧ろこれが我輩達が何時も行っとる演習じゃ、まだまだ暴れ足りんがの」
江風「どーかン…練度なんて江風にとっちゃ飾りでしか無いンだ。川内さんの言う(強さの深み)ってヤツを見るまで、止まンないぜ」
木曾「天龍、俺達もまだまだ強くなれるな」
天龍「応よ!誰にも負けねぇ強さ…手に入れる!」
彼の心配等何処の空、また演習を行おうとする一部のバトルジャンキー共がアキラは心配でならない。彼女達が轟沈して仕舞わぬように、彼女達の姉妹が涙を流さぬ様に。彼は自分が出来る事を模索し続ける…。
* * *
壮絶極まる自主演習を目撃してから数時間後、アキラは重巡洋艦艦娘の宿舎を訪れた。特別作戦に向けて戦力増強に挑むべく、彼は数有る中から一人選ぶ事にしたのである。
摩耶「お~、提督元気か~?」
アキラ「あ、摩耶さん。こんにちは」
宿舎入口でアキラは摩耶と出会う。ヘソ出しの服装とくっきりとした括れがセクシーで、容姿から似合わぬ男気溢れる口調はまさに姉御肌が相応しい。
アキラ「摩耶さん。此処に居る重巡の中で一番提督と歩幅を合わせられそうな艦娘で、誰か思い当たる人は居ませんか?」
摩耶「お前と相性が良さそうな奴…か。うーん…」
彼の顔を眺めた後、「付いてきな」と宿舎二階に案内する摩耶。二階の東側三番目の部屋で止まり、三回ノック。
摩耶「おーい古鷹~、提督が直々に面会入れてきたぞ~」
アキラ「ちょっ摩耶さん!?」
???「摩耶さん何でしょう…アキ、じゃなくて提督…!おはよう、ございます」
出てきたのはセーラー服と隙間から覗く黒インナーを着用し、片目は金のオッドアイ。スラリとした高身長のお姉さん。彼女は俺をアキラか提督か呼び方に迷ったみたい。すかさず、「アキラでも提督でも良いよ」とフォローを入れると、「アキラさん」と呼ぶようになった。
摩耶「コイツが古鷹だ。提督、名前は忘れんなよ?」
古鷹「よろしくお願いします。それで私にどんな用事ですか?」
アキラは古鷹に、差し迫る特別作戦に備えて力を貸して欲しい事を伝える。すると彼女の目は宝石箱を見た幼い子供のような喜びに染まっていった。
古鷹「アキラさん…こんな私を必要としてくれるなんて嬉しいです…!私、頑張ります!アキラさんに重巡洋艦の良いところ、沢山知って貰えるように!」
何故こんなに喜ばれたのかと摩耶に尋ねたところ、彼女が着任した鎮守府の提督は火力馬鹿だったらしく、他の重巡に火力の劣る古鷹と加古は見向きもされなかったそうだ。涙ぐましい話に心が痛くなる。
今の状況に古鷹の存在はとても大きな事実だった…。
* * *
甘味処間宮…
アキラ「居た居た、江風ー待たせたな」
江風「おーうアキラ~、何だ何だ~?」
出来るだけ彼女には会いたくは無いのだが、作戦を円滑に進めるには、四の五の言う時間も惜しい。
アキラ「俺が着任して直ぐ敵輸送艦隊と激突した時、江風の狂気じみた無双を見た。故に折り入って頼みたい事がある。駆逐艦の華たる夜戦、そこで君が知っている軽巡で最も適性のある艦娘を一人…指名して欲しい」
高機動&夜戦を想定する以上、軽巡旗艦の水雷戦隊は必須になる。万が一、大淀さんと天龍が動けない場合に、もう一人必要になるかもしれないからだ。
江風「…居るぜ。信頼出来るし、何より憧れの人が」
アキラ「本当か?」
江風「ホントホント、その人は二之名に(夜戦騎(ナイト・ヴァルキリー))が有るンだよ。名前は…川内さん。只な~…」
口隠る江風を追及すると、あっさり折れて彼女は言った。速すぎるとは敢えて言わない。そして驚きの事実を彼女は語る。
江風「あの人、今は夜戦が嫌いらしくて(夜戦騎)って呼ばれるのも嫌がるし、何より私と口聞いてくれなくて寂しいンだよね…。というか、川内さんが夜起きてるの姿も見てないンだ」
* * *
