そしてもう一つの事件が意外な形で起ころうとしていた。
住宅街から離れた場所に建てられたシェアハウス。
森羅が任務で使用している物件の一つとの事だ。
部屋も広いので後二~三人は住めるだろう。
現在は私とヴィルの二人だけで生活している。
元の世界に戻れるまでの仮住まいの場所ではあるが住み心地は悪くない。
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日が明るい内に事を進めたいのでヴィルに留守を任せて私は外出した。
目的の場所は国立R大学の薬学部。
丁度オープンキャンパスを開いており、潜入するには打って付けである。
何とか大学内に侵入したものの…
永島利明本人に会う事は出来なかった。
理由は今日が奥方の葬儀である為だ。
となると、細胞は大学内にあるだろうが無暗に侵入しない方が良いだろう。
イヴが本当に存在するのかまだ不明だからだ。
永島利明に会って彼から情報を引き出せれば今回の一件がより明確になっただろう。
それが出来ない以上は他の足取りを探すしかない。
イヴは他者のミトコンドリアと共鳴し支配する能力を持ち合わせている。
一例として人体発火や人体変異等が行えると言う事だ。
もしもイヴに出遭ったら注意しなければならない点でもある。
今は他の可能性を調べるしかない。
次は国立図書館へ向かおう。
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「ハンス・クランプ…やっぱり存在したか。」
1997年のアメリカ・ニューヨークで発生した女優メリッサ・ピアスを母体としたイヴによる六日間の惨劇。
その原因の一端を担った研究員である。
死亡したマヤ・ブレアの臓器をメリッサに移植した事により彼女のミトコンドリアはネオ・ミトコンドリアへと覚醒。
新たなイヴとして生まれ変わってしまったのだ。
そしてイヴはマンハッタン島を化け物の巣窟に変えてしまった。
しかし、遺伝子の因果かマヤの妹に当たるアヤ・ブレアの手によって事件は終息。
その渦中に居たのがこの研究員である。
そして彼女も存在した…
「メリッサ・ピアス、あのハンス・クランプが居るのなら彼女が存在しても可笑しくは無いか…」
私は国立図書館のPCでとんでもない記事を発見してしまった。
女優メリッサ・ピアス主演のオペラがここ東京で行われると言うのだ。
その日付が一週間後、湾岸エリアに新たに建設された『歌音儀ホール』で講演すると言うのだ。
「…どうしよう。」
原作ではこのメリッサから変異したイヴと対決したのがアヤ・ブレアと言うニューヨーク市警の刑事だ。
彼女はネオ・ミトコンドリアの力に覚醒した事でイヴと六日間に渡る激戦を繰り広げ、無事に平穏を取り戻したのだ。
その彼女が不在のままで物語は進み始めてしまっている。
「…(やっぱりBSAAに一報を入れて置く方がいいのかもしれない。」
このまま放置すれば一週間後に東京都内全域がネオ・ミトコンドリアによる暴走の末に人類は滅亡する。
支配する事を選んだネオ・ミトコンドリアに対抗出来る存在が不在なら誰かがその役を担うしかない。
そして希望があるのなら共存を選んだネオ・ミトコンドリアを持つアヤ・ブレアを発見し彼女の助力を得なければならない。
何も知らない彼女を戦いの渦中に引きずり込むのは心許ないが受け入れてもらうしかない。
決められた必然は誰にも変えられない。
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私は国立図書館から退館し近くの公衆電話へ移動した。
まずはアメリカを拠点に取材活動を続けているフランク・ウェストさんに連絡を取った。
調査依頼の理由は話せないと話したが何か訳アリである事は理解して貰えたのでそのまま取材の依頼を頼んだ。
調査内容は以下の通りである。
マンハッタン島の17分署にアヤ・ブレアと言うニューヨーク市警の刑事が居るのか?
彼女の家族構成にマヤ・ブレア、マリコ・ブレアと言う姉と母親を持ち、既に二人は死亡しているか?
そしてマヤ・ブレアの臓器を移植した患者が居たのか?
以上の件の調査依頼を頼んだ。
報酬は今度行われるビンゴゲームの四等当選の番号である。
本来ならやってはいけない事だが手元に報酬を払うだけの金銭がない以上は致し方ない。
フランクさんも四等賞位ならと了承して貰えた。
ちなみにこの四等賞は当選者が居ない為に次の当選に持ち越される予定の当選金なので余り被害はないだろう。
調査内容次第ではBSAAのクリスさん達にこの事を伝えて欲しいと言付けて置いた。
『にしても急にどうしたんだ?』
「ちょっと訳アリで…」
『まあ、お前さんの事だから例の能力で知ったのか?』
「…」
『俺も依頼の件は調査させて貰う、その前に…もう一つだけ聞きたい。』
「何でしょうか?」
『こいつはまさかのゾンビ騒ぎじゃないだろうな?』
「…それならまだマシな方だと思いますよ。」
『マシな方か…』
「まだ確定した訳ではないのですが、念の為の調査と言う事でお願いします。」
『判ったよ、それとお前さんもヴィルダークの旦那に隠し事しまくってると後が怖いぜ?』
「フランクさん!」
『ジョークだよ、ジョーク、またな。』
冗談を語った後、フランクは通話を切ってしまった。
「全く、調子だけはカメラだけにして欲しいです。」
あのオロス・プロクスとの戦いの最中にやった輝夜姫のプロポーションをカメラに収める姿はドン引きせざるを得ない。
それにどうやったら野球バットだけで敵を吹っ飛ばせるのか未だ謎である。
「…(ヴィルには話した方が良いよね。」
私は受話器を公衆電話に戻すとシェアハウスに帰路を向けた。
もうすぐ夕方だ。
四月の終わりとは言えこの時期の夜はまだ肌寒い。
早く戻ろう。
=続=