おま〇こエルフ三姉妹 同棲生活はじめました♡ 作:お互いがお互いのために
お弁当と迷子
午前中、僕は電車に乗って、とある地域の家々へ営業へ行った。
というと仕事ができるみたいに聞こえるかもしれないけど、別にそんなことはない。僕はさして、営業のの仕事が上手いわけではなかった。あるときなんか、
「要らないから帰って頂戴!」
という大声とともに、目の前で玄関ドアがバタン! と閉じられてしまうしまつだ。
「……はぁっ」
けれど僕は、どこか上の空だった。むしろ、お客さんのそのでかい音で、自分が営業していることをようやく思い出したというくらいだ。
「……ここん家はダメか」
とぼとぼとその家の敷地から離れた。
僕が今日、こんなになってる原因は――いつもこんなんじゃないか、という話はひとまず置いておいて――先ほど、会社の人に言われた言葉にあった。
「犯罪に巻き込まれてるんじゃないか!?」
という言葉のあと、経理部の諸島さんは語ったのだ。
彼の親戚に起きた、とある事件らしいんだけど……。なんでも、その人は、とあるカルト宗教団体に家を乗っ取られたらしい。
でも、「乗っ取り」と言っても、無理やりに奪ったのではない。
本人はその宗教の「教義」に洗脳されていて、喜んで家を明け渡し、自分はその宗教の施設に入所してしまったのだという。しまいには本人の戸籍まで入れ替わり、彼の家は、日本語も離せない謎の外国人が跳梁跋扈する怪しげな拠点に化けてしまっていたのだとか。
嘘くさいような、怖いような……。
特に「カルト宗教」という部分にぞっとするし、肝が冷える。
けれど諸島さんは、親身になって色々教えてくれたし、あの人の言うことがまるきり嘘とも思えない。
「まさか。……で、でも……」
もしかして。あのエルフ三姉妹も、僕を洗脳して、僕ん家を乗っ取ろうとしている――
とでも考えれば、つじつまが合わなくもない。
いきなり同棲して、お世話してくれたり、エッチな事しまくってくれるというのも、よく考えたら変というか、虫が良すぎるし……。だいたい、僕は彼女たちに何をしてあげたこともないのに、あんなに好かれてるのは変だ。単なる演技、というのがいいところじゃないか。
なんで、気づかなかったんだろう?
僕は、いつの間にか歩道で立ち止まっていた。
けど、頭の中はめまぐるしく動いている。
今朝の事は、ぜんぶあの子たちの演技だったんだ。
嬉しそうにお世話してくれたのも、僕を慰めてくれたのも、エッチしてくれたのも……。
「……はぁっ、もう、なんだよっ」
僕は肩を落とす。正直、今日は――いつもそうじゃないかというツッコミは、やっぱり置いておいて――仕事を出来るような気分じゃなかった。
その時、けたたましいクラクションの音が鳴り響く。
「えっ!?」
僕は急に、下げたばっかりの肩を飛び上がらせた。
どうやら僕は、横断歩道の真ん中にいたらしい。信号変わったのに、僕は突っ立って邪魔してしまったようだ。おかしいな、いつの間にか車道に……? 考え事のし過ぎだ。
「ご、ごめんなさい!」
不機嫌そうなドライバーの視線を交わすように、僕はダッシュで逃げた。
その後もなかなか営業がうまくいかないので(いつものことだけど)、少し早めにお昼ご飯を食べることにする。
コンビニ袋を提げて、公園のベンチに向かった。
平日の午前中だからか、誰も座っていない。
……けっきょく、独りぼっちか。
……まぁ、静かにご飯が食べれるのはいいことだよね。
「はぁ〜っ……!」
「何、ため息なんかついてるのよ。こんなに天気がいいのに……辛気くさいわね」
「……えっ?」
急に、誰かに話しかけられる。
金髪で、白い肌。
耳が人間ではありえないほど、ピンと長く伸びている。
