普段から紡いだ言の葉。
それは未来を迎えても残るもの。
呪詛の様な甘い言葉は誰の為だろう。
それは愛を語る当人達だけが知る事だ。
二月十四日。
この日は太陽系に置いてバレンタインデーと呼ばれる日。
それは女性が男性チョコレートを贈る日である。
同じ地球圏でも地方によってはプレゼントやメッセージカードを送る所や男性が女性に尽くすと言うと言う風習と多々存在する。
逆にお相手に巡り合わなかった人達が集まって宴会を開くブラックデーと呼ばれる日もあるらしい。
このチョコレートを贈ると言う感覚があるのは私の故郷位であろう。
しかし、好きな相手にチョコレートを贈る為に浮かれる人も多くは居るが逆にこの日を余り迎えたくない人々も存在する。
例えばプラントでは血のバレンタインと呼ばれる日でもあるのでどちらかと言えば追悼式の様な日である。
この世界では未然に防げたので大きな被害はないが、それでも少なからず亡くなった人々も居るのだ。
一種のイベントの様に祝い事の様に迎える日であっても人によってトラウマを呼び起こす日でもあるのだ。
過去の事件を風化させてはいけない。
後世に残し同じ過ちを犯してはならないと伝える事も大事だと思う時があるのだ。
偽善かもしれないが、誰でもいい…そう言う事もあったと覚えていて欲しいと願うのだ。
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「…」
今回作ったチョコレートはコーヒーの苦みを残したビター風味のトリュフである。
浮かれない様に自分を戒める為にあえてこの味にした。
口に残る甘さを抑えるコーヒーは何処となく忘れてはならないと言う事を思い出させてくれる。
私の罪は知って居ながら血のバレンタインを防げなかった事だ。
ホルトゥスに情報を与えて最小限の被害に留めたが、それでも追撃に出た数名の兵士の命を散らせてしまった。
それが私の罪だ。
同じくこの日に私は彼らを裏切った日でもある。
私は愛するが故に仲間よりも愛した人の手を取ったのだ。
軍人にとって絶対に許される事ではない。
仲間達は許してくれたが、私には絶対に忘れてはならない記憶の一つとして残している。
このチョコレートはその決意を忘れそうな時に良く作るのだ。
口に残るコーヒーとカカオの苦みが私の罪を思い出させてくれる。
「またそれか?」
「ヴィル、いつの間に…」
簡易キッチンでチョコレートを作り終え、一つ食べていた私に話しかけるヴィルダーク。
彼は私がこれを作る理由を知っている。
「お前がそれを作るのは…過去の行いを忘れない様にする為だろう?」
「また忘れそうになりそうだったから…つい、ね。」
「以前も仲間達に言われたばかりだろう、一人で抱え込み過ぎるなと?」
「解っているつもりだった…でもね、どうしても作ってしまうの。」
「己の癖は早々治らんと言うが…」
彼にも呆れる程、この癖はどうしても治らない。
私の一方的な偽善なのかもしれない。
だからこそ『救えなくて御免なさい。』と心の傷となって現れる。
もっとうまく動けていれば、あの様な事態にならずに済んだのでは?
そう考えずには居られない。
自分では判っている筈なのに拭い去る事なんて出来ない。
「ハスミ。」
「何?」
「そろそろお前もお前の為だけに生きる事は出来ないのか?」
「そうしたい、だけど…これからも永遠と続く戦いに備えたいの。」
「また視たのか?」
「うん…」
この集約された可能性の未来が紡がれる世界。
本来迎える事が出来なかった未来が寄り集まった世界。
平穏であれど新たな戦いは明日を継続する為の試練として現れる。
彼女は手に入れた可能性の未来を守る為に戦い続ける事を選んだ。
それが自身の重荷となっている事も解っていながら…
「ハスミ。」
俺は彼女を抱きしめる事しか出来ない。
「ヴィル?」
「今だけでいい、他人の為ではなくお前自身の為に生きてくれないか?」
「だけど…」
「少しだけでもいい…甘えて欲しい。」
「ヴィル、私…」
「肩の力を抜け…少しだけ普通の女に戻れ。」
「…うん、御免なさい。」
塞がれた唇。
漂うは苦いコーヒーとカカオの香り。
甘くはないのにどこか甘いと感じる。
彼の腕の中は強引の様でそれでも優しく包み込んでくれる。
私は少しの間だけ肩の力を抜いた。
戦場で戦う兵士ではなく。
ただ一人の女性として戻った。
ほんの一瞬だけかもしれない。
それでも何処か心が落ち着いていく。
「ありがとう、ヴィル。」
「少しは頼って欲しいものだ、俺はそんなに頼りないか?」
「そう言う訳じゃ…」
「何でも自分で解決しようとするな、少しは頼れ。」
「うん。」
どうかこの幸せが続きます様に…
『happy・Valentine』
=終=
「何だこれは?」
「エクレアって言うお菓子よ。」
「エクレア?」
「フランス語ではエクレール…日本語で『稲妻』って言う意味を持つの。」
「稲妻か…」
シュー生地に入ったカスタードクリームと上にかけられたビターチョコを堪能しつつ私の憂いは人段落したのであった。