一時の美しさを持つが…
いずれは劣化する。
これは美しさを長くさせる為の工程に過ぎない。
それでも綺麗と思うのだ。
ある日の事。
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~♪
ハスミは部屋の一角で一定のリズムの歌を口ずさんでいた。
長期の遠征を終え、纏めて申請した休暇を楽しんでいる最中である。
彼女は地球で産出される鉱物や植物を利用したインテリアと呼ばれるものを好んでいる。
居住地のこの家も彼女の趣味だ。
「何をしている?」
「ん、ハーバリウムを作っているの。」
「ハーバリウム?」
「観賞用の植物標本でドライフラワーを専用の薬液と一緒に瓶詰めにしたモノよ。」
テーブルに置かれたガラス瓶には色とりどりの花々が入れられていた。
モノによっては鉱石も僅かながら含まれている。
「何故、その様な事を?」
「綺麗だったから…かな?」
一瞬だからこそ美しい。
そう語っていた彼女が行っているのは美しさの延命。
太陽に当てなければ一~二年程度は保存出来ると語った。
理由は太陽の光で中に入れた花が劣化し色落ちするからと話していた。
ライトを当てるとより一層美しく飾れると言うが…
ハスミは月が出る夜にテラスに飾ると違いが判ると話した。
そして最も輝きが強くなる満月が訪れるのは翌日。
ブルームーンと呼ばれる二度目の満月の日である。
地球には暦の一月に二度目の満月を見ると幸福が訪れると言う言い伝えがあるらしい。
遥か昔は不吉の前触れと恐れられていたが、現在では幸福になれる呪いの様なモノだと語った。
そしてその日は皆既月食と呼ばれる赤銅色の月も見れるとの事だ。
ブルームーンと皆既月食が同時に発生するのは稀で『赤いブルームーン』とも呼ばれている。
この現象も人の人生の中で滅多に訪れる事がないらしく運が良ければ見れる奇跡と語っていた。
地球で観測する場合も発生条件が厳しい為、ある現象を見るだけでも100年近く掛かるものもあると語った。
ならば、その自然の摂理で起こる奇跡の現象とやらを見てみたいものだ。
当のハスミは目に焼き付けるにはとても綺麗な現象であると進めてくれた。
…待ち遠しいものだ。
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翌日の夕方。
「このまま行けば夜の八時頃から月蝕が始まる予定よ。」
「どの位の感覚で始まるのだ?」
「今回の月蝕は発生時間が長くて約二時間位かけて最大になって更に二時間位かけて終わるの。」
「つまり四時間位掛かるのか…」
「今回の月蝕は月が大きく見えるし、その後は白いブルームーンの満月が見えるから長く楽しめるわよ?」
「成程な。」
「このまま雲が通り過ぎてくれればいいのだけど…」
今の季節は冬。
数週間前に大規模な寒気により曇天の空と雪が降り注いだ。
凍結による交通規制が各地で発生し物流が滞ると言う事態にまで発展した。
漸くその天候も落ち着き、今だ残る雪原に反射する様に星空は輝いていた。
しかし、翌週降雪の予報もあり、雲に隠れた状態で月もまたその素顔を晒し始めていた。
更に今回の皆既月食には蟹座のプレセぺ星団も顔を覗かせると言うのだ。
俺は共に戦った戦友の持つスフィアを思い出していた。
ハスミは尸空達を誘ってくれたのだが彼らには既に予定があるとの事で辞退していた。
彼らにもやる事があるのなら無理強いは出来ない。
今宵も二人きりで過ごす事になりそうだ。
「地上から視るのは少し無理そうね。」
「そうだな…」
暫く経つと夜空に薄い雲がかかってしまい、所々の隙間から月が顔を覗かせる様になってしまった。
「でも、少しだけ避けさせて貰うね。」
私は念の力で周囲の雲を払いのけ月が見える様に整えた。
本来の用途とは違う使い方をしたのは気が引けるが折角の休みなのだから有効に使いたい。
「いいのか?」
「戦闘に使う訳じゃないし、少しだけならいいでしょ?」
「お前がそう言うなら…」
昼間に作成したハーバリウムはサンルームのテーブルに置かれており、月の輝きに反射して中の透明な鉱物の色を輝かせていた。
それは赤、青、緑、黄、橙、桃、紫、水、白に分けられていた。
並べられた色ごとに輝き虹色を思わせた。
時間が経つにつれて満月は半月に半月は三日月に三日月は新月の様に月は欠けて行った。
そして全てを覆い隠すかの様に月は太陽に飲まれた。
「あれが皆既月食か?」
「ええ、太陽からの光の加減でオレンジ色に見えたり暗い赤に見える事もあるの。」
「まさしく太陽に喰われた月か…」
それは一時の奇跡。
一瞬だからこそ美しさを増す。
永遠の美しさなど霞んで見えてしまうのだ。
「後は白いブルームーンだったか?」
「そうよ、二度目の満月は幸せの証とも呼ばれるわ。」
「幸せか…」
赤い月が終わると白い月が顔を出す。
二度目の月と共に今宵は酔いしれ合おう。
=続=
ブルームーンと皆既月食のダブルミラクル記念。
気象条件が良ければ、普通のブルームーンが三月の終わりにもう一度見れます。
その時は花粉症にご注意ください。