執務室内に戻り書類物との格闘を開始したアキラ。其所に吹雪が戻って来たので、終わった物を纏めて貰いつつ、江風から聞いた言葉が真実なのか問う。
アキラ「いつも済まない。ところで吹雪、此処の川内が何で夜戦を嫌うのか理由を知ってるかな?」
吹雪「川内さんの夜戦嫌いの理由…ですか?」
アキラ「分からなければ、分からないでいい。実際に夜戦させて真実を見極める」
吹雪が深く考え始めて、暫くの沈黙の後に何かを思い出して口を開く。
吹雪「夜の時間…皆が就寝してる時に、一度だけ川内さんの部屋に行った事が有って。その時部屋の中から「ごめんなさい…ごめんなさい…」と、掠れた泣き声が聞こえたんです」
アキラ「ごめんなさい…?誰に謝ってるの?」
「そこまでは…」と言われ、アキラは川内を痛い娘だと思っていたらしい。だが、現実はそれ以上に残酷な答えを彼に叩き付けたのだ。
* * *
川内「……………」
無言の彼女の足元に土下座するアキラ。時刻はヒトナナマルマル…水平線にまだ日が落ちぬ時間、やっとの思いで川内を発見し、今から出撃して貰えるよう土下座をしたのだが、無視されている現状。
アキラ「………お前の過去に何が有ったか。それを聞くべきでないのは分かる。だが、作戦が近付きつつある中で一人でも、一回でも多く。皆の持っているその力を存分に振るえるように。
俺は、貴女の力を知りたいんだ」
信頼などされていない。この鎮守府に就いて所信表したあの瞬間から…川内達の目は淀み、くすんでいた。彼女達を変えたのは何なのか?アキラは環境だと考える。
川内「…………」
突如立ち上がり、歩いて行った。「製油湾地帯に行く」その言葉だけを残して…。
アキラ(指揮権は承認してくれた…のかな?)
* * *
出撃専用カタパルト前…
吹雪「えっ…、出撃ですか?」
古鷹「私も…良いんですか、アキラさん!?」
アキラ(ああ、今回は天龍、黒潮、川内さん、吹雪、古鷹さん、木曾さんで製油地帯に行って貰いたい。実際に戦闘の様子も録るから。吹雪の襟にカメラが付いてるから頼むね)
吹雪「…はい!司令官、行って参ります!水雷戦隊旗艦・吹雪改二!出撃します!」
天龍「天龍改!水雷戦隊、出撃するぜぇ!」
黒潮「陽炎型駆逐艦三番艦・黒潮改!いっきまぁーす!」
古鷹「古鷹型重巡洋艦一番艦・古鷹改二!出撃します!」
木曾「重雷装巡洋艦、木曾改二…行くぞ!」
川内「川内型軽巡洋艦一番艦・川内改二…出撃(で)る!」
各艦娘に己の艤装がジョイントへと接続され完了。同時にカタパルトに乗り込み射出され、一同は製油地帯へ全速力で向かう…
アキラ(川内…。古鷹…。黒潮…。皆の力、俺に見せてくれ!)
吹雪の襟に装着した小型カメラから、皆の様子を伺う。白波を上げ、海を駆ける彼女達。
在りし日の戦いの記憶に人の体を得て、彼女達は此の世に生を受け、産声を上げた。彼女達は何の為に戦い、何処に到達するのか、提督達はそれを見届けねばならない。
吹雪「古鷹さん索敵お願いします。私と黒潮ちゃんは潜水艦警戒を厳に、木曾さんは古鷹さんが敵を発見次第、甲標的による先制雷撃の準備を!」
古鷹「了解しました!妖精さん、お願い!」
彼女の艤装に設けられた小型カタパルトから零式艦上観測機が発艦し夕焼けの空に舞い、木曾は腰のポーチに収納した小型艇を取り出すと、スイッチを押し巨大化した其れに魚雷を装填、海へと放つ。
そして11分が経過した時、古鷹の飛ばした観測機から打電が入る…!
古鷹「………!北北西、距離七千!我、敵艦隊発見す!数は十、戦艦二隻、雷巡三隻、駆逐五!いずれも普通です!」
吹雪「各員に通達、全艦砲雷撃戦用意!敵艦隊発見次第攻撃に移ります!」
吹雪率いる水雷戦隊は単縦陣を形成、木曾の甲標的は打電された位置に発進して行く…。そして距離五千に到達したその時…北北西から響き渡る七発の撃砲のが、海戦を告げる合図となる!
