触れる手は心音
触れる手は暖かく心地よい。
抱きしめられ抱き返す。
そんな貴方を好きになったのはいつからだろうか?
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「っ…」
夏は過ぎ去り、すっかり秋となった。
昼は残暑の名残を残す熱風が吹いて不快感しかないが…
夜は心地よくも肌寒く感じる様な風になってきた。
「そのまま寝ちゃったのか。」
窓から覗く月は仄かに明るく優しい輝きだった。
窓を開けたままにしてあったので涼しくなった風で部屋のカーテンが揺れていた。
布団を掛けていれば、然程寒く感じる事はないのでそのまま月明りを堪能した。
「綺麗だな…」
前世でもこの秋口に吹く夜風に当たりながら外の月夜を眺めるのが好きだった。
時には晩酌しながら。
時には好きな音楽を聴きながら。
私は春と秋の季節が好きだ。
心地よい風に当たりながら月を眺めるのが好きだから。
子供の頃は夏と冬だったが、今は春と秋である。
勿論、七夕の月夜や雪の月夜を眺めるのも好きだ。
より長く眺めていたいので、どうしても春と秋になってしまう。
任務や定期偵察時にAMから眺める月の夜空も好きだ。
しかし任務中では楽しむ事は出来ないので却下。
だからoffの時で気象条件が良くなければ、この光景を見る事は出来ない。
「眠れないのか?」
「ううん、違う…月を見ていたの。」
「月を?」
「うん、地球から眺める夜空の月が好きだから。」
「そうか。」
「ヴィル?」
「いくらなんでもその姿では身体を冷やすぞ。」
「ありがとう。」
私は一度寝入ってしまう前に彼と身体を重ね、その熱を確かめ合った。
今はその触れる手が暖かく、夜風で冷えた場所をほんのりと温めてくれる。
彼に後ろから抱きしめられながら再度、夜空の月を眺めた。
「前に話したかな?」
「?」
「前世の世界の月にはね、まだ何も無かったの…」
「宇宙進出への発展途上前だったか?」
「うん、だから月は神秘的な場所って思えて大好きだったの。」
「こちらは違ったのだろう?」
「そう、こっちの月にはもう月面都市の建設やフューリーの戦艦が埋まっていた事を知っていたから神秘性が無くなったって思った位かな?」
「…」
「それでも地球から眺める月は大好きよ?」
時折聞こえて来る鈴虫の音や風の流れる音を聞きながら月を眺めた。
「自然から生まれる音ってとても心地が良いの。」
「生きとし生けるものにとって、この音は子守歌なのだろうな。」
「そうかもしれないわね。」
夜風に当たる度に冷える身体を彼の掌打が温めてくれる。
触れる手はいつしか心の元へ。
「ねえ、ヴィル?」
「どうした?」
「少しだけこのままでいいかしら?」
私達は毛布に包まっただけで何も纏わない。
だからこそ互いの体温は心地よい。
夜風で冷えた胸元に触れる彼の手は暖かく心地よい。
この温もりも私は大好きだ。
「こうやって触れて貰うと…とても暖かくて心地がいいの。」
「そうか。」
触れるだけのキス。
彼に寄り添い、その心音を聞きながら私は…
また彼に抱かれるのだ。
嫌ではない。
この温もりを放さないと誓ったのだから。
「ハスミ。」
「何?」
「愛している。」
「私もよ、ヴィル。」
熱の余韻の残る身体を繋げ合い。
夜風に当たりつつも、その熱は逃げない。
触れ合い、繋がり合い、抱きしめ合い、愛し合う。
人の愛の表現は様々だが、この愛は受け入れたい。
月夜に照らされながら熱の余韻は続く。
=続=
主人公が20歳を迎えて初めての秋の話。