それは季節の変わり目を知らせる合図。
どんな事があろうとも月日は巡るのだ。
睡蓮は雨上がりの月夜に向けて思いを馳せる。
ある長期任務を終えた私は貯まっていた休暇を消費する為にここへ戻って来た。
その任務に関しては今回の話で語る事ではないので置いて置く。
ここは激戦を繰り広げていた頃の軍からの給料と小説の印税で得た資金で建てた私個人の新居である。
デザインタイプの凝りに凝った暖炉付きの我が家である。
資金に関しては軍属である以上、使い時が無かったので自然と貯まってしまったのだ。
どこぞの誰かさん達の様に浪費と借金をしなければ、自然と貯まっていく。
老後の事も考えて蓄えていたが、今回は帰る場所を作りたかったので前々から建築依頼をしていたのだ。
それが今年に入ってようやく完成し春には入居可能になったが…
例の『消失事件』の一件で入居が遅くなってしまった。
事件終息後は各々の傷を癒す為にそれぞれの所属機関が休暇などを設けていた。
今回は私もその休暇申請が取れたので長めに取って新居のある都市郊外の高原へと向かった。
道中、大型店舗で必要な買い物を済ませてから新居へと到着した。
「今日は雨か…」
私は新居のリビングから空模様を伺う。
空は曇天であり、日中は雨の予報。
中々当たらないと評判のお天気キャスターの今回の天気予報は大当たりである。
この高原は避暑地に利用されるリゾート地に近いので周辺を散策しようと思ったのだが…
例の如く雨が降りそうなので今日は大人しく新居に引きこもって居る。
休暇初日からちょっぴり残念である。
「まずは荷解きでもしよう。」
私は大型店舗で購入した物の整理を始めた。
購入したのは休暇の間の食料や雑貨等である。
前に訪れた時に家具などは整理して既に各部屋へ配置済みである。
後は新居の電源や水道などのライフラインの確認である。
使えなければ自分で復旧させるか業者に頼むしかない。
「今日中に済ませられればいいのだけど…」
今回は私一人でここを訪れた。
ロサは義父さんが今度士官学校の臨時講師で招かれる時に使用する資料の整理や準備の手伝いをする為に伊豆基地に残る事となった。
丁度、私の休暇申請した期間と重なってしまったので入れ違いになってしまった。
二人も残念がっていたが仕方がない事だ。
この理由はカイ少佐と義父さんが臨時講師として招かれる予定だったのだが、アラドの起こした不始末が原因でカイ少佐が資料の整理と準備に関われなくなってしまったのだ。
間の悪い事にラミア少尉達は別件で出張中だったのでアラド本人をフォローする者が居なかったのも災いした。
事実上、人手が足りなくなってしまったのでロサが手伝う事となったのだ。
『三界事変』以降、連合軍の内部改革が進んでいるので何処も人手不足と言うのが現状だ。
そして漸く平穏になったと言うのに問題は起きる。
理由の一つが連星太陽系圏の兵力統一化の過程で兵器開発を独占している企業の売れ行きが悪くなった。
その為、売れなくなってしまった兵器を売り捌く為にその手の企業が戦争屋を秘密裏に雇って紛争を起こしていたのだ。
犯人は判っているので上層部の伝手に告げ口程度はして置いた。
また『Z事変』に起こった次元震動によるビーストの出現も再度確認されている。
前回の大戦で負った傷跡は徐々に修復されつつあるが、そんな弊害も出ているのだ。
場合によっては新たな戦いの予感も感じる様になった。
この
多くの
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購入品の整理とライフラインの確認、軽く掃除を終えると既に昼過ぎになっていた。
外も雨が降り始めたので肌寒さがより一層深まった。
この周辺一帯は高原であるが山沿寄りなので冷え込みが激しい。
この時期でも朝晩は十一月初めの寒さに変わる。
念の為に冬物を整理して出して置いて正解だった。
さて、お昼の準備でも始めよう。
「今夜は冷えそうだから暖かいものにしよう。」
今から煮込めば、夜には味が染みているだろう。
昼御飯の準備と一緒に晩御飯の準備をして置く。
根菜類を少し大きめに切り、小ぶりのウインナーはそのまま。