天龍「吹雪、敵さんが撃ってきやがったぜ!」
吹雪「全員回避!古鷹さんと私で敵陣に切り込み、ル級を敵本隊から分断します!」
練度一位の吹雪の指示を受け、行動しようとした矢先、またしても其れは起きてしまった…!
川内「ル級は…私が、殺るッ!」
吹雪「川内さ…きゃあ!?」
川内はクラウチングスタートの体勢から、水面を蹴り砕き、二つの脚でル級二隻に愚かにも突撃を開始したのである!
アキラ(川内!?吹雪、今すぐに川内のフォローに入れ!)
「心配するな。アイツを…信じろ」と、木曾の一言。同時に彼女に襲い掛かる駆逐イ級の砲塔が、頭部に狙いを固定する!
木曾「おっと。其処は危ないぜ…何せ。オレの雷撃が丁度良い時間だからな」
イ級を光が包み、爆ぜた。青緑の生臭い液体は海を汚し、ただの鉄屑(ガラクタ)と化したイ級だったモノは海へと沈んで消える…。
仲間を目の前で潰され、怒り狂うチ級に黒潮の砲撃が直撃。それでも駆逐艦の一発では致命傷には至らない…!
チ級「キェアアアアアシャアアアアアア!!!!」
黒潮「あ~あ~、これちいと不味いやないん?ウチでエエんの?」
奴からすれば駆逐艦如き、自分の砲撃で容易く沈められる。そう考えた…誤算が有ったとするなら、目の前の黒潮に集中し、天龍に後ろを取られた事だろう。
サンッ…と清々しい音の後にチ級の頭が海に落ち、体液が噴水めいて撒き散らされた。江戸時代の斬首…天龍の太刀筋を表すならば、それで十分。
古鷹「主砲狙って…そう!撃てええ!!!」
吹雪「撃ち方始め!いっけー!」
吹雪が砲撃で敵駆逐艦ハ級と雷巡チ級を夾叉で追い込み、古鷹は其所に正確無比の砲撃を叩き込み、二隻を爆散させ、追撃してくる駆逐艦を魚雷で誘導。
当然読まれ躱わされるが、二人の狙いは其所に有らず。
木曾「オレの魚雷線上に入る馬鹿はお前等か?」
黒潮「ほな、コイツは土産やで~!」
敵駆逐の見た最後の光景は、親指を下に立て「地獄に堕ちな」とサインを贈る木曾とノリで加わった黒潮の姿であった。再び三つの水柱が上がって鉄屑が海に沈む。
黒潮「吹雪はん、古鷹はん。獲物もろぉてごめんなぁ」
古鷹「いえいえ、皆の攻撃が当たるようにサポートしただけですから!」
天龍「油断すんなよ、まだ敵は居るんだから…なぁ!!!」
残り一隻のチ級と激突し、刀による近接攻撃を仕掛ける天龍。それを躱わしていたチ級が距離を取り、魚雷を飛ばしてきた!
天龍「やっぱりそうしてくるよ…な!!!」
刹那、彼女は目の前の海を横に凪ぎ水壁を建て、敵の魚雷を吹き上げ切り裂くと、同時に突進。チ級の懐で右斜め切り下ろし→横一閃→左斜め切り上げの順で、刀を滑らせ、放たれた魚雷と共にチ級を海の藻屑と変えた。
吹雪「天龍さん、ありがとうございます!」
天龍「良いって事よ!で、あっちは…」
砲撃の雨が降り頻り、硝煙と熱が喉を詰まらせる。水柱の隙間に垣間見る白のマフラー…川内の姿が見えた。
ル級1「クッ…コノ!スバシッコイヤツメ!」
ル級2「キョウサダ、カクジツニオイコムゾ!ナカマタチノカタキダ!!!」
川内「……………………殺す、絶対に。殺す!!!」
殺意と共に目から走り抜ける残光。夕焼けが水平線に溶け始め、空に闇が染まりだす…!
川内「お前達…生きて返しはしないぞ…!」
彼女は突如のUターンし、余力で発生した海水でカーテンを作る!それを砲盾で振り払った瞬間、川内が再びル級に突っ込んだではないか!
ル級「オオオオオオオオオオオオオ!!!」
敵主砲が川内に向けられる。川内は止まらない、それどころか魚雷を忍者のクナイ持ち、真っ向から叩き潰すつもりのようだ!
アキラ(あの馬鹿、なんて無茶な…!?)