僕のまえで、モデルのように腰に手を当て立っている。
緑色の澄んだ瞳でキッと僕を見下ろす、気の強そうな少女……まぎれもなくそれは、エルフでぼくの「妹」、ソフィだった。
「わぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」
僕は大声を出した。ソフィのすぐ耳元で……。
彼女は両耳を塞ぎ、顔をしかめる。
「ちょっと、うっさいわよ! 耳元で大声出さないでくれる!?」
「あ、ごめん……と、突然で、びっくりして」
僕は、(もちろん自分の)胸を撫でて、気持ちを落ち着かせた。
「ど、どうかしたの? こんな急に」
「……ふんっ」
ソフィは、何かもじもじしていたが……やがておもむろに、巾着袋のようなものでつつんだ四角い物を、僕の鼻先にずいっと突き出した。
「ん? 何これ? エルフが戦争で使う殴り武器かなんか?」
「違うわよばか! エルフを、野蛮な人間と一緒にしないでくれる!?」
ソフィは、それを両手で高く持ち上げ、投げそうなそぶりをする。
どうやら、殴り武器じゃなくて投擲武器だったらしい。いったいどっちが野蛮なのか……。
「……見れば分かるでしょ。お弁当よ、お弁当!」
「えっ!?」
驚く僕をよそに、ソフィは僕のすぐ隣に腰かけた。そしてお弁当箱を開ける。ほんとに武器だと思ってた……。
箱の中はすてきだった。
タコさんウインナー、日の丸になったご飯、卵焼き、ニンジン・しいたけ・ごぼうなど、かなり典型的な日本的お弁当メニューだ。
「うわぁ……美味しそうだね」
「ふん、当然でしょ! 私たちが、兄貴の健康を考えて作ってきたんだから!」
ソフィは語調激しく、ぷいっと横を向いた。けど、弁当箱だけは見せつけたまま。
いちおう褒められたのはうれしいらしく、ちょっと口元が緩んでいたけど。
「なんだ、僕、コンビニ弁当買っちゃったよ。言ってくれればよかったのに」
「こういうのはサプライズが良いのよ。私もいるから、それも一緒に食べればいいわ」
「……オッケー」
という事で、突然ソフィと昼食が始まってしまった。
僕は、平静を装うのに必死だった。
もちろん、可愛い妹がお弁当を持ってきてくれるなんて、こんなに嬉しいことはない。
本当に、妹なら。
ソフィがこんな親切なのは、でも、もしかして……。
「どうかしたの兄貴? 何か黙ってるけど。……まさか、不味いとか言わないでしょうね!?」
「ち、違うよ……!」
僕は、慌てて首を振った。
「いや、その。な、なんで僕のいる所が分かったのかなって……特に、教えてなかったと思うけど?」
まして僕の仕事は営業なのに。
いちいちどこに行ってるか教えるなんて、新婚夫婦でもしないだろう。
「あぁ、……んむっ……その事?」
ソフィは、しゃべる前にお手拭きでていねいに口元を拭いた。
「アーシャも、エルフだから魔法が使えるんだけど……人間の言葉で言ったら、千里眼みたいなものかしらね。それで、あんたがどこにいるか分かったのよ」
「……へ、へぇ〜っ?」
僕はさっそく、疑うのも忘れて感心してしまった。
だってすごいし。
こうして、現にたどり着いているんだから大したものだ。
「それだけじゃないわ。ほかの人が、何を考えているかも見えるから……あんたがもしエッチな事でも考えていたら、アーシャにはぜんぶ筒抜けよ。気をつけることね」
「ひえっ……!?」
「まそういう事で、……あんたの場所を教えてもらって、私が空を飛んで駆け付けたってわけ。わざわざお昼ご飯を届けてあげたのよ? ありがたく思いなさい。……なんかこれ、油っこいわね」
ソフィは、コンビニ弁当の中にあった、からあげをほおばりながら言った。