お鍋に一緒に入れて、分量の水を加えて火を付ける。
暫くするとアクが出て来るので丹念に取り除く、その後にコンソメとハーブを加える。
最後に弱火でコトコト煮続ける。
晩御飯の準備はこれで一旦終了。
お昼は別に茹でたパスタに秋野菜とベーコンを加えて炒めて、オイルパスタに仕上げた。
これにキノコのサラダと洋梨のコンポートを別添えで付けた。
一人っきりのお昼ご飯ではあるが、内容は充実させた。
「午後はどうしよう…」
お昼を済ませて片付けを終えた後、夕方までかなり時間が残ってしまった。
軍に提出予定の報告書は終わっている。
次の任務まで時間はまだある。
新作小説用の内容を考察するのもいい。
後は新作の映画を見るか、読みかけの小説を読み耽るか…
「本当に平和に浸れないって苦痛だよね。」
幕張の事件を期に武器を取ってから始まった戦いの人生。
戦場における緊張感が今も続いており、今回の様に休暇を取っても続いているのだ。
本来の時間の流れで三年経った今でも抜ける事がない。
真化に至った私達の体感時間は通常と変わりはないが…
緩やかにそれは遅くなっている。
五分、十分等の短い時差何てものじゃない…
塞き止められた時間の流れを合わせても少なくとも十年のズレが生じている。
人類にとって現在の一年は本来は十年でもあるのだ。
成長と老化の遅延。
ごく一部を除いて気付いてはいないだろう。
それだけ複雑で判り難い事象だ。
誰もが知るべきだろうが話さない事にした。
漸く平穏に生きているのに厄介事を教えるのは気が引ける。
それは私の偽善かもしれない。
それでも彼らには静かに生きて欲しいと思うのだ。
「…少し眠ろう。」
早朝から動き続けていたのもあるが、お昼を終えると急に睡魔が寄って来た。
キッチンの鍋の火を止めたのを確認し、リビングのソファで横になった。
ベッドの方が良いが、長く寝るつもりはない。
携帯端末のアラームをセットした後、そのまま眠った。
時折、ガラス越しに聞こえる雨音が心地よく感じる。
きっと酷く疲れていたのだろう。
ブランケットを掛けて暖かくなってくるとウトウトしそのまま眠りに就いた。
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一寝入りを終えると時計は夕方を指していた。
室内はまだそんなには冷え込んでいないが、うっすらと寒気を感じる。
そろそろ暖房を入れて置こう。
今夜には彼がここへ来る予定だ。
「良かった、味は沁みているみたいね。」
昼に煮込んで置いた鍋の料理が完成した。
再度、火を入れている間に夕食用に用意した他の副菜の準備も終えている。
後は盛り付けるだけであるが、彼が来てからにしよう。
「特に変わった様子は無いか…」
彼が来るまでの間、リビングに置いてある電子機器を作動させて一連のニュースを見る。
特にこれと言ったものはない、あるとすればアフリカ方面で起こっていた紛争が縮小した位である。
しかし、トカゲの尻尾切りの様に兵器販売を行った企業には逃げられた模様。
お膳立てはして置いたので後はソレスタルビーイングに任せよう。
彼らならしっかりやってくれるだろう。
「後は…」
丁度放送でセフィーロの観光スポットの特集をやっていたのでそれを視る事にした。
現在のセフィーロは外部からの観光目的の人々を受け入れられるまで安全が確証している。
アルゼナルの様なリゾート地とまではいかないが、独自の生態系を持つので自然観光スポットとして別系統の医療目的で訪れる人も少なくはないのだ。
『三界事変』後の騒動で色々とあったが平穏に行われている。
「シェリルとランカのコンサートライブの中継もあるのね。」
特集の後で始まる生中継である。
二人も銀河の彼方で頑張っている様だ。
アルトが選んだのは結局彼女であったが、満更では無い様子。
あの戦いの後、仲間達はそれぞれの活躍の舞台へと進んでいった。
今も活躍する者、余生を静かに過ごす者、旅に出る者など多々である。
選んだ道は違うけれど、また再会する事もあるだろう。
「来たみたいね。」
玄関で物音がしたので行ってみた。
「お帰り、遅かったね。」
「こちらへの入国手続きが手間取っていてな。」