昼戦においての軽巡と戦艦の優劣は圧倒的に戦艦が有利。それを倒す手が川内には有るのか?ル級2が彼女の魚雷発射管に狙いを付けた瞬間、手に持った魚雷を後ろを見ずに投擲し、発砲を遅らせ、スライディングでル級1の砲盾の間を滑り抜け、手刀で砲盾と体を繋ぐチューブらしき物を切断、そのままル級1に組み付く。
振りほどこうと抵抗したル級1だったが、川内は不意に右手をル級の顎に掛け、乱暴に外しただけでなく引き千切った。さらに駄目押しとばかりに魚雷を喉に突っ込み窒息、そして腕の三連副砲で魚雷を爆破し惨殺。頭と胸が無くなり、両手と胴、構成する鉄片が一つ、また一つと海に落ちて消えていく…
ル級2「ア、アア、アアアアア…!?」
右腕は奴等の体液で青緑に染まり、未だゆらぁり…ゆらりと目に灯る赤い残光が、火の玉のように不気味に揺らめいている。ル級2は完全に戦意を喪失し武装解除、その場に座り込むが、川内が首を鷲掴み締め上げ始めたのだ。
ル級2「ゴブ、オゴ、ゴゴゴゴゴ…!!!」
川内「お前に問わなきゃならない事がある…。(血染めのレ級)の居場所を知っているなら、今すぐ答えろ……!!!」
アキラ(血染めの…レ級…?)
ル級2「チゾメノレキュウ…シランナ、ソンナヤバキブベボボゴホボボ!?」
川内「お前に言い訳する権利はない。(血染めのレ級)…ヤツが私から何を奪ったと思う…?」
爪をめり込ませ、より強い圧力を掛け喉を潰さんとする彼女の目は、怒りと憎しみに染まっていた。
川内「私の提督(おっと)を!!!私の仲間(かぞく)を!!!私の鎮守府(いばしょ)を!!!一夜にして焼き払い、私から奪って破壊した張本人だからだ…!!!」
アキラ(川内の…居場所を…)
ル級2「ハブラブギビビビビ、グママモオボレハサダマジ…」
体液が首から滴り落ち、やがて筋肉を貫通し骨と喉に到達。彼女は静かに首骨を圧し折り、ル級の残骸を海へ投げ棄てた。
吹雪「……製油湾地帯、敵艦隊の全滅完了。これより華裏鎮守府に帰投します」
アキラ(あ、ああ…気を付けて帰って来てください)
勝利を手に入れた。だが、この胸の奥底でドロドロとした異質な感覚は何だ…?
鎮まりようのない理性でさえ御せない衝動?今まで見聞きしなかった出来事に遭遇し発狂しかねない動揺?
彼の感覚は、彼にしか分からない。
* * *
アキラ(血染めのレ級…)
製油湾地帯での戦闘から半日が開けた。朝食を食べに間宮に向かう前に、川内を探しに軽巡艦娘の宿舎を訪ね、そして見つけた。
川内「………提督、何?」
ジト目で彼女は俺を見ている。余計な事を言ったらはぐらかされて逃げられるかもしれない。
アキラ「川内、もし俺に出来る事があるなら何でも言ってくれ」
川内「…は?」
まぁそんな反応をするのも無理はないが、アキラは続ける。
アキラ「川内が望む事、俺も手伝いたい。だからこそだ、俺も川内の力になれるように頑張…あれ?」
川内「ぷっ…あはは!提督ってホントに馬鹿じゃない、艦娘の力になるとか?艦娘の目的に協力するとか?
…ふふふ、今まで色んなのを見てきたけどさ。前代未聞だわ」
小馬鹿にされたのは分かる。提督は艦娘を使役し、艦娘は提督に使役される者。変わらず紡がれてきた関係に対し、アキラの考え方はあまりにもイレギュラーで、おかしいと思われるのも仕方の無い事だ。
川内「…作戦の件なら協力はしてあげる。まぁ精進しようと終いと、私には関係無いけどね」
片手を振ってアキラの横を通り過ぎて行った彼女。追いはしない、指揮権を承認されただけでも成果は有ったと言える。
「…よっし!」
小さなガッツポーズ。こうして彼は川内という、新たな戦力を引き込む事に成功したのだった。
川内…出身場所は不明。(夜戦騎(ナイト・ヴァルキリー))の二之名を持っていたが、ある時とある深海悽艦によって大切な提督・艦娘・鎮守府を一夜にして失い、茫然自失で放浪していた時、吹雪達の居る華裏鎮守府に辿り着き、保護された過去を持つ。
後に自分から全てを奪った(血染めのレ級)と呼ばれる深海悽艦を探し、復讐の為に戦い続けるようになった。