「仕方がないわ、『三界事変』以降後に参入した惑星の登録作業が続いているから…」
「やはり人手は足りんのか。」
「うん、あの事件の後…まだギクシャクしているもの。」
「そうか。」
「時間は掛かるけど、数週間後には終わるわ。」
私は帰って来た彼を出迎えた後、世話話をした。
向こうでも色々あったらしい。
それでも平穏は訪れるのだ。
******
夕食を終えた私は片付けをしながらこちら側の状況を彼に説明した。
「やはり、例の紛争は続いていたか…」
「時期に解決するだろうけど、問題を根本から直さなければどうにもならないわね。」
「…」
彼は眉を顰めて、私の調べた情報を聞いていた。
続く紛争、様々な発展報道。
平穏であれど世間は相変わらずです。
「ヴィル、お風呂使う?」
「先に使ってもいいのか?」
「うん、準備は出来ているわ。」
軍の寮では男女別々の部屋になってしまうのでこの様な語らいは余り無い。
あの事件の後、彼は二人で一緒に過ごす時間を増やしてくれた。
婚姻を交わしてもそれは変わらない。
この時間もまた私にとっては大切な時間。
「ハスミ。」
「どうしたの?」
「一緒に入らないか?」
「いいけど、疲れない?」
「構わない。」
慣れたと思っていた。
けれども彼との逢瀬ではどうしても恥じらいが出てしまう。
前世で愛する事を辞めた私が愛する事をまた始めた切っ掛けだからだろうか?
肉体は成人しているのにこれでは思春期の乙女の様だ。
エクセレン大尉が聞いたら真っ先に飛び付きそうである。
「…」
脱衣を済ませバスルームの扉を開けると湯気が飛び出す。
大きめの浴槽に張られた熱めの湯によるものだ。
冷えた体を温める為にもお湯に浸かるのか一番である。
「はぁ///」
シャワーで泡と汚れを落としてから浴槽へと入った。
熱めの湯が全身に浸透し心地よく感じる。
そして彼に抱かれる形でしばらく浸かっていた。
「こうやって入るのも久しぶりね。」
「ああ。」
彼に抱きしめられる事で胸の鼓動は熱くなる。
触れる手は相変わらず。
何よりも直に彼の身体に触れている。
ただ、抱きしめている力をより強く感じた。
「どうしたの?」
「お前がここにいるのだなと…」
「ヴィル?」
「あの時の様に消えてしまわないかと思う事がある。」
「…」
「時折思う、あの時の様にこの手をすり抜けてしまうのではないかと。」
互いに失う覚悟は出来ていた。
それでも失う事への恐怖は拭えない。
解っていても出来ない事があるのだ。
それぞれの生きる時間が違えども培った思い出は消えない。
そうだった筈なのに…
「お互いに弱くなってしまったね。」
「ハスミ?」
「私も時折思うの、前世で死んだ記憶がそうさせているのかもしれないけど…」
「…」
「それも大切な想いだと思う。」
今生きる時間が長い様で短いかもしれない。
それでもその一日一日を大切にしたい。
この世界の時の移ろいは徐々に長くなってしまっている。
生きる事が苦痛に成り得るかもしれない。
先に居なくなった者への思いを馳せるかもしれない。
それでも生きなければならない。
今触れているこの手がすり抜けようともそれを受け入れて欲しい。
どんなに策があってもいずれは別れなければならない時が来る。
その時が来るまで私は彼と寄り添いたい。
「また月を見てもいいかしら?」
「ハスミ。」
「勿論、貴方と一緒に。」
「判った。」
雨上がりの月夜に思いを馳せる。
愛する人と共に居られる時間をその身に感じながら。
どちらかの手がすり抜けてしまっても繋ぎ取る覚悟。
別れの時はその手を放す覚悟。
どちらもいつかは訪れるだろう。
それでも紡がれる思いはあるのだ。
記述、伝承、御伽話、言伝、石板、様々な思いが綴られる。
この先の世に何が起こるかは判らない。
だからこそ貴方と寄り添う。
あの日から共に歩む覚悟を決めた。
これからもずっと。
そうでありたいから。
=続=
「結局ライブ中継を見損ねちゃったな。」
「あの歌姫達のか?」
「まあ、次元通信の不備で放送が遅れているから後のお楽しみだけどね。」
「相変わらず抜け目がないな。」
「そうでなくては貴方の右腕は務まりませんから。」
主人公、恋人との逢瀬話その2。